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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1319743
審判番号 不服2015-8002  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-30 
確定日 2016-09-23 
事件の表示 特願2011-545817「ユーザのエネルギー消費の決定」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月29日国際公開、WO2010/084430、平成24年 7月12日国内公表、特表2012-515570〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2010年1月11日(パリ条約による優先権主張外国受理2009年1月21日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成26年2月21日付けで拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書が提出されたが、同年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月30日に拒絶査定不服審判が請求がされ、それと同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
この出願の請求項1?12に係る発明は、平成27年4月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「ユーザのエネルギー消費を決定するための装置であって、
前記ユーザの加速度データを時間の関数として受信するためのデータ入力部と、
前記ユーザを特徴付ける1つ以上のユーザパラメータを受信するためのパラメータ入力部と、
定パラメータ及び行動スケーリングパラメータ(k(p))を保存するための記憶部であって、前記スケーリングパラメータは前記ユーザの行動の関数であり、前記行動は、ユーザ入力として得られるか又は自動行動認識アルゴリズムにより決定される、記憶部と、
前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより前記行動に依存した行動値(AC(p))を決定し、前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積を得て前記積と前記1つ以上のユーザパラメータとの合計を形成することによってエネルギー消費(PAEE)の推定値を決定するためにプログラムされたプロセッサであって、前記ユーザパラメータは、前記定パラメータ及び前記行動の継続時間によりスケーリングされる、プロセッサと、
を有する装置。」

3 刊行物の記載事項
(1)本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-258870号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審により付加した。)。

ア 「【0020】図2は、図1の方法を実行可能な装置として、本発明を適用した運動カロリー測定装置の全体構成の一例を示す。本運動カロリー測定装置は、人力で動く付属物として例えば自転車や車椅子等を随伴することがある人が、歩行、ジョギング、自転車走行、車椅子走行等の種々の運動をして運動種類に対応した消費したカロリーの測定を可能にする装置であり、加速度センサとしての3軸加速度計1、計算手段として1チップCPUを主体とした演算機2、等で構成されている。又、本例では記憶部3及び呼び出し部としての表示部4が設けられている。これらは計算結果を処理するために設けられる処理手段である。符号5は、本装置の使用/不使用時に電源をオン/オフするためのスイッチ5である。本例では、これらがケース6に装着され一体化されている。ケース6は人の胴体部分に取付け可能なものである。従って、ケース6にはマジックテープや紐等の適当な装着用具が設けられることが望ましい。
【0021】図3は運動カロリー測定装置の概略配置例を示す。3軸加速度計1は、上記の如くケース6により人の胴体部分に取付け可能になっていて、本例では3つの単位センサ11?13として前後方向センサ11、左右方向センサ12及び上下方向センサ13で構成され、これらが互いに直角を成す3つの面11a、12a及び13aの加速度を検出可能なように配設されている。演算機2等もケース6内に適当に設けられる。」

イ 「【0024】演算機2は、入力部21、力積計算部22及びカロリー計算部23を有する。入力部21では、運動質量Mを入力することができる。運動質量Mは、歩行やジョギングでは主として人の質量であり、自転車や車椅子に乗っているようなときには、付属物としてそれらの質量が含まれる。なお、運動質量の値としては、運動の種類により、前後、左右、上下の加速度毎に異なった値を用いることもある。例えば自転車走行では、自転車の質量は前後及び左右の加速度には含まれるが上下の加速度には含まれない方がよい。
【0025】又本例では、入力部21で、歩行、ジョギング、自転車走行、車椅子走行等の運動種類を入力できるようにしている。入力は、運動種類を予め定められた番号で指定したり、キー操作によって順次表示される運動種類を指定する等、通常の適当な方法で行われる。
【0026】力積計算部22は、3つの単位センサ11?13で検出した加速度をサンプリングのための微小時間Δtとして例えば100Hzの1サイクル時間である1/100秒毎に取り入れた入力加速度Ax、Ay、Azと、人の質量と共に前記付属物の質量を含むことがある運動質量Mとから、ベクトル合成によって運動質量の力積Pを計算する。なお、このようなサンプリング時間は調整可能に構成することができる。力積Pは周知の式P=∫Fdtで求められるので、本例では以下のように算出する。
【0027】1)加速度のベクトル和の計算
A=√(Ax^(2)+Ay^(2)+Az^(2))-------(1)
の式により、前後、左右、上下の加速度Ax、Ay、Azのベクトル和の加速度Aを求める。この場合、重力の加速度Gは、人が運動していないときでも常時かかっているので、人の運動による加速度としては、Gを除いたものとして取り扱うことが望ましい。従って、直接Gを検出する上下方向加速度に対しては、検出値からGを差し引いた値をAzとすることが望ましい。」

