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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1319015
審判番号 不服2015-4098  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-09-05 
事件の表示 特願2010-217622「光学シート、面光源装置および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日出願公開,特開2012- 73372〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年9月28日の出願であって,平成26年2月27日付けで拒絶理由が通知され,同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月26日付けで拒絶査定がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年3月2日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年3月2日付けで拒絶理由が通知され,同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は,平成28年5月2日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。(なお,平成28年5月2日提出の手続補正書によって請求項1は補正されておらず,平成27年3月2日提出の手続補正書による補正後の請求項1のままである。)

「基材層と,
拡散粒子およびバインダー樹脂を含み,前記基材層の一方の側に設けられたマット層と,
前記基材層の他方の側に設けられた光学要素層と,を備える光学シートであって,
前記マット層は,当該光学シートの一方の側の表面をなす外側面と,前記外側面とは反対側の面であって前記基材層に対面する内側面と,前記内側面と前記外側面との間の端面と,を含み,
前記マット層は,前記基材層に隣接し,且つ,電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含み,
前記光学要素層は,電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含み,
前記光学要素層は,
一方向に配列された複数の単位光学要素であって,各々が前記一方向と交差する方向に線状に延びる,複数の単位光学要素と,
二次元配列された複数の単位光学要素と,
の少なくとも一方を有し,
前記端面は,前記光学シートの法線方向に沿った断面において,前記外側面と交わる外側端部よりも前記内側面と交わる内側端部において,前記法線方向に直交する方向に沿った外方に位置し,
JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された前記一方の側の表面についての鉛筆硬度は,3B以上3H以下である,光学シート。」(以下,当該発明を「本願発明」という。)


3 当審において通知した拒絶理由について
当審において平成28年3月2日付けで通知した拒絶理由の一つ(以下,「当審拒絶理由」という。)は,概略,本願発明は,引用文献1に記載された発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
当審拒絶理由で引用した引用文献1及び2は次のとおりである。

