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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1319569
審判番号 不服2015-18706  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-16 
確定日 2016-10-07 
事件の表示 特願2013-515457「イムノアッセイにおける白血球干渉を低減するための磁気ビーズ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日国際公開、WO2011/159707、平成25年10月31日国内公表、特表2013-540258、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月14日(パリ条約による優先権主張日:平成22年6月14日 米国)を国際出願日とする外国語出願であって、平成25年2月14日に手続補正書が提出され、平成26年10月23日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成27年1月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認める。そして、その請求項1?15は以下のとおりのものである。(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」等という。)
「【請求項1】
分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減する方法であって、
白血球を含有する生体試料を、生体試料中の前記白血球の少なくとも一部を磁気犠牲ビーズに結合させるのに十分な条件下で、前記白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズと接触させるステップと、
磁気犠牲ビーズを電気化学的免疫センサーと実質的に接触させないで磁気的に保持するステップと
を含み、
該磁気犠牲ビーズが、生体試料中の白血球以上で、試料中に存在する白血球を実質的に隔離するのに十分な量存在する、
上記方法。
【請求項2】
血液試料中で分析物サンドイッチイムノアッセイを実施する方法であって、
検査カートリッジ中の保持チャンバー内に、白血球を含有する血液試料を導入するステップであって、保持チャンバーの一部は、白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズでコーティングされているステップと、
生体試料中の白血球の少なくとも一部を磁気犠牲ビーズに結合させるのに十分な条件下で、血液試料を磁気犠牲ビーズと接触させるステップと、
血液試料を導管内に移動させるステップであって、導管の少なくとも一部に局在化した磁場が、磁気犠牲ビーズを導管の壁の少なくとも一部に引き寄せ、保持し、それによって、磁気犠牲ビーズが免疫センサーと接触するのを実質的に防止するステップと、
血液試料を電気化学的免疫センサーと接触させることによって、固定化捕捉抗体、試料分析物、及びシグナル抗体を含むサンドイッチを形成するステップと、
任意選択により、電気化学的免疫センサーから血液試料を洗浄するステップと、
シグナル抗体によってもたらされるシグナルに基づいて分析物の存在を検出するステップと
を含む上記方法。
【請求項3】
試料分析物が、トロポニンI、トロポニンT、BNP、クレアチンキナーゼMB、プロカルシトニン、proBNP、NTproBNP、ミオグロビン、PSA、D-二量体、CRP、HCG、NGAL、ミエロペルオキシダーゼ、及びTSHからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
固定化捕捉抗体がアッセイビーズに付着され、アッセイビーズが電流測定用電極に付着される、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
血液試料中で分析物競合イムノアッセイを実施する方法であって、
検査カートリッジ中の保持チャンバー内に、白血球を含有する血液試料を導入するステップであって、保持チャンバーの一部は、白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズでコーティングされているステップと、
標識分析物を用いて血液試料を改質するステップと、
生体試料中の白血球の少なくとも一部を磁気犠牲ビーズに結合させるのに十分な条件下で、血液試料を磁気犠牲ビーズと接触させるステップと、
導管の少なくとも一部に局在化した磁場を印加することによって、磁気犠牲ビーズを導管の壁の少なくとも一部に引き寄せ、保持し、それによって、磁気犠牲ビーズが電気化学的免疫センサーと接触するのを実質的に防止するステップと、
血液試料を電気化学的免疫センサーと接触させることによって、競合的な比の結合試料分析物と結合標識分析物を形成するステップと、
任意選択により、電気化学的免疫センサーから血液試料を洗浄するステップと、
結合標識分析物によってもたらされるシグナルによって求められる競合的な比に基づいて、分析物の存在を検出するステップと
を含む上記方法。
【請求項6】
免疫センサーから血液試料を洗浄するステップと、
免疫センサーを、標識分析物と反応することができる試薬と接触させることによって、
血液試料中の試料分析物の存在に逆に関連する、免疫センサーにおけるシグナルを生成するステップと
をさらに含む、請求項2または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試料分析物が、ジゴキシン、フェノバルビタール、フェニトイン、テオフィリン、バルプロ酸、及びバンコマイシンからなる群から選択される、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記標識分析物が、フルオレセイン、フェロセン、及びp-アミノフェノールからなる群から選択される標識で標識される、請求項5?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料または血液試料が全血試料である、請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生体試料または血液試料が抗凝固剤を用いて改質される、請求項1?9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
磁気犠牲ビーズが、スチレン-アクリル酸コポリマーでコーティングされた磁鉄鉱(Fe_(3)O_(4))コアを含む、請求項1?10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
磁気犠牲ビーズが、非ヒトIgG又はその断片でコーティングされた磁気ビーズを含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
磁気犠牲ビーズが、3μm?5μmの平均粒径を有する、請求項1?12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
磁気犠牲ビーズが、1つ又は複数の可溶性乾燥試薬コーティング中にある、請求項1?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
全血試料中で分析物イムノアッセイを実施するためのキットであって、
磁場によって可動性であり;全血試料中の白血球以上で、試料中に存在する白血球を実質的に隔離するのに十分な量存在する;
白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズと、
磁気犠牲ビーズを保持するための磁石と、
電気化学的免疫センサーとを含み、
全血試料中の白血球は、前記磁気犠牲ビーズに結合可能であり、磁場は、前記磁気犠牲ビーズの少なくとも一部を、前記電気化学的免疫センサーと接触させないで保持することができる上記キット。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由は,次の理由である。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項1-15
・引用文献等1-3

