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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47G
管理番号 1319152
異議申立番号 異議2015-700008  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-08-11 
確定日 2016-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5704727号「食器の製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 1 特許第5704727号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について、訂正することを認める。2 特許第5704727号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。3 特許第5704727号の請求項5及び6に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5704727号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6についての出願は、平成25年3月21日の特許出願に係るものであって、平成27年3月6日に特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成27年4月22日)、その後、平成27年8月11日に特許異議申立人 山下 飛鳥(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年12月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年2月12日に意見書の提出及び訂正請求がなされた。そして、申立人に対し平成28年3月9日付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知がなされ、その指定期間内である同年4月11日に意見書の提出がなされたものである。

なお、本決定において、特許法の条文を表記する際に「特許法」という表記を省略することがある。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成28年2月12日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す 。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記食器の容量,前記食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータ」とあるのを「前記食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータ」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「三次元測定機を用いて測定処理し、」とあるのを「非接触により測定する三次元測定機を用いて測定処理し、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「陶器調樹脂食器を成形する食器成形処理工程」とあるのを「陶器調樹脂食器を成形するとともに、成形により得られた陶器調樹脂食器の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする食器成形処理工程」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(6)訂正事項6
明細書段落【0001】に「食器の製造方法及び同方法により得られる陶器調樹脂食器に関する。」とあるのを「食器の製造方法に関する。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書段落【0009】に「食器の製造方法及び陶器調樹脂食器の提供を目的とするものである。」とあるのを「食器の製造方法の提供を目的とするものである。」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書段落【0010】に「食器の容量,食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータ」とあるのを「食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータ」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0010】に「三次元測定機2を用いて測定処理し、」とあるのを「非接触により測定する三次元測定機2を用いて測定処理し、」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0010】に「陶器調樹脂食器1を成形する食器成形処理工程Sd」とあるのを「陶器調樹脂食器1を成形するとともに、成形により得られた陶器調樹脂食器1の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする食器成形処理工程Sd」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書段落【0011】に「一方、合成樹脂材料Roには、当該合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合することが望ましい。なお、成形により得られた陶器調樹脂食器1の表面は、無コーティングとしてもよいし、コーティングしてもよい。」とあるのを「一方、合成樹脂材料Roには、当該合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合することが望ましい。」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書段落【0012】に「本発明に係る食器の製造方法及び陶器調樹脂食器1によれば」とあるのを「本発明に係る食器の製造方法によれば」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書段落【0015】に「食器の容量,食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータ」とあるのを「食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータ」に訂正する。

(14)訂正事項14
明細書段落【0020】に「好適な態様により、成形により得られた陶器調食器1の表面を無コーティングにすれば、」とあるのを「成形により得られた陶器調食器1の表面を無コーティングしたため、」に訂正する。

(15)訂正事項15
明細書段落【0046】に「各種形態も含まれものであり、本発明における食器の概念には」とあるのを「各種形態も含まれものであり、食器の概念には」に訂正する。

(16)訂正事項16
明細書の発明の名称に「食器の製造方法及び陶器調樹脂食器」とあるのを「食器の製造方法」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1ないし16につき、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を検討する。

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「基礎データ」に含まれる対象となる4つの並列的選択概念から「食器の模様」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第120条の5第1項第1号)を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1が本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下単に「本件特許明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内でしたもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2において特定されていた「三次元測定機による測定は、非接触により測定を行う」という事項の一部である「非接触により測定」することを請求項1に組み入れようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でしたもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項5において特定されていた「成形により得られた陶器調樹脂食器の表面は、無コーティング及び/又はコーティングする」という事項を請求項1に組み入れようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3が本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でしたもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(4)訂正事項4,5
訂正事項4,5は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項5,6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4,5は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(5)訂正事項6,7,12及び15
訂正事項6,7,12及び15は、訂正事項5により請求項6(「・・・陶器調樹脂食器。」)が削除されたことに伴い、明細書の記載の整合を図ろうとするものであるから、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第1項第3号)を目的とするものに該当する。
また、訂正事項6,7,12及び15は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(6)訂正事項8及び13
訂正事項8及び13は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図ろうとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項8及び13は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(7)訂正事項9
訂正事項9は、訂正事項2に係る請求項1の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図ろうとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項9は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(8)訂正事項10,11及び14
訂正事項10,11及び14は、訂正事項3に係る請求項1の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図ろうとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項10,11及び14は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(9)訂正事項16
訂正事項16は、訂正事項5により請求項6(「・・・陶器調樹脂食器。」)が削除されたことに伴い、発明の名称の整合を図ろうとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項16は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第1項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
(1)本件訂正発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されるので、本件訂正後の本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件訂正発明1」などということがある。また、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正された明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
合成樹脂材料を用いることにより少なくとも外観を陶器調に形成した食器を製造するための食器の製造方法であって、前記食器の種類,前記食器の寸法,前記食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータを含む基礎データに基づき、陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器の外観形状を、非接触により測定する三次元測定機を用いて測定処理し、当該陶器食器に係わる三次元形状データを得る形状データ測定処理工程と、コンピュータ機能を有するデータ処理部により、前記三次元形状データを三次元CADデータに変換処理するデータ変換処理工程と、コンピュータ機能を備える三次元CADシステムのデータ処理部により、前記三次元CADデータから金型データを生成処理する金型データ生成処理工程と、得られた金型データにより製作した金型により合成樹脂材料を用いて陶器調樹脂食器を成形するとともに、成形により得られた陶器調樹脂食器の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする食器成形処理工程と、を備えてなることを特徴とする食器の製造方法。
【請求項2】
前記三次元測定機による測定は、非接触により測定を行うパターン投影法を用いることを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。
【請求項3】
前記金型は、キャビティの内面を凹凸の粗面を形成するシボ加工処理することを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。
【請求項4】
前記合成樹脂材料には、当該合成樹脂材料に対して色の異なる所定量の粒材を添加混合してなることを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。」

(2)取消理由の概要
本件特許に対して平成27年12月10日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
ア 取消理由1
(ア)請求項1に係る発明は、甲第1号証(以下単に「甲1」などという。)記載の発明に、甲2ないし甲4、及び甲6(さらに甲5も援用可能、以下同様)に示される技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(イ)請求項2に係る発明は、甲1記載の発明に、甲2ないし甲4、甲6及び甲7に示される技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。
(ウ)請求項3
請求項3に係る発明は、甲1記載の発明に、甲2ないし甲4、甲6及び甲8に示される技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。
(エ)請求項4ないし6に係る発明は、甲1記載の発明に、甲2ないし甲4、及び甲6に示される技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 取消理由2
請求項6に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備のため、請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。

