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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1319671
審判番号 不服2016-144  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-05 
確定日 2016-10-11 
事件の表示 特願2011-163620号「空気入りラジアルタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年2月7日出願公開、特開2013-28200号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月26日の出願であって、平成27年9月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年1月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年1月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1)特許請求の範囲について
本件補正は、特許請求の範囲の補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものであって、補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りラジアルタイヤであって、
各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ、
タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし、
該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させてなる空気入りラジアルタイヤ。
(補正前の請求項2)
車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなる請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
(補正前の請求項3)
少なくとも一方のサイドウォール部で、前記半径方向内側円弧部よりタイヤ半径方向内側に、変曲点を介してビードトウまで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部を設け、
前記変曲点を、タイヤ半径方向で、ビードフィラの前記半径方向外端と、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点との間に位置させてなる請求項1または2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
(補正前の請求項4)
ビードフィラの前記半径方向外端を、カーカスプライの折り返し端よりタイヤ半径方向内側に配置してなる請求項3に記載の空気入りラジアルタイヤ。
(補正前の請求項5)
タイヤ赤道面よりも車両装着姿勢でタイヤ幅方向内側にずらして配置した中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢外側に配置した周溝と、により区画される第1のセンター陸部を、前記中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢内側に配置した周溝と、により区画される第2のセンター陸部よりも広幅としてなる、請求項1?4のいずれか一項に記載のタイヤ。

(補正後の請求項1)
一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りラジアルタイヤであって、
各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ、
タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし、
該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させてなり、
車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなる、
空気入りラジアルタイヤ。
(補正後の請求項2)
少なくとも一方のサイドウォール部で、前記半径方向内側円弧部よりタイヤ半径方向内側に、変曲点を介してビードトウまで延びて、タイヤ幅方向内側に凸となる円弧状部分を有するビード内壁部を設け、
前記変曲点を、タイヤ半径方向で、ビードフィラの前記半径方向外端と、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点との間に位置させてなる請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
(補正後の請求項3)
ビードフィラの前記半径方向外端を、カーカスプライの折り返し端よりタイヤ半径方向内側に配置してなる請求項2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
(補正後の請求項4)
タイヤ赤道面よりも車両装着姿勢でタイヤ幅方向内側にずらして配置した中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢外側に配置した周溝と、により区画される第1のセンター陸部を、前記中央の周溝と、該中央の周溝の装着姿勢内側に配置した周溝と、により区画される第2のセンター陸部よりも広幅としてなる、請求項1?3のいずれか一項に記載のタイヤ。

(2)明細書について
ア 本件補正は、明細書の段落【0009】を、
「この発明の空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りラジアルタイヤであって、
各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ、
タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし、
該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部の内面中間点に比してタイヤ半径方向内側に位置させてなり、車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなるものである。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる(下線部は補正箇所を示している。)。

イ 本件補正は、明細書の段落【0012】を削除する補正(以下、「補正事項3」という。)を含んでいる。

2 補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1、及び、補正前の請求項1を引用する請求項3ないし5を削除した上で、補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を新たな請求項1とすると共に、請求項番号を整理したものであって、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

(2)補正事項2について
本件補正の補正事項2によって追加された「車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなる」は、願書に最初に添付した明細書の段落【0012】に記載された事項であるから、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

(3)補正事項3について
本件補正の補正事項3による明細書の段落【0012】の削除は、上記補正事項2に付随してなされたものであり、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

以上から、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するので、適法な補正といえる。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1-4に係る発明(以下、「本願発明1-4」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開2003-136919号公報
刊行物2:特開昭63-199102号公報
刊行物3:特開2007-168601号公報

刊行物1には、タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面をタイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れたタイヤの最大幅点Bを隔てたタイヤ半径方向内側に、タイヤ幅方向外側に凸となる折曲がり部21を形成し、適応リムに組み付けたタイヤ姿勢で、少なくとも一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、該最大幅点Bより半径方向外側の円弧部よりも該折曲がり部21を有する半径方向内側の円弧部で小さく設定する点が記載されていると認められる(特に、【0008】、【0009】、【0015】、【0016】、【0025】ないし【0040】及び第1図ないし第4図参照)。
そして、刊行物1に記載された発明において、明記はないが、上記折曲がり部21の機能を鑑みるとむしろ、規定内圧を充填した状態において曲率を半径方向内側で小さく設定されていると解するのが相当であり、仮にそうでないとしても、該折曲がり部21を変形しやすくする点(【0033】ないし【0035】参照)の示唆を考慮するとそのように形成することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、タイヤ技術分野において、ビードフィラの半径方向外端をリムフランジの離反点より内側に位置させて形成することは、当業者にとって従来周知な技術である(例えば、特開2006-188222号公報の特に、【0005】、【0006】、【0008】、【0040】ないし【0043】及び第1図ないし第3図、特開2009-274477号公報の特に、【0003】ないし【0005】、【0012】、【0026】及び第1図等参照)。
そして、刊行物1に記載された発明において、ビードフィラをどのように形成するかは、当業者が設計上の必要性に応じて適宜決定し得る設計的事項であり、軽量化や剛性等を考慮しながら上記折曲がり部21の機能を良好なものとするために上記周知技術を用いて外端を離反点より内側に位置させることは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、刊行物3には、車両への装着姿勢で、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部で半径方向内側の円弧部の曲率半径を、半径方向外側の円弧部よりも小さく形成し、該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部に比してタイヤ半径方向内側に配置する技術が記載されている(特に、【0003】ないし【0006】、【0041】ないし【0043】及び第2図参照)。
そして、上記刊行物3に記載の技術を、刊行物1に記載された発明に適用し、車両への装着姿勢で、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部で半径方向内側の円弧部の曲率半径を、半径方向外側の円弧部よりも小さく形成し、該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部に比してタイヤ半径方向内側に配置することは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

