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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1320114
審判番号 不服2015-12625  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-02 
確定日 2016-10-03 
事件の表示 特願2013-513202「音質改善のためのユーザ別の雑音抑圧」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日国際公開、WO2011/152993、平成25年 6月27日国内公表、特表2013-527499〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年5月18日(パリ条約に基づく優先権主張 平成22年6月4日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成24年12月7日付けで手続補正がなされ、平成25年12月26日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成26年7月3日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月2日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成27年7月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年7月2日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
2-1.補正の目的について
平成27年7月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、
本件補正前には、
「【請求項1】
電子デバイスによって実行される方法であって、
ユーザ音声サンプルおよび少なくとも1つの妨害刺激を含むテストオーディオ信号を決定するステップと、
第1の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第1の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第1の雑音抑圧オーディオ信号をスピーカに出力するステップと、
第2の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第2の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第2の雑音抑圧オーディオ信号を前記スピーカに出力するステップと、
ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかの第1の指示を取得するステップと、
前記ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかの前記第1の指示に応じて、前記第1の雑音抑圧パラメータ、もしくは前記第2の雑音抑圧パラメータ、またはこれらの組み合わせに少なくとも一部基づいて、前記電子デバイスの音声関連機能の使用時に雑音を抑圧するための第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップと、
を有することを特徴とする方法。」

とあったものを、

「【請求項1】
電子デバイスによって実行される方法であって、
ユーザ音声サンプルおよび少なくとも1つの擬似周囲音を含むテストオーディオ信号を作成するステップと、
第1の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第1の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第1の雑音抑圧オーディオ信号をスピーカに出力するステップと、
第2の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第2の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第2の雑音抑圧オーディオ信号を前記スピーカに出力するステップと、
前記第1の雑音抑圧オーディオ信号と前記第2の雑音抑圧オーディオ信号とから選択するための第1のプロンプトを提供してユーザの好みを指示させるステップと、
前記第1のプロンプトの提供に応答して、ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかのユーザの好みを示す第1のユーザ選択を受信するステップと、
前記ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかを示す前記第1のユーザ選択に応じて、前記第1の雑音抑圧パラメータ又は前記第2の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記電子デバイスの音声関連機能の使用時に雑音を抑圧するための第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップと、
を有することを特徴とする方法。」
とする補正を含むものである。

そこで、本件補正前の請求項1の記載と本件補正後の請求項1の記載とを対比すると、
ア.本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「テストオーディオ信号を決定するステップ」について、
(a)テストオーディオ信号が含む「妨害刺激」を「疑似周囲音」であるとする限定が付加され、
(b) テストオーディオ信号を「決定する」とあったのが、「作成する」と補正され、
イ.「前記第1の雑音抑圧オーディオ信号と前記第2の雑音抑圧オーディオ信号とから選択するための第1のプロンプトを提供してユーザの好みを指示させるステップと」を有することが付加され、
ウ.同じく本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の指示を取得するステップ」について、「第1の指示を取得」するとあったのが、「ユーザの好みを示す第1のユーザ選択を受信」すると補正され、
エ.同じく本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップ」について、「前記第1の雑音抑圧パラメータ、もしくは前記第2の雑音抑圧パラメータ、またはこれらの組み合わせに少なくとも一部基づいて」とあり、3つの選択肢があっものが、「前記第1の雑音抑圧パラメータ又は前記第2の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて」と補正され、2つの選択肢に限定されている。

そして、上記「ア.(a)」及び「エ.」については、特許法第17の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当し、
また、上記「ア.(b)」については、拒絶の理由に示す事項についてするものではないが、審査官が電話応対時に指摘した事項であることから、特許法第17の2第5項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとみなすことができる。
しかしながら、上記「イ.」については、本件補正前の請求項1に記載された発明のいずれの発明特定事項を概念的に下位にするものではなく、新たな発明特定事項を付加するものであって、特許法第17の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するとはいえない。また、第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことも明らかである。
また、上記「ウ.」についても、補正前の「第1の指示」にあっても、そもそも選択肢は第1の雑音抑圧オーディオ信号と第2の雑音抑圧オーディオ信号の2つしかなく、このうちのどちらが好みかその選択をユーザ自身が指示するものであると理解できることを考慮すると、当該補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明のいずれの発明特定事項を概念的に下位にするものではなく、特許法第17の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するとはいえない。また、第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

2-2.独立特許要件についての予備的見解
仮に、上記「イ.」及び「ウ.」が「電子デバイスによって実行される方法」について限定したものであり、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると認められるとして、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについても以下に検討しておく。

