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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21C
管理番号 1319120
審判番号 不服2015-21009  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-26 
確定日 2016-09-27 
事件の表示 特願2013- 79884「原子炉の制御可能な長期運転」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-178253、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年11月26日(パリ条約による優先権主張 2006年11月28日 米国)の出願(特願2009-539275号)の一部を2013年4月5日に新たな特許出願とした特願2013-79884号であって、平成26年4月11日付けで拒絶理由が通知され、同年6月13日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年12月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年3月26日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年9月1日付けで同年3月26日付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年11月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年11月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「複数の中性子吸収体と複数の核燃料集合体とを備えた核分裂原子炉炉心から熱を伝達する方法であって、
上記核分裂原子炉炉心における、上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂から得られた中性子が、他の上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂を誘発して、上記核燃料集合体から他の上記核燃料集合体へと核分裂が伝搬していく現象である伝搬核分裂爆燃波による核分裂から熱を発生させる工程と、
上記中性子吸収体を、上記核分裂が伝搬した後の上記複数の核燃料集合体の間に挿入する工程と、
上記中性子吸収体を、上記核分裂が伝搬する前の上記複数の核燃料集合体の間に挿入する工程と、
上記核燃料集合体から熱を伝達されるとともに熱除去領域へ熱を伝達する原子炉冷却材ループを提供し、上記核燃料集合体側から上記熱除去領域側へ凝縮相密度流体を上記原子炉冷却材ループの中に流す工程とを含む方法。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

2 補正の適否
本件補正の補正事項1は、
(a)本件補正前の請求項1に記載した「核分裂原子炉」について「複数の中性子吸収体と複数の核燃料集合体とを備えた」ものであること特定して限定する補正事項、
(b)本件補正前の請求項1に記載した「物質の核分裂から得られた中性子が他の物質の核分裂を誘発することで、核分裂が物質から物質へ伝搬していく現象」である「伝搬核分裂爆燃波」について「核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂から得られた中性子が、他の上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂を誘発して、上記核燃料集合体から他の上記核燃料集合体へと核分裂が伝搬していく現象」であることを特定して明瞭でない記載を釈明する補正事項、
(c)本件補正前の請求項1に記載した「物質に挿入された中性子減速材を含む構造である活性制御可能な中性子修正構造により、上記伝搬核分裂爆燃波によって核分裂が伝搬した上記物質と、当該核分裂が伝搬していない上記物質との境界面である燃焼前線の移動方向と、移動速度と、寸法とを変化させる工程」について「中性子吸収体」を「複数の核燃料集合体の間に挿入する工程」であることを特定して、明瞭でない記載を釈明し、さらに、上記の「中性子吸収体」を「複数の核燃料集合体の間に挿入する」ことが、「核分裂が伝搬す前」及び「核分裂が伝搬した後」のそれぞれの「複数の核燃料集合体」に対して行われることを特定して限定する補正事項、
(d)本件補正前の請求項1に記載した「燃焼前線と、凝縮相密度流体との熱的接触によって熱を伝達する工程」について「核燃料集合体側から上記熱除去領域側へ凝縮相密度流体を流す」ことによって「熱を伝達する工程」であることを特定して明瞭でない記載の釈明をするとともに、「核燃料集合体から」「熱除去領域へ熱を伝達する原子炉冷却材ループを提供し」凝縮相密度流体を「上記原子炉冷却材ループの中に流す」ことを特定して限定する補正事項、
を含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-170792号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a「〔発明の技術分野〕
本発明は沸騰水形原子炉等の初装荷炉心に関する。」(第1ページ左下欄第18?20行)
b「〔発明の実施例〕
以下第4図ないし第13図を参照して本発明の第1実施例を説明する。この第1実施例は沸騰水形原子炉の炉心に本発明を適用した場合のものである。第1図には燃料棒11の構成を示す。図中12はジルコニウム合金製の燃料被覆管であって、その上端部および下端部は上部端栓13および下部端栓14によって密封されている。そして、この燃料被覆管12内には酸化ウランの粉末を焼結した短円柱状の燃料ペレット15・・・が充填されている。このように構成された燃料棒11・・・は第5に示す如く8行8列の格子状に配列されて所定の間隔をもって束ねられ、この燃料棒11・・・の束は断面略正方形のチャンネルボックス16内に収容され、燃料集合体17が構成される。そして、第6図に示す如く上記の燃料集合体17・・・は断面十字形の制御棒18・・・の周囲に4体ずつ装荷されて単位格子19・・・を構成し、これら単位格子19・・・をさらに格子状に配列して第7図に示す如く平面形状が略円形に近い炉心が構成される。なお、第7図中ひとつのます目はひとつの燃料集合体17・・・を示す。このように構成された炉心は原子炉圧力容器(図示せず)内に収容される。この原子炉圧力容器内には軽水すなわち減速材を兼用する冷却材が収容され、この冷却材は炉心の燃料集合体17・・・のチャンネルボックス16・・・内を通って循環され、燃料ペレット15・・・内の核分裂反応によって発生する熱により加熱されて沸騰し、水と蒸気の二相流となって炉心から流出し、この蒸気をタービン等に送ってこれを駆動するように構成されている。また、上記冷却材は前述の如く減速材を兼用しており、核分裂によって発生した高速中性子を減速して熱中性子とし、この熱中性子によって次の核分裂反応を維持するように構成されている。また、炉心の出力制御は制御棒18・・・の挿入、引抜によって中性子の吸収量を変え、炉心の反応度を調整しておこなうとともに炉心を通過する冷却材の流量すなわち炉心流量を変えることによって炉心内の蒸気泡の量すなわちボイド率を変え、炉心内に存在する冷却材すなわち減速材の量を変えることにより中性子の減速作用を調整し、これによって炉心の反応度の調整をおこなう。」(第3ページ左上欄第13行?左下欄第16行)
c「


