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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F |
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管理番号 | 1319911 |
審判番号 | 不服2015-22293 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-18 |
確定日 | 2016-10-18 |
事件の表示 | 特願2011-181788「チップインダクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 4日出願公開、特開2013- 45848、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成23年8月23日の出願であって、平成27年5月20日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年7月24日付けで手続補正がなされたが、同年10月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月18日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成27年7月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 配線基板の表面実装用又は内蔵用のチップインダクタであって、 磁性体層中に埋設されたコイルを構成する内部導体と、 前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と交差する位置において配設され、前記内部導体の一端及び他端が電気的に接続された一対の電極と、 前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と平行な面上に配設された電磁波ノイズ吸収層とを具え、 前記電磁波ノイズ吸収層は、樹脂中に磁性体粒子が分散して形成されたことを特徴とする、チップインダクタ。 【請求項2】 前記電磁波ノイズ吸収層は、前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と平行な2つの面上に配設されたことを特徴とする、請求項1に記載のチップインダクタ。 【請求項3】 前記磁性体粒子は、フェライト、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ及びセンダストからなる群より選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のチップインダクタ。 【請求項4】 前記樹脂は、エポキシ樹脂及びポリイミドの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項3に記載のチップインダクタ。 【請求項5】 前記電磁波ノイズ吸収層上に形成された導電層を具えることを特徴とする、請求項1?4のいずれか一に記載のチップインダクタ。 【請求項6】 前記導電層は導電性ペーストからなることを特徴とする、請求項5に記載のチップインダクタ。」 第3.原査定の理由の概要 この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:実願昭63-145846号 (実開平02-067609号)のマイクロフィルム 引用文献2:特開平9-306740号公報 ●理由(特許法第29条第2項)について ・請求項1?4 ・引用文献等1、2 引用文献1の図1には「積層インダクタの積層体の両表面に、磁性体フェライト等でなる磁性体層(請求項1に記載の「電磁波ノイズ吸収層」に対応)と、銀等でなる導電層とを厚膜印刷によって形成する」ことが記載されている。 ここで、出願人は意見書において「引用文献2のセラミックペーストは積層インピーダンス素子の磁性層として使用するものであるため、当該セラミックペーストを電磁波ノイズ吸収層として使用することについては何らの教示及び示唆もないことが明白である」と主張している。 しかしながら、引用文献2の段落[0007]に「非磁性セラミックス積層体内に形成された積層コイルと絶縁された位置に、磁性体層と導体層を形成することにより、積層コイルによって生じる磁束の一部もしくはすべてを集め遮断し、かつ、信号電流による積層コイルに生じる磁束が磁性体層に集まり、導体層内に過電流が生じ、信号エネルギーが熱エネルギーに変換される。」と記載されているとおり、引用文献2に記載の「セラミックペーストで作成された磁性体層」は、本願発明の「磁性層」に対応するものではなく、引用文献1の上記「磁性体層」と同様に、本願発明の「電磁波ノイズ吸収層」に対応するものであることは明らかであるので、上記主張は採用できない。 したがって、引用文献1に記載の「磁性フェライト等でなる磁性体層」を、引用文献2の「磁性体層」のように「バインダ樹脂中にフェライトを分散して形成する」ことは、当業者が容易に想到し得ることである。 