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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01N
管理番号 1319410
審判番号 訂正2016-390047  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-03-28 
確定日 2016-07-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5893742号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5893742号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔15-23〕について訂正することを認める。  
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る特許第5893742号は、2011年(平成23年)9月22日を国際出願日とする特願2014-531321号の請求項1ないし30に係る発明について、平成28年3月4日に特許権の設定登録がなされたものであるところ、平成28年3月28日に本件審判請求がなされたものである。


第2 請求の趣旨

本件審判請求の趣旨は、特許第5893742号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項15ないし23について訂正することを認める、との審決を求めるものである。


第3 訂正の内容

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項15に記載される「前記抗体は、近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質に対する抗体である」を「前記尿試料を濃縮するための抗体は、近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質に対する抗体である」に訂正する(下線部は訂正箇所を示す。)。


第4 当審の判断

1 訂正の目的の適否について

特許請求の範囲の請求項15には、上記訂正事項1に係る記載の前段に、
「 (a)少なくとも1ステップの免疫精製を用いて、尿試料をエキソソーム画分を得るために濃縮するための抗体と、
(b)前記エキソソーム画分について濃縮された尿試料中の急性腎損傷(AKI)マーカーを検出するための抗体と
を含み、」
との記載があり、「少なくとも1ステップの免疫精製を用いて、尿試料をエキソソーム画分を得るために濃縮するための抗体」(以下「抗体(a)」という。)と、「エキソソーム画分について濃縮された尿試料中の急性腎損傷(AKI)マーカーを検出するための抗体」(以下「抗体(b)」という。)との二種類の抗体が記載されている。

上記訂正事項1に関し、訂正前の記載における「前記抗体」という記載箇所についてみると、「前記抗体」が、それ以前に記載された「抗体(a)」及び「抗体(b)」のいずれの抗体を指すのかが明瞭でない。
これに対し、上記訂正事項1に関し、訂正後の記載における「前記尿試料を濃縮するための抗体」は、尿試料を濃縮するための抗体を指すものであるから、「抗体(b)」ではなく「抗体(a)」を指すことは明らかである。
してみると、訂正事項1は、「前記抗体」が「抗体(a)」及び「抗体(b)」のいずれの抗体を指すのかが明瞭でない記載について、「抗体(a)」を指すことを明瞭にするものである。

よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

2 訂正が本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて

訂正事項1に関連する記載として、本件特許明細書には、例えば、以下の記載がある(下線は当審で付加したものである。)。

【0073】
「 本発明では、少なくとも1つの免疫精製ステップを、尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段と考える。特に、腎臓の特異的構造において好ましくかつ示差的に発現する特定のタンパク質の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、または任意のドメインに対する抗体を用いることにより、エキソソームの濃縮が可能となる。」

【0091】
「 本発明は、被験体におけるAKIの発生を簡便かつ早期に決定するために、特異的な腎損傷マーカーの存在および/またはレベルを決定するための診断用キットであって、少なくとも1つの免疫精製ステップを用いて、尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段と、状態についての所定の腎損傷マーカーを検出するための手段とを含むキットをさらに含む。」

【0093】
「 本発明では、少なくとも1つの免疫精製ステップを、尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段と考える。特に、好ましくは、かつ、示差的に、腎臓の特異的構造において発現する特定のタンパク質の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、または任意のドメインに対する抗体を用いることにより、エキソソームについての濃縮が可能となる。したがって、本発明のキットでは、好ましくは、かつ、示差的に、腎臓の特異的構造において発現されるタンパク質の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、または任意のドメインに対する抗体と、この抗体が、タンパク質のエキソソームの外部表面内に存在するドメインと相互作用することを可能とするのに適する反応緩衝液とについて検討する。」

【0101】
「 好ましい実施形態では、キットは、抗AQP1、抗AQP2、抗AQP3、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII、またはこれらの組合せの任意のドメインに対する抗体であって、濃縮するための方法として免疫精製を用いる場合における、尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段としての抗体を含む。」

【0104】
「 一実施形態では、抗AQP-1を、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、近位尿細管に由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