刊行物2には、タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面をタイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに該内面中間点で相互に連続しタイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側の円弧部21および半径方向外側の円弧部20を形成し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填したタイヤ姿勢で、少なくとも一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、該半径方向外側の円弧部20よりも該半径方向内側の円弧部21で小さく設定する点が記載されている(特に、第2頁左上欄第15行目ないし右上欄第13行目、第3頁右上欄第2行目ないし第11行目、第3頁左下欄第16行目ないし右下欄第11行目、第4頁左上欄第13行目ないし左下欄第12行目、第5頁左上欄第2行目ないし第11行目、第5頁左下欄第19行目ないし第6頁左上欄第4行目、第1図参照)。
そして、刊行物2に記載された発明において、ビードフィラをどのように形成するかは、当業者が設計上の必要性に応じて適宜決定し得る設計的事項であり、軽量化や剛性等を考慮しながら良好な性能を維持するために上記周知技術を用いて外端を離反点より内側に位置させることは、当業者であれば容易になし得ることである。
また、上記刊行物3に記載の技術を、刊行物2に記載された発明に適用し、車両への装着姿勢で、車両の内側に位置する一方のサイドウォール部で半径方向内側の円弧部の曲率半径を、半径方向外側の円弧部よりも小さく形成し、該一方のサイドウォール部の内面中間点を、車両の外側に位置することになる他方のサイドウォール部に比してタイヤ半径方向内側に配置することは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

第5 当審の判断
1 刊行物の記載事項及び刊行物発明
刊行物1には、「空気入りタイヤ」に関し、以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与。以下同様。)。
(1)「【0008】そこで、本発明者は、トレッド部の歪みに着目し、この歪みを寄与の小さいサイドウォール部に振り替えることを提案した。即ち、荷重によるたわみを、損失係数の低いゴムが使用できるサイドウォール部に集中させることにより、トレッド部の歪みを逆に小さくすることができ、その結果、タイヤ全体の転がり抵抗を減少しうることを見い出し得た。」
(2)「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤが、正規リムNにリム組みされかつ10kPaの内圧が付加された基準低内圧状態の子午断面を示している。なお前記「正規リムN」とは、タイヤが基づいている規格によって定まるリムであって、JATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。」
(3)「【0015】図1において、空気入りタイヤ1は、接地域を有するトレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6の外側に配されるベルト層7とを具える。」
(4)「【0016】前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して70?90度の角度で配列した、少なくとも1枚、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。カーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りを折返されるプライ折返し部6bを具え、該プライ折返し部6bとプライ本体部6aとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配される。」
(5)「【0017】なお本例では、前記プライ折返し部6bが、ビードエーペックスゴム8を越えてタイヤの最大巾点Bの高さ位置近傍まで延在する場合を例示しており、これによってビード部4を補強しかつタイヤ横剛性を高めている。なお前記「最大巾点B」とは、タイヤ軸方向線がサイドウォール部3においてタイヤ外表面と交わる点間の長さWが最大値Wbとなる点を意味する。」
(6)「【0025】次に、本実施形態のタイヤ1では、前記基準低内圧状態におけるタイヤの子午断面において、前記最大巾点Bから半径方向内方のサイドウォール下方領域3Lが、外表面が外に向かって凸の略円弧状及び/又は略直線状の輪郭線Kを用いて形成される。」
(7)「【0026】そして、このサイドウォール下方領域3Lでは、前記低発熱性ゴム10からなる範囲において、前記輪郭線Kが、前記サイドウォール部3の折れ曲がりを容易とするための外凸の折曲がり部21を形成する突出域20を具えることに、大きな特徴を有している。このとき、前記カーカス6は、前記折曲がり部21に準じて、サイドウォール下方領域3Lにおいて屈曲している。」
(8)「【0031】このように、サイドウォール下方領域3Lに、折曲がり部21を有する突出域20を設けているため、この折曲がり部21を起点としてサイドウォール部3が屈曲変形しやすくなる。即ち、荷重によるたわみを、低発熱性ゴム10を用いたサイドウォール部3に集中させうるとともに、トレッド部2のたわみを減じることができる。その結果、タイヤ全体の転がり抵抗を低減することが可能となる。しかも、前記突出域20は、基準円弧Jよりもタイヤ外側に突出するため、タイヤの空気容積を大きくでき、負荷荷重によるたわみ全体の低減を図ることもできる。」
(9)「【0035】又ビードエーペックスゴム8の影響をできるだけ減じ、折曲がり部21での変形をしやすくさせるために、前記ビードエーペックスゴム8を、前記突出点21Pの高さ位置よりもタイヤ半径方向内側で終端させることが好ましい。」
(10)「【0041】
【実施例】図1に示す構造をなしかつタイヤサイズが195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤを表1の仕様に基づき試作するとともに、該試供タイヤの転がり抵抗を測定し、比較した。」

