• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1320081
審判番号 不服2016-563  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-13 
確定日 2016-10-06 
事件の表示 特願2012-182815「電気加熱式触媒の暖機制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日出願公開、特開2014- 40789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成24年8月22日の出願であって、平成27年8月21日付けで拒絶理由が通知され、平成27年10月22日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成27年11月6日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年10月22日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
内燃機関の排出ガスを浄化する電気加熱式触媒の暖機制御装置において、
前記電気加熱式触媒の通電電流を検出する電流センサと、
前記電気加熱式触媒の印加電圧を検出する電圧センサと、
前記電気加熱式触媒の暖機要求が発生したときに、前記電気加熱式触媒の通電電流が所定値以下になるように該電気加熱式触媒に通電する温度検出用通電制御を実行する温度検出用通電制御手段と、
前記温度検出用通電制御の実行中に、前記電流センサで検出した前記電気加熱式触媒の通電電流と前記電圧センサで検出した前記電気加熱式触媒の印加電圧とに基づいて前記電気加熱式触媒の通電加熱部の抵抗値を算出し、該通電加熱部の抵抗値に基づいて前記電気加熱式触媒の温度(以下「触媒温度」という)を算出する触媒温度算出手段と、
前記触媒温度算出手段で算出した触媒温度と所定の目標触媒温度とに基づいて前記電気加熱式触媒を前記目標触媒温度まで加熱するのに必要な目標加熱エネルギを算出する目標加熱エネルギ算出手段と、
前記温度検出用通電制御の実行後に、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する本通電制御を該本通電制御による通電電力の積算量が前記目標加熱エネルギに達するまで実行する本通電制御手段と
を備えていることを特徴とする電気加熱式触媒の暖機制御装置。」

3 刊行物

(1) 刊行物1

ア 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-229978号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
本発明は、通電加熱型ハニカム体の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン、ディーゼル等の内燃機関から排出されるHC、CO、NO_(X)、PM等の有害物質については世界的規模で規制が強化されているが、昨今の地球温暖化問題に対して上述したエミッションのほかに、燃費の向上が求められている。
【0003】
ところで、燃費の向上を行うと排ガス温度の低下が起こる。従来は触媒がコートされたハニカム構造体を用いることで排ガス浄化を行っていたが、排ガス温度の低温化により触媒が活性しない状態が比較的長時間続く現象が発生する。とりわけ、排ガスエミッションでは始動直後の所謂コールドエミッションの排出が多くなる。このように、排ガス温度が低下し、かつ触媒を早期に暖めることができないと、結果として排ガスが浄化されないこととなり、従来技術では対応が困難になってきた。
【0004】
このような問題に対して、触媒を暖める手段として通電加熱型ハニカム体(EHC)を使用した排ガス処理システムがある。このシステムでは、EHCを使用するために、EHCに印加する主に電圧のコントロールを行い、温度を制御するが、温度コントロールはEHCの出口側に設置される温度センサーの値により制御を行うことが一般的である。しかしながら、排ガス温度を利用しての温度コントロールはEHC本体の温度とタイムラグが生じ正確な温度制御ができない。さらに、燃費の悪化やEHC本体の信頼性を低下させる要因となる。ここで、EHC本体内部に温度センサーを設置すればタイムラグは無くなるが、温度センサー自体の破壊やEHCに加工が必要となり信頼性低下やコストアップの要因となる。
【0005】
このように、従来のシステムでは、EHC温度を直接的に検知する手段がなく、排ガス温度から間接的にEHC温度を推定する方法が一般的であるが、触媒反応が加わりEHC温度を正確に把握できない。
【0006】
さらに、EHCの劣化度を直接的に測定し、その測定した結果に基づいて、温度制御することもできなかった。」(段落【0001】ないし【0006】)