よって、本願の請求項1?4に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものである。 ・請求項5、6 ・引用文献等1、2 引用文献1に記載された発明の「シールド」は「積層体表面に、導電層、電磁波ノイズ吸収層の順で積層される」ものであるが、引用文献2の図1に「シールド」として「積層方向の上面(又は下面)側に向かって、電磁波ノイズ吸収層(磁性体層3)、導電層の順で積層する」構成が記載されていることを鑑みれば、引用文献1に記載された発明においても「電磁波ノイズ吸収層、導電層の順で積層する」ように構成を変更することは、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎず、格別な困難性は認められない。 よって、本願の請求項5、6に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明から当業者が容易に発明できたものである。 (なお、意見書においては「引用文献1では、シールド部8、9を銅等でなる導体層11と、磁性フェライト等でなる磁性層12とを積層してなる2層構造としております。したがって、仮に引用文献2に記載のセラミックペーストで引用文献1に記載の磁性層12を作製したとしても、本願における電磁波ノイズ吸収層を形成することはできません。」とも主張していますが、当該請求項5、6にも記載されるように「2層構造」のものは本願にも記載されているので、それをもってただちに「本願における電磁波ノイズ吸収層を形成することができない」ということは認められない。) 第4.当審の判断 1.刊行物の記載事項 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された実願昭63-145846号(実開平2-67609号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、「磁気シールド型積層チップインダクタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「実用新案登録請求の範囲 導体と磁性体とを積層してなる巻線部の磁束形成方向の両側に、巻線部側より、非磁性層と、導体層と、磁性層とをこの順序で積層して磁気シールド部を形成したことを特徴とする磁気シールド型積層チップインダクタ。」(1頁3?8行) イ.「(作用) 巻線部に隣接して形成された非磁性層は、内部磁束の外部への漏洩を防止すると共に、外部からの磁束の通過を防止する役目を果たす。また、該磁性層に隣接する導体層は、外部より加わる交番磁束を渦電流に変えて巻線部に加わることを防止する。また、最外部の磁性層は、外部磁束が通る磁路を形成する。これらの相乗効果により、外部磁界から巻線部がシールドされる。」(3頁8?16行) ウ.「・・第1図、第2図において、巻線部2は、フェライト材6と内部材料7とを層状に交互に積層することにより構成され、矢印Aに示す磁束形成方向の両端には、第4図の場合と同様に磁性フェライトでなるベース部3、4が形成される。 8、9は巻線部2の磁束形成方向Aの両端にベース部3、4に重ねて形成されるシールド部であり、これらは、非磁性材料等でなる非磁性層10と、銀等でなる導体層11と、磁性フェライト等でなる磁性層12とを積層してなる。前記巻線部2およびシールド部8、9の各層は厚膜印刷によって形成した後、一体に焼成される。 13、14はそれぞれ内部導体7の両端に接続して形成された外部端子電極、15は上下のシールド部8、9の各導体層11、11に共通に接続され、かつ第3図に示すように、アースに接続される電極である。 この構成によれば、前述のように、非磁性層10による内外磁束遮断作用と、導体層11による外部磁束遮断作用と、最外部の磁性層12による外部磁束が通る磁路形成作用との相乗効果により、外部磁界から巻線部2が良好にシールドされる。」(3頁20行?5頁3行) ・上記引用例1に記載の「磁気シールド型積層チップインダクタ」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載事項、及び第1図、第2図によれば、内部導体7と磁性フェライト6からなる磁性体とを層状に交互に積層することにより構成され、磁束形成方向Aの両側に磁性フェライトでなるベース部3,4が形成されてなる巻線部2と、巻線部2の磁束形成方向Aの両側に形成され、巻線部2側より、非磁性層10と、導体層11と、磁性フェライト等でなる磁性層12とをこの順序で積層した磁気シールド部8,9と、を備える磁気シールド型積層チップインダクタに関するものである。 ・上記「ウ.」の記載事項によれば、巻線部2および磁気シールド部8、9の各層は厚膜印刷によって形成した後、一体に焼成されてなるものである。 ・上記「ウ.」の記載事項、及び第1図によれば、当該磁気シールド型積層チップインダクタの側面(積層方向と平行な面)側には、内部導体7の両端に接続された一対の外部端子電極13,14が形成されている。 ・上記「イ.」、「ウ.」の記載事項によれば、磁性層12は、外部磁束が通る磁路を形成するものである。