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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1320203
異議申立番号 異議2015-700187  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-13 
確定日 2016-08-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5719078号発明「吸水性樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5719078号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5-6〕について訂正することを認める。 特許第5719078号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5719078号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年10月31日に特許出願され、平成27年3月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社日本触媒(以下、単に「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし6に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成28年2月3日付けで請求項5及び6に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年3月30日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年4月18日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である同年5月19日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。



第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項(1)のとおりである。

訂正事項(1) 請求項5の「(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が15ml/g以上」を「(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が20?32ml/g」に訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)の訂正は請求項5において、(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能について、「15ml/g以上」との特定を、本件特許明細書の段落【0054】の記載に基づき「20?32ml/g」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、この訂正は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項5及び6について訂正を認める。



第3 本件特許発明について

本件訂正請求により訂正された請求項5及び6に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明5」及び「本件特許発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項5及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項5】
水溶性エチレン性不飽和モノマーを内部架橋剤の存在下に重合し、重合後以降において後架橋剤を添加して後架橋反応することにより得られる吸水性樹脂であって、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸及びその塩であり、重合に用いられる水溶性エチレン性不飽和モノマー100モルに対して、内部架橋剤の使用量が0.001?0.013モルである、以下(A)?(D)をすべて満たす吸水性樹脂。
(A)生理食塩水保水能が36?60g/g
(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が20?32ml/g
(C)垂直拡散吸水能が4.0ml/g以上
(D)残存モノマーの含有量が180ppm以下
【請求項6】
請求項5に記載の吸水性樹脂を用いる吸収性物品。」



第4 取消理由の概要

当審において平成28年2月3日付けで通知した取消理由の概要は、請求項5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前の2012年10月4日に頒布された国際公開第2012/132861号(以下、「甲1文献」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は取り消すべきものであり(以下、「取消理由1」という。)、請求項5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前の平成20年6月12日に頒布された特開2008-133396号公報(以下、「甲4文献」という。)に記載された発明及び本件特許の優先日前の2012年4月5日に頒布された国際公開第2012/043821号(以下、「甲8文献」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消すべきものであり(以下、「取消理由2」という。)、また、請求項5及び6に係る発明は、明確でないから、その特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由3」という。)、というものである。



第5 当審の判断

1.取消理由1の検討
ア 本件特許発明5に係る特許についての検討
甲1文献の実施例1(段落【0078】?【0082】)には吸水性樹脂を得ることが具体的に記載されており、表1(段落【0109】)には得られた吸水性樹脂の物性が記載されているから、これらの記載によれば、甲1文献には、当該得られる吸水性樹脂をもとにした以下の発明(以下「甲1樹脂発明」という。)が記載されているといえる。
「撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計および窒素ガス導入管を備えた1000mL容の五つ口円筒型丸底フラスコにn-ヘプタン340gを仕込み、これにHLBが3.0のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学株式会社の商品名「S-370」)0.83gを加えて分散させながら昇温して溶解させた後、55℃まで冷却し、これとは別に、500mL容の三角フラスコに80.5質量%アクリル酸水溶液92g(1.03モル)を仕込み、これに対し、外部から冷却しながら20.9質量%水酸化ナトリウム水溶液147.6g(0.77モル)を滴下し、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤である2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.0552g(0.00020モル)および内部架橋剤であるエチレングリコールジグリシジルエーテル0.0102g(0.000059モル)を添加し、1段目重合用の単量体水溶液を調製し、また、別の500mL容の三角フラスコに80.5質量%アクリル酸水溶液128.8g(1.44モル)を仕込み、これに対し、外部から冷却しながら26.9質量%水酸化ナトリウム水溶液160.56g(1.08モル)を滴下し、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、水溶性アゾ系ラジカル重合開始剤である2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.0772g(0.00028モル)および内部架橋剤であるエチレングリコールジグリシジルエーテル0.0116g(0.000067モル)を添加し、2段目重合用の単量体水溶液を調製し、この2段目重合用の単量体水溶液は、氷水浴を用いて冷却したものを準備し、五つ口円筒型丸底フラスコに対して1段目重合用の単量体水溶液を撹拌下で全量加えて分散させ、系内を窒素で十分に置換した後に昇温し、浴温を70℃に保持して重合反応を1時間行い、そして、得られた重合スラリー液を室温まで冷却した後、この重合スラリー液に対して2段目重合用の単量体水溶液の全量を添加し、再び系内を窒素で十分に置換した後に昇温し、浴温を70℃に保持して2段目の重合反応を2時間行った後、五つ口円筒型丸底フラスコを120℃の油浴で加熱し、反応系の水とn-ヘプタンとを共沸させることでn-ヘプタンを還流しながら、174.8gの水を系外へ抜き出し(第1脱水段階、残水率は62%)、ここで、過硫酸カリウム0.3092g(0.0011モル)を水15.0gに溶解した水溶液を添加し、80℃で20分間保持し、さらに、水とn-ヘプタンとを共沸させることでn-ヘプタンを環流しながら、43.7gの水を系外へ抜き出し(第2脱水段階、残水率は49%)、ここで、亜硫酸ナトリウム0.2208g(0.00175モル)を水10.0gに溶解した水溶液を添加し、80℃で20分間保持し、続いて、水とn-ヘプタンとを共沸させることでn-ヘプタンを環流しながら、62.3gの水を系外へ抜き出した(残水率は25%)後、後架橋剤であるエチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液4.415g(0.0007モル)を添加し、80℃で2時間保持し、さらに、n-へプタンおよび水を蒸発させて乾燥することによって得られる、生理食塩水保水能が42g/g、荷重下吸水能が20ml/g、残存モノマー含有量が32ppmである、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂。」
そこで、甲1樹脂発明における内部架橋剤であるエチレングリコールジグリシジルエーテルの使用量を計算すると、1段目と2段目とを合計して0.0051モル/アクリル酸(ナトリウム塩)100モルとなり、これは本件特許発明5の特定事項である「重合に用いられる水溶性エチレン性不飽和モノマー100モルに対して、内部架橋剤の使用量が0.001?0.013モルである」を満たすものである。
そして、甲1樹脂発明に係る吸水性樹脂(以下、「甲1樹脂」という。)が、本件特許発明5の(C)垂直拡散吸水能に係る特定事項を満たすかどうか以下に検討する。
特許異議申立人が提出した実験成績証明書(甲2)によれば、甲1文献の実施例1に記載された方法により製造された吸水性樹脂について、(C)垂直拡散吸水能が9.1ml/gと測定され、この値は本件特許発明5の(C)の特定事項である「垂直拡散吸水能が4.0ml/g以上」を満たすものである。
しかしながら、同じく実験成績証明書(甲2)によれば、甲1文献の実施例1に記載された方法により製造された吸水性樹脂について、(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が17ml/gと測定され、この値は本件特許発明5の(B)の特定事項である「4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が20?32ml/g」を満たすものではない。
したがって、本件特許発明5は、甲1文献に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明6に係る特許についての検討
本件特許発明6は、本件特許発明5を引用するものであるから、上記アにて示した判断と同様の理由により、甲1文献に記載された発明であるとはいえない。

