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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1320116
審判番号 不服2015-16868  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-14 
確定日 2016-10-03 
事件の表示 特願2013-236320「電力抑制依頼装置及び電力抑制依頼方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月18日出願公開、特開2015- 96023〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年11月14日を出願日とする出願であって、平成27年6月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年9月14日に審判請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成27年9月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年9月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、平成27年1月28日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】
電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された電力抑制目標値を送信する手段を備える電力抑制依頼装置であって、
前記手段は、前n(nは自然数)日から前m(mは自然数,n≧m)日までの前記電力抑制目標値算出対象時間帯における消費電力から一定のルールにより抽出した一以上の値の最小値/平均値/最大値のいずれかの値に対して±αの数値を加算した値を前記電力抑制目標値とすることを特徴とする電力抑制依頼装置。」(以下、「補正前の発明」という。)

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、以下のように補正された。
「【請求項1】
複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて、前記電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値を送信する手段を備える電力抑制依頼装置であって、
前記手段は、前n(nは自然数)日から前m(mは自然数,n≧m)日までの前記電力抑制目標値算出対象時間帯における消費電力から一定のルールにより抽出した一以上の値の最小値/平均値/最大値のいずれかの値に対して±αの数値を加算した値を前記電力抑制目標値とすることを特徴とする電力抑制依頼装置。」(以下、「補正後の発明」という。)

(2)新規事項:特許法第17条の2第3項に規定される要件について
本件補正後の請求項1に係る発明は、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて、前記電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値を送信する手段を備える」という特徴を有するものである。

そこで、本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等の段落【0024】には、「実施形態1、2においては、抽出したサンプルの平均値を電力抑制目標値としているが、これに限らず、平均値±αの値を電力抑制目標値とすることも可能である。すなわち、電力事業者1の電力需給の逼迫レベルから±αの値を導くことにより、より弾力的な運用を行うことができる。」と記載されている。
上記段落【0024】の記載における、「電力事業者1の電力需給の逼迫レベル」が、本件補正後の請求項1の「電力系統全体の需給状況」に相当するものとしても、上記段落【0024】の「抽出したサンプルの平均値」は、個々の需要家における「サンプルの平均値」であるから、電力事業者1の需給の逼迫レベルから±αの値を導くことは、電力系統全体の需給状況に応じて±αの値を導くことにはなるものの、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて」、「個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値」を「計算」することは、当初明細書等に記載されていない。
また、当初明細書等のすべての記載を総合しても、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて」、「個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値を計算する」ことが導かれるものではない。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明の、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて、前記電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値を送信する手段を備える」という記載事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。

本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)特許法第36条についての検討
本件補正後の請求項1には、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて、前記電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された個々の電力需要家ごとの電力抑制目標値を送信する手段を備える電力抑制依頼装置」と記載されており、電力抑制目標値の計算を、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて」行うものとして記載されている。
しかし、発明の詳細な説明の段落【0024】には、「実施形態1、2においては、抽出したサンプルの平均値を電力抑制目標値としているが、これに限らず、平均値±αの値を電力抑制目標値とすることも可能である。すなわち、電力事業者1の電力需給の逼迫レベルから±αの値を導くことにより、より弾力的な運用を行うことができる。」と記載されるのみであり、本件補正後の請求項1の「電力系統全体の需給状況」が、発明の詳細な説明の「電力事業者1の電力需給の逼迫レベル」に相当するとしても、特に、「複数の電力需要家」の消費電力実績値を取得することが、「個々の電力需要家ごと」の電力抑制目標値の計算にどのように用いられるのか、発明の詳細な説明に記載されておらず、また、請求項1の記載としても明確でない。
また、「複数の電力需要家の消費電力実績値を取得して、電力系統全体の需給状況に応じて」どのように、「個々の電力需要家ごと」の「電力抑制目標値」の計算を行うのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明である。
したがって、本件補正後の前記請求項1に係る発明は明確でなく、また、本件補正後の前記請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでなく、さらに、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正後の請求項1に係る発明を実施できる程度に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年1月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、「2.[理由I](1)の「補正前の発明」」に記載されたとおりのものと認める。