これらの記載事項(1)?(10)及び図面内容を総合し、本願発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「ビード部4のビードコア5と、ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aおよび、前記プライ本体部6aの両端に前記ビードコア5の廻りを折返されるプライ折返し部6bを具える1枚のカーカスプライ6Aと、プライ折返し部6bとプライ本体部6aとの間で、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8とを具える空気入りラジアルタイヤ1であって、
タイヤの最大巾点Bから半径方向内方のサイドウォール下方領域3Lに、折曲がり部21を有する突出域20を設け、
ビードエーペックスゴム8を折曲がり部21の突出点21Pの高さ位置よりもタイヤ半径方向内側で終端させてなる、
空気入りラジアルタイヤ1。」

2 対比
(1)本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物1発明の「ビード部4」は本願発明1の「ビード部」に相当し、以下同様に、「ビードコア5」は「ビードコア」に、「プライ本体部6a」は「本体部分」に、「プライ折返し部6b」は「折り返し部分」に、「カーカスプライ6A」は「カーカスプライ」に、「ビードエーペックスゴム8」は「ビードフィラ」に、「空気入りラジアルタイヤ1」は「空気入りラジアルタイヤ」に、それぞれ相当する。
(2)空気入りタイヤにおいて、一対のビード部を具え、それぞれのビード部にビードコアが埋設配置されるのは技術常識であるから、刊行物1発明においても、ビードコア5、5は、一対のビード部4、4のそれぞれに埋設配置されているものと認められる。
したがって、刊行物1発明の「ビード部4のビードコア5」は、本願発明1の「一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコア」に相当する。
(3)上記1(3)(段落【0015】)には、「接地域を有するトレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6」と記載され、併せて図1を参照すると、刊行物1発明の「ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6a」は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4までトロイド状に延びているものと認められる。
したがって、刊行物1発明の「ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6a」は、本願発明1の「トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分」に相当する。
(4)刊行物1発明の「プライ折返し部6b」は、「プライ本体部6aの両端に」具えられるものであり、併せて図1を参照すると、「プライ折返し部6b」はプライ本体部6aに連続しているものと認められる。
したがって、刊行物1発明の「前記プライ本体部6aの両端に前記ビードコア5の廻りを折返されるプライ折返し部6b」は、本願発明1の「該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分」に相当する。
(5)刊行物1発明の「1枚のカーカスプライ6A」は、本願発明1の「一枚以上のカーカスプライ」を充足する。
(6)空気入りタイヤにおいて、一対のビードエーペックスゴムを具えるのは、技術常識であるから、刊行物1発明の「ビードエーペックスゴム8」も一対のビードエーペックスゴム8、8であるものと認められる。
また、刊行物1発明の「ビードエーペックスゴム8」は、「ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって先細状にのびる」ものであり、併せて図1を参照すると、ビードコア5の外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じるものと認められる。
したがって、刊行物1発明の「プライ折返し部6bとプライ本体部6aとの間で、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8」は、本願発明1の「それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラ」に相当する。

したがって、本願発明1と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「一対のビード部のそれぞれに埋設配置したビードコアと、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部までトロイド状に延びる本体部分および、該本体部分に連続して、ビードコアの周りに折り返してなる折り返し部分を有する一枚以上のカーカスプライと、カーカスプライの本体部分と折り返し部分との間で、それぞれのビードコアの外周側に配設されて、半径方向外側に向けて厚みを減じる一対のビードフィラとを具える空気入りタイヤ。」

そして、本願発明1と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
「ビードフィラ」に関し、本願発明1では、「各ビードフィラの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させ」るのに対し、
刊行物1発明では、「ビードエーペックスゴム8を折曲がり部21の突出点21Pの高さ位置よりもタイヤ半径方向内側で終端させて」いる点。

<相違点2>
本願発明1では、「タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくし」ているのに対し、
刊行物1発明では、「タイヤの最大巾点Bから半径方向内方のサイドウォール下方領域3Lに、折曲がり部21を有する突出域20を設け」ている点。

<相違点3>
本願発明1では、「車両への装着姿勢で、カーカスプライのペリフェリ長を、タイヤ赤道面に対し、車両の内側に位置する部分よりも、車両の外側に位置する部分で長くしてなる」のに対し、
刊行物1では、そのように特定されていない点。

3 判断
(1)相違点1について
原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された特開2006-188222号公報(段落【0043】及び図3等参照)や特開2009-274477号公報(段落【0012】及び図1-3等参照)には、エイペックス34、フィラーゴム7のタイヤ径方向寸法が小さいことが示されてはいるものの、エイペックス34、フィラーゴム7のタイヤ径方向寸法とビード部外表面の適応リムのリムフランジからの離反点との関係については記載も示唆もされていないため、ビードエーペックスゴムの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させるという技術が従来周知の技術であると認めるに足る文献とはいえない。また、当該技術が従来周知の技術と認めるに足る文献も見当たらないし、文献を例示するまでもない周知技術ということもできない。
したがって、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、刊行物1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
なお、仮に、ビードエーペックスゴムの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させるという技術が従来周知の技術であったとしても、刊行物1の段落【0017】には、「なお本例では、前記プライ折返し部6bが、ビードエーペックスゴム8を越えてタイヤの最大巾点Bの高さ位置近傍まで延在する場合を例示しており、これによってビード部4を補強しかつタイヤ横剛性を高めている。」と記載されているように、刊行物1発明の「空気入りタイヤ1」においては、ある程度のタイヤ横剛性を確保する必要性があることが示唆されており、現に刊行物1の図1において、比較的タイヤ径方向寸法の大きなビードエーペックスゴム8が用いられている点を考慮すると、タイヤ横剛性を弱めることになる、ビードエーペックスゴムの半径方向外端を、適応リムを組み付けた姿勢での、ビード部外表面の、適応リムのリムフランジからの離反点よりタイヤ半径方向内側に位置させるという技術を、刊行物1発明の「空気入りタイヤ1」に採用する動機付けはないものといえる。

(2)相違点2について
例えば、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物2(第4頁左上欄20行目から同頁右上欄14行目及び第1図等参照)や刊行物3(段落【0043】及び図2等参照)に記載されるように、空気入りタイヤにおいて、タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径(前者の円弧20の曲率半径R1、円弧21の曲率半径R2、後者の第1内側平均半径RI1、第2内側平均半径RI2)を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくするという技術は、従来周知の技術といえるものである。
一方で、刊行物1発明の「空気入りタイヤ1」は、段落【0031】に記載されるように、「タイヤの最大巾点Bから半径方向内方のサイドウォール下方領域3Lに、折曲がり部21を有する突出域20を設け」ることで、折曲がり部21を起点としてサイドウォール部3を屈曲変形しやすくし、荷重によるたわみを、低発熱性ゴム10を用いたサイドウォール部3に集中させうるとともにトレッド部2のたわみを減じ、その結果、タイヤ全体の転がり抵抗を低減するものである。
そうすると、敢えて、刊行物1発明の「空気入りタイヤ1」において、「タイヤの最大巾点Bから半径方向内方のサイドウォール下方領域3Lに、折曲がり部21を有する突出域20を設け」るという刊行物1発明の本質的構成に替えて、タイヤ幅方向断面で、それぞれのサイドウォール部の内面が、タイヤ赤道面からタイヤ幅方向に最も離れた内面中間点を隔ててタイヤ半径方向内外のそれぞれに形成されて該内面中間点で相互に連続する、タイヤ幅方向外側に凸となる半径方向内側円弧部および半径方向外側円弧部を有し、適応リムに組み付けて規定内圧を充填し車両へ装着したタイヤ姿勢で、車両の内側に位置することになる一方のサイドウォール部の内面の曲率半径を、前記半径方向外側円弧部よりも半径方向内側円弧部で小さくする構成を採用する動機付けはないものといえる。
したがって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、刊行物1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上から、本願発明1は、上記第4の3(1)、(2)のとおり、刊行物1発明において、少なくとも相違点1、2に係る本願発明1の発明特定事項を有することは当業者にとって容易になし得たということはできないことから、当業者が刊行物1発明及び従来周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1を直接又は間接的に引用する本願発明2-4は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び従来周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2011-163620(P2011-163620)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
森林 宏和
発明の名称 空気入りラジアルタイヤ  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  

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