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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12G |
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管理番号 | 1319210 |
異議申立番号 | 異議2016-700203 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-09 |
確定日 | 2016-09-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5775980号発明「アルコール飲料、及びアルコール飲料の香味改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5775980号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5775980号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年7月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年3月9日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所より特許異議の申立てがされ、平成28年4月28日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年7月6日に意見書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、それぞれ本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、当該明細書を「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 レモン果汁の含有量が果汁率換算で0.3?4.0%であり、 ステビアの含有量が20?500ppmであることを特徴とするアルコール飲料。 【請求項2】 人工甘味料を含有しないことを特徴とする請求項1に記載のアルコール飲料。 【請求項3】 発泡性であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルコール飲料。 【請求項4】 アルコール度数が1?10v/v%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアルコール飲料。 【請求項5】 アルコール飲料の香味改善方法であって、 前記アルコール飲料について、レモン果汁の含有量と、ステビアの含有量とを、以下の範囲に調整することを特徴とするアルコール飲料の香味改善方法。 (1)前記レモン果汁の含有量(果汁率換算):0.3?4.0% (2)前記ステビアの含有量:20?500ppm」 第3 取消理由の概要 平成28年4月28日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。 1 証拠方法 甲第1号証:特許第5532935号公報 甲第2号証:特許第5634069号公報 甲第3号証:特開2007-82482号公報 甲第4号証:厚生労働省、食品添加物公定書8版「ステビア抽出物」の 欄、平成19年3月、451?452ページ 甲第5号証:異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所が作成した 実験報告書 2 取消理由1(特許法第36条第4項第1号) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 3 取消理由2(特許法第36条第6項第1号) 本件特許発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているものではないから、本件特許発明1?5は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 第4 当審の判断 1 甲各号証について 上記の甲各号証には、それぞれ以下の事項が記載または開示されている(「・・・」は記載の省略を意味する。)。 [甲第1号証] (1a)「【0003】 ステビア甘味料は、キク科の植物ステビアレバウディアナベルトニー(Stevia rebaudiana BERTOI)(以後ステビアと略称する)の葉部から抽出精製した、甘味物質であるStevoside、Rubusoside、Dulcoside-A、steviobioside、Rebaudioside-C、Rebaudioside-B、Rebaudioside-Aの混合品である。」 (1b)「【0014】 ステビア抽出物に含まれるステビア配糖体成分の中で最も甘味質がよいとされるRebaudioside-A含量を25%以上にすることで後引きのない甘味が得られ、コク感に乏しいRebaudioside-A含量を55%以下にすることで砂糖に類似したコクのある甘味を得ることができる。