引 用 文 献 等 一 覧
1.欧州特許出願公開第0768530号明細書
2.特表平10-513054号公報
3.特表2007-505319号公報

第4 当審の判断
1 本願発明1について
(1)引用例3(特表2007-505319号公報)の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された特表2007-505319号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。「・・・」で略記箇所があることを示す。他の引用例についても同様。)
(引3-ア) 「【請求項13】
免疫センサシステムにおける干渉を減少させて標的分析対象物を分析する方法であって、
固相化抗体、標的分析対象物質、標識抗体の間のサンドイッチ構造に基づいて信号を発生し、該信号の一部を前記標識抗体の非特異的結合から生じさせる第1免疫センサと、
免疫参照センサとして機能し、及び、前記第1センサの領域で生じる非特異的結合と同程度又は予測されうる限りに相関する程度の信号を発生し、並びに、固相化抗体と、試料に存在するが標的分析対象物質ではない内因性又は外因性タンパク質との間の免疫複合体を有する第2免疫センサと、を含んで構成される免疫センサシステムに、標的分析対象物質と、標的分析対象物質ではない内因性又外因性タンパク質とを含んで構成される試料を免疫センサシステムに接触させること、
前記第1免疫センサ及び第2免疫センサを洗浄液で洗浄すること、
試料中の分析対象物質濃度に対する補正値の決定に、前記第1免疫センサからの信号及び前記第2免疫センサからの信号を使用すること、
を含んで構成されることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記第1免疫センサ及び前記第2免疫センサが、電気化学センサであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
・・・
【請求項19】
前記第2免疫センサの固相化抗体が、血漿タンパク質に対するものであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記第2免疫センサの固相化抗体が、ヒト血清アルブミン(HAS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブリノゲン及びIgG fc領域からなる群から選択されたタンパク質に対するものであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
・・・
【請求項25】
前記第1免疫センサ及び前記第2免疫センサの双方の抗体が、0.01?5.0umの直径を有する微粒子に固定されていることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記微粒子が、カルボン酸塩修飾ポリスチレンビーズであることを特徴とする請求項25に記載の方法。」

(引3-イ) 「【請求項35】
免疫測定装置における血液中の分析対象物質を、白血球に伴う干渉を減少させて、測定する方法であって、
イオン強度を増加させることで、試料が免疫センサに接触したときにバフィーコート干渉を減少させるように、免疫測定装置に、全血試料に対する塩試薬を添加すること、
を含んで構成されることを特徴とする方法。」

