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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1320134
審判番号 不服2015-7631  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-23 
確定日 2016-10-05 
事件の表示 特願2011-510553号「円錐状拡大チップ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日国際公開、WO2009/142904、平成23年 7月21日国内公表、特表2011-520555号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は2009年5月5日(パリ条約による優先権主張 2008年5月21日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月20日付けで拒絶理由が通知され、同年8月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月4日付けでさらに拒絶理由が通知され、同年7月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月18日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成27年4月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされ、その後、平成27年10月30日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成27年4月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は
「【請求項1】
患者の脈管系にアクセスするためのデバイスであって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されたカテーテルチップと、
を具え、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成されていることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記概ね円錐状の拡大チップはさらに、前記カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付けられていることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記カテーテルチップは、機械的に圧縮されて摺動可能に導入針の内部に収容されていることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記導入針は分割可能であることを特徴とする請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
脈管カテーテルの反跳力を低減するために、
血液に曝されたときに、前記カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを含む概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されたカテーテルチップを用意する方法であって、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成されている方法。
【請求項8】
前記概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付けられていることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記拡大チップは、機械的に圧縮されて摺動可能に導入針の内部に収容されていることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記導入針は分割可能であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
注入システム内の反跳力を低減するための装置であって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されているカテーテルチップと、
を具え、
前記概ね円錐状の拡大チップが小径端から大径の出口端まで外方に広がることで、注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成されていることを特徴とする装置。
【請求項13】
前記概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付けられていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記カテーテルチップは、分割可能な導入針の内部に機械的に圧縮されて摺動可能に収容されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。」から、
「【請求項1】
患者の脈管系にアクセスするためのデバイスであって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されたカテーテルチップと、
を具え、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成され、
前記形成された概ね円錐状の拡大チップは、前記カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを備え、内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いていることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記カテーテルチップは、機械的に圧縮されて摺動可能に導入針の内部に収容されていることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記導入針は分割可能であることを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
脈管カテーテルの反跳力を低減するために、
血液に曝されたときに、前記カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを含む概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されたカテーテルチップを用意する方法であって、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成され、
前記形成された概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いていることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記拡大チップは、機械的に圧縮されて摺動可能に導入針の内部に収容されていることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記導入針は分割可能であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
注入システム内の反跳力を低減するための装置であって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されているカテーテルチップと、
を具え、
前記概ね円錐状の拡大チップが小径端から大径の出口端まで外方に広がることで、注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成され、
前記形成された概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いていることを特徴とする装置。
【請求項10】
前記概ね円錐状の拡大チップは、0.5mm?0.75cmの範囲または3.2mmの最大出口直径、または5?20゜の範囲の広がり角を有することを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記カテーテルチップは、分割可能な導入針の内部に機械的に圧縮されて摺動可能に収容されていることを特徴とする請求項9に記載の装置。」(下線は、補正箇所を示す。)
と補正された。

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1を、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「概ね円錐状の拡大チップ」について、「カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを備え、内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いている」との限定事項を加えて補正し、補正前の請求項7を、請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項である「概ね円錐状の拡大チップ」について、「概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いている」との限定事項を加えて補正して新たな請求項5とし、補正前の請求項12を、請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「概ね円錐状の拡大チップ」について、「概ね円錐状の拡大チップの内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いている」との限定事項を加えて補正して新たな請求項9とし、補正前の請求項2、請求項3、請求項8及び請求項13を削除し、補正前の請求項4ないし6、請求項9ないし11、請求項14、請求項15を、それぞれ、新たな請求項2ないし4、請求項6ないし8、請求項10、請求項11に補正して、補正された新たな請求項と整合させたものであって、これらの補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮、同条同項第1号の請求項の削除、同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献である、登録実用新案第3018993号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】所定の内径の流通路を有する管状の本体部材と、
形状記憶部材により流通路を有するように構成され、前記本体部材の先端部に連結されてカテ-テルの先端部を実質的に構成する先端部材と、からなり、前記先端部材は、所定温度以上の温度において、前記本体部材の内径より拡大された内径を有する所定形状となるように形状記憶されている、ことを特徴とするカテ-テル。
・・・
【請求項9】請求項1または請求項2において、
前記所定形状が、先端に向かうにつれて、内径および外径共に徐々に拡径するラッパ状となるように設定されている、ことを特徴とするカテ-テル。
・・・」(【実用新案登録請求の範囲】)

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、心臓手術等の際に血管内に挿入されて用いられるカテ-テルに関するものである。」(段落【0001】)

