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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1319941
審判番号 不服2014-6385  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-07 
確定日 2016-10-12 
事件の表示 特願2009-135366「潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月16日出願公開、特開2010-280817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年6月4日の出願であって,平成25年7月9日付け拒絶理由通知書に対して,同年9月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年10月2日付け拒絶理由通知書に対して,同年12月9日付けで意見書が提出され,同年12月16日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成26年4月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成27年6月30日付け拒絶理由通知書に対して,同年9月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 当審で通知した拒絶理由通知
当審において平成27年6月30日付けで通知した拒絶の理由のうち、「理由2」は「この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであって、具体的には、明細書の実施例で「A-1」として使用されている粘度指数向上剤である「ポリメタクリレート」について、「(該「ポリメタクリレート」を)構成するモノマー及び該モノマー比が不明である。」と指摘したものである。


第3 当審の判断
1.本願発明
本願請求項1に係る発明は,次のとおりである。
「100℃における動粘度が1?20mm^(2)/sであり、%C_(P)が70以上であり、%C_(A)が2以下であり、%C_(N)が30以下である潤滑油基油と、
^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤と、
を含有し、40℃における動粘度が4?50mm^(2)/sであり、100℃における動粘度が4?12mm^(2)/sであり、100℃におけるHTHS粘度が5.0mPa・s以下であることを特徴とする潤滑油組成物。」
(以下の検討において、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

2.発明の詳細な説明の記載の検討
ア 本願発明においては、粘度指数向上剤について、以下の特定がなされている。
「^(13)C-NMRにより得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.20以上3.0以下であるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤」
これに対して、実施例において使用されている粘度指数向上剤については、その性状について次のように記載されている。
「【0104】
(実施例1?5、比較例1?2)
実施例1?5および比較例1?2においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。・・・
(添加剤)
A-1:ポリメタアクリレート(M1=0.60、M2=0.95、M1/M2=0.64、ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、MW=400、000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)」
なお、粘度指数向上剤としては、A-2及びA-3も記載されているが、【0104】に記載の「M1/M2」の値及び【0107】?【0108】の記載から見て、A-1が本願発明に対応する、実施例における唯一の粘度指数向上剤であると解されるものである。
このような粘度指数向上剤A-1について、上記【0104】の記載では、「ポリメタクリレート」であることは明らかにされているものの、より具体的な構造は明らかにされておらず、ただ複数のパラメーターについてその数値が示されているに止まるものである。さらに、例えば、その製造方法や対応するモノマー成分などが記載されていれば、その構造をうかがい知ることができるものであるが、そのような記載もなされていない。(なお、本願明細書【0059】や【0061】などの記載から見て、好ましくは共重合体であると解される。)
ところで、本願発明で使用される粘度指数向上剤について、例えば、実施例において具体的な化学構造等が示されていれば、当業者が本願発明を実施するに際して、本願発明に係る粘度指数向上剤を容易に入手可能であるといえるが、上記したような本願明細書の実施例の記載からでは、そのように容易に入手可能であるとは解し得ないものである。
そこで、上記【0104】で示された各種パラメーターが、他の発明の詳細な説明の記載や技術常識に基づいて、具体的な化学構造を示すことに代わり得るものといえるかについて、以下、検討することとする。
イ まず、本願発明でも特定されている^(13)C-NMRの化学シフトに関連する「M1、M2及びM1/M2」のパラメーターについて検討する。
(1)一般に、^(13)C-NMRの化学シフトは、分子構造中に存在する各炭素原子の周囲の原子配置状況に応じて決まるものであるが、化学シフトと構造との間に明確な対応関係があるものではない。
例えば、「ジョーンズ有機化学(下)第3版」(奈良坂紘一ら監訳、株式会社東京化学同人、2006年3月28日発行)には、その『15.5核磁気共鳴(NMR)分光法』(第717?725頁:「参考文献1」とする。)において、NMR分析における化学シフトについての説明が、その『15.10^(13)Cおよび他の核のNMR』(第743?745頁:「参考文献2」とする。)には、化学シフト値の構造との相関表(表15.5)とともに^(13)C-NMRについての説明が、それぞれ記載されている。そして、その相関表は次のとおりである。