(引3-ウ) 「【0063】
以下、非特異性結合の影響を減らすために、示差測定を実行する免疫参照センサを備えた心筋トロポニンI(cTnI)免疫センサを説明する。抗cTnI抗体、又は、抗HSA抗体で被覆(コーティング)されたカルボン酸塩修飾ラテックス微粒子(Carboxylate-modified latex microparticles)(バン・ラボラトリーズ社(Bangs Laboratories Inc.)又は、セラダイン・マイクロパーティクルズ社(Seradyn Microparticles Inc.)から入手)を、それぞれ同一方法で準備する。これは、まず、微粒子を、遠心分離によって緩衝液で置換し、次いで、抗体を加えて、該抗体を微粒子に受動的に吸着させる。その後、微粒子上のカルボキシル基を、MES緩衝液(pH6.2)中のEDACで活性化し、抗体とアミド結合を形成させる。ビーズの凝集物を遠心分離によって取り除き、完成したビーズを冷凍保存する。
【0064】
抗ヒト血清アルブミン(HSA)抗体に関しては、ラテックスビーズ表面を充分に覆った結果、そのビーズ総質量が略7%増加する。従って、7mgの抗HSA抗体と100mgのビーズとを含む混合物の共有結合による被覆ビーズが準備されたことになる。以上の準備を使用して、脱イオン水中に1%の固体を含む略0.4nLの液滴を、フォトパターニングされた多孔性ポリビニルアルコール(PVA)選択透過層で覆われた免疫参照センサ96にマイクロディスペンシングし(これには、・・・)、これを乾燥させる。このように乾燥させることで、微粒子が、多孔性層に固着するので、血液試料や洗浄液中へ溶解することを充分に防ぐことができるようになる。
【0065】
一方、抗トロポニン抗体は、ラテックスビーズ表面を充分に覆った結果、そのビーズ総質量が略10%増加する。従って、10mgの抗TnI抗体を、カップリング試薬と共に、100mgのビーズに加えることで、充分に被覆することができる。その後、ビーズを、免疫センサ94上にマイクロディスペンシングする。
【0066】
他の実施形態では、免疫センサ94を、抗HSA等の血漿タンパク質抗体と、抗cTnI等の分析対象物質抗体と、の双方を含むビーズで覆う。ラテックスビーズは、まず、ビーズ100mgあたり、およそ2mg以下の抗HSA抗体を含んで構成され、その上で、免疫センサにおいて優れた非特異的結合を提供する抗cTnI抗体によって、充分に被覆される。充分な量の抗cTnI抗体が、分析対象物質(抗原)のキャプチャー抗体としてビーズ上に存在するため、トロポニン測定のスロープ(信号対分析対象物質濃度)は、物質の違いによる影響を受けない。異なる抗体についてのビーズ飽和濃度の測定、及び、標的分析対象物質の抗体だけを含むビーズを備える免疫センサのスロープの測定によって、適切な抗体結合比を、分析対象物質及び血漿タンパク質の双方の抗体を含むビーズに対して決定することができる。」(第18頁?第19頁)

(引3-エ) 「【0074】
改良された精度を有する免疫センサ
【0075】
ここで詳述する電気化学的免疫センサは、全血対血漿との間でバイアス(bias)を示す。歴史的に、トロポニンなどのマーカーによる免疫測定は、血漿又は血清における値が測定され、該測定値が報告されている。これらに用いられる免疫センサを、全血測定に用いる場合、補正ファクタ、又は、バイアスの除去手段を用いる必要が生じる。一般に、このバイアスは、2つの態様を有しており、これらを除去可能であることが知られている。2つの態様とは、(i)バフィーコート(buffy coat)(白血球及び血小板から構成される軟膜)の成分に関連した全血電気化学的免疫測定のバイアスと、(ii)試料間のヘマトクリット値のバラツキに関連したバイアスである。
【0076】
バフィーコートは、血液を遠心分離した場合に、沈殿した赤血球層の上に形成される、白血球と血小板の層である。白血球は、分析対象物質の抗体(例えば、トロポニン抗体)で覆われたビーズを用いて測定を行う免疫センサに干渉することが観察される。また、血漿試料やバフィーコートを取り除いた血液試料を用いて行うコントロール実験では、正のバイアスは示されない。この点を理論に縛られずに考察すると、白血球は、免疫センサに粘着する可能性があり、そして、洗浄ステップ後であっても、酵素標識抗体の非特異的な結合を妨げるため、バイアスを生じさせると考えられる。このバイアスは、ビーズの前処理段階でヒト血清アルブミン抗体を少量加えることにより、部分的に除去することができる。このように修飾(modified)されたビーズに試料が触れると、試料中のアルブミンは、前述のようにビーズを速やかに覆うことができる。一旦、ビーズが天然アルブミン層で覆われると、白血球は、ビーズをオプソニン化された表面として認識できないため、結果として、白血球によるバイアスが取り除かれるようになる。
【0077】
白血球の干渉問題に対しては、他の解決方法もある。これは、血液試料の塩濃度を上昇させることで、バイアスを取り除く方法である。具体的には、標準ナトリウムイオン濃度を、略140mM?略200mM超まで、好ましくは略230mMまで、上昇させることでバイアスを取り除くことができる。ここでは便宜的に、実際の塩濃度を、ナトリウムイオン濃度で表す。図22は、免疫センサの正味の電流量(nA)対添加塩化ナトリウム(NaCl)濃度との関係を示したグラフである。好ましい一実施形態では、充分な量の塩は、測定段階に先立って試料に溶解することができるような乾燥状態で、カートリッジの血液保持チャンバに設けられる。本発明の一実施形態によるカートリッジ形状では、保持チャンバは、略10uLの容量を有しており、この場合、NaClはおよそ60ug(μg)が必要となる。理論に縛られずに考察すると、干渉を減らすメカニズムは、塩が、白血球の浸透圧性収縮(osmotic shrinkage)を生じさせると考えられる。これは、赤血球が有する現象として知られている。この解釈は、免疫センサに対する白血球の干渉能の低下と整合性の取れるものである。」(第20頁?第21頁)

