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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1320028
審判番号 不服2015-5123  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2016-10-31 
事件の表示 特願2013-108075「移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日出願公開,特開2013-225864,請求項の数(12)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年1月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年1月11日 大韓民国,2008年6月25日 大韓民国)を国際出願日とする出願である特願2010-542164号の一部を,平成25年5月22日に新たな特許出願としたものであって,平成26年3月24日付けで拒絶理由(以下,「原審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年6月6日付けで手続補正がされ,同年11月10日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成27年3月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされ,その後,当審において平成28年5月30日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年9月5日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は,平成28年9月5日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものと認められる。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法であって,
端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信するステップと,
前記端末が前記割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき,経路損失が最後の使用可能電力情報を送信した後から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,
前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合に,使用可能電力情報を取得し,前記使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成し,前記割り当てられたアップリンク送信リソースを使用して前記アップリンクパケットを送信するステップと
を含むことを特徴とする方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
原審拒絶理由の概要は,次のとおりである。

「 理 由

1.(…中略…)

2.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-12
・引用文献等 1-3
・備考
引用文献1には,UEが,現在と最近の経路損失測定値(本願の「以前の使用可能電力情報」に相当)の間の差が,所定の閾値(本願の「基準値」に相当)より高い場合,電力制御ヘッドルーム報告を,eNode-Bに送信すること,UEがPUSCHに関する電力制御ヘッドルームを測定すること,電力制御ヘッドルーム報告を,最大送信電力と測定された送信電力値との差分から求めることが記載されており,実際の送信電力値を測定する以上,アップリンク送信リソースが割り当てられていることは明らかである。
引用文献2(特に,段落【0038】-【0047】等参照)には,通信端末装置が,余剰送信電力情報を送信データに多重して基地局装置に送信することが記載されており,引用文献1のUEが,電力制御ヘッドルーム報告をeNode-Bに送信する際,引用文献2記載のように,送信データに多重して送信することは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,引用文献1においては,電力制御ヘッドルームを,最大送信電力と実際の送信電力測定値との差分から求めているが,実際の送信電力をパスロスから算出することは,引用文献3(特に,「5.1.1.1 UE behaviour」参照)に記載されているように周知技術であるから,引用文献1において,電力制御ヘッドルームを求める際に,最大送信電力とパスロスから算出した送信電力値との差分から求めることは,当業者が容易に想到し得たことである。

3.(…中略…)

引 用 文 献 等 一 覧
1.Nokia Siemens Networks et al.,Power control headroom reports for EUTRAN uplink,GPP TSG RAN WG1 #50bis Meeting R1-074348,
2007年10月 8日
2.特開2004-208197号公報
3.3GPP TS 36.213,2007年11月,V8.1.0

(以下省略)」

原査定の理由の概要は,次のとおりである。

「 この出願については,平成26年 3月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由(2:第29条第2項)によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
引用文献1の「power control headroom」(電力制御ヘッドルーム)が,本願請求項1に係る発明の「使用可能電力情報」に相当する。
引用文献1の「path loss」が,本願請求項1に係る発明の「経路損失」に相当する。

引用文献1の2.2欄の3に係る基準を満たすとUEが電力制御ヘッドルームを送信することが,経路損失の現在の測定値と前回の測定値の差分が所与の閾値より大きい場合に,UEが電力制御ヘッドルームを送信することといえる。
そして,この記載から,引用文献1で「経路損失の現在の測定値と前回の測定値の差分が所与の閾値より大きい」か判定していることは当業者に明らかで,これは,本願請求項1に係る発明の「経路損失が基準値以上変化したか否かを判定する」こととといえる。また,この記載に係る「経路損失の現在の測定値と前回の測定値の差分が所与の閾値より大きい場合に」は,本願請求項1に係る発明の「最後の使用可能電力情報を送信した後に前記経路損失が前記基準値以上変化した場合に」といえる。

引用文献1の2.3欄の記載から,引用文献1には,使用可能電力情報をMACヘッダを用いて通知することが記載されている。そしてこれは,使用可能電力情報が,MACヘッダに入れられて送信されることを意味するから,UEは,使用可能電力情報をそのヘッダに含むMACパケットを生成して送信しているといえる。
さらに,UEが送信のためにアップリンク送信リソースを利用することが本願優先日前に当業者にとって明らかであるから,引用文献1のUEが電力制御ヘッドルームを通知することが,本願請求項1に係る発明の「移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する」ことであって,「使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成し,アップリンク送信リソースを使用して前記アップリンクパケットを送信する」ことといえる。