すなわち、化学シフトは、隣接原子の種類や結合様式などに留まらず、さらにその先に隣接する原子の種類や結合様式などにも影響されることから、化学シフトと構造との間に一応の相関関係があったとしても、化学シフトが特定されれば、それに対応する原子配置が明確に特定されるといった性質のものでもない。例えば、化学シフトが「36?38ppm」や「64-66ppm」といったとしても、特定の化学構造が対応するものではなく、化学シフトのみから粘度指数向上剤の構造を特定することは極めて困難である。
(2)さらに、明細書【0056】には、
「全ピークの合計面積に対する化学シフト36-38ppmの間のピークの合計面積(M1)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定のβ分岐構造に由来する積分強度の割合を意味し、」
「全ピークの合計面積に対する化学シフト64-66ppmの間のピークの合計面積(M2)は、^(13)C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味する。」
といった記載がなされている。
上記記載の意味するところは、「化学シフト36-38ppmの間のピーク」に対応するのは『特定のβ分岐構造』を有する炭素原子であることを、また、「化学シフト64-66ppmの間のピーク」に対応するのは『特定の直鎖構造』を有する炭素原子であることをいうものと解せられる。
しかしながら、これら用語は『特定』といった曖昧な表現が含まれていて、それ自体明確さに欠けるものであるし、また、例えば、「化学シフト36-38ppmの間のピーク」という化学シフトの範囲とともに、「特定のβ分岐構造」などという手かがりが与えられていたとしても、それに対応する具体的な化学構造については、依然として当業者には理解し得ないといえる。そして、このことは「化学シフト64-66ppmの間のピーク」とともに『特定の直鎖構造』といった事項が示されている場合でも同様である。
(3)また、明細書【0059】?【0060】には、以下の記載がある。
「【0059】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、ポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、かつ、下記式(1)で表される構造単位の割合が0.5?70モル%の重合体であることが好ましい。粘度指数向上剤は、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良い。
【化1】

[式(1)中、R^(1)は水素またはメチル基を示し、R^(2)は炭素数16以上の直鎖または分枝状の炭化水素基、あるいは、酸素および/または窒素を含有する炭素数16以上の直鎖または分枝状の有機基を示す。]
【0060】
一般式(1)中のR^(2)は、炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数18以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは炭素数20以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数20以上の分枝状炭化水素基である。また、R^(2)で表される炭化水素基の炭素数の上限は特に制限されないが、炭素数100以下の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは50以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは30以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは30以下の分枝状の炭化水素であり、最も好ましくは25以下の分枝状の炭化水素である。」
(4)上記明細書【0059】?【0060】におけるR^(2)の記載と「特定のβ分岐構造」や「特定の直鎖構造」といった事項との関連性については明確に直接的な言及はなされていないが、R^(2)に関する記載の中に「炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましく」などとして、比較的長い鎖状の炭化水素基であることや、『直鎖状』や『分枝状』といった「特定のβ分岐構造」や「特定の直鎖構造」との関連を窺わせる記載が見受けられるものである。しかしながら、これらの記載が、仮に、本願発明における「化学シフト36-38ppmの間のピーク」や「化学シフト64-66ppmの間のピーク」、及び、「特定のβ分岐構造」や「特定の直鎖構造」と関連するものであったとしても、上記明細書【0060】の記載は、炭素数や『直鎖状』や『分枝状』という漠然としたものであって具体性に欠けるものであり、これら記載を上記化学シフトなどの記載と併せたとしても、例えば、R^(2)として具体的にどのような化学構造を有するモノマー成分を使用すればよいのかについて、当業者にとって明らかになるというものでもない。
(5)以上のように、そもそも^(13)C-NMRの化学シフトでは、対応する化学構造は特定され得ないばかりでなく、これに加えて明細書の記載や技術常識を参酌しても依然として対応する化学構造は明らかとはいえない。そして、これらの事項に加えて、実施例で使用されているA-1に関するM1、M2及びM1/M2の値が示されても依然としてその化学構造が明らかとはいえない。
よって、明細書の実施例において、粘度指数向上剤A-1について、^(13)C-NMRの化学シフトに関連する「M1、M2及びM1/M2」のパラメーターが、それぞれ「M1=0.60、M2=0.95、M1/M2=0.64」と示されていることによっては、A-1の化学構造が明らかであるとすることはできない。
ウ 次に、40℃と100℃における動粘度の増粘比である「ΔKV40/ΔKV100」について検討する。
