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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 産業上利用性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1319607
審判番号 不服2014-12987  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-04 
確定日 2016-10-11 
事件の表示 特願2009-526182「左心室のねじれを測定するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月 6日国際公開、WO2008/026022、平成22年 1月28日国内公表、特表2010-502245、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年9月1日を国際出願日とする出願であって、平成23年11月7日付けで拒絶理由が通知され、この通知に対して平成24年5月15日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成25年3月1日付けで拒絶理由が通知され、この通知に対して同年9月6日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、これに対し、平成26年2月28日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年7月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、それと同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成27年9月29日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、平成28年4月1日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、さらに、同年5月17日付けで再度拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年8月19日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年8月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、分説して符号を付けると、以下の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
A) プロセッサ及びメモリを有するコンピュータにおいて、左心室の少なくとも1つのねじれ角を決定する方法であって、
B) 前記プロセッサが、
C) 心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るため、前記左心室の3次元超音波データを入力するステップと、
D) 前記左心室の3次元超音波データより、心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るステップと、
E) 心収縮位相の開始時の第1ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に少なくとも2つの第1のトラッキング点を位置するステップであって、前記少なくとも2つの第1のトラッキング点は、前記第1ねじれ線を描くために、前記第1の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含む、ステップと、
F) 心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に少なくとも2つの第2のトラッキング点を位置するステップであって、前記少なくとも2つの第2のトラッキング点は、前記第2ねじれ線を描くために、前記第2の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含む、ステップと、
G) 心収縮位相の開始時の前記第1ねじれ線及び心収縮位相の終了時の前記第2ねじれ線の交差により形成される角度を、前記左心室の前記少なくとも1つのねじれ角として計算するステップと
H) 前記計算された少なくとも1つのねじれ角を、前記左心室の正常なねじれ角を表すデータと比較して、前記計算された少なくとも1つのねじれ角が正常であるかどうか判定するステップと
を実施する方法。」

第3 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要

[理由1]
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


請求項1-7
引用文献1,2

引用文献一覧

引用文献1:Y.NOTOMI et.al.,Measurement of Ventricular Torsion by Two-Dimensional Ultrasound Speckle Tracking Imaging,Journal of the American College of Cardiology,米国,Elsevier Inc.,2005年 6月21日,Vol.45,No.12,pp.2034-2041
引用文献2:山田博胤、他,左側完全型心膜欠損症における心室中隔の収縮期および拡張期異常運動の発生機序:断層心エコー法および組織ドプラ法による検討,日本超音波医学会 第67回研究発表会 講演抄録集,日本,(社)日本超音波医学会,1996年 6月,第23巻 supplement I,第88頁

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項7における”プログラム可能命令”は、コンピュータプログラム自体を意味するのか否かが不明である。
(2)請求項7には、”前記左心室の3次元超音波データを収集するステップと、・・・を有する、一連のプログラム可能命令”なる記載がある。
しかし、一般的には、所定のハードウェア装置なくして、コンピュータプログラムのみで、”超音波データを収集する”ことはできない。
よって、上記記載が特定する事項の意味が不明である。
(3)請求項7には、”・・・ステップとを有する、一連のプログラム可能命令”なる記載があるが、「プログラム可能命令」が、「ステップ」を「有する」とは、「プログラム可能命令」のどの様な状態を意味しているかが不明である。

よって、請求項7に係る発明は明確でない。

[理由3]
この出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。


請求項7に係る”プログラム可能命令”は、実質的にコンピュータソフトウェアであると認められるが、当該ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているものではなく、また、機器等の制御を具体的に行うものであるとも言えない。
よって、当該請求項7に記載の”プログラム可能命令”は、特許法第29条第1項柱書でいう発明に該当しない。

2 原査定の理由の判断

[理由1]について
(1) 引用文献1の記載事項

引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加したものである。他の引用文献についても同様。)。

(引1-ア) 第2034頁左下欄第1行-右下欄第13行
「 Current research in clinical cardiac mechanics is moving from short- and long-axis left ventricular (LV) function and ejection fraction to three-dimensional ventricular deformation studies, including left ventricular torsion (LVtor) (1). In systole, the LV apex rotates counterclockwise (as viewed from the apex), whereas the base rotates clockwise, creating a torsional deformation originating in the dynamic interaction of oppositely wound epicardial and endocardial myocardial fiber helices. Although this wringing motion (systolic twisting and early diastolic untwisting) can give novel insights into LV function that cannot be obtained from standard short- and long-axis analysis, it has proven difficult to measure. Previous investigators approached LV rotation (LVrot)/LVtor using short-axis echo scans to track macroscopically the movement of distinguishable anatomic landmarks such as papillary muscle or mitral valve (2,3).
One of the special characteristics of static B-scan ultrasound imaging is an appearance of speckle patterns within the tissue, which are the result of constructive and destructive interference of ultrasound back-scattered from structures smaller than a wavelength of ultrasound (4). Motion analysis by speckle tracking has been attempted using block-matching and autocorrelation search algorithms (5-7), and speckle motion has been closely linked to underlying tissue motion when small displacements are involved (6).
On the basis of this displacement estimation technique, LVrot (angle-displacement about the central axis of LV in the short-axis view) for assessment of LVtor can be measured.」
(当審仮訳:「臨床心臓機構学の現在の研究は、左心室(LV)の短・長軸の機能及び駆出率から、左心室のねじれ(LVtor)を含む3次元心室変形の研究に移行している(1)。心臓収縮期において、LVの頂部は(頂点から見て)反時計回りに回転する、一方、基端部は時計回りに回転し、螺旋状の繊維からなる正反対にねじれる心外膜と心内膜、心筋の相互運動中に生じるねじれ変形を形成する。このねじれ運動(収縮期ねじれと拡張早期の解撚)は、一般的な短・長軸の分析から得ることができないLV機能に新たな洞察を与えることができるが、その測定が困難であることが知られている。従前の研究者らは、乳頭筋や僧帽弁のように識別容易な解剖学的目印の移動を肉眼的に追跡するために、短軸エコースキャンを使用して、LV回転(LVrot)/ LVtorにアプローチした(2,3)。
静的Bスキャン超音波画像の特徴の一つは、超音波の波長よりも小さい構造からの後方散乱された超音波の干渉の結果である組織内のスペックルパターンが表示されることである(4)。スペックル追跡による動きの解析はブロックマッチングと自己相関探索アルゴリズムを用いて試みられており(5-7)、変位が小さい場合には、スペックルの動きは、その下にある組織の動きに密接に関係している(6)。
この変位推定技術に基づいて、LVtorの評価のためLVrot(短軸像におけるLVの中心軸の周りの角度変位)を測定することができる。」)

(引1-イ) 第2035頁左欄の囲い内第1行-第10行
「Abbreviations and Acronyms
CV=coefficient of variation
DTI=Doppler tissue imaging
LV=left ventricular
LVrot=left ventricular rotation
LVrot-v=left ventricular rotational velocity
LVtor=left ventricular torsion
LVtor-v=left ventricular torsional velocity
MRI=magnetic resonance imaging
STI=speckle tracking imaging」
(当審仮訳:「略語一覧
CV=変動の係数
DTI=ドップラー組織イメージング
LV=左心室
LVrot=左心室回転
LVrot-V=左心室回転速度
LVtor =左心室ねじれ
LVtor-V=左心室ねじれ速度
MRI=磁気共鳴画像
STI=スペックル追跡イメージング」)

