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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1319728
審判番号 不服2014-23985  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-26 
確定日 2016-09-23 
事件の表示 特願2006-342249「リチウム二次電池及びそれを連結した組電池」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 2日出願公開、特開2007-194209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年12月20日(優先権主張平成17年12月22日)を出願日とする出願であって、平成24年11月16日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年1月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月23日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、前記同年12月27日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正は、平成26年8月18日付けで補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされた。
そして、同年11月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後平成27年9月15日に上申書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年11月26日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成26年11月26日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成25年1月28日に提出された手続補正書により補正された本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?14を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?14とするものであり、そのうち、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1については、以下のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
少なくとも、正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群、並びに、非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液を備え、これらを電池外装に収納してなるリチウム二次電池であって、
該正極及び該負極が、それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであり、
該非水系電解液が、ジフルオロリン酸塩を、非水系電解液全体中に10ppm以上含有する非水系電解液であり、
該電池外装を形成する外装材が、電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり、該電極群を収納すると共に、該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる外装材であることを特徴とするリチウム二次電池。」

(本件補正後)
「【請求項1】
少なくとも、正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群、並びに、非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液を備え、これらを電池外装に収納してなるリチウム二次電池であって、
該正極及び該負極が、それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであり、
該非水系電解液が、ジフルオロリン酸リチウムを、非水系電解液全体中に10ppm以上含有する非水系電解液であり、
該電池外装を形成する外装材が、電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり、該電極群を収納すると共に、該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる外装材であることを特徴とするリチウム二次電池。」

2 補正事項の整理
本件補正後の請求項1に係る補正事項を整理すると、次のとおりである。

〈補正事項a〉
本件補正前の請求項1に記載された「ジフルオロリン酸塩」を、本件補正後の請求項1に記載された「ジフルオロリン酸リチウム」と補正する。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
新規事項の追加の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の段落【0040】には、
「[[硝酸塩、亜硝酸塩、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩]
硝酸塩、亜硝酸塩、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩のカウンターカチオンとしては特に限定はないが、Li、Na、K、Mg、Ca、Fe、Cu等の金属元素の他、・・・が挙げられる。・・・これらのカウンターカチオン中でも、・・・リチウムが特に好ましい。また、中でも、硝酸塩又はジフルオロリン酸塩が、出力特性向上率やサイクル特性の点で好ましく、ジフルオロリン酸リチウムが特に好ましい。また、これらの化合物は非水溶媒中で合成されたものを実質的にそのまま用いてもよく、別途合成して実質的に単離されたものを非水溶媒中又は非水系電解液中に添加してもよい。」と記載されている(下線部は当合議体が付加した。また、「・・・」は記載の省略を表している。以下同様。)。
すると、補正事項aは、当初明細書の段落【0040】に記載されており、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項aは、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

イ 補正の目的について
補正事項aは、非水系電解液全体中に10ppm以上含有される特定化合物について、本件補正前の請求項1で「ジフルオロリン酸塩」と記載されており、カウンターカチオンの特定がされていなかったものを、本件補正後の請求項1で「ジフルオロリン酸リチウム」と補正することによって、「ジフルオロリン酸塩」のカウンターカチオンをリチウムに限定しようとするものであり、また、補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項aは特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。

新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についての検討のむすび
以上検討したとおり、上記補正事項aは、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律55号改正付則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(以下「特許法第126条第5項」という。)に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、更に検討する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「1 本件補正の内容」において本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである(以下「本願補正発明」という。)。

「【請求項1】
少なくとも、正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群、並びに、非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液を備え、これらを電池外装に収納してなるリチウム二次電池であって、
該正極及び該負極が、それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであり、
該非水系電解液が、ジフルオロリン酸リチウムを、非水系電解液全体中に10ppm以上含有する非水系電解液であり、
該電池外装を形成する外装材が、電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり、該電極群を収納すると共に、該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる外装材であることを特徴とするリチウム二次電池。」

(2)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった、平成25年10月23日付けの最後の拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である、特開平11-067270号公報(以下「引用例1」という。)には、「非水系電解液二次電池」(発明の名称)に関して、図1、2とともに、次の記載がある。

1ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、負極活物質としてリチウムを用いた非水系電解液二次電池、即ちリチウム電池の保存特性の改良に関するものである。」

1イ 「【0002】
【従来の技術】負極活物質として例えばリチウムを用いるリチウム電池は、高エネルギー密度電池として注目されており、活発な研究が行われている。
【0003】一般にこの種電池では、非水系電解液を構成する溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン等の単独、二成分あるいは三成分混合物が使用されている。そして、この中に溶解される溶質として、LiPF_(6)、LiBF_(4)、LiClO_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、LiASF_(6)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiCF_(3)(CF_(2))_(3)SO_(3)等を列挙することができる。
【0004】ところで、この種二次電池において、使用される有機溶媒を含む電解液によって、その反応性が大きく異なり、電池特性が変化する。特に、サイクル特性や、充電後の保存特性が左右される。これは、一般に、リチウム電池は高電圧であるため、電解液の分解などの副反応は避けがたい。その結果、サイクル特性や保存特性の面で問題があった。」

1ウ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこの種二次電池を保存した場合の自己放電を抑制し、充電後の保存特性を向上させる優れた非水系電解液を提案するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、正極と、リチウムまたはリチウムの吸蔵放出の可能な負極材料からなる負極と、有機溶媒と溶質とからなる非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池において、前記有機溶媒が、モノフルオロ燐酸リチウム(Li_(2)PO_(3)F)、ジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))からなる群から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とするものである。
【0008】この理由は、添加剤としてのモノフルオロ燐酸リチウム、ジフルオロ燐酸リチウムの内の1種を添加した非水系電解液を用いると、この添加剤がリチウムと反応し、良質な被膜が正極及び負極界面に形成される。この被膜が、充電状態の活物質と有機溶媒との直接接触を抑制して、活物質と電解液との接触を因とする非水系電解液の分解を抑制すると考えられる。この様にして、保存後の保存特性を向上させることが可能となる。」