ウ 「【0005】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、カテ-テルの径を小さくすると、カテ-テルから供給される液体例えば造影剤の供給速度つまり噴出速度が早くなり過ぎて、次のような問題を生じ易いものとなる。すなわち、カテ-テルからの噴出速度が血流よりも早くなって、造影効果の点で好ましくないものになる。また、噴出速度が早くなることによる反動によって、カテ-テルの先端位置が所定位置からずれ易くなり、造影剤を所定位置に確実に到達させるという点で好ましくないものとなる。勿論、造影剤を再度供給し直すということは、造影剤が無駄に消費される等の観点からも好ましくないものとなる。
【0006】
本考案は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、シ-スの径を大きくすることなく、カテ-テルからの各種液体の噴出速度が早くなり過ぎるのを防止できるようにしたカテ-テルを提供することにある。」(段落【0005】?【0006】)

エ 「【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本考案はその第1の構成として次のようにしてある。すなわち、
所定の内径の流通路を有する管状の本体部材と、
形状記憶部材により流通路を有するように構成され、前記本体部材の先端部に連結されてカテ-テルの先端部を実質的に構成する先端部材と、
からなり、前記先端部材は、所定温度以上の温度において、前記本体部材の内径より拡大された内径を有する所定形状となるように形状記憶されている、
ような構成としてある。・・・」(段落【0007】)

オ 「【0010】
【考案の効果】
請求項1に記載された考案によれば、先端部材は本体部材の径と同程度に縮径させた状態でシ-スを通過させればよいので、用いるシ-スの径は本体部材に対応した小さいものですむことになる。また、カテ-テルが血管内に挿入された状態、つまり先端部材が所定温度以上の温度雰囲気となる状態では、当該先端部材が大きな内径を有する所定形状(記憶形状)に形状復帰されるので、カテ-テルからの造影剤等の液体の噴出速度を、本体部材の内径の大きさのまま噴出させた場合に比して小さくすることができる。」(段落【0010】)

カ 「【0026】
本考案の第1実施例を示す図1において、カテ-テルKは、本体部材1と先端部材11とを有する。本体部材1は、実質的に従来のカテ-テルと同じように構成されていて、所定の内径および外径を有する長尺(数10cm)とされて、内部に流通路2を有する断面円環状の管状とされている。この本体部材1は、図示を略す基端部側に所定の接続部が形成されており、この接続部を介して、造影剤や血液、薬液等が本体部材1内へ供給されるようになっている。勿論、本体部材1は、従来同様、例えばウレタン、ナイロンあるいはシリコンによって構成することができる。
・・・
【0028】
先端部材11は、本体部材1の先端部に連結されて、本体部材1の先端部つまりカテ-テルKの先端部を実質的に構成している。すなわち、先端部材11は、流通路12を有する断面円環状に形成されて、この流通路12が、本体部材1の流通路2に連通されている。この先端部材11は、先端に向うにつれて徐々に拡径するようにラッパ状に形成されている。
【0029】
先端部材11の基端部側の内径および外径は、本体部材1の内径および外径と同一とされて、両部材1と11との連結部分の内面および外面はそれぞれ面一とされて、当該連結部分に段差の無いようにされている(本体部材1の肉厚と先端部材11の肉厚とは同一とされている)。先端部材1の先端部の内径および外径は、本体部材1の内径および外径よりも十分大きくなっているが、先端部材11の最大内径つまり先端内径L11は、本体部材1の内径L1に比して50%以上大きくなるように設定されている。
【0030】
前述のような先端部材11は、例えばシリコンゴム等の弾性部材により構成されて、図2に示すように縮径方向の外力Fを受けたときに、容易に縮径し得るようにされている(少なくとも本体部材1の径寸法まで縮径可能)。そして、上記外力Fが作用しない状態において、先端部材11は図1に示すようにラッパ状の形状を保持するようになっている。」(段落【0026】?【0030】)

キ 「【0032】
以上のような構成において、カテ-テルKを患者の血管内へ挿入するには、あらかじめ、シ-ス21(図2参照)が血管内に挿入されて、シ-ス21の基端部が体外に位置される。なお、シ-ス21は、その内径が、本体部材1の外径よりもわずかに大きい程度のものが用いられる。カテ-テルKは、先端部材11を図2に示すように縮径させつつ、当該先端部材11側からシ-ス21内に挿入されていく。本体部材1と先端部材11との連結部分外周面が面一つまり段差がないことにより、シ-ス21への挿通がスム-ズに行われる。先端部材11がシ-ス21を通過して血管内に位置されると、弾性復帰によって、先端部材11は図1に示すようにラッパ状に形状復帰される。
【0033】
先端部材11が、血管内の所定位置にまで達した状態で、カテ-テルK内に造影剤等の供給が行われて、供給された造影剤等が先端部材11から噴出される。この造影剤等の供給の際、造影剤等は、本体部材1内を早い速度で通過しても、内径の大きくなった先端部材11を通過するときに十分減速されて、当該先端部材11からの噴出速度は十分小さいものとされる。
【0034】
ここで、先端部材11の最大内径L11を、本体部材1の内径L1よりも50%大きくしたときを考える。このとき、最大外径L11部分での開口面積は、本体部材1の内径L1に相当する開口面積の2.25倍となるので、先端部材11から噴出される造影剤等の噴出速度は、本体部材1を流れるときの速度の『1/2.25』にまで十分減速されたものとなる。
【0035】
一方、造影剤等の噴出によりカテ-テルKの位置ずれ等を生じさせる反動の大きさは、先端部材11からの噴出速度の2乗に比例、つまり開口面積の2乗に反比例することになる。つまり、上記反動の大きさは、本体部材1から直接造影剤等を噴出させた場合に比して、約『1/5』まで小さくされることになる。
【0036】
なお、先端部材11の長さは、十分に流速を減速することができる範囲で適宜設定すればよいが、造影剤等の粘度の大きい液体(粉体)の場合は、かなり短いものであっても十分な減速を行うことができる。」(段落【0032】?【0036】)

ク 「【0048】
以上実施例について説明したが、本考案はこれに限らず、例えば次のような場合をも含むものである。
【0049】
(1)先端部材11、11Bは、弾性部材で形成する代わりに、形状記憶材質(形状記憶合金や形状記憶プラスチック)でもって形成して、所定温度以上の温度雰囲気では、図1あるいは図3に示すような内径が拡大された状態に形状復帰するように構成することもできる。この場合、上記所定温度としては、少なくとも人体の最低温度である略36度Cとすることができ、余裕をもって血管内で確実に内径拡大状態に形状復帰するように、36度Cよりも若干低い温度(例えば30度C)に設定することもできる。」(段落【0048】?【0049】)

ケ 【図1】の断面図、及び、一般にカテーテルは断面円形であることが技術常識であることに鑑みると、外力が作用しないときに、先端部材11は概ね円錐状である拡大チップを形成することは明らかである

コ 上記カの記載、及び、【図1】から、「外力が作用しないときに、先端部材11が形成する拡大チップは、本体部材1の端部に取り付けられる基端部と、大径の先端部とを備え、内面には、基端部から大径の先端部までテーパが付いている」と認められる。

上記記載事項ア?ク及び上記認定事項ケ、コ、並びに、図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「患者の血管内に挿入されて用いられるカテーテルであって、
カテーテルの本体部材1と、
本体部材1の端部に取り付けられた、外力が作用しないときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう弾性部材で形成された先端部材11と、
を具え、
造影剤等の液体が概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、造影剤等の液体を減速させ、且つこれによりカテーテルの位置ずれ等を生じさせる反動を小さくするように、先端部材11が構成され、
概ね円錐状の拡大チップは、本体部材11の端部に取り付けられる基端部と、大径の先端部とを備え、内面には、基端部から大径の出口端までテーパが付いているカテーテル。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献である、特開2005-58464号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
1又は2以上のチューブ状の本体部と、該本体部の一方の端部に略同軸に延長形成されたソフトチップとを備え、該ソフトチップは吸水膨潤性樹脂からなることを特徴とするカテーテル。」(【特許請求の範囲】 【請求項1】)

イ 「【0001】
この発明は、血管内への挿入が容易であり、血管が拍動で動いたり、血管内でカテーテルを移動させたりしても、カテーテルの先端部が血管内膜を損傷等させるおそれが少ないカテーテルに関するものである。」(段落【0001】)

ウ 「【0013】
この発明に係るカテーテルは、1又は2以上のチューブ状の本体部と、該本体部の一方の端部に略同軸に延長形成されたソフトチップとを備え、該ソフトチップは吸水膨潤性樹脂からなる。」(段落【0013】)