(引1-ウ) 第2035頁右欄第25行-第2036頁左欄第8行
「Echocardiography. After a clinical standard echocardiographic examination, we scanned apical and basal short-axis planes using a high frame rate (86 to 115 frames/s) second harmonic (transmit/receive: 1.7/3.4 MHz) B-mode (for STI), and DTI mode with a Vivid 7 ultrasound machine(GE Medical Systems, Milwaukee, Wisconsin) with an M3S probe. We defined the proper short-axis levels as follows (11): at the basal level, the mitral valve and, at the apical level, LV cavity alone with no visible papillary muscles. The LV cross section was made as circular as possible. The velocity range for DTI was set at 16 or 20 cm/s to prevent aliasing. We used customized software within a personal computer workstation (EchoPAC platform [2DS-software package, version 3.3], GE Medical Systems) for subsequent off-line analysis of STI and DTI.」
(当審仮訳:「心エコー検査.標準的な臨床心エコー検査の後、M3Sプローブを有するVivid 7 ultrasound machine(GE Medical Systems, Milwaukee, Wisconsin) で、高フレームレート(86から115フレーム/秒)の第2高調波(送信/受信:1.7/3.4 MHz)のBモード(STI用)、DTIモードを使用して頂部及び基端部の短軸面をスキャンした。短軸面の頂部と基端部の高さを以下の様に規定した(11):基端部は僧帽弁の高さ、頂部は乳頭筋の写らないLVの腔のみの高さ。LVの断面は、できるだけ円形となるようにした。 DTIのための速度範囲は、エイリアシングを防止するために、16または20センチメートル/秒に設定した。STIとDTIのスキャン後のオフライン分析のためのパーソナルコンピュータワークステーション(EchoPACプラットフォーム[2DS-ソフトウェアパッケージ、バージョン3.3]、GEメディカルシステムズ)内のカスタマイズされたソフトウェアを使用した。」)

(引1-エ) 第2035頁下5行-最下行
「Figure 1. Left ventricular rotation (LVrot) at apical and basal levels during systole by “overlaid” speckle tracking images. End-systolic speckle tracking imaging acquisitions are overlaid on the end-diastolic image with corresponding local trajectories (tail and head of arrows indicate the location of end-diastole and end-systole). The LVrot was estimated from all of these regional angle displacements. Normally, at apical level, the left ventricle rotates counterclockwise as viewed from apex, whereas the base rotates clockwise, as in this representative case. This gradient of LVrot between the two levels creates a “wringing” motion of the left ventricle. Videos of speckle tracking imaging in apical and basal short-axis views are available at www.onlinejacc.org.」
(当審仮訳:図1 スペックル追跡画像の「重ね」による収縮期間中の頂部高さ及び基端部高さにおける左心室回転( LVrot )。収縮末期のスペックル追跡画像は、拡張末期の画像に、対応する個々の軌跡とともに重ね合わされている(矢印の尾部と頭部は、拡張末期の位置と収縮末期の位置を示している。)。LVrotは、これらの局部的な角度変位のすべてから推定した。通常、この代表的な例と同様に、頂部高さでは、頂点からみて、左心室回転は左回りであり、基端部高さでは右回りである。二つの高さの間のLVrotの勾配は、左心室の「ねじれ」の動きを作り出す。頂端部および基底部の短軸像におけるスペックル追跡イメージングのビデオはwww.onlinejacc.orgに公開されている。」)

(引1-オ) Figure.1




(引1-カ) 第2036頁左欄第9行-右欄第5行
「LV ROTATION AND ROTATIONAL VELOCITY BY STI.
Measuring LVrot and LVrot-v by using STI on the workstation is accomplished in five steps: 1) The best-quality digital two-dimensional image cardiac cycle is selected. 2) The endocardium is traced in an optimal frame, from which a speckle tracking region of interest is automatically selected to approximate the myocardium between the endocardium and epicardium (Fig. 2). 3) The region of interest width is adjusted as needed to fit the wall thickness. 4) The computer automatically selects suitable stable objects for tracking and then searches for them in the next frame using the sum of absolute differences algorithm (5,9,10). 5) The speckle tracking algorithm provides a “track score,” a reliability parameter based on the degree of decorrelation of the block-matching, shown in each segment as a value from 1.0 to 3.0, with 1 indicating excellent tracking, 2, acceptable, and 3, poor tracking. We excluded segments 2.5. After these steps, the workstation computes LVrot and LVrot-v (Figs. 3B and 3C) profiles of each short-axis image (Figs. 1 and 2), defining the ventricular centroid from the midmyocardial line on each frame (Fig. 3A), an approach that is analogous to the MRI analysis described further in this work. The LVrot profile was smoothed temporally with cubic spline interpolation, from which LVrot-v was estimated by differentiation. Averaged (“global”) LVrot and LVrot-v data on the midmyocardial contour were used for the calculation for LV torsion. Data plots of the electrocardiogram and the basal and apical LVrot and LVrot-v STI data were exported to a spreadsheet program (Excel 2000, Microsoft Corp, Seattle, Washington) to calculate LVtor.」
(当審仮訳:「LVの回転とSTIによる回転速度。
ワークステーションでSTIを用いてLVrotとLVrot-Vを求めるには、以下の5ステップで達成される。
1)最も質の良いデジタル二次元画像の心臓周期が選択される。
2)最適なフレームにおいて、心内膜がトレースされ、それより、スペックル追跡の注目領域が心内膜と心外膜の間の心筋に近くなるように、自動的に選択される(図2)。
3)注目領域幅が壁厚にあうように調整する。
4)コンピュータが自動的に追跡するのに適する安定した対象を選択し、絶対的な差分のアルゴリズム(5,9,10)の合計を使用し、次のフレームでそれらを検索する。
5)スペックル追跡アルゴリズムがブロックマッチングの非相関性の程度に基づく信頼性を表す「トラックスコア」を提供する。それは各セグメントで、1,優れた追跡、2,容認できるもの、3,不十分な追跡、とされた、1.0から3.0で示されるものである。2.5のセグメントは除外した。
これらのステップの後、ワークステーションは、各短軸像(図1,2)からLVrotとLVrot-Vのプロファイル(図3Bおよび3C)を計算し、各々のフレームにおける心筋中央ラインより、心室中心を決定する。このアプローチは、MRI分析に類似している。
LVrotプロファイルはキュービックスプライン補間を用いて時間的に平滑化される。LVrot-Vは微分することによって求められる。
心電図のデータと基底部と頂端部のLVrotとLVrot-VのSTIデータはLVtorを計算するためにスプレッドシートプログラム(Excel 2000で、マイクロソフト社、シアトル、ワシントン州)にエクスポートされる。)

(引1-キ) 第2036頁下6行-最下行
「Figure 2. Speckle tracking of successive two-dimensional images obtained from a speckle tracking imaging movie at the apical level during systole in a representative patient. Shown is every sixth frame from successive apical short-axis images, from end-diastole (ED) (onset of QRS of the electrocardiogram)to end-systole (ES), as displayed on the workstation. The small red dots depict the endocardial (Endo) and epicardial (Epi) borders, with the midmyocardium shown more boldly, defining the region of interest. The colored points track individual locations throughout the cardiac cycle. The left ventricular (LV) centroid is shown as a small red cross in the LV cavity and is determined from the midmyocardial line in each frame. The blue crossed lines indicate the averaged LV rotation calculated from the angle displacement of all of mid-myocardial dots.
(当審仮訳:「図2.典型的な患者の、収縮期における、頂部高さでの、スペックル追跡イメージングの動画から得られた2次元の連続スペックル追跡画像。ワークステーション上に表示された、拡張末期(ED)(心電図のQRSの開始)から、収縮末期(ES)までの、連続的な頂部の短軸像からなる6つの画像(フレーム)を示す。小さい赤い点は、心内膜(Endo)と心外膜(Epi)の境界を明確化したものであり、注目領域を規定している。着色された点は、心臓サイクル全体を通じて個々の位置が追跡され、左心室(LV)の重心がLVの腔の中に小さな赤い十字で示されており、それは、各フレームの心筋の中央のラインから決定される。青の交差した線は心筋の中心点から算出されたLVの回転の平均を示す。」)

(引1-ク) Figure 2.