1エ 「【0016】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施例につき詳述する。
(実験1)この実験1では、添加剤としてのモノフルオロ燐酸リチウム、ジフルオロ燐酸リチウムの添加効果を調べるため、その添加の有無、ピリジン添加の電池と比較した。
[実施例1](モノフルオロ燐酸リチウム添加)
図1に、本発明の一実施例としての円筒型非水系電解液二次電池の断面図を示す。金属酸化物からなる正極1は正極集電体に塗着され、この正極1と天然黒鉛からなる負極2とはセパレータ3を介して渦巻き電極体を構成している。前記正極1の正極集電体には、正極リード4が接続され、前記負極2の負極集電体には、負極リード5が接続されている。前記渦巻き電極体は負極缶6に収納され、負極リード5と接続されている。一方、負極缶6の上部周端の開口部には、ポリプロピレン製の絶縁パッキング7が配置され、封口蓋8を兼ねる正極外部端子により密閉されている。尚、正極リード4は正極外部端子部と接続されている。そして、上記セパレータ3には、本発明の要点である添加剤を含んだ非水系電解液が含浸されている。
【0017】ところで、前記正極1は、コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を主材料として用いている。このために、コバルト酸リチウムと、導電剤としての人造黒鉛粉末と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末とを、それぞれ90:5:5の重量比で混合して、ペーストを準備している。そして、このペーストをアルミニウム箔からなる正極集電体に塗着成形した後、150℃で乾燥処理して、正極1を作製した。
【0018】一方、前記負極2は、負極材料としての天然黒鉛と結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを95:5の重量比で混合してペーストを得、銅箔からなる集電体に塗着形成した後、150℃で乾燥処理することにより作製した。
【0019】そして、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒に、溶質としてトリフルオロ燐酸リチウムを1モル/lの割合で溶解したものに、添加剤としてのモノフルオロ燐酸リチウム(Li_(2)PO_(3)F)を混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加して、非水系電解液を得る。尚、セパレータ3には、イオン透過性のポリプロピレン製の微多孔膜を使用している。
【0020】このようにして、直径14.0mm、高さ50.0mm(AAサイズ)の本発明電池Aを作製した。
[実施例2](ジフルオロ燐酸リチウム添加)
前記実施例1において使用したモノフルオロ燐酸リチウムに代えて、添加剤としてジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を使用したこと以外は同様にして、本発明電池Bを作製した。
・・・
[比較例1]前記実施例1においてモノフルオロ燐酸リチウムを添加しない電解液を使用して同様の電池を作製し、これを比較電池Xとした。
・・・」

1オ 「【0021】これらの本発明電池A、B、C、D及び比較電池X、Yを用い、各電池の保存特性を比較した。この実験条件は、各電池を作製し一定期間保存した後、実際に電池を放電させ保存前の容量と比較して、その差を保存前の容量に対する百分率として容量残存率(%)を定めた。
【0022】この結果を、表1に示す。表1は、添加剤の種類と添加量(重量%)、保存前の電池の放電容量(mAh)、保存後の電池の放電容量(mAh)及び容量残存率(%)の関係を示したものである。
【0023】尚、保存前、後の電池の放電容量の測定は、次のようにして行った。まず、作製直後の各電池を200mAの定電流で充電終止電圧4.2Vまで充電し、放電電流200mAの定電流で放電終止電圧2.75Vまで放電させその容量を実測し、保存前の放電容量とした。次に、保存前の放電容量を測定した各電池を、200mAの定電流で充電終止電圧4.2Vまで充電し、60℃にて20日間保存した後、放電電流200mAの定電流で放電終止電圧2.75Vまで放電させてその容量を実測し、保存後の放電容量とした。また、容量残存率は、保存前の放電容量に対する保存後の放電容量をパーセントで表したものである。」

1カ 「【0024】
【表1】


1キ 「【0025】この表1より、本発明電池A、B、C及びDは、比較電池X、Yに比して、容量残存率が大きく、即ち自己放電が小さくなっており、保存時の電池容量の低下が抑えられ、自己放電が抑制されていることがわかる。
(実験2)次にここでは、前記実験1で準備した各電池のサイクル特性を比較した。この時の実験条件は、作製直後の各電池を200mAの定電流で充電終止電圧4.2Vまで充電し、放電電流200mAの定電流で放電終止電圧2.75Vまで放電させるという充放電サイクルを繰り返し行うというものである。
【0026】この結果を、図2に示す。図2は、各電池のサイクル数と放電容量との関係を表している。この結果より、本発明電池の中でも、有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒を用いた本発明電池A、本発明電池B及び本発明電池Cの秀逸性が伺える。」

1ク 「図1



1ケ 摘記した上記段落【0016】の記載を参照すると、円筒型非水系電解液二次電池の断面図である図1から、正極1と負極2はセパレータ3を介して渦巻き電極体を構成しており、前記渦巻き電極体が負極缶6に収納され、負極缶6の上部周端の開口部が、絶縁パッキング7と、封口蓋8を兼ねる正極外部端子により密閉されることにより、円筒型の非水系電解液二次電池が形成されることが見て取れる。

1コ 「図2



1サ 上記1コのサイクル特性比較図において、摘記した上記段落【0020】に記載されている、ジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加した電解液を有する本発明電池Bに注目すると、サイクル数100?500のいずれにおいても、添加剤無添加の比較電池Xよりも放電容量が大きいこと、すなわちサイクル特性が良好であることが見て取れる。

(2-2)引用例1に記載された発明
上記(2-1)の摘記事項について検討する。
ア 段落【0016】?【0019】には、実施例1の非水系電解液二次電池についての詳細が記載されている。実施例1の非水系電解液二次電池は、図1に示された断面図の構造を有するものであり、正極1にはコバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を含有するペーストを集電体に塗着成型し乾燥処理したものが用いられていること、負極2には天然黒鉛を含有するペーストを集電体に塗着形成し乾燥処理したものが用いられていること、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒に、溶質としてトリフルオロ燐酸リチウムを1モル/lの割合で溶解したものに、添加剤としてのモノフルオロ燐酸リチウム(Li_(2)PO_(3)F)を混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加したものが用いられていること、セパレータ3としてイオン透過性のポリプロピレン製の微多孔膜が用いられていることが記載されている。