(2)引用発明
原審の拒絶理由で引用された、特開2013-230045号公報(以下、「引用例」という。)には「エネルギー管理装置、エネルギー管理システム、プログラム」として図面とともに以下の事項が記載されている。
(下線は当審において付与した。)
ア.「【0016】
以下の実施形態では、エネルギー管理システムが電力の需要家としての一般的な戸建て住宅に用いられている場合を例として説明するが、エネルギー管理システムは、戸建て住宅に限らず、たとえば集合住宅の個々の住戸、事務所、店舗等に用いられていてもよい。いずれにしても、使用電力量を削減することに意識を持つ需要家であれば、以下に説明するエネルギー管理システムを導入することにより使用電力量を制限することが可能である。
【0017】
需要家においては、図2に示すように、分電盤2が配置され、この分電盤2に、商用電源の電源系統3から電力を供給する電力線L1と、宅内の負荷機器(図示せず)に電力を供給する複数本の電力線L2とが接続されている。本実施形態のエネルギー管理システムは、分電盤2に付設され主幹回路の使用電力量を計測する計測装置4と、計測装置4で計測された電力量を計測値として取得するエネルギー管理装置1とを備えている。
【0018】
さらに、エネルギー管理装置1は、インターネットのような通信網NTを介して上位装置5と通信可能に構成されている。上位装置5は、たとえばコンピュータサーバであって、発送電を行う電力会社、あるいは電力会社に代わって電力管理を行うサービス事業者によって管理(運営)されている。上位装置5は、電力会社からの電力の供給状況などに応じて需要家でのある対象期間の使用電力量の削減を要求するための削減要求(デマンド)を、エネルギー管理装置1に通知する機能を有している。
【0019】
ここでいう削減要求は、対象期間における需要家での使用電力量について後述の基準値に対する削減目標を表しており、少なくとも電力削減の対象となる期間を表す対象期間と、具体的な削減率などの数値を表す削減目標とを含んでいる。電力会社から通知される削減要求としては、たとえば「○月○日?×月×日の平日、9時?21時の間、10%以上の節電にご協力をお願いいたします。」といった削減要求がある。この削減要求は、「○月○日?×月×日の平日、9時?21時の間」という対象期間において、「10%以上の節電」という削減目標が達成されることを要求している。」

イ.「【0027】
コントローラ11は、図1に示すように、需要家での使用電力量を制限するための処理を行う処理部110と、他装置と通信するための通信部111と、記憶部112と、現在日時を計時するリアルタイムクロック(RTC)113とを備えている。
【0028】
通信部111は、計測装置4との通信により計測装置4から計測値を取得する取得部としての通信インターフェイス部1111を有している。以下、「通信インターフェイス部」を「通信I/F」と略称する。さらに通信部111は、操作表示装置12と通信するための通信I/F1112と、通信網NTに接続され上位装置5と通信する通信I/F1113とを有している。ここで、エネルギー管理装置1は、対象期間における需要家での使用電力量の基準値に対する削減目標が、上位装置5から通信I/F1113を通して入力されるか、またはユーザによる操作表示装置12の操作に伴って通信I/F1112を通して入力される。したがって、削減目標は利用者の意思または電力会社などからの要請によって定められ、通信I/F1113または通信I/F1112が、削減目標の入力される目標入力部として機能する。
【0029】
また、通信部111は、分電盤2内の分岐ブレーカ21を遠隔制御するために分電盤2と通信を行う通信I/F1114と、負荷機器の制御および監視を行うために負荷機器と通信を行う通信I/F1115とを有している。
【0030】
ところで、記憶部112は、対象期間および削減目標を格納する目標格納部1121と、需要家での使用電力量の実績を記憶する実績記憶部1122と、削減目標の基準となる基準値を格納する基準値格納部1123とを有している。
【0031】
目標格納部1121は、図4に示すように、目標入力部としての通信I/F1113または通信I/F1112に、入力された対象期間(月日、時間帯を含む)および削減内容を記憶する。図示例では、目標格納部1121は、「7月1日」(開始日)から「9月30日」(終了日)の時間帯「9:00」(開始時刻)?「21:00」(終了時刻)を対象期間として、基準値に対する削減率10%を削減目標として記憶している。つまり、本実施形態では一例として、目標格納部1121は、対象期間(7月1日から9月30日の9:00から21:00の時間帯)において、需要家での使用電力量が、適宜に定めた基準値から10%以上削減されることを削減目標として格納している。
【0032】
実績記憶部1122は、図5に示すように主幹回路の積算電力(需要家の使用電力量)の実績値を、単位時間(たとえば1時間)毎に記憶する。つまり、実績記憶部1122には、取得部としての通信I/F1111が計測装置4から取得した計測値に基づいて、単位時間毎の使用電力量が記憶される。エネルギー管理装置1は、計測装置4からサンプリング時間(たとえば1分間)ごとの電力量を計測値として逐次取得するので、サンプリング時間間隔で取得した計測値を単位時間ごとに逐次加算することにより、この単位時間における使用電力量を求める。
【0033】
図5の例では、2011年7月25日の8時台(8:00?8:59)の単位時間(「2011.0725 08:00」と記載)の使用電力量(積算電力)として「1.25kWh」が実績記憶部1122に格納されている。また、図5の例においては、2011年7月25日の9時台の使用電力量は「1.15kWh」、同日10時台の使用電力量は「1.05kWh」である。さらに、2011年8月1日の10時台の使用電力量は「2.05kWh」、同日11時台の使用電力量は「2.05kWh」、同日12時台の使用電力量は「4.05kWh」である。
【0034】
ここで、処理部110はリアルタイムクロック113により計時される正時毎に、単位時間における電力量の実績値を時系列に沿って実績記憶部1122に書き込む。実績記憶部1122は、1年分の履歴を記憶する記憶容量を有している。なお、これらの時間の関係は一例に過ぎず、実績記憶部1122に履歴を書き込む時間間隔は1時間ではなく数時間などであってもよいし、実績記憶部1122に記憶される履歴は1年分でなく数年分などであってもよい。」

ウ.「【0035】
基準値格納部1123は、図6に示すように、削減目標の基準となる需要家での使用電力量を基準値として記憶する。図6の例では、「長期基準値」、「中期基準値」、「短期基準値」、「超短期基準値」の4種類の値が示されているが、この中で、目標格納部1121に格納されている削減目標の基準となるのは「長期基準値」のみである。以下では、単に「基準値」という場合、「長期基準値」を意味する。残りの「中期基準値」、「短期基準値」、「超短期基準値」は、後述する相対目標値としての削減目標の基準となる値である。図示例では、基準値(長期基準値)として「32」、中期基準値として「30.3」、短期基準値として「28.8」、超短期基準値として「36.0」が基準値格納部1123に記憶されている。
【0036】
基準値格納部1123に格納される基準値(長期基準値)は、原則として需要家における使用電力量の履歴(過去の実績値)から求められる。本実施形態においては、前年(2011年と仮定する)における対象期間(7月1日から9月30日の9:00から21:00の時間帯)と同月(7?9月)の実績値が基準となる。つまり、基準値は、対象期間の前年同月の実績値から求められ、たとえば実績値の平均値が基準値として求められる。これにより、削減目標(削減率10%)は、対象期間における需要家での使用電力量が、前年同月比で10%以上削減されることを意味することになる。
【0037】
本実施形態においては、基準値は、前年の7月1日から9月30日までの3ヶ月間を対象として、実績記憶部1122に記憶されている9:00?21:00の時間帯の実績値から求められた1日当たりの平均値からなる。要するに、図6に例示した基準値「32」は、2011年の7月1日から9月30日までの3ヶ月間において、9:00?21:00の時間帯の需要家での使用電力量を平均すると1日当たり32kWhになることを示している。ただし、基準値は、過去の実績値から求められる値に限らず、たとえば需要家の家族構成などに基づいて標準値として与えられる値であってもよい。
【0038】
ここで、コントローラ11は、マイコンのようにプログラムを実行することによって動作するデバイスを主構成としており、適宜のプログラムを実行することにより各部の機能を実現する。処理部110には、図1に示すように通信部111、記憶部112、リアルタイムクロック113が接続されている。
【0039】
本実施形態では処理部110は、対象期間の基準値に対する削減目標を絶対目標値として設定する目標設定部1101と、絶対目標値を後述する相対目標値に置き換える置換部1102と、絶対目標値および相対目標値を提示する提示部1103とを有している。
【0040】
目標設定部1101は、目標入力部(通信I/F1113または通信I/F1112)に入力された削減目標を、目標格納部1121に書き込むことによって、この削減目標を絶対目標値として設定する。つまり、絶対目標値は、対象期間における需要家での使用電力量について基準値に対する削減目標を表す値であって、ここでは、基準値である電力量に対する削減率からなる。絶対目標値は、目標入力部(通信I/F1113または通信I/F1112)に入力される削減目標そのものであるから、目標設定部1101にて一旦設定されると、次に新たな削減目標が入力されるまで変更されることはない。
【0041】
ここに、基準値格納部1123に格納された基準値(長期基準値)は、上述したように需要家における使用電力量の履歴(過去の実績値)から求められる値であるので、絶対目標値と基準値とから、対象期間の目標となる需要家の使用電力量が算出される。すなわち対象期間の目標となる使用電力量(以下、目標積算電力という)は、対象期間と前年同月(7?9月)の実績値の平均(基準値)から削減目標の表す削減率分を減じた電力量で表されることになる。」