(1)引用例
(1-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-271481号公報(以下、「引用例1」という。)には、「電話装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0007】
そこで本発明では、使用者がノイズ除去の効果を確認しながらノイズ除去の調節を行うことが可能な電話装置を提供することを目的とする。」

イ.「【0009】
請求項1に記載の電話装置によれば、ノイズ除去手段が除去ノイズ特性設定手段により設定されたノイズ特性に基づいて、送話部に入力される送話信号からその送話信号に含まれるノイズを除去し、ノイズ除去音声出力手段がノイズ除去手段によってノイズを除去された後の信号を音声として受話部に出力するので、装置の使用者は、ノイズ除去後の音声を聞きながら、除去ノイズ特性設定手段を用いて、除去すべきノイズ特性を試行錯誤的に最適に設定することができる。したがって、微小な音声をノイズとともに除去してしまうといった不具合の起きる可能性が低減できるとの効果を奏する。さらに、装置の使用者はノイズ除去を施されて通話相手側に伝わる自分の音声を、事前に自分の耳で聞いて確認することができる。したがって、どのような音声が通話相手側に伝わっているかが不明であった従来装置と比べて、使用者のノイズ除去に対する信頼性が高い電話装置となるとの効果も奏する。」

ウ.「【0015】
請求項4に記載の電話装置によれば、子機に送話部、受話部及び除去ノイズ特性設定手段が搭載されているので、移動可能な子機の周りの環境においても、ノイズ除去後の音声を聞きながら、除去ノイズ特性設定手段を用いて、除去すべきノイズ特性を試行錯誤的に最適に設定することができる。」

エ.「【0032】
実施例1では、上述のとおり、上で説明した親機100が外線通話を行う状況が扱われる。したがって、経路切替部195により、受話側信号経路40と送話側信号経路30とがそれぞれ、受話側信号経路70と送話側信号経路75に接続される。以下で図2、図3によって実施例1が説明される。図2は実施例1の処理全体のフローチャートであり、図3は切替部140の接続の切替を説明する図である。
【0033】
まず図2には、本発明に係るノイズ除去確認・設定処理の処理手順が示されている。以下の手順がCPU121によって順次行われる。図2の処理手順ではまず、S10で使用者は親機100の入力部181を用いてテストモード開始を入力する。以下で説明するすべての実施例でノイズ除去確認・設定処理をテストモードと称することとする。S10により親機100はテストモードとなる。次にS20で親機100のCPU121により切替部140が還流接続状態となる。
【0034】
還流接続状態は図3に示されている。切替部140には、受話側信号経路20,40、送話側信号経路10,30と端子141,142,143,144、145,146とが配置されている。図3(a)に示された接続が通常接続状態である。端子141と端子142、端子143と端子144がそれぞれ接続されることにより、受話側信号経路20と受話側信号経路40とが、そして送話側信号経路10と送話側信号経路30とがそれぞれ接続される。これにより送話信号、受話信号は、図3(a)に示された矢印のように、送信されることとなる。
【0035】
一方、図3(b)に示された接続が還流接続状態である。還流接続状態においては、端子142と端子145、端子143と端子146がそれぞれ接続される。これにより、図3(b)に示された矢印のように、送話側信号経路30上を送信された送話信号は端子146、端子145を経由して受話側信号経路40へと還流される。したがって、本装置の使用者は、親機100のマイクロフォン171へと入力した自身の音声信号をスピ-カ170から聞くことができる。図2の手順S20により切替部140が図3(b)の還流接続状態となる。
【0036】
次に、図2のS40で親機100の入力部181を用いて除去すべきノイズ特性が設定される。この手順においては、使用者が入力部181を用いて、ROM123内に複数格納されているノイズ除去プログラムのなかからひとつを選ぶ。これにより、CPU121は選ばれたノイズ除去プログラムによるノイズ除去操作をノイズ除去部130で開始する。S40においては、ROM123内に格納されているノイズ除去プログラムを呼び出し、使用者が入力部181を用いてノイズ除去プログラム中のパラメータ値を設定する形態でもよい。
【0037】
次にS50で、使用者が還流されてきた受話音質が望ましいかどうかを入力部181を用いて入力する。受話音質が望ましいと使用者が入力した場合(S50:YES)、次の手順はS60となる。受話音質が望ましくないと使用者が入力した場合(S50:NO)、次の手順は再びS40へ戻り、使用者がノイズ除去プログラムの選択を再度行う。そして受話音質が望ましいと使用者が入力するまで、CPU121は同じ手順を繰り返す。
【0038】
次にS60では、使用者が望ましいと判断したノイズ除去プログラムが、ノイズ除去部130で用いられるノイズ除去プログラムとして決定される。そして、S80で切替部140が図3(a)の通常接続状態へと切り替えられ、さらにS90で親機100の表示部180でテストモードの終了が表示されてテストモードが終了する。これにより、通常の通話へと戻る。」