(引3-オ) 「【0144】
本発明は、バイオ層が電流滴定センサに対して固定位置にある免疫センサに加えて、流動性のある微粒子上にバイオ層を被覆した実施形態についても構想している。カートリッジを、分析対象物質と相互に作用することが可能な流動性微小粒子、例えば、キャプチャーステップ以降の電流滴定電極に局在するような磁気微粒子を含んで構成することができる。これによれば、測定の際に、磁力を用いて微粒子を電極に集めることができる。本発明において流動性微小粒子を用いることの利点の1つは、試料中又は液体中におけるそれら微粒子の挙動が、結合反応を促進し、分析において、キャプチャーステップをより迅速に行えることにある。」(第35頁)

(2)引用例3に記載された発明
「免疫センサシステムにおける標的分析対象物を分析する方法」あるいは「免疫測定装置における血液中の分析対象物質を、測定する方法」が「分析物イムノアッセイ」であることは、自明の事項であるから、上記(引3-ア、(引3-イ)の記載及び(引3-ウ)、(引3-エ)の記載を勘案すると、引用例3には次の発明が記載されていると認められる。

「分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減する方法であって、
固相化抗体、標的分析物、標識抗体の間のサンドイッチ構造に基づいて信号を発生し、該信号の一部を前記標識抗体の非特異的結合から生じさせる第1免疫センサと、
免疫参照センサとして機能し、及び、前記第1センサの領域で生じる非特異的結合と同程度又は予測されうる限りに相関する程度の信号を発生し、並びに、固相化抗体と、血液試料に存在するが標的分析物ではない内因性又は外因性タンパク質との間の免疫複合体を有する第2免疫センサと、を含んで構成される免疫センサシステムに、標的分析物と、標的分析物ではない内因性又外因性タンパク質とを含んで構成される血液試料を免疫センサシステムに接触させること、
前記第1免疫センサ及び第2免疫センサが電気化学センサであり、前記第2免疫センサの固相化抗体がヒト血清アルブミンに対する抗体であり、前記第1免疫センサ及び第2免疫センサに固定化される抗体がラテックスビーズに固定化された形態で前記センサを覆うものであり、
白血球の干渉によるバイアスを防止するため、下記(I)及び/又は(II)のバイアス防止手段:
(I)ビーズの前処理段階でヒト血清アルブミン抗体を少量加えることによりバイアスを部分的に除去するバイアス防止手段、(II)血液試料に塩試薬を添加して標準ナトリウムイオン濃度を、上昇させることでバイアスを取り除くバイアス防止手段、
を用いる
方法。」(以下、「引用発明」という。)

(3)本願発明1と引用発明との対比
引用発明における「血液試料」は「白血球を含有する生体試料」であるから、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は次の点で一致し、次の点で相違する。
(一致点)
「分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減する方法であって、
白血球を含有する生体試料を、白血球からの干渉を低減する手段を採用して電気化学的免疫センサーで分析物イムノアッセイを行うことを含む方法。」
(相違点)
白血球からの干渉を低減する手段が、本願発明1は、「白血球を含有する生体試料を、生体試料中の前記白血球の少なくとも一部を磁気犠牲ビーズに結合させるのに十分な条件下で、前記白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズと接触させるステップと、磁気犠牲ビーズを電気化学的免疫センサーと実質的に接触させないで磁気的に保持するステップとを含み、
該磁気犠牲ビーズが、生体試料中の白血球以上で、試料中に存在する白血球を実質的に隔離するのに十分な量存在する」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点。