引用文献1:特開2010-60889号公報
引用文献2:特開2010-113116号公報
引用文献3:特開2008-304524号公報


4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献1は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置,該液晶表示装置のバックライトとして使用される面光源装置,及び該面光源装置を構成するレンズシートに関するものである。特に,本発明は,液晶表示装置の画像表示におけるレンズシートのレンズ列の表面構造欠陥の視認性を低減したり導光体の光出射面またはその反対側の裏面に形成したマット構造やレンズ列配列構造等の表面構造の欠陥の視認性を低減することを企図した,レンズシート,面光源装置及び液晶表示装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・かくして,液晶表示装置の画像表示性能の向上のためには,液晶パネルの背後にバックライトと呼ばれる面光源装置を配置して,該面光源装置から発せられる光により液晶パネルを背面から照明することが,一般的に行われている。
【0003】
このようなバックライトは,・・・(中略)・・・一次光源としての蛍光管,導光体,反射シート,及び光偏向素子としてのプリズムシート等から構成される。このうち,プリズムシートは,導光体の光出射面上に配置され,バックライトの光学的な効率を改善して輝度を向上させるためのものであり,例えば,透光性シートの一方の表面に頂角60°?100°の断面二等辺三角形状のプリズム列をピッチ30?50μmで並列配置してなるレンズシートである。
【0004】
プリズムシートとしては,・・・(中略)・・・光拡散シートまたは光拡散フィルムの機能を持たせるべく,プリズム列を形成した面と反対側の面に光拡散機能を有する表面構造を形成することが提案されている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
・・・(中略)・・・
【0009】
そこで,本発明は,液晶表示装置における,プリズム列等のレンズ列等の表面構造欠陥の視認性を低減し,導光体の光出射面またはその反対側の裏面に形成したマット構造やレンズ列配列構造等の表面構造の欠陥の視認性を低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは,一方の面に微細凹凸形状が形成されている透光性部材からなるレンズシートにおいて,前記一方の面を形成する表面を持つ光拡散層のJIS K 7105における0.25mm幅の光学くしで測定した像鮮明性が30%未満であれば,前記透光性部材の他方の面に形成されるプリズム列の表面構造欠陥の視認性を低減させ,導光体の光出射面またはその反対側の裏面に形成したマット構造やレンズ列配列構造等の表面構造の欠陥の視認性を低減させることが出来ることを見出し,本発明を完成させた。
【0011】
すなわち,本発明の第1の要旨は,第1面及び第2面を持つシート状の透光性部材からなり,前記第1面には並列に配列された複数のレンズ列が形成されており,前記透光性部材は光拡散層を有し,該光拡散層の凹凸形状の表面が前記第2面を形成しており,前記光拡散層のJIS K 7105における0.25mm幅の光学くしで測定した像鮮明性が30%未満であることを特徴とするレンズシートである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば,シート状の透光性部材のレンズ列形成面の反対側の面を光拡散層の微細凹凸形状表面により形成し,この光拡散層のJIS K 7105における0.25mm幅の光学くしで測定した像鮮明性が30%未満となるようにしたので,レンズ列の表面構造欠陥の視認性を低減させ,導光体の光出射面またはその反対側の裏面に形成したマット構造やレンズ列配列構造等の表面構造の欠陥の視認性を低減させることが出来る。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,図面を参照しながら,本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は本発明によるレンズシートの一実施形態たるプリズムシート,及び該プリズムシートを用いた本発明による面光源装置の一実施形態,及び該面光源装置を用いた本発明による液晶表示装置の一実施形態を示す模式的斜視図であり,図2はその模式的部分断面図である。本実施形態においては,面光源装置は,少なくとも一つの側端面を光入射端面31とし,これと略直交する一つの表面を光出射面33とする導光体3と,この導光体3の光入射端面31に対向して配置され光源リフレクタ2で覆われた線状の一次光源1と,導光体3の光出射面上に配置された光偏向素子としてのプリズムシート4と,導光体3の光出射面33とは反対側の裏面34に対向して配置された光反射素子5とを含んで構成されている。また,本実施形態においては,液晶表示装置は,面光源装置のプリズムシート4の出光面42上に配置された液晶パネル(液晶表示素子)8とを含んでなる。
・・・(中略)・・・
【0029】
プリズムシート4は,導光体3の光出射面33上に配置されている。プリズムシート4はシート状透光性部材からなり,その2つの主面である第1面41及び第2面42は全体として互いに平行に配列されており,それぞれ全体としてXY面と平行に位置する。一方の主面である第1面41(導光体3の光出射面33に対向して位置する主面)が入光面とされており,他方の主面42が出光面とされている。入光面41は,複数のY方向に延在するプリズム列が互いに平行に配列されたプリズム列形成面とされている。出光面42は,微細な凹凸形状が形成されている面すなわち凹凸面とされている。
【0030】
図3に,プリズムシート4及び導光体3の模式的部分拡大断面図を示す。プリズムシート4は,透光性基材43と透光性レンズ列形成層たる透光性プリズム列形成層44と,光拡散層45とからなる。これらの透光性基材43,プリズム列形成層44及び光拡散層45が,シート状透光性部材を構成している。プリズム列形成層44の下面にプリズム列411が形成されており,この下面が入光面41を形成する。また,光拡散層45の上面が出光面42を形成する。
・・・(中略)・・・
【0035】
プリズム列形成層44は,例えば活性エネルギー線硬化樹脂からなり,面光源装置の輝度を向上させる等の点から,高い屈折率を有するものが好ましい。具体的には,その屈折率は,1.52以上が好ましく,1.55以上がより好ましく,1.6以上がさらに好ましい。プリズム列形成層44を形成する活性エネルギー線硬化樹脂としては,紫外線,電子線等の活性エネルギー線で硬化させたものであれば特に限定されるものではないが,例えば,ポリエステル類,エポキシ系樹脂,ポリエステル(メタ)アクリレート,エポキシ(メタ)アクリレート,ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系樹脂等が挙げられる。中でも,(メタ)アクリレート系樹脂がその光学特性等の観点から特に好ましい。・・・(中略)・・・
【0036】
一方,光拡散層45は,透光性樹脂451中に多数の光拡散材(光拡散粒子)452を含有させてなるものであり,層をなす透光性樹脂451の表面から光拡散材452が突出することで,光拡散層45の表面が凹凸面に形成されている。
・・・(中略)・・・
【0039】
透光性樹脂451としては,光拡散材452の分散が可能で,充分な強度を有する透明性のある樹脂であれば特に制限なく使用可能である。このような透光性樹脂としては,ポリアミド系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂や,熱硬化性樹脂,活性エネルギー線硬化型樹脂(電離放射線硬化樹脂)等が挙げられ,これらのうちから透光性基材43や光拡散材452との密着性等を考慮して適宜選択するのが好ましく,特に透過率の高いアクリル系樹脂の使用が特に好ましい。」

(ウ) 「【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明によるレンズシートの一実施形態たるプリズムシート,及び該プリズムシートを用いた本発明による面光源装置の一実施形態,及び該面光源装置を用いた液晶表示装置の一実施形態を示す模式的斜視図である。
・・・(中略)・・・
【図3】プリズムシート及び導光体の模式的部分拡大断面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の図3から,透光性基材43の一方の側に光拡散層45が設けられ,他方の側に透光性プリズム列形成層44が設けられていることを看取できるから,前記ア(ア)ないし(ウ)によれば,引用文献1に次の発明が記載されていると認められる。