第4 取消理由1についての判断
1 甲号証の記載
当審の取消理由に引用した、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である以下の甲1ないし甲6には、以下の発明又は事項が記載されていると認められる。なお、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、下線は当審で付したものである。

甲1:依田慎二 他、「亀山焼の再現による新製品の開発」、
長崎県窯業技術センター平成21年度研究報告、
平成23年2月発行、第57号、第35?37ページ
甲2:特開2009-213615号公報
甲3:特許第2654069号公報
甲4:副島潔 他、「デジタルツールによる陶磁器デザインプロセスの
改革」、芸術工学会誌、2010年2月1日発行、第52号、
第43?50ページ
甲5:特開2007-58508号公報
甲6:特開2004- 9727号公報

(1)甲1
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「亀山焼の再現による新製品の開発」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「1.はじめに
「亀山焼は、江戸時代後期に現在の長崎市内で生産された陶磁器で、開窯期間が約50年間と極めて短期間の生産のため伝世品も少なく、幻のやきものとされている。」(第35ページの1.の項目の左欄第1?4行)

(イ)
「本研究の事前に3次元スキャナ(ローランドDG社製:LPX-600)を用いて、設定可能な最小単位である0.2mmピッチの精度で取り込んだ長崎歴史文化博物館資料の亀山焼7点の電子データを利用して、3次元CADソフト(・・・(中略)・・・)による形状データを作成した。」(第35ページの2.1の項目の左欄第3行?右欄第1行)

(ウ)
「再現品は天草陶土を使用した。天草陶土の乾燥及び本焼成にるよる収縮を考慮して・・・(中略)・・・
なお、本研究の電子データ作成に使用した3次元スキャナとは、レーザーを対象物に照射し、対象物からの反射により形状を電子データとしてPCに取り込むことができる装置である。」(第35ページの2.1の項目の右欄の第2?9行)

(エ)「2.2 3次元プリンタによる使用型原型の作製
使用型の原型となるデータを、3次元プリンタを使用して、設定可能な最小単位である積層間隔0.85mmで立体出力し、使用型を作成するための原型を作製した。」(第35ページの2.2の項目の右欄の第1?6行)

(オ)「2.3 使用型を用いた試作品の作製
3次元プリンタで作製した原型から、使用型を作製し、圧力鋳込み成型の手法により成型し、乾燥、素焼き(900℃)、施釉をして、1300℃で本焼成を行った。」(第36ページの2.3の項目の左欄の第1?5行)

(カ)「3.1 3次元CADソフトによる形状データの作成
3次元スキャナを用いて形状を電子データとして取り込んだ現存する亀山焼の一例として長崎歴史文化博物館所蔵「染付雲龍三段重」の外観を図1に示す。得られた電子データとこのデータを3次元CADソフトで加工した形状データを図2に示す。
3次元スキャナで取り込んだ電子データは、装置の特性上絵付けの色が濃い個所が空白となったり、一部不完全なデータとなったが、3次元CADソフトにより、抽出したエッジから曲線を作成して、作成した曲線で構成された面を作成することにより、完全な形状データを作成することができた。
このことにより、他の博物館や美術館などの所蔵品についても、同様の技術を用いて形状の電子データを作成することが可能である。」(第36ページの3.1の項目の左欄の第1行?右欄の第1行)


(キ)「3.2 3次元プリンタによる原型の作成
3次元プリンタで作製した原型の外観を図3に示す。本研究では積層の間隔を0.85mmで立体出力を行い、出力された原型は、材料の特性上、表面に多少の粉が残るが、使用型作製が可能な滑らかな表面を得ることができた。
また3次元プリンタで作製した原型により、通常の陶磁器型作製に用いられている石膏の原型と同様の作業で、使用型を作成することができた。」(第36ページの3.2の項目の第36ページ右欄の第1行?第37ページの左欄の第6行)

(ク)「3.4 修正した原型を用いて作製した再現品
試作品の計測により得られた結果を反映した修正データから、再度3次元プリンタによる出力を行い、原型を製作した。これにより、使用型を作成し、再現品の作製を行った。
(・・・中略・・・)
同様の技術を用いることにより、博物館や美術館に所蔵品についても再現品を作製することが可能である。」(第37ページの3.4の項目の左欄の第1?右欄の第5行)

(ケ)上記記載事項(イ)の「長崎歴史文化博物館資料の亀山焼7点」については、「亀山焼」は「江戸時代後期に現在の長崎市内で生産された」「幻のやきものとされている」「陶磁器」である(上記記載事項(ア))ことを踏まえ、「陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶磁器」ということができる。

(コ)上記記載事項(イ)の「3次元スキャナ」は、「レーザーを対象物に照射し、対象物からの反射により形状を電子データとしてPCに取り込む」((上記記載事項(ウ)))ものであるから、非接触により測定するものと認められる。

(サ)上記記載事項(カ)に「3次元スキャナで取り込んだ電子データは、・・・一部不完全なデータとなったが、3次元CADソフトにより、抽出したエッジから曲線を作成して、作成した曲線で構成された面を作成することにより、完全な形状データを作成することができた。」とあるところ、これを技術常識を踏まえ言い改めれば、「3次元CADソフトにより、3次元形状データを3次元CADデータに変換処理するデータ変換処理工程」ということができる。

イ 甲1発明
上記記載事項(ア)ないし(ク)及び上記認定事項(ケ)ないし(サ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明1に照らして整理すると、甲1には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)。
「陶磁器の再現品を作製するための作製方法であって、
陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶磁器の外観形状を、非接触により測定する3次元スキャナを用いて測定処理し、当該陶磁器に係わる電子データを得る形状データ測定処理工程と、
3次元CADソフトにより、前記当該陶磁器に係わる電子データを3次元CADデータに変換処理するデータ変換処理工程と、
前記3次元CADデータから3次元プリンタで作製した原型を用いて、石膏の使用型を作成する型製作工程と、
製作した使用型により天草陶土を用いて陶磁器を成形する陶磁器成形処理工程と、を備えてなる陶磁器の再現品の作製方法。」

(2)甲2
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「陶器風メラミン系樹脂製食器の製造方法、及び該方法により得られた食器」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、メラミン系樹脂製食器の製造方法に関し、特に土物陶器風の民芸調地肌模様を表面に顕現させた食器の製造方法、及び該製造方法により得られた食器に関する。更に詳しくは、メラミン系樹脂成形品の好ましい物性を損なうことなしに、従来メラミン系樹脂成形品に付与することのできなかった、萩焼、信楽焼、備前焼、戸部焼等の土物陶器風の民芸調地肌模様を表面に顕現させた食器の製造方法、及び該製造方法により得られたメラミン系樹脂製食器に関する。」

