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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1319746
審判番号 不服2015-12309  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-30 
確定日 2016-09-23 
事件の表示 特願2014-216847「試料ろ過フィルターを用いる簡易メンブレンアッセイ方法及びキット」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開、特開2015- 14618〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年10月16日(国内優先権主張 平成18年10月19日)を出願日とする特願2014-149854号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成26年10月24日に新たな特許出願として分割したものであって、平成27年3月23日付けで拒絶査定されたところ、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

その後、当審において平成28年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年7月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1?15に係る発明は、平成28年7月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載の事項により特定される発明であると認める。

そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、当審にて(A)?(E)を付して分節して整理すると、次のように整理される。

「【請求項1】
(A)検体中の被検出物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置上で検体中の被検出物の存在を検出又は定量することを含む簡易メンブレンアッセイ法において、

(B)ヒト又は他の動物の咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、肺胞洗浄液、便懸濁液及び直腸拭い液からなる群から選択される検体を採取し、採取した検体を検体浮遊液に浮遊させ試料を調製し、

(C)調製した試料を強剛性フィルターが含まれるろ過フィルターを用いて加圧ろ過し、

(D)その後メンブレン上に滴下することを含み、

(E)前記強剛性フィルターは、変形しにくく目詰まりが起こりにくく、フィルターの厚さ方向に潰れにくい剛性を備えており、ろ液の圧力によってもフィルター内部のろ液の流路を塞ぎ難い剛性を備えた、厚さが0.5mm以上であり、ポリプロピレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン重合体及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される素材でできた焼結フィルターである強剛性フィルターである、

簡易メンブレンアッセイ方法。」

第3 刊行物記載の事項

当審から平成28年4月27日付けで通知された拒絶理由で引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である

刊行物1:特開2004-028875号公報

刊行物2:国際公開2006-098297号

には、次の事項が記載されている。

なお、下線は当審にて付記したものである。

1 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「[請求項1]
被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる、検体試料中の被測定物の簡易メンブレンアッセイ法であって、検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後に前記メンブレン上に滴下し、前記検体試料中の被測定物の存在を検出あるいは定量することを特徴とする方法。」

(刊1-2)「[0006]
・・・例えば患者の咽頭や鼻腔等から拭い液を採取して緩衝液に浮遊したり、被測定物を含む鼻汁や尿等の分泌物や排泄物から一部を採取し、緩衝液で希釈して、メンブレンアッセイ用の試料を作製するが、・・・」

(刊1-3)「[0008]
本発明のメンブレンアッセイ法は、2種類のメンブレンアッセイ法、すなわちフロースルー式メンブレンアッセイ法またはラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用するものであることが、簡便かつ迅速であるため好ましい。フロースルー式メンブレンアッセイ法は被測定物を含む溶液を、被測定物と特異的に結合する捕捉試薬や検出用物質が塗布されたメンブレンに対して垂直方向に通過させるものであり、被測定物に特異的に結合する捕捉物質、被測定物、被測定物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被測定物の検出あるいは定量を行う。ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法は、同様なメンブレンを用いて、メンブレンに対して被測定物を含む溶液を水平方向に展開させる点でフロースルー式メンブレンアッセイ法と異なるが、被測定物の検出原理は同様である。」

(刊1-4)「[0010]
(濾過フィルター)
本発明の方法において、患者から採取した検体試料は検体浮遊液に浮遊させた後、濾過フィルターを用いて濾過される。濾過フィルターの孔径(直径)または保留粒子径は0.2?2.0μm、好ましくは0.2?0.6μmである。濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径は、本発明の効果において重要である。孔径あるいは保留粒子径が大きすぎると、メンブレン上で非特異的結合が起こって偽陽性を示す場合がある。逆に小さすぎると試料中に存在する粘性物や凝集物のためにフィルター自身が詰まってしまい濾過が不可能であるか、あるいはフィルター面積をかなり広くしなければならず、簡易検査方法に用いるという目的から見て不適切である。従って、本発明の濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径の範囲は0.2?2.0μmであり、0.2?0.6μmの範囲のものがより好ましい。
濾過フィルターは1種類だけではなく、材質の異なるもの、孔径あるいは保留粒子径の異なるものをいくつか組み合わせても良い。その場合、フィルターを構成するもののうち、最も小さな孔径あるいは保留粒子径のものが、そのフィルターの孔径あるいは保留粒子径となる。したがって組み合わせのうち、一つでも孔径あるいは保留粒子径が0.2?2.0μmの範囲にあれば、他のものがその範囲を越えていたとしても問題はない。
また、同じフィルターを2枚以上組み合わせることにより孔径または保留粒子径にばらつきのあるフィルターを使用しても一定の効果を得ることができるという利点が得られる。さらに強度的に不十分なフィルターを用いる場合に、2枚以上重ねてフィルターの強度を上げることも出来る。しかし、フィルターの種類によっては複数枚重ねることによりフィルターが詰まりやすくなり、濾過するための圧力が大きくなり、簡便性が損なわれるという欠点も有する。」