(イ) 「【0022】
以下、本発明の通電加熱型ハニカム体の制御システムについて具体的に説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備える通電加熱型ハニカム体の制御システムを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
[1]本発明の通電加熱型ハニカム体の制御システム:
本発明の通電加熱型ハニカム体の制御システムは、図1Aに示されるように、内燃機関から排出される排ガス浄化に用いられる通電加熱型のハニカム構造体の制御システム1であって、通電加熱型ハニカム7に電力を供給するための電源部5と、電源部3から通電加熱型ハニカム7に通電する電圧及び/又は電流を制御可能な制御部3と、を少なくとも備えており、制御部3において電圧及び電流値から通電加熱型ハニカム7の抵抗値を算出し、得られた前記抵抗値から通電する電圧及び/又は電流を制御して通電加熱型ハニカムの温度制御を行う通電加熱型ハニカムシステム1として構成される。
【0024】
[1-1]制御部:
本実施形態における制御部は、後述の電源部から通電加熱型ハニカム体に通電する電圧及び/又は電流を制御可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、制御部において電圧及び電流値から通電加熱型ハニカム体の抵抗値を算出し、得られた抵抗値から通電する電圧及び/又は電流を制御して通電加熱型ハニカム体の温度制御を行うものとして構成されている。具体的には、抵抗値は温度依存性を有するため、電圧、電流値より計算された抵抗値が温度を示すことになり、この抵抗値により通電加熱型ハニカム体の内部温度を確実に検出できるだけでなく、抵抗値から算出した温度によって、印加する電圧あるいは電流量を制御することで、通電加熱型ハニカム体内の温度コントロールを確実に行うことができる。
【0025】
また、従来のような、温度検出手段をハニカム内或いはハニカム外部に設置して温度検出及び温度制御を行う方式に比べて、温度制御をするために温度検出手段が不要となり、算出された抵抗値により直接電圧あるいは電流を抑制できる。
【0026】
なお、この制御部は、主にエンジンの制御に使用される電子制御装置(Electronic Control Unit、以下適宜「ECU」という。)として構成したものに、前述のような機能を備えさせてもよい。
【0027】
具体的には、図1Aに示されるように、制御部3と、後述の電源部5、通電加熱型ハニカム体7は、電気接続されている。
【0028】
[1-2]電源部:
本実施形態の電源部は、通電加熱型ハニカム体に電力を供給するために設けられるものであり、通常車載に搭載されるバッテリー又はオルタネータ等から構成される。この電源部から、通電加熱型ハニカム体に電圧、電流が印加されることによって、通電加熱型ハニカム体が発熱し、通電加熱型ハニカム体内で、内燃機関から排出された排ガスの浄化を行うことができる。この電源部の電圧としては、12?24V、あるいは100?200Vであることが好ましい。通常、車載されるバッテリー又はオルタネータ等の電圧は、前述の所定範囲内であるため、従来からある電源部にそのまま適応できるため、汎用性を備えることができるからである。
【0029】
具体的には、図1Aに示されるように、電源部5は、制御部3を介して、通電加熱型ハニカム体7に電気接続され、通電加熱型ハニカム体内に電圧、電流を印加できる。
【0030】
[1-3]通電加熱型ハニカム体:
本実施形態における通電加熱型ハニカム体は、電源部から制御部を介して通電されることによって発熱するとともに、その発熱によって内燃機関からの排出ガスを加熱可能であることが望ましい。このように構成されることによって、制御部によって、通電加熱型ハニカム体に通電する電圧及び/又は電流を制御でき、通電加熱型ハニカム体の温度制御を行うことができるからである。具体的には、通電加熱型ハニカム体が、導電性材料からなり隔壁に仕切られたガス流れ方向に実質的に平行な多数の貫通孔と、排ガス流入側及びガス流出側の両端面全面に体積抵抗率が低い電極部と、電極部の間に体積抵抗率が高い発熱部とが備えられていることが好ましい。均一な発熱と加熱を確実に行えるとともに、制御部が算出された抵抗値から通電する電圧及び/又は電流を制御して、通電加熱型ハニカム体全体の温度制御を確実に行えるからである。
【0031】
[1-3-1]電極部:
通電加熱型ハニカム体の電極部は、排ガス流入側及びガス流出側の両端面全面に形成されるとともに、その電極部では、体積抵抗率が低くなるように形成されることが好ましい。電流を十分にかつハニカム構造体全体に均質に流すことができ、後述の発熱部での発熱と(排ガスの)加熱とを確実にでき、制御部での温度制御を確実に行えるからである。
【0032】
[1-3-2]発熱部:
通電加熱型ハニカム体の発熱部は、両端面全面に形成される電極部の間に形成されるとともに、その発熱部では、体積抵抗率が高くなるように形成されることが好ましい。電極部から十分に均質に発熱部に通電されることによって、発熱部での発熱と(排ガスの)加熱とを確実にでき、制御部での温度制御を確実に行えるからである。
【0033】
たとえば、図1Aに示されるように、電極部が、通電加熱型ハニカム体内に体積抵抗率が低い電極部7として構成され、一方の端面(排ガス流入側端面)に電極部7aが形成され、他方の端面(排ガス流出側端面)に電極部7bが形成され、一方の端面(排ガス流入側端面))の電源端子から電極部7aに通電が行われ、発熱部7cに電流が流れた後、他方の端面(排ガス流出側端面))の電極部7b、さらにその電極部に接続されている電源端子から、電流が流れ出るものを一例として挙げることができる。なお、前述のように、電極部7a、7bは体積抵抗率が低く、発熱部7cは体積抵抗率が高く形成されているため、電極部7aを通電した電流が、発熱部7cに通電された際に発熱部で発熱し温度上昇がおこり、排ガスの温度を上昇させることができる。
【0034】
[1-3-3]通電加熱型ハニカム体のその他の構成:
さらに、通電加熱型ハニカム体は、金属とセラミックの複合材料から構成されることが好ましい。金属を含有させることで導電性を確保しながら、セラミックを含有させることで、成形しやすくできるためである。ただし、「通電加熱型ハニカム体は、金属とセラミックの複合材料から構成される」ものには、通電加熱型ハニカム体全体の、金属とセラミックの含有量が一定量からなる複合材料から構成されるものを意味するものではない。通電加熱型ハニカム体には、体積抵抗率が低い電極部と体積抵抗率が高い発熱部とを備えるため、体積抵抗率が低い電極部では、ハニカム全体に対して(電極部を除いた残余の部分に対して)金属含有率が高く構成されるとともに、体積抵抗率が高い発熱部では、ハニカム全体に対して(発熱部を除いた残余の部分に対して)金属含有率が低く構成されることが好ましい。このように電極部がハニカム全体に対して(電極部を除いた残余の部分に対して)金属含有率が高く構成されることによって、通電しやすくなるとともに、発熱部がハニカム全体に対して(発熱部を除いた残余の部分に対して)金属含有率が低く構成されることによって、発熱を容易行えるため、浄化効率を向上させながら、制御部によって確実に印加される電圧量を調整でき、通電加熱型ハニカム体の温度制御を行うことができる。
【0035】
また、通電加熱型ハニカム体が、温度変化によって抵抗値が変化する材料から構成されていることが好ましい。温度変化によって抵抗値が変化する材料から構成されることによって、通電加熱型ハニカム体(発熱部)の温度上昇を、得られた抵抗値の変化によって制御部が検知でき、通電する電圧及び/又は電流を制御しやすくなるため、通電加熱型ハニカム体の温度制御を確実に行うことができる。たとえば、通電加熱型ハニカム体を、Si金属とSiCより構成することによって、温度変化によって抵抗値が変化し、温度制御を確実に行える。
【0036】
好ましいのは、通電加熱型ハニカム体がSiとSiCからなり、Siの含有比率が5%以上70%以下、さらに好ましくはSiの含有比率が10%以上50%以下であり、さらに電極部のSi含有量を、発熱部に対して1.2倍?15倍の範囲で含有させる。これにより、電極部を構成するSiの構成比率が発熱部よりも大きくなり、発熱部の断面内電流分布を均一化でき、かつ、所望の抵抗値を有する通電加熱型ハニカム体を得ることができる。
【0037】
すなわち、電極部を構成するSiの構成比率を発熱部よりも大きくし、或いは、発熱部を構成するSiCの構成比率を電極部よりも大きくして、電極部及び発熱部における体積抵抗率を任意に変更し、通電加熱型ハニカム体(発熱部)の温度上昇を、得られた抵抗値の変化によって制御部で検知し、通電する電圧及び/又は電流を制御する。
【0038】
また、発熱部での加熱温度は触媒活性温度であることが好ましい。触媒活性温度に排気ガスを温度上昇させるように発熱を生じさせることにより、触媒担体での触媒による浄化処理を確実に向上させるものである。ここで、触媒活性温度は、担持する触媒によって差異はあるものの、一般的には、250℃?400℃の範囲内である。
【0039】
また、発熱部の体積抵抗率が0.1?10Ωcmで、電極部の体積抵抗率が発熱部の体積抵抗率の1/10以下であることが好ましい。発熱部において発熱を確実に生じさせ所望温度に温度上昇(加熱)させるとともに、発熱に伴う過剰な温度上昇を制御でき、耐クラック性を向上させることができ、均一な発熱と加熱を行えるからである。さらに、均一な発熱と加熱を制御部によって制御しやすくなるからである。他方、発熱部の体積抵抗率が0.1Ωcm未満であると、発熱部への通電が過剰となるだけでなく、発熱が十分おこらないため、排ガスを温度付与(加熱)できなくなり、10Ωcm超であると、体積抵抗率が高すぎ、目的の昇温速度が得られなくなる。さらに、電極部の体積抵抗率が発熱部の体積抵抗率の1/10超であると、均一な通電ができないために、不均一な温度分布となり、温度制御しづらくなるから好ましくない。
【0040】
また、電極部と、電極部を除いた通電用ハニカム構造体の残部との熱膨張係数差は、1.0×10^(-6)/℃(40?800℃)以下であることが好ましい。加熱冷却時における熱応力でクラックが発生し難いものとなるからである。
【0041】
また、金属の含有率が、両端面全体から通電加熱型ハニカム体の中央領域に向けて漸減して形成されることが好ましい。電極部と発熱部における熱膨張差の境界が無くなり応力集中が小さくなるために、クラックが発生し難くクラックの発生を防止でき、制御し易くなるからである。なお、この金属の含有率が、両端面から通電加熱型ハニカム体の中央領域に向けて漸減する割合としては、たとえば、含有率が変化する遷移領域長さを電極部長さと同等あるいは2倍程度とするものを一例として挙げることができる。ただし、このようなものに限定されるものでなく、本発明を逸脱しないものであればよい。
【0042】
さらに、通電加熱型ハニカム体に印加可能な電圧が12?24V、あるいは100?200Vであることが好ましい。このような所望電圧を印加できることで、車に搭載するバッテリー容量に対応できるためである。例えば、24V超であると、車に搭載するバッテリーに対応できず、また燃費効率も低減するため好ましくなく、12V未満であると、EHC内での発熱が十分とならないため、浄化処理に支障がでる虞があるため好ましくない。
【0043】
なお、電極がハニカム端面からハニカム体の中央領域に向けて1mm以上10mm以下の領域に形成されていると、均一な加熱ができ、耐クラック性を向上させることができる。他方、電極が、ハニカム端面からハニカム体の中央領域に向けて1mm未満であると、電源との接続において信頼性が確保されず、接点抵抗の増加によって局所的な発熱が発生するという問題が生じてしまうため好ましくなく、また、電極がハニカム端面からハニカム体の中央領域に向けて10mm超の領域に形成される場合には、後述の発熱部の面積が小さくなるか、ハニカム全長が過大に長くなってしまうため、好ましくない。
【0044】
また、発熱部の熱伝導率は10W/mK以上100W/mK以下であることが好ましい。発熱部で発熱された熱が均一に伝わるため通電加熱型ハニカム体をより均一に加熱することが可能である。熱伝導率が高すぎると、発熱部で発熱した熱が外部へ放出されやすくなり、通電加熱型ハニカム体に触媒をコートした場合、触媒活性が得られ難くなる。
【0045】
また、発熱部のCTE(Coefficient of thermal expansion(熱膨張係数))が8.0×10^(-6)/℃(40?800℃以下)であることが好ましい。発熱部にクラックが生じることを防ぐことができるため好ましい。
【0046】
さらに、通電加熱型ハニカム体に触媒がコートされていることが好ましい。浄化処理効率を向上できるからである。また、この通電加熱型ハニカム体の後方に、図1Bに示されるように、触媒担体11を合わせて使用する場合には、相乗効果的に浄化処理効率を向上させるため好ましい。特に、通電加熱型ハニカム体は、電気によって通常のハニカムよりも早期に昇温でき、エンジン始動直後の排ガスを浄化できるため、浄化の際に発生する発熱(HC、COを酸化する際に生じる発熱)と、この通電加熱型ハニカム体に触媒をコートした触媒コート通電用ハニカム体が加熱した排ガスの熱と、を利用でき、更に、そのような謂わば2重の意味で加熱された排ガスが、その後方に備えられる触媒担体を暖気させ、触媒担体を昇温させ早期に触媒活性できる。
【0047】
また、通電加熱型ハニカム体には、酸化触媒、他の触媒や浄化材が担持されていてもよい。例えば、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)やアルカリ土類金属(Ca、Ba、Sr等)からなるNO_(X)吸蔵触媒、三元触媒、セリウム(Ce)及び/又はジルコニウム(Zr)の酸化物に代表される助触媒、HC(HydroCarbon)吸着材等が担持されていてもよい。」(段落【0022】ないし【0047】)