(引1-ケ) 第2037頁第1行-第5行
「Figure 3. (A) Quantification of local angle displacement of the specific region. A representative apical rotation is shown. Regional angle displacement (θ) was defined by position of a specific tissue element at two different time points and center of the gravity determined by the midmyocardial points. (B) and (C) Profile curve of left ventricular rotation and rotational velocity in a cardiac cycle displayed on the workstation. Left ventricular rotation was calculated from the average of regional points in the midmyocardium (B). Left ventricular rotational velocity was estimated by time-derivation of the left ventricular rotation profile (C). See Figure 2 legend for definitions of ED, ES, red cross, and blue lines.」
(当審仮訳:「図3.(A) 特定の領域の局所的な角度変位の定量化。典型的な頂端部の回転が示されている。局所的な角度変位(θ)が2つの異なる時点での特定の組織要素の位置と、心筋の中央点によって決定された重心によって決められる。 (B)と(C) ワークステーション上に表示された、心周期における左心室の回転と回転速度のプロファイルカーブ。左心室の回転は、心筋の中央の局所的な位置の平均値から算出される(B)。左心室の回転速度は、左心室回転プロファイルを時間微分することにより求められる(C)。 ED、ES、赤い十字、青のラインの定義については、図2の凡例を参照。」)

(引1-コ)Figure 3.




[引用文献1から理解できる事項]
(事項1) 上記摘記事項(引1-コ)のFigure 3.Aを参照すると、このFigure 3.Aは「overlaid image; ED+ES」であることから、拡張末期(ED)の画像と収縮末期(ES)の画像を重ねて重複画像として表示したものであり、上記摘記事項(引1-ケ)における「特定の組織要素の位置」が、Figure 3.Aにおいて、EDにおける「特定の組織要素の位置」とESにおける「特定の組織要素の位置」として表示されている。
そして、Figure 3.Aには、EDにおける「特定の組織要素の位置」、又は、ESにおける「特定の組織要素の位置」を起点とした直線が描かれており、上記摘記事項(引1-ケ)には、「局所的な角度変位(θ)が2つの異なる時点での特定の組織要素の位置と、心筋の中央点によって決定された重心によって決められる。」との記載があることから、Figure 3.Aにおいて、EDにおける「特定の組織要素の位置」又はESにおける「特定の組織要素の位置」を起点とする直線の、他方の点は「心筋の中央点によって決定された重心」であると認められ、それらの他方の点もFigure 3.Aに表示されている。
したがって、上記摘記事項(引1-コ)には、EDにおける「特定の組織要素の位置」を起点とし、「心筋の中央点によって決定された重心」を結ぶ仮想的な直線、及び、ESにおける「特定の組織要素の位置」を起点とし、「心筋の中央点によって決定された重心」を結ぶ仮想的な直線の、2本の直線を該重複画像に表示し、該仮想的な2本の直線から局所的な角度変位(θ)が決められる点が記載されていると認められる。

(事項2) 上記摘記事項(引1-コ)のFigure 3.Aにおいて、EDにおける「特定の組織要素の位置」から、ESにおける「特定の組織要素の位置」に向かう矢印が記載されていることから、EDにおける「特定の組織要素の位置」から、ESにおける「特定の組織要素の位置」への位置の移動の追跡を行っていると認められる。

(事項3) 上記(引1-ア)ないし(事項2)の記載を総合すると、上記引用文献1には、

「a) パーソナルコンピュータワークステーションを用い、心臓収縮期におけるねじれ運動を、超音波の波長よりも小さい構造からの後方散乱された超音波の干渉の結果である組織内のスペックルパターンが表示される静的Bスキャン超音波画像より、スペックル追跡による動きの解析に基づいて、LVtor(左心室ねじれ)の評価のためLVrot(短軸像におけるLVの中心軸の周りの角度変位)を測定する方法であり、
b) Bモードを使用してLVの断面である頂部及び基底部の短軸面をスキャンし、最も質の良いデジタル二次元画像の心臓周期が選択され、収縮期における、頂部高さでの、スペックル追跡イメージングの動画から、拡張末期(ED)(心電図のQRSの開始)から、収縮末期(ES)までの、連続的な頂部の短軸像を得、
c) EDにおける画像とESにおける画像とを重ねて、EDにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」と、ESにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」を重複画像に表示し、
d) EDにおける「特定の組織要素の位置」から、ESにおける「特定の組織要素の位置」への位置の移動の追跡を行うとともに、
e) EDにおける「特定の組織要素の位置」を起点とし、「心筋の中央点によって決定された重心」を結ぶ仮想的な直線、及び、ESにおける「特定の組織要素の位置」を起点とし、「心筋の中央点によって決定された重心」を結ぶ仮想的な直線の、2本の直線を該重複画像に表示し、該仮想的な2本の直線から局所的な角度変位(θ)が決められる、
f) LVrotを測定する方法。」

の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(2) 引用文献2の記載事項

引用文献2には、次の事項が記載されている。

(引2-ア) 第88頁左欄第12行-第16行
「【対象】人工気胸術,頸静脈曲線あるいは心エコー法による心室中隔の異常運動により診断した先天性左側完全型心膜欠損症21例(平均年齢 45±26歳,男性11例,女性10例)を対象とし,年齢を整合させた健康ボランティア20例と比較した。」

(引2-イ) 第88頁左欄第17行-第28行
「【方法】全例でM-mode心室中隔-左室後壁心エコー図および乳頭筋レベルの左室短軸断層図を記録した。短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が,拡張期から収縮期の間に偏位する角度(angular displacement)を左室の長軸を中心とした回転運動と考え,心尖部からみた回転方向を検討した。また,M-mode心室中隔-左室後壁エコーグラムにおいて壁運動速度をカラー表示し,その運動状況を検討した。装置は,東芝製SSA-380A超音波診断装置に3.75MHzの探触子を接続して用いた。」