(イ)「【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のメラミン系樹脂製食器、例えば平皿は、図2に示す工程で製造する。
工程(A)及び(B)では、上金型(1)と下金型(2)を用いて、下金型上に食器本体用のメラミン系樹脂(3)を載置し、上金型を閉じ、特定の圧力、温度、時間で一次圧縮成形して食器本体(4)を予備成形する。
次いで(C)及び(D)では、一次圧縮成形後、上金型(1)を開き、一次成形された食器本体の表面に、円板流れが異なり、かつ色合が異なる2種以上の表面被覆材料、例えば図2の(C)では、透明な被覆材料(5)を中央に、緑色被覆材料(6)と茶色被覆材料(7)を左右に載置し、上金型(1)を閉じ、特定の圧力、温度、時間で二次圧縮成形して食器本体(4)上に表面被覆層(8)を成形して、部分的に緑色及び茶色に着色された表面被覆メラミン系樹脂製食器製品(9)を得る。得られた食器の概略図を図1(A)に示す。」

(ウ)「【0020】
本発明は、上記の如きメラミン系樹脂を一次圧縮成形した食器本体の表面に表面被覆層を二次成形する。
二次成形により表面被覆層を形成する表面被覆材料として、円板流れが異なり、かつ色合が異なる2種以上の表面被覆材料を用い、該材料が一次圧縮成形した食器本体の表面に別個に載置した後二次成形することにより食器表面に陶器風の模様を形成したメラミン系樹脂製食器を得るものである。・・・(後略)」

(エ)「【0022】
本発明では、円板流れが異なり、且つ色合いが異なる2種以上の粉末状メラミン系樹脂被覆用組成物を用いることを特徴とするものであり・・・(後略)」

イ 甲2事項
上記記載事項(ア)ないし(エ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲2には以下の事項が記載されていると認める(以下「甲2事項」という。)。
「メラミン系樹脂を金型で成形することにより、食器表面に陶器風の模様を形成した食器の製造方法。」

(3)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「成形用アミノ樹脂組成物」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】(イ) 24メツシユ以下の粒度分布を有し且つ相互に色が異なって不完全混合状態にある2種以上の粉状アミノ樹脂成形材料約80?約99.5重量%及び
(ロ) 2.5メツシユ以下で24メツシユ以上の粒度分布を有し且つ円板流れが40?80mmである1種以上の粒状アミノ樹脂成形材料約0.5?約20重量%[但し(イ)及び(ロ)の上記重量%の合計が100重量%になるものとする]を含有してなる土物陶器風地肌模様を有する成形品用のアミノ樹脂組成物。」

(イ)
「本発明は成形用アミノ樹脂組成物、殊に土物陶器用の民芸調地肌模様が表面に顕現した成形品に適する成形用アミノ樹脂組成物に関する。更に詳しくは、アミノ系樹脂成形品の好ましい物性を犠牲にすることなしに、従来アミノ樹脂成形品に賦与することのできなかつた、萩焼、信楽焼、備前焼、戸部焼等、の土物陶器風の民芸調地肌模様が表面に顕現した成形品用のアミノ樹脂組成物に関する。」(明細書第2欄第1?8行)

(ウ)
「本発明の(イ)成分として用いられる粉状アミノ樹脂成形材料及び(ロ)成分として用いられる粉状アミノ樹脂成形材料の調色は、目的とする土物陶器風の民芸調地肌模様が成形品に顕現するように、適宜常法に従つて行なわれる。好適な実施態様においては(イ)の粉状アミノ樹脂成形材料の調色は、主成分(配合量が比較的多い)となる粉状アミノ樹脂成形材料には陶土と同様の色を成形品に顕現するような調色、例えば象牙色系、黄色系、黄褐色系、茶色系、焦茶色系等の褐色系の調色が行なわれ、副成分(配分量が比較的少ない)である粉末状アミノ樹脂成形材料には、白、黒、灰色、赤などの系統の調色が行なわれる。一方、(ロ)の粒状アミノ樹脂成形材料には、上記(イ)の粉状アミノ樹脂成形材料の調色に用いられるものの他に草色系、青磁色系、黒緑色系などの緑色系や空色系、マリンブルー系などの青色系の調色も行なわれる。」(明細書第5欄第33?48行)

(エ)
「本発明の成形用アミノ樹脂組成物は、特に戸部焼風及び信楽焼風の食器、特に戸部焼風の食器の製造に好適である。」(明細書第7欄第34?36行)

イ 甲3事項
上記記載事項(ア)ないし(エ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲3には以下の事項が記載されていると認める(以下「甲3事項」という。)。
「アミノ樹脂組成物を用い、土物陶器風の民芸調地肌模様が表面に顕現した食器の製造方法。」

(4)甲4
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「デジタルツールによる陶磁器デザインプロセスの改革」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)
「陶磁器は、ロクロに代表される手作業を連想されることが多いが、多くの陶磁器は工業製品であり、他分野の量産品と同様に、デザインから試作プロセスを経て量産される。陶磁器の量産には石膏で作られた型が使用される。」(第43ページ右欄第2?5行)

(イ)
「まずデザインから製造に至る現状のプロセスを調査し、コンピュータ利用技術で置換するためのモデルを検討した。
現状のプロセスの概略は、図1上段のようなものである。当初のデザイン指示は簡単なスケッチと寸法で指示されることが多く、詳細なものではない。フォルムとディティールが確定されるのは原型である。曖昧なデザイン指示から優れた製品が生まれていたのは、原型を作る職人の技量と感性が優れていたからであろう。」(第44ページ左欄下から7行?右欄1行)

(5)甲5
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「形状測定に基づく構造解析システム及び解析方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
構造物の3次元形状を計測する複数種の3次元形状計測装置と、その複数種の3次元形状計測装置によって計測された点群データを入力・合成する点群データ入力・合成装置と、合成処理した点群データを3次元CADモデルに変換する3次元CAD変換処理装置と、3次元CADモデルを用いて有限要素法解析モデルを作成する有限要素法解析モデル作成装置と、その解析結果を評価する解析結果評価装置と、解析結果評価装置から出力された処理データを格納するデータベースとを有することを特徴とする、形状測定に基づく構造解析システム。」

(6)甲6
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「積層シートによる金型形状作成装置および作成方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
映像装置や3次元CADから供給された3次元形状を、一定方向でスライスした断層の2次元形状情報に変換して供給するデータ処理手段に基づきシートを切り抜き、積層して金型として利用することを特徴とする積層シートによる金型形状作成装置および作成方法。」

(イ)
「【0009】
試作品のように同一製品を数個から数十個必要とするとき、従来の方法では試作品を一個手作りし、この試作品でゴム型、石膏型、簡易金型等を製作して対応しているが、単価が高くて製作日数がかかる問題点がある。」

(ウ)
「【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1においては、積層シートによる金型形状作成装置および作成方法の構成と手順を説明したもので、CCDカメラで取り込んだ被写体データや3次元CADから供給された3次元形状を、一定方向でスライスした断層の2次元形状情報に変換して供給するデータ処理手段を取っている。データ処理手段の指示に基づきレーザー光線によりシートを切り抜き、バキュームで切り取った実形状部分を吸引し、残存シートを積載テーブルに積層して固化させることにより金型形状を作成し、多量の実形状を造形することができる。」

イ 甲6事項
上記記載事項(ア)ないし(ウ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲6には以下の事項が記載されていると認める(以下「甲6事項」という。)。
「3次元CADから供給された3次元形状をデータ処理することにより、金型形状を作成すること。」

2 本件訂正発明1
(1)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。
甲1発明の「作製する」が本件訂正発明1の「製造する」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「作製方法」は「製造方法」に、「陶磁器」は「陶器食器」に、「3次元スキャナ」は「三次元測定機」に、「当該陶磁器に係わる電子データ」は「当該陶器食器に係わる三次元形状データ」又は「三次元形状データ」に、「3次元CADソフト」は「コンピュータ機能を有するデータ処理部」に相当することも明らかである。

次に、甲1発明の「陶磁器の再現品」と本件訂正発明1の「少なくとも外観を陶器調に形成した食器」又は「食器」とは、「陶磁器の関連品」である限りにおいて共通する。

したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「陶磁器の関連品を製造するための製造方法であって、
陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器の外観形状を、非接触により測定する三次元測定機を用いて測定処理し、当該陶器食器に係わる三次元形状データを得る形状データ測定処理工程と、
コンピュータ機能を有するデータ処理部により、前記三次元形状データを三次元CADデータに変換処理するデータ変換処理工程と、
を備えてなる陶磁器の関連品の製造方法。」

そして、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の4点で、少なくとも形式的に相違する。
<相違点1>
製造されるべき陶磁器の関連品として、本件訂正発明1は、合成樹脂材料を用いることにより少なくとも外観を陶器調に形成した食器であるのに対し、甲1発明においては、天草陶土を用いた陶磁器の再現品である点。
<相違点2>
陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器に関し、本件訂正発明1は、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータを含む基礎データに基づき製作するのに対し、甲1発明は、そのようなものか明らかでない点。
<相違点3>
本件訂正発明1は、三次元CADデータから金型データを生成処理する金型データ生成処理工程を備え、得られた金型データにより金型を(直接)製作するのに対し、甲1発明は、3次元CADデータから3次元プリンタにより作製した原型を用いて、石膏の使用型を作成するものである点。
<相違点4>
本件訂正発明1は、成形により得られた陶器調樹脂食器の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする工程を有するのに対し、甲1発明は、その点が明らかでない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1及び相違点2について
(ア)まず、相違点1及び相違点2に係る本件訂正発明1における「合成樹脂材料を用いることにより少なくとも外観を陶器調に形成した食器を製造するための食器の製造方法」における「食器の種類,前記食器の寸法,前記食器の容量,前記食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータを含む基礎データに基づき、陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器の外観形状」を用いることの技術的意義につき検討する。
これに関連する本件訂正明細書の記載としては、
「【0013】
(1) 一見、陶器と見間違うような極めて陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができる。特に、陶器調樹脂食器1を製作する場合、芸術的要素或いは民芸品的要素を付加することも重要な要素となるが、本発明方法を用いた場合、例えば、陶芸家により製作された評価の高い陶芸作品を、合成樹脂であっても忠実かつ容易に再現可能になるため、付加価値及び商品性の高い陶器調樹脂食器1を容易に得ることが可能になる。
【0014】
(2) 陶器調樹脂食器1を製造(生産)するに際し、一回の単純な成形工程で足りるため、製造工数が増加するなどの不具合は生じない。したがって、合成樹脂製食器の有する本来の長所を十分に確保できるなど、量産性及び低コスト性に優れる。」
「【0016】
(4) 陶器材料Coを用いる陶器食器1cは、陶芸作品として製作するため、本発明により得られる効果として最も望ましいパフォーマンスを得ることができる。」
「【0031】
なお、製造する陶器調樹脂食器1は図2に例示する茶碗1sである。この茶碗1sを製造するに際しては、まず、茶碗1sに対する基礎設計を行うことにより基礎データDoを得る(ステップS1)。即ち、本発明(本実施形態)に係る製造方法により製造する茶碗1sは、例えば、評判の良い陶芸家による陶芸作品と製作するとともに、この陶芸作品(茶碗1s)を量産化可能な陶器調樹脂食器1として商品化するものである。」とある。

すなわち、上記明細書の記載によれば、相違点1及び相違点2に係る本件訂正発明1は、「評判の良い陶芸家」に製作を依頼し、製作された陶芸作品(茶碗1s)を「量産化可能な陶器調樹脂食器1として商品化する」という技術的意義を有するものである。

(イ)そして、そのための手段として、本件訂正発明1は、「陶芸作品として製作した陶器食器の外観形状を、非接触により測定する三次元測定機を用いて測定処理」するものである。これは、「評判の良い陶芸家」は陶芸作品を製作することには優れているが、その優れた能力・ノウハウを工業的なデータとして直接的に表現することは一般的には困難であるところ、「評判の良い陶芸家」の能力・ノウハウを「陶芸作品」(茶碗1s)という実際の外観形状に具現化し、それを「三次元測定機を用いて測定処理」し、さらに「CADデータ」に変換することにより、工業的量産化に使用できる能力・ノウハウとするものと考えられる。

(ウ)一方、甲1発明は、「陶磁器の再現品を作製するための作製方法であって」「製作した使用型により天草陶土を用いて陶磁器を成形する」ものであるから、あくまでも既に現存している「陶磁器の再現品を作製」することを目的とするものであり、本件訂正発明1にように、「量産化可能な陶器調樹脂食器1として商品化する」ことを目的とするものとは異なる。加えて、本件訂正発明1のように、積極的に「評判の良い陶芸家」の能力・ノウハウを工業的に活用しようとするものでもない。
そして、甲1のみならず、甲2ないし甲6にも、そのような「評判の良い陶芸家」の能力・ノウハウを実際の外観形状に具現化した上でデータとして利用するという事項が記載も示唆もされていないのである。

(エ)次に、上記1(2)イにて指摘したように甲2事項は、「メラミン系樹脂を金型で成形することにより、食器表面に陶器風の模様を形成した食器の製造方法。」というものであり、上記1(3)イにて指摘したように甲3事項は、「アミノ樹脂組成物を用い、土物陶器風の民芸調地肌模様が表面に顕現した食器の製造方法。」というものであるから、甲2事項及び甲3事項は、いずれも、樹脂を成形することによって食器表面に陶器風の模様を形成した食器の製造方法、である。
しかし、上記(ウ)にて指摘したように、「陶磁器の再現品を作製」することを目的とし、量産化可能な陶器調樹脂食器として商品化することを目的とするものとは異なる甲1発明に、食器を工業的に量産するための甲2事項又は甲3事項を直ちに適用できるものとはいえない。

(オ)また、甲4には、陶磁器の作成依頼者が依頼時点で、陶磁器の厚さやサイズや寸法等の情報を指定し、これに基づいて陶磁器の作成が行われるという事項が記載されているが(上記1(4))、甲4に記載された事項は、一般的な陶磁器を作製する際の技術常識にとどまり、本件訂正発明1のように、陶芸家の能力・ノウハウを外観形状に具現化した上で、さらに3次元データとして利用することを何ら示唆するものではない。

(キ)以上を総合すると、甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項から、相違点1及び2に係る本件訂正発明の構成に到達することは、当業者といえども容易であるとすることはできない。

イ 相違点3について
(ア)上記1(6)イにて指摘したように甲6事項は「3次元CADから供給された3次元形状をデータ処理することにより、金型形状を作成すること。」というものであり、相違点3に係る本件訂正発明1の構成の一部に相当するものではある。しかしながら、甲1発明のような陶磁器の再現品は通常、金型で製造することはなく、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を前提とするものである。
そうであるならば、たとえ、甲6事項(あるいは甲5に記載の事項)が、相違点3に係る本件訂正発明1の構成の一部に相当するものであるとしても、上記アにて検討したように、相違点1に係る本件訂正発明1の構成が、甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項から容易であるとすることはできない以上、相違点3も同様に容易であるとすることはできないということになる。

ウ 小括
したがって、相違点1ないし相違点3は、いずれも甲1発明、甲2ないし甲6に記載された技術事項から、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1に係る特許は、取消理由1によって取り消すことはできない。

3 本件訂正発明2ないし4
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1を引用するものであるところ、本件訂正発明1に係る特許を取消理由1(第29条第2項)により取り消すことはできないことは、上記2にて説示したとおりである。したがって、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2ないし4に係る特許も、取消理由1によって取り消すことはできない。

