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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1319774
審判番号 不服2014-1310  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-24 
確定日 2016-09-21 
事件の表示 特願2010-508510「難燃性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月27日国際公開、WO2008/144252、平成22年 8月12日国内公表、特表2010-527403〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、国際出願日である平成20年5月9日(パリ条約による優先権主張 2007年5月16日 アメリカ合衆国(US))にされたとみなされる特許出願であって、平成24年7月5日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月10日に意見書が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲が補正されたが、同年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年5月9日付けで同法164条3項所定の報告がされ、当審において平成26年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月7日に意見書が提出されたので、同年8月31日付けで審尋が通知され、平成28年3月1日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]

平成26年1月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 平成26年1月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ、特許請求の範囲全体の記載のうち、本件補正前の請求項1及び当該請求項に対応する本件補正後の【請求項1】の記載を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(平成25年1月10日の手続補正書)

「(a)エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂、
(b)少なくとも1つのマレイミド、
(c)少なくとも1つのシアネートエステル、および
(d)少なくとも1つの非オキサゾリドン含有エポキシ樹脂
を含む硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
その組成物の少なくとも1つの成分が、硬化組成物に対して難燃性を提供するために、ハロゲンまたはリンを含む、前記硬化性エポキシ樹脂組成物。」

・ 本件補正後

「(a)エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂、
(b)少なくとも1つのマレイミド、
(c)5%?60%のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成している、少なくとも1つのシアネートエステル、および
(d)少なくとも1つの非オキサゾリドン含有エポキシ樹脂
を含む硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
その組成物の少なくとも1つの成分が、硬化組成物に対して難燃性を提供するために、ハロゲンまたはリンを含む、前記硬化性エポキシ樹脂組成物。」

2 本件補正の目的

本件補正は、請求項1の記載に係る発明を特定するために必要な事項である「少なくとも1つのシアネートエステル」について、補正前において特に何も特定していなかったものを「5%?60%のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成している」と特定するものである。
当該補正事項については、補正前の「少なくとも1つのシアネートエステル」という発明特定事項を限定するものであって、本件補正の前後で、請求項1の記載に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。

よって、本件補正の請求項1についてする補正については、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。

なお、本件補正の請求項1についてする補正は、いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正の請求項1についてする補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ、以下説示のとおり、本件補正の請求項1についてする補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち、本願補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。(なお、引用文献1、2は、原査定の理由で引用された引用文献1、2と同じである。)

・ 引用文献1: 特開昭55-160021号公報
・ 引用文献2: 特開2003-12765号公報

4 本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「(a)エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂、
(b)少なくとも1つのマレイミド、
(c)5%?60%のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成している、少なくとも1つのシアネートエステル、および
(d)少なくとも1つの非オキサゾリドン含有エポキシ樹脂
を含む硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
その組成物の少なくとも1つの成分が、硬化組成物に対して難燃性を提供するために、ハロゲンまたはリンを含む、前記硬化性エポキシ樹脂組成物。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1) 引用発明

ア 本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「(a)多官能性シアン酸エステル化合物とビスマレイミド化合物を反応させて得られるプレポリマー30?70重量%と、
(b)イソシアネート化合物1当量に対して、エポキシ化合物1.5?5当量をヘテロ環生成触媒下で反応させて得られるイソシアネート変性エポキシ樹脂70?30重量%と、
(c)硬化触媒
を配合してなることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)

(イ) 「本発明は熱硬化性樹脂組成物に係わるもので、その目的とするところは、耐熱性、機械強度が優れていると共に、作業性も優れた電気絶縁材料、積層品用樹脂材料、塗料材料、成形材料などに極めて有用な熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。」(1頁左欄16行?右欄1行)

(ウ) 「・・・、イソシアネート化合物1当量に対してエポキシ化合物1.5?5当量をへテロ環生成触媒下で反応させて得られるオキサゾリドン環、イソシアヌル環を含有するイソシアネート変性エポキシ樹脂70?30重量%に硬化剤を配合してなるものである。」(2頁右上欄下から7?2行)

(エ) 「多官能性シアン酸エステル化合物としては、二価或いは多価のフェノールとシアンハロゲンより、フランス特許1289079号などの方法によって合成される下記一般式

(式中、nは2以上、通常は5以下の正数であり、Rは芳香族の有機基)
で表わされる芳香族のシアン酸エステル、もしくはこのシアン酸エステルを、鉱酸、ルイス酸、水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコラート、三級アミン類等の塩基類、炭酸ナトリウム或いは塩化リチウム等の塩類、トリブチルホスフィン等のリン酸エステル類等の触媒の存在下に重合させて得られるプレポリマーを用いることができる。例えば、ビスフェノールAとハロゲン化シアンとからのシアン酸エステル、そのプレポリマーなどは商業的に入手することができ、本発明の用途に十分使用し得る。」(2頁左下欄末行?右下欄17行)