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「磁気シールド型積層チップインダクタであって、 内部導体と磁性フェライトからなる磁性体とを層状に交互に積層することにより構成され、磁束形成方向の両側に磁性フェライトでなるベース部が形成されてなる巻線部と、 前記巻線部の磁束形成方向の両側に形成され、当該巻線部側より、非磁性層と、導体層と、磁性フェライト等でなり外部磁束が通る磁路を形成する磁性層とをこの順序で積層した磁気シールド部と、 当該磁気シールド型積層チップインダクタの側面(積層方向と平行な面)側に形成され、前記内部導体の両端に接続された一対の外部端子電極と、を備え、 前記巻線部および前記磁気シールド部の各層は厚膜印刷によって形成した後、一体に焼成されてなるものである磁気シールド型積層チップインダクタ。」 (2)引用例2 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-306740号公報(以下、「引用例2」という。)には、「積層インピーダンス素子」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 非磁性セラミックスペースト、及び導体ペーストを印刷法により印刷積層した後、焼成し、非磁性セラミックス積層体内にらせん状に積層された積層コイルを形成してなる積層インピーダンス素子において、前記積層コイルと絶縁された位置で、かつ、前記非磁性セラミックス積層体内に導体層及び該導体層のコイル側に磁性体層を設けたことを特徴とする積層インピーダンス素子。」 イ.「【0005】そこで、本発明の技術課題は、非磁性セラミックス層内に形成された積層コイルによって生じる磁束を磁性体に集め、それを効率よく導体層を貫通させることにより、R成分が大きく、X成分の小さいインピーダンス素子を提供することにある。」 ウ.「【0007】(作用)非磁性セラミックス積層体内に形成された積層コイルと絶縁された位置に、磁性体層と導体層を形成することにより、積層コイルによって生じる磁束の一部もしくはすべてを集め遮断し、かつ、信号電流による積層コイルに生じる磁束が磁性体層に集まり、導体層内に渦電流が生じ、信号エネルギーが熱エネルギーに変換される。信号エネルギーが、熱エネルギーとして吸収されることから、特性としては、従来にないR成分の大きいインピーダンス素子となる。」 エ.「【0013】磁性体用粉末として、Ni-Cuフェライト粉末を用意した。この粉末をバインダ、溶剤で表3の比率で配合し、配合物を三本ロ-ルで混練してセラミックスぺ-ストを作製した。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 【0016】図1に、本発明の積層インピーダンス素子(3.5ターン)の内部構造を説明するための断面図を示す。図1に示すように、上記で作製した非磁性セラミックスペーストを、印刷法により所定の厚さ(500μm)に積層し、非磁性セラミックス積層体1aを形成した。その上に、作製した導体ペーストと非磁性セラミックスペーストを用いて、3.5ターンの導電体の積層コイル2を形成するように、印刷積層を行った。 【0017】その上に非磁性セラミックス積層体1cを介して、ほぼ積層コイル2の内側の形状で厚さが50μmの磁性体層3を形成し、更にその上に、ほぼ積層コイル2の外側の形状と同じ厚さが50μmの導体層4を形成した。 【0018】形成した導体層4上に、更に、非磁性セラミックスペーストを印刷法により、厚さ500μmまで積層し、非磁性セラミックス積層体1bを形成して積層インピーダンス素子5を作製した。 【0019】又、焼成した積層体の積層コイル2のリード(図示せず)が露出している面に、Agを主成分とした導電性ペーストを塗布し、約300℃で焼き付けを行い、外部電極(図示せず)を形成した。」 オ.「【0021】上記実施例及び比較例で作製した積層体を、所定の大きさ(2.4mm×1.5mm)に切断しこれを脱バインダ後、900℃で一体焼成を行った。」 ・上記引用例2に記載の「積層インピーダンス素子」は、 上記「ア.」?「オ.」の記載事項、及び図1によれば、非磁性セラミックスペースト、及び導体ペーストを印刷法により印刷積層した後、焼成し、非磁性セラミックス積層体内にらせん状に積層された積層コイル2を形成してなる積層インピーダンス素子に関し、積層コイル2と絶縁された位置で、かつ、前記非磁性セラミックス積層体内に導体層4及び該導体層4のコイル側に磁性体層3を設けてなるものである。 ・上記「エ.」、「オ.」の記載事項によれば、磁性体層3は、磁性体用粉末(Ni-Cuフェライト粉末)をバインダ(樹脂)等と配合して混練してなるセラミックペーストを印刷法により形成し、他の層とともに一体焼成されてなるものであると理解することができる。 ・上記「イ.」、「ウ.」の記載事項によれば、積層コイルによって生じる磁束を磁性体層3に集め、当該磁束を効率よく導体層4を貫通させることによって導体層4内に渦電流を生じさせ、信号エネルギーを熱エネルギーとして吸収することでR成分の大きいインピーダンス素子としてなるものである。