ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A61F 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61F |
---|---|
管理番号 | 1320193 |
異議申立番号 | 異議2015-700109 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-10-21 |
確定日 | 2016-08-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5706925号発明「パンツ型着用物品およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5706925号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5706925号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5706925号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成25年5月13日に特許出願され、平成27年3月6日にその特許権の設定登録がされた。 その後、請求項1ないし6に係る特許について、特許異議申立人大野芙美により特許異議の申立てがなされ、平成28年1月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年3月3日(特許庁受付)に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成28年4月8日付けで特許異議申立人大野芙美より意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 特許請求の範囲の請求項1に「着用者の腹側に配される腹側部と、股間部に配される股下部と、背側に配される背側部とを有し、腹側部の側縁部と背側部の側縁部とが接合されたサイドシール部を有するパンツ型着用物品であって、 前記腹側部および前記背側部には、第1シート材と第2シート材とを積層した外装体が配され、該外装体は幅方向に伸縮性を有し、 前記第1シート材には、スリット部を身丈方向に複数配したスリット領域があり、該スリット領域が間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有するパンツ型着用物品。」とあるのを、 「着用者の腹側に配される腹側部と、股間部に配される股下部と、背側に配される背側部とを有し、腹側部の側縁部と背側部の側縁部とが接合されたサイドシール部を有するパンツ型着用物品であって、 前記腹側部および前記背側部には、第1シート材と第2シート材とを積層した外装体が配され、該外装体は幅方向に伸縮性を有し、 前記第1シート材には、前記幅方向に沿う横長のスリット部を、身丈方向に複数配したスリット領域があり、該スリット領域が間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有するパンツ型着用物品。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記の訂正は、本件特許明細書の段落[0014]の記載に基づいて、請求項1の「スリット部」が「幅方向に沿う横長」であることを特定することにより、当該「スリット部」が特定しようとする事項を明瞭化するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、この訂正は一群の請求項1ないし6に対し請求されたものである。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 申立ての対象である本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1ないし6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 着用者の腹側に配される腹側部と、股間部に配される股下部と、背側に配される背側部とを有し、腹側部の側縁部と背側部の側縁部とが接合されたサイドシール部を有するパンツ型着用物品であって、 前記腹側部および前記背側部には、第1シート材と第2シート材とを積層した外装体が配され、該外装体は幅方向に伸縮性を有し、 前記第1シート材には、前記幅方向に沿う横長のスリット部を、身丈方向に複数配したスリット領域があり、該スリット領域が間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有するパンツ型着用物品。 【請求項2】 前記腹側部及び前記背側部において、前記第1シート材と前記第2シート材との間に弾性体が前記スリット部を避けて幅方向に配されており、前記弾性体の端部が、前記スリット領域と幅方向に並ぶ非スリット領域で、前記第1シート材及び前記第2シート材によって挟持され接合固定されている請求項1記載のパンツ型着用物品。 【請求項3】 前記スリット領域が、前記腹側部及び前記背側部の幅方向の中央域と前記サイドシール部近傍とを避けて配されている請求項1又は2記載のパンツ型着用物品。 【請求項4】 前記パンツ型着用物品はパンツ型おむつであり、その肌当接面側に、液保持性の吸収性本体が前記股下部から前記腹側部及び前記背側部へと架け渡して配されており、前記第1シート材の前記スリット領域が、前記吸収性本体の配置領域近傍と前記サイドシール部近傍とを避けて配されている請求項1?3のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 【請求項5】 前記第1シート材において、身丈方向で隣り合う前記スリット部同士に挟まれた部分が横長の帯部とされ、該帯部の側縁部に前記第2シート材との非固定部を有し、該非固定部にフリルが形成されている請求項1?4のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 【請求項6】 前記第1シート材が前記外装体を構成する外層材とされ、前記第2シート材が前記外装体を構成する内層材とされ、前記第1シート材が前記第2シート材の非肌当接面側に配置されている請求項1?5のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 理由1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 本件特許の請求項1における「スリット」なる語句が特定しようとする事項が不明確である。 すなわち、本件特許明細書の段落【0014】には「おむつ10の幅方向(X方向)に沿って横長のスリット部38が部分的に複数形成されている。すなわち、スリット部38は、外層材33の幅全体ではなく、その一部に所定幅で配されており・・・」等の記載があるが、請求項1では「スリット」の形状や長さ方向等が特に規定されていないため、例えば、甲第3号証(特開2002-65731号公報)の「スリット8」や、甲第4号証(特開2009-225966号公報)の「スリット16」との異同が不明となっている。 したがって、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)及び請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明は明確であるとはいえない。 理由2.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本件特許の請求項1には、第2シート材にスリット部及びスリット領域を設けることを除外する記載がないから、本件発明1は、甲第6号証(特開2012-139247号公報)に記載されたパンツ型着用物品のように、本件特許明細書の段落【0006】に記載された課題を解決し得ないものをも含み得るものとなっている。 したがって、本件発明1及び請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とは必ずしもいえない。 (3)判断 以下に述べるとおり、上記理由1及び2はいずれも解消された。 ア.理由1について 訂正の認容により、請求項1における「スリット」は、例えば、甲第3号証(特開2002-65731号公報)の「縦方向に延びているスリット8」(段落[0028]及び[図1]、[図2]、[図4]、[図5]を参照)や、甲第4号証(特開2009-225966号公報)の「縦方向に延びる複数のスリット16」(段落[0018]及び[図1]、[図2]、[図4]ないし[図6]を参照)とは異なる、「幅方向に沿う横長のスリット」であることが明らかとなり、前記「スリット」が特定しようとする事項は明確となった。 したがって、本件発明1ないし6は明確である。 イ.理由2について 本件発明1は、高い通気性、柔軟性及び伸縮性を維持しつつ、外装体の強度を高めることを解決すべき課題としている(本件特許明細書の段落[0006])。 そして、本件発明1は、「前記腹側部および前記背側部には、第1シート材と第2シート材とを積層した外装体が配され、該外装体は幅方向に伸縮性を有し、前記第1シート材には、前記幅方向に沿う横長のスリット部を、身丈方向に複数配したスリット領域があり、該スリット領域が間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有する」(下線は、当審にて付与。)という発明特定事項により、第2シート材の構造(スリットや孔の有無等)にかかわらず、上記課題を解決したものであることが、以下の(ア)ないし(オ)に示す、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかである。 また、本件発明1の「幅方向に沿う横長のスリット部」は、第1シート材の幅方向の全域にわたるものではないことが、本件発明1において、「スリット部を、身丈方向に複数配したスリット領域が、間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有する」こと及び(ア)の記載から明らかである。 ゆえに、本件発明1の「幅方向に沿う横長のスリット部」には、本件特許明細書の段落[0004]及び[0005]に、背景技術の一つとして記載されている甲第6号証(特開2012-139247号公報)の「外装体の構成材料になる第1シート材を幅方向に複数にスリットして複数本のテープ状シート材を形成」したもの(同公報の[請求項1]、[請求項6]及び段落[0063]を参照)のような、そもそも上記課題を解決しないものは含まれないといえる。 したがって、本件発明1ないし6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。 <本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載> (ア)段落[0014] 外層材33には、おむつ10の幅方向(X方向)に沿って横長のスリット部38が部分的に複数形成されている。すなわちスリット部38は、外層材33の幅全体ではなく、その一部に所定幅で配されており、これにより外層材は分離せず身丈幅Hのシート形状としての一体性を保持している。このスリット部38が身丈方向(Y方向)に複数配されてスリット領域71を構成している。 (イ)段落[0015] スリット領域71は、下腹部域H2において、幅方向(X方向)の両側域S,Sにそれぞれ形成されている。 (ウ)段落[0016] 一方、外層材33の中央域M(M2+M1+M2)は、下腹部域H2において、スリット部38が形成されていない非スリット領域72とされている(以下、この領域を他の非スリット領域との区別するため、非スリット領域72Mともいう。)。また、サイドシール部25近傍の側域外方部S2は、外層材33の身丈幅Hの全域に亘って非スリット領域72とされている(以下、この領域を他の非スリット領域と区別するため、非スリット領域72Sともいう。)。 (エ)段落[0019] スリット領域71においては、伸縮性を有する外装体の幅方向の収縮によりスリット部38のすきまが広がり、腹側部21及び背側部23の通気口となる。また、おむつ10装着後の着用者の体の動きなどで外装体11が伸長?収縮すると、その動きに合わせて通気口が開閉しおむつ内の湿気排出を促し、通気性をさらに高める。 (オ)段落[0020] スリット領域11による高い通気性及び柔軟性は、前述の身丈方向に連なる非スリット領域72によって、持続可能である。これは、非スリット領域72によりスリット領域71の切り込みによる強度の低下が補強され、該スリット領域71の伸縮性が保持されることによる。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、平成28年4月8日付け意見書で、本件発明1ないし6に関し、依然として上記理由1及び2が解消されていない旨及び進歩性を有しない旨の意見を述べている。 しかしながら、上記(3)で述べたとおり、上記理由1及び2は解消されており、また、進歩性についても、甲第1号証ないし6号証には、上記発明特定事項が記載も示唆もされていない。 したがって、上記意見はいずれも失当である。 (5)むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 着用者の腹側に配される腹側部と、股間部に配される股下部と、背側に配される背側部とを有し、腹側部の側縁部と背側部の側縁部とが接合されたサイドシール部を有するパンツ型着用物品であって、 前記腹側部および前記背側部には、第1シート材と第2シート材とを積層した外装体が配され、該外装体は幅方向に伸縮性を有し、 前記第1シート材には、前記幅方向に沿う横長のスリット部を、身丈方向に複数配したスリット領域があり、該スリット領域が間隔をおいて並ぶ配列を前記第1シート材の幅方向に有するパンツ型着用物品。 【請求項2】 前記腹側部及び前記背側部において、前記第1シート材と前記第2シート材との間に弾性体が前記スリット部を避けて幅方向に配されており、前記弾性体の端部が、前記スリット領域と幅方向に並ぶ非スリット領域で、前記第1シート材及び前記第2シート材によって挟持され接合固定されている請求項1記載のパンツ型着用物品。 【請求項3】 前記スリット領域が、前記腹側部及び前記背側部の幅方向の中央域と前記サイドシール部近傍とを避けて配されている請求項1又は2記載のパンツ型着用物品。 【請求項4】 前記パンツ型着用物品はパンツ型おむつであり、その肌当接面側に、液保持性の吸収性本体が前記股下部から前記腹側部及び前記背側部へと架け渡して配されており、前記第1シート材の前記スリット領域が、前記吸収性本体の配置領域近傍と前記サイドシール部近傍とを避けて配されている請求項1?3のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 【請求項5】 前記第1シート材において、身丈方向で隣り合う前記スリット部同士に挟まれた部分が横長の帯部とされ、該帯部の側縁部に前記第2シート材との非固定部を有し、該非固定部にフリルが形成されている請求項1?4のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 【請求項6】 前記第1シート材が前記外装体を構成する外層材とされ、前記第2シート材が前記外装体を構成する内層材とされ、前記第1シート材が前記第2シート材の非肌当接面側に配置されている請求項1?5のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品。 【請求項7】 着用者の腹側に配される腹側部と、股間部に配される股下部と、背側に配される背側部とを有するパンツ型着用物品の製造方法であって、 該パンツ型着用物品の外装体をなす第1シート材の連続体と第2シート材の連続体とをそれぞれ搬送し、 前記第1シート材の連続体に対し、搬送方向に沿って形成されるスリット部を複数、搬送方向に直交する方向に間隔をおいて配するスリット領域を形成し、該スリット領域を搬送方向に間隔をおいて複数形成する工程と、 前記第1シート材の連続体と第2シート材の連続体とを積層し、前記外装体の腹側部と背側部とを形成する工程と、 前記腹側部及び前記背側部を対向させて重ね合わせ、該腹側部及び背側部の両側縁をそれぞれ接合してサイドシール部を形成する工程と、 前記サイドシール部で切断して個々のパンツ型着用物品に分離する工程と、 を備えるパンツ型着用物品の製造方法。 【請求項8】 前記外装体の腹側部及び背側部の形成工程において、前記第1シート材の連続体と第2シート材の連続体との間に、前記スリット部を避けて弾性体を伸長状態で導入し、該弾性体を前記第1シート材の連続体と前記第2シートの連続体とで挟持して接合固定する工程を備える請求項7記載のパンツ型着用物品の製造方法。 【請求項9】 前記外装体の腹側部及び背側部の形成工程において、前記弾性体をホットメルト接着剤を塗布した状態で導入し、前記第1シート材の連続体と前記第2シート材の連続体とで挟持して接合固定する請求項8記載のパンツ型着用物品の製造方法。 【請求項10】 前記前記外装体の腹側部及び背側部の形成工程において、前記スリット領域と搬送方向に並ぶ非スリット領域で、前記第1シート材の連続体及び前記第2シート材の連続体の少なくとも一方にホットメルト接着剤を塗布して、前記弾性体を接合固定する請求項8又は9記載のパンツ型着用物品の製造方法。 【請求項11】 前記前記外装体の腹側部及び背側部の形成工程において、前記第1シート材の連続体と前記第2シート材の連続体との間に前記弾性体を介在させた状態で、前記第1シート材の連続体のスリット領域における帯部の側縁部を前記第2シート材とエンボス接合する請求項8?10のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品の製造方法。 【請求項12】 前記サイドシール部の形成工程において、前記第2シート材同士を内側に対向させて前記腹側部と前記背側部と重ね合わせる請求7?11のいずれか1項に記載のパンツ型着用物品の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-07-12 |
出願番号 | 特願2013-101715(P2013-101715) |
審決分類 |
P
1
652・
537-
YAA
(A61F)
P 1 652・ 121- YAA (A61F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 新田 亮二 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 渡邊 豊英 |
登録日 | 2015-03-06 |
登録番号 | 特許第5706925号(P5706925) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | パンツ型着用物品およびその製造方法 |
代理人 | 後藤 隆 |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 飯田 敏三 |
代理人 | 後藤 隆 |