「2つの主面が全体として互いに平行に配列され,一方の主面が入光面41とされ,他方の主面が出光面42とされているシート状透光性部材からなるプリズムシート4であって,
前記シート状透光性部材は,透光性基材43と,前記透光性基材43の一方の側に設けられた透光性プリズム列形成層44と,前記透光性基材43の他方の側に設けられた光拡散層45とからなり,
前記透光性プリズム列形成層44の下面は,プリズム列が互いに平行に配列されたプリズム列形成面とされていて,この下面が前記入光面41を形成し,
前記光拡散層45の上面は,微細な凹凸形状が形成されている凹凸面とされていて,この上面が前記出光面42を形成し,
前記透光性プリズム列形成層44は,紫外線,電子線等の活性エネルギー線で硬化させた活性エネルギー線硬化樹脂からなり,
前記光拡散層45は,透光性樹脂451中に多数の光拡散粒子452を含有させてなるものであり,前記透光性樹脂451として活性エネルギー線硬化型樹脂を用い,
前記光拡散層45のJIS K 7105における0.25mm幅の光学くしで測定した像鮮明性が30%未満となるよう構成された,
液晶表示装置のバックライトとして使用される面光源装置を構成するレンズシートとして用いられるプリズムシート4。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献2は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載の技術的事項1及び2の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項1】
第1の保護フィルムと,該第1の保護フィルムの片面に積層された片面にレンズ形状が形成された複数の光学フィルムと,該複数の光学フィルムの第1の保護フィルムに面している側とは反対の面に積層された第2の保護フィルムとで構成されてなるマザーシートにおいて,次の工程を1?3の順に行う光学フィルムの剥離方法。
1.該マザーシートを該第2の保護フィルム側が凸となるように湾曲させ,第1の保護フィルムと光学フィルムの界面において光学フィルムの端部のみ剥離する。
2.第2の保護フィルムを光学フィルムから完全に剥離する。
3.第1の保護フィルムを光学フィルムから密着部位の残りを完全に剥離する。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置用バックライトの生産時に各シートを組み込む際における,作業性に優れた光学フィルムの剥離方法に関するものである。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0004】
バックライトを作製する際,例えば携帯電話用途の場合,枠体に導光板をはめこみ,一方に反射板,他方に,拡散シート,プリズムシートを積層してリムテープと呼ばれる枠状のテープで固定する。
【0005】
前記シート類は傷防止のため片面あるいは両面に保護フィルムを貼ってあり,バックライトに組み込む際,保護フィルムを剥離する工程が必要になる。
【0006】
また,小型の液晶表示装置の場合はシート類も小さいため,少なくとも一方の保護フィルムを台紙として複数のカット済み光学フィルムを載せた多面付けシート(本発明において,これをマザーシートと呼ぶ)の形態でバックライト作成に供用されるのが一般的である。」

(ウ) 「【0017】
次にマザーシートの作製方法について,図1を用いて説明する。プレス機5に打ち抜き刃型4を取り付け,第2の保護フィルム3側から刃型を押し当て第2の保護フィルム3と光学フィルム2をカットする。刃の種類はピナクル刃,トムソン刃,NC刃などがあるが,精度の面からピナクル刃を用いるのが好ましい。
次にマザーシートの構成について説明する。例えば光学フィルムがプリズムの場合,図2に示すように,プリズム面の向きは上下どちらでも良いが,バックライトに組み込む際,間違いを防止するためにもプリズム面が上を向いている方が好ましい。また図3に示すように,(a)ハーフカットするだけでも良いし,(b)ハーフカット後に不要部を取り除いても良く,また(c)のように第1の保護フィルムと光学フィルムを貼り合せた後にハーフカットし,不要部を除去した後に第2の保護フィルムを貼り合せても良い。」

(エ) 「【0030】
【図1】マザーシートの製造方法の概略図である。
【図2】(a)および(b)は,マザーシートの構成を模式的に例示するものである。
【図3】(a)?(c)は,マザーシートの構成を模式的に例示するものである。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図2】

・・・(中略)・・・
【図3】



イ 引用文献2に記載された技術的事項
引用文献2の図1(a)から,カット前の光学フィルム2の一方の面に第1の保護フィルム1が貼られ,他方の面に第2の保護フィルム3が貼られていることを看取できるから,前記ア(ア)ないし(エ)によれば,引用文献2に次の2つの技術的事項が記載されていると認められる。
(ア) 「小型の液晶表示装置用バックライトの生産時にプリズムシートを組み込む際に,
一方の面に第1の保護フィルム1が貼られ,他方の面に第2の保護フィルム3が貼られたプリズムシートに対して,プレス機5を用いて,前記第2の保護フィルム3側から打ち抜き刃型4を押し当て,前記第2の保護フィルム3と前記プリズムシートをカットするという作製方法によって作製されたマザーシートであって,第1の保護フィルム1の片面に複数のカット済みプリズムシートが積層され,当該複数のカット済みプリズムシートの前記第1の保護フィルム1に面している側とは反対の面に第2の保護フィルムが積層された多面付けシートであるマザーシートを用いること。」(以下,「引用文献2記載の技術的事項1」という。)

(イ) 「引用文献2記載の技術的事項1のマザーシートについて,プリズムシートのプリズム面の向きは上下どちらでも良いが,バックライトに組み込む際,間違いを防止するためにはプリズム面が上を向いている方が好ましいこと。」(以下,「引用文献2記載の技術的事項2」という。)