オ.「【0047】
次に、実施例3,4の説明へ移る。上で説明した実施例1,2が親機100によるノイズ除去確認・設定であったのに対し、実施例3,4は子機200が外線通話中の状況でのノイズ除去確認・設定である。実施例3、4では子機200が外線通話状態であるので、経路切替部195によって、親機100の側の受話側信号経路40,送話側信号経路30は、RF系回路190側の受話側信号経路80,送話側信号経路85とそれぞれ接続される。
【0048】
まず以下で実施例3を説明する。実施例3では、上で説明した子機200が親機100を介して外線通話を行う状況において、マイクロフォン271から混入するノイズを、ノイズ除去部230と切替部140を用いて除去あるいは抑制する。実施例3では使用者は、実施例1と同様に、還流してきた自身の音声の確認のみから除去ノイズ特性を確認、設定する。実施例3の処理手順は図6を用いて説明される。
【0049】
図6の処理手順ではまず、使用者がS110で子機200の入力部281を用いてテストモード開始を入力する。これによりCPU121,221は子機200及び親機100をテストモードとする。そして以下の手順が、CPU221によって順次行われる。まずS120でCPU221により、切替指令が無線信号300を通じて親機100側に伝達されることにより切替部140が還流接続状態とされる。次に、S140で使用者は、子機200の入力部281を用いて除去すべきノイズ特性を設定する。この手順においては、使用者が入力部281を用いて、ROM223内に格納されているノイズ除去プログラムのなかからひとつを選ぶ。これにより、CPU221は選ばれたノイズ除去プログラムによるノイズ除去操作をノイズ除去部230で開始する。
【0050】
次に、S150で還流してきた受話音質が望ましいかどうかを使用者が入力部281を用いて入力する。受話音質が望ましいと使用者が入力した場合(S150:YES)、次の手順はS160となる。受話音質が望ましくないと使用者が入力した場合(S150:NO)、再びS140へ戻り、使用者はノイズ除去プログラムの選択を再度行う。そして受話音質が望ましいと使用者が入力するまで、CPU221は同じ手順を繰り返す。
【0051】
次にS160では使用者が望ましいと判断したノイズ除去プログラムがノイズ除去部230で用いられるノイズ除去プログラムとして決定される。そして、S180で切替部140が、通常接続状態へと切り替えられる。そして、S190で子機200の表示部280でテストモードの終了が表示されてテストモードが終了する。これにより、通常の通話へと戻る。」

・上記引用例1に記載の「電話装置」は、上記「ア.」?「ウ.」の記載事項によれば、使用者がいわゆる背景ノイズなどのノイズの除去の効果を確認しながら(より具体的には、ノイズ除去後の音声を聞きながら)、ノイズ除去の調節(除去すべきノイズ特性の設定)を行うことが可能な電話装置に関するものである。
・上記「ウ.」?「オ.」の記載事項、及び図1、図2、図6によれば、電話装置は、親機と移動可能な子機とからなり、親機であっても子機であっても、ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)を行うことができるものである。
・上記「エ.」、「オ.」の記載事項、及び図2、図6によれば、ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)は、マイクロフォンへ入力した使用者自身の音声信号(いわゆる背景ノイズも混入している)をスピーカから聞くことができる状態とされ、その処理手順はCPUによって順次行われるものであり、
使用者が複数のノイズ除去プログラムのなかから一つを選んで除去すべきノイズ特性を設定するステップ(S40,S140)、
使用者が入力部を用いて、スピーカから出力される受話音質が望ましいかどうかを入力し、受話音質が望ましくないと使用者が入力した場合、使用者がノイズ除去プログラムの選択を再度行い、受話音質が望ましいと使用者が入力するまで同じ手順を繰り返すステップ(S50,S150)、
受話音質が望ましいと使用者が入力した場合には、望ましいと判断したノイズ除去プログラムをノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラムとして決定するステップ(S60,S160)、
などを有する。
なお、上記「エ.」の段落【0036】の記載事項によれば、除去すべきノイズ特性の設定について、複数のノイズ除去プログラムのなかから一つを選ぶことに代えて、一つのノイズ除去プログラム中のパラメータ値を設定する形態でもよいものである。
・そして、上記「エ.」の段落【0038】、「オ.」の段落【0051】の記載事項によれば、ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)が終了すると、通常の通話へと戻る。