関連する記載としては、明細書【0069】において、以下の記載がなされている。
「上記粘度指数向上剤の40℃と100℃における動粘度の増粘比ΔKV40/ΔKV100は、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下、もっとも好ましくは2.3以下である。また、ΔKV40/ΔKV100は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは2.0以上である。
ΔKV40/ΔKV100が0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、4.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔKV40はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、40℃における動粘度の増加分を意味し、ΔKV100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃における動粘度の増加分を意味する。」
これら記載は、主として、好ましい数値範囲や測定方法についての記載に留まり、粘度指数向上剤の構造との相関関係といった事項については何ら記載されておらず、また、動粘度の増粘効果と粘度指数向上剤の構造との間に関する何らかの相関関係があるとする技術常識が存するともいえない。
よって、明細書の実施例において、粘度指数向上剤A-1について、40℃と100℃における動粘度の増粘比が「ΔKV40/ΔKV100=2.2」と示されていることによっては、A-1の化学構造に対して何らかの示唆が得られるものとはいえない。
エ この他、実施例で使用されている粘度指数向上剤A-1については、
(a)100℃と150℃におけるHTHS粘度(「高温高せん断粘度」)の増粘比が「ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51」であること、
(b)重量平均分子量が「M_(W)=400、000」であること、
(c)ポリマーの永久せん断安定性指数である「PSSI」について、「PSSI=20」であること、
(d)重量平均分子量と数平均分子量の比が「Mw/Mn=2.2」であること、及び、
(e)重量平均分子量と、上記(c)のPSSIの比が「Mw/PSSI=20000」であること、
が示されているものである。
そして、これらの各パラメーターに関する明細書の記載は次のようになっている。
「【0065】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量(M_(W))は100、000以上であることが好ましく、より好ましくは200、000以上であり、さらに好ましくは250、000以上であり、特に好ましくは300、000以上である。また、好ましくは1、000、000以下であり、より好ましくは700、000以下であり、さらに好ましくは600、000以下であり、特に好ましくは500、000以下である。重量平均分子量が100、000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が1、000、000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0066】
上記粘度指数向上剤の数平均分子量(M_(N))は50、000以上であることが好ましく、より好ましくは800、000以上であり、さらに好ましくは100、000以上であり、特に好ましくは120、000以上である。また、好ましくは500、000以下であり、より好ましくは300、000以下であり、さらに好ましくは250、000以下であり、特に好ましくは200、000以下である。数平均分子量が50、000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が500、000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0067】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(M_(W)/PSSI)は、0.8×10^(4)以上であることが好ましく、好ましくは1.0×10^(4)以上、より好ましくは1.5×10^(4)以上、さらに好ましくは1.8×10^(4)以上、特に好ましくは2.0×10^(4)以上である。M_(W)/PSSIが0.8×10^(4)未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
【0068】
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量と数平均分子量の比(M_(W)/M_(N))は、0.5以上であることが好ましく、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.1以上である。また、M_(W)/M_(N)は6.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。M_(W)/M_(N)が0.5未満や6.0を超える場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
・・・
【0070】