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献3は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献3記載の技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶テレビ,コンピューターやワードプロセッサーなどの液晶表示装置に好適な耐擦傷性複層レンズフイルムに関し,更に詳しくは,表面の傷が付き難く,取り扱いの容易なレンズ機能を有する耐擦傷性複層レンズフイルムに関するものである。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
これらの要求に応ずるために,バックライトからの光を用途に応じて拡散したり,逆に光の指向性を変更,即ち不要な方向の光を方向変換して観察者の正面に集光するために,レンズ機能を有するフイルムやシート(以下,総称してレンズフイルムという)を使用するのが一般化している。
・・・(中略)・・・
【0005】
レンズフイルムを一体的に成形する方法を採用する場合,該レンズフイルムの材料として使用する樹脂に要求される特性としては,透明性,寸法安定性,防湿性等が高いことが挙げられ,その上で,レンズフイルムを所望の形に打ち抜く際の衝撃で破損しないような耐衝撃性,取り扱い時に液晶表示装置の表面と擦れても傷が付きにくいような耐擦傷性が望まれる。更に,レンズ機能を向上するためには,屈折率が高い材料が好ましい。
【0006】
・・・(中略)・・・しかし,ポリカーボネートからなるレンズフイルムは,表面硬さ,耐擦傷性に劣る欠点があり,耐擦傷性については,鉛筆硬度がBもしくは2B程度と劣っており,バックライトや液晶パネルの表面に該レンズフイルムを貼着する際に,該レンズフイルムの裏面に擦り傷が生じることがある。・・・(中略)・・・
【0007】
・・・(中略)・・・
一方,メタクリル樹脂やメタクリル酸メチル含む透明な樹脂は透明性,硬度が高く,耐擦傷性についても鉛筆硬度が4Hと優れており,レンズ機能を有する部材の材料として使用されているが,防湿性,耐衝撃性に劣るため,単独でフイルム状に成形し,適当な形状に裁断して使用することは困難である。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の耐擦傷性複層レンズフイルムは,図1に基本的な構成を示したように,一面にレンズ機能を有する立体模様を備えたレンズ層2と,レンズ層の他面に形成された裏面層3とからなる複層レンズフイルムであって,レンズ層2はポリカーボネートからなり,裏面層3は,ポリメタクリル酸メチル,メタクリル酸メチルが15重量%以上100重量%未満とスチレンが0重量%を超えて85重量%以下(合計が100重量%)の共重合体,メタクリル酸メチルが60重量%以上100重量%未満とこれと共重合可能な単量体が0重量%を超えて40重量%以下(合計が100重量%)の共重合体から選ばれ,ポリカーボネート以上の硬度を有するアクリル系樹脂からなり,レンズ層2を構成する樹脂と裏面層3を構成する樹脂は溶融共押し出しにより一体化されていることを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0030】
本発明の耐擦傷性レンズフイルム1には,上記のレンズ機能に加えて,光拡散機能を付与することが出来る。具体的には,レンズ層2又は裏面層3のいずれか一方,又は両方に光拡散性粒子を含有させたり,裏面層の外面側3aに光拡散機能のある凹凸構造を設けたり,両者を併用することができる。
これら光拡散機能の付与により,レンズ機能と拡散機能を併せ持つことが出来るとともに,本発明の耐擦傷性レンズフイルムと共に用いられた他の光学部材との間に発生する干渉縞等の画面の品位を落とす異変を防ぐ効果がある。」

(ウ) 「【実施例】
【0038】
以下,本発明を実施例を挙げて更に詳細に説明するが,本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(耐擦傷性レンズフイルムの作成)
実施例1
ポリカーボネート(帝人化成株式会社製パンライトL-1250Y)を十分除湿乾燥した後,スクリュー型押出機A(口径90mm,L/D32)に投入し,押出機最高設定温度285℃,先端部設定温度260℃になる様に設定した。
一方,ポリメタクリル酸メチル(住友化学株式会社製スミペックHT25x)を十分除湿乾燥した後,スクリュー型押出機B(口径45,L/D28) に投入し,押出機最高設定温度260℃,先端部設定温度260℃になる様に設定した。
上記の樹脂を,それぞれのギアポンプを通して,ポリカーボネートは85Kg/hrの吐出量にて,ポリメタクリル酸メチルは8Kg/hrの吐出量にて,260℃に保たれた共押出用のフイードブロックに送り込み,ダイ温度265℃に設定したリップ先端より吐出した。
その後,共押し出しされた樹脂を金属製の冷却ロールとゴムロールの間隙で押圧し,耐擦傷性レンズフイルムとした。冷却ロールの表面には頂角90度の2等辺3角形を50μmの周期で隣接して線状に配備されており,共押し出しされた樹脂のポリカーボネート層を冷却ロール側とするとともに,ポリメタクリル酸メチル層をゴムロール側とし,さらにポリメタクリル酸メチル層とゴムロールの間に,支持体として100μmの2軸延伸したポリエチレンテレフタレートフイルムを挟み込んだ。
その後,更に冷却ロールにて積層物を冷却した後,ポリエチレンテレフタレートフイルムを剥離除去し,ポリカーボネート層(レンズ層)とポリメタクリル酸メチル層(裏面層)とからなる耐擦傷性レンズフイルムを芯材に巻き取ってロール状製品とした。
得られた耐擦傷性レンズフイルムの厚みは240μmであった。共押し出し用のフイードブロックに送り込んだ樹脂の量を勘案すると,ポリカーボーネート層(レンズ層)の厚さは約220μm,ポリメタクリル酸メチル層(裏面層)の厚さは約20μmと推定される。
【0040】
実施例2
実施例1のポリメタクリル酸メチルに代えて,スチレン40重量%とメタクリル酸メチル60重量%の共重合体(新日鉄化学株式会社製エスチレンMS-600,鉛筆硬度3H)を使用した他は,実施例1と同様にして耐擦傷性レンズフイルムを作成した。
【0041】
実施例3
実施例1のポリメタクリル酸メチルに代えて,スチレン80重量%とメタクリル酸メチル20重量%の共重合体(新日鉄化学株式会社製エスチレンMS-200,鉛筆硬度2H)を使用した他は,実施例1と同様にして耐擦傷性レンズフイルムを作成した。
【0042】
比較例1
実施例1の共押出用のフイードブロックを使用せず,押し出し機Aをダイスに直結してポリカーボネートの単層レンズフイルム(厚み240μm)を作成した以外は実施例1と同様の方法よりレンズフイルムを作成した。
【0043】
比較例2
ポリメタクリ酸メチルからなる市販のアクリルシート(住友化学株式会社製 スミペック:登録商標)を使用した。
【0044】
上記の実施例及び比較例で得られたレンズフイルムについて,以下の方法で耐擦傷性試験を行い,更に,打ち抜き特性,レンズ特性を測定した。結果は表1に示す。
【0045】
(耐擦傷性試験)
1.裏面層の鉛筆硬度
各種の硬度の鉛筆にてレンズフイルムの裏面に描画し,その後,レンズフイルム裏面の傷の有無を調べた。結果は,傷の発生しない最大の硬度で表す。
・・・(中略)・・・
【0047】
(打ち抜き特性)
297mm×211mmのA4版長方形の片刃のトムソン金型を用いて,ステンレス板上に厚さ200μmのポリエチレンテレフタレートフイルムを当て板として敷き,その上にサンプルフイルムを載せて打ち抜き,破損の有無を調べる。
・・・(中略)・・・
【0049】
【表1】