エ.「【0053】
提示部1103は、上述のようにして絶対目標値が設定され、さらに絶対目標値から相対目標値への置換処理が行われると、絶対目標値および相対目標値のユーザへの提示を行う。提示部1103は、絶対目標値および相対目標値を、通信I/F1112を通して操作表示装置12に表示させ、あるいは通信I/F1115を通してテレビなどの負荷機器に表示または音声出力させることによって提示する。このとき、提示部1103は、絶対目標値や相対目標値だけでなく、電力削減の対象となる時間帯や目標積算電力などについても、まとめて提示する。」

上記ア.?エ.の記載及び図面を参照すると、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認める。

「需要家に使用電力量の削減を要求するための削減要求として、電力削減の対象となる月日、時間帯を含む対象期間と、対象期間における削減目標を削減率として通知する上位装置と、エネルギー管理装置とからなるシステムであって、
エネルギー管理装置は、対象期間と前年同月の需要家における使用電力量の過去の実績値の平均から、上位装置から通知される削減率分を減じて目標となる使用電力量を計算し、目標積算電力として提示を行うシステム。」

(3)対比判断
引用発明と本願発明とを対比する。
・引用発明の「需要家」は、本願発明の「電力需要家」に相当する。

・引用発明の「電力削減の対象となる月日、時間帯を含む対象期間」と、本願発明の「将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯」とは、「将来の時間帯である電力抑制対象の時間帯」である点において共通する。

・引用発明の「電力削減の対象となる月日、時間帯を含む対象期間と、対象期間における削減目標」を「通知する」ことと、本願発明の「将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された電力抑制目標値を送信する」こととは、「将来の時間帯である電力抑制対象の時間帯を指定して電力抑制目標を送信する」点において共通する。

・引用発明の「対象期間と前年同月の需要家における使用電力量の過去の実績値」は、電力削減の対象の時間帯に対応した、前年同月期間における需要家の使用電力量の実績値であり、前年同月期間の指定は前日数で指定する期間と同等の意味を有するから、本願発明の「前n(nは自然数)日から前m(mは自然数,n≧m)日までの前記電力抑制目標値算出対象時間帯における消費電力」と比較すると、「前n(nは自然数)日から前m(mは自然数,n≧m)日までの電力抑制対象の時間帯における消費電力」の点で共通する。

・引用発明の「使用電力量の過去の実績値の平均から」、「削減率分を減じて目標となる使用電力量」と、本願発明の「消費電力から一定のルールにより抽出した一以上の値の最小値/平均値/最大値のいずれかの値に対して±αの数値を加算した値」とは、「消費電力の値の平均値の値から算出される値」の点において共通する。