上記粘度指数向上剤の100℃と150℃におけるHTHS粘度の増粘比ΔHTHS100/ΔHTHS150は、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.55以下である。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0 以上であり、さらに好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、2.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔHTHS100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃におけるHTHS粘度の増加分を意味し、ΔHTHS150はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、150℃におけるHTHS粘度の増加分を意味する。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は100℃におけるHTHS粘度の増加分と150℃におけるHTHS粘度の増加分の比を意味する。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。また、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。」
これらの記載は、何れも、主として好ましい数値範囲に関連する説明に留まり、粘度指数向上剤の構造との関連性については何ら記載されていないものであり、また、これら各パラメーターと粘度指数向上剤の構造との間の相関関係について、何らかの技術常識が存するものともいえない。
よって、明細書の実施例において、粘度指数向上剤A-1について、上記(a)?(e)の各パラメーターの数値が示されているからといって、A-1の化学構造に対して何らかの示唆が得られるものとはいえないことは、上記「ウ」における「ΔKV40/ΔKV100」と同様である。
オ 個別のパラメーターに関しては、「イ」?「エ」に記載したように、何れも、粘度指数向上剤A-1の化学構造を特定するために十分なものとはいないが、これら全てを合わせ、なおかつ、明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を考慮したとしても、やはり粘度指数向上剤A-1の化学構造を特定できるものとはいえない。
したがって、本願発明に係る粘度指数向上剤として、実施例において具体的に示されている唯一の例である「A-1」については、明細書の他の記載や技術常識を考慮したとしても、該実施例で提示されている各パラメーターに基づいて、その具体的な構造が明らかであるとすることができないものである。
カ また、本願発明に係るポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤は、明細書【0059】の記載によれば、一般式(1)で表される構造単位の割合が「0.5?70モル%」(【0061】における『特に好ましい』とされる範囲の記載を合わせると「10?30モル%」に過ぎない。)であることが好ましいとされていることから、実施例で使用されている粘度指数向上剤A-1について、共重合体であることが強く示唆されるものである。上記「イ」?「オ」で記載したように、実施例で使用の粘度指数向上剤A-1は、そもそも、その具体的化学構造が明らかでなく、どのようなモノマー成分に基づいて製造すればよいのかが明らかとはいえないものであるが、さらに、これが共重合体というのであれば、他のモノマー成分の構造とともに複数のモノマー間の比率についても明らかにされなければ、例えば、製造により入手しようとしても到底困難であるといわざるを得ない。
しかるに、この点については、実施例において何ら記載されていないばかりでなく、発明の詳細な説明においても、僅かに一般式(1)に対応するモノマー成分の使用が窺われるものであるが、これとて、上記「イ」で述べたように具体的なモノマー成分を当業者が想定できる程度の記載とはいえないし、これと組み合わせる他のモノマー成分については、明細書【0062】?【0063】において、以下のような何ら特定されていないと等しいというべき記載に留まるものである。
「【0062】
上記粘度指数向上剤は、一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位以外に任意の(メタ)アクリレート構造単位もしくは任意のオレフィン等に由来する構造単位を含むことができる。
【0063】
上記粘度指数向上剤の製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(M-1)とモノマー(M-2)?(M-4)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。」
キ 以上のことから、本願明細書の実施例において、本願発明に係る粘度指数向上剤として唯一の具体例であるA-1については、たとえ発明の詳細な説明の全ての記載に加えて、技術常識をも考慮したとしても、その化学構造が明らかではなく、対応するモノマー成分も不明であるといわざるを得ないものであって、当業者にとって入手することは到底できないものである。

3.小括
したがって、本願明細書及び図面の記載は、本願発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができないので、特許法第36条第4第1号に規定する要件を満たしているものとすることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしているものとすることができないので、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-04 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-28 
出願番号 特願2009-135366(P2009-135366)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江間 正起  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 菅野 芳男
豊永 茂弘
発明の名称 潤滑油組成物  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 正人  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  

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