よって,本願請求項1に係る発明と引用文献1とは,次の点で一致し,相違する。
<一致点>
移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法であって,
経路損失が基準値以上変化したか否かを判定するステップと,
最後の使用可能電力情報を送信した後に前記経路損失が前記基準値以上変化した場合に,使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成し,アップリンク送信リソースを使用して前記アップリンクパケットを送信するステップとを含む方法
<相違点>
本願請求項1に係る発明は,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信するステップ」を備え,アップリンクパケットの送信が,「前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」に「前記割り当てられた」アップリンク送信リソースで行われるのに対して,
引用文献1には,そのようなことが記載されていない点。

引用文献3の7.2欄には,UEは,制御に関する情報を,PUSCHの送信を有しないサブフレームでPUCCH上で送信し,スケジュールされたPUSCHの送信を有するサブフレームでPUSCH上で送信する技術が記載されている。

そして,引用文献1に係る発明に,該引用文献3に係る技術を採用して,請求項1に係る発明のようにすることは,当業者が実施になし得たことである。

また,本願請求項2-12に係る発明は,引用文献1-3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができた程度のものである。

出願人は意見書で,次の主張をしている。
『本願発明によれば,端末がアップリンク送信リソースを割り当てられたときにのみ経路損失が基準値以上変化したか否かを判定し,さらに,端末がアップリンク送信リソースを割り当てられたときであって,経路損失が基準値以上変化したときに,使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを送信することができます。よって,本発明によれば,移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報の送信頻度を減らすことができます。一方,引用文献1-3では,「経路損失が基準値以上変化したか否かを判定する」ステップ,および「前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき,最後の使用可能電力情報を送信した後に前記経路損失が前記基準値以上変化した場合に,使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成」するステップが開示されておらず,示唆もされていないので,移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報の送信頻度を本願発明ほどに減らすことができません。』

本願請求項には,「端末がアップリンク送信リソースを割り当てられたときにのみ経路損失が基準値以上変化したか否かを判定(する)」ことは,記載されていない。「端末がアップリンク送信リソースを割り当てられたときであって,経路損失が基準値以上変化したときに,使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを送信すること」は,上述したとおり,引用文献1に引用文献3に係る技術を採用して,当業者が容易になし得たことである。
また,引用文献1の2.2欄の3に係る使用可能電力情報を送信することの基準を利用する,引用文献1に係る発明により,移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報の送信頻度を減らすことができることは当業者に明らかである。そして,本願請求項に係る発明と引用文献1に係る発明とを,使用可能電力情報の送信頻度の観点で比較しても,両者の間に違いがあるとはいえない。
よって,本願請求項1-12に係る発明が奏する効果も,引用文献1-3に記載された発明及び周知技術から当業者が予想し得る程度のものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.Nokia Siemens Networks et al.,Power control headroom reports for EUTRAN uplink,GPP TSG RAN WG1 #50bis Meeting R1-074348,2007年10月8日
2.特開2004-208197号公報
3.3GPP TS 36.213,2007年11月,V8.1.0
(以下省略)」

そうすると,原査定の拒絶の理由の趣旨は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,当業者が原査定で引用された引用文献1及び3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。

2.当審における原査定の判断
(1)引用発明
ア 引用発明A
原査定で引用された引用文献1(Nokia Siemens Networks et al.,Power control headroom reports for EUTRAN uplink,GPP TSG RAN WG1 #50bis Meeting R1-074348)(以降は,「引用例A」という。)には,「EUTRANアップリンクのための電力制御ヘッドルーム報告」(タイトルの当審仮訳)に関して,次の事項が記載されている。

(ア)「2.2 Proposed Power Control Headroom reporting scheme
We suggest the following criteria for sending a power control headroom report in the uplink:
(…中略…)
3. The UE sends a power control headroom report if the difference between the current and the latest path loss measurement is higher than a given threshold (X dB).
([当審仮訳]
2.2 電力制御ヘッドルーム報告手法の提案
アップリンクにおける電力制御ヘッドルーム報告を送信するための規準を以下のように提案する。
(…中略…)
3.UEは,現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合に,電力制御ヘッドルーム報告を送信する。」(2ページ目)