(ウ) 「【0100】
このようにして、図3に示される制御システムであって、「制御2用」の温度検出手段を取り付けずに、「制御1用」の温度検出手段を取り付けた実施例1の通電加熱型ハニカムシステムを構築し、通電加熱型ハニカムの温度制御を行った。制御方法として、電極間の電圧、電流を検知して抵抗を算出し、温度制御させて、劣化検知フィードバックとして、常温抵抗値からのフィードバックの方法1を用い、耐久試験時間を0(hr)として、前述のような実験を行った。その結果を表2に示す。また、実施例1のその他の物性値を表1、2に示す。
【0101】
(常温抵抗値からのフィードバック方法1)
ECUに入るエンジン水温情報、点火信号情報、回転数信号情報より判断して、エンジン停止後一定時間以上経過している時点において、12V一定電圧を通電加熱型ハニカム体に5秒間印加し、この間の電流、電圧より、この間の抵抗変化を算出し、あらかじめ把握してありECUに記録されている図4Aの12V/5秒間での抵抗変化と基準温度(100℃)での抵抗値との関係より、基準温度(100℃)での抵抗値を算出し、一方で、あらかじめ把握してあった各種劣化程度の通電加熱型ハニカム体の温度-抵抗曲線群(図4B)より、100℃での抵抗が一致する曲線を選択し、これを、その後の通電加熱型ハニカム体の加熱状態コントロールのための電圧制御に用いる劣化フィードバック方法として用いた。」(段落【0100】及び【0101】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア) 上記ア(イ)(特に、段落【0046】及び【0047】等参照。)には、通電加熱型ハニカム体7に触媒がコートされることが記載されていることから、刊行物1には、通電加熱型ハニカム体7の具体例ないし実施態様として、このような触媒担持通電加熱型ハニカム体が開示されていることが分かる。