(4)相違点の検討
ア 引用例3には、上記(引3-オ)に記載されているように、磁気粒子の使用は記載されているが、該磁気粒子は分析物に対する固相化抗体を提供するために電気化学センサーの電極に磁力で集められるもので、「白血球に対してオプソニン化された磁気ビーズ」ではないし、「磁気犠牲ビーズを電気化学的免疫センサーと実質的に接触させないで磁気的に保持するステップ」において使用される「磁気犠牲ビーズ」といえるものでもない。

イ 引用例1及び引用例2の記載事項の検討
(ア)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に周知例として引用された本願の優先権主張日前に頒布された引用例1(欧州特許出願公開第0768530号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引1-ア)「In the methods as described above, a reliable, accurate measurement could be effected only when the specimen used for the assay is a biological substance from which the substances that interfere with the assay had been removed.
As a matter of fact, assay at a high sensitivity could be carried out only after separating the serum since erythrocytes, leukocytes, platelets, hemoglobin, bilirubin, lipoproteins and the like in the whole blood interfered with the assay. Such situation is undesirable since there is a need for a highly reliable accelerated assay of a biological substance at a high sensitivity that requires no pretreatment such as serum separation of the specimen used for the assay of the biological substance. A pretreatment such as serum separation for the purpose of removing the assay interfering substance should make an accelerated assay difficult to be carried out.
In view of such situation, an object of the present invention is to obviate the above-described problems of the prior art and develop a highly reliable process for qualitatively or quantitatively determining a biological substance that exhibits a high sensitivity. 」(第2頁左欄36行?末行)(当審訳:上述のような方法においては、アッセイに用いられる試料はアッセイと干渉する物質がそこから除去された生体物質でなければ、信頼できる正確な測定を期することができなかった。
実際のところ、全血中の赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビン、ビリルビン、リポ蛋白などがアッセイと干渉するので、高感度のアッセイは血清分離後にのみ実施され得た。生体物質のアッセイに用いられる試料は血清分離などの前処理を必要としない、高信頼性で迅速なアッセイの必要性があるのでこのような状況は望ましくない。アッセイ干渉物質を除く目的での血清分離などの前処理は、迅速アッセイの実行を困難とする。
このような状況の観点で、本発明の目的は、従来技術の前記した問題点をなくし、高感度を示す生体物質を定性または定量測定する高信頼性の方法を開発することである。)

(引1-イ)「1.A process for assaying a biological substance characterized in that said process comprises the steps (1) to (4) carried out in this order:
(1) the step of mixing a body fluid with particles (a), (b) and (c):
(a) magnetic particles having loaded thereon a substance that binds to an assay interfering substance in the body fluid through an immunoreaction;
(b) magnetic particles having loaded thereon a substance that binds to the target substance in the body fluid through an immunoreaction; and
(c) non-magnetic colored particles having loaded thereon a substance that binds to the target substances in the body fluid through an immunoreaction;
(2) the step of applying magnetic field to the mixture;
(3) the step of removing the complexes formed by the immunoreaction of the magnetic particles and the magnetic particles that failed to react by means of magnetism; and
(4) the step of determining the amount of the remaining colored particles by measuring their absorption at a wave length of 350 nm or longer to thereby qualify or quantify the target substance in the body fluid without being influenced by the interfering substances in the body fluid.
・・・・
3.A process for assaying a biological substance according to claim 1 or 2 wherein said body fluid is whole blood, and said an assay interfering substances is erythrocyte, leukocyte, platelet, hemoglobin, bilirubin, or a lipoprotein. 」(第6頁右欄34行?第7頁左欄21行)
(当審訳: 1.下記(1)?(4)の工程をこの順序で行うことを特徴とする生体物質のアッセイ方法。
(1)下記(a)?(c)の粒子と体液とを混合する工程:
(a)体液中のアッセイ干渉物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子;
(b)体液中のアッセイ対象物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子;
(c)体液中の測定対象物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有しない着色粒子;
(2)該混合物に磁場を付与する工程
(3)磁性を有する粒子と免疫反応により結合した複合体及び未反応の磁性を有する粒子を集磁により除去する工程
(4)集磁されない着色粒子の量を、波長350nm以上でその吸光度を測定し、体液中のアッセイ干渉物質の影響を受けることなく体液中の測定対象物質を定性または定量する工程。
・・・
3. 前記体液が全血であり、前記アッセイ干渉物質が赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビン、ビリルビン、リポ蛋白である請求項1または2に記載の生体物質のアッセイ方法。)

(引1-ウ) 引用例1には、血液試料中の白血球が分析物イムノアッセイを干渉する物質であって、この干渉を低減しなければならないという本願発明1と共通する課題は記載されている(上記(引1-イ)参照。)。

しかしながら、「オプソニン化」は、微生物などの抗原に抗体や補体が結合することにより抗原が食細胞に取り込まれやすくなる現象のことであり(必要ならば、例えば、後記引用例2の第19頁1行?6行等参照。)、「白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲粒子」は、「オプソニン化」のために磁性粒子に抗体を担持させる場合、抗体が抗原を認識し免疫反応により結合する抗体のFv部分ではなく、定常的なFc領域を白血球に提示して白血球に結合して取り込まれるように担持させた磁性粒子であると理解される。
そうすると、引用例1における「(a)体液中のアッセイ干渉物質と免疫反応により結合する物質を担持させた磁性を有する粒子」という磁性粒子は、抗原としての白血球(アッセイ干渉物質)に対する抗体のFv部分を白血球に提示するように担持している粒子であるから、本願発明1の「白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズ」ではない。
したがって、引用例1には、「白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズ」を用いて分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減することは記載されていないし、示唆もされていない。

(イ) 引用例2の記載事項
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された引用例2(特表平10-513054号公報)には、図面とともに、例えば、骨髄、臍帯血、および末梢血幹細胞調製物のような幹細胞調製物内での造血幹細胞の濃縮のための方法が記載されており、非幹細胞、具体的には単球および骨髄細胞は、一例ではヒトIgGでコーティングしかつヒト血清アルブミンで遮断させた洗浄したナイロン繊維のようなオプソニン化させた材料に対する吸着によりその調製物から涸渇させることが記載されている(【要約】、】特許請求の範囲】等参照。)。

しかしながら、引用例2には、「分析物イムノアッセイにおける白血球からの干渉を低減する」こと、及び、「白血球に対してオプソニン化された」磁気粒子を使用することについては、何ら記載も示唆もされていない。

(5)小括
そうすると、引用例1?3に記載された発明に基づいて、本願発明1を容易に想到することができるものとは認められない。

2 本願発明2、5について
本願発明2を引用発明と対比すると、本願発明2も、本願発明1と同様に、「白血球を含有する血液試料を、生体試料中の前記白血球の少なくとも一部を磁気犠牲ビーズに結合させるのに十分な条件下で、」「前記白血球に対してオプソニン化された」「磁気犠牲ビーズと接触させるステップ」と、「磁場により保持して」「磁気犠牲ビーズを電気化学的免疫センサーと接触するのを実質的に防止するステップ」とを含むという相違点を有するものである。
そうすると、上記1で本願発明1について検討した結果と同様に、引用例1?3に記載された発明に基づいて、本願発明2、5を容易に想到することができるものとは認められない。

3 本願発明3,4,6?14について
上記「第2 本願発明」において示したとおり、請求項3は請求項2を、請求項4は請求項3をそれぞれ引用し、請求項6?14は、請求項1,2,5のいずれかをそれぞれ引用する請求項であるから、上記1,2で本願発明1,2,5について検討した結果と同様の理由で、本願発明3,4,6?14も、引用例1?3に記載された発明に基づいて容易に想到することができるものとは認められない。

4 本願発明15について
本願発明15は、「全血試料中で分析物イムノアッセイを実施するためのキット」の発明であって、引用例3には記載されていない「白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズ」と、「磁気犠牲ビーズを保持するための磁石」を含むものである。
しかしながら、引用例1、2に、全血試料中で分析物イムノアッセイを実施するために「白血球に対してオプソニン化された磁気犠牲ビーズ」を「磁気犠牲ビーズを保持するための磁石」と共に用いることは、記載も示唆もされていないことは、上記「1 本願発明1について」で検討したとおりである。
そうすると、同様に、本願発明15は引用例1?3に記載された発明に基づいて、容易に想到することができるものとは認められない。

5 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の理由によって拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-27 
出願番号 特願2013-515457(P2013-515457)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
藤田 年彦
発明の名称 イムノアッセイにおける白血球干渉を低減するための磁気ビーズ  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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