また、Rebaudioside-Aは加熱処理による安定性(甘味低下の抑制)が高いため、含量を25%以上とすることにより、加工食品の味の変化を抑制することができる。一方、清涼感のある甘味を有するStevioside含量を25%以上にすることで糖類を使用したときに感じられるコク感が得られ、55%以上にすることでStevioside自体が有する苦味や後引きを抑制することができる。」 [甲第2号証] (2a)「【0006】 一般的な苦味、渋味、エグ味をマスクする方法としては、ステビア抽出物やアスパルテーム等の甘味料を用いる方法が知られている(例えば、特許文献14?17参照)。ステビアは南米パラグアイを原産地とする菊科多年生植物で、学名をステビア・レバウディアナ・ベルトニー(Stevia Rebaudiana Bertoni)といい、天然甘味料として食品工業界で広く用いられている。ステビアの主な甘味成分としては、ステビオサイド(C38H60O18)、レバウディオサイドA(C44H70O23)、レバウディオサイドC(C44H70O22)、ズルコサイドA(C38H60O17)等が知られている。・・・」 (2b)「【0023】 各種食塩濃度、アンモニウム濃度の調味料に、レバウディオサイドAとステビオサイドとの配合比率が異なるステビア甘味料(守田化学工業社製、表1)・・・」 (2c)「【0024】 【表1】 」 (2d)「【実施例3】 【0031】 〔レバウディオサイドAとステビオサイドの含有比とレバウディオサイドCの含有による効果〕 食塩濃度が4.0%(w/v)、塩化アンモニウム濃度が3.0%(w/v)[アンモニウムイオン濃度1.0%(w/v)]である低塩調味料(対照品1)に各種ステビア甘味料(表3)を50ppmずつ添加した試験品1?8を作製した。 次にレバウディオJ-100(表1,守田化学工業社製)とステビロンS-100(表1,守田化学工業社製)を重量比で7:3,5:5,3:7に混合し、対照品1に50ppmずつ添加したサンプル(試験品9?11)を作製した。 さらに、賦形剤であるデキストリンを約15?25%(w/w)含有し、レバウディオサイドAとステビオサイドの含有比が0.71であり、レバウディオサイドCを6.8%(w/w)含有するレバウディオA7-90(守田化学工業社製)を対照品1に50ppm添加したサンプル(試験品12)を作製した。 パネリスト10名により、試験品1?12及び対照品1について、それぞれ下記の評価基準による評点法で異味及び塩味感を比較した。 (a)評点法による異味の評価基準 1:対照品よりもひどくなっている。 2:対照品と同じである。 3:対照品より改善されているが、まだ異味を感じる。 4:対照品より明確に改善されて、ほとんど感じられない。 5:対照品と比べて完全に改善されていて、全く感じられない。 (b)評点法による塩味感の評価基準 1:対照品よりも弱い。 2:対照品と同じである。 3:対照品より、わずかに強く感じる。 4:対照品より、明確に強く感じる。 5:対照品より、極めて強く感じる。 各評価の点数を合計したところ、表3の結果が得られた。」 (2e)「【0032】 【表3】 」 (2f)「【0033】 各種ステビア甘味料を配合した試験品1?8のいずれにおいても、スコアが25点以上であり、異味が改善され、塩味感が増強されている傾向が認められた。なかでも、RA/(RA+S)=0.3?0.9のステビア甘味料を添加した試験品2?5において高い異味改善効果と塩味感の向上効果が確認された。パネリストの講評によれば、濃厚感が付与されている、味のバランスが優れている、パンチ力がある等の評価が挙げられ、嗜好性も大きく向上していた。とりわけRA/(RA+S)=約0.7のステビア甘味料を添加した試験品3については、異味がほとんど感じられず、味のバランスがとれた塩味感、濃厚感が強調されて、嗜好性が高いサンプルとなっていた。 レバウディオサイドAとステビオサイドの含有比による、異味改善効果、塩味感増強効果を確認するため、純度が高いレバウディオサイドAとステビオサイドをそれぞれ各種配合で添加した試験品9?11について同様に評価した。いずれにおいても、スコアが25点以上であり、異味が改善され、塩味感が増強されている傾向が認められた。なかでも、RA/(RA+S)=0.71,0.52であるステビア甘味料を添加した試験品9,10については、高い異味の改善と塩味感の向上が確認された。そして、RA/(RA+S)が同等である試験品3と9、試験品5と11についてそれぞれ比較した結果、レバウディオサイドCを6?8.5%程度含有するステビア甘味料を添加した試験品3及び5のほうが、異味改善、塩味感増強効果が高いことがわかった。したがって、ステビア甘味料による異味改善効果、塩味感増強効果に影響する要因として、1.レバウディオサイドAとステビオサイドの含有比、2.レバウディオサイドCを含有すること、の2点が挙げられることがわかった。特に、『RA/(RA+S)=0.5?0.9』もしくは『RA/(RA+S)=0.3?0.9かつRCの含有量が5?10%(w/w)』であるステビア甘味料を用いることが効果的であることがわかった。・・・」 [甲第3号証] (3a)「【0018】 レバウジオシドA(Registry number 58543-16-1)及びステビオシド(Registry number 57817-89-7)は、プロアントシアニジンの渋味・収斂味を低減させるために添加する甘味料である。 