(イ) 上記ア(イ)(特に、段落【0024】等参照。)に記載されているように、通電加熱型ハニカム体7に通電する電圧及び電流値から、通電加熱型ハニカム体7の抵抗値を算出し、この抵抗値により通電加熱型ハニカム体7の内部温度を検出しており、これを上記(ア)のように通電加熱型ハニカム体7が触媒担持通電加熱型ハニカム体である場合とあわせてみると、触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電する手段、そのときの電圧を検知する手段、そのときの電流値を検知する手段、及びそのときの抵抗値を算出し、該抵抗値により触媒担持通電加熱型ハニカム体の内部温度を検出する手段を備えていることが分かる。また、触媒担持通電加熱型ハニカム体の抵抗値とは電気抵抗値であるから、より正確にいうと、触媒担持通電加熱型ハニカム体のうち、例えば通電路を形成して通電される部分(以下、「通電部」という。)の抵抗値のことであることが分かる。

ウ 刊行物1発明
上記ア及びイの記載並びに図面の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

<刊行物1発明>
「内燃機関から排出される排ガス浄化に用いられる触媒担持通電加熱型ハニカム体の制御システムにおいて、
前記触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電する電流値を検知する手段と、
前記触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧を検知する手段と、
前記触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電する手段と、
前記触媒担持通電加熱型ハニカム体への通電中に、前記電流値を検知する手段で検知した触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電電流と、前記電圧を検知する手段で検知した触媒担持通電加熱型ハニカム体の印加電圧とから、触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電部の抵抗値を算出し、該抵抗値の温度依存性から、該通電部の抵抗値により触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出する手段と、
抵抗値から算出した温度によって、触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧あるいは電流を制御して、触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温する温度コントロール手段と、
を備えている触媒担持通電加熱型ハニカム体の制御システム。」