ウ 「【0033】2)力積の計算
ΔP=MAΔt
の式により、まずΔt=0.01秒の前記微小時間間隔中のおける力積を求める。ここで、Mは入力部21から入力される運動質量であり、Aは前記ベクトル和の加速度である。」

エ 「【0035】以上の計算でΔPを求めれば、これをどのようにも利用可能であるが、本例では、メモリーや外部出力に便利なように、一定の積算時間として例えばt=1秒間毎の力積Ptを、
Pt=MΔtΣAn (nは1から1/Δt=100まで)---(2)
の式によって求め、データ量を圧縮するようにしている。力積Ptは、本来Pt=∫MAdtで計算されるが、Δtを上記程度の時間にしておけば、この間のAを一定として計算しても、通常の人の運動を扱う場合には上式のようにΔPを積算した値で充分な精度を得ることができる。即ち、Aを複雑な時間関数の式として求める必要はない。
【0036】カロリー計算部23では、力積計算部22で計算した上記力積Ptから、運動種類毎にこの力積とほぼ直線的相関関係を持つ人の消費エネルギーQtを運動種類に対応して計算する。そのため、カロリー計算部23には、力×時間(N・s)である単位kgm/sの力積とカロリーである単位ジュールのkgm^(2)/s^(2)の消費エネルギーとの関係を示す式、グラフ、表等の相関データが予め入力されていて、前記の如く入力部21で運動種類が入力されると、その運動種類に対応した相関データが選択される。」

オ 「【0037】図6はそのような相関データの例を示し、実線及び破線はそれぞれ、歩行又はジョギングのもの及び自転車走行のものを示す。これらの線は、後述するように発明者等が実験によって求めたものであり、運動質量に対する力積を単位質量1Kg当たりのものとして表し、歩行や走行の速度を変え、運動強度を変化させたときの力積の変化に対応した消費カロリーの変化を表している。図示の如く、力積とカロリーの相関線は直線であると共に、運動種類と運動強度には関係するが運動者による個人差の生じないものである。従って、普遍的に使用可能である。」

カ 「【0039】このような相関線により、消費エネルギーQtは、
Qt=qCPt---------------(3)
の式で計算される。ここで、qは、運動種類によって図6のような何れかの種類の直線関係を用いて、式により計算した値又は図表で読み取った値であり、Cは、読み取った値qと力積Ptの時間を含めた単位調整のための定数である。図6によれば、例えばある人が歩行して1分間に体重1kg当たりに換算したときの力積300を発生させたとすれば、その人はその1分間に約420ジュール(約100カロリー)の運動エネルギーを消費したことになる。上記1秒間のPtに対するQtとしてはこの数値の1/60である。
【0040】このようにして単位時間の消費エネルギーQtが計算されると、これを利用するために処理するには種々の方法があるが、本例では、処理手段として記憶部3を設けて、Qtを一定量記憶できるようにしている。そして、記憶部3で記憶した消費エネルギーを呼び出せるように呼び出し部として、外部出力を可能にする外部出力端31を設けると共に、時間単位等によって適当にまとめてQtを取り出して表示できる表示部4を設けている。符号41は表示用の操作キーである。これらは演算機を構成している同じCPUチップを用いて形成されている。」

キ 「【0053】運動者は、例えば30分のジョギング後に消費したカロリーを知りたいときには、操作キー41によって時間範囲を指定する等の方法により、30分間の総消費カロリーを表示部4に表示させることができる。このときには、表示部4は簡単な計算を行うことになる。1日の通算値の表示も当然可能である。又、例えば、1週間程度のデータを記憶させておき、健康管理施設等に持ち込み、外部出力端31からその施設のコンピューター等に出力させ、分析・加工したデータにしてもらい、自己の健康管理に役立たせることができる。」