(イ)「2.3 Signaling of Power Control Headroom Reports
Transmission of power control headroom measurement reports coule be performed by means of either RRC or MAC signaling.」(2ページ目)
([当審仮訳]
2.3 電力制御ヘッドルーム報告のシグナリング
電力制御ヘッドルームの測定報告は,RRC又はMACシグナリングにより送信することができる。)

前記(ア)ないし(イ)及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用例Aには,次の発明(以下,「引用発明A」という。)が記載されていると認める。

「 UEが電力制御ヘッドルーム報告を送信する方法であって,
UEが,現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合に,電力制御ヘッドルーム報告を,RRC又はMACシグナリングによりアップリンクで送信する,方法。」

イ 引用発明B
原査定で引用された引用文献3(3GPP TS 36.213,2007年11月,V8.1.0)(以降は,「引用例B」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「7.2 UE procedure for reporting channel quality indication (CQI), precoding matrix indicator (PMI) and rank

The time and frequency resources that can be used by the UE to report CQI, PMI, and rank are controlled by the eNB.
CQI, PMI and rank reporting is periodic or aperiodic. A UE transmits CQI, PMI and rank reporting on a PUCCH for subframes with no PUSCH transmission and on a PUSCH for those subframes with scheduled PUSCH transmissions with or without an associated scheduled grant. The CQI transmissions on PUCCH and PUSCH for various scheduling modes are summarized in the following table:(以下省略)
」(第13ページ)
(「当審仮訳」
7.2 チャネル品質識別子(CQI),プレコーディング行列識別子(PMI)及びランクを報告するためのUE手続

CQI,PMI及びランクを報告するためにUEが使用できる時間及び周波数リソースは,eNBによって制御される。
CQI,PMI及びランクの報告は,定期的であっても非定期的であってもよい。UEは,CQI,PMI及びランクの報告を,PUSCH伝送を伴わないサブフレームのPUCCH上で,及び,関連するスケジュールされた許可(グラント)を伴って又は伴うことなく,スケジュールされたPUSCHを伴うサブフレームにおいて,PUSCH上で送信する。PUCCH及びPUSCH上のCQI伝送に関する様々なスケジューリングモードは,以下の表にまとめている。)

前記(ア)及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用例Bには,次の発明(以下,「引用発明B」という。)が記載されていると認める。

「UEは,CQI,PMI及びランクを,スケジュールされた許可を伴って,スケジュールされたPUSCHを伴うサブフレームのPUSCH上でeNBに送信すること。」

(2)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明Aとを対比する。

引用発明Aの「UE」,「電力制御ヘッドルーム報告」はそれぞれ,本願発明の「端末」,「使用可能電力情報」に相当する。また。引用発明Aの「UE」が,「移動通信システム」におけるものであることは自明である。

また,本願発明において,「判断」の時点が「現在」であることは明らかであるから,「最後の使用可能電力情報を送信した」時点で測定された「経路損失」から,現在の「経路損失」への「変化」が「基準値以上」であるかどうかを「判断」していると解される。また,引用発明Aの「現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい」とは,「前回測定した経路損失」から「現在の経路損失」への変化が「所与の閾値(XdB)」以上であると言い替えることができる。
そして,引用発明Aの「経路損失」,「所与の閾値(XdB)」はそれぞれ,本願発明の「経路損失」,「基準値」に相当する。また,引用発明Aにおいて,「UE」が,「経路損失」を測定し,「大きい場合」を判断していることは自明である。そうすると,引用発明Aの「前回測定した経路損失」と本願発明の「最後の使用可能電力情報を送信した」時点の「経路損失」とは,「以前に測定した経路損失」である点において共通する。
したがって,引用発明Aの「現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合」と本願発明の「経路損失が最後の使用可能電力情報を送信した後から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合」とは,「経路損失が前回測定した経路損失から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合に」において共通する。

