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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
管理番号 1320197
異議申立番号 異議2015-700311  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-15 
確定日 2016-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5736409号発明「クリーム用油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5736409号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、5、6〕、2、4、〔3、7、8〕について訂正することを認める。 特許第5736409号の請求項1、3、5?8に係る特許を維持する。 特許第5736409号の請求項2、4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5736409号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年5月27日に出願され、平成27年4月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人村瀬典子により特許異議の申立てがされ、平成28年3月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月9日に意見書及び訂正請求書の提出があったものである。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成28年5月9日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正前の請求項1に
「【請求項1】
25?55質量%のラウリン系油脂、及び30?75質量%の液状油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、且つ
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含む、前記油脂組成物。」
とあるのを、
「【請求項1】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。」
と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)。
(2)請求項2及び4を削除する。
(3)訂正前の請求項3に
「【請求項3】
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油、ハイオレイックヒマワリ油、及びハイオレイックサフラワー油からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。」
とあるのを
「【請求項3】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記パーム系油脂は、パームダブルオレインであり、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。」
と訂正する。
(4)訂正前の請求項5に
「【請求項5】
前記飲料がコーヒーである、請求項1?4のいずれか1項に記載の油脂組成物。」
とあるのを
「【請求項5】
前記飲料がコーヒーである、請求項1に記載の油脂組成物。」
と訂正する。
(5)訂正前の請求項6に
「【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。」
とあるのを
「【請求項6】
請求項1又は5に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。」
と訂正する。
(6)新たな請求項として
「【請求項7】
前記飲料がコーヒーである、請求項3に記載の油脂組成物。
【請求項8】
請求項3又は7に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。」
を追加する。

2 訂正の適否
(1)請求項1に係る訂正は、ラウリン系油脂について、含量範囲を「25?55質量%」から「30?50質量%」へと狭めるとともに、「パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせ」であることを特定し、液状油脂について、含量範囲を「30?75質量%」から「40?70質量%」へと狭めるとともに、「ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である」ことを特定し、さらに、油脂組成物が「0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂」を含むことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を引用する請求項5、6についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、特許明細書に、「ラウリン系油脂の割合は、30?50質量%であることが好ましく」(【0012】)、「ラウリン系油脂がパーム核ステアリンのみから構成されていてもよいが、パーム核ステアリン以外のラウリン系油脂を更に含んでいてもよい。パーム核ステアリン以外のラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、これらのエステル交換、分別、配合等の処理を行った油脂が挙げられる。これらの中でも、パーム核油、ヤシ油が好ましく、パーム核油がより好ましい。パーム核ステアリン以外のラウリン系油脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。」(【0014】)、「液状油脂は、クリーム用油脂組成物の全質量に対して、35?70質量%の割合で含まれることがより好ましく、40?65質量%の割合で含まれることがさらにより好ましく」(【0016】)、「液状油脂の具体例としては、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックナタネ油、・・・が挙げられる。・・・これらの油脂を2種類以上組み合わせて用いてもよい。」(【0015】)、「本発明のクリーム用油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、ラウリン系油脂及び液状油脂以外の油脂(以下、その他の油脂と呼ぶことがある)を含んでいてもよい。その他の油脂としては、例えば、パーム系油脂が挙げられる。その他の油脂は、クリーム用油脂組成物の全質量に対して0?25質量%の割合で含まれることが好ましく、0?20質量%の割合で含まれることが好ましい。」(【0017】)、「パーム系油脂としては、パームオレイン、パームダブルオレインが好ましく、パームダブルオレインがより好ましい。パーム系油脂は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。」(【0017】)と記載され、パームダブルオレインを15質量%含む実施例7、8が記載されている(【0036】【表5】)ことから、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2及び4を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3に係る訂正は、訂正前の請求項1を引用するものについて独立形式に改めた上で、ラウリン系油脂について、含量範囲を「25?55質量%」から「30?50質量%」へと狭めるとともに、「パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせ」であることを特定し、液状油脂について、含量範囲を「30?75質量%」から「40?70質量%」へと狭めるとともに、「ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である」ことを特定し、さらに、油脂組成物が「0?15質量%のパーム系油脂」を含み「前記パーム系油脂は、パームダブルオレイン」であることを特定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記(1)で検討したのと同様に、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項5に係る訂正は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項6に係る訂正は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)新たな請求項7及び8は、請求項3と請求項1の引用関係が解消されたことに伴い、訂正前の請求項5のうち請求項3を引用するもの、及び、訂正前の請求項6のうち請求項3、5を引用するものを、それぞれ請求項1を引用しない新たな請求項として、請求項1との引用関係を解消したものである。よって、新たな請求項7及び8を追加する訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、5、6〕、2、4、〔3、7、8〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記パーム系油脂は、パームダブルオレインであり、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記飲料がコーヒーである、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。
と訂正する。
【請求項7】
前記飲料がコーヒーである、請求項3に記載の油脂組成物。
【請求項8】
請求項3又は7に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。

2 取消理由の概要
平成28年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

「1.本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2.本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用文献1(甲第1号証):特開2009-153491号公報 」

3 引用文献の記載
引用文献1には、以下の記載がある。

「【請求項1】
トランス酸含有量が2質量%以下の油脂組成物であって、構成脂肪酸としてラウリン酸12?20質量%、パルミチン酸12?20質量%、オレイン酸40?50質量%を含み、25℃おけるSFCが5?10、20℃におけるSFCが7?15、15℃におけるSFCが12?20である、液状コーヒーホワイトナー用油脂組成物。
【請求項2】
下記のA成分の油脂とB成分の油脂とC成分の油脂をランダムエステル交換して得られる請求項1記載の液状コーヒーホワイトナー用油脂組成物。
A成分:ヤシ油、パーム核油およびそれらの分別油から選ばれる1種又は2以上であるラウリン系油脂。
B成分:ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワ-油、ハイオレイックナタネ油、ハイオレイック大豆油、オリーブ油から選ばれる1種又は2以上であるオレイン系油脂。
C成分:パーム油およびその分別油から選ばれる1種又は2以上であるパルミチン系油脂。」

「【0015】
A成分の油脂は、天然界ではヤシ、パーム核から抽出される油脂が挙げられ、その分別油脂も含まれる。具体的には、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリンが挙げられる。このようなラウリン系油脂は、ラウリン酸含量が40質量%以上であり、融点は36℃以下である。ラウリン系油脂を用いることにより、ホワイトナーの口どけを良くし、風味安定性を向上することができる。ラウリン系油脂において、分別した液体部は室温領域でのSFCが比較的低いため、パーム核油そのまま、またはパーム核油を分別して得られた固体部のパーム核ステアリンを用いることが好ましい。
【0016】
B成分の油脂は、ヒマワリ種子、ベニバナ種子、ナタネ種子、大豆、オリーブ果実から抽出される油脂が挙げられ、その分別油脂も含まれる。具体的には、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワ-油、ハイオレイックナタネ油、ハイオレイック大豆油、オリーブ油などを挙げることができる。これらの油脂は融点5℃以下の室温で液体の油である。その構成脂肪酸としてオレイン酸を65?90質量%含む油脂の使用が好ましい。オレイン酸を多く含むことにより、融点が低いにもかかわらず良好な風味が長期に安定化できる。
【0017】
C成分の油脂は、パームから抽出される油脂が挙げられ、その分別油脂も含まれる。具体的には、パーム油、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクションが挙げられる。このような油脂はパルミチン酸を35質量%以上で含む。パルミチン酸を含むことにより、コーヒーホワイトナーにおいて室温での好ましい粘性を得ることができる。これら油脂において、比較的パルミチン酸含量が多いパーム油、パームステアリンがより好ましい。
【0018】
本発明のコーヒーホワイトナー用油脂組成物は、その組成にもよるが、A成分を30?50質量%、B成分を30?50質量%、C成分10?40質量%を混合し、ランダムエステル交換することにより製造することができる。」

以上によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「トランス酸含有量が2質量%以下の油脂組成物であって、構成脂肪酸としてラウリン酸12?20質量%、パルミチン酸12?20質量%、オレイン酸40?50質量%を含み、25℃おけるSFCが5?10、20℃におけるSFCが7?15、15℃におけるSFCが12?20であり、
下記のA成分の油脂30?50質量%、B成分の油脂30?50質量%、C成分の油脂10?40質量%をランダムエステル交換して得られる液状コーヒーホワイトナー用油脂組成物。
A成分:ヤシ油、パーム核油およびそれらの分別油から選ばれる1種又は2以上であるラウリン系油脂であって、パーム核ステアリンを用いることが好ましい。
B成分:ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックサフラワ-油、ハイオレイックナタネ油、ハイオレイック大豆油、オリーブ油から選ばれる1種又は2以上であるオレイン系油脂。
C成分:パーム油およびその分別油から選ばれる1種又は2以上であるパルミチン系油脂。」(以下「引用発明1」という。)

4 対比
(1)本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「A成分の油脂」、「B成分の油脂」、「C成分の油脂」、「液状コーヒーホワイトナー用油脂組成物」は、それぞれ、本件発明1の「ラウリン系油脂」、「液状油脂」、「パーム系油脂」、「飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物」に相当する。
引用発明1のA成分の油脂が「30?50質量%」であることは、本件発明1のラウリン系油脂が「30?50質量%」であることに相当し、引用発明1のB成分の油脂が「30?50質量%」であることは、本件発明1の液状油脂が「40?70質量%」であることと「40?50質量%」の範囲で重複し、引用発明1のC成分の油脂が「10?40質量%」であることは、本件発明1のパーム系油脂が「0?15質量%」であることと「10?15質量%」の範囲で重複する。
引用発明1の「A成分」は、「パーム核ステアリンを用いることが好ましい」ものであり、この場合、本件発明1の「前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンである」に相当するとともに、「ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部」含むものに相当する。
引用発明1の「B成分」は、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックナタネ油を選択肢に含み、引用文献1に「B成分の油脂は・・・構成脂肪酸としてオレイン酸を65?90質量%含む油脂の使用が好ましい」(【0016】)と記載されていることから、本件発明1の「前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である」ものに相当する。
よって、本件発明1と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
30?50質量%のラウリン系油脂、40?50質量%の液状油脂、並びに10?15質量%のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。

(相違点a)
本件発明1は、パーム系油脂が「パームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種」と特定されているのに対し、引用発明1のC成分の油脂はそのように特定されていない点。

(2)本件発明3と引用発明1とを対比すると、両者の一致点は上記(1)に示した本件発明1と引用発明1との一致点と同じであり、両者の相違点は以下のとおりである。

(相違点b)
本件発明3は、パーム系油脂が「パームダブルオレインであり」と特定されているのに対し、引用発明1のC成分の油脂はそのように特定されていない点。

5 判断
(1)相違点aについて
引用文献1には、C成分として「パームオレイン」が例示されている(【0017】)。
しかし、引用発明1は、「トランス酸含有量が2質量%以下の油脂組成物であって、構成脂肪酸としてラウリン酸12?20質量%、パルミチン酸12?20質量%、オレイン酸40?50質量%を含み、25℃おけるSFCが5?10、20℃におけるSFCが7?15、15℃におけるSFCが12?20であり」との条件を満たすべきところ、10?15質量%のパーム系油脂(C成分)を「パームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種」とした場合には、上記条件を満たすことができない。
すなわち、引用発明1において、C成分として「パームオレイン」を選択した場合に、含まれるパルミチン酸を最大に見積もると、
・A成分として、パルミチン酸9.4質量%のパーム核ステアリン(乙第1号証:「パーム油・パーム核油の利用」、株式会社幸書房、1990年7月31日、p.114-115)を45質量%
・B成分として、パルミチン酸3.9質量%のハイオレイックヒマワリ油(乙第4号証:「第四版 油化学便覧-脂質・界面活性剤-」、丸善株式会社、平成13年11月20日、p.613)を40質量%
・C成分として、パルミチン酸40.8質量%のパームオレイン(乙第6号証:「フライ食品の理論と実際」、復刻版、株式会社幸書房、2006年12月20日、p.125-126)を15質量%
を含む場合に、含まれるパルミチン酸が最大となるが、その含有割合は、
9.4質量%×0.45+3.9質量%×0.40+40.8質量%×0.15=11.91質量%
であって、12?20質量%の範囲に満たない。
しかも、このときのラウリン酸の含有割合は、A成分のパーム核ステアリンが55.2質量%のラウリン酸を含む(乙第1号証)から、少なくとも55.2質量%×0.45=24.84質量%であり、12?20質量%の範囲を超えている。
なお、C成分を「パームダブルオレイン」とした場合は、「パームオレイン」の場合よりも、更にパルミチン酸の含有割合は小さくなる。

特許異議申立人は、パームオレイン15質量%、ハイオレイックヒマワリ油40質量%、パーム核ステアリン30質量%、パーム油15質量%を含む場合に、引用発明1の上記条件を満たす旨を主張する(平成28年6月15日付け意見書3頁1行?4頁23行)。
しかし、本件発明1は、パーム系油脂に関して、「0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂を含む」と特定されているものである。上記「0?15質量%」は、特許明細書の【0017】及び【0036】【表5】の記載も踏まえると、パーム系油脂の総量を特定していると解される。そうすると、引用発明1の組成を、上記特許異議申立人が主張するものとした場合には、パーム系油脂として「パーム油」を含むことになり、パーム系油脂の割合が30質量%となるので、本件発明1の「0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂を含む」点が、引用発明1との相違点となる。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

したがって、引用発明1において、10?15質量%のパーム系油脂を「パームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種」とすることはできず、上記相違点aに係る構成を採用することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(2)相違点bについて
上記(1)に示したとおり、引用発明1において、10?15質量%のパーム系油脂を「パームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種」とすることができないのであるから、10?15質量%のパーム系油脂を「パームダブルオレイン」とすることもできない。
よって、引用発明1において、上記相違点bに係る構成を採用することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1、3は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明5、6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当し、本件発明7、8は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。よって、本件発明5?8も、同様に、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、上記取消理由によっては、請求項1、3、5?8に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1、3、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2及び4は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項2及び4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパームオレイン及びパームダブルオレインからなる群から選択される少なくとも1種のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
30?50質量%のラウリン系油脂、40?70質量%の液状油脂、並びに0?15質量%のパーム系油脂を含む、飲料用又は飲料成分を含むゼリー用のクリームに用いるための油脂組成物であって、
前記ラウリン系油脂が、パーム核ステアリンであるか、或いは、パーム核ステアリンとパーム核油及びヤシ油からなる群から選択される少なくとも1種との組み合わせであり、
ラウリン系油脂が、ラウリン系油脂100質量部に対してパーム核ステアリンを10質量部?100質量部含み、
前記パーム系油脂は、パームダブルオレインであり、
前記液状油脂は、構成脂肪酸としてオレイン酸を60質量%以上含み、且つ
液状油脂が、ハイオレイックナタネ油及びハイオレイックヒマワリ油からなる群から選択される少なくとも1種である、前記油脂組成物。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記飲料がコーヒーである、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。
【請求項7】
前記飲料がコーヒーである、請求項3に記載の油脂組成物。
【請求項8】
請求項3又は7に記載の油脂組成物を含む、コーヒークリーム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-07-29 
出願番号 特願2013-111166(P2013-111166)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23D)
P 1 651・ 113- YAA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
佐々木 正章
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5736409号(P5736409)
権利者 太陽油脂株式会社
発明の名称 クリーム用油脂組成物  
代理人 弟子丸 健  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 西島 孝喜  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 市川 さつき  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  

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