イ 引用文献3に記載された技術的事項
引用文献3の【0049】の【表1】から,実施例1ないし3の「裏面層の鉛筆硬度」が「H」又は「2H」であり,「振動試験」の「目視観察」が「殆ど傷の発生なし」又は「ほぼ傷の発生なし」であり,「打ち抜き特性」が「破損なし」であるのに対して,比較例1の「裏面層の鉛筆硬度」が「2B」であり,「振動試験」の「目視観察」が「多数の斑点が見られる」であり,「打ち抜き特性」が「破損なし」であり,比較例2の「裏面層の鉛筆硬度」が「4H」であり,「振動試験」の「目視観察」が「試験せず」であり,「打ち抜き特性」が「破損」であることを看取できるから,前記ア(ア)ないし(エ)によれば,引用文献3に次の技術的事項が記載されていると認められる。

「液晶表示装置のバックライトに使用されるレンズフイルムには,当該レンズフイルムを所望の形に打ち抜く際の衝撃で破損しないような耐衝撃性や,取り扱い時に液晶表示装置の表面と擦れても傷が付きにくいような耐擦傷性が望まれるところ,
鉛筆硬度がBもしくは2B程度であるポリカーボーネートからなるレンズ層と,ポリメタクリル酸メチル又はスチレンとメタクリル酸メチルの共重合体からなる裏面層であって,当該裏面層表面の鉛筆硬度がH又は2Hであるような裏面層とからなる複層レンズフイルムは,耐衝撃性及び耐擦傷性に優れているが,
裏面の鉛筆硬度が2Bとなるポリカーボネートからなる単層レンズフイルムでは,耐衝撃性に優れるものの,耐擦傷性に劣っており,
裏面の鉛筆硬度が4Hとなるポリメタクリ酸メチルからなるアクリルシートは,耐擦傷性に優れるものの,耐衝撃性に劣っていること。」(以下,「引用文献3記載の技術的事項」という。)


5 対比
(1) 引用発明の「透光性基材43」,「光拡散粒子452」,「活性エネルギー線硬化型樹脂からなる透光性樹脂451」,「『上面』が『凹凸面』とされている『光拡散層45』」,「透光性プリズム列形成層44」,「プリズムシート4」,「活性エネルギー線硬化樹脂」及び「プリズム列」は,本願発明の「基材層」,「拡散粒子」,「バインダー樹脂」,「マット層」,「光学要素層」,「光学シート」,「電離放射線硬化型樹脂」及び「単位光学要素」に,それぞれ相当する。

(2) 引用発明は,「透光性基材43」(本願発明の「基材層」に相当する。以下,「5 対比」の欄中で,引用発明の構成に付したカッコ内の記載は,当該構成に相当する本願発明の構成を表す。)と,前記透光性基材43の一方の側に設けられた「透光性プリズム列形成層44」(光学要素層)と,前記透光性基材43の他方の側に設けられた「光拡散層45」(マット層)とからなる「プリズムシート4」(光学シート)であるところ,「光拡散層45」(マット層)は,「透光性樹脂451」(バインダー樹脂)中に多数の「光拡散粒子452」(拡散粒子)を含有させてなるものであるから,引用発明と本願発明は,「基材層と,拡散粒子およびバインダー樹脂を含み,前記基材層の一方の側に設けられたマット層と,前記基材層の他方の側に設けられた光学要素層と,を備える光学シート」である点で一致する。

(3) 引用発明の光拡散層45は,その上面が,微細な凹凸形状が形成されている凹凸面とされていて,この上面がプリズムシート4の他方の主面である出光面42を形成しているから,当該「光拡散層45」(マット層)の上面を,「プリズムシート4」(光学シート)の一方の側の表面をなす「外側面」ということができる。
また,引用発明の光拡散層45における上面とは反対側の面である下面が,「透光性基材43」(基材層)の上面と対面していることは自明であるから,当該「光拡散層45」(マット層)の下面を,「上面」(外側面)とは反対側の面であって「透光性基材43」(基材層)に対面する「内側面」ということができる。
さらに,引用発明の「光拡散層45」において,「上面」(外側面)と「下面」(内側面)の間に「端面」が存在することは明らかである。
したがって,引用発明の「光拡散層45」と,本願発明の「マット層」は,「光学シートの一方の側の表面をなす外側面と,外側面とは反対側の面であって基材層に対面する内側面と,内側面と外側面との間の端面と,を含」む点で一致する。