イ 段落【0020】には、実施例2について、実施例1において使用したモノフルオロ燐酸リチウムに代えて、添加剤としてジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を使用したこと以外は同様にして、本発明電池Bを作製したと記載されている。実施例2と実施例1は添加剤が異なるだけであるから、その他の電池の構成は、実施例1の非水系電解液二次電池と同じである。つまり、実施例2の非水系電解液二次電池は、図1に示された断面図の構造を有するものであって、正極1にはコバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を含有するペーストを集電体に塗着成型し乾燥処理したものが用いられており、負極2には天然黒鉛を含有するペーストを集電体に塗着形成し乾燥処理したものが用いられており、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒に、溶質としてトリフルオロ燐酸リチウムを1モル/lの割合で溶解したものに、添加剤としてのジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加したものが用いられており、セパレータ3としてイオン透過性のポリプロピレン製の微多孔膜が用いられているものであるということができる。

ウ 図1の非水系電解液二次電池は円筒型の電池であること、及び、負極缶6は、負極リード5と接続されて電池の負極端子として機能することを勘案すると、負極缶6は、金属製の円筒型容器であるといえる。

以上、上記1ア?1エの記載事項及び上記1ケの図1に関する視認事項を、上記ア?ウの検討事項に基づき、添加剤としてジフルオロリン酸リチウムを採用した非水系電解液二次電池(実施例2の本発明電池B)に注目して、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には以下に示す非水系電解液二次電池の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「少なくとも、正極1と負極2とを微多孔膜からなるセパレータ3を介して構成する渦巻き電極体、並びに、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒に溶質としてトリフルオロ燐酸リチウムを1モル/lの割合で溶解してなる電解液を備え、これらを負極缶6に収納してなる非水系電解液二次電池であって、
正極1はコバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を含有するペーストを集電体に塗着成型し乾燥処理したものであり、
負極2は天然黒鉛を含有するペーストを集電体に塗着形成し乾燥処理したものであり、
該電解液が、ジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を該混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加した電解液であり、
該負極缶6が、金属製の円筒型容器であり、その上部周端の開口部を、絶縁パッキング7と、封口蓋8を兼ねる正極外部端子によって密閉された、非水系電解液二次電池。」

(2-3)引用例2の記載事項
本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった平成25年10月23日付けの最後の拒絶の理由において引用文献3として引用された刊行物である、特開平10-144352号公報(以下「引用例2」という。)には、「非水電解液電池」(発明の名称)に関して、図1?2、4?6とともに、次の記載がある。

2ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非水電解液電池に関し、特に小型化、軽量化が可能な非水電解液電池に関する。」

2イ 「【0002】
【従来の技術】・・・
【0004】そこで、近年、リチウムやリチウム合金、もしくは炭素材料のようなリチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な物質を負極として用い、正極としてリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム複合酸化物を用いる非水電解液電池(リチウム二次電池)の研究、開発が行われている。
【0005】この非水電解液電池は、電池電圧が高く、高エネルギー密度を有し、自己放電も少なく且つサイクル特性に優れている。このため、特に、電力貯蔵用や電気自動車等で使用されるような、高電圧(数十?数百ボルト)、高エネルギー容量、高エネルギー密度が得られる電池として注目されている。
【0006】ところで、非水電解液電池の電極としては、反応面積を広くとることができ、重負荷特性を改善するのに有利であることから、帯状正極と帯状負極をセパレータを介して複数層積層した積層電極体が用いられる。
【0007】例えば円筒状の電池の場合、この積層電極体が多数回巻回された形で円筒状の電池ケースに収納される。また、偏平角形の電池では、平板状の積層電極体が角状の電池ケースに収納される。
【0008】ここで、これら電池で用いられる電池ケースとしては、通常、金属製の深絞りケースが用いられている。しかし、この金属製の深絞りケースは、強度、放熱性等の点では優れるものの、ケースの製造上の制約から肉厚を薄くすることが困難であり、電池重量が大きくなるといった問題がある。
【0009】・・・
【0010】そこで、金属箔の表面に高分子樹脂をコーティングした積層フィルムをヒートシールによって袋状にした電池ケースが提案されている。この積層フィルムよりなる電池ケースは、軽量であるとともに薄肉に形成することが可能である。また、金属箔を有することによってバリヤー性が得られ、リチウム二次電池で用いる電池ケースの素材として好適である。」

2ウ 「【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電池の場合、ケース内に収容された積層電極体がケースの内壁によってある程度押し付けられ、正極-セパレータ-負極が均一に密着していることが必要である。このような点から見たときに、積層フィルムよりなる袋状の電池ケースは、非常に柔軟であることから、電極を十分に押さえ付けることができず、安定な電池性能が得られないといった問題がある。
【0012】このため、電池ケースの外側を肉厚の板金等で挟む込むことによって、ケース内の電極を押さえる工夫も講じられている。しかし、この方法では、積層フィルムの薄肉、軽量というメリットが薄れてしまう上、電極を均一に押さえることが難しい。
【0013】そこで、本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、電池ケースの肉厚を薄くでき、軽量であるとともに、電池ケース内で電極が十分に押さえ付けられ、安定な電池性能が得られる非水電解液電池を提供することを目的とする。」

