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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06F
管理番号 1319157
異議申立番号 異議2015-700120  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-23 
確定日 2016-05-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5707523号「電気洗濯機」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 特許第5707523号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし3〕,〔4〕について訂正することを認める。 特許第5707523号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5707523号の請求項1ないし4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成21年9月30日に出願された特願2009-225863号の一部を,平成26年4月25日に特許法44条1項の規定に基づき新たに特許出願したものであって,平成27年3月6日に特許権の設定登録がされたところ,平成27年10月23日に異議申立人杉原彰により特許異議の申立てがなされ,当審において平成27年12月24日付けで取消理由を通知した。
これに対し,本件特許権者より,平成28年2月10日付けで訂正請求書(以下,これに係る訂正を「本件訂正」いう。)及び意見書が提出され,異議申立人より平成28年4月15日付けで意見書が提出された。

2 本件訂正の適否の判断
(1) 本件訂正の内容
本件訂正の請求は,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正を求めるものであって,以下の訂正事項を含むものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1及び4に,「前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と,」を追加するとともに,「前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記開閉扉を開放することができる」とあるのを,「前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる」に訂正する(下線は,訂正箇所を示す。以下同様。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記蝶番機構は,前記筺体の前面よりも低く,かつ,前記傾斜面の内側に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気洗濯機。」とあるのを,「前記蝶番機構は,前記筺体の前面よりも内部側,かつ,前記傾斜面に対して前記衣類投入口側に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気洗濯機。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許明細書の【0013】に「前記衣類投入口の周囲に設けた段差軽減部材と,を備え,前記開閉扉は,ガラスで形成される透明窓を有し,前記段差軽減部材は,凹状の切欠部を有し,前記開閉扉は,前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部を有し,前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記開閉扉を開放することができる。」とあるのを,「前記衣類投入口の周囲に設けた段差軽減部材と,前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と,を備え,前記開閉扉は,ガラスで形成される透明窓を有し,前記段差軽減部材は,凹状の切欠部を有し,前記開閉扉は,前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部を有し,前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる。」に訂正する。

(2) 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 前記訂正事項1は,請求項1及び4において「前記開閉扉をロック状態にできるロック機構」を有し,「前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる」ことを特定することにより,「指掛部」が,単に指が掛かればよいものではなく,「ハンドル162」(特許明細書【0033】)のように,ロック状態を解除する機能を有するものであることを明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 前記訂正事項2は,請求項3において「前記蝶番機構は,前記筺体の前面よりも内部側,かつ,前記傾斜面に対して前記衣類投入口側に取り付けられている」と特定することにより,「蝶番機構」が取り付けられる部位を明確にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ウ 前記訂正事項3は,前記訂正事項1に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
エ そして,本件特許明細書には,前記訂正事項1及び3に関し,開閉扉40をロック状態にできるロック機構150を備える旨(【0019】),凹状の切欠部61を介して指を挿入してハンドル162を手前に引くことにより,ロック機構150のロック状態を解除して,開閉扉40を開放することができる旨(【0033】,【0038】)の記載があり,訂正事項2に関し,蝶番機構110が,筺体11の前パネル14よりも内部側,かつ,リング状の段差軽減部材60の傾斜面に対して衣類投入口20側に形成されたリング状の凹部21に取り付けられている旨(【0041】,【0042】,【0046】,図4,5)の記載がある。
そうすると,本件訂正は,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであって,同条9項において準用する同法126条4項ないし6項の規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正することを認める。

3 特許異議の申立てについて
(1) 本件発明
本件訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
【請求項1】
筐体と,
当該筐体内の回転槽と,
該筺体の前面に設けられた該回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口と,
該衣類投入口の開閉を行う開閉扉と,
前記開閉扉を前記筺体に取り付ける蝶番機構と,
前記衣類投入口の周囲に設けた段差軽減部材と,
前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と,を備え,
前記段差軽減部材は,凹状の切欠部を有し,
前記開閉扉は,ガラスで形成される透明窓と,前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部と,を有し,
前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる
ことを特徴とする電気洗濯機。
【請求項2】
前記段差軽減部材は,前記筺体の前面と前記開閉扉の周囲とを連続させる傾斜面を有することを特徴とする請求項1に記載の電気洗濯機。
【請求項3】
前記蝶番機構は,前記筺体の前面よりも内部側,かつ,前記傾斜面に対して前記衣類投入口側に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気洗濯機。
【請求項4】
筐体と,
当該筐体内の回転槽と,
該筺体の前面に設けられた該回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口と,
該衣類投入口の開閉を行う開閉扉と,
前記衣類投入口の周囲に設けたリング部材と,
前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と,を備え,
前記開閉扉は,ガラスで形成される透明窓を有し,
前記リング部材は,凹状の切欠部を有し,
前記開閉扉は,前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部を有し,
前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる
ことを特徴とする電気洗濯機。

(2) 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し,平成27年12月24日付けで通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
すなわち,請求項1,4において,「指掛部」がいかなるものを示しているのか不明であり(請求項1を引用する請求項2及び3についても同様),請求項3において,「蝶番機構」がいずれの部位に取り付けられるのか不明であるから,本件特許は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。

(3) 判断
ア 本件訂正により,請求項1,4において,開閉扉をロック状態にできるロック機構を備えること,「指掛部」が,当該ロック機構のロック状態を解除する機能を有するものであることことが明らかになり,本件発明が,「前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより,前記ロック機構のロック状態を解除して,前記開閉扉を開放することができる」ものであることが明確となった。
イ 本件訂正により,請求項3において,「蝶番機構」が取り付けられる部位が,「前記筺体の前面よりも内部側,かつ,前記傾斜面に対して前記衣類投入口側」であることが明確となった。
ウ よって,本件訂正により前記取消理由は解消された。
そして,請求項1ないし4においてそのほかに不明瞭な記載はなく,本件発明は明確である。

(4) むすび
以上のとおりであるから,前記取消理由によっては,本件特許(請求項1ないし請求項4に係る特許)を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電気洗濯機
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体内に回転軸をほぼ水平位置に配置した円筒形状の回転槽を備えたドラム式電気洗濯機に係り、特に、筐体前面に前記回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口を備えた乾燥機能を備えたドラム式の電気洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のドラム式と呼ばれる電気洗濯機は、筐体内に回転軸をほぼ水平位置に配置した円筒形状の回転槽を備え、この回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口を筺体の前面に設けているものが一般的である。この従来の概略構造を図6に示す。ここで、図6は従来のドラム洗濯機の横断面図である。
【0003】
図6において、従来のドラム式電気洗濯機300は、箱型の筺体310内に洗濯槽311を備え、この洗濯槽311に衣類を投入する衣類投入口320を筺体前面に設けている。洗濯槽311は、筺体310に支持される外槽312と、この外槽312内に駆動モータ313で回転可能に取り付けられる回転槽314とから構成される。駆動モータ313の回転軸315は略水平に外槽312の裏面側に取り付けられている。回転槽314は、円筒形状に形成され、その軸心を横姿勢とするように回転軸315に取り付けられる。回転槽314と外槽312の前面は円形に開口され、この開口部316に、筺体前面に設けられる衣類投入口320を介して開閉扉330が取り付けられる。外槽312の開口部316と衣類投入口320は、その周囲に取り付けられる柔軟性部材のベローズ317により水漏れなく連結されている。
【0004】
開閉蓋330は、開口部316に嵌り込むように内側に突出して形成される耐熱ガラスなどで形成される透明窓331と、これを支える円形または四角形状に形成される扉体332とを含んで構成される。この扉体332は、透明窓331を保持するために厚みdのある形状を備え、通常、左側に設けた蝶番機構340を介して左開きに開放することができる。
【0005】
さて、これら従来のドラム式洗濯機の蝶番機構340には、図6の(a)図と(b)図に示す2種類の構造がある。(a)図の構造は、フラットな筺体前面に厚みdのある蓋体332をそのまま取り付けた構造である。この構造によれば、蝶番機構340の回転軸Pを筺体310の前方に設けやすいので、回転軸Pを中心に開閉蓋330を大きく開放する構造が容易である。しかし、厚みdのある蓋体332が筺体310の前面にそのまま張り出すことになるので、設置性やデザイン面で大きな課題となっている。
【0006】
また、(b)図の従来構造は、衣類投入口320の周囲を凹状に形成し、この凹部に蓋体332を埋め込む構造である。この構造によれば、設置性やデザイン面で大きな改善が図れるものの、開閉蓋330を大きく開放するために、円弧状の弧状アーム341を備えた蝶番機構340を採用しなければならず、蝶番機構340の大型化や強度が課題となっている。
【0007】
一方、前記したように従来の開閉蓋330は、左開きが標準仕様となっているものの、一般家庭では、設置場所の制約などのために、左開きの開閉扉330の仕様では対応できない場合がある。そのような場合の対応として、製造過程での提案が幾つか出されている。
【0008】
例えば、図6(b)図の構造において、蝶番機構340を図示しない前枠補強板に左側または右側に配置可能とし、他の開閉蓋330や外装体などを左右対称とすることで、部品共有を図る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-95530号公報
【特許文献2】特開2007-195859号公報
【特許文献3】特開2004-105268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記図6(a)図の構造によれば、簡単な構造で、開閉扉330を大きく開放でき、また、蝶番機構340の配置を変更すれば左右開きの対応も比較的容易に行うことができる。しかし、この構造によれば、開閉扉330を筺体310の前面に大きく張り出して設けなければならないから、設置性やデザイン面での大きな課題が残る。特に、扉体332は、重量のある透明窓331を強固に保持しなければならないから、その厚みdも大きくなり、筺体310の前面から大きく張り出すことになるので、デザイン面での大きな制約となる。
【0011】
また、図6(b)図の構造によれば、扉体332を筺体310内に収めることができるので、設置性やデザイン面では良好になるものの、円弧状の弧状アーム341を備えた蝶番機構340を採用しなければならないので、蝶番機構340の大型化や強度が課題となっている。しかも、このような構造において、左右開きに対応するためには、大型化の蝶番機構340の配置スペースを筺体310内の左右に設けなければならないから、装置全体の大型化を招くことになる。
【0012】