(3) 対比
本願発明1と引用発明1を対比する。

ア 本願発明1のA)及びB)の特定事項について
(ア) 引用発明1のパーソナルコンピュータワークステーションがプロセッサ及びメモリを有することは明らかあるので、引用発明1の「パーソナルコンピュータワークステーションは、本願発明1の「プロセッサ及びメモリを有するコンピュータ」に相当する。
(イ) また、コンピュータを用いて処理を実施するのであれば、その処理の各ステップは、プロセッサが実施することは、当業者にとって明らかである。
(ウ) 引用発明1のLVは、本願発明1の「左心室」に相当する。
(エ) 引用発明1は「a)・・・LVtor(左心室ねじれ)の評価のためLVrot(短軸像におけるLVの中心軸の周りの角度変位)を測定する方法」であり、本願発明1は、「左心室の少なくとも1つのねじれ角を決定する方法」であることから、本願発明1と引用発明1は、「左心室のねじれ」に着目した「方法」である点で共通する。
よって、本願発明1と引用発明1は、「プロセッサ及びメモリを有するコンピュータ」を用いた、「左心室のねじれ」に着目した「方法」であって、「前記プロセッサが、」各々の「ステップを実施する方法。」である点で共通する。

イ 本願発明1のC)の特定事項について
引用発明は、本願発明C)の特定事項を具備していない。

ウ 本願発明1のD)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「拡張末期(ED)」及び「収縮末期(ES)」は、それぞれ、本願発明1の「心収縮位相の開始時」及び「心収縮位相の終了時」に相当する。
(イ) 引用発明1の「b)・・・LVの断面である」「頂部高さでの」「c)・・・EDにおける画像」は、本願発明1の「心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像」に相当し、引用発明1の「b)・・・LVの断面である」「頂部高さでの」「c)・・・ESにおける画像」は、本願発明1の「心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明1は、「心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るステップ」を備える点で共通する。

エ 本願発明1のE)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「c) EDにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」」は、「e)EDにおける」「仮想的な直線」を表示するためのものである。一方、本願発明1は、「心収縮位相の開始時の第1ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に少なくとも2つの第1のトラッキング点を位置する」ものである。
(イ) 引用発明1の「e)EDにおける」「仮想的な直線」は、「a)・・・LVtor(左心室ねじれ)の評価のため」に表示されるものであるから、「ねじれ線」といえる。
そして、本願発明1の「第1のねじれ線」と引用発明1の「e)EDにおける」「仮想的な直線」は、心収縮位相の開始時の第1の2次元短軸像に描かれる「第1のねじれ線」といえる点で共通し、また、本願発明1の「少なくとも2つの第1のトラッキング点」と、引用発明1の「c) EDにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」は、前記「第1のねじれ線」を描くための、「第1の少なくとも2つの点」である点で共通する。
(ウ) そして、本願発明1と引用発明1は、ともに、前記「第1の少なくとも2つの点」を位置させるステップを備えることは、明らかである。
(エ) よって、本願発明1と引用発明1は、「心収縮位相の開始時の」「第1のねじれ線」を描くため、「前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に第1の少なくとも2つの」「点を位置するステップ」を備える点で共通する。

オ 本願発明1のF)の特定事項について
(ア) 引用文献1の「c)・・・ESにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」」は、「e)・・・ESにおける「特定の組織要素の位置」を起点とし、「心筋の中央点によって決定された重心」を結ぶ仮想的な直線」を表示するためのものである。一方、本願発明1は、「心収縮位相の開始時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に少なくとも2つの第2のトラッキング点を位置する」ものである。
(イ) 引用発明1の「e)・・・ESにおける」「仮想的な直線」は、「a)・・・LVtor(左心室ねじれ)の評価のため」に表示されるものであるから、「ねじれ線」といえる。
そして、本願発明1の「第2のねじれ線」と引用発明1の「e)ESにおける」「仮想的な直線」は、心収縮位相の終了時の第2の2次元短軸像に描かれる「第2のねじれ線」といえる点で共通し、また、本願発明1の「少なくとも2つの第2のトラッキング点」と、引用発明1の「c)・・・ESにおける「特定の組織要素の位置」及び「心筋の中央点によって決定された重心」は、前記「第2のねじれ線」を描くための、「第2の少なくとも2つの点」である点で共通する。
(ウ) そして、本願発明1と引用発明1は、ともに、前記「第2の少なくとも2つの点」を位置させるステップを備えることは、明らかである。
(エ) よって、本願発明1と引用発明1は、「心収縮位相の終了時の」「第2のねじれ線」を描くため、「前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に第2の少なくとも2つの」「点を位置するステップ」を備える点で共通する。

カ 本願発明のG)の特定事項について
(ア) 引用発明1の「EDにおける・・・仮想的な直線」と「ESにおける・・・仮想的な直線の、2本の直線を該重複画像に表示し、該仮想的な2本の直線から局所的な角度変位(θ)が決められる」ことは、「第1のねじれ線」と「第2のねじれ線」を交差させ、それらの直線のなす角が求められることであるから、本願発明1と引用発明1は、「心収縮位相の開始時の」「第1のねじれ線」及び「心収縮位相の終了時の」「第2のねじれ線」の交差により形成される角度」を求める点で両者は共通する。

キ 以上のことから、本願発明1と引用発明1は、以下の点で一致する。

「 プロセッサ及びメモリを有するコンピュータを用いた、左心室のねじれに着目した方法であって、
前記プロセッサが、
心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るステップと、
心収縮位相の開始時の第1のねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に第1の少なくとも2つの点を位置するステップと、
心収縮位相の終了時の第2のねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に第2の少なくとも2つの点を位置するステップと、
心収縮位相の開始時の第1のねじれ線及び心収縮位相の終了時の第2のねじれ線の交差により形成される角度を求めるステップ
を実施する方法。」

そして、両者は以下の点で相違する。

<相違点1>
心収縮位相の開始時に得られる、左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るにあたって、本願発明1は、「左心室の3次元超音波データを入力するステップ」を備え、前記左心室の3次元超音波データより、それらの2次元短軸像を得ているのに対して、引用発明1は、そのような構成になっていない点。

<相違点2>
第1のねじれ線、及び、第2のねじれ線を描くための、第1の少なくとも2つの点、及び、第2の少なくとも2つの点が、本願発明1は、それぞれ、第1のトラッキング点、及び、第2のトラッキング点であり、第1のトラッキング点が、第1の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含み、第2のトラッキング点が、第2の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含むのに対して、引用発明1は、スペックル追跡による動きの解析に基づくものであり、そのような構成になっていない点。

<相違点3>
左心室のねじれに着目した方法が、本願発明1は、左心室の少なくとも1つのねじれ角を決定する方法であり、第1ねじれ線及び第2ねじれ線の交差により形成される角度を、前記左心室の前記少なくとも1つのねじれ角として計算するステップを備え、さらに、前記計算された少なくとも1つのねじれ角を、前記左心室の正常なねじれ角を表すデータと比較して、前記計算された少なくとも1つのねじれ角が正常であるかどうか判定するステップと、前記計算された少なくとも1つのねじれ角を、前記左心室の正常なねじれ角を表すデータと比較して、前記計算された少なくとも1つのねじれ角が正常であるかどうか判定するステップをさらに備えるのに対して、引用発明1は、そのような構成になっていない点。