引用発明Aにおいて,「前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合」に「電力制御ヘッドルーム報告」を「送信」するためには,何らかの手段により「電力制御ヘッドルーム報告」を「取得」していることは自明である。また,「RRC又はMACシグナリング」が「パケット」により送信されることは技術常識であるから,「前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合」に,取得した「電力制御ヘッドルーム報告」を含むアップリンクパケットを生成することは自明である。
よって,引用発明Aの「電力制御ヘッドルーム報告を,RRC又はMACシグナリングによりアップリンクで送信する」は,本願発明の「使用可能電力情報を取得し,前記使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成」すること及び「アップリンクパケットを送信するステップ」に相当するといえる。

イ 一致点及び相違点
以上を総合すれば,本願発明と引用発明Aとは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法であって,
経路損失が前回測定した経路損失から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,
前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合に,使用可能電力情報を取得し,前記使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成し,前記アップリンクパケットを送信するステップと
を含むことを特徴とする方法。」

[相違点1]
本願発明は,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信するステップ」をさらに有するとともに,「経路損失」に関する判断が,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信する」ことの後でなされるのに対し,引用発明Aにおいては,「アップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信すること」及び「経路損失」に関する判断をするタイミングについて言及がない点。

[相違点2]
「判断するステップ」における変化の規準となる,「前回測定した経路損失」が,本願発明は,「最後の使用可能電力情報を送信した」時点で測定された「経路損失」であるのに対し,引用発明Aにおいては,「経路損失」を測定する時点と「電力制御ヘッドルーム報告」を送信する時点との関係について言及がない点。

ウ 判断
前記[相違点1]について判断するに,引用発明Bにあるように,「UEは,CQI,PMI及びランクを,スケジュールされた許可を伴って,スケジュールされたPUSCHを伴うサブフレームのPUSCH上でeNBに送信すること。」(すなわち,PUSCHを送信することの許可を受信してから当該PUSCH上でCQI,PMI及びランクを送信すること。)は,公知技術といえるものの,当該公知技術は,「CQI,PMI及びランク」の送信に関するものであるから,引用発明Aの「電力制御ヘッドルーム報告」の送信に適用することの動機付けがない。
また,仮に,動機付けがあり,引用発明Aに,引用発明Bに係る公知技術を適用し得たとしても,「電力制御ヘッドルーム報告」を,PUSCHを送信することの許可を受信してから当該PUSCH上で送信する,という構成が付加されるにすぎず,「経路損失」に関する判断を,「アップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信すること」の後で行うという,[相違点1]に係る本願発明の構成とはならない。

(3)小括
したがって,[相違点2]について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明A及び引用発明Bに基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項4,7及び10に係る発明は,本願発明を「端末装置」,「基地局が受信する方法」又は「移動通信システム」として特定したものであって,本願発明に係る技術的特徴のすべてを実質的に包含するものであるから,同様に,引用発明A及び引用発明Bに基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項2,3,5,6,8,9,11及び12に係る発明は,本願発明もしくは請求項4,7又は10に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明A及び引用発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は,次のとおりである。

「 理 由

1.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について
(…中略…)

よって,従属項も含め,請求項1ないし2に係る発明は,明確でない。

●理由2(サポート要件)について
(…中略…)

よって,従属項も含め,請求項1ないし12に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

●理由3(実施可能要件)について
(…中略…)

●理由4(進歩性)について
(1)請求項1,2,4,5,7,8,10及び11について
引用文献1,2

LTEに関する提案文書である引用文献1には,以下の事項が開示されている。

ア UEパワーヘッドルームは,PUSCHで送信をするときにだけ測定される。(「2. Power control headroom report」の項の「Proposal:」以下参照。)
イ パワーヘッドルーム報告は,現在のパスロス測定値と前回のパスロス測定値との差異が所与の閾値(Xdb)より高い場合にトリガされる。(「2.1 Proposed Power Control reporting scheme」の2.参照。)
ウ パワーヘッドルーム報告が,2.の条件に基づいてトリガされる場合,UEは,PUSCH送信を伴うM個の連続するTTI(PUSCH上のデータ送信を伴う最初のTTIから開始する)の間Txパワーを測定する。その後,UEは,PUSCH送信を伴う最初の利用可能なTTIにおいて,パワーヘッドルーム報告を送信する。(「2.1 Proposed Power Control reporting scheme」の「In case」で始まる文参照。)
エ パワーヘッドルームは,
Power Headroom = 10・log10(PMAX) - 10・log10(PMEASURED)
により計算され,ここで,PMAXは,UEのTXパワーの最大値であり,PMEASUREDは,PUSCH送信を伴う前回のM個のTTIにわたるTxパワーの測定値である。(「2.1 Proposed Power Control reporting scheme」の「The Power headroom is calculated as」で始まる文参照。)
オ パワーヘッドルーム報告は,6ビットに符号化され,MAC制御シグナリングを用いて送信される。(「2.2 Signaling of Power Control Headroom Reports」の「Proposal:」以下参照。)