・引用発明の、「需要家に使用電力量の削減を要求するための削減要求として、電力削減の対象となる月日、時間帯を含む対象期間と、対象期間における削減目標を」、「通知する上位装置と、エネルギー管理装置とからなるシステム」と、本願発明の「電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された電力抑制目標値を送信する手段を備える電力抑制依頼装置」とは、「電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制対象の時間帯を指定して電力抑制目標を送信する手段」である点において共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
<一致点>
「電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制対象の時間帯を指定して電力抑制目標を送信する手段であって、
前n(nは自然数)日から前m(mは自然数,n≧m)日までの前記時間帯における消費電力の値の平均値の値から算出される値を電力抑制目標値とする手段を有する電力抑制依頼を行うシステム。」の点において一致し、以下の点において相違する。
<相違点>
<相違点1>
本願発明は、「電力需要家に対して将来の時間帯である電力抑制目標値算出対象時間帯を指定して計算された電力抑制目標値を送信する手段」としての「電力抑制依頼装置」であるのに対し、引用発明は、削減目標を削減率として通知する「上位装置」と、通知される削減率から目標となる使用電力量を計算する「エネルギー管理装置」とにより、需要家に電力抑制目標の提示を行うシステムである点。
<相違点2>
本願発明は「消費電力から一定のルールにより抽出した一以上の値の最小値/平均値/最大値のいずれかの値に対して±αの数値を加算した値を前記電力抑制目標値とする」のに対し、引用発明は、「使用電力量の過去の実績値の平均から削減率分を減じた、目標となる使用電力量を、目標積算電力とする」点。

(4)判断
相違点について検討する。
電力抑制の依頼は各電力需要家の電力を使用する者に対して、電力使用の抑制を依頼するものであるから、電力抑制を依頼する装置から送信された値は各需要家の装置で受信され、電力を使用する者に提示されるものといえる。
上記相違点1は、電力抑制目標を各電力需要家に送信する際の構成の相違ということができ、相違点2は、各電力需要家で提示される電力抑制目標の「値」の相違ということができる。
先ず、相違点2に関し、各電力需要家での目標値となる、電力抑制目標の「値」の相違に関する検討を行う。
本願発明において、電力抑制目標値の計算にあたり、消費電力から抽出される値は択一的に記載されているが、引用発明では、目標となる使用電力量の計算にあたり抽出される「使用電力量の過去の実績値の平均」は、本願発明の択一的な記載のうち、「消費電力から一定のルールにより抽出した一以上の値の平均値」に相当するものであるから、電力抑制目標値の計算にあたり、消費電力から抽出される値に関し差異はないものといえる。
また、本願発明において、抽出した値に対して±αの数値を加算した値は、抽出した値を基準に、αを正の数値とすれば、電力削減量である-αの数値を加算した値を含む一方、引用発明も、抽出した値である「使用電力量の過去の実績値の平均」から、電力削減量である「削減率分を減じた」値を求めている点において格別の差異を見いだすことはできない。
したがって、本願発明と引用発明とで、各電力需要家での目標値となる「計算された電力抑制目標」の「値」に関して格別の相違はなく、相違点2は、実質的な相違ではない。
そうすると、本願発明と引用発明とでは、相違点1に関する、各電力需要家に対応する電力抑制目標値を、電力抑制依頼を送信する装置で計算して各電力需要家に送信するか、各需要家ごとにそれぞれ対応する電力制御目標の計算を行うかの構成の点において実質的に相異するものということができるが、引用発明のごとく、上位装置から電力抑制の依頼を各需要家の装置であるエネルギー管理装置に通知し、各需要家の電力使用者に削減する電力量を提示するシステムにおいて、どの装置によって削減する電力量の計算を行うかは、適宜選択可能な設計的事項といえ、引用発明において、上位装置において計算を行うものとすることにより、この上位装置を、本願発明の「電力抑制依頼装置」のごとく構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の作用効果も引用発明から当業者が予測し得る範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-10 
結審通知日 2016-08-12 
審決日 2016-08-23 
出願番号 特願2013-236320(P2013-236320)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 537- Z (H02J)
P 1 8・ 561- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 矢島 伸一
前田 浩
発明の名称 電力抑制依頼装置及び電力抑制依頼方法  
代理人 渡部 比呂志  
代理人 豊田 義元  

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