2エ 「【0014】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明の非水電解液電池は、金属箔の片面又は両面に高分子樹脂がコーティングされてなる積層フィルムよりなる電池ケース内に、非水電解液が含浸された電極積層体が収納されてなる非水電解液電池において、上記電池ケースは、ケース内が大気圧に対して減圧とされて密封されていることを特徴とするものである。
【0015】すなわち、この非水電解液電池では積層フィルムによって電池ケースが構成されている。積層フィルムは、薄肉化が可能であり、軽量である。しかも、金属箔を有することによって、薄肉化した場合でもガスや水分の透過を十分に遮断することができる。したがって、このような積層フィルムを電池ケースに用いることによって電池の小型化、軽量化が図れる。また、この積層フィルムは放熱性にも優れるので、良好な電池性能が得られる。
【0016】そして、この電池では、特に、電池ケース内が減圧とされてから密閉される。電池ケース内が減圧とされていると、大気圧下においては、その減圧の分だけ、電池ケースに内側方向の圧力がかかり、電池ケースが内側に押しつけられた形になる。このとき、電池ケースの内壁によって積層電極体も両側から押しつけられ、帯状負極-セパレータ-帯状正極とが均一に密着する。したがって、安定な電池性能が得られる。」

2オ 「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の非水電解液電池の実施の形態について説明する。
【0018】この実施の形態の非水電解液電池は、図1に示すように袋状の電池ケース1内に、偏平角形の電極積層体2が収納されて構成されている。
【0019】上記電極積層体2は、図2に示すように、帯状正極3と帯状負極4とが、セパレータ5を介して複数層積層されてなるものである。
【0020】この積層電極体2において、帯状正極3の正極活物質としては、LiCoO_(2)等の、一般式Li_(X)MO_(2)(但し、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはMn、Co、Niの少なくとも1種を表し、xは0.05≦x≦1.10である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物等が使用される。
【0021】帯状正極3は、このリチウム複合酸化物と導電剤及び結着剤よりなる正極合剤6が、アルミニウム箔等よりなる正極集電体7の両面に被覆されて構成される。
【0022】また、帯状負極4の負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金の他、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料等が用いられる。
【0023】このうち、リチウム金属やリチウム合金の場合には、金属箔のかたちで帯状負極として使用される。
【0024】また、炭素材料を用いる場合には、図2に示すように、炭素材料の粉末と結着剤よりなる正極合剤層8が、銅箔等よりなる負極集電体9の両面に被覆されて帯状負極が構成される。」

2カ 「【0027】非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸エチル等が単独あるいは複数種を組み合わせて用いられる。
【0028】リチウム塩としては、LiPF_(6)、LiClO_(4)、LiBF_(4)、LiCF_(3)SO_(3)、LiAsF_(6)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiC(CF_(2)SO_(2))_(3)等が挙げられる。」

2キ 「【0033】一方、以上のような電極積層体2やリード体10,11が収容される電池ケース1は、図4に示すように金属箔18の両面に高分子樹脂19,20がコーティングされてなる積層フィルムよりなり、図5に示すように、この積層フィルムが、中央部(以下、折り曲げ部と称する)の両側が折り曲げられることで略コ字状となされ、辺縁部がヒートシールされることによって電池ケース1とされる。
【0034】この積層フィルムにおいて、金属箔18としては、アルミニウム、銅、スズ、鉛等が用いられる。
【0035】また、高分子樹脂19,20のうち電池の内側となる高分子樹脂19については、ヒートシールを行う都合上、熱融着が可能であるとともに、耐溶剤性や絶縁性に優れることが必要であり、たとえばポリオレフィン系樹脂が好適である。ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、リニア低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。また、電池の外側となる高分子樹脂20としては耐熱性に優れるポリエチレンテレフタレート等を用いるのが好ましい。なお、高分子樹脂は、このように金属箔18の両面にコーティングされているのが望ましいが、電池の内側となる面のみにコーティングするようにしても差し支えない。」

2ク 「【0038】また、折り曲げ部1aの、これら一対の端子挿入孔21,22の間には安全弁挿入孔23が形成され、この安全弁挿入孔23上に、電池ケース1の内圧上昇に際して内圧を開放するための安全弁24が安全弁用カラー25を介して取り付けられている。すなわち、電池では、過充電や逆充電といった通常仕様とは異なる状態で使用された場合、電池内で異常反応が発生し、電池の温度や内圧が上昇する場合がある。安全弁24は、このような異常反応に際して電池の内圧を開放し、内圧上昇による電池の膨張等を回避するためのものである。
【0039】この安全弁24は、リリーフシール26、リリーフピストン27、スプリング28、リリーフボート29によって構成されている。この安全弁24では、電池内圧が上昇し、リリーフピストン27に圧力がかかると、スプリング28が収縮し、それと同時にリリーフピストン27が押し上げられる。このリリーフピストン27が押し上げられることによって、安全弁挿入孔23が開放され、この安全弁挿入孔23を介して電池内のガスが排気される。なお、このように安全弁24が動作するための電池の内圧は、スプリングのバネ定数により調整される。
【0040】非水電解液電池は、このように積層フィルムよりなる電池ケース1内に積層電極体2が収納されて構成されるが、この実施の形態の非水電解液電池では、特に、積層電極体2を電池ケース1に収容した後に、電池ケース1内が大気圧に対して減圧とされ、この減圧下で電池ケース1が密封される。
【0041】電池ケース1内を減圧状態にするには、図6に示すように、例えば積層電極体2が収容された電池ケース1の折り曲げ部1aと対向する側をヒートシールせずに開口させておき、この状態でチャンバー40内に搬入し、チャンバー40内を減圧にする。そして、この減圧となされたチャンバー40内で、折り曲げ部と対向する側の辺縁部をヒートシーラ41によって封止する。」

2ケ 「【0044】以上のような非水電解液電池の作製例を次に説明する。
【0045】非水電解液電池を作製するには、まず、帯状正極3を次のようにして作製する。
【0046】すなわち、正極活物質と導電剤及び結着剤を、分散剤中に分散させることで正極合剤塗料を調製する。なお、ここでは正極合剤塗料の正極活物質,導電剤,結着剤として下記のものを使用した。
【0047】
正極活物質:LiCoO_(2)粉末(平均粒径15μm) 91重量部
導電剤:グラファイト 6重量部
結着剤:フッ化ビニリデン樹脂 3重量部
このようにして調製した負極合剤塗料を、正極集電体7となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、後工程でリード体に溶接するリード部を残して塗布し、正極原板を作製する。ここで、正極合剤層6の厚さは150μmとした。
【0048】そして、この正極原板を、それぞれの電極が137mm×357mmの塗料塗布部とリード部を有するように電極毎に裁断する。
【0049】次に、負極電極4を次のようにして作製する。
【0050】まず、負極活物質と結着剤を、分散剤中に分散させることで負極合剤塗料を調製する。なお、ここでは負極合剤塗料の負極活物質,結着剤として下記のものを使用した。
【0051】
負極活物質:炭素粉末(平均粒径20μm) 90重量部
結着剤:フッ化ビニリデン樹脂 10重量部
このようにして調製した負極合材塗料を、負極集電体9となる厚さ10μmの銅箔の両面に、後工程でリード体に溶接するリード部を残して塗布し、負極原板を作製する。ここで、負極合剤層8の厚さは180μmとした。
【0052】そして、この負極原板を、それぞれの電極が141mm×361mmと塗料塗布部とリード部を有するように電極毎に裁断する。
【0053】続いて、145mm×361mmの微多孔性ポリエチレンフィルムをセパレータ5として用意し、先に作製した正極56枚と負極57枚を、このセパレータ5を介して交互に複数積層する。なお、負極と正極の積層は、正極同士でリード部が重なり、また負極同士では、正極同士でリード部が重なる側と反対側でリード部同士が重なるように積層した。
・・・
【0056】なお、この正極リード体10と負極リード体11の断面積は、電極積層体2の理論容量と電池使用時の負荷を考慮して設定した。この場合、電極積層体2の理論容量は約100Ahであり、重負荷(300A放電)に対応するものとするには、正極リード体10と負極リード体11の断面積は、約150mm^(2)程度が必要である。したがって、ここでは、リード体10,11として7mm×21.5mm寸法の角柱を使用した。」

2コ 「図1



2サ 「図2


2シ 「図4


2ス 「図5



2セ 「図6



(3)対比
(3-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「正極1」、「負極2」、「微多孔膜からなるセパレータ3」は、それぞれ本願補正発明の「正極」、「負極」、「微多孔膜セパレータ」に相当する。

イ 本願明細書の段落【0078】に「電極群は、後述の正極板と負極板とを後述の微多孔膜セパレータを介して積層構造にしたもの、又は、後述の正極板と負極板とを後述の微多孔膜セパレータを介して渦巻き状に捲回して捲回構造にしたもの何れでもよい。」と記載されており、また、上記アの検討を踏まえると、引用発明の「正極1と負極2とを微多孔膜からなるセパレータ3を介して構成する渦巻き電極体」は、本願補正発明の「正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群」に相当する。

ウ 引用発明の「エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒」、「トリフルオロ燐酸リチウム」は、それぞれ、本願補正発明の「非水溶媒」、「リチウム塩」に相当するから、引用発明の「エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合有機溶媒に溶質としてトリフルオロ燐酸リチウムを1モル/lの割合で溶解してなる電解液」は本願補正発明の「非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液」に相当する。

エ 引用発明の「負極缶6」は、その中に「渦巻き電極体」及び「電解液」を収納するものであり、本願補正発明の「電池外装」は、その中に「電極群」及び「電解液」を収納するものであるから、上記イ、ウの検討を踏まえると、上記「負極缶6」と上記「電池外装」は、いずれも、「電極群」及び「電解液」を収納するという同じ機能を有する電池の部材であるので、引用発明の「負極缶6」は本願補正発明の「電池外装」に相当する。

オ 引用発明の「正極1」は「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を含有するペーストを集電体に塗着成型し乾燥処理したもの」であり、技術常識からすると、上記「コバルト酸リチウム」が正極活物質であって、リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質であることは明らかである。したがって、上記「正極1」は、集電体上に正極活物質であるコバルト酸リチウムを含有する層が形成されたものであるといえる。
引用発明の「負極2」は「天然黒鉛を含有するペーストを集電体に塗着形成し乾燥処理」であり、技術常識からすると、上記「天然黒鉛」が負極活物質であって、リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質であることは明らかである。したがって、上記「負極2」は、集電体上に負極活物質である天然黒鉛を含有する層が形成されたものであるといえる。
したがって、引用発明の「正極1」及び「負極2」と、本願補正発明の「正極」及び「負極」は、いずれも、「それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるもの」であり、引用発明の「正極1」及び「負極2」は、それぞれ、本願補正発明の「正極」及び「負極」に相当する。

カ 引用発明の「非水系電解液二次電池」は、電解液中に溶質として「トリフルオロ燐酸リチウム」を含んでいるので、上記電解液中にリチウムイオンを生成しているものと認められる。そして、コバルト酸リチウムを含有する正極1と天然黒鉛を含有する負極2は、上記オの検討のとおり、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであるから、リチウム二次電池であるといえる。したがって、引用発明の「非水系電解液二次電池」は本願補正発明の「リチウム二次電池」に相当する。