LTE等に係る技術常識を参酌すれば,引用文献1に記載したもの(以下,単に「引用文献1」という。)の「パワーヘッドルーム報告」,「パスロス測定値」,「所与の閾値」はそれぞれ,請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)の「使用可能電力情報」,「経路損失」,「基準値」に相当する。そうすると,引用文献1において,「パワーヘッドルーム報告」を「送信」することは,本願発明において,「使用可能電力情報」を「送信」すること,及び,「使用可能電力情報」を「報告」することに相当する。
また,LTE等に係る技術常識を参酌すれば,引用文献1の「PUSCH」は,物理アップリンク共有チャネル,すなわち,端末がデータをアップリンクで送信するチャネルであって,所定の送信リソースを有していることは自明である。
以上の摘記事項及び技術常識を参酌すれば,本願発明と引用文献1とは以下の点で相違し,その余の点で一致している。

[相違点1]
本願発明は,「アップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信」し,そのことにより,「端末」が「アップリンク送信リソースを有しているとき」に,「使用可能電力情報」を報告すると決定し,生成して送信するのに対し,引用文献1は,「PUSCH」が有する送信リソースの割り当てについて明記がない点。

[相違点2]
本願発明は,「使用可能電力情報」を,「アップリンクパケット」に含めて送信するのに対し,引用発明は,「パワーヘッドルーム報告」を,MAC制御シグナリングを用いて送信する点。

[相違点3](請求項2に係る相違点)
本願発明は,上位レイヤーから提供されたアップリンクデータを「使用可能電力情報」と多重化したものを送信するのに対し,引用文献1は,「パワーヘッドルーム報告」の多重化送信について言及がない点。

上記各相違点について以下検討する。

・[相違点1]について
LTEの規約より,端末がPUSCHを送信する際には,事前に,基地局等からPUSCHの送信リソースの割り当て(例えば,アップリンクグラント,スケジューリング情報)の通知を受信しなければならないことは本願の優先日における技術常識であり,引用文献2(特に,【0003】,【0004】,【0056】,【0069】等参照。)にも,基地局が,データの送信許可(スケジューリング情報)と共に端末がデータを送信する際に使用するMCS情報を端末に送信することにより,端末が,データを送信することが記載されている。
そして,引用文献1において,端末は,「ヘッドルーム報告」を,PUSCHを送信する際に計算し,PUSCH上で送信している。
そうすると,引用文献1において,端末が,PUSCHに対する送信リソースの割り当ての通知を受信した後で,すなわち,「端末」が「割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」に,「ヘッドルーム報告」を送信することを決定し,生成して送信するようにすることは,上記技術常識又は引用文献2に記載した事項を参酌すれば,当業者にとって自明若しくは容易に想到し得たことである。

・[相違点2]について
LTEの規約において,MAC制御シングナリングが,MAC層ではパケットにより構成されることは技術常識である。
よって,引用文献1において,「パワーヘッドルーム報告」を,「アップリンクパケット」に含めて送信することは,上記技術常識を参酌すれば,当業者にとって自明若しくは容易に想到し得たことである。

・[相違点3]について
引用文献2(特に,【0046】参照。)には,送信データと余剰送信電力情報(本願発明の「送信電力情報」,引用文献1の「パワーヘッドルーム報告」に相当。)とを多重化して送信することが記載されている。また,送信データが,上位レイヤー(例えばMAC層)から提供されることは自明である。LTEの規約において,PUSCHは,複数の情報を多重化して送信し得るチャネルであることは技術常識である。
よって,引用文献1において,「パワーヘッドルーム報告」を上位レイヤーから提供されるアップリンクデータと多重化して送信するよう構成することは,引用文献2に記載の事項を参酌することにより当業者が容易に想到し得たことである。