(刊1-5)「[0012]
(濾過チューブ)
上記濾過フィルターは、本発明の簡易メンブレンアッセイ法またはキットにおいて、検体試料用濾過チューブの先端に取り付けて使用されることが好ましい。すなわち、濾過チューブ中に浮遊液に浮遊させた検体試料をいれて、先端に取り付けた濾過フィルターを通して濾過し、濾液をメンブレンアッセイ装置中のメンブレンに滴下する方法が簡便であり、好ましい。この濾過チューブの一実施態様の模式図を図3及び図4に示す。濾過チューブは例えば図3に記載されるように先端部と本体部からなる形状であり、先端部の内部に図4に示されるように濾過フィルターが備えつけられている。本体部に浮遊液に浮遊させた検体試料を入れ、本体部に濾過フィルターを備えた先端部を取り付ける。濾過フィルターを通して検体試料を濾過し、濾液をメンブレンアッセイ装置に滴下する。本体部がポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブルな材質からなると、濾過フィルターを取り付けた状態で、手などにより内部に圧力を加えることで、容易に検体試料を濾過することができるため、好ましい。」

(刊1-6)「[0015]
(被測定物)
本明細書にいう被測定物にはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBc、HCV、HIV、EBV、ノーウォーク様ウイルス等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、炭疽菌、MRSA等の細菌抗原、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト繊毛性ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミンB類等のビタミン類、プロスタングランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、細菌等が産生する毒素、各種腫瘍マーカー、農薬、抗大腸菌抗体、抗サルモネラ抗体 、抗ブドウ球菌抗体、抗カンピロバクター抗体、抗ウェルシュ菌抗体、抗腸炎ビブリオ菌抗体、抗ベロトキシン抗体、抗ヒトトランスフェリン抗体、抗ヒトアルブミン抗体、抗ヒト免疫グロブリン抗体、抗マイクログロブリン抗体、抗CRP抗体、抗トロポニン抗体、抗HCG抗体、抗クラミジア・トラコマティス抗体、抗ストレプトリジンO抗体、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体、抗β-グルカン抗体、抗HBe抗体、抗HBs抗体、抗アデノウイルス抗体、抗HIV抗体、抗ロタウイルス抗体、抗インフルエンザウイルス抗体、抗パルボウイルス抗体、抗RSウイルス抗体、抗RF抗体、病原微生物に由来する核酸成分に相補的なヌクレオチド等を挙げることができるが、これらに限定されない。」

(刊1-7)「[0016]
本発明の検査方法により分析するための検体試料は、咽頭あるいは鼻腔拭い液を適当な緩衝液中に浮遊させた溶液、・・・を適当な緩衝液で希釈した溶液を用いることができるがこれらに限定されない。・・・」

2 刊行物2記載の事項
(刊2-1)「[0029]本発明の検体採取液容器は摺動自在にストッパーを挿入し、さらに滴下口を有することにより反応試薬容器への滴下液を調製する際に、検査者がウィルスによる汚染や感染などのリスクを防止することが可能である。また、操作の煩雑さを低減させることも可能である。また、本発明の検体採取液容器は検体採取液容器の上端および/または下端に延出する該容器を取り出す補助手段を設けたことにより、容器のスタンドラックからの取り出しを容易にし、キャップと容器本体の装着時の側部の境界 (キヤップ下端)と開口するために必要な把持部分を離れた位置にして、キャップを着脱することにより、感染のリスクを回避することができる。さらに、本発明では、前記溶解液室内で検体試料の溶解または抽出を促すための補助手段を設けたことにより、試料液の調製を簡単に行うことが可能である。また、本発明では、前記フィルターの空孔径および厚さ、滴下口の口径および長さ、ならびに液体充填量を選択することにより、反応試薬へ試料を滴下する際に、検体採取液が水鉄砲のように飛散するなどの問題を解消することができる。」