キ 引用発明の「電解液」は、「ジフルオロ燐酸リチウム(LiPO_(2)F_(2))を該混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加」されたものである。ここで、ジフルオロリン酸リチウムの含有割合は、有機溶媒の重量に対する重量%で表現されているが、これを有機溶媒と溶質を加えた電解液の重量に対する重量%で換算することができる。
引用発明の混合有機溶媒は、エチレンカーボネート(密度1.3210g/cm^(3))とジエチルカーボネート(密度0.975g/cm^(3))の混合液であるが、これらの混合割合は示されていない。そこで、仮に、両者が500mlずつ1:1で混合されており、1lの混合溶液が作成されたとすると、その重量は、0.975×500+1.321×500=1148gと計算できる。
この混合有機溶媒に溶質として溶解されるトリフルオロ燐酸リチウム(分子量117.9)1モルの重量は117.9gとなるので、電解液全体の重量は、1265.9gとなる。
混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加されるジフルオロ燐酸リチウムの重量は、11.5gとなる。
したがって、引用発明において、ジフルオロ燐酸リチウムの電解液全体に対する重量%は、11.5÷1265.9=0.91%となる。
また、エチレンカーボネーとジエチルカーボネートの混合液の混合割合は、上述のとおり仮に1:1として計算しているが、混合割合が変わったとしても、ジフルオロ燐酸リチウムの電解液全体に対する重量%は、上記0.91重量%の値から、大きく変わることはない(ほぼ全量がエチレンカーボネートの場合0.92重量%、ほぼ全量がジエチルカーボネートの場合0.90重量%となる)。
したがって、引用発明の「電解液」と本願補正発明の「非水系電解液」は、いずれも、「ジフルオロリン酸リチウムを、非水系電解液全体中に10ppm(0.001%)以上含有する非水系電解液」である点で一致している。

ク 引用発明の「負極缶6」は、「金属製の円筒型容器であり、その上部周端の開口部を、絶縁パッキング7と、封口蓋8を兼ねる正極外部端子によって密閉され」ているので、「渦巻き電極体」は、当該「負極缶6」に収納されるとともに、密封されているということができる。
したがって、引用発明の「負極缶6」と本願補正発明の「電池外装」は、いずれも、「該電極群を収納すると共に」、「電極群を密封することができる外装材である」点で共通している。

(3-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。

《一致点》
「少なくとも、正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群、並びに、非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液を備え、これらを電池外装に収納してなるリチウム二次電池であって、
該正極及び該負極が、それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであり、
該非水系電解液が、ジフルオロリン酸リチウムを、非水系電解液全体中に10ppm以上含有する非水系電解液であり、
該電池外装を形成する外装材が、該電極群を収納すると共に、該電極群を密封することができる外装材であることを特徴とするリチウム二次電池。」

《相違点》
《相違点1》
「該電極群を収納すると共に、電池外装を形成する外装材」が、本願補正発明においては、「電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり」、「該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる外装材」であるのに対して、引用発明においては、「金属製の円筒型容器」であり、「絶縁パッキング7」「によって密閉」する点。

(4)当審の判断
(4-1)相違点1についての判断
ア 引用例2の上記2イの段落【0004】、【0005】には、リチウム二次電池は、電池電圧が高く、高エネルギー密度を有し、自己放電も少なく且つサイクル特性に優れているため、電気自動車等で使用される、高電圧(数十?数百ボルト)、高エネルギー容量、高エネルギー密度が得られる電池として注目されていること、つまり、電気自動車等に好適な電池と考えられていることが記載されている。

イ また、引用例2の上記2イの段落【0008】、【0010】には、上記アで記載した、電気自動車等の用途のリチウム二次電池で用いられる電池ケースとしては、金属製の深絞りケースが用いられるが、強度や放熱性の点で優れるものの、肉厚が薄くできず、電池重量が大きくなるという問題があるとされ、そのため、軽量であるとともに薄肉に形成することが可能である、「金属箔の表面に高分子樹脂をコーティングした積層フィルムをヒートシールによって袋状にした電池ケース」が提案されていると記載されている。

ウ そして、上記「金属箔の表面に高分子樹脂をコーティングした積層フィルムをヒートシールによって袋状にした電池ケース」については、引用例2の図4、5とともに、引用例2の上記2キに詳細が記載されており、上記積層フィルムは、アルミニウム等の金属箔18の両面に高分子樹脂がコーティングされるものであり、電池の内側には、ヒートシールの際、熱融着が可能な材料であるポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好適であり、電池の外側には、耐熱性に優れるポリエチレンテレフタレートが好ましいとされている。

エ さらに、引用例2の上記2クの段落【0040】?【0041】には、積層電極体2を電池ケース1に収容した後に、チャンバー内で電池ケース1が大気圧に対して減圧とされ、折り曲げ部と対向する側の辺縁部をヒートシーラ41によって封止されると記載されている。

オ 以上、上記ア?エによれば、引用例2に記載されているように、電気自動車に使用されるリチウム二次電池の容器としては、肉厚が薄くできず、電池重量が大きくなる金属製ケースよりも、軽量であるとともに薄肉に形成することが可能である、金属箔の電池内面側の表面に熱可塑性樹脂をコーティングした積層フィルムをヒートシールによって袋状にした電池ケースを採用することが好ましく、積層電極体を該電池ケースに収容した後に、ヒートシーラ41によって封止されることが公知であるといえる。

カ 引用例1には、引用発明の二次電池の用途について特に記載はされていないが、引用発明の二次電池がリチウム二次電池であることを踏まえれば、上記ア、イに記載されているとおり、引用発明のリチウム二次電池も、高電圧、高エネルギー容量、高エネルギー密度が得られるという特徴を有しているものと認められるから、引用発明の二次電池を電気自動車等の用途に適用することを考慮して、肉厚が薄くできず、電池重量が大きくなる金属製のケースである「負極缶6」に代えて、軽量であるとともに薄肉に形成することが可能である、「金属箔の電池内面側の表面に熱可塑性樹脂をコーティングした積層フィルムをヒートシールによって袋状にした電池ケース」を採用すること、そして、該電池ケースに電極を収容した後にヒートシールで封止することは、当業者が容易に想到し得ることである。
このとき、上記「電池ケース」の「積層フィルム」は、本願補正発明の「外装材」と同様に、「電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり、該電極群を収納すると共に、該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる」ものであることは明らかである。

キ 以上から、引用発明において、引用例2の記載に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4-2)本願補正発明の効果についての検討
ア 本願補正発明の効果は、本願明細書の段落【0010】に記載されているとおり、「高容量、長寿命、高出力で、ガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の高いリチウム二次電池が得られるため、例えば、自動車用途等の大型電池として、特に適したリチウム二次電池を提供できる」ことである。
つまり、本願補正発明の効果は、(a)高容量であること、(b)長寿命であること、(c)高出力であること、(d)ガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の高いリチウム二次電池が得られること、(e)自動車用途等の大型電池として特に適していること、である。
そこで、引用例1及び引用例2の記載に基づいて、上記(a)?(e)の効果が当業者にとって予測可能であるかについて検討する。