したがって、特に実施例3(図6に示される処理手順)に係るものであって、除去すべきノイズ特性の設定としてノイズ除去プログラム中のパラメータ値を設定する形態のものに着目し、電話装置の子機におけるノイズ除去確認・設定処理の処理手順を方法の発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「使用者が背景ノイズなどのノイズ除去後の音声を聞きながら除去すべきノイズ特性の設定を行うことが可能な電話装置の子機において、CPUによって順次行われるノイズ除去確認・設定処理(テストモード)の方法であって、
上記ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)は、マイクロフォンへ入力した使用者自身の音声信号(背景ノイズも混入している)をスピーカから聞くことができる状態とされ、
使用者がノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラム中のパラメータ値を設定して除去すべきノイズ特性を設定するステップと、
使用者が入力部を用いて、スピーカから出力される受話音質が望ましいかどうかを入力し、受話音質が望ましくないと使用者が入力した場合、使用者が前記パラメータ値の設定を再度行い、受話音質が望ましいと使用者が入力するまで同じ手順を繰り返すステップと、
受話音質が望ましいと使用者が入力した場合には、望ましいと判断した前記パラメータ値を前記ノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラムのパラメータ値として決定するステップと、
を有し、上記ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)が終了すると、通常の通話へと戻るようにした方法。」

(1-2)引用例2
新たに引用する国際公開第2009/104126号(以下、「引用例2」という。)には、「AUDIO DEVICE AND METHO OF OPERATION THEREFOR」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、引用例2である国際公開第2009/104126号は、国内段階において公表された特表2011-512768号公報と基本的に同じであるから、当該公報の記載を翻訳文として付記する。また、下線は当審で付与した。)。
ア.「17. A method of operation for an audio device, the method comprising:
providing (201) a plurality of test audio signals, each test audio signal comprising a signal component and a noise component;
presenting (203) the plurality of test audio signals to a user;
receiving (205) user preference feedback for the plurality of test audio signals;
generating (207) a personalization parameter for the user in response to the user preference feedback and a noise parameter for the noise component of at least one of the test audio signals;
processing (407, 409) an audio signal in response to the personalization parameter to generate a processed signal; and
presenting (411) the processed signal to the user. 」(26頁8?18行)
(【請求項17】
オーディオ装置の動作方法であって、
各々のテストオーディオ信号が信号成分及び雑音成分を含む複数のテストオーディオ信号を提供するステップと、
ユーザに、前記複数のテストオーディオ信号を提示するステップと、
前記複数のテストオーディオ信号に関するユーザ嗜好フィードバックを受け取るステップと、
前記ユーザ嗜好フィードバックに応じた前記ユーザ用の個人化パラメータ、及び前記複数のテストオーディオ信号のうち少なくとも1つのテストオーディオ信号の雑音成分に関する雑音パラメータを生成するステップと、
処理された信号を生成するために、前記個人化パラメータに応じてオーディオ信号を処理するステップと、
前記ユーザに、前記処理された信号を提示するステップと、
を含む方法。)

イ.「The personalization parameter may reflect a user preference dependent on the noise characteristic. The noise parameter may be an absolute value or a relative value, e.g. reflecting a relationship between the signal component and the noise component (such as a signal-to-noise indication). The noise parameter may reflect a level and/or distribution of noise in one or more of the test audio signals. The personalization parameter may be determined in response to noise characteristics associated with test audio signals preferred by the user over other test audio signals.
The signal component of the test audio signals may specifically be speech signals. The noise component of the test audio signals may e.g. comprise, background noise, white noise, (interfering) speech signals, music, etc. The signal component and noise component may have different spatial characteristics and the personalization parameter may be determined in response to spatial characteristics of a noise component of one or more of the signals.」(2頁16?28行)
(個人化パラメータは、雑音特性に依存して、ユーザ嗜好を反映させることができる。雑音パラメータは、例えば信号成分と雑音成分との間の関係(例えば信号対雑音標示)を反映する絶対値又は相対値でありうる。雑音パラメータは、テストオーディオ信号の1又は複数における雑音のレベル及び/又は分布を反映することができる。個人化パラメータは、他のテストオーディオ信号よりもユーザによって好まれるテストオーディオ信号と関連する雑音特性に応じて決定されることができる。
テストオーディオ信号の信号成分は、具体的には、スピーチ信号でありうる。テストオーディオ信号の雑音成分は、例えば背景雑音、ホワイトノイズ、(干渉する)スピーチ信号、音楽等でありうる。信号成分及び雑音成分は、それぞれ異なる空間特性を有することがあり、個人化パラメータは、信号のうち1又は複数の信号の雑音成分の空間特性に応じて、決定されることができる。)

ウ.「In accordance with an optional feature of the invention, the processing means is arranged to adapt a noise suppression processing of the audio signal in response to the personalization parameter.」(6頁11?13行)
( 本発明の任意のフィーチャによれば、処理手段は、個人化パラメータに応じてオーディオ信号の雑音抑制処理を適応させるように構成される。)

エ.「The following description focuses on embodiments of the invention applicable to personalization of a hearing aid. However, it will be appreciated that the invention is not limited to this application but may be applied to many other audio devices including for example personal or portable communication devices, such as mobile phones. In the described example, a speech audio signal is processed based on user feedback received for speech test signals. However, it will be appreciated that in other embodiments, other types of audio signals may be processed and/or used as test signals. 」(7頁28?34行)
(以下の記述は、補聴器の個人化に適用できる本発明の実施形態に焦点をあわせている。しかしながら、本発明は、この用途に限定されず、例えば移動電話のような個人的な又は携帯可能な通信装置を含む多くの他のオーディオ装置にも適用されうることが分かるであろう。記述される例において、スピーチオーディオ信号は、スピーチテスト信号について受け取られるユーザフィードバックに基づいて処理される。しかしながら、他の実施形態において、他のタイプのオーディオ信号が、テスト信号として処理され及び/又は使用されることができることが分かるであろう。)

オ.「In some embodiments, the test signal source 101 contains stored versions of the different test signals. Thus the test signal source 101 may comprise a signal store wherein the test signals are stored. For example, a number of test signals may be generated by recording suitable spoken sentences in different audio environments (with different noise characteristics). The resulting signals may be digitized and stored in the signal store of the test signal source 101 for example during manufacturing of the hearing device. Thus, step 201 may simply correspond to the test signals being retrieved from the signal store and fed to the calibration processor 103.」(10頁8?15行)
(ある実施形態において、テスト信号源101は、さまざまな異なるテスト信号の記憶されたバージョンを含む。従って、テスト信号源101は、テスト信号が記憶される信号記憶部を有しうる。例えば、多くのテスト信号は、(異なる雑音特性をもつ)さまざまな異なるオーディオ環境において、適切な話された文を記録することによって、生成されることができる。結果として得られる信号は、デジタル化され、例えば聴覚装置を製造する間にテスト信号源101の信号記憶部に記憶されることができる。従って、ステップ201は、単に、テスト信号が信号記憶部から取り出され、較正プロセッサ103に供給されることに対応しうる。)

カ.「The test signal source 101 furthermore comprises a noise component store 305 wherein a number of signals corresponding to the noise component of the resulting test signals are stored. For example, the noise component store 305 may comprise a stored signal corresponding to white noise, typical ambient noise for a crowded room, a single interfering speaker etc.」(10頁30?34行)
(テスト信号源101は更に、結果として得られるテスト信号の雑音成分に対応する複数の信号が記憶される雑音成分記憶部305を有する。例えば、雑音成分記憶部305は、ホワイトノイズ、混雑した部屋の典型的な周囲雑音、単一の干渉する話者等に対応する記憶された信号を含みうる。)

キ.「Step 201 is followed by step 203 wherein the generated test signals are presented to the user. Specifically, the calibration processor 103 sequentially feeds the test signals to the audio output circuitry 105 resulting in the test signals being output via the in- ear headphone. The hearing device comprises a user feedback processor 107 which is coupled to a user preference processor 109 to which the calibration controller 103 is also coupled. The user feedback processor 107 comprises functionality for interfacing with the user in order to obtain feedback for the presented test signals from the user. Specifically the user feedback processor 107 may comprise functionality for interfacing to a keyboard and display (e.g. via a personal computer) and can accordingly request and receive the appropriate feedback from the user.
As a specific example, the user feedback processor 107 may output a text that test signals will be played. The calibration controller 103 may then proceed to sequentially present two test signals to the user. The user feedback processor 107 may then output text requesting the user to select which of the two signals is preferred. In response, the user enters a response on the keyboard and this response is received by the user feedback processor 107 and fed to the user preference processor 109. This process may be repeated for a plurality of test signals.」(12頁1?18行)
(ステップ201のあとにステップ203が続き、ステップ203において、生成されたテスト信号が、ユーザに提示される。具体的には、較正プロセッサ103は、オーディオ出力回路105にテスト信号を逐次に供給し、その結果、テスト信号は、インイヤヘッドホンを介して出力される。
聴覚装置は、ユーザ嗜好プロセッサ109に結合されるユーザフィードバックプロセッサ107を有し、ユーザ嗜好プロセッサ109には、較正コントローラ103もまた結合される。ユーザフィードバックプロセッサ107は、ユーザから、提示されたテスト信号に関するフィードバックを得るために、ユーザとインタフェースする機能を有する。具体的には、ユーザフィードバックプロセッサ107は、(例えばパーソナルコンピュータを介して)キーボード及びディスプレイとインタフェースする機能を有することができ、従って、ユーザからの適当なフィードバックをリクエストし、受け取ることができる。
特定の例として、ユーザフィードバックプロセッサ107は、テスト信号が再生されるというテキストを出力することができる。次に、較正コントローラ103は、2つのテスト信号をユーザに逐次に提示することを続けることができる。次に、ユーザフィードバックプロセッサ107は、2つの信号のうちどちらが好ましいかを選択するようにユーザにリクエストするテキストを出力することができる。これに応じて、ユーザは、キーボード上で応答を入力し、この応答は、ユーザフィードバックプロセッサ107によって受け取られ、ユーザ嗜好プロセッサ109に供給される。このプロセスは、複数のテスト信号について繰り返されることができる。)