(刊2-2)「[0035]筒状容器2は、その下端近くに摺動自在なストッパー3が挿入され、かつ、上端に着脱自在にキャップ4が取り付けられている。ストッパー3とキャップ4が取り付けられることにより、筒状容器2内に溶解液室7が形成される。溶解液室7には検体 (鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭ぬぐい液など)を溶解する液が充填されている。通常、溶解液は水であって、反応試薬に滴下した際の検体との反応性を高めるために、界面活性 剤が添加されている。さらに防腐剤として、アジ化ナトリウムなどが添加されている。
[0036]筒状容器2内で処理された検体採取液を押し出すためには、筒状容器2を外部から圧迫し、筒状容器2の筒部を変形させて溶解液量に対して相対的に溶解液室の容積を小さくすることに限らず、他の物理的手段により押し出すか、溶解液室にある気体を圧縮して内圧を上昇させるなどの操作を行なってもよい。」

(刊2-3)「[0060]開口用キャップ4は、筒状容器2に着脱自在に取り付けられており、通常、螺合される。また、液密性を保持するために筒状容器の開口端内壁と接合するスリーブが通常、設けられている。
[0061]アダプタ5aは、筒状容器2の下端に接続される筒状部材であり、筒状容器2の溶解液室7を圧迫したときに押し下げられたストッパー3を収容し、筒状容器2の下端内壁とストッパー3の外面との間に空隙を形成し、さらに、下端に滴下口8を備える。検体採取液を調製する前、アダプタ5a内には通常、空気のみが存在している。
[0062]アダプタ5aは筒状容器2に液密性を保持して取り付けられていれば、溶着されていても、あるいは溶剤で接着されていても、さらには圧入される状態で接合されていても良い。このような素材としては、筒状容器よりも相対的に硬度の高い(あるいは曲げ弾性率の高い)ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリスチレン、BS樹脂、ポリカーボネート樹脂等が用いられる。
[0063]アダプタ5aの内腔に滴下口8に隣接して上方にフィルター6aが設けられている。フィルター6aは患者から採取された検体が高い粘性のものであったり、固形物を含んでいたりする場合に、滴下口が目詰まりしないようにトラップされる程度の口径を有するものである。ろ過有効面積と目の粗さは自由に選択することができる。このような素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ナイロン樹脂等の他、無機材料等が用いられるが、通常、ポリエチレン焼結体が用いられる。」

(刊2-4)「[0083]本発明では、フィルターとしては、焼結体、発泡成形体、不織布または繊維積層体などがある。このような素材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ナイロン樹脂等の他、無機材料等が用いられるが、通常、ポリエチレン焼結体が用いられる。」

(刊2-5)「[0084]本発明では、フィルター6は、空孔径が約0.1μm?約20μm、好ましくは約1.0μm?約10μmであり、かつ、厚みが約1.0mm?約6.0mm、好ましくは、約1.5mm?約4.5mmである連続多孔質体である。フィルター6は、1枚であっても、複数枚であってもよい。フィルターの空孔径が約0.1μm未満であると、患者から採取された検体が高い粘性のものであったり、固形物を含んでいたりする場合に、滴下口が目詰まりする場合が生じる。また約20μmを超えると、検体採取液がフィルターを通過しやすくなり水鉄砲のように飛散し易くなる。厚みが約1.0mm未満であると、溶解液室内にあった検体採取液とアダプタの内腔にあった気体が混合した状態でフィノレターを通過しやすくなり、滴下口から検体採取液が水鉄砲のように飛散し易くなる。 約7.5mmを超えると、フィルターが通液するための経路が長く複雑になりすぎるあまり、検体採取液に含まれる界面活性剤と気体とが混合して泡立ちを生じ易くなり、滴下口の先からは泡の混入が目立つようになる。」