(4) 判断
ア 相違点2について
上記の各相違点のうち、相違点2について、まず検討する。
引用文献2には、「短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が,拡張期から収縮期の間に偏位する角度(angular displacement)を左室の長軸を中心とした回転運動と考え,心尖部からみた回転方向を検討した」旨の記載((引2-イ)参照。)があることから、乳頭筋レベルの左室短軸断層図を用い、短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が拡張期から収縮期の間に偏位する角度を左室の長軸を中心とした回転運動と考える点が記載されている。
したがって、引用文献2には、「偏位する角度(angular displacement)」を求めるための線を描くための2つの部位を「短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心」とした点が記載されている。
そこで、引用文献2に記載された事項を、引用発明1に適用することの動機付けの有無について検討すると、引用文献1((引1-ア)参照。)には、「従前の研究者らは、乳頭筋や僧帽弁のように識別容易な解剖学的目印の移動を肉眼的に追跡するために、短軸エコースキャンを使用して、LV回転(LVrot)/ LVtorにアプローチした(2,3)。」との記載があり、また、「静的Bスキャン超音波画像の特徴の一つは、超音波の波長よりも小さい構造からの後方散乱された超音波の干渉の結果である組織内のスペックルパターンが表示されることである(4)。スペックル追跡による動きの解析はブロックマッチングと自己相関探索アルゴリズムを用いて試みられており(5-7)、変位が小さい場合には、スペックルの動きは、その下にある組織の動きに密接に関係している(6)。この変位推定技術に基づいて、LVtorの評価のためLVrot(短軸像におけるLVの中心軸の周りの角度変位)を測定することができる。」との記載があることから、引用発明1は、乳頭筋や僧帽弁のように識別容易な解剖学的目印を追跡していた従来の手法を改良するために、スペックル追跡による動きの解析を行ったものである。したがって、引用発明1において、「第1のねじれ線、及び、第2のねじれ線を描くための、第1の少なくとも2つの点、及び、第2の少なくとも2つの点」として、引用文献2に記載された「偏位する角度(angular displacement)」を求めるための線を描くための2つの部位を「短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心」とした点を採用することは、敢えて従前の構成に戻すことであり、そのようなことを行う必然性は見出せず、引用発明1に引用文献2に記載された事項を適用するにあたっては、阻害要因が存在すると認められる。
よって、本願発明1における相違点2に係る構成は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

イ 相違点3について
相違点3について、以下に検討する。
引用文献2には、乳頭筋レベルの左室短軸断層図を用い、短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が拡張期から収縮期の間に偏位する角度を左室の長軸を中心とした回転運動と考える点が記載されている。そして、この「左室の長軸を中心とした回転運動」は、ねじれ運動にほかならないことから、ここにおける「偏位する角度」は、「左心室の」「ねじれ角」といえる。
しかしながら、引用文献2には、「偏位する角度」を、正常な数値又は数値範囲を表すデータと比較して、正常であるかどうかを判定する点は記載されていない。
すなわち、引用文献2には、「心室中隔の異常運動により診断した先天性左側完全型心膜欠損症21例」と、「年齢を整合させた健康ボランティア20例」との比較((引2-ア)参照。)を行った旨は記載されているが、何らかの測定値を、正常な数値又は数値範囲を表すデータと比較して、正常であるかどうかを判定する点は記載されていない。
したがって、本願発明1の相違点3に係る構成は、引用発明1に引用文献2に記載された事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) 小括
以上のことから、本願発明1は、当業者が、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願の請求項2に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本願の請求項3に係る発明は、「方法」の発明である本願発明1のカテゴリーを「装置」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項3に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない
また、本願の請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の発明特定事項をすべて含み、請求項3に係る発明をさらに限定したものであるので、請求項3に係る発明と同様に、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本願の請求項5に係る発明は、「方法」の発明である本願発明1のカテゴリーを「プログラム」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項5に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、引用発明1、及び、引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の[理由1]によっては、本願を拒絶することはできない。

[理由2]及び[理由3]について
拒絶査定時の請求項7に係る発明は、平成26年7月4日付けの拒絶査定不服審判の請求と同時になされた手続補正により削除されたため、原査定の[理由2]及び[理由3]は、判断を要しない。

第4 当審拒絶理由1の概要

当審拒絶理由1の概要は、次のとおりである。

[理由1]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1において、「前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に、前記少なくとも2つのトラッキング点を外挿し、心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも2つのトラッキング点をトラッキングするステップ」とあるが、ここにおける「外挿」が、どのような意味で用いられているのか不明である。
請求項3における「前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に前記少なくとも2つのトラッキング点を外挿して心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも2つのトラッキング点をトラッキングし、」の記載について、及び、請求項5における「前記少なくとも2つのトラッキング点の前記位置を前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像上に外挿し、心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも2つのトラッキング点をトラッキングするステップ」の記載についても同様である。
また、請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明、及び、請求項3の記載を引用する請求項4に係る発明についても同様である。
よって、請求項1ないし5に係る発明は明確でない。

(2)請求項1において、「前記計算された少なくとも1つのねじれ角を正規化されたねじれ角データと比較するステップ」とあるが、「正規化された」とは、どのような態様を表現しているのか不明であり、請求項1に係る発明が明確に把握できない。
請求項3における「前記計算された少なくとも1つのねじれ角を正規化されたねじれ角データと比較する処理手段」における「正規化された」の記載、請求項5における「前記計算された少なくとも1つのねじれ角を正規化されたねじれ角データと比較するステップ」における「正規化された」の記載についても同様であり、請求項3に係る発明及び請求項5に係る発明も明確に把握できない。
請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明、及び、請求項3の記載を引用する請求項4に係る発明についても同様である。
よって、請求項1ないし5に係る発明は明確でない。

[理由2]
本願の請求項1ないし5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2003-250804号公報(以下、「引用文献A」という。)及び「山田博胤、他,左側完全型心膜欠損症における心室中隔の収縮期および拡張期異常運動の発生機序:断層心エコー法および組織ドプラ法による検討,日本超音波医学会 第67回研究発表会 講演抄録集,日本,(社)日本超音波医学会,1996年 6月,第23巻 supplement I,第88頁」(以下、「引用文献B」という。原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2に相当する。)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 当審拒絶理由1の判断

[理由1]について
(1)に関して
平成28年4月1日付けでなされた手続補正により、補正前の請求項1における「前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に、前記少なくとも2つのトラッキング点を外挿し、心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも2つのトラッキング点をトラッキングするステップ」の記載が、「心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に前記少なくとも2つのトラッキング点を位置するステップであって、前記少なくとも2つのトラッキング点は、前記第2ねじれ線を描くために、前記第2の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含む、ステップ」に補正された。
その結果、「少なくとも2つのトラッキング点を外挿し」の記載が無くなり、記載が明確になった。
また、補正後の請求項2ないし5についても同様の補正がされた。
よって、請求項1ないし5に係る発明は明確になった。

(2)に関して
上記手続補正により、補正前の請求項1における「前記計算された少なくとも1つのねじれ角を正規化されたねじれ角データと比較するステップ」の記載が、「前記計算された少なくとも1つのねじれ角を、前記左心室の正常なねじれ角を表すデータと比較して、前記計算された少なくとも1つのねじれ角が正常であるかどうか判定するステップ」と補正された。
その結果、「正規化された」の記載が無くなり、記載が明確になった。
また、補正後の請求項2ないし5についても同様の補正がされた。
よって、請求項1ないし5に係る発明は明確になった。