(2) 刊行物2
ア 刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-57364号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気浄化装置として、内燃機関の排気系に吸蔵還元型NOx触媒(以下、「NOx触媒」ともいう。)が担持されたフィルタを配置することにより排気中に含まれる窒素酸化物(以下、「NOx」という。)や微粒子物質(PM:Particulate Matter)を浄化する技術が知られている。
【0003】
ここで、上記のような触媒を担持した排気浄化装置では、内燃機関の排気温度が低いときには排気浄化装置に担持されたNOx触媒のNOx浄化能力が低下する場合がある。これに対し、上記排気浄化装置を昇温させるための電気加熱式ヒータ或いは電気加熱式触媒等を設け、この電気加熱ヒータ等に通電することによって排気浄化装置の温度をNOx触媒の活性化温度まで上昇させる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
しかし、内燃機関の運転状態(例えば、機関負荷)の変動に伴って排気浄化装置に流入する排気の温度が変化し、或いは排気に含まれる還元剤(例えば、燃料等)の量が変化する場合には、排気浄化装置の温度に影響を及ぼすことになる。そのような場合には、上記の排気浄化装置の温度に影響を及ぼす温熱環境の変化に伴って電気加熱式ヒータ等への通電状態(例えば、通電時間や通電量の大きさ)を制御しないと、排気浄化装置の温度を適切に制御することが困難となる場合がある。例えば、排気浄化装置に対して、該排気浄化装置が過度に昇温されて(以下、単に「過昇温」ともいう。)熱劣化が生じたり、逆に排気浄化装置の昇温不足を招く虞があった。
【特許文献1】特開平9-222009号公報
【特許文献2】特開平5-214923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸化機能を有する触媒を担持した排気浄化装置の温度を加熱装置によって昇温させる際に、排気浄化装置の過昇温や昇温不足が生じることを抑制することの可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、内燃機関の排気通路に設けられる排気浄化装置の温度を推定して該排気浄化装置の温度を第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量を算出し、この算出される熱量に基づいてフィードフォアード的に加熱装置へ熱量を与えることを最大の特徴とする。
【0007】
より詳しくは、一端が内燃機関に接続されて該内燃機関からの排気が通過する排気通路と、
前記排気通路に設けられるとともに酸化機能を有する触媒を担持した排気浄化装置と、
前記排気浄化装置の温度を上昇させる加熱装置と、
前記排気浄化装置の温度を推定する温度推定手段と、
前記温度推定手段により推定される前記排気浄化装置の推定温度に基づいて前記排気浄化装置の温度を第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量を算出する必要熱量算出手段と、
前記必要熱量算出手段により算出される熱量を前記加熱装置から前記排気浄化装置に与えることによって該排気浄化装置を昇温させる昇温手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記のように構成された内燃機関の排気浄化システムでは、前記温度推定手段によって前記排気浄化装置の温度が推定され、例えば、前記第1の目標温度よりも該排気浄化装置の温度が低いときに、前記昇温手段によって前記加熱装置から前記排気浄化装置に熱量が与えられ、該排気浄化装置が昇温される。
【0009】
しかしながら、前記内燃機関の機関負荷が変化すると排気浄化装置に流入する排気の温度等、前記排気浄化装置の温度に影響を及ぼす温熱環境も変化することになる。そのような場合に、前記加熱装置が前記排気浄化装置に与える熱量を制御しないと、排気浄化装置の温度を適切に制御することが困難となる虞がある。例えば、機関負荷が大きくなる場合には排気浄化装置の過昇温が生じやすくなり、逆に機関負荷が小さくなる場合には排気浄化装置の昇温不足が生じ易くなると考えられる。
【0010】
これに対し、本発明では、前記排気浄化装置の推定温度と前記第1の目標温度とに基づいて、前記排気浄化装置の温度を前記第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量が前記必要熱量算出手段によって算出される。そして、前記加熱装置から前記排気浄化装置に熱量を与えることにより、該排気浄化装置の温度を上昇させることができる。
【0011】
ここで、前記第1の目標温度とは、前記加熱手段が前記排気浄化装置に熱量を与えることによって該排気浄化装置の温度を上昇させるときの目標となる温度であって、予め設定されていても良い。例えば、前記排気浄化装置に担持されている酸化機能を有する触媒の活性化温度としても良いし、該活性化温度に対して所定のマージンを見込んだ温度であって且つ該活性化温度よりも充分に高い温度としても良い。
【0012】
そして、本発明に係る内燃機関の排気浄化システムでは、前記昇温手段による前記排気浄化装置の昇温中に、所定時間毎に前記温度推定手段によって前記排気浄化装置の温度が推定されても良い。これにより、該排気浄化装置の温度を前記第1の目標温度まで上昇させるために必要な残りの熱量を前記必要熱量算出手段が算出することができる。つまり、前記排気浄化装置の温度が推定される毎に、換言すると前記所定時間毎に該排気浄化装置に与える熱量が算出されるため、この熱量に基づいてフィードフォアード的に前記排気浄化装置を前記第1の目標温度まで昇温させることができる。
【0013】
これにより、前記排気浄化装置に与えられる熱量と前記排気浄化装置の温度を前記第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量とが相違することが抑制され、以って前記排気浄化装置に対して過昇温や昇温不足が生じることを抑制できる。」(段落【0001】ないし【0013】)

(イ) 「【0032】
本発明にあっては、酸化機能を有する触媒を担持した排気浄化装置の温度を加熱装置によって昇温させる際に、排気浄化装置の温度に応じて該加熱装置から排気浄化装置に与える熱量をフィードフォアード的に制御することにより、排気浄化装置の過昇温や昇温不足が生じることを抑制できる。」(段落【0032】)

4 対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「触媒担持通電加熱型ハニカム体」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「電気加熱式触媒」に相当し、以下同様に、「内燃機関から排出される排ガス浄化に用いられる」は「内燃機関の排出ガスを浄化する」に、「制御システム」は「暖機制御装置」に、「通電する電流値を検知する手段」は「通電電流を検出する電流センサ」に、「印加する電圧を検知する手段」は「印加電圧を検出する電圧センサ」に、「通電部」は「通電加熱部」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1発明における「前記触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電する手段」と本願発明における「前記電気加熱式触媒の暖機要求が発生したときに、前記電気加熱式触媒の通電電流が所定値以下になるように該電気加熱式触媒に通電する温度検出用通電制御を実行する温度検出用通電制御手段」は、「前記電気加熱式触媒に通電する手段」という限りにおいて一致する。
さらに、刊行物1発明における「前記電流値を検知する手段で検知した触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電電流と、前記電圧を検知する手段で検知した触媒担持通電加熱型ハニカム体の印加電圧とから、触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電部の抵抗値を算出し、該抵抗値の温度依存性から、通電部の抵抗値により触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出する手段」は、その機能からみて、本願発明における「前記電流センサで検出した前記電気加熱式触媒の通電電流と前記電圧センサで検出した前記電気加熱式触媒の印加電圧とに基づいて前記電気加熱式触媒の通電加熱部の抵抗値を算出し、該通電加熱部の抵抗値に基づいて前記電気加熱式触媒の温度(以下「触媒温度」という)を算出する触媒温度算出手段」に相当し、刊行物1発明における「前記触媒担持通電加熱型ハニカム体への通電中に、」と、本願発明における「前記温度検出用通電制御の実行中に、」は、「前記通電の実行中に、」という限りにおいて相当する。
さらにまた、刊行物1発明における「抵抗値から算出した温度によって、触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧あるいは電流を制御して、触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温する温度コントロール手段」と本願発明における「前記触媒温度算出手段で算出した触媒温度と所定の目標触媒温度とに基づいて前記電気加熱式触媒を前記目標触媒温度まで加熱するのに必要な目標加熱エネルギを算出する目標加熱エネルギ算出手段と、前記温度検出用通電制御の実行後に、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する本通電制御を該本通電制御による通電電力の積算量が前記目標加熱エネルギに達するまで実行する本通電制御手段」は、「抵抗値から算出した温度に基づいて、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する制御手段」という限りにおいて一致する。