イ (a)高容量について
引用例2の上記2ケの段落【0047】?【0056】によれば、正極活物質としてLiCoO_(2)粉末を用いた、137mm×357mmの塗料塗布部を有する正極56枚と、負極活物質として炭素粉末を用いた、141mm×361mmの塗料塗布部を有する負極57枚を、145mm×361mmの微多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータ5を介して交互に複数積層して電極積層体2を製造すると、その理論容量は約100Ahになることが記載されている。
したがって、引用発明の電極群は、正極1と負極2とを微多孔膜からなるセパレータ3を介して構成する渦巻き電極体であるが、上記(4-1)で検討したように、「負極缶6」に代えて、「積層フィルム」からなる電池ケースを採用を採用する際に、上記電極群についても、上記渦巻き電極体に代えて、引用例2に記載された、セパレータを介して多数枚の正極及び負極を積層したものを採用することにより、例えば、100Ahもの大容量を実現することが可能であるといえるから、本願補正発明が高容量を有することは、引用例1及び引用例2の記載から、当業者が容易に予測し得る程度のことである。

ウ (b)長寿命について
引用例1の上記1コのサイクル特性比較図及び上記1サの視認事項によると、ジフルオロ燐酸リチウムを混合有機溶媒の重量に対して1.0重量%の割合で添加した電解液を有する本発明電池Bは、サイクル数100?500のいずれにおいても、添加剤無添加の比較電池Xよりも良好なサイクル特性を有している。
したがって、本発明電池Bに基づいて認定された引用発明において、「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用した場合においても、ジフルオロ燐酸リチウムを電解液に添加することにより、良好なサイクル特性を有していること、すなわち、長寿命を有するものであるといえるから、本願補正発明が長寿命を有することは、当業者が容易に予測し得る程度のことである。

エ (d)ガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の高いリチウム二次電池であることについて
引用例1の上記1イ、1ウには、リチウム電池は高電圧であるため、電解液の分解などの副反応が避けがたく、そのため、サイクル特性や保存特性の面で問題があること、しかしながら、添加剤としてジフルオロ燐酸リチウムを添加した非水系電解液を用いると、この添加剤がリチウムと反応して、良質な被膜が正極及び負極界面に形成され、この被膜が、充電状態の活物質と有機溶媒との直接接触を抑制するので、非水系電解液の分解を抑制することが記載されている。つまり、添加剤としてジフルオロ燐酸リチウムを添加した非水系電解液を用いると、当該非水電解液の分解が抑制されることが記載されている。
そして、フィルム外装電池において、非水電解液の分解によってガスが発生し、フィルムが膨張し、場合によっては、外装材の破裂に至ることは当業者にとって技術常識である(この点については、例えば、特開2005-203262号公報の段落【0005】?【0006】、特開2003-288883号公報の段落【0013】、【0016】、図25参照のこと。なお、引用文献2の上記2クに、電池ケースに安全弁を設けることが記載されていることは、非水電解液の分解によるガスの発生に対処しているものと考えられる)。
これは、逆に言えば、フィルム外装電池において、非水電解液の分解が抑制されると、ガスの発生が抑制され、フィルムは膨張せず、外装材が破裂することがなくなるといえる。
したがって、引用発明において、「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用した場合においても、非水系電解液に添加剤としてジフルオロ燐酸リチウムが添加されているので、当該非水電解液の分解が抑制される効果は維持されることとなり、その結果、ガスの発生が抑制され、外装材が破裂しなくなるので、安全性が向上することは、当業者には自明の事項であるといえるから、本願補正発明がガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の高いリチウム二次電池であることは、当業者が容易に予測し得る程度のことである。

オ (c)高出力について
本願明細書の段落【0179】には、初期出力の測定方法について、「25℃環境下で、0.2Cの定電流により150分間充電を行ない、各々0.1C、0.3C、1.0C、3.0C、10.0Cで10秒間放電させ、その10秒目の電圧を測定した。電流-電圧直線と下限電圧(3V)とで囲まれる3角形の面積を「初期出力」(W)とした。電池評価の結果を表3に示す。」と記載されている。このことから、本願明細書でいうところの、高い出力とは、電池からの供給電流の大きさにかかわらず、高い出力電圧を維持することであると解される。
そこで、引用例2の上記2ウ、2エを参照すると、積層フィルムよりなる袋状の電池ケースは、非常に柔軟であるから、ケース内に収容された積層電極体を十分に押さえ付けることができず、安定な電池性能が得られないという問題があるが、電池ケース内を減圧することで大気圧下では電池ケースが内側に押しつけられて、正極-セパレータ-負極が均一に密着するので、安定な電池性能が得られることが記載されている。
しかしながら、フィルム外装材電池において、電池ケース内が減圧してあったとしても、非水電解液が分解すると、ガスが発生してフィルムが膨張することは、上記エで検討したとおりであり、このとき、電池ケースが積層電極体を十分に押さえ付ける力を失い、正極-セパレータ-負極が均一に密着しなくなるので、安定な電池性能を得ることができなくなり、このとき、内部抵抗が増加するため出力電圧が低下することになる(この点については、例えば、特開平11-260408号公報の段落【0004】、特開2003-288883号公報の段落【0017】を参照のこと。)。つまり、フィルム外装材電池において、電池ケース内が減圧してあったとしても、非水電解液が分解してガスが発生すると、電極が密着性を失って、内部抵抗が増加するので、電池からの供給電流が大きくなるほど、出力電圧が低下することになる。
これは、逆に言えば、電池ケース内が減圧されたフィルム外装電池において、非水電解液の分解が抑制されると、ガスの発生が抑制され、フィルムは膨張せず、電極が密着性を失わないので、内部抵抗が増加しないため、電池からの供給電流が大きくなっても、出力電圧の低下が抑制され、高い出力電圧を維持できることになるといえる。
したがって、引用発明において、「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用する場合に、引用例2に記載のとおり電池ケース内を減圧すると、非水系電解液に添加剤としてジフルオロ燐酸リチウムが添加されているので、当該非水電解液の分解が抑制され、ガスの発生が抑制され、フィルムは膨張せず、電極が密着性を失わないので、内部抵抗が増加しないため、電池からの供給電流が大きくなっても、出力電圧の低下が抑制され、その結果、高い出力電圧が維持されることは、当業者には自明の事項であるといえるから、本願補正発明が高い出力を維持することは、当業者が容易に予測し得る程度のことである。

カ 自動車用途等の大型電池として特に適していることについて
上記イ?オによれば、引用発明において、「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用することにより、(a)高容量であり、(b)長寿命であり、(c)高出力であり、(d)ガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の高いリチウム二次電池が得られるといえるから、上記(4-1)アの記載も参照すれば、そのようなリチウム二次電池が自動車用途の大型電池として適していることは、当業者には自明な事項である。

キ 請求人が上申書の2.(3)において、本願明細書に記載された実施例4に基づいて、本願発明は顕著な効果を奏するものであり、ガス発生の抑制だけでなく、電池性能も向上することは、何れの引用文献、参考文献にも記載も示唆もない旨の主張をしているので、この点についても検討する。
本願明細書の段落【0188】の表3に、下記のとおり、実施例4についての各種評価結果が記載されている。

表3「


上記表3によれば、実施例4の電池容量が、サイクル試験前に6.1Ah、試験後に5.3Ahであり、比較例1の試験後の5.0Ahよりも大きいことから、実施例4が、(a)高容量を有し、(b)長寿命を有するものであると認められる。しかしながら、引用発明の「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用したものが、上記イの検討において、100Ahの容量が実現可能であることが示され、上記ウの検討において、良好なサイクル特性を有することが示されていることからすると、本願補正発明の上記(a)、(b)の効果が格別のものであるということはできない。
上記表3によれば、実施例4の初期出力595W、耐久後出力407Wであり、比較例1の初期出力508W、耐久後出力318Wと比較すると、実施例4が、(c)高出力を有することが認められる。一方、上記オの検討においては、引用発明の「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用したものが、高い出力電圧を維持するといえることを示しているだけであり、具体的な出力値(W)について示しているわけではない。しかしながら、本願補正発明においても、具体的な出力値が特定されているわけではなく、当該具体的な出力値を可能とする具体的な電池の構成が特定されているわけでもない。したがって、本願補正発明は、単に高出力であるといえるにとどまり、その大きさがどの程度であるかは不明であるから、上記オの検討によれば、本願補正発明の上記(c)の効果が格別のものであるということはできない。また、仮に、本願補正発明に具体的な出力値が特定されていたとしても、引用発明の「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用した場合において、電極群を構成する正極及び負極の積層枚数を増加して直列接続すれば、所望の出力電圧を得ることが可能であることは明らかであるから、上記具体的な出力値を有することについても、当業者の予測の範囲を超える格別なものであるということはできない。
上記表3によれば、実施例4が、過充電試験時に弁作動し破裂しないことから、(d)ガス発生が少なく、過充電の際にも安全性の向上したリチウム二次電池であるものと認められる。しかしながら、上記エの検討に基づけば、引用発明の「負極缶6」に代えて「積層フィルム」からなる電池ケースを採用したものも、同様の効果を奏するといえるから、本願補正発明の上記(d)の効果が格別のものであるということはできない。

ク 以上から、本願補正発明の奏する効果は、引用例1、引用例2や周知の技術に基づいて、当業者が予測し得る程度のものであり、格別のものであるということはできない。

(4-3)判断についてのまとめ
以上、検討したとおり、本願補正発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

5 補正の却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正(平成26年11月26日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成25年1月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1において本件補正前の請求項1として記載されたものであり、再掲すると、次のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも、正極と負極とを微多孔膜セパレータを介して構成する電極群、並びに、非水溶媒にリチウム塩を含有してなる非水系電解液を備え、これらを電池外装に収納してなるリチウム二次電池であって、
該正極及び該負極が、それぞれ集電体上にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する活物質層を形成してなるものであり、
該非水系電解液が、ジフルオロリン酸塩を、非水系電解液全体中に10ppm以上含有する非水系電解液であり、
該電池外装を形成する外装材が、電池の内面側の少なくとも一部が熱可塑性樹脂を用いて形成されたシートからなり、該電極群を収納すると共に、該熱可塑性樹脂層同士をヒートシールすることで該電極群を密封することができる外装材であることを特徴とするリチウム二次電池。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定に記載された拒絶の理由の一つは、本願発明は、引用例1に記載された発明において、引用例2等に例示される周知の技術を用いることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例の記載及び引用発明
原査定の根拠となった拒絶の理由に引用された引用例1、2の記載事項と引用発明については、前記第2の4の(2)において、摘記及び認定したとおりである。

4 対比・判断
前記第2の2、3で検討したように、本願補正発明は、本件補正前の請求項1で、非水系電解液に含有される特定化合物について、「ジフルオロリン酸塩」と記載してカウンターカチオンが特定されていなかったものを、本件補正後の請求項1で「ジフルオロリン酸リチウム」と記載してカウンターカチオンをリチウムに限定したものである。逆に言えば、本願発明は、本願補正発明において、カウンターカチオンがリチウムであるとの限定を省いて、カウンターカチオンが特定されない「ジフルオロリン酸塩」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2の4の(1)?(4)において検討したとおり、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明と引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、原査定の拒絶理由によって、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-22 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-08 
出願番号 特願2006-342249(P2006-342249)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 池渕 立
小川 進
発明の名称 リチウム二次電池及びそれを連結した組電池  
代理人 高橋 徳明  

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