したがって、上記補正後の請求項1ないし5に係る発明は明確となり、当審拒絶理由2の[理由1]によっては、本願を拒絶することはできない。

[理由2]について
(1) 引用文献Aの記載事項

引用文献Aには、次の事項が記載されている。

(引A-ア) 「【請求項1】
被検体内の情報を表した画像データを求める画像処理手段と、
前記画像データに基づいて、位置の移動が追跡可能な複数の特徴点を抽出する抽出手段と、
前記特徴点の移動を追跡する追跡手段と、
前記追跡手段による追跡結果に基づいて、特定の物理パラメータを算出する物理パラメータ算出手段と、
を含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】 前記画像データに複数の関心領域を設定する関心領域設定手段を有し、
前記物理パラメータ算出手段は、前記関心領域それぞれに含まれている複数の前記特徴点の情報に基づいて前記物理パラメータを求めるものであることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】 前記関心領域設定手段は、心臓又は心筋領域の輪郭を抽出し、この抽出結果に基づいて前記関心領域を前記画像上に設定するものであることを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。」

(引A-イ) 「【0026】
装置本体10は、コントローラ34を装置全体の制御中枢として、超音波プローブ2に接続された送信系11及び受信系12、被検体のBモード断層像を得るためのBモード処理部13、ドプラ処理部14、出力側に置かれたDSC(デジタルスキャンコンバータ)部21、イメージメモリ22、抽出された特徴点の追跡(トラッキング)を行うためのトラッキング演算部24、イメージメモリ22の画像情報に対して特徴点、格子状の関心領域などのグラフィックデータ等の画像合成などの処理を行うメモリ制御部25、前記特徴点や格子状の関心領域の表示態様(色や形状)などのグラフィックデータをコントローラ34の指示に応答して生成するデータ発生部26(カラーコーディング回路等を搭載する)、操作インターフェース31、装置制御プログラム・(本発明で主要な)特徴点を抽出するための演算プログラム、物理パラメータを算出するためのプログラム等の各種プログラムを記憶した記憶媒体32、その他のインターフェース33、操作入力部3からの操作信号を操作インターフェース31を介して受けるコントローラ34、を具備している。これらは集積回路などのハードウェアで構成されることもあるが、ソフトウェア的にモジュール化されたソフトウェアプログラムである場合もある。」

(引A-ウ) 「【0040】
操作者は、計測を行うための「関心時相(関心期間範囲)」を操作入力部3内の関心時相設定手段により設定する。これにより、イメージメモリ22のうち所定の部分が関心時相範囲として指定される。関心時相の設定が終了し、操作者により再生開始が指示されることにより、関心時相範囲のみの画像がループ再生される。例えば、関心時相をある心拍の収縮期に設定すれば、この収縮期についてのみの表示が行えることになる。
【0041】このような、関心時相範囲を設定したのち、この関心時相範囲内の画像上において特徴点抽出用の関心領域(ROI)を操作入力部3によって設定する。特徴点抽出用の関心領域(ROI)は、メモリ制御部25及びDSC部21からの制御により、生体画像上に重畳表示されるものとする。
【0042】ここで、操作者が、トラッキング可能な特徴点を自動表示させるためのモードに移行することにより、イメージメモリ22に記憶された画像データに基づいて、特徴点抽出プログラムによる特徴点抽出処理が行われ、前記関心時相の関心領域についての前記特徴点の表示が行われる。そして、当該特徴点に基づいてトラッキング演算部24により時間的に追跡(トラッキング)演算が行われ、この結果に基づいて、物理パラメータ算出プログラムは、歪み等の種々の物理パラメータを算出する。演算結果は表示部4上に表示される。
【0043】本実施形態では、画像情報をイメージメモリ22において一旦記憶し、その画像上において抽出された特徴点を重畳表示できるようになっており、必要な特徴点に対して時間的にトラッキングを行い、トラッキング結果に基づいて歪み等の物理パラメータを算出が行われるものとなっている。ここで言う物理パラメータとは、組織の歪み、距離、速度、加速度等である。」

(引A-エ) 「【0153】
本実施の形態では、例えば乳頭筋や弁輪あるいは心筋内任意の代表的な部位についての追跡(トラッキング)を実施し、これをもとに例えば心臓のマクロな構造に関する臨床的に重要な情報を提供できるようにしている。」

(引A-オ) 「【0172】上述の各々の実施の形態では、通常の2次元画像を表示する超音波診断装置について詳述したが、近年ではリアルタイムで3次元画像が収集可能な超音波診断装置が提案されている。この場合、任意の断面を切り出して2次元像を構成し、これに前記各実施の形態を適用してもよいし、あるいは3次元のボクセルデータに対して3次元的な格子状関心領域を作成し、3次元のトラッキングを行うことで種々の3次元的物理パラメータを演算表示可能である。」

よって、上記(引A-ア)ないし(引A-オ)の記載に照らして方法の発明として整理すると、引用文献Aには、

「k) コントローラ34、イメージメモリ22を具備する装置本体10による、
l) 心臓の、組織の歪み、距離、速度、加速度等の物理パラメータを求める方法であり、
m) 3次元画像から任意の断面を切り出して2次元像を構成するものであり、
n) 画像情報を、イメージメモリ22において一旦記憶し、
o) イメージメモリ22のうち所定の部分が関心時相範囲として指定され、
p) イメージメモリ22に記憶された関心時相範囲内の画像データに基づいて、位置の移動が追跡可能な、乳頭筋や弁輪等の、複数の特徴点を抽出する特徴点抽出処理が行われ、
q) 必要な特徴点に対して時間的にトラッキングを行い、トラッキング結果に基づいて物理パラメータの算出が行われる、
方法。」

の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されている。

(2) 引用文献Bの記載事項

引用文献Bには、次の事項が記載されている。

(引B-ア) 第88頁左欄第4行-第5行
「【背景】・・・収縮期に奇異性運動を示すS typeと,拡張期に異常な後方運動を示すD type,・・・」

(引B-イ) 第88頁左欄第12行-第16行
「【対象】人工気胸術,頸静脈曲線あるいは心エコー法による心室中隔の異常運動により診断した先天性左側完全型心膜欠損症21例(平均年齢 45±26歳,男性11例,女性10例)を対象とし,年齢を整合させた健康ボランティア20例と比較した。」

(引B-ウ) 第88頁左欄第17行-第28行
「【方法】全例でM-mode心室中隔-左室後壁心エコー図および乳頭筋レベルの左室短軸断層図を記録した。短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が,拡張期から収縮期の間に偏位する角度(angular displacement)を左室の長軸を中心とした回転運動と考え,心尖部からみた回転方向を検討した。また,M-mode心室中隔-左室後壁エコーグラムにおいて壁運動速度をカラー表示し,その運動状況を検討した。装置は,東芝製SSA-380A超音波診断装置に3.75MHzの探触子を接続して用いた。」

(引B-エ) 第88頁左欄第29行-第34行
「【結果】・・・S typeでは・・・乳頭筋のangular displacementは有意な変化を示さなかった。一方、D typeでは、・・・乳頭筋のangular displacementは過大な反時計式反転を示した.」

(引B-オ) 第88頁左欄第5行-第10行
「【結語】先天性左側完全型心膜欠損症においては,心室中隔は収縮期および拡張期のいずれにおいても異常運動を示す。収縮期にみられる異常運動は左室全体が前後方向に偏位することによって出現し,拡張期にみられる異常運動は左室の長軸を中心とした異常回転運動により出現するものと考えられた.」