【0105】
「 一実施形態では、抗AQP-2を、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、遠位尿細管に由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

【0106】
「 一実施形態では、抗AQP-3を、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、集合管に由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

【0107】
「 一実施形態では、抗NKCC2を、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、ヘンレループに由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

【0108】
「 一実施形態では、抗NHE-3を、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、近位尿細管に由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

【0109】
「 一実施形態では、抗NaPiIIを、特異的な腎構造に由来する特異的な画分を免疫精製するのに用いる場合、エキソソーム画分は、近位尿細管に由来し、特異的なマーカーの存在および/またはレベルは、前記構造における損傷を示す。」

上記段落【0091】及び【0093】の記載から、AKIの発生を早期に決定するための診断用キットが、少なくとも1つの免疫精製ステップを用いて、尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段として、示差的に、腎臓の特異的構造において発現する特定のタンパク質の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、または任意のドメインに対する抗体を用いることが理解できる。

また、上記段落【0101】の記載から、キットに用いる尿試料をエキソソームについて濃縮するための手段としての抗体として、抗AQP1、抗AQP2、抗AQP3、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII、またはこれらの組合せの任意のドメインに対する抗体を含むことが理解できる。

そして、上記段落【0104】ないし【0109】の記載から、抗AQP-1、抗NHE-3及び抗NaPiIIは近位尿細管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体であり、抗AQP-2は遠位尿細管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体であり、抗AQP-3は集合管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体であり、抗NKCC2はヘンレループに示唆的に発現するタンパク質に対する抗体であることが理解できる。

してみると、AKIの発生を早期に決定するための診断用キットが、少なくとも1つの免疫精製ステップを用いて、尿試料をエキソソームについて濃縮するための、示差的に、腎臓の特異的構造において発現する特定のタンパク質の抗体として、近位尿細管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体、遠位尿細管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体、集合管に示唆的に発現するタンパク質に対する抗体、ヘンレループに示唆的に発現するタンパク質に対する抗体、またはこれらの組合せを含むことが理解できることから、訂正事項1は、本件特許明細書等の記載に基づくものであって、本件特許明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

よって、訂正事項1は特許法第126条第5項の規定に適合する。

3 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて

訂正事項1は、上記「1 訂正の目的の適否について」のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4 一群の請求項について

訂正前の請求項15?23は訂正事項1を含む訂正前の請求項15の記載を訂正前の請求項16?23が引用しているものであるから、特許法第126条第3項に規定する一群の請求項である。
したがって、これらに対応する訂正後の請求項15?23も一群の請求項である。