以上より,請求項1及び2に係る発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,技術常識又は周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明することができたものである。
請求項4,5,7,8,10及び11に係る発明についても同様である。

(2)請求項3,6,9及び12について
引用文献1,2,3

(…中略…)

<引用文献等一覧>
1.Nokia Siemens Networks and Nokia Corporation,”Power headroom reporting for EUTRAN uplink”,3GPP TSG RAN WG1 #51bis Meeting R1-080329,2008年1月8日アップロード,インターネット<URL: http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_51b/Docs/R1-080329.zip>
2.特開2004-208197号公報
3.3GPP TS 36.213 V8.1.0,2007年11月

(以下省略)」

そうすると,当審拒絶理由の趣旨は,補正前の請求項1ないし12に係る発明は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)及び同第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしておらず,発明の詳細な説明は,補正前の請求項3,6,9及び12に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしておらず,また,補正前の請求項1に係る発明は,当審拒絶理由で引用された引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたので,特許法第29条第2項(進歩性)の規定により,特許を受けることができない,というものである。

2.当審拒絶理由の判断
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)及び同第4項第1号(実施可能要件)について
平成28年9月5日付けの手続補正により,請求項1,4,7及び10において,「経路損失が最後の使用可能電力情報を送信した後から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップ」との補正がなされたため,「経路損失」が,いつからいつまでの間の「変化」であることが明確となった。
また,前記手続補正により,請求項3,6,9及び12に記載の計算式において,誤記が訂正されるとともに,当該計算式において使用されるパラメータの定義が付加されることにより当該計算式の定義が明確となった。
以上より,請求項1ないし12に係る発明は,明確となり,また,発明の詳細な説明は,請求項1ないし12に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとなり,当該拒絶の理由は解消した。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
前記手続補正により,請求項1,4,7及び10から,「経路損失が基準値以上変化した場合に,使用可能電力情報を報告すると決定」する旨の記載が削除された。
また,補正前の請求項1,4,7及び10に記載の「前記端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信し,前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき,…決定する」及び「前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき,…送信する」に関し,請求人は,平成28年9月5日付けの意見書において,
「さらに,本願の図4と図5及びその関連説明では,アップリンク送信リソースが割り当てられるステップ(415,515)と,その以後に経路損失の変化に対する条件1が満足するかを判断するステップ(420,520)を開示しており,請求項1,4,7,10は,上記の開示内容により支持されています。」
と主張しており,また,本願の明細書の段落【0057】及び図4及び図5には,「アップリンク送信リソースの割当」(アップリンクスケジューリング情報)の受信(415,515)の直後に「条件1が満足するか」(経路損失に関する条件)(420,520)の判断を行うという態様が記載されていることから,明細書及び図面に記載された上記の態様に対応していることが明らかとなった。
以上より,請求項1ないし12に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとなり,当該拒絶の理由は解消した。

(3)特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 引用発明
(ア)引用発明1
原審拒絶理由で引用された引用文献1(Nokia Siemens Networks and Nokia Corporation,”Power headroom reporting for EUTRAN uplink”,3GPP TSG RAN WG1 #51bis Meeting R1-080329)(以降は,「引用例1」という。)には,「EUTRANアップリンクのための電力制御ヘッドルーム報告」(タイトルの当審仮訳)に関して,次の事項が記載されている。

a.「2. Power control hearoom report
(…中略…)
On the other hand, transmission format on the PUCCH is more constant per user, i.e. constant bandwidth, MCS, etc. It is therefore suggested that the UE only measures the power headroom for the PUSCH as this is the only case when such a measurement is needed before adjusting the allocated bandwidth and/or modulation and coding scheme.」(1ページ目)
([当審仮訳]
2.電力制御ヘッドルーム報告
(…中略…)
一方,PUCCHの伝送フォーマットは,ユーザ毎に一定である(例 一定の帯域幅,MCSなど)。よって,UEがPUSCHのための電力ヘッドルームのみを測定することが提案されるが,それは,割当て済みの帯域幅及び/又は変調および符号化スキームを調整する前にだけ,そのような測定が必要であるからである。)

b.「2.1 Proposed Power Control Headroom reporting scheme
We suggest the following criteria for measuring the UE Tx power and triggering power headroom reports in LTE uplink:
(…中略…)
A power headroom report is triggered:
(…中略…)
2. After the open loop PC corrections of the PSD is modified at the UE based on an updated path loss measurement; alternatively, a power headroom report can be triggered if the difference between the current and the latest path loss measurement is higher than a given threshold (X dB).
([当審仮訳]
2.1 電力制御ヘッドルーム報告手法の提案
UEの送信電力を測定し,LTEのアップリンクにおける電力ヘッドルーム報告をトリガするための規準を以下のように提案する。
(…中略…)
電力ヘッドルーム報告は,トリガされる:
(…中略…)
2.UEは,現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(Xdb)よりも大きい場合に,電力制御ヘッドルーム報告を送信する。」(2ページ目)

c.「2.2 Signaling of Power Control Headroom Reports
(…中略…)
Proposal: a power headroom report is coded using 6 bits and transmitted using MAC control signaling.」(2ページ目)
([当審仮訳]
2.2 電力制御ヘッドルーム報告のシグナリング
(…中略…)
提案:電力ヘッドルーム報告は,6ビットで符号化され,MAC制御シグナリングにより送信することができる。)

前記a.ないしc.及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「 UEが電力制御ヘッドルーム報告を送信する方法であって,
UEが,割当て済みの帯域幅及び/又は変調および符号化スキームを調整する前に,現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合に,PUSCHのための電力制御ヘッドルーム報告を測定し,MAC制御シグナリングによりアップリンクで送信する,方法。」

(イ)引用発明2
原審拒絶理由で引用された引用文献2(特開2004-208197号公報)(以降は,「引用例2」という。)には,「無線通信システム,通信端末装置,および基地局装置」」(発明の名称)に関して,次の事項が記載されている。

a.「【0003】
上り回線でのスケジューリングでは,基地局装置が自セル内の通信端末装置に対して順次データの送信タイミングを割り当て,各通信端末装置はそれぞれ割り当てられた送信タイミングで信号を送信する。
【0004】
具体的には,例えば,基地局装置が自セル内の各通信端末装置へ信号を送信する際の送信電力から各通信端末装置への下り回線の回線品質を推定する。そして,この回線品質が良い通信端末装置から順に上り回線の送信タイミングを割り当てることにより上り回線のスケジューリングが行われる(特許文献1参照)。」(第4ページ)

b.「【0056】
多重部270は,送信データ,TPCコマンド,送信許可情報,およびMCS情報を多重し,送信部280へ出力する。」(第10ページ)

c.「【0069】
送信許可情報がMCS選択部260へ出力されると,MCS選択部260によって,データの送信が許可される通信端末装置がデータを送信する際に使用する誤り符号化方式および変調方式が選択され,選択結果がMCS情報として多重部270へ出力される。ここで,MCS選択部260によるMCSの選択は,データの送信が許可される通信端末装置に対応する受信品質に基づいて,この通信端末装置に最適な誤り符号化方式および変調方式が選択されることにより行われる。」(第11ページ)

前記a.ないしc.及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用例2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「基地局が,データの送信許可とともに端末がデータを送信する際に使用するMCS情報を端末に送信することにより,端末が,データを送信すること。」

イ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「UE」,「電力制御ヘッドルーム報告」はそれぞれ,本願発明の「端末」,「使用可能電力情報」に相当する。また。引用発明1の「UE」が,「移動通信システム」におけるものであることは自明である。

また,本願発明において,「判断」の時点が「現在」であることは明らかであるから,「最後の使用可能電力情報を送信した」時点で測定された「経路損失」から,現在の「経路損失」への「変化」が「基準値以上」であるかどうかを「判断」していると解される。また,引用発明1の「現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい」とは,「前回測定した経路損失」から「現在の経路損失」への変化が「所与の閾値(XdB)」以上であると言い替えることができる。
そして,引用発明1の「経路損失」,「所与の閾値(XdB)」はそれぞれ,本願発明の「経路損失」,「基準値」に相当する。また,引用発明1において,「UE」が,「経路損失」を測定し,「大きい場合」を判断していることは自明である。そうすると,引用発明1の「前回測定した経路損失」と本願発明の「最後の使用可能電力情報を送信した」時点の「経路損失」とは,「以前に測定した経路損失」である点において共通する。
したがって,引用発明1の「現在の経路損失と,前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合」と本願発明の「経路損失が最後の使用可能電力情報を送信した後から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合」とは,「経路損失が前回測定した経路損失から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合に」において共通する。

引用発明1の「帯域幅及び/又は変調および符号化スキーム」は,本願発明の「アップリンク送信リソース」に相当する。また,引用発明1においては,「割当て済みの帯域幅及び/又は変調および符号化スキームを調整する前」に,「PUSCHのための電力制御ヘッドルーム報告を測定」して「送信」するものであるから,「PUSCHのための電力制御ヘッドルーム報告を測定」して「送信」する時点で,「割当て済みの帯域幅及び/又は変調および符号化スキーム」すなわち「割り当てられたアップリンク送信リソース」を「有している」状態であることは自明である。
また,本願発明においても,「送信するステップ」の時点では,「割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」であることは自明である。

引用発明1において,「MAC制御シグナリング」が「パケット」により送信されることは技術常識であるから,「前回測定した経路損失との差分が所与の閾値(XdB)よりも大きい場合」に,取得した「電力制御ヘッドルーム報告」を含むアップリンクパケットを生成することは自明である。また,「測定」することと「取得」することとは同義である。
よって,引用発明1の「電力制御ヘッドルーム報告を測定し,MAC制御シグナリングによりアップリンクで送信する」は,本願発明の「使用可能電力情報を取得し,前記使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成」すること及び「アップリンクパケットを送信するステップ」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
以上を総合すれば,本願発明と引用発明1とは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法であって,
経路損失が最後の使用可能電力情報を送信した後から基準値以上変化したかを前記端末によって判断するステップと,
前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき,前記端末によって前記経路損失が前記基準値以上変化したと前記判断された場合に,使用可能電力情報を取得し,前記使用可能電力情報を含むアップリンクパケットを生成し,前記割り当てられたアップリンク送信リソースを使用して前記アップリンクパケットを送信するステップと
を含むことを特徴とする方法。」

[相違点]
本願発明は,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信するステップ」をさらに有するとともに,「経路損失」に関する判断が,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信する」ことの後でなされるのに対し,引用発明1においては,「アップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信すること」について言及がない点。
これにともない,本願発明は,「前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」との要件が,「経路損失」に関する判断の前に付されているのに対し,引用発明1は,「前記端末が割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」(「割当て済みの帯域幅及び/又は変調および符号化スキームを調整する前に」)との要件が,電力制御ヘッドルーム報告を測定し,送信することの前に付されている点。

(ウ)判断
前記[相違点]について判断するに,引用発明2にあるように,「基地局が,データの送信許可とともに端末がデータを送信する際に使用するMCS情報を端末に送信することにより,端末が,データを送信すること。」は,公知技術といえ,また,LTEにおいて,PUSCHの送信にあたり,UL grantのようなスケジューリング情報(本願の「アップリンク送信リソースが割り当てられる通知」に相当。)を送信することは周知技術である。そして,これら公知技術または周知技術を引用発明2に適用しても,引用発明1に,PUSCHのための帯域幅及び/又は変調および符号化スキーム(アップリンク送信リソース)が割り当てられる通知を受信するステップ,すなわち,「端末がアップリンク送信リソースが割り当てられる通知を受信するステップ」を付加することまでは当業者が容易に想到し得るといい得るものの,当該「通知を受信するステップ」の後で,すなわち,「前記端末が前記割り当てられたアップリンク送信リソースを有しているとき」に,「経路損失」に関する判断を行うことまでは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項4,7及び10に係る発明は,本願発明を「端末装置」,「基地局が受信する方法」又は「移動通信システム」として特定したものであって,本願発明に係る技術的特徴のすべてを実質的に包含するものであるから,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項2,3,5,6,8,9,11及び12に係る発明は,本願発明もしくは請求項4,7又は10に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって,当審拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-14 
出願番号 特願2013-108075(P2013-108075)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
P 1 8・ 537- WY (H04W)
P 1 8・ 536- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深津 始廣川 浩  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 移動通信システムにおける端末の使用可能電力情報を送信する方法及び装置  
代理人 崔 允辰  
代理人 木内 敬二  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

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