(4) 引用発明において,光拡散層45と透光性基材43の間に他の層は存在しないから,「光拡散層45」(マット層)は「透光性基材43」(基材層)に隣接しているといえる。
また,引用発明の「光拡散層45」は,透光性樹脂451中に多数の光拡散粒子452を含有させてなるものであり,当該透光性樹脂451として「活性エネルギー線硬化型樹脂」を用いたものであるところ,透光性樹脂451として「活性エネルギー線硬化型樹脂」を用いるとは,「光拡散層45」を構成する多数の光拡散粒子452を含有する「透光性樹脂451」が,多数の光拡散粒子452を含有する「紫外線,電子線等の活性エネルギー線で硬化させた活性エネルギー線硬化樹脂」であること,すなわち,「光拡散層45」(マット層)が,「活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物」(電離放射線硬化型樹脂の硬化物)を含むことを意味していることが当業者に自明である。
したがって,引用発明の「光拡散層45」と,本願発明の「マット層」は,「基材層に隣接し,且つ,電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含」む点で一致する。

(5) 引用発明の「透光性プリズム列形成層44」(光学要素層)は,紫外線,電子線等の活性エネルギー線で硬化させた「活性エネルギー線硬化樹脂」(電離放射線硬化型樹脂)からなるから,引用発明の「透光性プリズム列形成層44」と,本願発明の「光学要素層」は,「電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含」む点で一致する。

(6) 引用発明の「透光性プリズム列形成層44」(光学要素層)の下面は,プリズム列が互いに平行に配列されたプリズム列形成面とされているところ,当該下面に形成された複数の「プリズム列」(単位光学要素)は,「一方向に配列され,各々が前記一方向と交差する方向に線状に延び」ているといえるから,引用発明の「透光性プリズム列形成層44」は,本願発明の「一方向に配列された複数の単位光学要素であって,各々が前記一方向と交差する方向に線状に延びる,複数の単位光学要素と,二次元配列された複数の単位光学要素と,の少なくとも一方を有する」という「光学要素層」に関する要件を満足する。

(7) 前記(1)ないし(6)によれば,本願発明と引用発明とは,
「基材層と,
拡散粒子およびバインダー樹脂を含み,前記基材層の一方の側に設けられたマット層と,
前記基材層の他方の側に設けられた光学要素層と,を備える光学シートであって,
前記マット層は,当該光学シートの一方の側の表面をなす外側面と,前記外側面とは反対側の面であって前記基材層に対面する内側面と,前記内側面と前記外側面との間の端面と,を含み,
前記マット層は,前記基材層に隣接し,且つ,電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含み,
前記光学要素層は,電離放射線硬化型樹脂の硬化物を含み,
前記光学要素層は,
一方向に配列された複数の単位光学要素であって,各々が前記一方向と交差する方向に線状に延びる,複数の単位光学要素と,
二次元配列された複数の単位光学要素と,
の少なくとも一方を有する,光学シート。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では,「マット層」の端面は,「光学シート」の法線方向に沿った断面において,外側面と交わる外側端部よりも内側面と交わる内側端部において,前記法線方向に直交する方向に沿った外方に位置するのに対して,
引用発明では,「光拡散層45」の端面の形状は定かでない点。

相違点2:
本願発明では,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された「一方の側の表面」についての鉛筆硬度が,3B以上3H以下であるのに対して,
引用発明では,「光拡散層45の上面」の鉛筆硬度は不明である点。


6 判断
(1)相違点1について
ア 相違点1に係る本願発明の構成に関して,例えば,端面が外側面及び内側面に垂直な平面となっており,当該端面と外側面との交差位置に面取り加工が施されているようなものが,相違点1に係る本願発明の構成に包含されるのか否かが,特許請求の範囲の記載からは明確に特定できないから,相違点1に係る本願発明の構成について,本願明細書の記載を参酌すると,次のとおりである。