そこで、この発明の目的は、突出感を軽減することができる洗濯機を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、この発明に係る電気洗濯機では、筐体と、当該筐体内の回転槽と、該筺体の前面に設けられた該回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口と、該衣類投入口の開閉を行う開閉扉と、前記開閉扉を前記筺体に取り付ける蝶番機構と、前記衣類投入口の周囲に設けた段差軽減部材と、前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と、
を備え、前記開閉扉は、ガラスで形成される透明窓を有し、前記段差軽減部材は、凹状の切欠部を有し、前記開閉扉は、前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部を有し、前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより、前記ロック機構のロック状態を解除して、前記開閉扉を開放することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前方に突出する開閉扉を筺体の前面に馴染ませて、その突出感を軽減するとともに、開閉扉の一方に手を掛けて、この開閉扉を開放することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る電気洗濯機の概略構造図である。
【図2】この発明に係る電気洗濯機の外観図である。
【図3】この発明に係る電気洗濯機の段差軽減部材の外観図である。
【図4】この発明に係る電気洗濯機の蝶番軸部の近傍の部分断面図である。
【図5】この発明に係る電気洗濯機の開閉扉の動作状態を示す部分断面図である。
【図6】従来の電気洗濯機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1から図5を参照して、この発明に係る電気洗濯機を具体的に説明する。なお、説明において、同一部位や矢印などは同一符号をもって示し、重複した説明を省略する。
【0017】
先ず、図1を参照して、この実施例に係る電気洗濯機の概略構造を説明する。ここで、図1は、この発明に係る電気洗濯機の概略構造図である。
【0018】
図1において、符号1で総括的に示す電気洗濯機は、箱型の筺体10内に図示しない円筒形の洗濯槽を横姿勢で配置したドラム式の電気洗濯機である。この実施例では、筺体10を、箱型の筺体10の骨格を構成するベース筺体11と、この筺体11の前面を覆うフロントカバー12と、筺体11の上面を覆う天板13とを含んで構成している。フロントカバー12は、鋼板をプレス加工で形成した前パネル14と、前パネル部材14の上部に設けられる樹脂材料で形成される操作パネル部材15とで構成し、これらの部材は図示しないネジなどを介してベース筺体11に取り付けられる。
【0019】
前パネル14には、円形に開口される衣類投入口20が形成され、この衣類投入口20を覆うように円形の開閉扉40が蝶番機構100と開閉ロック機構150を介して開閉可能に取り付けられる。即ち、開閉扉40は、筺体10に対して、左側の端部に設けられる蝶番機構100により左開きで開閉可能に取り付けられ、右側の端部に設けられる開閉ロック機構150により衣類投入口20の閉鎖状態がロックされる。
【0020】
ここで、蝶番機構100は、筺体10側に設けられる蝶番軸部110と、開閉扉40側に設けられて蝶番軸部110を保持する蝶番保持部130(図5)とで構成される。また、同様に、開閉ロック機構150は、開閉扉40側に設けられるレバー機構部160と、筺体10側に設けられてレバー機構部160をロック状態とするレバー嵌合受部180とから構成している。
【0021】
また、開閉蓋40は、樹脂材料で形成されるリング状の前枠41と、この前枠41の裏面を覆うように取り付けられる樹脂材料で形成されるリング状の後枠42と、この後枠42と前枠41との間で保持される耐熱ガラスで形成される透明窓43とで、その骨格が構成される。透明窓43は、衣類投入口20内に嵌り込むように、内側に大きく張り出して形成されている。
【0022】
図1の左下吹出し内に示すように、この実施例では、前パネル部材14の他の面より一段落ち込んで形成されるリング状の凹部21を衣類投入口20の周囲に形成し、この凹部21に蝶番機構100の蝶番軸部110と、開閉ロック機構150のレバー嵌合受部180を、左右の対向する位置に設けている。凹部21に設けられる蝶番軸部110は、一対の回転軸部111を前方に張り出して保持する一対の突起アーム112を備え、この一対の突起アーム112の先端に設けられる一対の回転軸部111が、開閉扉40の端部に設けた蝶番保持部130(図5)に回転可能に保持される。一方、凹部21に設けられるレバー嵌合受部180は、嵌合穴部181を備えており、この嵌合穴部181に、レバー機構部160を構成する可動レバー161が挿入されて嵌合することで、開閉扉40をロック状態にすることができる。
【0023】
そして、この実施例に係る電気洗濯機1の大きな特徴の1つは、左右の対向する位置に一対の切欠部61が形成されるリング状の段差軽減部材60を衣類投入口20の周囲に設けた点にある。
【0024】
即ち、この実施例で採用する蝶番機構100は、一対の回転軸部111を突起アーム112を介して前パネル部材14から前方に突出させることにより、この一対の回転軸部111に取り付けられる開閉扉40を大きく開放することができる。しかも、一対の回転軸部111を突起アーム112で保持する簡単な構造であるため、強度も得られ、かつ、回転軸部111を保持する蝶番保持部130も簡単な構造とすることできる。しかし、開閉扉40を大きく、例えば、180度開放するためには、一対の回転軸部111を大きく前方に突出する必要がある。つまり、開閉扉40を前パネル部材14から前方に大きく張り出させなければならない。このため、前パネル部材14から大きく張り出した開閉扉40がデザイン性を悪くしたり、あるいは、張り出した開閉扉40の端部に物をぶつけてしまうなどの課題がある。特に、この種のドラム式の電気洗濯機は、システムキッチンのカウンター内にビルトインされるケースが多いことから、整然としたシステムキンチンに突出形状の開閉扉40が馴染まないという課題がある。
【0025】
そこで、この発明者らは、この課題を解決するために、突出形状の開閉扉40の周囲にリング状の段差軽減部材60を設け、フラットな前パネル部材14と、この前パネル部材14から突出する開閉扉40とで生じる段差を段差軽減部材60で緩やかに連続させる構造を採用した。これにより、図1の右下吹出し内に示すように、突出形状の開閉扉40を緩やかに隆起する形状とすることができるので、前記課題を軽減させることができる。また、開閉扉40の周りをリング状の段差軽減部材60で囲むことにより、開閉扉40を視覚的に大きく見せることができるので、衣類投入口20の大きさを利用者に印象つけて、利用者の使用感を向上させることができる。また、このリング状の段差軽減部材60に多様な色彩を施すことにより、デザイン性を向上させることができる。
【0026】
しかし、突出形状の開閉扉40の周囲をリング状の段差軽減部材60で囲むと、開閉扉40を大きく開放することができない課題が生じる。そこで、この発明者らは、蝶番軸部110に隣接する段差軽減部材60に切欠部61を形成することにより、開閉扉40の動作範囲を確保した。
【0027】
また、この発明者らは、開閉扉40の手動開閉を考慮して、開閉ロック機構150に隣接する段差軽減部材60に切欠部61を形成することにより、開閉扉40を手動で開放するための利用者の手を挿入する動作範囲を確保した。
【0028】
そして、開閉扉40の動作範囲と、利用者の手を挿入する動作範囲をそれぞれ確保する切欠部61を左右対称に形成することにより、デザイン性に優れた形態とすることができる。
【0029】
また、この実施例に係る電気洗濯機1の大きな特徴の他の1つは、一対の切欠部61を左右対称に形成した段差軽減部材60を採用することにより、開閉扉40を左開き、右開きに対応させやすくすることができる点にある。
【0030】
この実施例では、凹部21の対向する位置に蝶番軸部110とレバー嵌合受部180を取り付ける構造としているので、前パネル部材14のプレス成型の金型を、蝶番軸部110とレバー嵌合受部180の対応する部分を駒換え可能とするなどの既存の簡単な構造とすることで、蝶番軸部110とレバー嵌合受部180の左右位置を変更することができる。そして、開閉扉40を左右反転させて取り付けることで、開閉扉40を左開き、右開きにも対応させることができる。
【0031】
以下、図1と図2から図5を参照して、この実施例に係る電気洗濯機を更に詳細に説明する。ここで、図2は、電気洗濯機の外観図であり、(a)図が開閉扉を閉めた状態の斜視図、(b)図が開閉扉を開いた状態の斜視図、(c)図が開閉扉を右開きに変更した状態の斜視図である。図3は、段差軽減部材の外観図であり、(a)図が平面図、(b)図が正面図、(c)図が右側面図、(d)図が背面図、(e)図が背面から見た斜視図である。図4は、蝶番軸部の近傍の部分断面図である。図5は、開閉扉の動作状態を示す部分断面図であり、(a)図が閉鎖状態、(b)図が開放状態を示している。
【0032】
先ず、図2において、電気洗濯機1の外観図を説明する。(a)図に示すように、この実施例によれば、突出する開閉扉40の周囲は傾斜面で連続する段差軽減部材60によって平坦な前パネル部材14に連続するので、突出する開閉扉40は緩やかな隆起形状として平坦な前パネル部材14に馴染んで、その突出形状を利用者に認識でき難くすることができる。
【0033】
しかも、段差軽減部材60の左右部分は、切欠部61を形成することにより、この右側の切欠部61を介して片手を挿入して開閉扉40に形成されるハンドル162を引っ掛けて手前に引くことにより、開閉ロック機構150のロック状態を解除して、開閉扉40を開放することができる。そして、開放された開閉扉40は、左側の切欠部61によって動作範囲が確保されるから、(b)図に示すように、開閉扉40を大きく解放することができる。
【0034】
また、この実施例では、前パネル部材14のプレス加工において、金型の蝶番軸部110と蝶番保持部130の部分を駒換えして成型することにより、開閉扉40を反転させて付け替えるだけで、(c)図のように、右開きの開閉扉40の構造に変更することができる。
【0035】
次に、図1と図2において、この実施例で採用する開閉ロック機構150は公知の技術を用いて形成される。ここでは、本発明の特徴に深く関係しないので、概略構造のみ説明する。
【0036】
開閉ロック機構150は、開閉扉40に設けられるレバー機構部160と、凹部21に設けられるレバー嵌合受部180とから構成される。レバー機構部160は、切欠部61に対応する開閉扉40の前部に設けられるハンドル162と、開閉蓋40の内面から先端部を突出して設けられる可動レバー161と、ハンドル162の動作を可動レバー161の内外周方向の動作に変換する図示しない変換機構とを含んで構成される。露出する可動レバー161の先端部は鍵形に形成されており、ハンドル162を手前に引くことにより、その動きが変換機構により、鍵形の可動レバー161の先端を開放する方向に変換関される。
【0037】
一方、レバー嵌合受部180は、嵌合穴部181を備えている。この嵌合穴部181は、その入り口がすり鉢状に形成されており、開閉扉40を閉める動作で、ロック状態の姿勢にある可動レバー161の先端部が挿入されると、それを一端、開放状態に動作させて、更に先端部が挿入されると、開閉ロック機構150に設けた図示しないバネの作用により、可動レバー161を元のロック状態の姿勢にする。
【0038】
このように、この実施例では、開閉扉40を開放する時は、切欠部61を介して、ハンドル162に指を挿入して、このハンドル162を手前に引くことにより開放することができ、開閉扉40を閉める時は、ハンドル162に手を掛けることなく、そのまま開閉扉40を閉めれば、可動レバー161の鍵形の先端部が嵌合穴部181に嵌合されてロック状態とすることができる。
【0039】
次に、図3に段差軽減部材60の外観図を示す。この実施例に係る段差軽減部材60は、樹脂材料で形成されるリング状の外観形状を備え、その前面は外側から内側に立ち上がった緩やかに湾曲した傾斜面で形成される。一方、背面側の形状は、内側の縁部63が後方に張り出した形状を備えている。これは、衣類投入口20の周囲に形成される凹部21に、この内側の縁部63を嵌り込ませて位置あわせができるようにしたものである。また、背面側には、左右対称に複数のネジ止め部62が形成され、これにより、前パネル部材14にネジ止めして固定する。
【0040】
次に、図4を参照して、蝶番軸部110の周囲の構造について説明する。先ず、図4において、この実施例に係る電気洗濯機1は、筺体10の内部に、洗濯槽2を備え、この洗濯槽2に衣類を投入する衣類投入口20を筺体10の前面に設けている。洗濯槽2は、筺体10に支持される外槽3と、この外槽3内に図示しない駆動モータで回転可能に取り付けられる内槽4とから構成される。駆動モータの回転軸は略水平に外槽3の裏面側に取り付けられている。内槽4は、円筒形状に形成され、その軸心を横姿勢とするように前記回転軸に取り付けられている。内槽4と外槽3の前面は円形に開口され、この開口部5に、筺体10の前面に設けられる衣類投入口20を介して開閉扉40の透明窓43が挿入される。外槽4の開口部5と衣類投入口20は、その周囲に取り付けられる柔軟性部材のベローズ6により水漏れなく連結されている。
【0041】
前記したように、前パネル部材14に形成される衣類投入口20の周囲は、他の前パネル部材14の前面より一段低くなるように形成されるリング状の凹部21が形成される。段差軽減部材60は、内側の縁部63が凹部21に接し、外側が凹部21の外側の面と接するように、前記したネジ止め部62を介して前パネル部材14に取り付けられる。
【0042】
一方、蝶番軸部110は、凹部21に対して図示しないネジを介して取り付けられるベース部材113と、このベース部材113に設けられる一対の突起アーム112と、一対のアーム部112の先端部に設けられる回転軸部111とから構成される。一対の回転軸部111は、外側に向くように、突出する突起アーム112に取り付けられている。そして、この外側に向いて取り付けられる回転軸部111を回転可能に支持する図示しない軸受部を介して開閉扉40が取り付けられている。
【0043】
次に、図5を参照して開閉扉40の構造と、蝶番機構100による開閉扉40の開放動作を更に説明する。
【0044】
先ず、図5において、前記したように、開閉扉40は、この開閉扉40の前部を構成する前枠41と、開閉扉40の裏面部を構成する後枠42と、前枠41と後枠42の間に保持される透明窓43とから構成される。前枠41と後枠42は内側に図示しない取付リブを備えており、透明窓43を前枠41に保持させて、後枠42をネジ止めすることで透明窓43を前枠41と後枠42の間に確り保持させている。
【0045】
次に、この実施例に係る蝶番機構100によれば、回転軸部111を突起アーム112を介して前パネル部材14の前方(図面下部)に位置させることができるので、この回転軸部111を保持する蝶番保持部130を備えた開閉扉40を、(a)図の閉めた状態から、(b)図の180度開いた状態に開放することができる。この開閉扉40の開放動作に対して、本来なら邪魔をする段差軽減部材60は、開閉扉40の動作範囲の部分が切欠部61によって開放されているので、開閉扉40を大きく開放することができる。
【0046】
ここで、この実施例では、蝶番軸部110を衣類投入口20の周囲に形成した一般低い凹部21に取り付けることにより、開閉扉40の回転軸部111側の端部44が凹部21に当たって開放の障害にならないようにしている。これにより、開閉扉40全体の張り出し量を軽減している。加えて、開閉扉40の前部から段差軽減部材60の前面を緩やかに連続する弧状の傾斜面とすることにより、端部44が凹部21に当たるのを軽減するとともに、開閉扉40全体の張り出し量を軽減している。
【0047】
このように、この実施例に係る電気洗濯機は、筺体内に回転軸をほぼ水平にする回転槽を備え、この回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口を前記筺体の前面に備えたドラム式の電気洗濯機であって、前記衣類投入口の片側に蝶番機構部、他の片側にロック機構部を備えて開放可能に設けられる開閉扉と、この開閉扉の周囲を囲む段差軽減部材とを備え、前記蝶番機構部は、その回転軸を前記筺体の前面より前方に位置させ、前記段差軽減部材は、開閉扉の前面部と前記筺体の前面部を連続させる傾斜面を備えるとともに、前記蝶番機構部と前記ロック機構部に対応する両側に凹状の切欠部を備え構成される。これにより、前方に突出する開閉扉を筺体の前面に馴染ませて、その突出感を軽減するとともに、開閉扉の一方に手を掛けて、この開閉扉を大きく開放することができる。
【0048】
この場合、前記段差軽減部材を左右対称の形状とすることにより、開閉扉を左開きと右開きに変更することを容易に行い易くすることができる。また、前記開閉扉を円形の外観を備え、この開閉扉を囲む段差軽減部材をリング形状とすることができる。
【0049】
更に、前記衣類投入口の周囲に、他の筺体面より奥まった凹部を形成し、前記開閉扉を前記凹部に対応する大きさとするとともに、前記蝶番機構部と前記ロック機構部を前記凹部内に設けることにより、開閉扉の全体の突出する大きさを軽減することができる。
【符号の説明】
【0050】1…電気洗濯機、2…洗濯槽、3…外槽、4…内槽、5…開口部、6…ベローズ、10…筺体、11…ベース筺体、12…フロントカバー、13…天板、14…前パネル部材、15…操作パネル部材、20…衣類投入口、21…凹部、40…開閉扉、41…前枠、42…後枠、43…透明窓、44…端部、60…段差軽減部材、61…切欠部、62…ネジ止め部、63…内側の縁部、100…蝶番機構、110…蝶番軸部、111…回転軸部、112…突起アーム、113…ベース部材、130…蝶番保持部、150…開閉ロック機構、160…レバー機構部、161…可動レバー、162…ハンドル、180…レバー嵌合受部、181…嵌合穴部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
当該筐体内の回転槽と、
該筺体の前面に設けられた該回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口と、
該衣類投入口の開閉を行う開閉扉と、
前記開閉扉を前記筺体に取り付ける蝶番機構と、
前記衣類投入口の周囲に設けた段差軽減部材と、
前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と、を備え、
前記段差軽減部材は、凹状の切欠部を有し、
前記開閉扉は、ガラスで形成される透明窓と、前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部と、を有し、
前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより、前記ロック機構のロック状態を解除して、前記開閉扉を開放することができる
ことを特徴とする電気洗濯機。
【請求項2】
前記段差軽減部材は、前記筺体の前面と前記開閉扉の周囲とを連続させる傾斜面を有することを特徴とする請求項1に記載の電気洗濯機。
【請求項3】
前記蝶番機構は、前記筺体の前面よりも内部側、かつ、前記傾斜面に対して前記衣類投入口側に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の電気洗濯機。
【請求項4】
筐体と、
当該筐体内の回転槽と、
該筺体の前面に設けられた該回転槽に衣類を出し入れする衣類投入口と、
該衣類投入口の開閉を行う開閉扉と、
前記衣類投入口の周囲に設けたリング部材と、
前記開閉扉をロック状態にできるロック機構と、を備え、
前記開閉扉は、ガラスで形成される透明窓を有し、
前記リング部材は、凹状の切欠部を有し、
前記開閉扉は、前記凹状の切欠部に対応する位置に設けられた指掛部を有し、
前記凹状の切欠部を介して指を挿入して前記指掛部を手前に引くことにより、前記ロック機構のロック状態を解除して、前記開閉扉を開放することができる
ことを特徴とする電気洗濯機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-05-19 
出願番号 特願2014-90857(P2014-90857)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 千壽 哲郎
窪田 治彦
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5707523号(P5707523)
権利者 日立アプライアンス株式会社
発明の名称 電気洗濯機  
代理人 井上 学  
代理人 戸田 裕二  
代理人 戸田 裕二  
代理人 井上 学  

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