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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1320057
審判番号 不服2016-458  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-12 
確定日 2016-10-25 
事件の表示 特願2012-169069「焼結磁石用塗布材料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月13日出願公開、特開2014-29896、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月31日の出願であって、平成27年2月10日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月17日付けで手続補正がなされたが、平成27年10月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年1月12日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年1月12日付けの手続補正の適否
1.補正の内容
平成28年1月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記(1)に示す補正前の特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
NdFeB系焼結磁石の表面に塗布、拡散させることにより前記焼結磁石の磁気特性を向上可能な塗布材料において、
前記塗布材料がYF_(3)組成のフッ化物とアルコールとの混合物であって、前記アルコールに水と共沸点を有する溶媒が混合されており、前記フッ化物が非晶質構造であることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、前記アルコールが前記水と共沸点を有する溶媒を1?10体積%混合されていることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、前記アルコールがメタノールであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料
【請求項4】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、フッ化物粒径が1μmであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のYF_(3)あるいはScF_(3)組成のフッ化物とアルコールとの混合物において、溶媒10mL当りのYF_(3)あるいはScF_(3)濃度が0.1?10gであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
NdFeB系焼結磁石の表面に塗布、拡散させることにより前記焼結磁石の磁気特性を向上可能な塗布材料において、
前記塗布材料がYF_(3)組成のフッ化物とアルコールとの混合物であって、前記アルコールに水と共沸点を有する溶媒が混合されており、前記フッ化物が非晶質構造であり、
前記アルコールがメタノール、前記水と共沸点を有する溶媒がn-プロパノールまたはn-ブタノールであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、前記アルコールに前記水と共沸点を有する溶媒が1?10体積%混合されていることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、フッ化物粒径が1μmであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のYF_(3)組成のフッ化物とアルコールとの混合物において、溶媒10mL当りのYF_(3)濃度が0.1?10gであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。」

2.補正の適否
(1)請求項1の補正について
本件補正による請求項1についての補正は、請求項1に記載された「アルコール」及び「水と共沸点を有する溶媒」について、それぞれ「メタノール」及び「n-プロパノールまたはn-ブタノール」であるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1.(2)参照)。

イ 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-266767号公報(以下、「引用文献」という。)には、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液について記載されているが、補正発明の発明特定事項である「YF_(3)」についての記述があるのは実施例7(段落【0059】-【0060】参照)のみである。
そこで、当該実施例7の記載に着目すると、引用文献には、
「NdFeB系磁粉の表面に塗布、拡散させることにより前記磁粉の磁気特性を向上可能なフッ化物コート膜の形成処理液において、
前記形成処理液がYF_(3)組成のフッ化物とメタノールとの混合物であるフッ化物コート膜の形成処理液」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 対比
引用発明における「フッ化物コート膜の形成処理液」はNdFeB系磁粉への「塗布材料」であること、及び、引用発明における「メタノール」は「アルコール」の一種であることを踏まえて補正発明と引用発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致している。

[相違点1]
塗布材料を塗布する対象が、補正発明においては焼結磁石であるのに対して、引用発明においては磁粉であること。
[相違点2]
補正発明においてはフッ化物が非晶質構造であるのに対して、引用発明においてはそのような特定がなされていないこと。
[相違点3]
補正発明においては、アルコールであるメタノールに水と共沸点を有する溶媒が混合されるとともに、水と共沸点を有する前記溶媒がn-プロパノールまたはn-ブタノールであるのに対して、引用発明においてはそのような特定がなされていないこと。