以上の記載事項から、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「人力で動く付属物として例えば自転車や車椅子等を随伴することがある人が、歩行、ジョギング、自転車走行、車椅子走行等の種々の運動をして運動種類に対応した消費したカロリーの測定を可能にする運動カロリー測定装置であって、
加速度センサとしての3軸加速度計1、計算手段として1チップCPUを主体とした演算機2、等で構成され、
3軸加速度計1は、3つの単位センサ11?13として前後方向センサ11、左右方向センサ12及び上下方向センサ13で構成され、
演算機2は、入力部21、力積計算部22及びカロリー計算部23を有し、
入力部21では、運動質量Mを入力することができ、運動質量Mは、歩行やジョギングでは主として人の質量であり、自転車や車椅子に乗っているようなときには、付属物としてそれらの質量が含まれ、又、入力部21で、歩行、ジョギング、自転車走行、車椅子走行等の運動種類を入力できるようにしており、
力積計算部22は、3つの単位センサ11?13で検出した加速度をサンプリングのための微小時間Δtとして例えば100Hzの1サイクル時間である1/100秒毎に取り入れた入力加速度Ax、Ay、Azと、人の質量と共に前記付属物の質量を含むことがある運動質量Mとから、ベクトル合成によって運動質量の力積Pを計算するのであり、力積Pは、A=√(Ax^(2)+Ay^(2)+Az^(2))の式により、前後、左右、上下の加速度Ax、Ay、Azのベクトル和の加速度Aを求め、一定の積算時間として例えばt=1秒間毎の力積Ptを、Pt=MΔtΣAn (nは1から1/Δt=100まで)の式によって求めるものであり、
カロリー計算部23では、力積計算部22で計算した上記力積Ptから、運動種類毎にこの力積とほぼ直線的相関関係を持つ人の消費エネルギーQtを運動種類に対応して計算するのであり、そのため、カロリー計算部23には力積と消費エネルギーとの関係を示す式、グラフ、表等の相関データが予め入力されていて、入力部21で運動種類が入力されると、その運動種類に対応した相関データが選択されるのであり、消費エネルギーQtは、Qt=qCPtの式で計算され、ここで、qは、運動種類によって何れかの種類の直線関係を用いて、式により計算した値又は図表で読み取った値であり、Cは、読み取った値qと力積Ptの時間を含めた単位調整のための定数であり、
このようにして単位時間の消費エネルギーQtが計算されると、これを利用するための処理手段として記憶部3を設けて、Qtを一定量記憶できるようにし、記憶部3で記憶した消費エネルギーを呼び出せるように呼び出し部として、時間単位等によって適当にまとめてQtを取り出して表示できる表示部4を設けており、
運動者が、例えば30分のジョギング後に消費したカロリーを知りたいときには、操作キー41によって時間範囲を指定する等の方法により、30分間の総消費カロリーを表示部4に表示させることができ、1日の通算値の表示も可能である運動カロリー測定装置。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2005-505373号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審により付加した。)。

ア「【0010】
関連分野においては身体活動をPAL(Physical Activity Level:身体活動レベル)として表現することができることが知られている。PALは、日毎平均代謝率(又は量)(ADMR:Average Daily Metabolic Rate)を基礎代謝率(又は量)(BMR:Basal Metabolic Rate)で割ったものと定義される。ADMR(又は日毎総エネルギー消費量)は、3つの区分に分けられる。すなわちBMR,DEE(Diet Induced Energy Expenditure:食餌誘導性エネルギー消費量)及びAEE(Activity Induced Energy Expenditure:身体活動誘導性エネルギー消費量)である。BMRは、安静時(睡眠時を除く)に費やされるエネルギー量であり、体重と強い相関がある。DEEは、食物の摂取後に起こる産熱効果であり、エネルギーバランスの点ではADMRの概ね10%である。AEEは、身体活動において費やされるエネルギーの量であり、全ての成分のうち最も変化しやすくかつ最も測定するのが難しい。このようにPALは、個人の活動を反映した相対的でかつ客観的な数であり、もって各個人間での身体活動の比較に用いるのに適している。」

イ 「【0025】
図1は、本発明の好適実施例たるシステム1の構成要素を示している。システム1は、活動モニタ2を示しており、このモニタは計算手段3に接続可能となっている。他の適切な計算手段も当業者により選定することができる。次のように、当該計算手段は、パーソナルコンピュータ3により形成される。
【0026】
活動モニタ2は、オブジェクトに取り付けられるものであり、その身体活動レベルが示されることとなる。図示の目的で、以下ではオブジェクトが個人であることを前提とする。この個人は、活動モニタ2を所定の期間の間着用(装着)する。
【0027】
3つの加速度計4,5及び6は、前後方向、左右横方向及び垂直方向として知られ、それぞれx,y及びzとして示されている3つの直交方向における個人の体の加速度を測定するよう設けられている。これら加速度計は、一軸状でかつシリアルのバイモルフである圧電性材料のストリップ(細片)を有する。このストリップは、その一端において固定される。」