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。 「非磁性セラミックスペースト、導体ペースト、及び磁性体用粉末(Ni-Cuフェライト粉末)をバインダ(樹脂)等と配合して混練してなるセラミックペーストを印刷法により印刷積層した後、一体焼成し、非磁性セラミックス積層体内にらせん状に積層された積層コイルを形成してなる積層インピーダンス素子であって、 前記積層コイルと絶縁された位置で、かつ、前記非磁性セラミックス積層体内に導体層及び該導体層のコイル側に磁性体層を設け、 前記積層コイルによって生じる磁束を前記磁性体層に集め、当該磁束を効率よく前記導体層を貫通させることによって当該導体層内に渦電流を生じさせ、信号エネルギーを熱エネルギーとして吸収することでR成分の大きいインピーダンス素子としたこと。」 2.対比 そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比すると、 (1)引用発明における「磁気シールド型積層チップインダクタであって」によれば、 引用発明における「磁気シールド型積層チップインダクタ」にあっても、本願発明1と同様、「チップインダクタ」であることに変わりはなく、そして一般に、チップインダクタが配線基板に表面実装あるいは内蔵して用いられることは自明といえることであるから、 本願発明1と引用発明とは、「配線基板の表面実装用又は内蔵用のチップインダクタ」である点で一致するということができる。 (2)引用発明における「内部導体と磁性フェライトからなる磁性体とを層状に交互に積層することにより構成され、磁束形成方向の両側に磁性フェライトでなるベース部が形成されてなる巻線部と」によれば、 (a)引用発明における「磁性フェライトからなる磁性体」と、磁束形成方向の両側に形成された「磁性フェライトでなるベース部」とからなるものが、本願発明1でいう「磁性体層」に相当し、 (b)また、引用発明における「内部導体」は、本願発明1における「内部導体」に相当し、引用発明の「内部導体」にあっても、巻線すなわちコイルを構成するものであることは明らかであり、当該巻線(コイル)は、磁性フェライトからなる磁性体及びベース部中に埋設されているといえるものであるから、 本願発明1と引用発明とは、「磁性体層中に埋設されたコイルを構成する内部導体と」を備えるものである点で一致する。 (3)引用発明における「当該磁気シールド型積層チップインダクタの側面(積層方向と平行な面)側に形成され、前記内部導体の両端に接続された一対の外部端子電極と」によれば、 引用発明における、内部導体の両端に接続された「一対の外部端子電極」は、本願発明1における、内部導体の一端及び他端が電気的に接続された「一対の電極」に相当し、 引用発明の「一対の外部端子電極」にあっても、積層チップインダクタの側面(積層方向と平行な面)側に形成されているということは、内部導体を含む面と交差する位置において配設されていることに他ならないから、 本願発明1と引用発明とは、「前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と交差する位置において配設され、前記内部導体の一端及び他端が電気的に接続された一対の電極と」を備えるものである点で一致する。 (4)引用発明における「前記巻線部の磁束形成方向の両側に形成され、当該巻線部側より、非磁性層と、導体層と、磁性フェライト等でなり外部磁束が通る磁路を形成する磁性層とをこの順序で積層した磁気シールド部と」によれば、 引用発明の磁気シールド部を構成する非磁性層、導体層、及び磁性層は、巻線部の磁束形成方向、すなわち積層方向の両側に形成されているということは、内部導体を含む面と平行な面上に配設されていることに他ならないことから、 本願発明1と引用発明とは、「前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と平行な面上に配設された所定の層と」を備えるものである点では共通するといえる。 ただし、所定の層が、本願発明1では、「電磁波ノイズ吸収層」であり、当該電磁波ノイズ吸収層は「樹脂中に磁性体粒子が分散して形成された」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、磁気シールド部を構成する層の一つとして、磁性フェライト等でなり外部磁束が通る磁路を形成する磁性層を有するものの、そのような特定は有してない点で相違している。 よって、本願発明1と引用発明とは、 「配線基板の表面実装用又は内蔵用のチップインダクタであって、 磁性体層中に埋設されたコイルを構成する内部導体と、 前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と交差する位置において配設され、前記内部導体の一端及び他端が電気的に接続された一対の電極と、 前記磁性体層の、前記内部導体を含む面と平行な面上に配設された所定の層とを具えたことを特徴とする、チップインダクタ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 磁性体層の、内部導体を含む面と平行な面上に配設された所定の層が、本願発明1では、「電磁波ノイズ吸収層」であり、当該電磁波ノイズ吸収層は「樹脂中に磁性体粒子が分散して形成された」ものである旨特定するのに対し、引用発明では、磁気シールド部を構成する層の一つとして、磁性フェライト等でなり外部磁束が通る磁路を形成する磁性層を有するものの、そのような特定を有してない点。 