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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C25D
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C25D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25D
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C25D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1319184
異議申立番号 異議2015-700058  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-06 
確定日 2016-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5696811号発明「コネクタ用めっき端子および端子対」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5696811号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項〔1?14〕のとおり訂正することを認める。 特許第5696811号の請求項3ないし14に係る特許を維持する。 特許第5696811号の請求項1及び2に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5696811号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本件出願」という。)は、2013年5月9日(優先権主張平成24年5月11日、日本国、平成25年3月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年2月20日に設定登録(特許掲載公報発行:同年4月8日)がされた。
以後の本件に係る手続の概要は、以下のとおりである。
平成27年10月 6日 特許異議申立
平成28年 1月18日 取消理由通知
同年 3月18日 訂正請求
同年 3月18日 意見書(特許権者)
同年 5月 6日 意見書(申立人)
同年 6月 1日 上申書(特許権者)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用めっき端子。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「銅又は銅合金よりなる母材の上に、スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金を含む合金含有層が形成されており、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量は、20原子%未満であり、前記合金含有層は、スズとパラジウムの合金よりなる第一金属相のドメイン構造が、純スズスは前記第一金属相よりもパラジウムに対するスズの割合が高い合金よりなる第二金属相の中に形成されたものであり、前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とするコネクタ用めっき端子。」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用めっき端子。」と記載されているのを、上記訂正事項3により訂正したうえで、さらに「前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とするコネクタ用めっき端子。」を「前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とするコネクタ用めっき端子。ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1、2の削除に伴い、請求項1 、2の記載を引用する請求項4において「請求項1?3のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3に記載のコネク夕用めっき端子」と訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項5において「請求項1?4のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3又は4に記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項6において「請求項1?5のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3?5のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項7において「請求項1?6のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3?6のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項8において「請求項1?7のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3?7のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項9において「請求項1?8のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3?8のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

同様に、請求項1、2の記載を引用する請求項12において「請求項1?11のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」と記載されているのを、「請求項3?11のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子」に訂正する。

2 訂正要件について
(1)訂正の目的
訂正事項1及び2は、請求項1及び2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1の記載を引用しない記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

訂正事項4は、合金含有層におけるパラジウムの含有量につき、訂正前に「20原子%未満」であったものを「ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く。」とすることにより、訂正後の請求項3に係る発明の合金含有層におけるパラジウムの含有量を、より狭い領域に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項5は、訂正事項1及び2による請求項1及び2の削除に対応して、訂正前の請求項4?9、12において訂正前の請求項1及び2を引用している記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項
訂正事項1及び2は、請求項1及び2を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。

訂正事項3は、請求項の記載を他の請求項の記載を引用しない記載に訂正するものであって、何ら実質的な内容の変更を伴わないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。

訂正事項4は、請求項3に係る発明の合金含有層におけるパラジウムの含有量につき、平成28年1月18日付けの取消理由で示された刊行物1発明との重なりのみを除くものであって、本件特許明細書又は図面から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるとはいえない。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。

訂正事項5は、訂正前の請求項4?9、12において訂正前の請求項1及び2を引用している記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。

(3)拡張・変更の存否
訂正事項1及び2は、請求項1及び2を削除するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。

訂正事項3は、請求項の記載を他の請求項の記載を引用しない記載に訂正するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。

訂正事項4は、合金含有層におけるパラジウムの含有量につき、訂正前の「20原子%未満」という数値範囲に対して、「ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く。」という制限を付すものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。

訂正事項5は、訂正前の請求項4?9、12において訂正前の請求項1及び2を引用している記載を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。

(4)一群の請求項
訂正事項1?5は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び同条第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項3ないし14に係る発明(以下「本件訂正発明3」ないし「本件訂正発明14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項3ないし14に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項3】
銅又は銅合金よりなる母材の上に、スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金を含む合金含有層が形成されており、
前記合金含有層におけるパラジウムの含有量は、20原子%未満であり、
前記合金含有層は、スズとパラジウムの合金よりなる第一金属相のドメイン構造が、純スズ又は前記第一金属相よりもパラジウムに対するスズの割合が高い合金よりなる第二金属相の中に形成されたものであり、
前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とするコネクタ用めっき端子。
ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く。
【請求項4】
前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は80%以下であることを特徴とする請求項3に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項5】
表面の光沢度が10?300%の範囲にあることを特徴とする請求項3又は4に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項6】
前記合金含有層の厚さが0.8μm以上であることを特徴とする請求項3?5のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項7】
前記合金含有層の表面を相互に摩擦させた時の動摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする請求項3?6のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項8】
前記合金含有層のビッカース硬度が100以上であることを特徴とする請求項3?7のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項9】
他の導電部材と電気的に接触する接点部の表面に、前記接点部を横切る直線のうち最長の直線よりも短い径を有する前記第一金属相のドメインが露出されていることを特徴とする請求項3?8のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項10】
前記接点部は、エンボスとして形成されていることを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項11】
前記エンボスの半径が3mm以上であることを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項12】
雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、
前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子の少なくとも一方が請求項3?11のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子よりなることを特徴とする端子対。
【請求項13】
前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが相互に接触する接点部に印加される接触荷重が、2N以上であることを特徴とする請求項12に記載の端子対。
【請求項14】
前記接触荷重は、5N以上であることを特徴とする請求項13に記載の端子対。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし14に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」という。)についての特許に対して平成28年1月18日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許発明1ないし9は、刊行物1発明と同一であるか、又は刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1ないし9に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明10、11、13及び14は、刊行物1発明に基いて、又は刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明10、11、13及び14は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項10、11、13及び14に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)本件特許発明12は、刊行物1発明と同一であるか、又は刊行物1発明及び上記周知技術に基いて、或いは刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明12は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項12に係る特許は、取り消されるべきものである。

刊行物1:国際公開第2011/001737号
刊行物2:「電子情報技術産業協会規格JEITA RC-5241電子 機器用コネクタのウィスカ試験方法」(社団法人電子情報技術 産業協会、2007年12月発行)

3 刊行物
(1)刊行物1
本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1には、「電気部品の製造方法及び電気部品」に関して、図面(特に、図2及び図5(a)参照)とともに、次の事項が記載されている。

ア 「[0031]・・・ここで、拡散層は、スズとパラジウムの金属間化合物からなる層でもよく、スズとパラジウムの固溶体からなる層でもよく、またこれらの両方を含む層であってもよい。・・・」

イ 「[0036] 図2は、上記製造方法により得られる本発明の電気部品の第2の態様の部分断面図である。図2に示す本発明の電気部品20は、基材11と、この基材上に形成された表面層24を有している。本実施形態において、上記表面層24は、スズ又はパラジウム以外の金属を含有するスズ合金からなる相25(以下、「スズ相」と表記することもある)と、スズとパラジウムを含有する合金相26(以下、「スズ-パラジウム合金相」と表記することもある)とを有する。また、本発明の電気部品20は、表面メッキ層24の下層に、中間層13及び/又は下地層12を有していてもよい。
[0037] 表面層24におけるスズ相25は、本発明の製造方法において用いられる表面メッキ層と同様の材料からなるものである。また、スズ-パラジウム合金相26は、主としてスズとパラジウムの2元合金からなる相を示す。本発明におけるスズ-パラジウム合金相26は、該2元合金のみからなる相であってもよいし、1種又は2種以上の他の元素を更に含む3元以上の合金であってもよい。このとき、スズ-パラジウム合金相26に含有される他の金属元素は特に限定されないが、通常は、表面メッキ層に含有されるスズ以外の金属元素、基材を構成する金属元素、下地層12を構成する金属元素、及び中間層13を構成するパラジウム以外の金属元素から選ばれる。」

ウ 「[0040] 本発明における表面層24は、スズ相25中にスズ-パラジウム合金相26が分散してなるものであることが好ましい。すなわち、表面層24が、スズ相25を海とし、スズ-パラジウム合金相26を島とする海島構造を有していることが好ましい。スズ-パラジウム合金相26がスズ相25中に分散して存在することにより、スズの結晶粒界におけるエネルギー勾配をより緩和させることができるため、ウィスカの発生をより効果的に抑制できると考えられる。このような本発明特有の効果は、中間層の金属としてパラジウム又はパラジウム合金を採用することにより得られるものである。例えば、銀を中間層に用いた場合、銀はスズメッキ層内で拡散し、スズの結晶粒界にのみ点在すると考えられている。このため、スズの結晶粒界におけるエネルギー勾配を充分に緩和させることができず、長期の使用においてウィスカが発生することがあった。また、電気部品の性能にばらつきが生じることもあった。」

エ 「[0042] 上記海島構造を有する表面層24を得るための加熱処理の条件は、製造される電子部品の種類、並びに中間メッキ層及び表面メッキ層の材料や厚さによって適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば厚さ0.05μmのパラジウム中間メッキ層上に厚さ3μmのスズ表面メッキ層を形成してなるコネクタ用コンタクトの場合、232℃以上400℃以下で1?120秒リフロー処理することにより、図2に示すような海島構造を有する表面層24を得ることができる。
[0043] また、本第2態様の電気部品20は、中間層13を有していてもよい。本発明の製造方法において基材上に形成される中間メッキ層は、パラジウム原子が表面メッキ層に拡散するため、加熱処理や時間の経過に伴い通常は消失するが、中間メッキ層のメッキ厚が大きい場合などには残留していてもよい。また、表面メッキ層形成後の加熱処理条件や製造後の経過時間によっては、この中間層13が上述したような拡散層として存在する場合もある。本発明の電気部品が中間層13を有する場合、その厚さは通常2μm以下である。」

オ 「[0048] 以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
〈実施例1〉
基材として、コネクタ用コンタクトとなるべき部分が接続部分を介して多数連結されてなるリン青銅製のテープを用いた。このリン青銅製テープの脱脂及び酸洗浄を行った後に、銅ストライクメッキ(メッキ厚0.1μm)を施し、この上にニッケルメッキ(メッキ厚2.0μm)を施して合計厚さ約2μmの下地メッキ層を得、該下地メッキ層上にパラジウムメッキを施して厚さ0.05μmの中間メッキ層を得た。得られた中間メッキ層上に厚さ3μmのスズメッキを施すことにより、厚さ約3μmの表面メッキ層を得た。
なお、これらの各メッキ工程はフープメッキにより行い、パラジウムメッキ液としてエヌ・イーケムキャット(株)製のPD-LF-800を、スズメッキ液としてユケン工業(株)製のSBS-Mを用いた。このようにして、本発明の電気部品としてのコネクタ用コンタクトを多数連結された状態で有するテープ1を得た。即ち、テープ1は、基材上にニッケル下地層、パラジウム中間層及びスズ表面層をこの順に積層して有している。」

カ 「[0051] 〈実施例3〉
実施例1において得られたテープ1を簡易リフロー炉に導入し、テープ3を得た。得られたテープ3について、実施例1と同様の方法により断面観察を行った。観察部位の断面の顕微鏡写真を図5(a)に示す。図5(a)において、51はニッケル下地層を、52は中間層としてのスズ-パラジウム拡散層を、53は表面層を、それぞれ示す。また、表面層53中において、54はスズ相であり、55はスズ-パラジウム合金相である。更に、テープ3の表面をX線回折装置に観察した。得られたX線回折パターンを図5(b)に示す。これより、PdSn4に相当するピークの存在が確認された。」

キ 図5(a)には、上記(2)の「本発明における表面層24は、スズ相25中にスズ-パラジウム合金相26が分散してなるものであることが好ましい。すなわち、表面層24が、スズ相25を海とし、スズ-パラジウム合金相26を島とする海島構造を有していることが好ましい。」(段落[0040])との記載とあわせみると、スズ相54を海とし、スズ-パラジウム合金相55を島とする海島構造が示されている。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件訂正発明3の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、実施例3に関して、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。

「リン青銅製のテープの上に、スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金相55を含む表面層53が形成されており、
前記表面層53は、スズ-パラジウム合金相55の島が、スズ相54の海の中に形成された海島構造であるコネクタ用コンタクト。」

(2)刊行物2
本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物2の附属書Dの17ページの図D.1.1には、FPC/FFCコネクタのコンタクトのかん合部(接触部)を下向き略三角形状とすることが示され、第18ページの図D.1.2には、プリント配線板用コネクタのコンタクトのかん合部(接触部)を横向き略三角形状とすることが示されている。

4 判断
(1)本件訂正発明3について
ア 対比
本件訂正発明3と刊行物1発明とを対比すると、後者の「リン青銅製のテープ」は前者の「銅合金よりなる母材」に相当し、以下同様に、「スズ-パラジウム合金相55」は「スズ-パラジウム合金」に、「スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金相55を含む表面層53」は「スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金を含む合金含有層」に、「スズ-パラジウム合金相55の島」は「スズとパラジウムの合金よりなる第一金属相のドメイン構造」に、「スズ相54の海」は「純スズよりなる第二金属相」に、「コネクタ用コンタクト」はメッキを施して得られたものであるから「コネクタ用めっき端子」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「銅合金よりなる母材の上に、スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金を含む合金含有層が形成されており、
前記合金含有層は、スズとパラジウムの合金よりなる第一金属相のドメイン構造が、純スズよりなる第二金属相の中に形成されたものであるコネクタ用めっき端子。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本件訂正発明3は、「前記合金含有層におけるパラジウムの含有量は、20原子%未満であり」、「ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く」のに対し、
刊行物1発明は、表面層53におけるパラジウムの含有量が特定されていない点。

〔相違点2〕
本件訂正発明3は、「前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上である」のに対し、
刊行物1発明は、露出面積率が特定されていない点。

イ 判断
そこで、各相違点を検討する。
(ア)相違点1について
刊行物1のスズ-パラジウム拡散層52及び表面層53は、厚さ0.05μmのパラジウムメッキからなる中間メッキ層上に厚さ3μmのスズメッキを施して得られた厚さ約3μmの表面メッキ層(段落[0048])をピーク温度310℃で2秒間リフロー処理(段落[0051])することにより得られたものであるから、パラジウムメッキからなる中間メッキ層のパラジウムを全て含有するものである。

また、刊行物1の「拡散層は、スズとパラジウムの金属間化合物からなる層でもよく、スズとパラジウムの固溶体からなる層でもよく、またこれらの両方を含む層であってもよい」(「3」「(1)」「ア」)との記載からみて、スズ-パラジウム拡散層52は、スズとパラジウムの金属間化合物からなる層となり得る。

そして、刊行物1の「厚さ0.05μmのパラジウム中間メッキ層上に厚さ3μmのスズ表面メッキ層を形成してなるコネクタ用コンタクトの場合、232℃以上400℃以下で1?120秒リフロー処理することにより、図2に示すような海島構造を有する表面層24を得ることができる」(「3」「(1)」「エ」)との記載も踏まえると、異議申立書第14ページ下から第6行?第16ページ第15行に記載された「パラジウムが全てスズめっき層に拡散したと仮定」して計算することができ、当該計算法によれば、表面層53が、2.96原子%を上限としてパラジウムを含有し得ることが理解できる。

これに対して、本件訂正発明3は、「前記合金含有層におけるパラジウムの含有量は、20原子%未満であり」、「ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く」ものである。
そうすると、合金含有層におけるパラジウムの含有量に関して、本件訂正発明3は、上記上限と重複しないから、本件訂正発明3と刊行物1発明とは、少なくともこの点において同一ということはできない。

また、刊行物1には、複数の実施例及び比較例が記載されているが、上記計算法に照らせば、いずれにおいても表面層におけるパラジウムの含有量を2.96原子%より大きくするものでないことが理解できる。

したがって、刊行物1発明において、刊行物1及び2に記載された事項から、相違点1に係る本件訂正発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。

(イ)相違点2について
本件訂正発明3は、スズめっきコネクタ端子よりも、摩擦係数が低減されたコネクタ用めっき端子を得ることを課題とする(本件特許明細書の段落【0005】)のに対して、刊行物1発明は、主としてスズからなる表面層を有する電気部品において、応力がかかった状態でも長期にわたってウィスカの発生を抑制することを課題とする(段落[0007])から、両者は技術的課題において相違する。

また、本件訂正発明3の露出面積率について、本件特許明細書には「合金部11の露出面積率は、(表面に露出する合金部11の面積)/(合金含有層1の表面全体の面積)×100(%)として算出される。」(段落【0037】)及び「合金部の露出面積率は、後述する断面のSEM画像(審決注:走査電子顕微鏡画像)から算出した。」(段落【0065】)と記載されており、また、図4には、合金部の露出面積率が(a)12%、(b)45%、(c)78%であるスズ-パラジウム合金を形成しためっき部材の断面のSEM像が示されている。

他方、刊行物1の図5(a)は、実施例3で得られたテープ断面のSIM(走査イオン顕微鏡)観察像であるが、スズ-パラジウム合金相55が表面に露出することは示されていない。
また、刊行物1には、実施例9(リン青銅製テープ上に下地メッキ層(銅ストライクメッキ(メッキ厚0.1μm)、ニッケルメッキ(メッキ厚1.5μm))、中間メッキ層(パラジウムメッキ層(メッキ厚0.05μm))、及び表面メッキ層(スズメッキ層(メッキ厚3μm))、290℃で2秒間リフロー処理)で得られたテープ9について「テープ9の断面におけるスズの結晶方位マップ(IPF)を図7(a)に、表面におけるスズのIPFを図7(b)にそれぞれ示している」(段落[0081])こと、及び「図7(a)に示すように、加熱処理を行ったテープ9の表面層は、明確な結晶粒界は図6に比べて極めて少なく、IPF中の広い範囲にわたって、結晶方位がなだらかに変化している。また、図7(a)の長手方向両端での結晶方位差は11.5°であった。これより、加熱処理を行ったテープ9の表面層の断面において、結晶粒子間の結晶方位差が15°以内の領域が50μm以上連続して存在していることが分かる。なお、図7(b)の表面におけるIPFから、表面層のどの断面においても、図7(a)と同様の結晶配向を有していると推測することができる。このように、加熱処理を行うことにより、粒子間の結晶方位差が15°以内の領域が10μm以上連続して存在する表面層を得ることができる。」(段落[0083])ことが記載されており、これらの記載からみて、刊行物1の図7(a)及び図7(b)は、テープ9の断面及び表面におけるスズの結晶方位や結晶配向を示したものである。

そうすると、本件特許明細書の露出面積率についての上記記載に照らせば、刊行物1の図5(a)、図7(a)及び図7(b)から、刊行物1発明の合金部の露出面積率を推測することができるとはいえない。

したがって、刊行物1発明において、刊行物1及び2に記載された事項から、相違点2に係る本件訂正発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明3は、刊行物1発明と同一でなく、また、刊行物1発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件訂正発明4ないし14について
本件訂正発明4ないし14は、本件訂正発明3のすべてを含んだものであるところ、本件訂正発明3は、前記「(1)」に記載したとおり、刊行物1発明と同一でなく、また、刊行物1発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件訂正発明4ないし14も、同様に、刊行物1発明と同一でなく、また、刊行物1発明並びに刊行物1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件訂正発明3ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明3ないし14に係る特許を取り消す理由を発見しない。
また、請求項1及び2に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1及び2に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
銅又は銅合金よりなる母材の上に、スズとパラジウムよりなり、スズ-パラジウム合金を含む合金含有層が形成されており、
前記合金含有層におけるパラジウムの含有量は、20原子%未満であり、
前記合金含有層は、スズとパラジウムの合金よりなる第一金属相のドメイン構造が、純スズ又は前記第一金属相よりもパラジウムに対するスズの割合が高い合金よりなる第二金属相の中に形成されたものであり、
前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は10%以上であることを特徴とするコネクタ用めっき端子。
ただし、前記合金含有層におけるパラジウムの含有量が2.96原子%以下である場合を除く。
【請求項4】
前記合金含有層の表面に占める前記第一金属相の露出面積率は80%以下であることを特徴とする請求項3に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項5】
表面の光沢度が10?300%の範囲にあることを特徴とする請求項3又は4に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項6】
前記合金含有層の厚さが0.8μm以上であることを特徴とする請求項3?5のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項7】
前記合金含有層の表面を相互に摩擦させた時の動摩擦係数が0.4以下であることを特徴とする請求項3?6のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項8】
前記合金含有層のビッカース硬度が100以上であることを特徴とする請求項3?7のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項9】
他の導電部材と電気的に接触する接点部の表面に、前記接点部を横切る直線のうち最長の直線よりも短い径を有する前記第一金属相のドメインが露出されていることを特徴とする請求項3?8のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項10】
前記接点部は、エンボスとして形成されていることを特徴とする請求項9に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項11】
前記エンボスの半径が3mm以上であることを特徴とする請求項10に記載のコネクタ用めっき端子。
【請求項12】
雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、
前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子の少なくとも一方が請求項3?11のいずれかに記載のコネクタ用めっき端子よりなることを特徴とする端子対。
【請求項13】
前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが相互に接触する接点部に印加される接触荷重が、2N以上であることを特徴とする請求項12に記載の端子対。
【請求項14】
前記接触荷重は、5N以上であることを特徴とする請求項13に記載の端子対。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-06-28 
出願番号 特願2014-514743(P2014-514743)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C25D)
P 1 651・ 113- YAA (C25D)
P 1 651・ 854- YAA (C25D)
P 1 651・ 857- YAA (C25D)
P 1 651・ 841- YAA (C25D)
P 1 651・ 851- YAA (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 中川 隆司
冨岡 和人
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5696811号(P5696811)
権利者 株式会社オートネットワーク技術研究所 住友電気工業株式会社 住友電装株式会社
発明の名称 コネクタ用めっき端子および端子対  
代理人 特許業務法人上野特許事務所  
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代理人 特許業務法人上野特許事務所  
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