これら2種の甘味料は、南米原産のキク科植物ステビアに含まれており、これらはいかなる方法で得てもかまわないが、例えば和光純薬工業株式会社から購入することができる。 レバウジオシドAとステビオシドの甘味の発現時間は異なっているので、これら2種の甘味料を併用して、プロアントシアニジンの渋味・収斂味の発現時間と、甘味の発現時間をできるだけ一致させることができる。このため、プロアントシアニジンの渋味・収斂味の低減(以下「マスク」ともいう)が可能となる。 レバウジオシドAとステビオシドとの重量比が、ステビオシド1に対するレバウジオシドAの添加量比を0.11?0.21、好ましくは0.13?0.18の範囲になるように添加することより、プロアントシアニジンの渋味・収斂味発現時間とレバウジオシドA及びステビオシドの甘味発現時間を一致させることができ、効果的に渋味・収斂味を抑制することができる。」 (3b)「【0023】 しかし、上記の量を例えば、茶飲料に配合すると非常に強い渋味・収斂味を有した製品となってしまい、飲用に耐えない。 そこで、レバウジオシドAとステビオシドとの重量比においてステビオシド1に対するレバウジオシドAの添加量比を0.11?0.21の範囲になるように配合することにより渋味・収斂味を低減させることができるが、緑茶、烏龍茶等、甘味を有さない風味が好まれる飲料の場合はレバウジオシドA及びステビオシドのトータルの配合量を、1?30ppm(0.35?10.5mg/350ml)好ましくは5?20ppm(1.75?7.0mg/350ml)にすることにより渋味・収斂味を大きく低減させ、かつ甘味を有さない、若しくは強くなりすぎない飲料を調製することが可能である。」 [甲第4号証] (4a)「定 義 本品は、ステビア(Stevia rebaudiana Bertoni)の葉から抽出して得られた、ステビオール配糖体を主成分とするものである。」(451ページ下から6行?下から5行) (4b)「ステビオール配糖体の含量(%) =ステビオシドの含量(%)+ズルコシドAの含量(%)+レバ ウジオシドAの含量(%)+レバウジオシドCの含量(%)」(452ページ下から10行?下から8行) [甲第5号証] (5a)考察の項に、「果汁の量及びBrixに関わらず、レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビア抽出物を用いたサンプルのスコアのほうが、レバウディオサイドA含量が低い他のステビア抽出物を用いたサンプルよりも低く、アルコールに対する不快な香味が低減されていた(表3)。」と記載されている(3ページ下から7行?下から3行) 2 取消理由1(第36条第4項第1号について) (1) 特許異議申立人は、特許異議申立書9ページ10行?10ページ9行において、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとする理由として、概略、「本件特許発明1におけるステビアとして、本件特許明細書の実施例では、レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビアが用いられているが、ステビアは植物から抽出されるステビオサイド、レバウディオサイドA等のステビオール配糖体を含む組成物であり、製品としてレバウディオサイドAの含有量が異なる様々なステビアの市販品が存在し、いずれを使用するかにより異味や塩味のマスキング効果の程度が異なる。 このような技術常識からすると、当業者は、レバウディオサイドAの含有量が95%質量%未満のステビアを用いても同様な効果が得られることを認識できない。 甲第5号証の実験報告書において、レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビアでは本件特許実施例と同様の効果を得られたものの、それ以外の組成のステビアを用いると斯かる効果は得られない。 本件特許発明1?5は、ステビアを含むとする上位概念の発明であるのに対し、詳細な説明には、『レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビア』、すなわち斯かる上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施形態が記載されているに過ぎないので、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」と主張している。 (2) 以下、この主張について検討する。 本件特許明細書には、以下についての記載がなされている。 (T1)「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0007】 本発明者らは、低プリン体のアルコール飲料にも適用可能な技術を創出すべく、アルコール飲料中のレモン果汁の含有量を低く設定したところ、レモン果汁の含有量が高い場合には感じることができなかったレモン果汁の「雑味」(詳細には、なめらかではない酸味)や、「アルコールに由来する不快な香味」が現れてしまうという課題を見出した。 【0008】 そこで、本発明は、雑味やアルコールに由来する不快な香味が抑制されたアルコール飲料、及びアルコール飲料の香味改善方法を提供することを課題とする。」 (T2)「【課題を解決するための手段】 【0009】 前記課題は、以下の手段により解決することができる。 (1)レモン果汁の含有量が果汁率換算で0.3?4.0%であり、ステビアの含有量が20?500ppmであることを特徴とするアルコール飲料。・・・」 (T3)「【発明の効果】 【0010】 本発明に係るアルコール飲料は、レモン果汁の含有量が所定の範囲内であるとともに、ステビアの含有量が所定の範囲内であることにより、雑味やアルコールに由来する不快な香味が抑制されたアルコール飲料となる。 【0011】 本発明に係るアルコール飲料の香味改善方法は、アルコール飲料について、レモン果汁の含有量と、ステビアの含有量とを、所定の範囲に調整することにより、雑味やアルコールに由来する不快な香味を抑制することができる。」 (T4)「【0019】 (ステビア) 本実施形態に係るアルコール飲料は、ステビアの含有量が20?500ppm(詳細には、0.002?0.05w/v%)である。 ここで、ステビアは、例えば、南米原産のキク科多年生植物であるステビアレバウディアナ・ベルトニの葉や茎などから、水又は有機溶媒を用いて抽出・精製して製造することができる甘味料(言い換えると、ステビアから抽出・精製されるステビア抽出物)であり、ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するものである。さらに、このステビアには、α-グルコシルトランスフェラーゼなどを用いて、前記のように抽出・精製されたステビア抽出物にグルコースやフルクトースなどの糖を転移した酵素処理ステビアも含まれる。なお、本実施形態におけるステビア抽出物は、上述した方法により抽出したものを用いても良く、市販のものを用いても良い。 【0020】 本実施形態に係るアルコール飲料で使用するステビアは、ステビア抽出物から精製又は酵素処理により得られたレバウディオサイドA及び/又はステビオサイドを含有することが好ましく、レバウディオサイドAを95質量%以上含有することが特に好ましい。ステビアがレバウディオサイドAを95質量%以上含有することで、雑味改善効果がより顕著なものになる。このような好ましい条件を満たす市販品として、レバウディオJ-100(守田化学工業社製)を例示することができる。」 (T5)「【0051】 [実施例1] 次に、実施例1では、レモン果汁の含有量が、各評価に与える影響について確認する。 【0052】 (サンプルの準備) 表2に示す配合量となるように、原料用アルコール、レモン果汁(濃縮セミクリア果汁)、ステビア(守田化学工業社製「レバウディオJ-100」)、水を混合後、缶容器に充填してサンプル液を準備した。」 (T6)「【0057】 [実施例2] 次に、実施例2では、ステビアの含有量が、各評価に与える影響について確認する。 【0058】 (サンプルの準備) 表3に示す配合量となるように、原料用アルコール、レモン果汁(濃縮セミクリア果汁)、ステビア(守田化学工業社製「レバウディオJ-100」)、水を混合後、缶容器に充填してサンプル液を準備した。」 (T7)「【0064】 (試験結果の検討:実施例2) サンプル3-2?3-6は、ステビアを含有していたことから、『雑味』と『アルコールに由来する不快な香味』が抑制されていた。 特に、サンプル3-3?3-6は、所定量以上のステビアを含有していたことから、『雑味』と『アルコールに由来する不快な香味』の抑制の顕著な効果が確認できた。ただし、サンプル3-6は、ステビアの含有量が多かったことから、総合評価が若干低下するという結果となった。 以上の結果から、アルコール飲料にステビアを含有させることによって、『雑味』と『アルコールに由来する不快な香味』を抑制する効果が得られ、ステビアの含有量を所定量以上とすることで、効果が顕著に現れることが確認できた。」 そうすると、本件特許明細書には、課題を解決するための手段として、「(1)レモン果汁の含有量が果汁率換算で0.3?4.0%であり、ステビアの含有量が20?500ppmであることを特徴とするアルコール飲料。・・・」(上記記載事項(T2))と記載され、ステビアの組成について特定するものではなく、また、本件特許発明1?5においても、ステビアの組成についての特定はなされていない。 そして、ステビアについて、本件特許明細書を参酌すると、「ステビアは、例えば、南米原産のキク科多年生植物であるステビアレバウディアナ・ベルトニの葉や茎などから、水又は有機溶媒を用いて抽出・精製して製造することができる甘味料(言い換えると、ステビアから抽出・精製されるステビア抽出物)」であり、「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」を用いれば良く(上記記載事項(T4))、また、「本実施形態におけるステビア抽出物は、上述した方法により抽出したものを用いても良く、市販のものを用いても良い。」(上記記載事項(T4))とされており、当該記載に基づくと、本件特許発明1?5において用いるステビアは、「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」と当業者が理解できる。 また、ステビアは、抽出・精製して製造され、ステビアの主な甘味成分としては、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA等が知られていて(上記記載事項(1a)、(2a))、市販のものにはステビオサイドやレバウディオサイドAを主成分とするものも多く存在(上記記載事項(2c))することを踏まえれば、本件特許発明1?5を当業者が実施するに際し、ステビアとして市販の「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」を用いることにより、当業者が本件特許発明1?5の実施を容易にできるものと認められる。 なお、本件特許明細書には、ステビアの好ましい例として、レバウディオサイドAを95質量%以上含有することが記載され(上記記載事項(T4))、製品としてレバウディオJ-100(森田化学工業社製)が示され、実施例として、レバウディオJ-100(森田化学工業社製)を用いた例のみが例示されているとしても、上述のとおり、ステビアとして、「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」を用いれば良く、甲第5号証に記載されたとおり、「果汁の量及びBrixに関わらず、レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビア抽出物を用いたサンプルのスコアのほうが、レバウディオサイドA含量が低い他のステビア抽出物を用いたサンプルよりも低」いとしても、そのことが「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」が、本件特許発明の「雑味やアルコールに由来する不快な香味が抑制された」ものではないことをいうものではない(甲第5号証、乙第14号証参照。)。 また、ステビアの甘味の主成分である「ステビオサイド」及び「レバウディオサイドA」については、適宜の範囲で調整して甘味を構成すれば、本件特許発明の「雑味やアルコールに由来する不快な香味が抑制」できることは、当業者が容易に想起できることである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでいうことはできない。 (3) よって、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとまでいうことはできず、同法第123条第1項第4号に該当せず、取り消すことができない。 3 取消理由2(第36条第6項第1号について) (1) 特許異議申立人は、特許異議申立書9ページ10行?10ページ2行、10ページ10?15行において、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない理由として、概略、「出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明における『レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビア』に関する開示を本件特許発明1?本件特許発明5の『ステビア』の範囲まで拡張ないし一般化できるといえないので、本件特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に開示された発明の範囲を超えている。」と主張するので以下に検討する。 (2) 上記「2(2)」で検討したとおり、当業者は、本件特許発明1?5のステビアが、「ステビオサイド及びレバウディオサイドAを、甘味の主成分として含有するもの」と理解できるので、本件特許発明1?5が、「レバウディオサイドAを95質量%以上含むステビア」を用いた場合と比較して、程度に多少の違いがあるとしても、同様に「雑味やアルコールに由来する不快な香味が抑制」する効果を奏するものと理解できる。 したがって、本件特許は、その請求項1?5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとまでいうことはできない。 (3) よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとまでいうことはできず、同法第123条第1項第4号に該当せず、取り消すことができない。 第5 むすび 以上のとおり、上記取消理由1及び2によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことができない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-09-13 |
出願番号 | 特願2015-41836(P2015-41836) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 戸来 幸男 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
山崎 勝司 佐々木 正章 |
登録日 | 2015-07-10 |
登録番号 | 特許第5775980号(P5775980) |
権利者 | サッポロビール株式会社 |
発明の名称 | アルコール飲料、及びアルコール飲料の香味改善方法 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |