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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1319742
審判番号 不服2015-7655  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-24 
確定日 2016-09-23 
事件の表示 特願2009-249519「生理的状態変化と生理的状態に変化を与える要因の効果を評価する遺伝子マーカー、評価方法、評価システム、及びコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日出願公開、特開2011- 92100〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年10月29日の出願であって、平成27年1月20日付けで拒絶査定がされたところ、同年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審による平成28年4月18日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という)に応答して、同年6月20日に意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成28年6月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
加齢に比例して相対発現頻度が変動する末梢血中のCD248、BTBD11、及びSPEGから成る群から選択される1若しくはそれ以上の遺伝子の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルと当該被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルを変化させる要因との相関関係に基づき、当該被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイル及び/若しくは標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに対する前記要因の発現抑制または亢進効果を評価可能な標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイル評価システムによって実行される方法であって、
(a)前記被験者の末梢血由来のmRNAに基づいて、前記1若しくはそれ以上の遺伝子の相対発現頻度を測定する工程と、
(b)前記測定した相対発現頻度と、標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルと標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルを変化させる要因との相関関係に基いて予め用意された遺伝子発現頻度プロファイル又は予測関数に基づいて回帰する回帰直線若しくは回帰曲線とを比較する工程と、
(c)前記比較した結果に基づいて、前記被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに関する指標値及び/若しくは標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに対する前記要因の発現抑制または亢進効果に関する指標値を出力する工程と、
を有し、前記要因は、前記被験者の年齢または糖尿病罹患であることを特徴とする、方法。」

第3 引用例
1.引用例1
拒絶理由において「引用例7」として引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特表2001-511016号公報(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は強調のため当審で付与したものである。以下、同様である。

(1-a)「大動脈特異的および横紋筋特異的な筋肉細胞におけるアイソフォームをコードする単一遺伝子、およびその使用」(発明の名称)

(1-b)「本発明は、また、APEG-1をコードする同じゲノムDNAから生じる、横紋筋細胞特異的な変異遺伝子産物を特徴とし、したがって、横紋筋で選択的に発現される遺伝子(SPEG)のポリペプチドをコードする実質的に純粋なDNA(例えば、ゲノムDNA、cDNA、または合成DNA)を提供する。」(10頁11?14行目)

(1-c)「図15は、糖尿病ラットと対照ラットにおけるAPEG-1発現を比較した棒グラフである。APEG-1発現は、糖尿病ラットでは低下していた(対にならないT検定:T_(10)=3.284、P値=0.0033)。」(16頁1?3行目)

(1-d)「診断法
本発明は、血管組織のサンプル中で損傷を検出する方法を含む。(33頁19?20行目)

(1-e)「治療法
血管損傷および他の刺激を受けると、活性化された血管細胞からのサイトカインおよび増殖因子が、脱分化した血管平滑筋細胞の増殖と移動を促進し、アテローム硬化斑と再狭窄を生じさせる。インビトロで、APEG-1ポリペプチドを血管平滑筋細胞に(マイクロインジェクションによって)投与すると、DNA合成が減少し、細胞の増殖が減少したことを示す結果となった。APEG-1ポリペプチド、または適当な発現調節配列に操作可能なように結合されたAPEG-1ポリペプチドをコードするDNAを投与することによって、外科手術またはバルーン血管形成の間に起きた血管損傷を治療することができる。この他の、例えば、アテローム硬化、移植性動脈硬化、および糖尿病など、APEG-1発現が減少するという特徴をもつ血管症状(図15)も、同じように治療することができると考えられる。」(34頁24行目?35頁6行目)

(1-f)「

」(図15)

引用例1記載事項(1-b)の下線部分より、APEG-1とSPEGは、同じゲノムDNAから生じる遺伝子産物であると認められる。
また、引用例1記載事項(1-d)の下線部分より、APEG-1/SPEGをコードする遺伝子を使用して血管の損傷を検出する方法が記載されているといえ、さらに引用例1記載事項(1-c),(1-e)の下線部分及び(1-f)の図15より、糖尿病ラットと対照ラットにおけるAPEG-1発現を比較すると、APEG-1発現は糖尿病ラットでは低下していたという結果から、APEG-1をコードする遺伝子が糖尿病を診断するための遺伝子マーカーになっていることは明らかである。
そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「SPEGをコードする遺伝子を使用して、糖尿病を診断するための方法。」

2.引用例2
拒絶理由において「引用例8」として引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-207354号公報(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。

(2-a)「糖尿病の有無等を判定する方法」(発明の名称)

(2-b)「(a)被験者xに由来するヒト白血球における特定の遺伝子又は遺伝子群の発現プロファイルxを得る工程、(b)工程(a)で得られた発現プロファイルxを、非糖尿病の被験者yに由来するヒト白血球における遺伝子群又はその同等物中の工程(a)と同一の特定の遺伝子又は遺伝子群についての発現プロファイルyと比較する工程、及び(c)工程(b)で、発現プロファイルxが発現プロファイルyと有意に異なる場合に、被験者xが糖尿病患者又はその予備軍であると判定する工程を含む、被験者xが糖尿病患者又はその予備軍であるか否かを判定する方法等を採用する。」(要約)

(2-c)「本発明においては、ヒト白血球に由来する遺伝子群又はその同等物中の、特定の遺伝子又は遺伝子群の発現プロファイルを得て、各種判定を行う。ここで、「ヒト白血球に由来する遺伝子群の同等物」とは、第一の発明において非糖尿病の被験者(好ましくは健常者)の白血球に由来する遺伝子群の代わりに、使用することができるものであり、具体的には、例えば、健常者のmRNAと同等の組成を有する人工RNAの混合物である。また、「遺伝子又は遺伝子群の発現プロファイル」とは、遺伝子の発現レベルに関する情報をいう。従って、遺伝子の発現量そのもの、発現強度、発現頻度、2種以上の遺伝子群の全体としての発現挙動(例えば、複数の遺伝子群の発現強度を特定の式に代入して計算した値から判定したり、複数の遺伝子群の発現強度を示す画像から判定する)、2種以上の遺伝子群の発現比率等の、遺伝子の発現状態を判定できる情報すべてを包含する。」(【0035】)

(2-d)「工程(a)は、被験者xから採取した血液を用い、その血液中に含まれるヒト白血球に由来するRNA中、特定の遺伝子又は遺伝子群の発現量等のデータを、当該特定の遺伝子又は遺伝子群に由来するmRNAやタンパク質を測定することによって入手し、当該特定の遺伝子又は遺伝子群の発現プロファイルを得る工程である。」(【0041】)

(2-e)「「特定の遺伝子群の発現プロファイルを得る」とは、特定の2種以上の遺伝子に由来するmRNAやタンパク質を測定し、(1)2種以上の遺伝子個々の発現量、発現強度、発現頻度、発現比率等の測定値を得ること、(2)2種以上の遺伝子の発現量等の測定値を得、次いでそれらの測定値を統計的処理に供して統計的処理後の値を得ること等をいう。
遺伝子の発現量等の測定値は、補正した後、統計的処理に供することが好ましい。補正方法としては、(1)ある遺伝子の発現量について、例えば全測定値の平均を0、分散を1とする数値の標準化処理方法、(2)発現量が大きく変動しない遺伝子(例えばハウスキーピング遺伝子)の発現量を基準として、その測定値に基づいて被験遺伝子の測定値を補正する方法等がある。」(【0043】?【0044】)

(2-f)「「統計的処理」は、2群間で有意差があるか否かを検定できる方法であれば、どのような方法であってもよい。例えば、回帰直線を求める方法、相関係数を求める方法、分散分析、ノンパラメトリック分析、「多変量解析」に属する種々の解析手法を用いることができる。ここで、「多変量解析」とは、複数の、通常は3以上の変数を同時に分析する統計的処理方法である。また、「多変量解析」に含まれる統計分析手法には、重回帰分析、判別分析、主成分分析、クラスター分析(最長法、最近隣法、メディアン法、セントロイド法等を包含する)等がある。「統計的処理」されて得られた値には、「有意差検定」の結果も包含され得る。「有意差検定」には、比較対象である2群間の平均値の差を検定する解析手法(t検定、F検定など)と、そうした解析手法を変量が多い(多変量の)場合に拡張した解析手法(LS Permutation、KS Permutation、Zスコア、ウィルクスのΛなど)とがある。なお、これらの統計的処理方法の詳細は、多くの成書に記載されている。」(【0046】)