イ 本願明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題について,
「【0008】
エンドミル等の工具を用いてウェブ状のシート材から光学シートを切り出す(切り取る)場合には,以上のような不具合が生じる。このような不具合を回避するため,打ち抜きによって,ウェブ状のシート材から光学シートを抜き出すことも検討されている。しかしながら,打ち抜きによってシート材から光学シートを取り出す場合,切り子や削りかすは発生しないものの,光学シートを切り出す場合と同様の異物付着や傷付き等の不具合が生じ得ることが分かった。
【0009】
本発明は,このような点を考慮してなされたものであり,欠陥の発生を効果的に防止することができる光学シートの製造方法を,提供することを目的とする。」
と説明され,当該記載から,本願発明は,「打ち抜きによってシート材から光学シートを取り出す場合に生じる異物付着や傷付き等の不具合の防止」をその解決課題とするものと理解される。
そして,本願明細書の発明の詳細な説明には,当該課題を解決するための手段として,
「【0011】
本発明による第1の光学シートは,
基材層と,
拡散粒子およびバインダー樹脂を含み,前記基材層の一方の側に設けられたマット層と
,を備える光学シートであって,
前記マット層は,当該光学シートの一方の側の表面をなす外側面と,前記外側面とは反対側の面であって前記基材層に対面する内側面と,前記内側面と前記外側面との間の端面と,を含み,
前記端面は,前記光学シートの法線方向に沿った断面において,前記外側面と交わる外側端部よりも前記内側面と交わる内側端部において,前記法線方向に直交する方向に沿った外方に位置する。」
との「第1の光学シート」(相違点1に係る本願発明の構成を始めとして,本願発明が有する構成の多くを具備している。)が記載され,当該「第1の光学シート」の製造方法として,
「【0019】
本発明による第1の光学シートの製造方法は,拡散粒子およびバインダー樹脂を含むマット層によって形成された一方の側の表面を有するシート材に対して,前記一方の側の表面から打ち抜き刃を入れて,当該シート材を打ち抜くことにより,打ち抜かれたシート材からなる光学シートを得る工程を備える。
【0020】
本発明による第1の光学シートの製造方法において,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された前記一方の側の表面についての鉛筆硬度は,3H以下となるようにしてもよい。」
と説明されている。
さらに,前記課題を解決するための方法に関して,
「【0073】
そして,本件発明者は,このようなことを踏まえてさらに鋭意研究を続け,次の条件1および条件2を満たす場合に,上述した方法での打ち抜き加工中に,マット層20に割れが発生すること及びマット層20が剥離することを防止し得ることを確認した。
【0074】
〔条件1〕
マット層20によって形成された一方の側の表面10aを有するシート材11に対して,当該一方の側の表面10aから打ち抜き刃72が当該シート材11に接触し始めるようにして,打ち抜き加工を施す。なおこの際,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された一方の側の表面10aについての鉛筆硬度が3B以上であることが好ましく,また,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された一方の側の表面10aについての鉛筆硬度が3H以下であることが好ましい。
【0075】
尚,鉛筆硬度は,B系列ではアラビア数字が大きくなる程,硬度は低下し(軟らかくなる),一方,H系列では,逆に,アラビア数字が大きくなる程,硬度は上昇する(硬くなる)。其の為,此処で,鉛筆硬度が3B以上3H以下とは,3Bより硬く且つ3Hより軟らかい鉛筆硬度,即ち,3B,2B,B,HB,F,H,2H,及び3Hの範囲の鉛筆硬度の何れかであることを意味する。
【0076】
〔条件2〕
マット層20によって形成されるとともにJISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された鉛筆硬度がB以下である一方の側の表面10aを有するシート材11に対して,当該一方の側の表面10aとは反対側となる他方の側の表面10bから打ち抜き刃72が当該シート材11に接触し始めるようにして,打ち抜き加工を施す。なおこの際,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された一方の側の表面10aについての鉛筆硬度が3B以上であることが好ましい。
【0077】
このような条件1および条件2のいずれかによって上述した不具合を解消し得る原因は,正確には不明であるが,以下の点が一因になっているものと推測される。ただし,本発明は,以下の推定に拘束されるものではない。
【0078】
打ち抜き加工を施す場合,打ち抜き刃72が,打ち抜き加工時における打ち抜き刃72の進行方向に対して打ち抜き刃72の両面が傾斜した両刃を用いようと,或いは,打ち抜き加工時における打ち抜き刃72の進行方向に対して打ち抜き刃72の片面だけが傾斜した片刃をいずれの向きで用いようと,シート材11には変形(歪み)が生じる。そして,打ち抜き加工によって得られた光学シート10を顕微鏡観察した結果からすると,当該変形(歪み)は,シート材11の打ち抜き刃72が入る側(接触し始める側)の表面よりも,シート材11の打ち抜き刃72が抜け出る側の表面において,大きくなっているようであった。すなわち,シート材11の変形量が,緩衝材11としても機能するベルト状部材79および定盤75に対面する側で大きくなっているようであった。
【0079】
このため,条件1のように,変形量が少なくなる打ち抜きヘッド71側にマット層20が位置するように,シート材11を配置すれば,打ち抜き加工中における,マット層20の変形量が低減され得る。結果として,条件1によれば,マット層20へ加わる応力が小さくなり,マット層20の割れやマット層20の剥離を効果的に防止することができるものと推測される。
【0080】
なお,マット層20の側から打ち抜き刃72を入れる場合であっても,マット層20の鉛筆硬度が4H以上であると,マット層20の弾性が著しく低下して,割れや剥離が生じた。一方,マット層20の鉛筆硬度が4B以下であると,硬度が低すぎ,実際の使用上,とりわけ,面光源装置に組み込まれる光学シートとしての実際の使用上,マット層20が有効に機能することができなくなる。これらの点から,条件1では,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された一方の側の表面10aについての鉛筆硬度が3B以上3H以下であることが好ましい。
【0081】
一方,条件2によれば,変形量が多くなるベルト状部材79および定盤75の側にマット層20が位置しているが,マット層20の鉛筆硬度がB以下となっている。このため,マット層20の変形量は多くなってしまうものの,マット層20が,高い弾性を有していることに起因して,マット層20の割れやマット層20の剥離を効果的に防止することができるものと推測される。」
と説明され,「本件発明者が行った実験結果」として具体的に示されているのは,マット層20表面の鉛筆硬度を,3B以上4H以下の範囲内に設定したサンプル1ないしサンプル9について,マット層20側から打ち抜いた場合と,光学要素層30側から打ち抜いた場合とで,マット層に割れや剥離等の欠陥が発生したか否かという実験結果のみである(【0083】ないし【0096】)。
これら本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,「マット層の端面は,光学シートの法線方向に沿った断面において,外側面と交わる外側端部よりも内側面と交わる内側端部において,前記法線方向に直交する方向に沿った外方に位置する」という相違点1に係る本願発明の構成は,少なくとも,マット層側から打ち抜いて光学シートを得ること(以下,「要件1」という。),及び,マット層の鉛筆硬度を3B以上3H以下とすること(以下,「要件2」という。)によって,得られる構成であると解するのが相当である。