ウ 「【0030】
加速度計4,5及び6からのデータ信号は、個別の処理のためにデータ処理ユニット7に供給される。この処理ユニットは、所定の期間、例えば1分間にわたり各加速度計のデータ信号を個別に統合又は積分する。その結果は1つのデータポイントとして記憶される。データ処理ユニット7は、バッテリ9及びDC/DCコンバータ11により給電される。
【0031】
このデータポイントはメモリ8に記憶される。かかるメモリは、電源異常の後に、記憶されたデータを保存するフラッシュメモリとするのが好ましい。その記憶容量は、数週間の間にわたり測定されるデータを保持するのに十分なものとするのが好ましい。
【0032】
当該期間の終わりにおいて、単位時間当たりの数の出力を得る時間にわたり当該データポイントが合算され平均化される。」

エ 「【0037】
身体活動レベル(PAL)の計算は、本発明による方法に従って行われる。この方法の極めて重要なステップは、図3のフロー図に示されている。各ステップは以下により詳しく説明する。
【0038】
(ステップ10:データ測定)
ステップ1において、検査対象のオブジェクト、本例では人間の個体の動きに関係するデータ信号が測定される。データ信号は、なるべく正確な結果をもたらす点で3次元で測定されるのが好ましい。好適な実施例によれば、データ信号は、図1及び図2に示されかつ上述したシステムにより測定される。そして、個人は、所定期間、普通は数日間、活動モニタ2を装着する。」

オ 「【0040】
(ステップ20:データ処理)
ステップ1において測定された各測定方向のデータ信号は、個別に処理される。好ましくは、1つの方向において測定されたデータ信号は、所定の期間(例えば1分間)にわたり積分されるのがよい。このような積分の結果は、データポイントと称される。
【0041】
(ステップ30:データ記憶)
ステップ2の処理によって得られたデータポイントは、メモリに記憶される。好ましくは、かかるデータポイントは各方向につき個別に記憶されるのがよい。
【0042】
測定の精度を上げるために、後でその測定値を補正するような手段が設けられる。そのため、補正係数がメモリに記憶され、当該データポイントに適用されることになる。
【0043】
(ステップ40:PALの計算)
かかるデータポイントに基づいて、当該個人の身体活動レベル(PAL)が計算される。」
そのために、次のアルゴリズムが定義される。
PAL=係数1+係数2*(変数1)^(係数3)+係数4*(変数2)^(係数5)+・・・+係数(2n)*(変数n)^(係数(2n+1))
【0044】
変数1ないし変数nは、当該オブジェクト及び/又はシステムに関連する変数である。当該オブジェクトが人間の個人である本例においては、当該対象に関連する変数は、体容積及び/又は睡眠時間及び/又は年齢及び/又は身長及び/又は性別の情報又は値を有するものとすることができる。当該システムに関連する変数は、当該測定手段の出力及び/又は装着時間の情報又は値を有するものとすることができる。当該出力は、メモリ手段に入力される前又は計算手段に直接入力される前に、データ処理手段により最初に処理されるのが好ましい。本例においては、この出力は、測定手段及びデータ処理手段の双方を組み込む活動モニタから得られる。」

カ 「【0046】
第2の好適実施例によれば、このアルゴリズムは次の如く拡張される。
PAL=a+b*(出力)^(c)+d*(体容積)^(e)+f*(睡眠時間)^(g)+h*(装着時間)^(i)+j*(年齢)^(k)+l*(身長)^(m)+n*(性別)^(o)
【0047】
係数1から係数2n+1は、当該システムの検証により決定されることになる値を有する係数、好ましくは定数である。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「人力で動く付属物として例えば自転車や車椅子等を随伴することがある人が、歩行、ジョギング、自転車走行、車椅子走行等の種々の運動をして運動種類に対応した消費したカロリーの測定を可能にする運動カロリー測定装置」は、本願発明の「ユーザのエネルギー消費を決定するための装置」に相当する。