上記「ア.」?「カ.」の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「移動電話などのオーディオ装置であって、
信号成分(スピーチ信号)及び雑音成分(例えば背景雑音)を含むテストオーディオ信号をユーザに提供してユーザ嗜好フィードバックを受け取り、スピーチオーディオ信号を雑音抑制処理するためのユーザ嗜好を反映した個人化パラメータを決定するようにしたものにおいて、
テストオーディオ信号に含まれる雑音成分(例えば背景雑音)を、予め記憶部に記憶しておくようにしたこと。」

さらに上記「キ.」の記載事項によれば、引用例2には、次の技術事項も記載されている。
「2つのテストオーディオ信号をユーザに提供してユーザ嗜好フィードバックを受け取るためのユーザインタフェース機能として、2つの信号のうちどちらが好ましいかを選択するようにユーザにリクエストするテキストを出力するようにしたこと。」

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「使用者が背景ノイズなどのノイズ除去後の音声を聞きながら除去すべきノイズ特性の設定を行うことが可能な電話装置の子機においてCPUによって順次行われるノイズ除去確認・設定処理(テストモード)の方法であって」によれば、
引用発明における「電話装置の子機」は、本願補正発明でいう「電子デバイス」に相当するといえ、ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)が当該子機のCPUによって順次実行されるものであることから、
本願補正発明と引用発明とは、「電子デバイスによって実行される方法」である点で一致する。

イ.引用発明における「使用者が背景ノイズなどのノイズ除去後の音声を聞きながら除去すべきノイズ特性の設定を行うことが可能な電話装置の子機において、CPUによって順次行われるノイズ除去確認・設定処理(テストモード)の方法であって、上記ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)は、マイクロフォンへ入力した使用者自身の音声信号(背景ノイズも混入している)をスピーカから聞くことができる状態とされ、使用者がノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラム中のパラメータ値を設定して除去すべきノイズ特性を設定するステップと、使用者が入力部を用いて、スピーカから出力される受話音質が望ましいかどうかを入力し、・・」によれば、
引用発明においても、マイクロフォンへ入力した使用者つまりユーザ自身の音声信号に背景ノイズが混入した信号に対して、ノイズ除去部によるノイズ除去がなされ、そのノイズ除去後の信号をスピーカから聞きながら除去すべきノイズ特性の設定を行うものであることから、
(a)引用発明における、マイクロフォンへ入力した「使用者自身の音声信号」、スピーカから出力される「使用者自身の音声信号に背景ノイズが混入した信号」は、それぞれ本願補正発明でいう「ユーザ音声サンプル」、「テストオーディオ信号」に対応し、また、混入する「背景ノイズ」は周囲音であるといえ、
本願補正発明と引用発明とは、「ユーザ音声サンプルおよび少なくとも1つの周囲音を含むテストオーディオ信号を作成するステップ」を有する点で共通するとみることができる。
ただし、本願補正発明では、テストオーディオ信号に含まれる周囲音が「疑似」であるが、引用発明では、「疑似」ではない点で相違している。
(b)また、引用発明における、ノイズ除去プログラム中の「パラメータ値」、ノイズ除去部によるノイズ除去後の「信号」、「スピーカ」は、それぞれ本願補正発明でいう「雑音抑圧パラメータ」、「雑音抑圧オーディオ信号」、「スピーカ」に相当するといえ、
本願補正発明と引用発明とは、少なくとも「雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、前記雑音抑圧オーディオ信号をスピーカに出力するステップ」を有する点では共通するということができる。