2.取消理由2の検討
ア 本件特許発明5に係る特許についての検討
甲4文献の実施例1(段落【0056】?【0058】)には吸水性樹脂を得ることが具体的に記載されており、表1(段落【0088】)には得られた吸水性樹脂の物性が記載されているから、これらの記載によれば、甲4文献には、当該得られる吸水性樹脂をもとにした以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「内容積1リットルの三角フラスコに80重量%アクリル酸水溶液92gを入れ、外部から氷冷しつつ、30重量%水酸化ナトリウム水溶液102.2gを滴下して、アクリル酸の75モル%を中和し、さらに、水54.4gを加え、37重量%アクリル酸部分中和塩水溶液を調製し、得られたアクリル酸部分中和塩水溶液に、内部架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド8.3mg、水溶性ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.11g、及びN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン0.046gを添加し、これを重合用溶液として、攪拌機、攪拌翼、還流冷却器、滴下ロート及び窒素ガス導入菅を備えた内容積2リットルの5つ口円筒型丸底フラスコに、n-ヘプタン321gを加え、ショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、商品名:リョートーシュガーエステルS-370)0.92g及び無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)製、ハイワックス1105A)0.92gを加えて溶解させた後、前記重合溶液を加えて、攪拌下で懸濁させ、系内を窒素ガスで置換し、引き続き70℃の水浴で昇温し、1時間保持して逆相懸濁重合を行った後、125℃の油浴で反応液を昇温し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら120gの水を系外へ除去した後、後架橋剤として2重量%エチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液3.0gを添加して、80℃で2時間保持し、さらに水及びn-ヘプタンを125℃で留去して得られる、生理食塩水保水能が38g/g、4.14kPa加圧下での生理食塩水保水能が21ml/gである、吸水性樹脂。」
本件特許発明5と甲4発明とを対比する。
甲4発明における内部架橋剤であるN,N’-メチレンビスアクリルアミドの使用量を計算すると、0.0053モル/アクリル酸(ナトリウム塩)100モルとなり、これは本件特許発明5の特定事項を満たすものである。
そうすると、本件特許発明5と甲4発明とは、以下の相違点1及び2で相違し、相違点1及び2以外の点では一致するものであると認められる。

相違点1:本件特許発明5では、(C)垂直拡散吸水能が4.0ml/g以上であると特定されているのに対し、甲4発明では特に特定されていない点。
相違点2:本件特許発明5では、(D)残存モノマーの含有量が180ppm以下であると特定されているのに対し、甲4発明では特に特定されていない点。

以下、相違点1について検討する。
甲8文献には、「表面架橋されたアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を主成分とし、ポリカチオン及び水不溶性微粒子から選ばれる少なくとも1種のスペーサーを含む粒子状吸水剤であって、
粒子状吸水剤の無加圧下吊り下げ吸水倍率(FSC)が55?65[g/g]であり、加圧下吸水倍率(AAP-4.83kPa)が20?30[g/g]であり、かつ、加圧下垂直拡散吸収量(VDAUP-4.83kPa)が30?80gを満たすことを特徴とする、粒子状吸水剤。」(請求項1)が記載されており、その具体的なものとして、例えば実施例3には、無加圧下吸水倍率(CRC)が35[g/g]、無加圧下吊り下げ吸水倍率(FSC)が60[g/g]、加圧下吸水倍率(AAP-4.83kPa)が27[g/g]、かつ、加圧下垂直拡散吸収量(VDAUP)が41gであるものが記載されており(段落【0274】?【0276】、表3など)、甲8文献の発明の課題として、従来、無加圧下吸水倍率(CRC)に加えて、加圧下吸水倍率(例えば、AAP)や通液性(例えば、SFC、GBP)で評価されてきた吸水性樹脂について、紙オムツでの吸液時間、戻り量や絶対吸収量が向上する吸水剤及びその製造方法を提供することを目的として、従来多くのパラメータで規定した吸水性樹脂について、加圧下垂直拡散吸収量(VDAUP)という新規パラメータが紙オムツの戻り量に大きく影響を与える事実を見出したとも記載されている(段落【0017】?【0019】など)。
そうすると、甲8文献に接した当業者であれば、吸水性樹脂の加圧下垂直拡散吸収量(VDAUP)というパラメータが紙オムツの戻り量に大きく影響を与えることまでは理解でき、しかも、吸水性樹脂の技術分野において、無加圧下吸水倍率のみならず、加圧下吸水倍率も一般に広く用いられているものであることを考慮したとしても、加圧下のものではない(無加圧下での)垂直拡散吸収量という新たなパラメータが、加圧下垂直拡散吸収量(VDAUP)と同様に紙オムツの戻り量に大きく影響を与えるかどうかについては不明であるといわざるを得ない。そうであれば、甲8文献に接した当業者であったとしても、無加圧下での垂直拡散吸収量に着目することが容易になし得ることであるとまではいえない。
してみると、甲4発明において、甲8文献の記載をもってしても、無加圧下での垂直拡散吸水能をさらに特定することを想到することは、たとえ当業者であったとしても容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲4文献及び甲8文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明6に係る特許についての検討
本件特許発明6は、本件特許発明5を引用するものであるから、上記アにて示した判断と同様の理由により、甲4文献及び甲8文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.取消理由3の検討
ア 取消理由3は、本件特許発明5及び6に係る特許に対して、以下のとおりのものである。
「請求項5に係る発明は、『吸水性樹脂』という物の発明であるが、『水溶性エチレン性不飽和モノマーを内部架橋剤の存在下に重合し、重合後以降において後架橋剤を添加して後架橋反応することにより得られる』との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合、あるいは、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
また、請求項5を引用する請求項6に係る発明についても同様の理由により、その物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下『不可能・非実際的事情』という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件特許明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項5及び請求項5を引用する請求項6に係る発明は明確でない。」

イ これに対して、平成28年3月30日に権利者から意見書が提出され、「本件請求項5に係る吸水性樹脂は、水溶性エチレン性不飽和モノマーから構成されており、内部架橋剤及び後架橋剤を用いて多段階で架橋されている。ポリマーの架橋反応の制御は非常に難しく、そのため、生成する架橋構造も複雑なものとなる。とりわけ、本件請求項5に係る吸水性樹脂においては架橋反応を多段階(内部架橋及び後架橋)で行っており、吸水性樹脂の構造はさらに複雑なものとなる。よって、本件請求項5に係る吸水性樹脂の構造を直接規定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でなく、『不可能・非実際的事情』が存在する。」との主張がされ、斯かる主張は、当業者にとり理解出来るものであるといえる。
したがって、取消理由3は解消している。

4.特許異議申立人の意見について
ア 取消理由1について
(ア)特許異議申立人は、物性値は通常実験誤差を含むものであると主張し、甲1文献の実施例1に記載の方法により特許異議申立人が提出した実験成績証明書(甲2)を追試した結果(参考資料1)を示し、(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が20ml/gと測定され、この値は本件特許発明5の(B)の特定事項である「20?32ml/g」を満たすものであると主張している。
(イ)しかしながら、取消理由1はあくまでも特許異議の申立ての期間内に提出のあった甲2に基づいて通知したものであって、証拠の追加が認められるのは、基本的に特許異議の申立ての期間が経過する時までであるし、そもそも、その時々の実験によって、甲2や参考資料1の様にそれらの物性値が異なるのであれば、甲2が甲1文献の実施例1を忠実に再現したものであることを前提とする取消理由1もその根拠を失うものである。特許異議申立人の主張は採用することができない。

イ 取消理由2について
(ア)特許異議申立人は、本件訂正請求による訂正により、本件特許明細書の実施例3は本件特許発明5の範囲を満たさないものとなったところ、比較例となった実施例3の方が優れた結果となっているから、当該訂正は、何らの有利な効果を与えるものではなく、当該訂正による本件特許発明5の(B)の数値限定に臨界的意義は認められないと主張している。

(イ)しかしながら、取消理由2については、上記2.アで述べたとおりであって、本件訂正請求による訂正による本件特許発明5の(B)の数値限定に臨界的意義があるかどうかとは関係がない。特許異議申立人の主張は採用することができない。

ウ 取消理由3について
(ア)特許異議申立人は、参考資料2?4を添付して、吸水性樹脂における表面架橋の構造は、吸水性樹脂の表面研磨による架橋層の除去や、表面架橋層の顕微IR、残存表面架橋剤量等の分析等で、把握することが可能であり、当業者であれば、表面架橋の構造を把握するための方法を適宜採用することで、吸水性樹脂の表面架橋の構造を把握し、かつ、特定することは可能であるから、本件請求項5に係る吸水性樹脂の構造を直接規定することは、不可能であるか又はおよそ実際的でないとする特許権者の主張は不当であると主張している。

(イ)しかしながら、参考資料2は、Arイオン表面研磨を行った後、X線光電子分光ESCAにより官能基(金属原子濃度)を分析したものであって、実質的には、架橋表面のCOOH基濃度を測定することにより、表面架橋の均一性を評価するものであるし、参考資料3は、表面領域のカルボニル基又はアミノ基の吸光度をフーリエ変換赤外線吸光度計で測定することにより、表面架橋の均一性を評価するものであるし、参考資料4は、残存エポキシ基含有表面架橋剤量を分析するものであるから、せいぜい表面架橋の均一性や表面架橋に消費されたエポキシ基含有表面架橋剤量が把握されるにすぎな
いものであって、これらの参考資料によっても、吸水性樹脂における表面架橋の構造を、製造方法による特定をすることなくすべて明確に表現できるとまではいえない。特許異議申立人の主張は採用することができない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂を製造する方法であって、分散安定剤存在下、炭化水素分散媒中、アゾ系化合物と過酸化物とを同時に用いて、内部架橋剤の存在下に水溶性エチレン性不飽和モノマーを逆相懸濁重合させる際に、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸及びその塩であり、
アゾ系化合物、過酸化物及び内部架橋剤の使用量を、重合に用いられる水溶性エチレン性不飽和モノマー100モル当たり、それぞれAモル、Bモル、Cモルとした際に、以下の関係式
0.10≦B/(A+B) (1)
0.055≦B+9×C≦0.120 (2)
を満たし、0.0005モル≦B≦0.10モルであり、かつ重合後以降において後架橋剤を添加して後架橋反応することを特徴とする、吸水性樹脂の製造方法。
【請求項2】
アゾ系化合物が、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項3】
過酸化物が、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過酸化水素からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項4】
内部架橋剤が、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセリンジグリシジルエーテル及びN,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項5】
水溶性エチレン性不飽和モノマーを内部架橋剤の存在下に重合し、重合後以降において後架橋剤を添加して後架橋反応することにより得られる吸水性樹脂であって、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸及びその塩であり、重合に用いられる水溶性エチレン性不飽和モノマー100モルに対して、内部架橋剤の使用量が0.001?0.013モルである、以下(A)?(D)をすべて満たす吸水性樹脂。
(A)生理食塩水保水能が36?60g/g
(B)4.14kPa荷重下での生理食塩水吸水能が20?32ml/g
(C)垂直拡散吸水能が4.0ml/g以上
(D)残存モノマーの含有量が180ppm以下
【請求項6】
請求項5に記載の吸水性樹脂を用いる吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-03 
出願番号 特願2014-223298(P2014-223298)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 小野寺 務
前田 寛之
登録日 2015-03-27 
登録番号 特許第5719078号(P5719078)
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂の製造方法  
代理人 田中 光雄  
代理人 佐藤 剛  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 川添 雅史  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 佐藤 剛  
代理人 山崎 宏  
代理人 川添 雅史  

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