(2)引用発明の「演算器2」の「力積計算部22は、3つの単位センサ11?13で検出した加速度をサンプリングのための微小時間Δtとして例えば100Hzの1サイクル時間である1/100秒毎に」「入力加速度Ax、Ay、Az」を「取り入れ」るのであるから、引用発明がユーザの加速度データを受信するためのデータ入力部を有していることは自明である。
また、引用発明は「100Hzの1サイクル時間である1/100秒毎に取り入れた入力加速度Ax、Ay、Azと、人の質量と共に前記付属物の質量を含むことがある運動質量Mとから、ベクトル合成によって運動質量の力積Pを計算する」のであって、「1秒間毎の力積Pt」を、「Pt=MΔtΣAn (nは1から1/Δt=100まで)の式によって求め」、「単位時間の消費エネルギーQt」を「Qt=qCPtの式」によって計算し、「Qtを一定量記憶できるようにし」、「時間単位等によって適当にまとめてQtを取り出して表示できる」ものであることから、「Qt」及び「Pt」は1秒間毎の時間の関数であることは自明であり、そのためには、少なくとも入力加速度Ax、Ay、Azは1秒間毎の時間の関数でなければならないことは明らかである。
したがって、引用発明は、本願発明の「前記ユーザの加速度データを時間の関数として受信するためのデータ入力部」を有するといえる。

(3)引用発明の「運動質量M」は、「歩行やジョギングでは主として人の質量であり、自転車や車椅子に乗っているようなときには、付属物としてそれらの質量が含まれる」のであるから、本願発明の「前記ユーザを特徴付ける1つ以上のユーザパラメータ」に相当する。
したがって、引用発明の「運動質量Mを入力することができる」「入力部21」は、本願発明の「前記ユーザを特徴付ける1つ以上のユーザパラメータを受信するためのパラメータ入力部」に相当する。

(4)本願の発明の詳細な説明の段落【0046】?【0055】によれば、本願発明の「定パラメータ」及び「スケーリングパラメータ」は、それぞれ、加速度測定からエネルギー消費PAEEを推定する式、PAEE=Tp*a0'+Tp*a1'*年齢+Tp*a2'*体重+Tp*a3'*身長+a4*k(p)*AC(p)のうちの定数a0'、a1'、a2'、a3'、a4、及び、加速度データを積分又は合計することにより決定される行動値AC(p)をスケーリングするための行動スケーリングパラメータk(p)をいうものと解される。なお、Tpは行動pの継続時間である。
また、段落【0058】によれば、本願発明の「定パラメータ」及び「スケーリングパラメータ」は、身体的な行動pに依存して、身体的な行動に関連するエネルギー消費PAEEを決定するために、定パラメータai’及びユーザパラメータUiを用いて決定される式、PAEE(p)=Σ_(i)Tp*ai’*Ui+k(p)*AC(p)のうちの定パラメータを含む行動スケーリングパラメータk(p)をいうものと解される。
これに対し、引用発明の消費エネルギーQtを計算する式は、Qt=qCPt、Pt=MΔtΣAnであるから、引用発明の「消費エネルギーQt」が本願発明の「エネルギー消費PAEE」に相当し、引用発明の「加速度A」の「積算」である「ΔtΣAn」が本願発明の「前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより」「決定」される「前記行動に依存した行動値AC(p)」に相当し、引用発明の運動の種類によって何れかの直線関係を用いて式により計算した値又は図表で読み取った値」「q」が本願発明の「前記行動の関数であ」る「行動スケーリングパラメータ」に相当し、引用発明の「読み取った値qと力積Ptの時間を含めた単位調整のための定数」「C」及び「運動質量M」が本願発明の「定パラメータ」に相当するといえる。
そして、引用発明では、「カロリー計算部23には、力積Ptと消費エネルギーQtとの関係を示す式、グラフ、表等の相関データが予め入力されてい」るのであるから、これに対応する「q」、「C」及び「M」を保存するための記憶部を有することは自明である。
したがって、引用発明は、本願発明の「定パラメータ及び行動スケーリングパラメータ(k(p))を保存するための記憶部であって、前記スケーリングパラメータは前記ユーザの行動の関数であり、前記行動は、ユーザ入力として得られる、記憶部」を有するといえる。

