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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1320151
審判番号 不服2014-19863  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-02 
確定日 2016-10-05 
事件の表示 特願2009-552686「非撹拌エステル化反応器を用いるポリエステル製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月12日国際公開、WO2008/108928、平成22年 6月10日国内公表、特表2010-520357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、国際出願日である平成20年2月21日(パリ条約による優先権主張 2007年3月8日 アメリカ合衆国(US))にされたとみなされる特許出願であって、平成25年8月5日付けで拒絶理由が通知され、平成25年11月13日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成26年5月29日付け(発送日:平成26年6月3日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年10月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年10月31日付けで同法164条3項所定の報告がされ、平成27年1月30日に上申書が提出されたものである。

第2 平成26年10月2日付けの手続補正について
平成26年10月2日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であって、本件補正により補正される前の特許請求の範囲の請求項17ないし19を削除する補正である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件に違反するものではない。
よって、本件補正は、適法にされたものである。

第3 本願発明の認定
本願の請求項1ないし16に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「(a)縦長エステル化反応器中で反応媒体をエステル化に供し(ここで前記エステル化反応器は流体入口と、反応媒体を前記エステル化反応器から排出する液体出口及び蒸気エステル化副生成物を前記エステル化反応器から排出する蒸気出口を含む少なくとも2つの別々の出口を有する単一容器を規定し;前記蒸気出口は同じ容器上で前記液体出口よりも高い位置に位置されており、そして前記流体入口は液体出口より低い位置に位置されており;前記エステル化反応器は前記エステル化反応器内の前記反応媒体に熱を供給する);そして
(b)前記エステル化反応器中の前記反応媒体を機械的に撹拌しないか、或いは機械的に撹拌する場合には、反応媒体への前記撹拌の50%未満を機械的撹拌によって行うことを含んでなる方法。」

第4 当審の判断
1 刊行物
刊行物A:特開平10-316747号公報(平成25年8月5日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献1)

2 刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である刊行物Aには、以下の事項が記載されている。(なお、下線については当審において付与した。)

ア 「芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類とを反応させて、平均重合度3から7以下のオリゴエステルまたはポリエステルを製造する第1反応器、該成生物を重縮合させて、平均重合度20から40の低重合物を製造する第2反応器、該低重合物をさらに重縮合させ、平均重合度90から180まで重縮合させ高分子量ポリエステルを製造する第3反応器とを用いてポリエステルを製造する方法において、第1反応器と第2反応器のうち少なくとも一つ以上の反応器は外部動力源による撹拌機能を持たない反応器であることを特徴とするポリエステルの連続製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

イ 「【従来の技術】従来、ポリエチレンテレフタレ-ト等の重縮合系高分子の製造方法としては・・・。従来のポリエステル製造工程では反応槽の数が4から6缶あり、それぞれの反応槽には撹拌翼とその動力源が装備され、また副反応物を分離除去するための蒸留塔やコンデンサーが設置されている。さらに重合工程は減圧雰囲気で運転されるために真空手段はべつの装置によって操作しなければならず、製造装置の運転には高額の維持費と装置経費を必要としている。
【発明が解決しようとする課題】本発明の問題は高分子量ポリエステルの生産のための公知の方法を改善したものであり、装置全体の効率を向上し、工場設備のエネルギー節約により経済的に操作するものである。
本発明の目的は、上記従来技術を改善し、必要最小限の反応器構成により、最少のエネルギーで品質の良い重合物を効率良く反応させる連続重縮合装置及び連続重縮合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】上記目的は、エステル化工程、前重合工程、最終重合工程をそれぞれ一槽とし、撹拌動力を必要とする槽は最終重合工程のみとすることによって達成される。」(段落【0002】?【0005】)

ウ 「図1に本発明の一実施例を示す。図1は本発明をポリエチレンテレフタレートの連続製造プロセスの装置講成図である。・・・以上のように調整された原料はエステル化反応槽3へ原料を供給する供給ライン2を経由して行く。エステル化反応槽(第1反応器)3の外周部には処理液を反応温度に保つためにジャケット構造(図示せず)になっており液の内部には液の加熱手段として多缶式熱交換機4が設置され外部からの熱源により処理液を加熱し、自然循環により内部の液を循環しながら反応を進行させる。ここで最も望ましい反応器の型はエステル化反応を自己の反応により生成する副反応物の蒸発作用を利用して反応器内の処理液を自然循環させるカランドリア型が望ましい。この形の反応器は外部の撹拌動力源を必要としないため装置構成が単純でしかも撹拌軸の軸封装置も不要となり反応器の制作コストが安価となる利点がある。このような反応器の一例として特願平8-249769に示す様な装置が望ましい。しかし、本発明においてこの装置を限定するものではなくプロセス上の理由から撹拌翼を持った反応器を使用しても差し支えない。第1反応器において、反応により生成する水は水蒸気となり、気化したEG蒸気と気相部5を形成する。このときの推奨すべき反応条件としては温度は240度から280度で加圧条件が望ましい。気相部5のガスはその上流側に設けられた精留塔(図示せず)により水とEGとに分離され、水は系外に除去され、EGは再び系内に戻される。本発明の利点としてエステル化工程を一つの反応器で処理することにより精留塔の数を一つにすることが可能となり、精留塔の制作経費だけでなく配管やバルブの数制御装置の数などを削減でき大幅な装置コストの低減となる。エステル化反応槽3で所定の反応時間経過した処理液は所定のエステル化率に到達し、連絡管6により初期重合槽(第2反応器)7に供給される。・・・」(段落【0006】)

エ 「以上の装置構成においてポリエチレンテレフタレートを製造すると従来の装置構成と比較して、反応器の数が減少しているために装置の経費が節約出来るのと装置数の減少に伴い装置に付随する蒸留塔やコンデンサーを減少させ、それらを連結する配管や計装部品やバルブ類を大幅に節約できると共に真空源や熱媒装置等のユーティリチィ関係費が大幅に低下するのでランニングコストが安くなる利点がある。
【発明の効果】本発明によれば、ポリエステルの連続製造設備をエステル化工程、前重合工程、最終重合工程の3つの反応器とすることにより、装置全体の効率を向上し、工場設備のエネルギー節約により経済的に操作するものである。」(段落【0007】?【0008】)

オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すポリエチレンテレフタレートの連続製造プロセスの装置構成図である。
【符号の説明】
1…原料調整槽、2…原料供給ライン、3…エステル化反応槽、4…熱交換器、5…気相部、6…連絡管、7…初期重合槽、8…熱交換器、9…気相部、10…連絡管、11…最終重合機、12…撹拌翼、13…ポリマー、14…撹拌動力源。」(図面の簡単な説明及び符号の説明)

カ 「図1

」(図1)

3 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、上記2のア?カの記載から、
「ポリエステルの連続製造方法において、エステル化工程、前重合工程、最終重合工程をそれぞれ一槽とし、攪拌動力を必要とする槽は最終重合工程のみとし、調整された原料はエステル化反応槽3へ原料を供給する供給ライン2を経由し、気相部5のガスはその上流側に設けられた精留塔(図示せず)により水とEGとに分離され、エステル化反応槽で所定の反応時間を経過した処理液は所定のエステル化率に到達し、連絡管6により初期重合槽(第2反応器)7に供給され、エステル化反応槽(第1反応器)3の外周部には処理液を反応温度に保つためにジャケット構造(図示せず)になっており液の内部には液の加熱手段として多缶式熱交換機が設置され外部からの熱源により処理液を加熱し、自然循環により内部の液を循環しながら反応を進行させる、製造方法。」が記載されており、当該製造方法におけるエステル化反応器における反応は、エステル化であることは明らかであるから、「エステル化反応槽でのエステル化に関し、調整された原料が供給ライン2からエステル化反応槽へ供給され、気相部のガスは、精留塔により水とエチレングリコール(EG)とに分離されるものであり、エステル化反応槽で所定の反応時間を経過した処理液は連絡管6により初期重合槽に供給され、エステル化反応槽の外周部は処理液を反応温度に保つためにジャケット構造になっており液の内部には液の加熱手段として多缶式熱交換機が設置され、外部からの熱源により処理液を加熱し、自然循環により内部の液を循環しながら反応を進行させるものである、方法。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「エステル化反応槽」、「調整された原料」は、それぞれ、本願発明の「エステル化反応器」、「反応媒体」に相当する。
引用発明のエステル化反応槽には、原料が供給ライン2から供給され、処理液が連絡管6により初期重合槽へ排出されているから、流体入口及び液体出口が存在することは明らかである。また、引用発明は「気相部のガスは、精留塔により水とエチレングリコール(EG)とに分離されるもの」であって、図1も併せみれば、引用発明においても上部のガス部分に蒸気出口を有しているといえ、当該蒸気出口は同じ容器上で液体出口よりも高い位置となっていることは明らかである。よって、引用発明のエステル化反応槽も少なくとも2つの別々の出口を有する単一の容器といえる。
さらに、引用発明は「エステル化反応槽の外周部は処理液を反応温度に保つためにジャケット構造になっており液の内部には液の加熱手段として多缶式熱交換機が設置され」ているから、エステル化反応器内の反応媒体に熱を供給するものであるといえる。
加えて、引用発明のエステル化反応槽には機械的な攪拌手段は設けられていない。
そうすると、両者は、

「(a)エステル化反応器中で反応媒体をエステル化に供し(ここで前記エステル化反応器は流体入口と、反応媒体を前記エステル化反応器から排出する液体出口及び蒸気エステル化副生成物を前記エステル化反応器から排出する蒸気出口を含む少なくとも2つの別々の出口を有する単一容器を規定し;前記蒸気出口は同じ容器上で前記液体出口よりも高い位置に位置されており;前記エステル化反応器は前記エステル化反応器内の前記反応媒体に熱を供給する);そして
(b)前記エステル化反応器中の前記反応媒体を機械的に撹拌しないか、或いは機械的に撹拌する場合には、反応媒体への前記撹拌の50%未満を機械的撹拌によって行うことを含んでなる方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
エステル化反応器に関し、本願発明は「縦長」と特定するのに対して、引用発明においては、この点について特定しない点。

<相違点2>
本願発明は、「前記流体入口は液体出口より低い位置に位置されており」と特定するのに対して、引用発明においては、この点について特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
本願明細書において、「縦長」及び「エステル化反応器」に関する記載を摘記すると、以下のとおりである。
「本発明は、溶融相ポリエステルの製造システムに関する。別の態様において、本発明は、機械的撹拌をほとんど又は全く必要としない縦長のエステル化反応器を利用するエステル化システムに関する。」(段落【0001】)
「本発明の一実施態様において、(a)縦長エステル化反応器中で反応媒体をエステル化に供し;そして(b)任意的に、前記反応媒体を前記エステル化反応器中で撹拌することを含んでなり、前記撹拌の約50%未満を機械的撹拌によって行う方法が提供される。」(段落【0006】)
「ここで第2段階エステル化反応器50の具体的構成に目を向ける。図2に示される実施態様において、第2段階エステル化反応器50は最大直径(D)及び約1.15:1?約10:1又は約1.25:1?約8:1又は1.4:1?6:1の範囲の高さ対直径(H:D)比を有する実質的に円筒形の縦長非撹拌容器である。」(段落【0051】)
上記記載及び図2に照らせば、本願発明のエステル化反応器における「縦長」とは、高さ対直径(H:D)比が1.15:1?10:1程度のものを包含するものと解される。
一方、引用発明のエステル化反応槽も、刊行物Aの【図1】(上記2のカ)から、高さ対直径比が優に1.15:1?10:1にあると解されるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が適宜行い得る設計事項であるから、上記相違点1は、当業者において想到容易といえる。

相違点2について
引用発明は、エステル化反応器の具体的な形状・構造(下部の形状、流体入口と液体出口の平面位置、加熱配管位置等)が特定されていないところ(本願発明においても同様に特定されていない)、下部の形状、流体入口と液体出口の平面位置、加熱配管位置として、当業者は種々の組合せを採用できるから、エステル化反応槽において液体出口を、流体入口より低い位置、高い位置、同じ位置のいずれかを選択することは、当該具体的に採用した形状・構造等に応じて、当業者が適宜行い得る設計事項である。
そうすると、上記相違点2は、当業者において想到容易といえる。

以下、その効果について検討する。
本願明細書において、液体出口を流体入口より高い位置に設けることに関し、以下の記載がある。
「ここで第2段階エステル化反応器50の具体的構成に目を向ける。図2に示される実施態様において、第2段階エステル化反応器50は最大直径(D)及び約1.15:1?約10:1又は約1.25:1?約8:1又は1.4:1?6:1の範囲の高さ対直径(H:D)比を有する実質的に円筒形の縦長非撹拌容器である。第2段階エステル化反応器50は、下方端壁54、実質的に円筒形の側壁56及び上方端壁58を含むことができ、それらは、それぞれ、流体入口48、少なくとも1つの液体出口52及び蒸気出口60を規定している。一実施態様において、円筒形側壁56は、図2に上部液体出口、中間部液体出口及び下部液体出口52a、52b、52cとして示された、複数の垂直方向に離間された液体出口を含むことができる。流体入口48、液体出口52a?c及び蒸気出口60は、先行技術のCSTRに比較して、第2段階エステル化反応器50を通って流れる媒体の転化率を最大にするように、互いに離間させることができる。例えば流体入口48は、液体出口52a?cより低い位置に配することができ、蒸気出口60は液体出口52a?cより高い位置に配することができる。一実施態様によれば、流体入口48は第2段階エステル化反応器50の下側部分(例えば、下側1/3)に配することができ、液体出口52a?cは第2段階エステル化反応器50の中間部分及び/又は上側部分(例えば中間の1/3及び/又は上側2/3)に配することができ、蒸気出口60は第2段階エステル化反応器50の上部部分(例えば上部1/3)に配することができる。」(段落【0051】)

エステル化反応器の具体的な形状・構造(下部の形状、流体入口と液体出口の平面位置、加熱配管位置等)が特定されていない本願発明において、上記本願明細書の記載のみから、液体出口を流体入口より高い位置に設けることで、いかなる効果が奏されるのかは不明である。
そうすると、処理液を加熱し、自然循環により内部の液を循環しながら反応を進行させる引用発明との対比において、相違点2に係る構成による本願発明と引用発明との効果上の差異はなく、本願発明が優れた効果を奏するものとは認められない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-02 
結審通知日 2016-05-10 
審決日 2016-05-23 
出願番号 特願2009-552686(P2009-552686)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 のぞみ大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小柳 健悟
大島 祥吾
発明の名称 非撹拌エステル化反応器を用いるポリエステル製造システム  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  
代理人 小林 良博  
代理人 古賀 哲次  

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