(オ) 「本発明の樹脂組成物は、・・・。また、公知の充填剤、シリカ粉末、ガラス粉末、炭酸カルシウム粉末、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンブラック等あるいは顔料、難燃剤、滑剤などを添加した粉末状組成物を予め用意した型に充填し、加熱加圧処理することにより、耐熱性のすぐれた樹脂成形物を得ることもできる。」(3頁右下欄11行?4頁左上欄10行)

(カ) 「実施例1
・・・
実施例2
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂EON-1280(チバ社、エポキシ当量230)1150gと4、4’-ジフェニルメタンジイソシアネート125g(0、5モル)とを混合し、テトラエチルアンモニウムブロマイド0.6gを混合し、180℃で2時間反応させた。生成物は、室温で固体状の樹脂でエポキシ当量は289であった。また、実施例1と同様に赤外吸収スペクトルにより、オキサゾリドン環、イソシアヌル環を含有するイソシアネート変性エポキシ樹脂の生成が確認された。
次に、2、2-ビス(4-シアネートフェニル)プロパンの三量体(若干のモノマーを含む)のメチルエチルケトン70%溶液(三菱瓦斯化学、商品名BT-2060)397.5gとN、N’-(メチレンジ-p-フエニレン)ビスマレイミド717gをN、N’-ジメチルホルムアミド876g中に仕込み、80℃に加熱して、均一に溶解した後、オクチル酸亜鉛を1g加えて、約1時間加熱攪拌を行ない、粘度の上昇したプレポリマー溶液を得た。
かくして得たプレポリマー溶液1000gに、上記で得たイソシアネート変性エポキシ樹脂のジオキサン50%溶液1000gを混合し、オクチル酸亜鉛10gを加え、よく攪拌溶解せしめて均一な樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を用い、実施例1の場合と同じ条件で積層板を作成した。この積層板の25℃における曲げ強度は50.2Kg/mm^(2)であり、200℃における曲げ強度は41.5Kg/mm^(2)であつた。また、240℃・500時間加熱した後の曲げ強度は50.7Kg/mm^(2)であった。」(4頁左上欄14行?5頁左上欄4行)

イ 上記アでの摘記、特に(ア)の記載から、引用文献1には

「(a)多官能性シアン酸エステル化合物とビスマレイミド化合物を反応させて得られるプレポリマー30?70重量%と、
(b)イソシアネート化合物1当量に対して、エポキシ化合物1.5?5当量をヘテロ環生成触媒下で反応させて得られるイソシアネート変性エポキシ樹脂70?30重量%と、(c)硬化触媒を配合してなる熱硬化性樹脂組成物。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

(2) 引用文献2に記載の事項

ア 本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【請求項1】 オキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂(I)と、エポキシ樹脂(A_(1))とリン原子上に芳香族基を有するホスフィン化合物(B)を反応させてなるリン変性エポキシ樹脂(II)と硬化剤(III)を必須成分とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 オキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂(I)が、エポキシ樹脂(A_(2))とイソシアネート化合物(C)とを反応させたイソシアネート変性エポキシ樹脂(I_(1))である請求項1に記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1、2)

(イ) 「【発明の属する技術分野】本発明は、ハロゲンフリーの難燃性組成物であっても有用な難燃性エポキシ樹脂組成物に関し、具体的には、ハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物であって、塗料、半導体封止用組成物又は積層板用ワニスとして有用であり、特に積層板(プリント配線板)用ワニスとして難燃効果のみならず、密着性、耐熱性および耐湿性に優れた積層板を提供し得る難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。」(段落 【0001】)

(ウ) 「従来はこの様なハロゲンによる難燃処方に代わる技術として、例えばリン酸エステル系化合物などを添加系難燃剤として使用する技術が種々検討されているが、このような技術は何れも成形品の耐熱性や耐湿性等の低下、更にとりわけ電気積層板用途における密着性の低下を来すものであった。そこで、反応型のリン系化合物を使用しながらも、成形品の耐熱性、耐湿性等を改善したものとして、例えば特開2000-80251号公報には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に特定のホスフィン化合物を変性させて、成形品の耐熱性、難燃性等を改善した技術が開示されている。
しかし、特開2000-80251号公報記載の発明は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とホスフィン化合物を反応させており、2官能性の変性エポキシ樹脂であるため、耐熱性が悪く、特に耐湿耐熱性に劣るものであった。またこの変性エポキシ樹脂に更に耐熱付与成分として多官能のエポキシ樹脂を配合している場合も、耐熱性は向上するものの、変性エポキシ樹脂のリン原子の含有率が低下するため、難燃性に劣る結果となり、耐熱性と難燃性のバランスが悪いものであった。
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、ハロゲンによる難燃処方に代わるハロゲンフリーの難燃処方であっても、優れた難燃効果を発現させると共に、成形品の耐熱性、耐湿性の物性に優れ、また密着性に優れる難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することにある。」(段落 【0005】?【0007】)