(刊2-6)「[0088] 次に、図15に示すように再度、筒状容器2の開口部にキャップ4を取り付け、筒状容器2の反対側に位置する滴下口8aを反応試薬容器に向けてから、筒状容器2の溶解液室7のある胴部を圧迫すると、その押圧による内部の圧力上昇により、ストッパー3aが下方へ前進し、アダプタ5a内に移動し収容される。収容されたストッパー3aの外面とアダプタ5aの内壁の間には、溶解液室7内の検体採取液がその間を通って滴下出来る空隙が設けられている。したがって、検体採取液はこの空隙を通り、フィルター6を通り、滴下口8aから外部に導かれ、反応試薬容器に滴下することが出来る。」

(刊2-7)「[0090] 表1に示される表面空孔径が相違する3種の焼結フィルター(フィルターレン社製、 高密度ポリエチレン)を備えた検体採取液容器(図 1)を準備した。溶解液室の充填液量(0.4?1.0mL)およびフィルターの表面空孔径(2.0?30μm)、厚み(1.5?6.0mm×5枚)を種々、変化させて(表2?4)、筒状容器の外部を手でもってスクィズし、液体連通時の水鉄砲現象の有無を確認した。」

(刊2-8)「表5



第4 刊行物1記載の発明
上記(刊1-1)ないし(刊1-7)の記載を踏まえると、刊行物1からには以下の点が理解される。
1 「被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる、検体試料中の被測定物の簡易メンブレンアッセイ法であって、」「前記検体試料中の被測定物の存在を検出あるいは定量することを特徴とする方法」が理解される。((刊1-1)参照)

2 「メンブレンアッセイ用の試料」は「検体試料」であるから、「患者の咽頭や鼻腔等から拭い液を採取して緩衝液に浮遊し」、「検体試料」を「作製する」点が理解される。((刊1-2)参照)

3 「上記濾過フィルターは、本発明の簡易メンブレンアッセイ法またはキットにおいて、検体試料用濾過チューブの先端に取り付けて使用され」、「濾過チューブ中に浮遊液に浮遊させた検体試料をいれて」、「濾過フィルターを取り付けた状態で、手などにより内部に圧力を加え」ることで、「検体試料を濾過する」点が理解される。((刊1-5)参照)

4 「検体試料を濾過フィルターを用いて濾過した後に前記メンブレン上に滴下し」た点が理解される。((刊1-1)参照)

5 上記1?4を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる

「(a)検体試料中の被測定物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置上で検体試料中の被測定物の存在を検出又は定量することを含む簡易メンブレンアッセイ法において、
(b)患者の咽頭や鼻腔等から拭い液を採取し、該採取した液を緩衝液に浮遊させ検体試料を作製し、
(c)前記検体試料を、濾過フィルターを取り付けた、検体試料濾過チューブに入れて、手などにより濾過チューブの内部に圧力を加えることで、検体試料を濾過し、
(d)その後メンブレン上に滴下する
簡易メンブレンアッセイ方法。」

第5 対比

本願発明と引用発明を対比する。

1 引用発明の(a)の「検体試料中の被測定物」は、本願発明の「検体中の被検出物」に相当するから、引用発明の(a)は、(A)に相当する。

2 本願発明には、「ヒト又は他の動物の・・・」と記載されているのに対し、引用発明には、検体を採取する対象が「患者」であるとの記載があることから、ヒトを対象とすることは自明である。 そして、引用発明の「咽頭や鼻腔等から拭い液」は、本願発明の「咽頭拭い液又は鼻腔拭い液」に相当する。したがって、引用発明の(b)は、本願発明の(B)に相当する。

3 引用発明の(c)の「検体試料」は、本願発明の「調整された資料」に相当し、引用発明の「濾過フィルターを取り付けた、検体試料濾過チューブに入れて、手などにより濾過チューブの内部に圧力を加えることで、検体試料を濾過し、」は、本願発明の「ろ過フィルターを用いて加圧ろ過」することに相当するから、引用発明の(c)は、本願発明の(C)の内、「調整した試料を、ろ過フィルターを用いて加圧ろ過」する点に相当する。