(5)上記(4)の検討を踏まえれば、引用発明の「加速度A」の「積算」を含む「力積Pt=MΔtΣAn」を求め、「Qt=qCPt」から「消費エネルギーQt」を計算することは、本願発明の「前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより前記行動に依存した行動値(AC(p))を決定し、前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積を得て」「エネルギー消費(PAEE)の推定値を決定する」ことに相当するといえる。
また、引用発明では「演算器2」の「力積計算部22」で「力積Pt=MΔtΣAn」を求め、「演算器2」の「カロリー計算部23」で「消費エネルギーQt=qCPt」を計算するのであり、この「演算器2」は、「計算手段として1チップCPUを主体とした」ものであるから、計算のためにプログラムされたプロセッサといえる。
したがって、引用発明と、本願発明の「前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより前記行動に依存した行動値(AC(p))を決定し、前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積を得て前記積と前記1つ以上のユーザパラメータとの合計を形成することによってエネルギー消費(PAEE)の推定値を決定するためにプログラムされたプロセッサであって、前記ユーザパラメータは、前記定パラメータ及び前記行動の継続時間によりスケーリングされる、プロセッサ」とは、「前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより前記行動に依存した行動値(AC(p))を決定し、前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積によってエネルギー消費(PAEE)の推定値を決定するためにプログラムされたプロセッサ」を有する点で共通する。

してみると、本願発明と引用発明とは
「ユーザのエネルギー消費を決定するための装置であって、
前記ユーザの加速度データを時間の関数として受信するためのデータ入力部と、
前記ユーザを特徴付ける1つ以上のユーザパラメータを受信するためのパラメータ入力部と、
定パラメータ及び行動スケーリングパラメータ(k(p))を保存するための記憶部であって、前記スケーリングパラメータは前記ユーザの行動の関数であり、前記行動は、ユーザ入力として得られる、記憶部と、
前記行動の継続時間に亘って前記加速度データを積分又は合計することにより前記行動に依存した行動値(AC(p))を決定し、前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積によってエネルギー消費(PAEE)の推定値を決定するためにプログラムされたプロセッサと、
を有する装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
プロセッサが、本願発明では「前記行動スケーリングパラメータと前記行動値との積を得て前記積と前記1つ以上のユーザパラメータとの合計を形成することによってエネルギー消費(PAEE)の推定値を決定するためにプログラムされた」ものであって、「前記ユーザパラメータは、前記定パラメータ及び前記行動の継続時間によりスケーリングされる」ものであるのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

5 判断
(相違点について)
刊行物2において、段落【0010】(上記3(2)ア)には、日毎総エネルギー消費量(本願発明のエネルギー消費に相当する。)は、基礎代謝量と食餌誘導性エネルギー消費量と身体活動誘導性エネルギー消費量の3つの区分に分けられることが記載され、また、段落【0046】(上記3(2)カ)には、日毎総エネルギー消費量を基礎代謝量で割ったPALについて、PAL=a+b*(出力)^(c)+d*(体容積)^(e)+f*(睡眠時間)^(g)+h*(装着時間)^(i)+j*(年齢)^(k)+l*(身長)^(m)+n*(性別)^(o)、すなわち、活動モニタからの各加速度系のデータ信号による出力に定数bを掛けた項と、a、j*(年齢)、l*(身長)及びn*(性別)等の定数又は定数とみなせる項との合計を形成することによって計算するアルゴリズムが記載されている。
そして、引用発明は、1日の通算値の表示も可能であるものの、計算される消費エネルギーは運動により消費したもののみを測定するものであるから、刊行物2に記載の技術事項を組み合わせて、運動以外の基礎代謝等を含めた日毎総エネルギー消費量を求めようとすることは当業者が容易に想起し得るものであり、その際に、1日の運動により消費した消費エネルギーに合わせて、運動以外のa、j*(年齢)、l*(身長)及びn*(性別)等の定数又は定数とみなせる項を1日のエネルギー消費量にスケーリングすべきことは当然である。
また、エネルギー消費量として、日毎総エネルギー消費量を基礎代謝量で割ったPALとして表現するか、単純に、日毎総エネルギー消費量そのままの値で表現するかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項であり、後者を選択することに格別の困難性はない。
したがって、引用発明に刊行物2の技術事項を組み合わせて相違点に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たものである。

(効果について)
上記相違点により本願発明が奏する効果は、刊行物1及び刊行物2から、当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-02 
審決日 2016-05-13 
出願番号 特願2011-545817(P2011-545817)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 藤田 年彦
田中 洋介
発明の名称 ユーザのエネルギー消費の決定  
代理人 津軽 進  
代理人 五十嵐 貴裕  
代理人 笛田 秀仙  

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