(エ) 「上記のエポキシ樹脂(A_(2))としては、ハロゲン原子非含有のエポキシ樹脂が好ましいが、ここで、ハロゲン原子非含有のエポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂を製造する際、エピクロロヒドリンと反応させる原料フェノール樹脂中にハロゲン原子が含まれていないか或いはハロゲン原子で実質的に変性されていないエポキシ樹脂である。即ち、通常のエピクロルヒドリンの使用により混入される塩素分は含んでいてもよく、具体的にはハロゲン原子含有量5000ppm以下であることが好ましい。但し、ハロゲン原子が含有していないことが必要でない場合は、ハロゲン原子含有エポキシ樹脂を用いても良い。これらのハロゲン原子含有エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂類;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールADノボラック樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂類等の臭素化物が挙げられる。」(段落 【0017】)

(3) 対比

ア 本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明の「多官能性シアン酸エステル化合物」は、引用文献1の「多官能性シアン酸エステル化合物としては、二価或いは多価のフェノールとシアンハロゲンより、フランス特許1289079号などの方法によって合成される下記一般式

(式中、nは2以上、通常は5以下の正数であり、Rは芳香族の有機基)
で表わされる芳香族のシアン酸エステル」(上記(1)_ア(エ))の記載から、本願補正発明の「シアネートエステル」に相当する。
引用発明の「ビスマレイミド化合物」は、本願補正発明の「マレイミド」に相当する。
引用発明の「イソシアネート変性エポキシ樹脂」は、引用文献1の「イソシアネート化合物1当量に対してエポキシ化合物1.5?5当量をへテロ環生成触媒下で反応させて得られるオキサゾリドン環、イソシアヌル環を含有するイソシアネート変性エポキシ樹脂70?30重量%に硬化剤を配合」(上記(1)_ア(ウ))の記載から、本願補正発明の「エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂」に相当する。
本願明細書の「本発明の組成物は、好ましくは、異なる樹脂の硬化を促進し、樹脂間の反応を促進することができる少なくとも1種の触媒を含む。」(段落【0027】)の記載から、本願補正発明は、硬化触媒を含むものを包含しているから、引用発明が硬化触媒を配合する点は相違点とはならない。
引用発明においては、プレポリマー及びイソシアネート変性エポキシ樹脂の配合量が特定されているが、本願補正発明は、それぞれの成分を含むとの特定のみであるから、この点も相違点とはならない。

イ したがって、本願補正発明と引用発明1との一致点、相違点(相違点1ないし4)は、それぞれ次のとおりのものと認めることができる。

・ 一致点

「エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂、
を含む硬化性エポキシ樹脂組成物。」

・ 相違点1

本願補正発明は「少なくとも1つのマレイミド」、および、「少なくとも1つのシアネートエステル」を含むと特定するのに対して、引用発明においては、シアネートエステルとマレイミドを反応させて得られるプレポリマーを含むものである点。

・ 相違点2

シアネートエステルに関し、本願補正発明は「5%?60%のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成している」と特定するのに対して、引用発明においては、この点について特定しない点。

・ 相違点3

本願補正発明においては、「少なくとも1つの非オキサゾリドン含有エポキシ樹脂」を含有すると特定するのに対して、引用発明においては、この点を特定しない点。

・ 相違点4

本願補正発明においては、その組成物の少なくとも1つの成分が、硬化組成物に対して難燃性を提供するために、「ハロゲンまたはリンを含む」と特定するのに対して、引用発明においては、この点について特定しない点。

(4) 相違点についての判断

ア 相違点1について

本件明細書には「場合により、マレイミドおよびシアネートエステル樹脂は、例えば、参照することにより、そのまま本明細書に組み込まれる米国特許第4456712号および米国特許第4110364号に記載されているとおり、本発明の組成物中への包含に先立って、部分的に一緒に反応させてよい。」(段落【0031】)との記載がある。
そうすると、本願補正発明の「少なくとも1つのマレイミド、および、少なくとも1つのシアネートエステル」には、マレイミド及びシアネートエステルを部分的に一緒に反応させたもの、すなわちプレポリマーも包含しているといえるから、相違点1は実質上の相違点ではない。