4 引用発明の(d)は、本願発明の(D)に相当する。

以上のことから 両発明の間には、次の(一致点)及び(相違点)がある。

(一致点)
「(A)検体中の被検出物を捕捉するための捕捉試薬が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置上で検体中の被検出物の存在を検出又は定量することを含む簡易メンブレンアッセイ法において、
(B)ヒトの咽頭拭い液、鼻腔拭い液を採取し、採取した検体を検体浮遊液に浮遊させ試料を調製し、
(C’)調製した試料を、ろ過フィルターを用いて加圧ろ過し、
(D)その後メンブレン上に滴下することを含む、
簡易メンブレンアッセイ方法。」

(相違点)
フィルターが本願発明では、「変形しにくく目詰まりが起こりにくく、フィルターの厚さ方向に潰れにくい剛性を備えており、ろ液の圧力によってもフィルター内部のろ液の流路を塞ぎ難い剛性を備えた、厚さが0.5mm以上であり、ポリプロピレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン重合体及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される素材でできた焼結フィルターである強剛性フィルターである」のに対し、引用発明では、そのように規定されていない点。

第6 検討

1 相違点について
(1) フィルターの厚さ、材質について
刊行物2の(刊2-7)には、「厚み(1.5?6.0mm×5枚)」の「表面空孔径が相違する 3種の焼結フィルター(フィルターレン社製、高密度ポリエチレン)」が記載されており、また、(刊2-4)には、「フィルターとしては、焼結体、・・・などがある。このような素材としては・・・ポリプロピレン、フッ素系樹脂、・・・等が用いられる」と記載され、「四フッ化エチレン重合体」は「フッ素系樹脂」であるから、刊行物2には、本願発明の「厚さが0.5mm以上であり、ポリプロピレン、四フッ化エチレン重合体からなる群から選択される素材でできた焼結フィルター」に相当するフィルターの開示があるといえる。
刊行物2には、「筒状容器2内に溶解液室7が形成され」(刊2-2)「鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭ぬぐい液など」(刊2-2)が入れられた「筒状容器2の下端に接続される」(刊2-3)、「アダプタ5aの内腔に滴下口8に隣接して上方にフィルター6aが設けられ」(刊2-3)ていること、そして、「フィルター6aは患者から採取された検体が高い粘性のものであったり、固形物を含んでいたりする場合に、滴下口が目詰まりしないようにトラップ」(刊2-3)するとの記載がある。
このことから、刊行物2の前記「焼結フィルター」(刊2-7)は、引用発明に刊行物2記載の「焼結フィルター」(刊2-7)を採用する十分な動機があるものといえる。

(2) フィルターの剛性について
本願発明のフィルターは、「変形しにくく目詰まりが起こりにくく、フィルターの厚さ方向に潰れにくい剛性を備えており、ろ液の圧力によってもフィルター内部のろ液の流路を塞ぎ難い剛性を備えた」「強剛性フィルター」であると記載されているが、本願発明のフィルターの剛性が、どの程度の強さのものであるのか、具体的に記載されていないから、本願発明のフィルターの剛性は、加圧ろ過を行うのに必要な程度の強さを有しているものであると解するのが妥当である。
刊行物2には、「筒状容器2内で処理された検体採取液を押し出すためには、筒状容器2を外部から圧迫」する(刊2-2)と記載され、圧力によりフィルター6aを通して滴下口から検体採取液を滴下するものであり、「フィルター6aは患者から採取された検体が高い粘性のものであったり、固形物を含んでいたりする場合に、滴下口が目詰まりしないようにトラップ」(刊2-3)するとの記載があることから、前記圧力下でも、滴下口から液が流れ出る、すなわち、フィルターが目詰まりしていないことが理解される。
そして、刊行物2に記載されているような「焼結フィルター」とは、下記周知技術Aに記載されているように「樹脂を粉末にして型に入れた後、加熱圧縮して成型した」ものであって、樹脂の分子量が大きくなれば、加熱成形された「焼結フィルター」の剛性も高くなることは自明である。そして、下記周知技術B及びCに記載されたように、ポリプロピレンや四フッ化エチレン重合体から選択される素材でできた「焼結フィルター」において、剛性が良好なものがあることも周知である。
そうすると、刊行物2に記載の前記「焼結フィルター」が、本願発明ごとく、加圧ろ過を行うのに必要な程度の「変形しにくく目詰まりが起こりにくく、フィルターの厚さ方向に潰れにくい剛性を備えており、ろ液の圧力によってもフィルター内部のろ液の流路を塞ぎ難い剛性」を備えていることは明らかである。