以上から、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と刊行物1発明とは、
「内燃機関の排出ガスを浄化する電気加熱式触媒の暖機制御装置において、
前記電気加熱式触媒の通電電流を検出する電流センサと、
前記電気加熱式触媒の印加電圧を検出する電圧センサと、
前記電気加熱式触媒に通電する手段と、
前記通電の実行中に、前記電流センサで検出した前記電気加熱式触媒の通電電流と前記電圧センサで検出した前記電気加熱式触媒の印加電圧とに基づいて前記電気加熱式触媒の通電加熱部の抵抗値を算出し、該通電加熱部の抵抗値に基づいて前記電気加熱式触媒の温度(以下「触媒温度」という)を算出する触媒温度算出手段と、
抵抗値から算出した温度に基づいて、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する制御手段と
を備えている電気加熱式触媒の暖機制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
「電気加熱式触媒に通電する手段」に関して、
本願発明においては、「電気加熱式触媒の暖機要求が発生したときに、電気加熱式触媒の通電電流が所定値以下になるように該電気加熱式触媒に通電する温度検出用通電制御を実行する温度検出用通電制御手段」であるのに対し、
刊行物1発明においては、「触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電する手段」であるところ、触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出するにあたって、該通電をいつ実行するか、及び、触媒担持通電加熱型ハニカム体に通電するときの通電電流の大きさが明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「抵抗値から算出した温度に基づいて、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する制御手段」に関して、
本願発明においては、「前記触媒温度算出手段で算出した触媒温度と所定の目標触媒温度とに基づいて前記電気加熱式触媒を前記目標触媒温度まで加熱するのに必要な目標加熱エネルギを算出する目標加熱エネルギ算出手段」と、「前記温度検出用通電制御の実行後に、前記電気加熱式触媒の通電電力を制御して該電気加熱式触媒を通電加熱する本通電制御を該本通電制御による通電電力の積算量が前記目標加熱エネルギに達するまで実行する本通電制御手段」を備えているのに対し、
刊行物1発明においては、「抵抗値から算出した温度によって、触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧あるいは電流を制御して、触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温する温度コントロール手段」を備えている点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
本願発明においては、「通電の実行中に、」に関し、「温度検出用通電制御の実行中に、」であり、さらに、電気加熱式触媒の通電制御について、「温度検出用通電制御手段」と「温度検出用通電制御の実行後」に実行される「本通電制御手段」とを備えているが、
刊行物1発明においては、「通電の実行中に、」に関し、「触媒担持通電加熱型ハニカム体への通電中に、」であり、さらに、触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電制御について、「触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出する手段」と「抵抗値から算出した温度によって、触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧あるいは電流を制御して、触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温する温度コントロール手段」を備えているものの、(前者の)温度検出のための通電制御手段と(後者の)触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温するための通電制御手段とが別個の手段として備えられているかどうかが明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