ウ.引用発明における「使用者が入力部を用いて、スピーカから出力される受話音質が望ましいかどうかを入力し、受話音質が望ましくないと使用者が入力した場合、使用者が前記パラメータ値の設定を再度行い、受話音質が望ましいと使用者が入力するまで同じ手順を繰り返すステップと」によれば、
引用発明においても、ノイズ除去プログラム中のパラメータ値の設定を変えつつ、スピーカから出力される受話音質、すなわちノイズ除去後の音声信号の音質について使用者が望ましい、つまり好ましいと判断したときその旨を子機の入力部に入力するものであり、この使用者が望ましい(好ましい)と判断したときの入力は、本願補正発明でいう「第1のユーザ選択」に対応するものであるといえ、
本願補正発明と引用発明とは、「ユーザの好みの前記雑音抑圧オーディオ信号を示す第1のユーザ選択を受信するステップ」を有する点では共通するということができる。
ただし、引用発明は、本願補正発明のように「第1のプロンプトの提供に応答して」なされるものであることや、雑音抑圧オーディオ信号が「第1の雑音抑圧オーディオ信号」と「第2の雑音抑圧オーディオ信号」の2つであり、その2つから選択するといったことの特定がない点で相違している。

エ.引用発明における「受話音質が望ましいと使用者が入力した場合には、望ましいと判断した前記パラメータ値を前記ノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラムのパラメータ値として決定するステップと、を有し、上記ノイズ除去確認・設定処理(テストモード)が終了すると、通常の通話へと戻るようにした・・」によれば、
引用発明における、使用者が望ましい(好ましい)と判断したパラメータ値は、ノイズ除去部で用いられるノイズ除去プログラムのパラメータ値として決定され、その後の通常の通話(本願補正発明でいう「音声関連機能の使用時」)においても決定されたパラメータ値が用いられるものであるといえるから、この決定された「パラメータ値」が、本願補正発明でいう「第1のユーザ別雑音抑圧パラメータ」に相当し、
本願補正発明と引用発明とは、「前記ユーザの好みの前記雑音抑圧オーディオ信号を示す前記第1のユーザ選択に応じて、前記雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記電子デバイスの音声関連機能の使用時に雑音を抑圧するための第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップ」を有する点では共通するということができる。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「電子デバイスによって実行される方法であって、
ユーザ音声サンプルおよび少なくとも1つの周囲音を含むテストオーディオ信号を作成するステップと、
雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記雑音抑圧オーディオ信号をスピーカに出力するステップと、
ユーザの好みの前記雑音抑圧オーディオ信号を示す第1のユーザ選択を受信するステップと、
前記ユーザの好みの前記雑音抑圧オーディオ信号を示す前記第1のユーザ選択に応じて、前記雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記電子デバイスの音声関連機能の使用時に雑音を抑圧するための第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップと、
を有することを特徴とする方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
テストオーディオ信号に含まれる周囲音が、本願補正発明では、「疑似」である旨特定するのに対し、引用発明では、「疑似」ではない点。