周知技術A:特開平5-31177号公報
「[0031]前記焼結フィルタは、ポリエチレン、ポリプロピレンやナイロン等の樹脂を粉末にして型に入れた後、加熱圧縮して成型した焼結フィルタから構成される。この中でも、特に、ポリエチレンから成型された焼結フィルタが好ましく用いられる。
[0032]樹脂粉末の平均粒度としては、20?500μmのものが用いられ、特に150?250μmのものが好ましく用いられる。」
周知技術B:特開2004-237142号公報
「[0020]
フィルターを構成する樹脂は、特に限定されるものではないが、耐溶剤、耐酸、耐アルカリ、衛生性、無発塵性、耐放射線性、耐オートクレーブ性や剛性、通気性などが優れている点で、ポリオレフィン、フッ素系樹脂から選択される樹脂粉粒体の焼結多孔質体であることが好ましく、ポリオレフィンとしては、超高分子量PE、超高分子量PP等の超高分子量ポリオレフィンの使用が好ましく、フッ素系樹脂としては、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの使用が好ましい。これらの樹脂は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。例えば超高分子量ポリエチレンは、粘度平均分子量が50万?1000万、好ましくは100万?700万のポリエチレンである。超高分子ポリエチレンとしては、市販品としてハイゼックスミリオン(三井化学)、ホスタレンGUR(タイコナ社)などが使用可能である。」
周知技術C:特開2003-254874号公報
「[0016]本発明のチップ用フィルターは、図1?図2に示すように多孔質体を有するが、撥水性の多孔質層や小径化した多孔質層など、他の多孔質層が積層されていてもよい。チップ用フィルター2の形状は、チップ本体1の内周面の形状に応じた形状が採用されるが、略円柱状の形状が一般的である。多孔質体としては、多孔質焼結体、繊維集合体、多孔質シート積層体、連通気泡発泡体など何れでもよいが、多孔質焼結体を用いるのが好ましい。つまり、本発明は、ガス発生剤が保持されている多孔質体であれば、ガス発生剤による上記の作用効果が得られるため、多孔質体の種類は何れでもよい。
[0017]本発明における多孔質体は、樹脂製であることが好ましく、加熱により熱融着させて多孔質体の内部にガス発生剤を封入できることから、熱可塑性樹脂がより好ましい。熱可塑性樹脂としては、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられるが、超高分子量ポリエチレンが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、前述した理由に加えて、耐溶剤、耐酸、耐アルカリ、衛生性、無発塵性、耐放射線性、耐オートクレーブ性や剛性、通気性などが良好なため、本発明の焼結多孔質体として最も好適な材料である。超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量が50万?1000万、さらには100万?700万のものが好ましい。超高分子量ポリエチレンとしては、たとえば、商品名ハイゼックスミリオン(三井化学 (株)製)や商品名ホスタレンGUR(タイコナ社製)等の市販品などを入手可能である。」

(3) 小括
以上のことから、引用発明において、剛性が高いことが自明な刊行物2(刊2-7)に記載の「厚み(1.5?6.0mm×5枚)」の「表面空孔径が相違する3種の焼結フィルター(フィルターレン社製、高密度ポリエチレン)」を用い、相違点に記した本願発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たことといえる。

イ 請求項1に係る発明の効果について
本願発明の効果は、刊行物1、刊行物2及び上記周知の事項から当業者が予測し得る程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

第7 結語
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-25 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-08 
出願番号 特願2014-216847(P2014-216847)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 隆  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 福島 浩司
藤田 年彦
発明の名称 試料ろ過フィルターを用いる簡易メンブレンアッセイ方法及びキット  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 田中 夏夫  

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