(3) 対比
請求項1に係る発明と、引用発明Aとを対比する。

ア 本願発明1のA)及びB)の特定事項について
(ア) 引用発明Aにおける装置本体10は、コントローラ34とイメージメモリ22を備えているものであるから、引用発明Aの方法を実施する主体はコンピュータといえる。そして、コントローラ34がプロセッサを備え、該プロセッサが各々のステップを制御していることは当業者にとって明らかである。
(イ) 引用発明Aの「イメージメモリ」は、本願発明1の「メモリ」に相当する。
(ウ) 引用発明Aの「心臓の、組織の歪み、距離、速度、加速度等の物理パラメータ」と、本願発明1の「左心室の少なくとも1つのねじれ角」とは、「心臓に関する物理パラメータ」である点で共通する。
(エ) 引用発明Aの「求める」は、本願発明1の「決定する」に相当する。
(オ) よって、本願発明1と引用発明Aは、「プロセッサ及びメモリを有するコンピュータにおいて、」「心臓に関する物理パラメータ」「を決定する方法」であり、「前記プロセッサが、」各々の「ステップを実施する方法」である点で共通する。

イ 本願発明1のC)の特定事項について
(ア) 引用発明Aの「2次元像」と、本願発明1の「少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「少なくとも1つの第2の2次元短軸像」とは、「2次元像」である点で両者は共通する。
(イ) 引用発明Aは、「任意の断面」の「2次元像」を切り出すために「3次元画像」を用いていることから、引用発明Aは、「3次元画像」を構成するために、3次元画像のためのデータを備えていることは明らかであるから、本願発明1と、引用発明Aは、「3次元超音波データ」を備えた点で一致する。そして、引用発明Aにおいて、装置本体10への「3次元画像」のためのデータの入力が実施されることも、当業者にとって明らかである。
(ウ) よって、本願発明1と引用発明Aは、「2次元像」を得るため、「3次元超音波データを入力するステップ」を実施する点で共通する。

ウ 本願発明1のD)ないしF)の特定事項について
(ア) 引用発明Aにおける「特徴点」は、時間的にトラッキングを行うためのものであるから、トラッキング点といえ、その点は、関心時相範囲内の画像データに基づいて、乳頭筋によって特徴付けられる点である。一方、本願発明1における「少なくとも2つの第1のトラッキング点」と「少なくとも2つの第2のトラッキング点」は、それぞれ、「2次元短軸像内」の「前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられる」点である。
よって、本願発明1と引用発明Aは、画像内において乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を備えた点で共通する。
(イ) 引用発明Aにおいて、「画像データに基づいて、」「特徴点」を「抽出」することは、画像上における「特徴点」を特定することであり、「特徴点」を位置するステップを備えているといえる。
よって、本願発明1と引用発明Aは、画像内において乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を位置するステップを備える点で共通する。
(ウ) また、引用発明Aは、「関心時相範囲」において「時間的にトラッキング」を行っていることから、「トラッキングの開始時点」と「トラッキングの終了時点」が存在することは明らかである。そして、「トラッキングの開始時点」及び「トラッキングの終了時点」は、それぞれ、「第1の時相」及び「第2の時相」といえる。一方、本願発明1の「心収縮位相の開始時」及び「心収縮位相の終了時」も、それぞれ、「第1の時相」及び「第2の時相」といえる。
(エ) したがって、本願発明1と引用発明Aは、「第1の時相」の画像において、乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を位置するステップと、「第2の時相」の画像において、乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を位置するステップとを備える点で共通する。

エ 本願発明1のG)の特定事項について
(ア) 引用発明Aは、トラッキング結果に基づいて物理パラメータの算出が行われるものである。一方、本願発明Aは、「心収縮位相の開始時の前記第1ねじれ線及び心収縮位相の終了時の前記第2ねじれ線の交差により形成される角度を、前記左心室の前記少なくとも1つのねじれ角として計算する」ものであるが、「第1ねじれ線」と「第2ねじれ線」はそれぞれ、「第1の時相」におけるトラッキング点、及び、「第2の時相」におけるトラッキング点によって導かれるものであるから、「第1の時相」と「第2の時相」のトラッキング結果に基づいて計算されたものといえる。
(イ) 引用発明Aの「算出が行われる」ことは、本願発明1の「計算する」ことに相当する。
(ウ) よって、本願発明1と引用発明Aは、「第1の時相」と「第2の時相」のトラッキング結果に基づいて物理パラメータを「計算するステップ」を備える点で共通する。

オ 本願発明1のH)の特定事項について
引用発明Aは、本願発明1のH)の特定事項を具備していない。

カ 以上のことから、本願発明1と引用発明Aは、以下の点で一致する。

「A’) プロセッサ及びメモリを有するコンピュータにおいて、心臓に関する物理パラメータを決定する方法であり、
B’) 前記プロセッサが、
C’) 2次元像を得るため、3次元超音波データを入力するステップと、
D’) 第1の時相の画像において、乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を位置するステップと、
E’) 第2の時相の画像において、乳頭筋に位置付けられるトラッキング点を位置するステップと、
G’) 第1の時相と第2の時相のトラッキング結果に基づいて物理パラメータを計算するステップ
を実施する方法。」

そして、両者は以下の点で相違する。

<相違点A>
心臓に関する物理パラメータが、本願発明1は、左心室の少なくとも1つのねじれ角であり、本願発明1は、該ねじれ角を決定するにあたって、心収縮位相の開始時の第1ねじれ線を描くため、第1の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられる少なくとも2つの第1のトラッキング点を位置させるステップ、心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、第2の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられる少なくとも2つの第2のトラッキング点を位置させるステップ、及び、心収縮位相の開始時の前記第1ねじれ線及び心収縮位相の終了時の前記第2ねじれ線の交差により形成される角度を、前記左心室の前記少なくとも1つのねじれ角として計算するステップを備えているのに対して、引用発明Aは、そのようなステップを備えていない点。

<相違点B>
「第1の時相」、及び、「第2の時相」が、本願発明1は、「心収縮位相の開始時」、及び、「心収縮位相の終了時」であるが、引用発明Aは、その点が特定されていない点。

<相違点C>
2次元像が、本願発明1は左心室の少なくとも1つの2次元短軸像であるのに対して、引用発明Aでは、その点が特定されていない点。

<相違点D>
求められた物理パラメータの判定に関して、本願発明1は、計算された少なくとも1つのねじれ角を、左心室の正常なねじれ角を表すデータと比較して、前記計算された少なくとも1つのねじれ角が正常であるかどうか判定するステップを備えているのに対して、引用発明Aは、その点が不明である点。