エ 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献には、例えば実施例8に「NdFeB系焼結磁石の表面にゲルあるいはゾル状の光透過性があり、かつX線回折パターンに1度以上の回折ピークがみられる希土類フッ素化合物溶液を塗布する。」(段落【0061】)と記載されているように、磁粉ではなく焼結磁石の表面に塗布することも記載されているから、引用発明において、焼結磁石の表面に塗布するようにすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことではない。
(イ)相違点2について
引用文献には、フッ化物に関して、「フッ化物の組成の非晶質」(段落【0020】)でもよいことが記載されているから、引用発明において、フッ化物を非晶質構造とすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことでではない。
(ウ)相違点3について
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼結磁石を作成する手段の一つは、焼結磁石の表面からイットリウム(Y)含有フッ化物を拡散させる工程を採用し、結晶粒界に酸フッ化物やフッ化物を低温で形成し、焼結磁石にすでに含有している重希土類の濃度分布と粒界近傍の組成・構造を変えることである。
Yは主相であるNd_(2)Fe_(14)Bや(Nd, Dy)_(2)Fe_(14)Bの希土類元素(NdやDy)位置を置換すると保磁力が減少する。これはY_(2)Fe_(14)Bの異方性磁界(1.59MA/m)はNd_(2)Fe_(14)Bの値(5.33MA/m)よりも小さいためである。従って、Yを主相に拡散させることなく、二相粒界や粒界三重点などの粒界相のみに拡散偏在化させることが不可欠である。粒界のみにYを偏在化させるためには拡散温度を低温にすることも必須であり、低温拡散を実現するための処理材料が必要となる。
Yの粒界偏在化のためには、YF_(3)の粒径を細かくするとともに、粉の凝集を抑制して塗布ムラをなくす必要がある。
イットリウム含有フッ化物としてYF_(3)があり、粉砕粉のYF_(3)を使用するよりもアルコール溶媒に膨潤させたY:Fが1:3の組成の処理液は溶媒除去により非晶質構造にすることができ、この構造が準安定構造であるため低温で構造変化を起こし易く焼結磁石の粒界に沿って700℃で容易に拡散する。
一方、アルコール溶媒に膨潤させたYF_(3)は準安定構造であるため溶液中の水分含有量が高くなるとYF_(3)は酸化されやすくなる。しかし、溶媒のベースはメタノールであり、メタノールは水と共沸しないため、磁石の表面処理後の脱溶媒プロセス中に水が濃縮されるためYF_(3)は酸化されやすくなる。そこで溶媒中に水と共沸点を有する有機溶媒を1?10vol%含有させることでこのYF_(3)の酸化をほぼ抑えることが可能となる。前記有機溶媒としてはアルコールに体積で10%以上均一に混合可能で、且つ、沸点が200℃以下であるものが良い。また、金属に対して腐食性の高い有機酸または有機アミンは好ましくない。例として、水と近い沸点を有し、共沸の際、水を多く含むn-(ノルマル)プロパノールまたはn-ブタノールのような有機溶媒が好ましい。
この溶媒中に水と共沸点を有する有機溶媒を1?10vol%含有させる手法は、従来法のNd_(2)Fe_(14)B磁石の磁気特性向上におけるDyF_(3)処理及びTbF_(3)処理における、Dy,Tbの酸化や磁石の酸化防止にも有効である。
水と共沸しないケトン類、例えばアセトンの場合は溶媒がメタノール単独と同じとなり、磁石の表面処理後の脱溶媒プロセス中に水が濃縮されるためYF_(3)は酸化されやすくなる。一方、水と共沸するがアルコールと混合しにくく2層になり易い溶媒で、例えば、トルエンやヘキサンの場合、アルコール溶媒に膨潤されたYF_(3)はゾル状態が不安定となり、沈殿が生じ易くなり、磁石の表面処理の際、磁石の表面に生成したYF_(3)コート膜は磁石から脱離しやすくなる。また、後述するように拡散温度処理の温度の上昇を伴う。
又、一部水による酸化のないYF_(3)の粉砕粉をアルコール溶媒に膨潤させたYF_(3)と併用することは有用である。これはYF_(3)の粉砕粉とアルコール溶媒に膨潤させたYF_(3)と併用することにより、懸濁液中で沈降し易いYF_(3)の粉砕粉の分散性を改善するためである。そのため、後述する実施例で示すように拡散温度処理の温度の上昇を伴うが、磁石の表面処理回数を減らすことが可能となるためである。」
この記載からみて、補正発明の相違点3に係る発明特定事項は、「アルコール溶媒に膨潤させたYF_(3)は準安定構造であるため溶液中の水分含有量が高くなるとYF_(3)は酸化されやすくなる」、及び、「溶媒のベースはメタノールであり、メタノールは水と共沸しないため、磁石の表面処理後の脱溶媒プロセス中に水が濃縮されるためYF_(3)は酸化されやすくなる」という課題を解決するためのものであり、当該課題を解決するための手段として、水と共沸しないという特性を有する「メタノール」に対して「水と共沸点を有する溶媒が混合される」ようにするとともに、当該「水と共沸点を有する溶媒」として、水と近い沸点を有するとともに、共沸の際に水を多く含むという特性を有する「n-プロパノールまたはn-ブタノール」を選択したものである。
これに対して、引用文献の実施例7には、フッ素化合物の選択肢の1つとしてYF_(3)は記載されているものの、YF_(3)をアルコール溶媒に膨潤させた場合の酸化の問題については記載も示唆もされていない。さらに、上記実施例7はアルコール溶媒としてメタノールを用いているが、メタノールが水と共沸しないために生じるYF_(3)の酸化の問題についても記載も示唆もされていない。
また、引用文献には、「前記アルコールは、メチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコールのうちの一種類以上で構成される処理液(中略)の構成をとる」(段落【0014】)、及び、「処理液に用いるアルコールは、メチルアルコール,エチルアルコール,n-プロピルアルコール,イソプロピルアルコールのうちの一種類以上で構成されるものとすることができ(中略)る。」(段落【0026】)と記載されているが、アルコールとして用いる物質が列挙されているだけであって、当該物資の具体的な組合わせや組合わせによる効果については何ら記載されていない。
したがって、引用文献には、YF_(3)の酸化に関する上記課題を解決するために、水と共沸しないメタノールに水と共沸するn-プロパノールまたはn-ブタノールを混合するという技術思想は開示されていないから、引用文献の実施例7以外の記載を参酌しても、補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正による請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)他の請求項の補正について
本件補正によって、補正前の請求項3は削除され、それに伴い補正前の請求項4及び5の番号が1つ繰り上がったが、これは特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、本件補正による請求項2の補正事項は、文意を明確にするためのものであり、本件補正による請求項4(補正前の請求項5)の補正事項は、請求項1の記載との不整合を解消するためのものであるから、いずれも特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
さらに、いずれの請求項の補正についても、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、請求項1に係る発明である上記補正発明は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4に係る発明は、補正発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2012-169069(P2012-169069)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五貫 昭一田中 純一  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 國分 直樹
井上 信一
発明の名称 焼結磁石用塗布材料  
代理人 井上 学  

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