イ 相違点2について

本願補正発明のシアネートエステルに相当する引用発明の「多官能性シアン酸エステル化合物」は、引用文献1の「多官能性シアン酸エステル化合物としては・・・で表わされる芳香族のシアン酸エステル、・・・等のリン酸エステル類等の触媒の存在下に重合させて得られるプレポリマーを用いることができる。」(上記(1)ア(エ))の記載から、芳香族のシアン酸エステルを触媒の存在下に重合させて得られるプレポリマーをも包含しており、当該プレポリマーの具体例として引用文献1の実施例2に「2、2-ビス(4-シアネートフェニル)プロパンの三量体(若干のモノマーを含む)」が記載されている。そして、当該若干のモノマーを含む三量体(引用発明の多官能性シアン酸エステル化合物)は、技術常識からみて、5?60%程度のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成しているものである蓋然性が高い。
そうすると、相違点2は実質上の相違点ではないか、あるいは、引用発明における多官能性シアン酸エステル化合物としてプレポリマーを選択し、その三量体化の程度を適宜調整し、5?60%程度とすることは、当業者が適宜行い得たことである。

ウ 相違点3および4について

上記(2)ア(ア)?(エ)の記載から、引用文献2には、積層板(プリント配線板)用ワニスとして難燃効果のみならず、密着性、耐熱性および耐湿性に優れた積層板を提供し得るハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物に関し開示があり、オキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂(I)にリン変性エポキシ樹脂(II)を配合することにより、ハロゲンフリーによる難燃化を図ることができると共に、耐熱性等にも優れた難燃性エポキシ樹脂組成物が得られることが理解できる。
引用文献1においては、難燃性についての言及はないが(難燃剤を配合してもよいことは記載されている(上記(1)ア(ク)))、引用発明の具体的な用途として記載されている電気絶縁材料、積層品用樹脂材料として利用される硬化性エポキシ樹脂組成物において、ハロゲンフリーの難燃化は従来広く検討されてきた周知の課題である。(引用文献2参照。)
そうすると、引用発明の硬化性エポキシ樹脂組成物を、当該電気絶縁材料、積層品用樹脂材料に利用する場合において、かかる周知の課題を解決するため、引用文献2に記載された技術を適用し、引用発明のエポキシ樹脂組成物にリン変性エポキシ樹脂を配合すること(すなわち、難燃性を提供するために、リンを含む、非オキサゾリドン含有ポキシ樹脂を配合すること)は、当業者が容易になし得たことである。

エ 効果について検討する。

本願補正発明の課題である「高いガラス転移点、向上した靱性(審決注:「層間剥離エネルギーの向上」に相当)」(段落【0014】)については、本願明細書の実施例及び比較例の対比によれば、オキサゾリドン改質エポキシ樹脂を含有することで層間剥離エネルギーが大きくなり、また、ガラス転移点が高くなり、誘電率が低くなるものと解釈できる。
ここで、オキサゾリドン改質エポキシ樹脂が高ガラス転移温度を有する樹脂であって、靱性が高く、低誘電率の硬化物を得ることができる樹脂であるとの当業者の技術常識(前者について、特開平5-43657号公報、特開平5-222160号公報を参照、後者について特開2007-15945号公報、特開平9-278867号公報を参照のこと)に鑑みれば、これらの効果は、オキサゾリドン改質エポキシ樹脂を含有する引用発明のエポキシ樹脂組成物においても奏されている効果といえる。
また、本願補正発明の課題である「優秀な難燃性」(段落【0014】)については、引用文献2の上記(2)ア(ウ)の「ハロゲンによる難燃処方に代わるハロゲンフリーの難燃処方であっても、優れた難燃効果を発現させる」との記載から、当該効果は当業者の予測の範囲内であって、格別のものとはいえない。
なお、合議体から平成27年8月31日付け審尋において、上記効果の検討の見解を否定することを示す根拠の提示を求めたが、請求人からは、なんら証拠の提出はなされなかった。

(5) 小括

よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ

以上のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、前記第2_補正の却下の決定の[結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年1月10日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「(a)エポキシ樹脂およびイソシアネートの反応生成物である、少なくとも1つのオキサゾリドン改質エポキシ樹脂、
(b)少なくとも1つのマレイミド、
(c)少なくとも1つのシアネートエステル、および
(d)少なくとも1つの非オキサゾリドン含有エポキシ樹脂
を含む硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
その組成物の少なくとも1つの成分が、硬化組成物に対して難燃性を提供するために、ハロゲンまたはリンを含む、前記硬化性エポキシ樹脂組成物。」

2 原査定の理由

原査定の理由は、要するに、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用発明

引用発明は、上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、本願補正発明との比較において、本願補正発明の「5%?60%のシアネートエステル基が重合されてトリアジン環を形成している、少なくとも1つのシアネートエステル」を、その上位概念である「少なくとも1つのシアネートエステル」と特定するものである(上記第2_1参照)。すなわち、本願補正発明は、本願発明の構成を包含するものであるといえる。

そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。

そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2016-04-18 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2010-508510(P2010-508510)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 のぞみ大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
菊地 則義
発明の名称 難燃性組成物  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  

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