(4) 判断
ア 相違点Aについて
上記の各相違点のうち、相違点Aについて、以下に検討する。
引用文献Bには、「短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が,拡張期から収縮期の間に偏位する角度(angular displacement)を左室の長軸を中心とした回転運動と考え,心尖部からみた回転方向を検討した」旨の記載((引B-ウ)参照。)があることから、乳頭筋レベルの左室短軸断層図を用い、短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が拡張期から収縮期の間に偏位する角度を左室の長軸を中心とした回転運動と考える点が記載されている。そして、この「左室の長軸を中心とした回転運動」は、ねじれ運動にほかならないことから、ここにおける「偏位する角度」は、「左心室の」「ねじれ角」といえる。
そこで、引用文献Bにおける「拡張期」及び「収縮期」が何を示すかを検討すると、(引B-ア)における「収縮期に奇異性運動を示すS typeと,拡張期に異常な後方運動を示すD type」の記載、(引B-オ)における「心室中隔は収縮期および拡張期のいずれにおいても異常運動を示す。」の記載、「収縮期にみられる異常運動」の記載、「拡張期にみられる異常運動」の記載等を参照すると、引用文献Bに記載の「拡張期」は、収縮期とは明確に区別されて使用されている語であり、拡張期の特定の1時点を指すのではなく、拡張期の期間全体を意図した語であることは明らかである。同様に、引用文献Bに記載の「収縮期」も、拡張期とは明確に区別されて使用されている語であり、収縮期の期間全体を意図した語であることは明らかである。
したがって、引用文献Bに記載された事項における「拡張期」が本願発明1の「心収縮位相の開始時」に、引用文献Bに記載された事項における「収縮期」が本願発明1の「心収縮位相の終了時」に相当するとはいえず、引用文献Bにおいて、「乳頭筋レベルの左室短軸断層図を用い、短軸像の前乳頭筋および後乳頭筋の中心を結ぶ線が拡張期から収縮期の間に偏位する角度」を求める点が記載されていても、本願発明1における「心収縮位相の開始時の第1ねじれ線」を描くためのステップ、及び、「心収縮位相の終了時の第2ねじれ線」を描くためのステップが記載されているとは認められず、引用発明Aに、引用文献Bに記載された事項を適用しても、上記相違点Aに係る構成とはならない。
よって、本願発明1の相違点Aに係る構成が、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

イ 相違点Dについて
相違点Dについて、以下に検討する。
上記「ア」に示したように、引用文献Bに記載された事項における「偏位する角度」は、「左心室の」「ねじれ角」といえるとともに、引用文献Bには、「心室中隔の異常運動により診断した先天性左側完全型心膜欠損症21例」と、「年齢を整合させた健康ボランティア20例」との比較((引B-イ)参照。)を行った旨は記載されている。
しかしながら、引用文献Bには、何らかの測定値を、正常な数値又は数値範囲を表すデータと比較して、正常であるかどうかを判定する点は記載されていない。
したがって、本願発明1の相違点Dに係る構成は、引用発明Aに引用文献Bに記載された事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

よって、上記相違点B及びCについて検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 小括
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願の請求項2に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本願の請求項3に係る発明は、「方法」の発明である本願発明1のカテゴリーを「装置」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項3に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない
また、本願の請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の発明特定事項をすべて含み、請求項3に係る発明をさらに限定したものであるので、請求項3に係る発明と同様に、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本願の請求項5に係る発明は、「方法」の発明である本願発明1のカテゴリーを「プログラム」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項5に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、引用発明A、及び、引用文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、当審拒絶理由1の[理由2]によっては、本願を拒絶することはできない。

第6 当審拒絶理由2の概要

当審拒絶理由2の概要は、次のとおりである。

本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1、2及び5について
請求項1において、「心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るため、前記左心室の3次元超音波データを入力するステップ」と記載されていることから、「3次元超音波データ」の入力が行われることは理解できるが、「3次元超音波データ」から、「左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像」を得るステップが記載されていないことから、続く「心収縮位相の開始時の第1ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に少なくとも2つのトラッキング点を位置するステップ」及び「心収縮位相の終了時の第2ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第2の2次元短軸像に前記少なくとも2つのトラッキング点を位置するステップ」における、「左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像」がどこから得られるのか不明であり、請求項1に係る発明が不明確である。
請求項5に係る発明、及び、請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明についても同様である。
よって、請求項1、2及び5に係る発明が明確でない。

(2)請求項1ないし5について
請求項1において、「左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像」に位置される「少なくとも2つのトラッキング点」と、「少なくとも1つの第1の2次元短軸像」に位置される「少なくとも2つのトラッキング点」に関して、両者の区別がされていないことから、請求項1の記載が不明確になっている。
同様のことは、請求項2ないし5に係る発明についてもいえる。
よって、請求項1ないし5に係る発明が明確でない。

(3)請求項3、4について
請求項3に係る発明において、「データ取得ハードウェア」によって収集された「心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るため」の「左心室の3次元超音波データ」から、「少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「少なくとも1つの第2の2次元短軸像」を生成するための手段が特定されていないところ、そのような手段を欠くにもかかわらず、処理手段においては、これらの「2次元短軸像」を用いた処理を行うものとなっている点で、技術的に正しくないものが特定されることとなるため、請求項3に係る発明が明確に把握できない。
請求項3の記載を引用する請求項4に係る発明についても同様である。
よって、請求項3及び4に係る発明が明確でない。

(4)請求項3、4について
請求項3において、「心収縮位相の開始時の第1ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像に少なくとも2つのトラッキング点を位置することに使用するディスプレイであって、前記少なくとも2つのトラッキング点は、前記第1ねじれ線を描くために、前記第1の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含む、ディスプレイ」とあるが、「前記少なくとも2つのトラッキング点は、前記第1ねじれ線を描くために、前記第1の2次元短軸像内の前乳頭筋及び後乳頭筋上にそれぞれ位置付けられるトラッキング点を含む、」の記載が、「ディスプレイ」のどのような構成を特定しているのか不明である。
したがって、請求項3に係る発明がどのようなものであるのか明確に把握できない。
請求項3の記載を引用する請求項4に係る発明ついても同様である。
よって、請求項3及び4に係る発明が明確でない。」

第7 当審拒絶理由2の判断

(1)について
平成28年8月19日付けの手続補正により、補正前の「心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るため、前記左心室の3次元超音波データを入力するステップ」の記載が、「前記左心室の3次元超音波データより、心収縮位相の開始時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、前記心収縮位相の終了時に得られる、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得るステップ」に記載に補正された。したがって、「左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像」がどこから得られるのかが明確になった。
したがって、請求項1、2及び5に係る発明は明確になった。

(2)について
上記手続補正により、補正前の「少なくとも2つのトラッキング点」が、「少なくとも2つの第1のトラッキング点」又は「少なくとも2つの第2のトラッキング点」に補正され、各々のトラッキング点の区別が明確になった。
したがって、請求項1ないし5に係る発明は明確になった。

(3)について
上記手続補正により、「前記左心室の3次元超音波データより、前記左心室の少なくとも1つの第1の2次元短軸像、及び、前記左心室の少なくとも1つの第2の2次元短軸像を得ることと、」の記載が追加され、、「少なくとも1つの第1の2次元短軸像」及び「少なくとも1つの第2の2次元短軸像」を生成するための手段の存在が明確化された。
したがって、請求項3及び4に係る発明は明確になった。

(4)について
上記手続補正により、「ディスプレイ」が、「上記の各処理において、少なくとも、心収縮位相の開始時の前記第1ねじれ線を描くため、前記少なくとも1つの第1の2次元短軸像を表示し、前記少なくとも2つの第1のトラッキング点を位置させるために使用される」ものである点が特定された。
したがって、請求項3及び4に係る発明は明確になった。

以上のことから、上記手続補正による補正後の請求項1ないし5に係る発明は明確となり、当審拒絶理由2によっては、本願を拒絶することはできない。

第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由、当審拒絶理由1、及び、当審拒絶理由2によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-27 
出願番号 特願2009-526182(P2009-526182)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 14- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎泉 卓也  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 小川 亮
▲高▼橋 祐介
発明の名称 左心室のねじれを測定するシステム及び方法  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  

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