3.判断 上記相違点について検討する。 引用発明は、磁気シールド部を構成する層の一つとして、磁性フェライト等でなり外部磁束が通る磁路を形成する「磁性層」を有しているが、かかる磁性層は、外部磁束が通る磁路を形成するものであり、さらに、他の層と同様に「厚膜印刷によって形成した後、一体に焼成されてなるもの」であって、厚膜印刷時に用いられるバインダー(樹脂)はその後の焼成等によって消失し、フェライト焼結体となっていると考えられる。したがって、引用発明の「磁性層」は、本願発明1でいう、樹脂中に磁性体粒子が分散して形成された「電磁波ノイズ吸収層」とは組成的にも機能的にも異なるものであり、対応するものであるとはいえない。 また、引用例2には、「非磁性セラミックスペースト、導体ペースト、及び磁性体用粉末(Ni-Cuフェライト粉末)をバインダ(樹脂)等と配合して混練してなるセラミックペーストを印刷法により印刷積層した後、一体焼成し、非磁性セラミックス積層体内にらせん状に積層された積層コイルを形成してなる積層インピーダンス素子であって、前記積層コイルと絶縁された位置で、かつ、前記非磁性セラミックス積層体内に導体層及び該導体層のコイル側に磁性体層を設け、前記積層コイルによって生じる磁束を前記磁性体層に集め、当該磁束を効率よく前記導体層を貫通させることによって当該導体層内に渦電流を生じさせ、信号エネルギーを熱エネルギーとして吸収することでR成分の大きいインピーダンス素子としたこと」が記載(上記「1.(2)を参照」)されているが、この積層インピーダンス素子に設けられた「磁性体層」についても、積層コイルによって生じる磁束を集めるためのものであり、引用発明における「磁性層」と同様、他の層とともに一体焼成されてなるものであることから、バインダー(樹脂)は消失し、フェライト焼結体となっていると考えられ、本願発明1でいう、樹脂中に磁性体粒子が分散して形成された「電磁波ノイズ吸収層」とは組成的にも機能的にも異なるものであり、対応するとものであるとはいえない(なお、引用例2では、積層コイルによって生じる磁束の一部を熱エネルギーとして吸収する吸収層といえるのは、むしろ「導体層」の方である。)。 よって、特に本願発明1における、磁性体層の、内部導体を含む面と平行な面上に、「樹脂中に磁性体粒子が分散して形成された」「電磁波ノイズ吸収層」を配設するという発明特定事項については、引用発明及び引用例2に記載の技術事項から導き出すことはできない。 なお、拒絶理由通知で提示された他の引用例〔特開2007-129061号公報、実願平2-70170号(実開平4-28409号)のマイクロフィルム、実願平1-88520号(実開平3-27013号)のマイクロフィルム〕のいずれにも、上記発明特定事項については記載も示唆もされていない。 また、樹脂中に磁性体粒子を分散して形成してなる電磁波吸収体(電磁波吸収シート)自体は周知といえるものであるが、引用発明において、外部磁束が通る磁路を形成するための磁性層に代えて、このような周知の電磁波吸収体(電磁波吸収シート)を採用すべき動機付けは見出せない。 そして、本願発明1は、上記発明特定事項を有することにより、チップインダクタを構成する磁性体層の厚さが小さいような場合においても、コイルの中心、すなわち内部導体を含む面に垂直な方向に形成された磁場は、電磁波ノイズ吸収層において吸収され熱エネルギーに変換されるようになり、結果として、上記磁場が磁性体層、すなわちチップインダクタから外部に漏洩することがないので、漏れ磁束の生成を防止することができるといった効果を奏するものである(本願明細書の段落【0012】?【0014】を参照)。 したがって、本願発明1は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4.本願の請求項2ないし6に係る発明について 請求項2ないし6は、請求項1に従属する請求項であり、請求項2ないし6に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記「3.」と同じ理由により、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし6に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-10-03 |
出願番号 | 特願2011-181788(P2011-181788) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 堀 拓也 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 井上 信一 |
発明の名称 | チップインダクタ |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |