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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1320190
異議申立番号 異議2015-700077  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-08 
確定日 2016-08-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5697011号発明「光ファイバケーブル,及び光ファイバケーブルの形成方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5697011号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1,2について訂正することを認める。 特許第5697011号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5697011号の請求項1及び2に係る特許についての出願は,平成22年2月16日に特許出願され,平成27年2月20日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人 松本照良により特許異議の申立てがなされ,平成28年1月5日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成28年3月7日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年3月7日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は,請求項1及び2に係る「連続して10回以上」を「連続して10回」に訂正するものである。

(2)訂正の目的の適否,請求項ごとの訂正,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記の訂正事項に関連する記載として,特許明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は当審において付加。以下同様。)。
「【0005】
ここで,縦曲げ状態とは,図11(b)に示すように曲げ応力がテープ幅方向に加わっている状態をいう。つまり,光ファイバケーブルを曲げたときにケーブル側面に位置することとなるテープ心線の部分(図11(a)の破線部分)が縦曲げ状態になる。テープ心線単位でみると,光ファイバケーブルを曲げたときに縦曲げ状態になる部分は1ピッチ内で2箇所あるが,テープ心線を構成する光ファイバ単位(例えば図11(b)の4番心線N4)でみると,一方の縦曲げ状態では圧縮歪みを受けるのに対して,他方の縦曲げ状態では引張歪みを受けることとなる。そこで,2つの縦曲げ状態を区別し,光ファイバケーブルを曲げたときにテープ心線は1ピッチ内で1箇所だけ縦曲げ状態になるものとして扱うこととする。
【0006】
このような縦曲げ状態では,図11(b)に示すように,曲げ応力に対して最外側に位置する光ファイバN1が引張歪みを受け,最内側に位置する光ファイバN4が圧縮歪みを受ける。そして,圧縮歪みを受ける側の光ファイバN4において損失増加が増大しやすくなる。現状では,光ファイバケーブルを曲げたときの圧縮歪みを低減するために,テープ心線の幅を小さく(例えば心線数を少なく)したり,テープ心線が収容溝内で傾くようにしたりするという対策が採られている。」

上記記載において,「曲げ応力に対して最外側に位置する光ファイバN1が引張歪みを受け,最内側に位置する光ファイバN4が圧縮歪みを受ける。そして,圧縮歪みを受ける側の光ファイバN4において損失増加が増大しやすくなる」とされ,また,「2つの縦曲げ状態を区別し,光ファイバケーブルを曲げたときにテープ心線は1ピッチ内で1箇所だけ縦曲げ状態になるものとして扱うこととする。」とされているから,「前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置」が10箇所を超えることがないことは明らかといえる。
したがって,当該訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
そして,これら訂正は請求項ごとに請求されたものである。
(3)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第3項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項1及び2について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置し,隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してなるユニット型光ファイバテープ心線を,長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えて収容し,外周面を外被で被覆してなる光ファイバケーブルであって,
前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっていることを特徴とする光ファイバケーブル。」
「【請求項2】
光ファイバケーブルの形成方法であって,
2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置する第1の工程と,
隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してユニット型光ファイバテープ心線を形成する第2の工程と,
前記ユニット型光ファイバテープ心線を長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えてスロットロッドに収容する第3の工程と,
前記スロットロッドの外周面を外被で被覆する第4の工程と,
を含み,
前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようにすることを特徴とする光ファイバケーブルの形成方法。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成28年1月5日付けで特許権者に通知した取消理由は,要旨次のとおりである。

ア 請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,同項に係る特許は,取り消されるべきものである。(以下「理由1」という。)

イ 請求項1に係る発明は,甲第1号証,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり(以下「理由2-1」という。),また,請求項2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(以下「理由2-2」という。)から,両請求項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,取り消されるべきものである。

ウ 請求項1及び2に係る特許は,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。(以下「理由3」という。)

エ 請求項1及び2に係る特許は,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。(以下「理由4」という。)

オ 請求項1に係る特許は,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。(以下「理由5」という。)

カ 請求項1に係る特許は,明細書の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消されるべきものである。(以下「理由6」という。)


(3)甲第1号証の記載
ア 甲第1号証(特開2005-62427号公報)には,以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は,複数本の光ファイバをテープ状に一体化した光ファイバテープ心線を備えた光ファイバケーブル,光ファイバケーブルの製造方法及び光ファイバケーブル製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,複数本の光ファイバをテープ状に並べて一体化した光ファイバテープ心線を備えた光ファイバケーブルがある。この種の光ファイバケーブルは,スロット内に光ファイバテープ心線を複数積層させて収納したスペーサを被覆して構成されている。
【0003】
実際の光ファイバ接続作業においては,光ファイバケーブルの敷設後,光ファイバケーブルに収容された光ファイバテープ心線のうちの1芯または数芯を取り出して,他の光ファイバと接続する中間後分岐を行う場合がある。この中間後分岐では,まず光ファイバケーブルの被覆を剥いでスロットに収納された光ファイバテープ心線を取り出し,この光ファイバテープ心線に分離治具,カッタ等を用いて切り込みを入れて光ファイバテープ心線の被覆を剥いで光ファイバを露出させ,露出した光ファイバを切断して他の光ファイバと接続する。
【0004】
一般に,この中間後分岐を行うためには分離治具が必要であり,分離治具が無い場合には,この分岐作業を行うことは非常に難しい。特に,分岐を行う光ファイバテープ心線内に活線(分岐作業時点で信号伝送に用いられている光ファイバ)がある場合は,この活線の伝送損失を増加させないように分岐作業を行う必要があるが,実際には分離治具を用いても活線に悪影響を与えることなく活線分岐を行うことは不可能である。
【0005】
上記のような光ファイバの取り出し作業を考慮し,間欠的に光ファイバを束ねる固定部が形成された光ファイバテープ心線が提案されている。この種の光ファイバテープ心線の製造方法としては,複数の光ファイバを互いに平行に配置し,紫外線硬化樹脂や熱可塑性の樹脂を光ファイバの長手方向に沿って間欠的に塗布(以後,間欠塗布と呼ぶ)して硬化させることにより,間欠的に光ファイバを束ねる固定部を形成する方法が知られている。
【0006】
また,この種の光ファイバテープ心線の製造方法としては,光ファイバの全周にわたって紫外線硬化樹脂を塗布し,この紫外線硬化樹脂が塗布された光ファイバに,光ファイバの長手方向に沿って一定の間隔を持って紫外線を照射することにより間欠的に紫外線硬化樹脂を硬化させ,紫外線が照射されなかった未硬化部の紫外線硬化樹脂を溶剤によって完全に除去することにより製造する方法もある。(例えば,特許文献1参照)。
【0007】
また,ラミネート材料やラミネートシート,接着剤を用いて平行に並べられた複数の光ファイバを固定する固定部を間欠的に設けることにより,光ファイバを長手方向に沿って間欠的に束ねたものもある(例えば,特許文献2参照)。
これらの光ファイバケーブルは,ケーブルの敷設後に,光ファイバテープ心線から光ファイバの取り出し及び分岐接続が容易であり,作業現場での分岐作業を効率よく迅速に行うことができる。
・・・(中略)・・・
【0008】
しかしながら,上述した光ファイバテープ心線では,固定部以外の光ファイバが束ねられていない部位(以後,単芯分離部と呼ぶ)における光ファイバは,樹脂またはテープ等により全く被覆されていない。したがって,上述した光ファイバテープ心線では,光ファイバテープ心線をスペーサ内に収納する集合工程,シース工程において,光ファイバテープ心線を巻き付け保持しているボビンから光ファイバテープ心線を繰り出す際に,単心分離部で隣接する光ファイバ同士が絡まったり,光ファイバに損傷が生じたりする可能性がある。また単芯分離部をきっかけとして固定部で束ねられた光ファイバが分離してほどけやすく,光ファイバテープ心線として光ファイバを束ねるという本来の機能が果たせなくなる恐れもある。
【0009】
また,粘度が高い紫外線硬化樹脂を用いて間欠塗布を行うと,塗布スピードを上げることが難しく光ファイバテープ心線の製造線速が低下してしまうため,粘度が低い紫外線硬化樹脂を使用する必要性がある。しかし,粘度が低い紫外線硬化樹脂は,光ファイバ上に紫外線硬化樹脂が留まりにくいため,効率的かつ安定的な樹脂の塗布が難しい。同様に,紫外線硬化樹脂の代わりに,熱可塑性樹脂やラミネートテープなどの粘着テープを用いて固定部を間欠的に設ける場合であっても,汎用の光ファイバテープ心線に比べると製造線速が低下してしまい,生産性が悪かった。
【0010】
また,光ファイバの全周にわたって紫外線硬化樹脂が塗布された光ファイバに一定の間隔で紫外線を照射した後に,溶剤を用いて未硬化部の紫外線硬化樹脂を除去する方法も製造工程が複雑であるため製造線速を高めることが難しく,また寸法精度も悪かった。
【0011】
また,光ファイバテープ心線の周囲には,テープ樹脂が方向性を持ちながら被覆されているため,光ファイバをスロットに収納してケーブル化するとテープ樹脂の硬化収縮により内部の光ファイバが異方的な歪みを受けることによってPMDが高くなる傾向がある。特に,SZ型ケーブルにおいては,反転部近傍にて光ファイバテープ心線がスロット内で捩じられ,光ファイバが異方向歪みを受けるためPMD(偏波モード分散)が高くなってしまっていた。
【0012】
本発明は,上記事情を鑑みてなされたもので,その目的は,光ファイバの分岐作業を容易かつ迅速に行うことができる光ファイバケーブル,および生産性に優れかつ光ファイバの保護性能に優れた光ファイバケーブルの製造方法及び光ファイバケーブルの製造装置を提供することにある。」

「【0013】
本発明の上記目的は,下記構成により達成される。
(1)光ファイバテープ心線を備えた光ファイバケーブルであって,前記光ファイバテープ心線は,複数の光ファイバと,前記複数の光ファイバを接合する樹脂とを有し,前記樹脂は,前記複数の光ファイバの長手方向に沿って間欠的に設けられた分断部で分断されており,前記分断部には,前記樹脂が残留していることを特徴とする光ファイバケーブル。
・・・(以下略)・・・」

(イ)「【0016】
(第1実施形態)
図1は,本発明に係る光ファイバケーブルの第1実施形態を説明する図であり,図2は,図1に示す光ファイバケーブルのII-II断面図である。また,図3は,光ファイバテープ心線の部分斜視図であり,図4(a)は,図3のIVa-IVa断面図である。
光ファイバケーブル10は,図1および図2に示すように,スペーサ11と,スペーサ11に形成されたスロット13内に収納された複数の光ファイバテープ心線20と,スロット13の外周面に巻回され,光ファイバテープ心線20がスロット13から外れるのを防止する押さえ巻き14と,押さえ巻き14の外周面上を被覆するプラスチック製のケーブル外被(外被)15とを備えている。
【0017】
スペーサ11は,光ファイバケーブル11の骨格を形成する略円筒形状の基体である。スペーサ11の軸中心には,光ファイバケーブル10に負荷される張力が光ファイバテープ心線20に直接伝わらないようにするための抗張力体であるテンションメンバTが設けられている。本実施形態では,テンションメンバTは,例えば銅線から構成されている。
【0018】
スロット13は,スペーサ11の周方向に所定間隔毎に複数個(図2では5つ)形成されている。スペーサ11に形成された各スロット13は,螺旋形状を描くように形成されており,その螺旋の向き(スペーサ11の周方向に対する向き)が一方向に形成された移行部13bと,螺旋の向きが周方向に反転する反転部13aとが交互に繰り返されて長手方向にSZ撚りの螺旋形状を描いている。すなわち,本実施形態の光ファイバケーブル10は,スロット13がSZ撚りの螺旋状に形成されたSZ型ケーブルである。
【0019】
スロット13内には,複数の光ファイバテープ心線20がスペーサ11の径方向に積層された状態で収容されている。各光ファイバテープ心線20は,光ファイバ21を長手方向に沿って複数本(図2では,4本)平行に接触させて配置し,これらの光ファイバ21全体を紫外線硬化樹脂からなるテープ樹脂22を施すことにより接合し,テープ状に一体化したものである。この光ファイバテープ心線20としては,例えば外径が250μm,厚さが0.3mm?0.4mm,幅が1.1mmのものが例示される。本実施形態の光ファイバケーブル10は,各スロット13内にそれぞれ5枚の光ファイバテープ心線20が径方向に積層された100心型の光ファイバケーブルである。
【0020】
本実施形態の光ファイバテープ心線20には,図3に示すように,光ファイバ21が単心又は複数心に分断された分断部20a(図3の斜線部分)と,分断されていない非分断部20bが交互に設けられている(図3の斜線部分以外の部分)。分断部20aは,光ファイバテープ心線20の長手方向に沿って所定間隔毎に間欠的に設けられている。分断部20aにおいては,光ファイバ21間に位置するテープ樹脂22に長手方向に沿って分断溝22aが形成されており,隣接する光ファイバ21は,この分断溝22aによって互いに分離分断されている。図3では,光ファイバ21をそれぞれ単心分離する構成が示されているが,複数心毎に分離するように構成しても良い。
【0021】
光ファイバテープ心線20においては,図4(a)に示すように,各光ファイバ21間に位置するテープ樹脂22が分断溝22aにて分断されており,分断された残留テープ樹脂22bは分断溝22aを境として各光ファイバ21に付着して残留している。この残留テープ樹脂22bは,非分断部20bのテープ樹脂22と長手方向に連続的に接続されており,残留テープ樹脂22bに被覆されている各光ファイバ21を保護するとともに,その動きを制限し,ばらつきにくくしている。したがって,光ファイバテープ心線20は,光ファイバテープ心線20をスペーサ13内に収納する集合工程,シース工程においても,光ファイバ21同士が分断部20aにおいてばらつきにくく,隣接する光ファイバ21同士が絡まったり,光ファイバ21に損傷が生じたりしにくい。
【0022】
一方,分断部20aでは,分断溝22aによって光ファイバ21が分断されているため,非分断部20bに比べて光ファイバ21の移動自由度が増し,非分断部20bの光ファイバ21に比べて撓みやすくなっている。すなわち,分断部20aの光ファイバ21は,分断溝22aによって分断されることによって,他の光ファイバ21に負荷をかけることなく微少変位可能な状態となっている。
ただし,分断部20aの光ファイバ21が非分断部20bの光ファイバ21に対してあまり大きく変位可能であると,図4(b)に示すように,分断部20aと非分断部20bの境界20Eにおいて,光ファイバ21に曲率Rの小さな曲げが加わることにより,活線ロス増(BER増)が発生してしまう。したがって,光ファイバ21に小さいの曲率Rの曲げが生じないように,非分断部20bにおける光ファイバ21同士の結合が弱いほうが好ましく,すなわちテープ樹脂22の硬度は光ファイバ21に小さいの曲率Rの曲げが生じない程度に柔らかい材質ものを選択することが好ましい。活線ロス増(BER増)を考慮すると,7.5mmより小さな曲率Rが生じないことが好ましい。
【0023】
本実施形態の光ファイバテープ心線20は,図1に示すように,スペーサ11に形成されたスロット13の反転部13aに,分断溝22aを有する分断部20aが位置するようにスロット13に収納することが好ましい。光ファイバテープ心線20内の光ファイバ21は,反転部13aにおいて折り曲げられることにより,テープ樹脂22から負荷がかかるが,分断部20aは分断されていない部分に比べて撓みやすくなっており,曲げに対する光ファイバ21にかかる負荷が小さいため,光ファイバ21は大きな歪み等を受けにくく,反転部13aに配置してもPMD損失が小さい。
【0024】
本実施形態において,分断溝22aの長さは,隣り合う光ファイバ21やテープ樹脂22の材質や,スロット13の形状等によって異なる。なお,図3は,分断部20aおよび分断部20aに形成される分断溝22aを模式的に示しているものであり,縦,横及び奥行きの比率は,図3によって制限されるものではない。
【0025】
光ファイバケーブル10を敷設した後に,他の光ファイバとの接続のため中間後分岐を行うには,まず,光ファイバケーブル10のケーブル外被15及び押さえ巻き14を剥がし,スペーサ11のスロット13を露出させる。次いで,スペーサ11のスロット13内に収納されている光ファイバテープ心線20を,反転部13aから引き出し,この光ファイバテープ心線20から単心(又は複数心)の光ファイバ21を分岐させることにより達成される。
【0026】
以上説明したように,本実施形態の光ファイバテープ心線20には,光ファイバが単心又は複数心に分離された分断部20aが設けられている。したがって,特別な治具を用いることなく,光ファイバケーブル10の敷設後に,他の光ファイバを接続する中間後分岐を行う場合であっても,光ファイバ21を分離する作業を行う必要がないため,極めて容易に中間後分岐を行うことができる。また,本実施形態の光ファイバテープ心線20では,光ファイバ21に分離作業に伴う負荷が光ファイバ21に悪影響を及ぼすことがないため,伝送損失の増大を回避することができる。
【0027】
また本実施形態によれば,異方向歪みを受けやすいスロット13の螺旋の向きが途中で反転する反転部13aに光ファイバテープ心線20の分断部20aが配置されているので,光ファイバテープ心線20の異方向歪みによるPMDを大幅に低減させることができる。また,反転部13aでは,移行部13bに比べてスロット13内の光ファイバテープ心線20の取り出しが容易である。このため,より一層容易に中間後分岐を行うことができる。
【0028】
分断部20aは,中間後分岐を容易にするために設けられているが,敷設後に中間後分岐に用いられる分断部20aよりも中間後分岐に用いられない分断部20aは,中間後分岐に用いられることがない場合が多いと考えられる。本実施形態によれば,光ファイバテープ心線20は,分断部20aが形成されている部位であっても,光ファイバ21が全長にわたってテープ樹脂22によって覆われており,このテープ樹脂22により光ファイバ21が保護された構造となっている。したがって,分断部20aが中間後分岐に用いられない場合であっても,光ファイバテープ心線20の全長にわたって,テープ樹脂22によって光ファイバ21を保護し,光ファイバテープ心線20の通信安定性を保つことができる。
【0029】
なお,上記説明では,分断部20aが反転部13aに位置するように光ファイバテープ心線20をスロット13内に収納するとして説明したが,これに限られることはなく,スロット13内の任意の位置に分断部20aが収納されるようにしても良い。この場合であっても,分断部20aをスロット13内から取り出した後の取扱性は,分断部20aから反転部13aを取り出した場合と同様である。」

(ウ)「【0061】
(第2実施形態)
次に,本発明にかかる光ファイバケーブルの第2の実施形態について説明する。なお,以下に説明する実施形態において,すでに説明した部材などと同等な構成・作用を有する部材等については,図中に同一符号又は相当符号を付すことにより,説明を簡略化或いは省略する。
【0062】
図18は,本実施形態の光ファイバケーブルを示す側面図であり,図19は,光ファイバケーブルの光ファイバテープ心線を示す斜視図である。
図18に示すように,この光ファイバケーブル110は,その全長において周方向に対して同一の向きに螺旋状に形成された5つのスロット113を有する一方向撚りスペーサであるスペーサ111を有している。
【0063】
光ファイバケーブル110は,スペーサ111の各スロット113内に,図19に示すような8心の光ファイバテープ心線120が,10枚ずつ積層されて収容された400心ケーブルである。図19に示すように,スロット113内に収容された光ファイバテープ心線120は,その長手方向にテープ樹脂22が分断溝22aにて切断されて8本の光ファイバ21が4本づつ2組に分断されている分断部120aを有している。
また,光ファイバケーブル110のスペーサ111,押さえ巻き114及び外被115の各外周面には,光ファイバテープ心線120に形成された分断部120aの位置を示す識別部131a,131b,131cがそれぞれ設けられている。
【0064】
この識別部131a,131b,131cは,作業者が光ファイバテープ心線120を直接視認することなく,中間後分岐を行う分断部120aの位置を識別可能にするためのものである。具体的な識別部131a,131b,131cの態様としては,スペーサ111,押さえ巻き114及び外被115に巻き付けられたテープ,スペーサ111,押さえ巻き114及び外被115を着色するインクなど様々なものが考えられる。」

イ 以上の記載によれば,「第2実施形態」に注目すると,甲第1号証には以下の発明(以下「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本の光ファイバをテープ状に一体化した光ファイバテープ心線120を備え,光ファイバテープ心線120は,複数の光ファイバ21と,複数の光ファイバ21を接合するテープ樹脂22とを有し,テープ樹脂22は,前記複数の光ファイバの長手方向に沿って間欠的に設けられた分断部120aで分断されており,分断部120aには,樹脂22が残留していることを特徴とする光ファイバケーブル110であって,
光ファイバケーブル110は,その全長において周方向に対して同一の向きに螺旋状に形成された5つのスロット113を有する一方向撚りスペーサであるスペーサ111を有しており,スペーサ111の各スロット113内に,8心の光ファイバテープ心線120が,10枚ずつ積層されて収容された400心ケーブルであり,
スロット113内に収容された光ファイバテープ心線120は,その長手方向にテープ樹脂22が分断溝22aにて切断されて8本の光ファイバ21が4本づつ2組に分断されている分断部120aを有しており,
光ファイバケーブル110のスペーサ111,押さえ巻き114及び外被115の各外周面には,光ファイバテープ心線120に形成された分断部120aの位置を示す識別部131a,131b,131cがそれぞれ設けられている,
光ファイバケーブル110。」

ウ また,甲第1号証には,更に以下の記載もある。
(ア)「【0065】
上記光ファイバケーブル110を製造する場合は、図20に示す光ファイバケーブル製造装置60を用いる。図20に示す光ファイバケーブル製造装置60は、スペーサ111を送り出すスペーササプライロール31と、それぞれ光ファイバテープ心線120をスペーサ111の対応するスロット113に供給する複数の光ファイバテープ心線供給器33と、各光ファイバテープ心線供給器33から供給される光ファイバテープ心線120をスペーサ111の対応するスロット113内に収納する集線器32(光ファイバテープ心線収納器)を備えている。さらに、光ファイバテープ心線供給器33と集線器32との間には、光ファイバテープ心線120に分断部120aを形成する分断装置34(光ファイバテープ心線分断器)が設けられている。
【0066】
また、光ファイバケーブル製造装置60は、スロット113内に光ファイバテープ心線120が収納されたスペーサ111の外周面上に押さえ巻き114を巻回する押さえ巻きヘッド38と、スペーサ111上に巻回された押さえ巻き114の外周にプラスチック製のケーブル外被115を被覆する外被押出装置39(外皮形成器)が設けられている。ケーブル外被115が被覆された光ファイバケーブル110は、キャプスタン41によってボビン42側に引き込まれ、ボビン42に巻回される。
【0067】
さらに、光ファイバケーブル製造装置60は、集線器32と押さえ巻きヘッド38との間に配置されかつスペーサ111の外周上に識別部131aを設ける識別部としてのマーキング装置44a(マーキング器)と、押さえ巻きヘッド38と外被押出装置39との間に配置されかつ押さえ巻き114の外周上に識別部131bを設ける識別部としてのマーキング装置44b(マーキング器)と、外被押出装置39とキャプスタン41との間に配置されかつケーブル外被115の外周上に識別部131cを設ける識別部としてのマーキング装置44c(マーキング器)とを有している。
【0068】
この光ファイバケーブル製造装置60は、光ファイバテープ心線供給器33から送り出される光ファイバテープ心線120を分断装置34によって分断して分断部120aを形成する。その後、光ファイバテープ心線120を、スペーササプライロール31から送り出されるスペーサ111のスロット113内に収納させる。そして、スロット113に光ファイバテープ心線120を収容した後、スペーサ111の外周に、押さえ巻きヘッド38によって押さえ巻き114を巻き付ける。そして、押さえ巻き114の外周面に外被押出装置39によって外被層115を被覆する。その後、光ファイバケーブル110は、キャプスタン41によって引き込まれ、ボビン42に巻き取られる。」

(イ)「【0099】
次に、光ファイバケーブル製造装置の変形例について説明する。
図27は、第1の変形例としての光ファイバケーブル製造装置80を示す図である。この光ファイバケーブル製造装置80は、第1実施形態で説明した光ファイバケーブル製造装置30に反転部検出センサ45と、反転部検出センサ45に基づき分断装置34を制御する制御器48を加えたものであり、その他の部材の説明は、光ファイバケーブル製造装置30で説明したものと同一である。
【0100】
反転部検出センサ45は、スペーササプライロール31と集線器32との間のスペーサ11の搬送路近傍に配置されている。この反転部検出センサ45は、スペーササプライロール31から送り出されるスペーサ11上のスロット形状をモニタし、スロット11の反転部13aを検知し、反転部13aを検知する毎に制御器48に検知信号を出力する。すなわち、反転部検出センサ45は、スペーサ11条のスロット13の形状を検出するスロット形状検出器である。
【0101】
制御器48は、反転部検出センサ45から出力された検知信号に応じて、分断装置34に光ファイバテープ心線20の分断タイミングを指示する。制御器48は、スペーサ11の搬送速度と光ファイバテープ心線20の搬送速度とを鑑み、集線器32において反転部13aに分断部20aが収納されるよう分断タイミングを決定し、分断装置34によって分断部20aを形成させる。
【0102】
この第1の変形例の光ファイバケーブル製造装置80によれば、適切なタイミングで分断部20aを形成させることによって、確実に反転部13aに分断部20aを収納させることが可能である。したがって、常に反転部13aに分断部20aが収納された光ファイバテープ心線20の取り出し性が高い光ファイバケーブル10を提供することができる。
【0103】
また、図28は、光ファイバケーブル製造装置の第2の変形例を示す図である。図28の光ファイバケーブル製造装置85は、光ファイバケーブルを構成する光ファイバテープ心線を製造する光ファイバテープ心線製造装置である。この光ファイバケーブル製造装置85は、それぞれ単心の光ファイバ21を供給する複数のボビン86(光ファイバ供給器)と、テープ樹脂22を用いて複数の光ファイバ21を被覆して接続一体化するテープ被覆装置87(光ファイバ接続器)と、テープ被覆装置87によって製造される光ファイバテープ心線20に分断部20aを形成する分断装置34(光ファイバテープ心線分断器)と、分断装置34によって形成された分断部20aの位置を示すマーキング装置88とを有している。
【0104】
テープ被覆装置87は、作成する光ファイバテープ心線20の形状に応じてテープ樹脂22を被覆するように構成されており、例えば、図13?図17に例示されるような各種光ファイバテープ心線を作成することが可能である。
また、分断装置34は、図6?図9、図11または図12に示すような構造の分離工具部を用いることが可能であり、テープ被覆装置87によって製造される光ファイバテープ心線20の形状に応じて適切な分離工具部を選択するようにすればよい。」

エ 上記のア,ウから,甲第1号証には,以下の発明も記載されているものと認められる。(以下「甲1-2発明」という。)
「光ファイバケーブル110の製造方法であって,
光ファイバテープ心線供給器33から送り出される光ファイバテープ心線120を分断装置34によって分断して分断部120aを形成し,その後、光ファイバテープ心線120を、スペーササプライロール31から送り出されるスペーサ111のスロット113内に収納させ,そして、スロット113に光ファイバテープ心線120を収容した後、スペーサ111の外周に、押さえ巻きヘッド38によって押さえ巻き114を巻き付け,そして、押さえ巻き114の外周面に外被押出装置39によって外被層115を被覆するものであって,
光ファイバケーブル110を構成する光ファイバテープ心線120を製造する方法においては,それぞれ単心の光ファイバ21を供給する複数のボビン86(光ファイバ供給器)と、テープ樹脂22を用いて複数の光ファイバ21を被覆して接続一体化するテープ被覆装置87(光ファイバ接続器)と、テープ被覆装置87によって製造される光ファイバテープ心線20に分断部20aを形成する分断装置34(光ファイバテープ心線分断器)と、分断装置34によって形成された分断部20aの位置を示すマーキング装置88とを有している,光ファイバテープ心線製造装置を用いる,
光ファイバケーブル110の製造方法。」

(4)判断
ア 理由1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると,以下の点で一致する。
「2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置し,隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してなるユニット型光ファイバテープ心線を,長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えて収容し,外周面を外被で被覆してなる光ファイバケーブル。」
一方,本件発明1は,「前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっている」構成を備えるのに対して,甲1-1発明は当該構成を備えない点(以下「相違点1」という。)で相違する。
(イ)上記相違点1について,連結部の長さ及び連結ピッチの設定によっては,「撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならない」状態となり得ることは想定され,特に,連結部の長さLを,連結ピッチに比べて大幅に短いものとすることによって,そうなる可能性はより高まるとはいえる。
しかしながら,甲第1-1発明において,「分断部120a」を設けるのは,光ファイバケーブルの敷設後の中間後分岐を容易に行えるようにするためであって,光ファイバケーブル自体に曲げを加えたときの縦曲げによる光ファイバの歪みを低減することではなく,また,連結部の長さLを,連結ピッチに比べて大幅に短いものとすることは,甲第1号証には記載も示唆もない。また,甲第1号証の段落【0023】には,分断部とスロットの反転部の位置を合わせて,光ファイバが大きな歪みを受けないようにすることが示されてはいるが,同一の向きに螺旋状に形成されたスロットを有する光ファイバケーブルについて,光ファイバケーブル自体に曲げを加えたときの縦曲げによる光ファイバの歪みを低減することについては,記載も示唆もない。
そうすると,甲第1号証には,前記相違点1に係る構成が記載されているとはいえず,前記相違点1は実質的な相違点である。よって,本件発明1は甲1-1発明と同一ではないから,本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

イ 理由2-1について
(ア)甲第2号証の記載
a 甲第2号証(特開2009-163045号公報)には,以下の記載がある。
「【0024】
図1を参照するに、この実施の形態に係る光ファイバテープ心線1(以下、単に、「テープ心線」という)は、例えば光ファイバ素線あるいは光ファイバ心線などの光ファイバ3が複数本を並列して構成されるものであり、前記複数本の光ファイバ3の外周上に一括被覆5(テープ化材)が施されている。したがって、一括被覆5(テープ化材)が一層のみで製作可能であるので、多心のテープ心線1の厚さを薄くすることが可能である。
【0025】
しかも、多心のテープ心線1を目的の光ファイバ3の間で分割し、心数の少ないテープ心線1A,1B,1C,・・・・に分割するために、目的の互いに隣接する光ファイバ3の間の境目の位置に相当する前記一括被覆5の位置には、この一括被覆5の窪み部5Aがテープ心線1すなわち、一括被覆5の長手方向全長に亘って設けられており、この窪み部5Aの位置には、前記窪み部5Aの厚さ方向に貫通するスリット7が前記窪み部5Aの長手方向にわたって間欠的に設けられている。なお、この場合の窪み部5Aは、その底部にほぼ平行な首部を形成している。
【0026】
なお、この実施の形態では合計8本の光ファイバ3としての例えば光ファイバ着色心線が並列に配置され、前記8本の光ファイバ3の外周上に一括被覆5(テープ化材)が施されている。この8心のテープ心線1を目的の光ファイバ3の間で分割し、心数の少ないテープ心線1A,1Bに分割するために、前記各光ファイバ3は、図1において左から順に#1,#2,#3,・・・,#7,#8とすると、この実施の形態では、#4と#5の間に窪み部5Aが設けられ、かつ、前記の窪み部5Aに沿ってスリット7が間欠的に設けられている。換言すれば、スリット7で分離されている部分(分離部)と、スリット7が無く互いに接着されているスリット間隔部9(接着部)が交互に設けられている。」
b 上記記載から,甲第2号証には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「甲2発明」という。)。
「光ファイバテープ心線1であって,
光ファイバ素線あるいは光ファイバ心線などの光ファイバ3が複数本を並列して構成されるものであり、複数本の光ファイバ3の外周上に一括被覆5(テープ化材)が施されており,
多心のテープ心線1を目的の光ファイバ3の間で分割し、心数の少ないテープ心線1A,1B,1C,・・・・に分割するために、目的の互いに隣接する光ファイバ3の間の境目の位置に相当する前記一括被覆5の位置には、この一括被覆5の窪み部5Aがテープ心線1すなわち、一括被覆5の長手方向全長に亘って設けられており、この窪み部5Aの位置には、前記窪み部5Aの厚さ方向に貫通するスリット7が前記窪み部5Aの長手方向にわたって間欠的に設けられている,
光ファイバテープ心線1。」

(イ)甲第3号証の記載
a 甲第3号証(特開2009-93077号公報)には,以下の記載がある。
「【0020】
図1を参照するに、この実施の形態に係る光ファイバテープ心線1(以下、単に、「テープ心線」という)は、例えば光ファイバ素線あるいは光ファイバ心線などの光ファイバ3が複数本を並列して構成されるものであり、この実施の形態では合計8本の光ファイバ3としての例えば光ファイバ着色心線が並列に配置され、前記8本の光ファイバ3の外周上に一括被覆5(テープ化材)が施されている。
【0021】
しかも、隣接する前記光ファイバ3の間の境目の位置に相当する前記一括被覆5の位置には、前記光ファイバ3の間を離隔した前記一括被覆5の離隔部5Aが設けられており、この離隔部5Aの位置には、前記一括被覆5の厚さ方向に貫通するスリット7が前記一括被覆5の長手方向にわたって間欠的に設けられている。前記各光ファイバ3は、図1において左から順に#1,#2,#3,・・・,#7,#8とすると、この実施の形態では、#4と#5の間の離隔部5Aの一括被覆5に上記のスリット7が間欠的に設けられている。換言すれば、スリット7で分離されている部分(分離部)と、スリット7が無く互いに接着されているスリット間隔部9(接着部)が交互に設けられている。」
b 上記記載から,甲第3号証には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「甲3発明」という。)。
「光ファイバテープ心線1であって,
例えば光ファイバ素線あるいは光ファイバ心線などの光ファイバ3が複数本を並列して構成されるものであり、合計8本の光ファイバ3としての例えば光ファイバ着色心線が並列に配置され、前記8本の光ファイバ3の外周上に一括被覆5(テープ化材)が施されており,
隣接する光ファイバ3の間の境目の位置に相当する一括被覆5の位置には、光ファイバ3の間を離隔した前記一括被覆5の離隔部5Aが設けられており、この離隔部5Aの位置には、前記一括被覆5の厚さ方向に貫通するスリット7が前記一括被覆5の長手方向にわたって間欠的に設けられている,
光ファイバテープ心線1。」

(ウ)前記ア(ア)で検討したとおり,本件発明1と甲1-1発明とを対比すると,「2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置し,隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してなるユニット型光ファイバテープ心線を,長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えて収容し,外周面を外被で被覆してなる光ファイバケーブル。」である点で一致する一方,本件発明1は,「前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっている」構成を備えるのに対して,甲1-1発明は当該構成を備えない点(すなわち「相違点1」と同じ。)で相違する。

(エ)前記ア(イ)で検討したとおり,甲1-1発明において,「分断部120a」を設けるのは,光ファイバケーブルの敷設後の中間後分岐を容易に行えるようにするためであって,光ファイバケーブル自体に曲げを加えたときの縦曲げによる光ファイバの歪みを低減することではなく,また,連結部の長さLを,連結ピッチに比べて大幅に短いものとすることは,甲第1号証には記載も示唆もない。
また,甲第1号証の段落【0023】には,分断部とスロットの反転部の位置を合わせて,光ファイバが大きな歪みを受けないようにすることが示されてはいる。しかしながら,当該段落【0023】に示された事項は,分断部とスロットの反転部の位置を一致させて,当該スロットの反転部において光ファイバが大きな歪みを受けないようにすることであって,甲1-1発明のように,同一の向きに螺旋状に形成されたスロットを有する光ファイバケーブルについての事項ではない。また,甲第1号証の他の記載を見ても,光ファイバケーブル自体に曲げを加えたときの縦曲げによる光ファイバの歪みを低減することは,記載も示唆もない。
そして,前記(ア)及び(イ)のとおり,甲第2号証及び甲第3号証には,光ファイバテープ心線であって,一括被覆の長手方向全長に亘って窪み部設けられており、この窪み部の位置に、前記窪み部5Aの厚さ方向に貫通するスリットが前記窪み部の長手方向にわたって間欠的に設けたものが示されてはいるものの,当該光ファイバテープ心線を甲1-1発明に適用する動機は見いだせず,仮に,当該適用がされたとしても,相違点1の特に「ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっている」構成が得られるとはいえない。
よって,本件発明1は,甲第1号証の記載を参酌しても,甲第1-1発明,並びに甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 理由2-2について
(ア)本件発明2と甲1-2発明とを対比すると,以下の点で一致する。
「光ファイバケーブルの形成方法であって,2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置する第1の工程と,隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してユニット型光ファイバテープ心線を形成する第2の工程と,前記ユニット型光ファイバテープ心線を長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えてスロットロッドに収容する第3の工程と,前記スロットロッドの外周面を外被で被覆する第4の工程と,を含む,光ファイバケーブルの形成方法。」
一方,本件発明2と甲1-2発明とは以下の各点で相違する。
〈相違点2〉
本件発明2は「2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置する第1の工程と,隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してユニット型光ファイバテープ心線を形成する第2の工程と」を備えるが,甲1-2発明は当該構成を備えない点(以下「相違点2」という。)
〈相違点3〉
本件発明2は「前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようにすること」との構成を備えるのに対して,甲1-2発明は当該構成を備えない点(以下「相違点3」という。)。

(イ)相違点3について検討する。
前述の相違点1に係る構成は「前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっている」であるから,相違点3に係る構成は,結果として相違点1に係る構成が得られるようにすることといえる。
そして,前記イ(エ)で検討したとおり,相違点1に係る構成は,甲第1号証の記載を参酌して,甲第1-1発明,並びに甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた事項ではないのであるから,相違点1に係る構成が得られるようにすること,すなわち相違点3に係る構成も,甲第1号証の記載を参酌して,甲第1-2発明,並びに甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できた事項ではなく,したがって,相違点3に係る構成は甲第1号証の記載を参酌して,甲第1-2発明に基づいて当業者が容易に想到できた事項でもないというべきである。
よって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明2は,甲第1号証の記載を参酌しても,甲第1-2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 理由3について
(ア)理由3は,本件訂正前の請求項1及び2には「撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならない」と記載されているところ,撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して重なることが10回を超えることはあり得ないから,請求項1及び2の記載は不明確であるとするものであった。
(イ)前記2で検討したとおり,本件訂正請求が認められたところ,当該訂正前の請求項1及び請求項2における「10回以上」との記載は,当該訂正後の請求項1及び請求項2においては「10回」とされたので,理由3は解消した。

オ 理由4について
(ア)理由4は,次のとおりである。すなわち,一つの連結部の長さが,撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して9回重なるのに十分ではあるが10回重なるには短い場合,当該構成を含むもの,あるいはその製造方法は,本件発明1又は2に包含される。しかし,そのようなものは,縦曲げ状態が最大になる位置以外の部分で光ファイバが受ける圧縮歪みも考慮すると,連結部が分散して配置され,撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記分散した連結部とが連続して10回重なるものに比して,課題解決がされるとは言いがたく,発明の詳細な説明に記載されたものではない,というものである。
(イ)しかしながら,本願の発明の詳細な説明においては,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置での,光ファイバが受ける圧縮歪みの低減を課題として,これを解決するために「前記連結部の長さ及び連結ピッチ,前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径,並びに前記撚りピッチは,前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないよう」という構成を備えることにより,本願の発明の詳細な説明における従来技術が有する前記課題を解決することが記載されている。
そして,当該課題,すなわちケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置での光ファイバが受ける圧縮歪みの低減という観点からは,前記(ア)で示した,一つの連結部の長さが,撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で,ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して9回重なるのに十分ではあるが10回重なるには短いものであっても,同じく10回重なるのに十分なものに比べると,圧縮歪みは低減され,それゆえ,本件発明1および2の範囲外のものに比して有利な効果を奏するといえる。
よって,本件発明1及び2に係る特許は,特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

カ 理由5について
(ア)理由5は,次のとおりである。すなわち,本件特許明細書の段落【0026】には「本発明は、実施形態で示したスロット型光ファイバケーブルに限らず、スロットレス型光ファイバケーブルに適用することもできる」と記載されているから,本件特許に係る「光ファイバケーブル」にはスロットレス型光ファイバケーブルも含まれるが,当該スロットレス型光ファイバケーブルの構造によっては,本件明細書に記載された,解決しようとする課題が生じ得ないものも含まれるから,本件特許1及び2は発明の詳細な説明に記載された範囲を越えている,というものである。
(イ)しかしながら,スロットレス型光ファイバケーブルにあっても,光ファイバテープ心線に撚りを加えてケーブル内に収納することは,例えば特開2007-226050号公報(乙第1号証;特に段落【0033】参照)及び特開平11-295570号公報(乙第3号証;特に段落【0019】参照)にも示されているように普通になされることであり,しかも,当該構成においては,甲第4号証に示されているような応力緩和が完全になされるものではないから,ケーブルを曲げた際に,当該光ファイバテープ心線に歪みが生ずることは明らかである。
よって,本件発明1及び2については,スロットレス型光ファイバケーブルについても,発明の詳細な説明に記載されたものといえ,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

キ 理由6について
(ア)理由6は,本件発明1にはスロットレス型光ファイバケーブルも含まれるところ,本件特許明細書には,スロットレス型光ファイバケーブルについて,どのように実施するのか当業者が理解できる程度に記載されていないから,本件特許明細書はその記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない,というものである。
(イ)しかしながら,上記カ(イ)で検討したとおり,スロットレス型光ファイバケーブルにあっても,光ファイバテープ心線に撚りを加えてケーブル内に収納することは,普通になされることであり,その際,応力緩和が完全になされるものではないから,ケーブルを曲げた際に,当該光ファイバテープ心線に歪みが生ずることは明らかである。
よって,本件特許明細書の記載は,本件発明1について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから,理由1ないし6によっては,本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置し、隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してなるユニット型光ファイバテープ心線を、長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えて収容し、外周面を外被で被覆してなる光ファイバケーブルであって、
前記連結部の長さ及び連結ピッチ、前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径、並びに前記撚りピッチは、前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で、ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようになっていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
光ファイバケーブルの形成方法であって、
2心以上の光ファイバが並列に配置され長手方向に亘って一括被覆されてなる光ファイバテープ心線を2本以上並列に配置する第1の工程と、
隣接する前記光ファイバテープ心線を長手方向に間隔Sで設けた長さLの連結部によって間欠的に連結してユニット型光ファイバテープ心線を形成する第2の工程と、
前記ユニット型光ファイバテープ心線を長手方向に一定の撚りピッチで撚りを加えてスロットロッドに収容する第3の工程と、
前記スロットロッドの外周面を外被で被覆する第4の工程と、
を含み、
前記連結部の長さ及び連結ピッチ、前記ユニット型光ファイバテープ心線の層心径、並びに前記撚りピッチは、前記ユニット型光ファイバテープ心線における撚りピッチの10ピッチ相当の任意区間で、ケーブルに曲げを加えたときに縦曲げ状態が最大になる位置と前記連結部とが連続して10回重ならないようにすることを特徴とする光ファイバケーブルの形成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-07-21 
出願番号 特願2010-30973(P2010-30973)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 小松 徹三
近藤 幸浩
登録日 2015-02-20 
登録番号 特許第5697011号(P5697011)
権利者 日本電信電話株式会社 古河電気工業株式会社
発明の名称 光ファイバケーブル、及び光ファイバケーブルの形成方法  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 良男  

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