上記相違点について検討する。
<相違点1>について
刊行物1の段落【0003】、【0004】及び【0101】には、例えば、触媒が活性しない状態が比較的長時間続く現象が発生する場合や始動直後等の場合に、触媒を暖機することが記載ないし示唆されており、刊行物1発明において、例えばエンジン冷却水温度やエンジン停止時間等に基づいて触媒の暖機の要否ないし適否を判断し、肯定的に判断された場合に、すみやかに触媒の暖機のための制御を開始し実行するように構成することは、至極当然の合理的な設計であり、格別のことではない。
一方、刊行物1発明における電流値を検知する手段は、通電媒体の抵抗値を算出するためである。そして、このような各種センサに個体差や経時変化があることはいうまでもなく、それらに関連するゲイン誤差、あるいは、通電による自己発熱に基づく抵抗値そのものの変移を考慮すると、該手段の通電電流を小さくした方が、抵抗値等の算出精度が良くなることは明らかである。
ここで、本願発明においては、「前記電気加熱式触媒の通電電流が所定値以下になるように」している。しかし、請求項1においては、その「所定値」の大小や技術的意義等については何も限定がなく、任意的である。また、本願明細書には、「【0020】・・・。ここで、所定値は、例えば、電流センサ18の電流検出値の誤差が許容範囲内になる通電電流の上限値(つまり触媒温度Tehcの算出誤差が許容範囲内になる通電電流の上限値)に設定されている。」と記載されているが、「例えば」の記載があること、「許容範囲」の語義は客観的意義に乏しく相当にあいまいであること等からすると、この記載は、本願発明の「所定値」を特定するものでも、定義するものでもない。
そうすると、本願発明は、一方では、「所定値以下」という特定事項を備えるものの、他方では、その通電電流が抵抗値等の算出精度を特段に良くする値であることまでが特定されているとまではいえない。
そして、通電発熱するヒータ等において、抵抗値の検出時の電流ないし電圧を所定の電流ないし電圧値より小さくすることは、本願の出願前に周知の技術(例えば、特開平8-288051号公報(特に、【請求項3】並びに段落【0005】及び【0018】には、発熱体の抵抗値の検出時に発熱体に印加される電圧を、通常の発熱体作動時の電圧より低い電圧に制御することが開示されている。なお、本願明細書の段落【0011】には、バッテリ15からの電力を電圧変換してEHC13に供給することが記載されている。)、及び、特開2007-24539号公報(特に、段落【0043】ないし【0046】には、定電流ではあるが、抵抗値の検出時の電流をヒータ15の加熱のための電流より小さくすることが開示されている。なお、本願の請求項4には、通電電流を一定値にすることが記載されている。)等参照。以下、「周知技術」という。)である。
以上からすると、刊行物1発明の「触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出する手段」において、前述の合理的な設計を考慮するとともに、周知技術を適用して、暖気要求が発生したときに通電を実行し、通電制御開始後の最初の検出時を含めて、触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電電流を所定の値より小さく(さらには、該通電電流を、抵抗値等の算出精度を特段に良くする値にまで小さく)して、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

<相違点2>について
刊行物1発明は、「抵抗値から算出した温度によって、触媒担持通電加熱型ハニカム体に印加する電圧あるいは電流を制御して、触媒担持通電加熱型ハニカム体を所望温度まで昇温する」ものであるが、刊行物1に「【0022】・・・。但し、本発明はその発明特定事項を備える通電加熱型ハニカム体の制御システムを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。」(上記3(1)ア(イ)参照。)と記載されているとおり、刊行物1の段落【0101】等に記載ないし示唆されているような特定のフィードバック的制御に限定されるものではない。
ここで、刊行物2(上記3(2)ア(ア)及び(イ)参照。)には、触媒等の排気浄化装置の温度を推定し、排気浄化装置の温度を触媒の活性化温度である第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量を算出し、該熱量に基づいてフィードフォーワード的に電気加熱式ヒータ等の加熱装置へ熱量を与える技術(以下、「刊行物2技術」という。)が開示されている。
してみると、刊行物1発明において、刊行物2技術を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、刊行物2の段落【0032】等に記載されているフィードフォーワード的制御の特質を考慮して、適宜採用ないし代替し得る設計的事項にすぎず、当業者であれば容易に想到できたことである。
なお、本願発明の「前記温度検出用通電制御の実行後に、」という事項については、次の「<相違点3>について」において、あわせて検討する。

<相違点3>について
刊行物1発明に周知技術及び刊行物2技術を適用して、相違点1及び相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことであることは、上述したとおりである。そのようにしたとき、触媒担持通電加熱型ハニカム体の通電制御に関して、本願発明における「温度検出用通電制御手段」に相当する「触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を算出する手段」と、該手段の実行後に実行される、本願発明における「本通電制御手段」に相当する「温度コントロール手段」(詳説すると、例えば、「算出した温度から、触媒担持通電加熱型ハニカム体の温度を触媒担持通電加熱型ハニカム体の活性化温度である第1の目標温度まで上昇させるために必要な熱量を算出し、該熱量に基づいてフィードフォーワード的に触媒担持通電加熱型ハニカム体へ熱量を与える温度コントロール手段」)とを別個の手段として想定ないし認識できることは明らかである。
補足すると、ヒータ等への通電制御に関して、温度検出のための通電制御と昇温のための通電制御を別個の手段とすることは、上記の特開2007-24539号公報(特に、段落【0043】ないし【0046】及び【0050】参照。)に開示されている。

そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1発明、刊行物2技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 結語
以上に述べたとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-26 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-24 
出願番号 特願2012-182815(P2012-182815)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
伊藤 元人
発明の名称 電気加熱式触媒の暖機制御装置  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 鎌田 徹  
代理人 津田 拓真  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