[相違点2]
雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップから第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップまでの一連のステップにおいて、本願補正発明では、雑音抑圧パラメータが「第1の雑音抑圧パラメータ」と「第2の雑音抑圧パラメータ」であり、雑音抑圧オーディオ信号が「第1の雑音抑圧オーディオ信号」と「第2の雑音抑圧オーディオ信号」であって、この「第1の雑音抑圧オーディオ信号」と「第2の雑音抑圧オーディオ信号」とをそれぞれ取得、スピーカに出力するステップを有し、第1のユーザ選択はユーザの好みが「前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるか」を示すものであり、第1のユーザ別雑音抑圧パラメータは「前記第1の雑音抑圧パラメータ又は前記第2の雑音抑圧パラメータ」に少なくとも一部基づいて決定される旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点3]
本願補正発明では、「前記第1の雑音抑圧オーディオ信号と前記第2の雑音抑圧オーディオ信号とから選択するための第1のプロンプトを提供してユーザの好みを指示させるステップと」を有し、第1のユーザ選択の受信は「前記第1のプロンプトの提供に応答して」なされる旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例2には、移動電話などのオーディオ装置であって、信号成分(スピーチ信号)及び雑音成分(例えば背景雑音)を含むテストオーディオ信号をユーザに提供してユーザ嗜好フィードバックを受け取り、スピーチオーディオ信号を雑音抑制処理するためのユーザ嗜好を反映した個人化パラメータを決定するようにしたものにおいて、テストオーディオ信号に含まれる雑音成分(例えば背景雑音)を、予め記憶部に記憶しておくようにした技術事項が記載(上記(1-2)を参照)されており、引用発明においても、例えば事前にノイズ除去の確認・設定のテストを行えるようにするために、テストオーディオ信号に含まれる周囲音として予め記憶されたもの、すなわち「疑似」周囲音を用いるようにすることも当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]及び[相違点3]について
要するに、本願補正発明では、まず第1の雑音抑圧オーディオ信号と第2の雑音抑圧オーディオ信号の2つの雑音抑圧オーディオ信号を順次取得、出力し、次いでユーザは2つの雑音抑圧オーディオ信号のどちらが好みであるか選択し、その選択結果に応じて第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するようにしたものであるのに対し、引用発明では、1つの雑音抑圧オーディオ信号を出力する都度、ユーザが好ましいかどうかを入力(選択)し、好ましくないとユーザが入力(選択)した場合、パラメータ値の設定を再度行い、好ましいとユーザが入力(選択)するまで同じ手順を繰り返すことによって第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するようにしたものである点で相違するものであるといえるところ、
ユーザにとってより好ましいパラメータを決定するための手順として、まず異なるパラメータを適用した2つの信号を順次出力し、次いでユーザに好ましい方を選択させていくという手順は、例えば上記引用例2の12頁12?18行(上記「(1-2)キ.」を参照)、さらには特表平1-500631号公報の2頁右上欄10行?同頁左下欄9行(請求の範囲の第9項)、5頁左上欄21行?同頁右上欄20行などに記載のように周知といえるものであり、引用発明においても、1つの雑音抑圧オーディオ信号を出力する都度、ユーザに好ましいかどうかを入力(選択)させることに代えて、まず2つの雑音抑圧オーディオ信号を順次出力し、次いでユーザにどちらが好みであるか選択させるようにして、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
そしてその際、例えば上記引用例2に記載(上記(1-2)を参照)のように、2つのテストオーディオ信号をユーザに提供してユーザ嗜好フィードバックを受け取るためのユーザインタフェース機能として、2つの信号のうちどちらが好ましいかを選択するようにユーザにリクエストするテキストを出力するようにした技術事項(なお、「2つの信号のうちどちらが好ましいかを選択するようにユーザにリクエストするテキストを出力する」ことは、本願補正発明でいう「第1のプロンプトを提供する」ことに他ならない)を採用し、相違点3に係る構成とすることも当業者であれば適宜なし得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、また仮に、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると認められるとしても同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成27年7月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年7月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子デバイスによって実行される方法であって、
ユーザ音声サンプルおよび少なくとも1つの妨害刺激を含むテストオーディオ信号を決定するステップと、
第1の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第1の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第1の雑音抑圧オーディオ信号をスピーカに出力するステップと、
第2の雑音抑圧パラメータに少なくとも一部基づいて、前記テストオーディオ信号に雑音抑圧を適用して、第2の雑音抑圧オーディオ信号を取得するステップと、
前記第2の雑音抑圧オーディオ信号を前記スピーカに出力するステップと、
ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかの第1の指示を取得するステップと、
前記ユーザの好みが前記第1の雑音抑圧オーディオ信号であるか前記第2の雑音抑圧オーディオ信号であるかの前記第1の指示に応じて、前記第1の雑音抑圧パラメータ、もしくは前記第2の雑音抑圧パラメータ、またはこれらの組み合わせに少なくとも一部基づいて、前記電子デバイスの音声関連機能の使用時に雑音を抑圧するための第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップと、
を有することを特徴とする方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2-2.(1-1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2-2.」で検討した本願補正発明から、少なくとも本願補正発明の発明特定事項である「テストオーディオ信号を作成するステップ」について、テストオーディオ信号が含む「妨害刺激」を「疑似周囲音」であるとする限定を省き、さらに「前記第1の雑音抑圧オーディオ信号と前記第2の雑音抑圧オーディオ信号とから選択するための第1のプロンプトを提供してユーザの好みを指示させるステップと」を有することの限定を省き、同じく発明特定事項である「ユーザの好みを示す第1のユーザ選択を受信するステップ」について、「第1の指示を取得」することを「ユーザの好みを示す第1のユーザ選択を受信」することであるとする限定を省き、同じく発明特定事項である「第1のユーザ別雑音抑圧パラメータを決定するステップ」について、第1の雑音抑圧パラメータと第2の雑音抑圧パラメータの2つの選択肢に基づくことの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項(上記相違点1に係る構成や上記相違点3に係る構成など)を付加するとともに上記2つの選択肢を限定したものに相当する本願補正発明が前記「2-2.(3)」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から上記他の限定事項(上記相違点1に係る構成や上記相違点3に係る構成など)を省いたものである本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-09 
審決日 2016-05-20 
出願番号 特願2013-513202(P2013-513202)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G10L)
P 1 8・ 121- Z (G10L)
P 1 8・ 575- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間宮 嘉誉  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
酒井 朋広
発明の名称 音質改善のためのユーザ別の雑音抑圧  
代理人 木村 秀二  
代理人 下山 治  
代理人 高柳 司郎  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康弘  
代理人 大塚 康徳  

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