ウ そこで,引用発明において,要件1及び要件2を満足するよう構成することが,当業者にとって容易に想到し得たことであったのか否かを,以下で検討する。

エ まず,要件1について検討すると,引用発明は,「液晶表示装置」のバックライトとして使用される面光源装置を構成するレンズシートとして用いられるプリズムシート4であるところ,当該「液晶表示装置」として,引用文献2記載の技術的事項1における「小型の液晶表示装置」を想定し,引用発明のプリズムシート4を,引用文献2記載の技術的事項1における「一方の面に第1の保護フィルム1が貼られ,他方の面に第2の保護フィルム3が貼られたプリズムシートに対して,プレス機5を用いて,前記第2の保護フィルム3側から打ち抜き刃型4を押し当て,前記第2の保護フィルム3と前記プリズムシートをカットするという作製方法によって作製されたマザーシートであって,第1の保護フィルム1の片面に複数の『カット済みプリズムシート』(引用発明のプリズムシート4)が積層され,当該複数の『カット済みプリズムシート』(引用発明のプリズムシート4)の前記第1の保護フィルム1に面している側とは反対の面に第2の保護フィルムが積層された多面付けシートであるマザーシート」の如き形態で,液晶表示装置の製造業者等の顧客に提供することは,引用文献2の記載に接した当業者が容易になし得たことである。
しかるに,引用文献2記載の技術的事項2から,引用文献2記載の技術的事項1のマザーシートの作成時の打ち抜き刃型4によるカットに際して,プリズム面側からカットするのか,プリズム面とは反対側の面側からカットするのかは,カット済みプリズムシートのバックライトへの組み込み時の作業内容等を勘案して,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項であることを把握できるから,引用発明に引用文献2記載の技術的事項1を適用するにあたって,マザーシートを作製するときに,透光性プリズム列形成層44の向きを下にして,すなわち光拡散層45の向きを上にして打ち抜き刃型4を押し当てて,光拡散層45側からカットするよう構成することは,技術の具体的適用に伴って,当業者が適宜行う設計事項にすぎない。
したがって,引用発明を,「プレス機5を用いて,光拡散層45側から打ち抜き刃型4を押し当ててカットしたプリズムシート4」とすること,すなわち,要件1を満足するよう構成することは,引用文献2記載の技術的事項1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

オ 次に,要件2について検討すると,引用発明は,「液晶表示装置のバックライトとして使用される面光源装置を構成するレンズシートとして用いられるプリズムシート4」であるから,引用文献3記載の技術的事項における「液晶表示装置のバックライトに使用されるレンズフイルム」と同様に,所望の形に打ち抜く際の衝撃で破損しないような耐衝撃性や,取り扱い時に液晶表示装置の表面と擦れても傷が付きにくいような耐擦傷性が要求されることは,当業者に自明であるところ,耐衝撃性及び耐擦傷性に優れたものとするために,引用発明の「光拡散層45」の表面の鉛筆硬度が,引用文献3記載の技術的事項と同様に,H又は2H程度となるように形成することは,引用文献3の記載に接した当業者が容易になし得たことである。
また,引用文献3記載の技術的事項における「鉛筆硬度」が,「JISのK5600-5-4(1999年)」に準拠して測定されたものであるのか否かについて,引用文献3に明記はないものの,「JISのK5600-5-4(1999年)」は平成11年(1999年)に制定された現行規格であって,引用文献3に係る特許出願の出願日が,当該規格の制定の時よりも8年も後である平成19年6月5日であることに鑑みれば,引用文献3に記載された「鉛筆硬度」は,「JISのK5600-5-4(1999年)」に準拠して測定された鉛筆硬度を指していると解するのが相当である。
したがって,引用発明において,JISのK5600-5-4(1999年)に準拠して測定された光拡散層45の表面の鉛筆硬度を,「3B以上3H以下」となるよう構成すること,すなわち,要件2を満足するよう構成することは,引用文献3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

カ 前記エ及びオのとおりであるから,引用発明について,要件1及び要件2を満足するよう構成すること,すなわち,相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,引用文献2記載の技術的事項1及び2,並びに引用文献3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
要件2を満足するよう構成した引用発明の光拡散層45の表面の鉛筆硬度(JISのK5600-5-4(1999年)に準拠)は,H又は2Hであって,相違点2に係る本願発明の構成における「3B以上3H以下」との要件を満足するから,引用発明について,前記(1)で述べた構成の変更を行うと,必然的に相違点2に係る本願発明の構成を具備することとなる。
したがって,引用発明を,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,前記(1)で述べたのと同様の理由で,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本願発明が有する効果は,進歩性の有無についての判断を左右するほどの格別顕著なものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用文献2記載の技術的事項1及び2,並びに引用文献3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


7 むすび
本願発明は,引用発明,引用文献2記載の技術的事項1及び2,並びに引用文献3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-08 
結審通知日 2016-07-12 
審決日 2016-07-26 
出願番号 特願2010-217622(P2010-217622)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 渡邉 勇
清水 康司
発明の名称 光学シート、面光源装置および表示装置  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  

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