4 まとめ
したがって、本件訂正発明1ないし4に係る特許は、取消理由1によって取り消すことはできない。

第5 取消理由2について
取消理由2は、請求項6に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備で特許法第36条第6項第2号の規定に違反するとの理由であるところ、本件訂正が認められたことにより、請求項6が削除された(上記訂正事項5)ため、取消理由2は解消した。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお、請求項5及び6に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項5及び6に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食器の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂材料を用いることにより少なくとも外観を陶器に似せた食器を製造するための食器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、陶器製の食器は、自然の趣などの長所がある反面、割れ易い,重い,量産化及び低廉化が難しい等の短所を有しているため、学校や病院等では、主に、合成樹脂製の食器が使用されている。しかし、合成樹脂製の食器は、自然味がなく無味乾燥な食器となる傾向があるため、子供用或いは病人やお年寄り用の食器としては、必ずしも好ましいものではない。このため、合成樹脂材料を用いることにより外観を陶器風にした食器も提案されている。
【0003】
従来、このような陶器風にした食器としては、特許文献1に開示される陶器風メラミン系樹脂製食器の製造方法により得られる食器が知られている。この食器は、濃淡の色合を有する食器であって、淡色部分を透して印刷された含浸紙の判別が可能で、絵柄を生かしつつその上に色をかけ、より陶器風の民芸調地肌模様を表面に顕現させた食器を生産性の高い製造方法で提供することを目的としたものであり、具体的には、メラミン系樹脂を一次圧縮成形した食器本体の表面に表面被覆層を二次成形する食器の製造方法であって、表面被覆材料として、円板流れが異なり、かつ色合が異なる2種以上の表面被覆材料を用い、該材料が一次圧縮成形した食器本体の表面に別個に載置した後、二次成形するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2009-213615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の陶器風メラミン系樹脂製食器の製造方法及び食器は、次のような問題点があった。
【0006】
第一に、陶器風にしたとしても食器の表面に付す模様や色を対象としたものであるため、陶器本来の外観や質感を醸し出すことはできない。特に、一見、陶器と見間違うような極めて陶器に近い外観や質感を有する陶器風食器を得ることは困難であり、陶器風の食器を得る観点からは必ずしも十分な製法とは言えない。
【0007】
第二に、陶芸作品として捉える場合、一般に、芸術的要素(美観)や民芸品的要素(味わい)を付加することも重要な要素となる。したがって、例えば、陶芸家により製作された評価の高い作品の持つ芸術的要素や民芸品的要素を付加することができれば、より付加価値を高めた陶器風の食器を得ることができるが、このような付加価値を高めた食器を得るには限界ある。
【0008】
第三に、食器を製造するに際しては、一次圧縮成形した食器本体の表面に、2種以上の表面被覆材料を載せ、二次成形するという一連の製造工程を要するため、製造工程が煩雑化する傾向があり、食器一個当たりの製造工数が増加する。結局、合成樹脂製食器の有する本来の長所を享受することができないなど、量産性及び低コスト性を実現するにも限界がある。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した食器の製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、合成樹脂材料Roを用いることにより少なくとも外観を陶器調に形成した食器(陶器調樹脂食器)1を製造するに際し、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータを含む基礎データDoに基づき、陶器材料Coを用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器1cの外観形状を、非接触により測定する三次元測定機2を用いて測定処理し、当該陶器食器1cに係わる三次元形状データDsを得る形状データ測定処理工程Saと、コンピュータ機能を有するデータ処理部3により、三次元形状データDsを三次元CADデータDcに変換処理するデータ変換処理工程Sbと、コンピュータ機能を備える三次元CADシステム4のデータ処理部5により、三次元CADデータDcから金型データDmを生成処理する金型データ生成処理工程Scと、得られた金型データDmにより製作した金型6により合成樹脂材料Roを用いて陶器調樹脂食器1を成形するとともに、成形により得られた陶器調樹脂食器1の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする食器成形処理工程Sdと、を備えてなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、三次元測定機2による測定は、非接触により測定を行うパターン投影法を用いることができる。さらに、金型6におけるキャビティ6cの内面6ciには、凹凸の粗面6cfを形成するシボ加工処理を施すことができる。一方、合成樹脂材料Roには、当該合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る食器の製造方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 一見、陶器と見間違うような極めて陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができる。特に、陶器調樹脂食器1を製作する場合、芸術的要素或いは民芸品的要素を付加することも重要な要素となるが、本発明方法を用いた場合、例えば、陶芸家により製作された評価の高い陶芸作品を、合成樹脂であっても忠実かつ容易に再現可能になるため、付加価値及び商品性の高い陶器調樹脂食器1を容易に得ることが可能になる。
【0014】
(2) 陶器調樹脂食器1を製造(生産)するに際し、一回の単純な成形工程で足りるため、製造工数が増加するなどの不具合は生じない。したがって、合成樹脂製食器の有する本来の長所を十分に確保できるなど、量産性及び低コスト性に優れる。
【0015】
(3) 基礎データDoとして、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータを含ませるようにしたため、いわば一品製作品と量産品の双方のメリットを得ることができるとともに、その調和を図ることができる。即ち、陶器調樹脂食器1の食器としての機能的部分と作品としての芸術的(民芸品的)部分の双方をバランスよく確保し、生産する陶器調樹脂食器1の最適化を図ることができる。
【0016】
(4) 陶器材料Coを用いる陶器食器1cは、陶芸作品として製作するため、本発明により得られる効果として最も望ましいパフォーマンスを得ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、三次元測定機2による測定に、非接触により測定を行うパターン投影法を用いれば、細部の緻密な形状に対しても測定可能となるため、本発明に係る陶器調樹脂食器1を製作する際に必要な金型データDm(三次元CADデータDc)を得るための的確かつ正確な三次元形状データDsを容易に得ることができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、金型6におけるキャビティ6cの内面6ciに対して、凹凸の粗面6cfを形成するシボ加工処理を行えば、表面がいわばザラついた感触となるため、陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができ、より陶器に似せることができる。
【0019】
(7) 好適な態様により、合成樹脂材料Roに、当該合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合すれば、より陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができるとともに、特に、上述した金型6のキャビティ6cに施すシボ加工処理と組合わせることにより、陶器調の外観及び質感を確保する観点から最も望ましい陶器調樹脂食器1を得ることができる。
【0020】
(8) 成形により得られた陶器調食器1の表面を無コーティングしたため、より自然の趣を醸し出すことができるとともに、他方、成形により得られた陶器調食器1の表面をコーティング処理すれば、汚れが着きにくくかつ落とし易くなるなど、合成樹脂製食器の持つ本来の実用的なメリットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】 本発明の好適実施形態に係る製造方法を用いた茶碗(陶器調樹脂食器)の製造手順を説明するためのフローチャート(工程図)、
【図2】 同製造方法により製造された茶碗(陶器調樹脂食器)の斜視図、
【図3】 同製造方法に用いる三次元測定機と三次元CADシステムの概要図、
【図4】 同製造方法に用いる金型の一例を示す概要図、
【図5】 同製造方法に用いる圧縮成形機の概要図、
【図6】 同製造方法により製造された陶器調樹脂食器及び陶器食器を対比して示す断面正面図、
【図7】 同製造方法により製造された変更実施形態に係る陶器調樹脂食器の断面正面図、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る食器の製造方法に用いることができる製造システムの構成について、図3?図5を参照して説明する。
【0024】
図3中、2は三次元測定機であり、例示の三次元測定機2は画像式三次元測定機である。この測定原理はパターン投影法を用いており、測定対象に対して非接触により測定することができる。三次元測定機2は、大別して、回転テーブルユニット21,測定ユニット22及び制御ユニット23を備える。
【0025】
回転テーブルユニット21は、上面31uに測定対象となる陶器材料Coを用いた陶器食器1cを載せる回転盤31を備えるとともに、この回転盤31を回転させる回転駆動部32を備える。測定ユニット22は、回転盤31に載せた陶器食器1cに対して縞模様(縞パターン)を投影するプロジェクタ35及び縞パターンが投影された陶器食器1cの外観形状を撮影するCCDカメラ36を備える。なお、37は支持スタンドを示す。このような三次元測定機2、即ち、非接触により測定を行うパターン投影法を用いた三次元測定機2を用いれば、細部の緻密な形状に対しても測定可能となるため、本発明に係る陶器調樹脂食器1を製作する際に必要な金型データDm(三次元CADデータDc)を得るための的確かつ正確な三次元形状データDsを容易に得れる利点がある。したがって、接触式三次元測定機では測定が難しい自由曲線を含む一品製作品、例えば、陶芸家により製作された評価の高い陶芸作品(陶器食器1c)の測定に最適となる。
【0026】
制御ユニット23はデータ処理部3及び制御部39を備える。このデータ処理部3にはCCDカメラ36により撮影した撮影映像信号が入力するとともに、データ処理部3からはプロジェクタ35に付与する投射映像信号を出力する。制御部39は回転テーブルユニット21及びデータ処理部3に接続する。制御ユニット23は全体としてコンピュータ機能を備えており、三次元測定機2全体における各種制御処理及び各種データ処理を行うことができる。特に、データ処理部3では、CCDカメラ36により撮影した撮影映像信号から高密度の点群・メッシュデータの形で陶器食器1cの表面の三次元形状データDsを得ることができる。また、データ処理部3は、所定のアプリケーションプログラム(ソフトウェア)により、三次元形状データDsを三次元CADデータDcに変換する変換処理機能を備え、この三次元CADデータDcを出力することができる。
【0027】
一方、図3中、4はコンピュータ機能を備える三次元CADシステムであり、データ処理部5を備える。このデータ処理部5におけるデータ処理機能により、三次元測定機2から付与される三次元CADデータDcに基づき金型データDmを生成処理することができ、この金型データDmを出力することができる。したがって、三次元CADシステム4は、このデータ処理機能を実現するためのアプリケーションプログラム(ソフトウェア)等を格納したメモリ装置42を備えている。
【0028】
他方、図4は、三次元CADシステム4により得られた金型データDmに基づいて製作した金型6の一例を示す。例示する金型6は、下型(固定型)6dと上型(可動型)6uを備え、陶器調樹脂食器1を象ったキャビティ6cを備える。また、図4中、51はシボ加工装置を示す。このシボ加工装置51は、金型6のキャビティ6cの内面6ciに、凹凸の粗面6cfを形成するいわゆるシボ加工を行う機能を備えたものであり、例えば、薬品により金属を溶解させる化学腐食(エッチング)処理を施す装置であってもよいし、サンドブラスト処理を行う装置であってもよい。
【0029】
さらに、図5には、陶器調樹脂食器1を成形するための圧縮成形機60の概要を示す。この圧縮成形機60は圧縮成形機本体61を備え、この圧縮成形機本体61における型締装置(不図示)に上述した金型6を取付けて使用する。なお、62は圧縮成形機本体61に付設した成形機コントローラを示す。また、この圧縮成形機60により成形を行う際には、合成樹脂材料Ro(メラミン樹脂材料等)に対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合した成形材料を使用する。この粒材Rgはいわゆるゴマ材といわれる細かな粒材Rgであり、合成樹脂材料Roにこの粒材Rgを混合させることにより、より陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができるとともに、特に、上述した金型6のキャビティ6cに施すシボ加工処理と組合わせることにより、陶器調の外観及び質感を確保する観点から最も望ましい陶器調樹脂食器1を得ることができる。
【0030】
次に、このような製造システムを用いた本実施形態に係る食器の製造方法について、各図を参照しつつ図1に示すフローチャート(製造工程図)に従って説明する。
【0031】
なお、製造する陶器調樹脂食器1は図2に例示する茶碗1sである。この茶碗1sを製造するに際しては、まず、茶碗1sに対する基礎設計を行うことにより基礎データDoを得る(ステップS1)。即ち、本発明(本実施形態)に係る製造方法により製造する茶碗1sは、例えば、評判の良い陶芸家による陶芸作品と製作するとともに、この陶芸作品(茶碗1s)を量産化可能な陶器調樹脂食器1として商品化するものである。したがって、容量等のある程度の実用的要素を付加する必要がある。具体的には、病院や学校等の食器として使用する場合、少なくとも、形状的なデザイン要素を除いた、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,食器の模様等を設定(設計)する必要があり、これらの基礎設計に基づくデータを基礎データDoとして用いる。基礎データDoに、このような、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータを含ませれば、いわば一品製作品と量産品の双方のメリットを得ることができるとともに、その調和を図ることができる。即ち、陶器調樹脂食器1の食器としての機能的部分と作品としての芸術的(民芸品的)部分の双方をバランスよく確保し、生産する陶器調樹脂食器1の最適化を図ることができる利点がある。
【0032】
そして、この基礎データDoに基づき、例えば、評判の良い陶芸家による陶芸作品としての製作を依頼する(ステップS2)。したがって、茶碗を製作する際には、全てを陶芸家の自由裁量に任せる訳ではなく、商品としての実用性が付加された陶芸作品が得られることになる。このように、陶器材料Coを用いた陶器食器1cを、陶芸作品として製作すれば、本発明により得られる効果として最も望ましいパフォーマンスを得れる利点がある。なお、このときの茶碗は、陶器材料Coを用いた通常の陶芸作品、即ち、通常の陶器食器1cとなる。
【0033】
陶器食器(茶碗)1cが得られたなら、形状データ測定処理工程Saにより、当該陶器食器1cの外観形状を、三次元測定機2を用いて測定処理し、陶器食器1cに係わる三次元形状データDsを得る。この場合、まず、図3に示すように、三次元測定機2に陶器食器1cをセットする(ステップS3)。即ち、三次元測定機2における回転盤31の上面31uの所定位置に陶器食器1cを載置する。そして、スタートスイッチをONにすれば、三次元測定機2による陶器食器1cに対する三次元形状の測定処理が開始する(ステップS4)。測定時には、回転盤31の定速回転により陶器食器1cが回転し、プロジェクタ35からは陶器食器1cに対して縞パターンが投影される。この際、陶器食器1cの外観形状がCCDカメラ36によるスキャン処理により撮影される。これにより、データ処理部3では、得られる撮影画像信号から高密度の点群・メッシュデータの形で陶器食器1cにおける表面の三次元形状データDsが得られる(ステップS5)。
【0034】
また、データ変換処理工程Sbにより、三次元形状データDsを三次元CADデータDcに変換処理する。この場合、三次元測定機2のコンピュータ機能を有するデータ処理部3を利用し、所定のアプリケーションプログラムにより三次元形状データDsを三次元CADデータDcに変換処理する(ステップS6)。
【0035】
一方、得られた三次元CADデータDcは三次元測定機2から出力し、三次元CADシステム4に付与される(ステップS7)。そして、三次元CADシステム4では、金型データ生成処理工程Scによる金型データDmの生成処理が行われる。即ち、三次元CADシステム4は、コンピュータ機能を備えるデータ処理部5により三次元CADデータDcから金型データDmを生成処理する(ステップS8)。したがって、この三次元CADシステム4には、三次元CADデータDcに基づいて金型データDmの生成するための所定のアプリケーションプログラム(ソフトウェア)が格納されている。金型データDmは、後述する金型6を製作するためのデータであり、各種部品データや加工データ等が含まれる。
【0036】
さらに、金型データDmが得られたなら、この金型データDmに基づいて金型6(図4)の製作を行う(ステップS9)。この金型6は、前述したように、下型(固定型)6dと上型(可動型)6uからなり、下型6dと上型6u間には陶器調樹脂食器1を成形するキャビティ6cを有する。この場合、金型6の基本的形態は、公知の金型製造手法により製作することができる。したがって、金型6は金型製造システム等を用いた自動システムにより製造を行ってもよいし、金型エンジニアによる手作りであってもよい。また、基本的形態の金型6のキャビティ6cの内面6ciには、シボ加工装置51により、凹凸の粗面6cfを形成するシボ加工処理を行う(ステップS10)。このようなシボ加工処理を行えば、表面がいわばザラついた感触となるため、陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができ、より陶器に似せることができる利点がある。
【0037】