d「



イ 上記アのaないしdから、引用刊行物1には、
「燃料棒11が8行8列の格子状に配列されて所定の間隔をもって束ねられ、この燃料棒11・・・の束は断面略正方形のチャンネルボックス16内に収容され、燃料集合体17が構成され、そして、上記の燃料集合体17・・・は断面十字形の制御棒18・・・の周囲に4体ずつ装荷されて単位格子19・・・を構成し、これら単位格子19・・・をさらに格子状に配列して平面形状が略円形に近い炉心が構成され、
このように構成された炉心は原子炉圧力容器内に収容され、この原子炉圧力容器内には軽水すなわち減速材を兼用する冷却材が収容され、この冷却材は炉心の燃料集合体17・・・のチャンネルボックス16・・・内を通って循環され、燃料ペレット15・・・内の核分裂反応によって発生する熱により加熱されて沸騰し、水と蒸気の二相流となって炉心から流出し、この蒸気をタービン等に送ってこれを駆動するように構成され、
また、炉心の出力制御は制御棒18・・・の挿入、引抜によって中性子の吸収量を変え、炉心の反応度を調整しておこなうとともに炉心を通過する冷却材の流量すなわち炉心流量を変えることによって炉心内の蒸気泡の量すなわちボイド率を変え、炉心内に存在する冷却材すなわち減速材の量を変えることにより中性子の減速作用を調整し、これによって炉心の反応度の調整をおこなう原子炉の炉心の制御方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-95493号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a「本発明は炉心のアレイの燃料物質を一層よく利用しうる改良効率の原子炉に関する。
加圧軽水によって冷却されかつ減速される原子炉は、原子炉の炉心を収容している容器を備え、前記炉心は前記容器を満たしている加圧水に沈められている。
原子炉の炉心は、垂値にかつ並んで配置され、横断面に対して背の高いアレイから成る。アレイそれら自身は、核分裂性燃料棒の束から成り、これらの燃料棒は、それらの外面が原子炉の冷却水と接触している。
原子炉の作動のために、炉心の幾体かのアレイと関連した制御棒の集合体が使用される。これらの制御棒は、中性子を激しく吸収する物質の平行なバーから成り、これらのバーは炉心を構成するアレイ内の幾本かの燃料棒に取って代わって案内管の中で垂直方向に移動される。
原子炉の作動に伴なう主な問題の1つはアレイの核燃料の使用に関して高い効率を得ることにある。この燃料は一般的に、親ウラン238を圧倒的に含み、核分裂性ウラン235を一定量含む酸化ウランの形態のウランから成り、前記核分裂性ウラン235の量は燃料の濃縮の関数として変化する。
原子炉の作動中、核分裂性燃料は消費されるので、作動の或る期間の後、原子炉の炉心のアレイの少なくとも一部を取り換える必要がある。
使用済み燃料を濃縮し、再装荷し、取り換え及びそれを取り出す作業費は非常に高いので原子炉の経済的な作動条件を改善するためには原子炉の炉心に導入される燃料を可能な限り最大限利用することが望ましい。」(第2ページ左下欄第2行?右下欄第13行)
b「したがって、本発明は、並んでかつ垂直に配列され、原子炉の減速材及び冷却流体を形成する加圧軽水に沈められた核分裂性燃料のアレイから成る炉心を収容している容器と、原子炉の出力を調節するために炉心内で垂直方向に移動しうる中性子吸収材料の制御棒とを備える改良効率の原子炉を提案しようとしており、この原子炉は、設計及び概念が単純であり、アレイの燃料の利用の向上及び中性子流の減少、それ故原子炉容器の鋼の脆化効果の軽減を可能にする。
この目的のために、本発明による原子炉は、さらに、炉心の周囲のところに、その高さ全体に亘って配置された高エネルギ中性子を反射する物質の厚い金属隔壁と、炉心の横断面全体に亘って一方が炉心の下方部分に配置され、他方が上方部分に配置された低エネルギ中性子を吸収し、親物質を含む物質の2つの層と、低エネルギ中性子を吸収する物質の中性子エネルギスペクトル変化棒の集合体とを備え、該集合体は炉心の核分裂性物質の量に対する減速材の量の比率を変化させて中性子エネルギスペクトルをシフトさせるために炉心のアレイの少なくとも1部へ上記中性子エネルギスペクトル変化棒を完全に挿入したり完全に抜出したりすることのできる垂直移動装置と関連しており、これらの中性子エネルギスペクトル変化棒は炉心の横断面全体に亘って規則的に分配されていることを特徴とする。」(第3ページ右下欄第11行?第4ページ左上欄第17行)

エ 上記ウのa,bから、引用刊行物2には、
「加圧軽水によって冷却されかつ減速される原子炉において、中性子エネルギスペクトルをシフトさせるために炉心のアレイの少なくとも1部へ上記中性子エネルギスペクトル変化棒を完全に挿入したり完全に抜出したりすることができる」
という技術事項が記載されている。

オ 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-61184号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「高速増殖炉は、炉心内の核分裂性物質の核分裂反応によって発生する高速中性子を燃料親物質に吸収させ、新しい核分裂性物質を炉心内に生産する。
高速増殖炉の炉心は、一般に、柱状に形成され、核分裂性物質の富化されたドライバー燃料集合体からなる炉心領域と燃料親物質を主成分とするブランケット燃料集合体からなるブランケット領域とで形成されている。また、中性子吸収物質を含む制御棒が備えられており、炉心に随時挿入できるようになっている。ブランケット領域は、炉心領域の外周を取り囲む径方向ブランケット領域と炉心軸方向の両端に位置する軸方向ブランケット領域とに分けられる。炉心領域の核分裂性物質は主にプルトニウム239であり、ブランケット領域の燃料親物質は主にウラン238である。ウラン238は、プルトニウム239の核分裂により発生する中性子を吸収してプルトニウム239に変化する。
高速増殖炉においても、出力運転中は、炉心領域の核分裂性物質の消費により反応度が失われる。この反応度損失を補償するために、高速増殖炉の燃焼初期の反応度を運転時の反応度よりも大きくし、所定期間高速増殖炉が所定の出力を維持できるように考慮してあり、高速増殖炉にあらかじめ付加する反応度を余剰反応度といっている。高速増殖炉の炉心に挿入された制御棒は、核暴走を防止するために余剰反応度を制御している。」(第2ページ左上欄第9行?右上欄第16行)

カ 上記オから、引用刊行物3には、
「高速増殖炉には、中性子吸収物質を含む制御棒が備えられており、炉心に随時挿入できるようになっており、高速増殖炉の炉心に挿入された制御棒は、核暴走を防止するために余剰反応度を制御している。」
という技術事項が記載されている。

キ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-71866号公報(以下、「引用刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原子炉の炉心およびその炉心における核燃料物質の取替方法に係り、更に詳しくは、制御棒等による燃焼反応度補償手段を不要とし、初装荷燃料として天然ウランまたは劣化ウランと燃焼開始部のみを用いて長期間連続運転することが可能な、運転性と安全性と経済性とに優れた原子炉の炉心およびその炉心における核燃料物質の取替方法に関するものである。」
b「【0099】現在軽水炉では濃縮ウランを用いているが、天然ウラン利用率は1%以下であり、これと比べて、本実施の形態に係る原子炉では、ウラン濃縮を必要とせず、しかも天然ウラン利用率も非常に高いことがわかる。このように、本実施の形態に係る原子炉の炉心1は、長期間の連続運転を可能にするとともに、極めて有効に天然ウランを利用することが可能となる。
【0100】上述したように、本実施の形態に係る原子炉の炉心1においては、上記のような作用により、燃焼開始部16以外は天然ウランのみを用い、燃焼部を軸方向に沿って燃焼させつつ実施させることができる。また、運転長さは、この核分裂連鎖反応が炉心下端部から炉心上端部に至るまでの時間で決定されることから、運転長さを延伸させたい場合、炉心の天然ウラン部分の高さを高くすることによって実現可能である。なお、天然ウランの一部または全部を劣化ウランに置き換えることによっても本実施の形態に係る原子炉の炉心1は、実現可能である。
【0101】更に、図5に示すように、運転中に亘って中性子束分布φが同じ、すなわち、炉心出力分布が一定であることから出力分布を制御する必要がなく、もって、出力分布調整や燃焼反応度補償のための制御棒を必要としない。これによって、これらの制御棒および制御棒を駆動させるための駆動系共に不要となり、システムおよび運転が簡素化されるのみならず、制御棒の誤引抜も発生しなくなるために安全性を向上することも可能となる。」

ク 上記キのaおよびbから、引用刊行物4には、
「炉心出力分布が一定であることから出力分布を制御する必要がなく、もって、出力分布調整や燃焼反応度補償のための制御棒を必要としない原子炉の炉心。」
に関する技術事項が記載されている。