エ 「【0022】
この発明に係るカテーテルは、血管内へ挿入させた後、先端のソフトチップが血液中の水分で膨潤して大きくなり、この膨潤に伴ってソフトチップの開口部が広がり、血液の流通が良好になるので、挿入時は先端を細くして血管内に挿入し易くすることができ、挿入後は開口部が広がり、血液の流通が良好になるという効果がある。」(段落【0022】)

オ 「【0028】
これらの図に示すように、カテーテル10は、1又は2以上の筒状の本体部12と、本体部12の一方の端部(先端部)に略同軸に延長形成されたソフトチップ14とからなる。ここで、本体部12は疎水性樹脂からなり、ソフトチップ14は体液中の水分を吸収して膨潤する吸水膨潤性樹脂からなる。」(段落【0028】)

カ 「【0045】
また、このカテーテル10は先端部が血液中の水分を吸収して膨潤することにより大きくなり、先端部の開口の内径も膨潤に伴って大きくなる。このため、血流の隘路になっていた先端部の開口を通る血流が増加し、ひいては開口が血栓やフィブリンスリーブ等により閉塞する問題がなくなる。」(段落【0045】)

上記記載事項、及び、【図1】から、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「チューブ状の本体部と、本体部の一方の端部に略同軸に延長形成されたソフトチップとを備え、該ソフトチップは吸水膨潤性樹脂からなる、血管に挿入される、カテーテルであって、カテーテルが血管内へ挿入された後、先端のソフトチップが血液中の水分で膨潤して大きくなり、この膨潤に伴ってソフトチップの開口部が広がるカテーテル。」

3-2 対比・判断
補正発明と引用発明とを対比すると、その構成及び機能からみて、後者の「患者の血管内に挿入されて用いられるカテーテル」は前者の「患者の脈管系にアクセスするためのデバイス」に相当する。以下同様に、後者の「カテーテルの本体部材1」は前者の「カテーテル」に、後者の「先端部材11」は前者の「カテーテルチップ」に、後者の「造影剤等の液体」は前者の「注入物」に、後者の「本体部材11の端部に取り付けられる基端部」は前者の「カテーテルの端部に取り付けられる小径端」に、後者の「大径の先端部」は前者の「大径の出口端」に、それぞれ相当する。

また、後者の「造影剤等の液体を減速させ」とは、造影剤等の液体を減速前の速度から減速後の速度に減速することに他ならず、前者の「注入物を第1速度から第2速度に減速させ」に相当する。
さらに、後者の「カテーテルの位置ずれ等を生じさせる反動を小さくする」とは、先端部材11に作用する造影剤等の液体の噴出力に起因する反動を小さくすることを意味するから、前者の「カテーテルの反跳力を低減する」に相当することは明らかである。
してみると、両者は、
「患者の脈管系にアクセスするためのデバイスであって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、概ね円錐状の拡大チップを形成するよう構成されたカテーテルチップと、
を具え、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成され、
前記形成された概ね円錐状の拡大チップは、前記カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを備え、内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いているデバイス。」である点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点)
補正発明は、カテーテルチップが、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されているのに対し、引用発明は、先端部材11が、外力が作用しないときに概ね円錐状の先端部材11を形成するよう弾性材料で形成されている点。

以下、上記相違点について検討する。
引用発明の先端部材11は、外力が作用しないときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう弾性部材で形成されたものであるが、引用文献1には、段落【0049】(上記3-1(1)ク参照。)に、「先端部材11、11Bは、弾性部材で形成する代わりに、形状記憶材質(形状記憶合金や形状記憶プラスチック)でもって形成して、所定温度以上の温度雰囲気では、図1あるいは図3に示すような内径が拡大された状態に形状復帰するように構成することもできる。」と記載され、先端部材に作用する外力とは無関係に、挿入された血液の雰囲気中で拡大された状態に形状復帰することが示唆されている。
一方、引用発明と同一の技術分野であるカテーテルに関する発明である引用発明2は、やはり血液に挿入された後にその先端部の形状を変形させる技術として、カテーテルの端部のソフトチップが吸水膨潤性樹脂からなり、血管に挿入された後、先端のソフトチップが血液中の水分で膨潤して大きくなり、この膨潤に伴ってソフトチップの開口部が広がるものである。
そして、引用発明も引用発明2も血管に挿入されるカテーテルであって、その先端部を血管挿入後に拡大させるものであること、引用文献1の段落【0049】には、引用発明の先端部材11を、弾性部材で形成する代わりに、形状記憶材質で構成することも記載されていることに鑑みれば、引用文献2に接した当業者であれば、引用発明の構成において、その先端部材11を、血管挿入後に血液中の雰囲気で変形する材料で構成することが段落【0049】に示唆されているのだから、その他の選択肢として引用発明2の吸水膨潤樹脂を採用して構成しようとする程度のことは、容易に想到し得るというべきである。
また、上記相違点に基づく補正発明の効果も、引用発明及び引用文献1に記載された事項、並びに、引用発明2から当業者が予測し得る程度のことにすぎない。

請求人は、平成27年10月30日付け上申書において、「引用文献1は、機械的に縮径状態に圧縮可能なシリコーンゴム製のカテーテルチップを開示しております。引用文献1は血液に曝されたときに膨潤する材料でカテーテルチップを形成することについては何ら示唆しておらず、むしろ、吸水性が低い材料であるシリコーンゴムを用いてカテーテルチップを形成することのみが記載されております。引用文献1に開示されたカテーテルチップは、使用に先立って機械的に圧縮され、使用時すなわち血管内に位置づけられたときに機械的な圧縮力が解除されることで復元するものであり、従って、カテーテルチップは、本来的に同文献の図1等に示されるような、非圧縮状態の拡径形状に作製されるべきものであることは当然であります。つまり、引用文献1に開示されたカテーテルチップは、それ自体が使用時の形状として製造が完結している(製品となっている)べきものです。
これに対し、引用文献2は、吸水膨潤性樹脂する材料で形成されたソフトチップを有するカテーテルを開示しております。このような吸水膨潤性樹脂で何らかの製品を製造する場合、吸水によって膨潤した状態で樹脂の成形を行うことはまずあり得ず、吸水前すなわち乾燥状態で成形が行われるものであります。つまり、引用文献2のソフトチップないしカテーテルは、非使用時すなわち膨潤する前の縮径時の形状を有するものとして作製されるべきものです。
してみれば、非吸水性のシリコーンゴム製のカテーテルを開示する引用文献1を知った当業者は、吸水膨潤性樹脂製のソフトチップを有するカテーテルを開示する引用文献2のような慣用技術を考慮する動機付けとなるものはなく、「慣用技術を引用発明に適用し、血液に曝されたときに膨潤する材料で構成するように改変することは当業者にとって容易である」とする特徴事項1に関する審査官殿の御判断は、本願発明を知った上での後知恵であると考えられ、承服することはできません。また、特徴事項2につきましても、形状の類似は引用文献1に示唆されるとしても、そもそも特徴事項1を基本とした上で採用された構成であります。」と主張し、引用文献1のシリコーンゴム製のカテーテルチップに引用文献2の吸水膨潤性樹脂で形成されたソフトチップの技術の適用の容易性を否定している。
しかしながら、引用文献1には、上述したように、弾性部材で形成された先端部材11を、血液中の雰囲気内で拡張変形する形状記憶材料で構成することが示唆されており、引用発明2の吸水膨潤性樹脂材料で形成されたソフトチップも血液中において吸水膨張することで拡張し、その開口が広がるものであるから、血液中で拡張することが求められる引用発明の先端部材を、引用発明2の吸水膨潤性樹脂材料で形成する程度のことは当業者であれば容易に想到し得ることは上述のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

したがって、補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項、並びに、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1(平成26年7月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「患者の脈管系にアクセスするためのデバイスであって、
カテーテルと、
該カテーテルの端部に取り付けられた、血液に曝されたときに概ね円錐状の拡大チップを形成するよう膨潤する材料で構成されたカテーテルチップと、
を具え、
注入物が前記概ね円錐状の拡大チップを通過するときに、前記注入物を第1速度から第2速度に減速させ、且つこれにより前記カテーテルの反跳力を低減する前記概ね円錐状の拡大チップを形成するように、前記カテーテルチップが構成されていることを特徴とするデバイス。」

第4 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び引用文献2の記載事項、並びに、引用発明及び引用発明2は、上記第2 3-1に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願発明は、補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「概ね円錐状の拡大チップ」について、「カテーテルの端部に取り付けられる小径端と、大径の出口端とを備え、内面には、前記小径端から前記大径の出口端までテーパが付いている」との限定事項を省いて拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項をさらに限定したものに相当する補正発明が上記したとおり、引用発明及び引用文献1に記載した事項、並びに、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載した事項、並びに、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-10 
審決日 2016-05-23 
出願番号 特願2011-510553(P2011-510553)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 一浩金丸 治之  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 宮下 浩次
山口 直
発明の名称 円錐状拡大チップ  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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