次いで、食器成形処理工程Sdに移行する。食器成形処理工程Sdでは金型6を取付けた圧縮成形機60により陶器調樹脂食器1の生産を行う。この場合、生産(成形)に際しては、成形材料として、合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合した成形材料を準備する(ステップS11)。合成樹脂材料Roにはメラミン樹脂を用いるとともに、粒材Rgにはいわゆるゴマ材といわれる細かな粒材Rgを用いる。このように、合成樹脂材料Roに対して色の異なる所定量の粒材Rgを添加混合すれば、より陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができるとともに、金型6のキャビティ6cに施したシボ加工処理と組合わさることにより、陶器調の外観及び質感を確保する観点から最も望ましい陶器調樹脂食器1を得ることができる。
【0038】
そして、圧縮成形機60を運転することにより圧縮成形による生産を行う(ステップS12)。なお、圧縮成形時には、成形体の表面にコーティング層(保護コート)を設けるコーティング処理或いは模様や着色を施すいわゆる絵付処理等を一緒に行うことができる。特に、成形体の表面をコーティング処理すれば、汚れが着きにくくかつ落とし易くなるなど、合成樹脂製食器1の持つ本来の実用的なメリットを確保できる。また、多色のグレースコーティングにより釉薬風合を出すことも可能となる。勿論、表面は、コーティングすることなく無コーティング状態としてもよい。このように、成形体の表面を無コーティングにすれば、より自然の趣を醸し出すことができる。なお、絵付には、陶器調の柄フォイルを使用することが望ましい。
【0039】
成形により得られる成形体(合成樹脂製食器1)は、圧縮成形機60により量産可能なため、予定した生産数量に達するまで、同様の成形処理を繰り返して行う(ステップS12,S13)。生産数量に達したなら生産を終了し、この後、パーティング面で発生する不要部分となるバリのカッティング等の必要な仕上げ処理や外観検査等を含む必要な成形後処理を行う(ステップS14)。以上の各ステップを経ることにより、図2に示す目的の茶碗1s、即ち、本実施形態に係る陶器調樹脂食器1を得ることができる。
【0040】
よって、このような本実施形態に係る食器の製造方法によれば、陶器材料Coを用いることにより食器の基礎データDoに基いて製作された陶器食器1cの外観形状を、三次元測定機2を用いて測定処理し、陶器食器1cに係わる三次元形状データDsを得る形状データ測定処理工程Saと、コンピュータ機能を有するデータ処理部3により、三次元形状データDsを三次元CADデータDcに変換処理するデータ変換処理工程Sbと、コンピュータ機能を備える三次元CADシステム4のデータ処理部5により、三次元CADデータDcから金型データDmを生成処理する金型データ生成処理工程Scと、得られた金型データDmにより製作した金型6により合成樹脂材料Roを用いて陶器調樹脂食器1を成形する食器成形処理工程Sdとを備えてなるため、一見、陶器と見間違うような極めて陶器に近い外観及び質感を有する陶器調樹脂食器1を得ることができる。
【0041】
図6には、素材は異なるも外観上は同一となる陶器材料Coを用いた陶器食器(茶碗)1cと本実施形態に係る陶器調樹脂食器1を対比して示す。陶器調樹脂食器1を製作する場合、芸術的要素或いは民芸品的要素を付加することも重要な要素となるが、本実施形態に係る製造方法を用いれば、陶芸家により製作された評価の高い陶芸作品を、合成樹脂であっても忠実かつ容易に再現可能になる。このように、本実施形態に係る製造方法を用いれば、付加価値及び商品性の高い陶器調樹脂食器1を容易に得ることが可能になる。また、陶器調樹脂食器1を製造(生産)するに際し、一回の単純な成形工程で足りるため、製造工数が増加するなどの不具合は生じない。したがって、合成樹脂製食器の有する本来の長所を十分に確保できるなど、量産性及び低コスト性に優れる。
【0042】
ところで、従来における一般的な樹脂製食器は、肉厚が2〔mm〕程度、比重が「1」付近の為、軽量である。一方、一般的な陶器製食器の比重は、「2」付近である。本実施形態に係る陶器調樹脂食器1は、肉厚を5〔mm〕程度に選定したため、厚さが一般的な陶器製食器と同程度となる。したがって、厚さも、見た目上、陶器のような重厚感を実現している。これに対して、材料は合成樹脂材料を用いることから、重さは、陶器製食器に比べて半分程度となり、学校の児童或いは病院における病人やお年寄り等が使用する場合に最適となる。
【0043】
なお、図7には、変更実施形態に係る陶器調樹脂食器1(茶碗)を示す。この陶器調樹脂食器1は、金属粒等のオモリ71…を陶器調樹脂食器1の底部にインサート成形により埋め込み、全体の重さを陶器製食器と同程度にしたものである。したがって、この場合、外観及び質感が陶器製食器に似たものになるのみならず、手に持った感触も陶器製食器に似たものとなる。これにより、陶器調樹脂食器1には、特に、装飾品としての価値を持たせることができる。即ち、著名な陶芸家や工芸家の作品を鑑賞するための陶器調樹脂食器1としても利用できる。例示の場合、全体の重心を下げることができるため、花瓶のような不安定な作品にとっては倒れにくくなる効果もある。
【0044】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0045】
例えば、基礎データDoには、食器の種類,食器の寸法,食器の容量,食器の模様,に係わる少なくとも一以上のデータを含ませることが望ましいが、例示以外の他のデータを含めることを排除するものではない。一方、三次元測定機2による測定は、非接触により測定を行うパターン投影法を用いる場合を例示したが、他の手法により測定する場合を排除するものではない。なお、陶器とは磁器も含まれる概念であり、本明細書における陶器とは陶磁器の意味である。また、合成樹脂材料Roとしてメラミン樹脂材料を例示したが、用途に応じて他の各種合成樹脂材料を用いることができる。さらに、実施形態では、合成樹脂材料Roの成形として圧縮成形機60を用いて圧縮成形する場合を示したが、成形には、その他、射出成形機による射出成形等、各種の成形方式を利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る食器の製造方法は、合成樹脂材料を用いて外観を陶器調に形成する陶器調樹脂食器を製造する際に利用できる。この場合、食器には、一般的な食器のみならず、壷や花瓶等の食器に類似した各種形態も含まれものであり、食器の概念には広義の容器類が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1:食器(陶器調樹脂食器),1c:陶器食器,2:三次元測定機,3:データ処理部,4:三次元CADシステム,5:データ処理部,6:金型,6c:キャビティ,6ci:キャビティの内面,6cf:凹凸の粗面,Co:陶器材料,Do:食器の基礎データ,Ds:三次元形状データ,Dc:三次元CADデータ,Dm:金型データ,Sa:形状データ測定処理工程,Sb:データ変換処理工程,Sc:金型データ生成処理工程,Sd:食器成形処理工程,Ro:合成樹脂材料,Rg:粒材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料を用いることにより少なくとも外観を陶器調に形成した食器を製造するための食器の製造方法であって、前記食器の種類,前記食器の寸法,前記食器の容量,に係わる少なくとも一以上のデータを含む基礎データに基づき、陶器材料を用いることにより陶芸作品として製作した陶器食器の外観形状を、非接触により測定する三次元測定機を用いて測定処理し、当該陶器食器に係わる三次元形状データを得る形状データ測定処理工程と、コンピュータ機能を有するデータ処理部により、前記三次元形状データを三次元CADデータに変換処理するデータ変換処理工程と、コンピュータ機能を備える三次元CADシステムのデータ処理部により、前記三次元CADデータから金型データを生成処理する金型データ生成処理工程と、得られた金型データにより製作した金型により合成樹脂材料を用いて陶器調樹脂食器を成形するとともに、成形により得られた陶器調樹脂食器の表面を、無コーティング及び/又はコーティングする食器成形処理工程と、を備えてなることを特徴とする食器の製造方法。
【請求項2】
前記三次元測定機による測定は、非接触により測定を行うパターン投影法を用いることを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。
【請求項3】
前記金型は、キャビティの内面を凹凸の粗面を形成するシボ加工処理することを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。
【請求項4】
前記合成樹脂材料には、当該合成樹脂材料に対して色の異なる所定量の粒材を添加混合してなることを特徴とする請求項1記載の食器の製造方法。
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-05-12 
出願番号 特願2013-57554(P2013-57554)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A47G)
P 1 651・ 537- YAA (A47G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平田 慎二  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 長屋 陽二郎
内藤 真徳
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5704727号(P5704727)
権利者 信濃化学工業株式会社
発明の名称 食器の製造方法  
代理人 下田 茂  
代理人 下田 茂  
代理人 染谷 伸一  

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