よって、本件訂正審判の請求に係る訂正は特許法第126条第3項の規定に適合する。


第5 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、第5項及び第6項の規定に適合するものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における早期急性腎損傷(AKI)の指標としてAKIマーカーを使用する方法であって、
(a)前記被験体に由来する尿試料を、エキソソーム画分を得るために濃縮するステップであって、前記濃縮するステップは、少なくとも1ステップの免疫精製を含み、前記免疫精製ステップは、近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質に対する抗体により実施される、ステップと、
(b)前記エキソソーム画分内の前記AKIマーカーを検出および/または定量化するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記免疫精製が、前記腎構造において発現されるタンパク質のドメインに対する抗体により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫精製が、前記腎構造において発現されるタンパク質の細胞内ドメインに対する抗体により実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫精製が、前記腎構造において発現されるタンパク質の細胞外ドメインに対する抗体により実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫精製ステップのための前記抗体が、抗アクアポリン1(抗AQP1)、抗アクアポリン2(抗AQP2)、抗アクアポリン3(抗AQP3)、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII抗体、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項2?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が抗AQP1である、請求項2?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記腎構造が、近位尿細管である、請求項2?6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫精製の前に、前記尿をエキソソームについて濃縮するステップをさらに含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記尿試料が、脱細胞化された尿試料である、請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記AKIマーカーが、NGAL、シスタチン-3、KIM-1、IL-1ベータ、IL-18、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記AKIマーカーが、NGALである、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記検出が、前記AKIマーカーに対する一次抗体との免疫反応により実施される、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記一次抗体が標識されており、そして前記標識が、酵素、蛍光化合物、赤外化合物、放射性化合物、または化合物からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記AKIマーカーを定量化するステップが、前記AKIマーカーのレベルを定量化することを含み、そして前記ステップが、前記被験体における処置を決定するために使用される、請求項1?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
早期AKIを評価するためのキットであって、
(a)少なくとも1ステップの免疫精製を用いて、尿試料をエキソソーム画分を得るために濃縮するための抗体と、
(b)前記エキソソーム画分について濃縮された尿試料中の急性腎損傷(AKI)マーカーを検出するための抗体と
を含み、前記尿試料を濃縮するための抗体は、近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質に対する抗体である、キット。
【請求項16】
(c)尿試料を得るための手段をさらに含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記免疫精製ステップのための前記抗体が、抗アクアポリン1(抗AQP1)、抗アクアポリン2(抗AQP2)、抗アクアポリン3(抗AQP3)、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項15または16に記載のキット。
【請求項18】
前記免疫精製の前に、前記尿試料を濃縮するための試薬をさらに含む、請求項15?17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記AKIマーカーを検出するための前記抗体が、抗NGAL、抗シスタチン-3、抗KIM-1、抗IL-1ベータ、抗IL-18、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項15?18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記AKIマーカーを検出するための前記抗体が標識されている、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
標識された二次抗体をさらに含む、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記標識が、酵素、蛍光化合物、赤外化合物、放射性化合物、および化合物からなる群より選択される、請求項20または21に記載のキット。
【請求項23】
前記キットを用いるための指示書をさらに含む、請求項15?22のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
尿試料からエキソソーム画分を精製するための方法であって、
(a)尿試料を、近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質のドメインに対する抗体と共にインキュベートし、これにより、エキソソーム-抗体複合体を形成するステップと、
(b)(a)から得られる前記エキソソーム-抗体複合体を、前記抗体を認識し、不溶性作用物質に結合しているタグと共にインキュベートし、これにより、エキソソーム-抗体-タグ-不溶性作用物質複合体を形成するステップと、
(c)前記エキソソーム-抗体-タグ-不溶性作用物質複合体を上清から分離するステップと、
(d)前記エキソソーム-抗体-タグ-不溶性作用物質複合体を緩衝液で洗浄するステップと
を含み、ここで、前記精製されたエキソソーム画分がAKIマーカーの検出に使用される、方法。
【請求項25】
前記尿試料が、脱細胞化された尿試料である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記腎構造が、近位尿細管である、請求項24または25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、抗アクアポリン1(抗AQP1)、抗アクアポリン2(抗AQP2)、抗アクアポリン3(抗AQP3)、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項24?26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体が抗AQP1である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
尿中エキソソーム画分を免疫精製するための方法であって、
近位尿細管、遠位尿細管、集合管およびヘンレループからなる群より選択される腎構造において好ましくかつ示差的に発現されるタンパク質のドメインに対する抗体または抗体の組合せを使用するステップを含み、ここで、前記免疫精製された尿中エキソソーム画分がAKIマーカーの検出に使用される、方法。
【請求項30】
尿中エキソソーム画分を免疫精製するための方法であって、
抗アクアポリン1(抗AQP1)、抗アクアポリン2(抗AQP2)、抗アクアポリン3(抗AQP3)、抗NKCC2、抗NHE-3、抗NaPiII、およびこれらの組合せからなる群より選択される抗体または抗体の組合せを使用するステップを含み、ここで、前記免疫精製された尿中エキソソーム画分がAKIマーカーの検出に使用される、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-06-28 
結審通知日 2016-06-30 
審決日 2016-07-12 
出願番号 特願2014-531321(P2014-531321)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三木 隆  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5893742号(P5893742)
発明の名称 早期における急性腎損傷をモニタリング、診断、および/または予後診断するための方法  
代理人 山本 健策  
代理人 山本 秀策  
代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 長谷部 真久  
代理人 長谷部 真久  
代理人 石川 大輔  

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