(2)対比
ア 対比・一致点
本願補正発明と引用発明とを対比すると、
(ア)引用発明の炉心の反応は、技術常識から、本願補正発明の「核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂から得られた中性子が、他の上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂を誘発して、上記核燃料集合体から他の上記核燃料集合体へと核分裂が伝搬していく現象」に相当する現象を伴うといえる点、
(イ)引用発明の「制御棒18」が本願補正発明の「中性子吸収体」に相当し、引用発明の「燃料集合体17・・・は断面十字形の制御棒18・・・の周囲に4体ずつ装荷されて」いる態様での「制御棒18・・・の挿入」(の工程)は、本願補正発明の「中性子吸収体を」、「上記複数の核燃料集合体の間に挿入する工程」に相当する点、及び、
(ウ)引用発明の「軽水すなわち減速材を兼用する冷却材」は、「核分裂反応によって発生する熱により加熱されて沸騰し、水と蒸気の二相流となって炉心から流出し、この蒸気をタービン等に送ってこれを駆動する」ものであるから、「核燃料集合体から熱を伝達されるとともに熱除去領域へ熱を伝達する原子炉冷却材」に相当し、よって、引用発明の「冷却材は炉心の燃料集合体17・・・のチャンネルボックス16・・・内を通って循環され」ること(工程)が、本願補正発明の「核燃料集合体から熱を伝達されるとともに熱除去領域へ熱を伝達する原子炉冷却材ループを提供し、上記核燃料集合体側から上記熱除去領域側へ凝縮相密度流体を上記原子炉冷却材ループの中に流す工程」に相当する点、
を勘案すれば、両者は、
「複数の中性子吸収体と複数の核燃料集合体とを備えた核分裂原子炉炉心から熱を伝達する方法であって、
上記核分裂原子炉炉心における、上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂から得られた中性子が、他の上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂を誘発して、上記核燃料集合体から他の上記核燃料集合体へと核分裂が伝搬していく現象である核分裂から熱を発生させる工程と、
上記中性子吸収体を、上記複数の核燃料集合体の間に挿入する工程と、
上記核燃料集合体から熱を伝達されるとともに熱除去領域へ熱を伝達する原子炉冷却材ループを提供し、上記核燃料集合体側から上記熱除去領域側へ凝縮相密度流体を上記原子炉冷却材ループの中に流す工程とを含む方法。」
の点で一致している。
他方、本願補正発明と引用発明とは、次の各点で相違する。

イ 相違点
(ア)相違点1:
「核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂から得られた中性子が、他の上記核燃料集合体に含まれる核燃料の原子の核分裂を誘発して、上記核燃料集合体から他の上記核燃料集合体へと核分裂が伝搬していく現象」が、本願補正発明においては「伝搬核分裂爆燃波による」ものであるのに対して、引用発明においては、そのような特定がない点。
(イ)相違点2:
「中性子吸収体」を「複数の核燃料集合体の間に挿入する工程」が、本願補正発明においては、「中性子吸収体」を「核分裂が伝搬した後の上記複数の核燃料集合体の間に挿入する」工程及び「核分裂が伝搬する前の上記複数の核燃料集合体の間に挿入する」工程からなるのに対して、引用発明においては、そのような特定がない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
「中性子吸収体」を「複数の核燃料集合体の間に挿入する工程」に関連して、引用刊行物2ないし4には、それぞれ、上記「(1)刊行物の記載事項」のエ、カ、及び、クにおいて述べた技術事項が記載されているのみであり、「中性子吸収体」を挿入する「核燃料集合体」について「核分裂が伝搬する前」と「核分裂が伝搬した後」の区別をする技術思想については、いずれの引用刊行物にも記載されていない。
これに対して、本願補正発明は、「中性子吸収体」を挿入する「核燃料集合体」について「核分裂が伝搬する前」と「核分裂が伝搬した後」の区別をすること、すなわち、上記相違点2の構成を備えており、それによって、一方で「中性子吸収体を、核分裂が伝搬した後の複数の核燃料集合体の間に挿入する」ことによって核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させ、他方で「中性子吸収体を、核分裂が伝搬する前の複数の核燃料集合体の間に挿入する」ことによって核分裂爆燃波の伝搬速度を落とすことができるという、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するのであるから、上記相違点2に係る本願補正発明の構成が、引用発明及び引用刊行物2ないし4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(4)小活
以上のとおりであり、相違点1についての検討をするまでもなく、本願補正発明は、引用発明及び引用刊行物2ないし4に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1及び2に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2013-79884(P2013-79884)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 原子炉の制御可能な長期運転  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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