第4 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
引用発明は、SPEGをコードする遺伝子の発現に基づいて糖尿病に罹患しているか否かを評価する方法であると認められることから、本願発明1と引用発明の両者は、SPEGをコードする遺伝子の発現と被験者における当該遺伝子の発現を変化させる要因との相関関係に基づき、当該遺伝子の発現に対する前記要因の発現抑制又は亢進効果を評価する方法であって、前記要因は、前記被験者の糖尿病罹患であることを特徴とする方法である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1:本願発明1は、「加齢に比例して相対発現頻度が変動する末梢血中のCD248、BTBD11、及びSPEGから成る群から選択される1若しくはそれ以上の遺伝子」を用いるのに対して、引用発明は、用いる遺伝子に「加齢に比例して相対発現頻度が変動する末梢血中の」という特定を有しない点。

相違点2:本願発明1は、「遺伝子の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルと当該被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルを変化させる要因との相関関係に基づき、当該被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイル及び/若しくは標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに対する前記要因の発現抑制または亢進効果を評価可能な標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイル評価システムによって実行される方法であって、
(a)前記被験者の末梢血由来のmRNAに基づいて、前記1若しくはそれ以上の遺伝子の相対発現頻度を測定する工程と、
(b)前記測定した相対発現頻度と、標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルと標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルを変化させる要因との相関関係に基いて予め用意された遺伝子発現頻度プロファイル又は予測関数に基づいて回帰する回帰直線若しくは回帰曲線とを比較する工程と、
(c)前記比較した結果に基づいて、前記被験者の標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに関する指標値及び/若しくは標準化発現頻度若しくは遺伝子発現頻度プロファイルに対する前記要因の発現抑制または亢進効果に関する指標値を出力する工程と、を有」するのに対して、引用発明はかかる特定を有しない点。

第5 当審の判断
上記相違点1,2について検討する。

相違点1について:
まず、「末梢血中の」遺伝子である点については、引用例1記載事項(1-d)及び(1-e)において、血管組織をサンプルとすることが記載されている以上、末梢血をサンプルとして、SPEGの遺伝子発現について評価することは当業者であれば適宜なし得るものである。
そして、引用発明は、本願発明1と同じSPEGをコードする遺伝子を用いるものであるから、サンプルが末梢血である場合の引用発明の当該遺伝子は、「加齢に比例して相対発現頻度が変動する」ものであると認められる。

相違点2について:
引用例2記載事項(2-a)?(2-f)に記載されているように、被験者から採取した血液を用い、当該被験者に由来する特定の遺伝子群の発現頻度を発現プロファイルとして得て、得られた発現プロファイルと非糖尿病の被験者に由来する同一の特定の遺伝子群についての発現プロファイルとを、回帰直線を求める方法等により比較することにより、被験者における糖尿病の有無等を判定する方法は、本願出願前に当業者に既に知られていた手法であった。
そうすると、引用発明における、糖尿病マーカーであるSPEGをコードする遺伝子について、引用例2に記載された上記手法を適用し、被験者に由来するSPEGをコードする遺伝子の発現頻度を発現プロファイルとして得て、得られた発現プロファイルと非糖尿病の被験者に由来するSPEGをコードする遺伝子についての発現プロファイルとを、回帰直線を求める方法等により比較し、その結果に基づいて、被験者における糖尿病の有無に関する指標値を出力することは、当業者であれば容易になし得るものである。

そして、本願発明1の効果についても、SPEGをコードする遺伝子を糖尿病マーカーとして使用できたという程度のものであって、引用例1及び2の記載から当業者が予想し得ない格別顕著な効果であるとは認められない。

したがって、本願発明1は引用例1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結び
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-20 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-08 
出願番号 特願2009-249519(P2009-249519)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜中根 知大吉田 知美  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
三原 健治
発明の名称 生理的状態変化と生理的状態に変化を与える要因の効果を評価する遺伝子マーカー、評価方法、評価システム、及びコンピュータプログラム  
代理人 矢口 太郎  

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