ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
---|---|
管理番号 | 1320204 |
異議申立番号 | 異議2015-700125 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-10-29 |
確定日 | 2016-08-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5718010号発明「水中油型乳化組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5718010号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第5718010号の請求項1、2、4?8に係る特許を維持する。 特許第5718010号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5718010号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成22年10月7日に特許出願され、平成27年3月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人田中精一により特許異議の申立てがなされ、平成28年1月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その後同年4月6日付けで手続補正指令が通知され、その指定期間内である同年4月28日に手続補正書(方式)の提出があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(13)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「油性成分の含有量が、組成物総量に対し12?55質量%である」とあるのを、 「油性成分の含有量が、組成物総量に対し15?50質量%である」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、 「(a) ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種又は2種以上のHLBが13.5以上のノニオン界面活性剤」とあるのを、 「(a) HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に、 「(b) HLBが6以下のノニオン界面活性剤」とあるのを、 「(b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2に、 「成分(a)におけるアルキル部分又は脂肪酸部分の炭素数が8?24である」とあるのを、 「成分(a)におけるアルキル部分又は脂肪酸部分の炭素数が12?22であり、エチレンオキサイド付加モル数が20?60である」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4に、 「ポリオキシエチレンセチルエーテル及びモノステアリン酸ポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上」とあるのを、 「ポリオキシエチレンセチルエーテル及びモノステアリン酸ポリエチレングリコール」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4に、 「請求項1?3のいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1又は2記載の」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項5に、 「その脂肪酸部分の炭素数が8?24である」とあるのを、 「その脂肪酸部分の炭素数が12?22である」と訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項5に、 「請求項1?4のいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1、2又は4記載の」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項6に、 「請求項1?5のいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1、2、4又は5記載の」と訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項7に、 「請求項1?6のいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1、2、4、5又は6記載の」と訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項8に、 「請求項1?7のいずれか1項記載の」とあるのを、 「請求項1、2、4、5、6又は7記載の」と訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の段落【0024】に「ポリオキシエチレンセチルエーテル(ポリオキシエチレン10?30)、」とあるのを、削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、3は、それぞれ請求項1の油性成分の含有量、成分(b)におけるHLBの範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2は、請求項1の成分(a)におけるノニオン界面活性剤の種類及びHLBの範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項4は、請求項2の成分(a)におけるアルキル部分又は脂肪酸部分の炭素数の範囲を限定すると共に、エチレンオキサイド付加モル数の範囲を具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項5は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項6は、請求項4の成分(a)におけるノニオン界面活性剤の種類を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項7、9?12は、訂正事項5で削除する請求項3を引用しないとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)訂正事項8は、請求項5の成分(b)における脂肪酸部分の炭素数を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)訂正事項13は、段落【0024】に例示された油剤から、油剤とはとはいえないことが技術常識から明らかである「ポリオキシエチレンセチルエーテル(ポリオキシエチレン10?30)」を削除するものであるから、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.一群の請求項 訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は、いずれも請求項1を直接又は間接に引用しており、訂正事項1?3によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 下記成分(a)?(c)を含有し、かつ、油性成分の含有量が、組成物総量に対し15?50質量%である水中油型乳化組成物。 (a) HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル 0.05?1.25質量% (b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤 0.1?2.5質量% (c) N-アシルグルタミン酸塩及びグリチルリチン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上のアニオン性両親媒性物質 0.02?1.5質量% 【請求項2】 成分(a)におけるアルキル部分又は脂肪酸部分の炭素数が12?22であり、エチレンオキサイド付加モル数が20?60である請求項1記載の水中油型乳化組成物。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 成分(a)が、ポリオキシエチレンセチルエーテル及びモノステアリン酸ポリエチレングリコールである請求項1又は2記載の水中油型乳化組成物。 【請求項5】 成分(b)が、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれ、その脂肪酸部分の炭素数が12?22である請求項1、2又は4記載の水中油型乳化組成物。 【請求項6】 成分(b)が、親油型モノステアリン酸グリセリルである請求項1、2、4又は5記載の水中油型乳化組成物。 【請求項7】 成分(c)が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、グチリルリチン酸ジカリウム及びグリチルリチン酸モノアンモニウム、並びにこれらを含有する植物抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上である請求項1、2、4、5又は6記載の水中油型乳化組成物。 【請求項8】 油性成分として、25℃でペースト状又は固形状の油剤を含有する請求項1、2、4、5、6又は7記載の水中油型乳化組成物。」 2.取消理由の概要 訂正前請求項1?8に係る発明についての特許に対して平成28年1月21日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。 (1)甲号証 甲第1号証:特開2001-335456号公報 甲第2号証:特開2007-186442号公報 甲第3号証:特開2007-186441号公報 甲第4号証:特開2007-186439号公報 甲第5号証:特開2007-8820号公報 甲第6号証:特開2006-28100号公報 甲第7号証:特開2007-197325号公報 甲第8号証:油化製品総合カタログ<<油化事業部>>、45?53頁、2015年7月 日油株式会社 甲第8-1号証:油化製品総合カタログ<<油化事業部>>、39頁、2010年7月 日油株式会社(http://www.nof.co.jp/upload_public/sogo/A0029_gaitou_R2.pdf)(当審で引用) 甲第9号証:NIKKOL 2008 Product Profiles、NIKKO CHEMICALS CO.,LTD、29?30、35?36、41?42、45?48頁 甲第10号証:日本化粧品成分表示名称事典、株式会社薬事日報社、2001、19頁 甲第11号証:特開2009-269880号公報 甲第12号証:特開2013-71914号公報 (2)理由1 請求項1?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、請求項1?5、7、8に係る発明は、甲第2?6号証いずれかに記載された発明であるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)理由2 請求項1?8に係る発明は、甲第1?6号証いずれかに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (4)理由3 発明の詳細な説明には、成分(a)としてHLB14のポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを単独使用した実施例が記載されておらず、成分(b)としてHLB4.5のモノステアリン酸グリセリルを使用した実施例しか記載されていない。そして、水中油型乳化組成物に含まれるノニオン界面活性剤の化学構造やHLBが異なれば、水中油型乳化組成物の保存安定性等は異なり、また、水中油型乳化組成物に成分(a)、(b)以外の界面活性剤を含めば水中油型乳化組成物の保存安定性等は異なるといえる。そうすると、請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (5)理由4 明細書の段落【0024】の油剤に「ポリオキシエチレンセチルエーテル(ポリオキシエチレン10?30)」という成分(a)とも解されるものが例示されている。そうすると、請求項1?8に係る発明は、明確でないから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 3.甲号証の記載 (1)甲第1号証 甲第1号証には、実施例8として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「ポリオキシエチレン(20モル)ステアリルエーテル 0.7重量%、モノステアリン酸ポリエチレングリコール1540 0.5重量%、親油型モノステアリン酸グリセリン 1重量%、グリチルリチン酸ジカリウム 0.1重量%、精製ひまわり油 5重量%、スクワラン 3重量%、ミリスチン酸オクチルドデシル 2重量%、セタノール 2重量%を含む水中油型乳液」 (2)甲第2号証 甲第2号証には、実施例3?5いずれかとして、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「POE(45)ステアリン酸 1.0質量%、セスキステアリン酸ソルビタン 1.5質量%、グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%、イソオクタン酸セチル 2.0重量%、スクワラン 8.0重量%、ジメチコン 2.0質量%、ベヘニルアルコール 0.5質量%、ステアリン酸セチル 0.5質量%、ベヘン酸 0.5質量%を含む乳液」 (3)甲第3?6号証 甲第3号証には、実施例3?5いずれかの乳液、甲第4号証には、実施例5?7いずれかの乳液、甲第5号証には、実施例3?5、比較例1いずれかの乳液、甲第6号証には、実施例1?3いずれかの乳液の発明(以下、「甲3?6発明」という。)が記載されており、いずれの発明もその組成等は甲2発明と同様である。 (4)甲第7号証 甲第7号証の段落【0030】には、「モノステアリン酸ポリエチレングリコール(1540)(商品名:ノニオンS-15.4、日本油脂株式会社製)」と記載されている。 (5)甲第8、8-1号証 甲第8号証の47頁には、日油株式会社製の製品名ノニオンS-15.4のHLBが16.8であること、甲第8-1号証の39頁には、日油株式会社製の製品名ノニオンRS-15.4(原文では、Rは○の中にRが記載された上付き文字である。)のHLBが16.9であることが記載されている。(日油株式会社は、平成19年10月1日、社名を日本油脂株式会社から日油株式会社へ変更している。) (6)甲第9号証 甲第9号証の35?36頁には、製品名NIKKOL SS-15V、化粧品成分表示名称セスキステアリン酸ソルビタン、医薬部外品成分表示名称セスキステアリン酸ソルビタンのHLBが4.2であることが記載されている。 また、甲第9号証の41?42頁には、製品名NIKKOL BS-20、化粧品成分表示名称ステアレス-20、医薬部外品成分表示名称ポリオキシエチレンステアリルエーテルのHLBが18.0であることが記載されている。 さらに、甲第9号証の47?48頁には、製品名NIKKOL MYS-45V又はNIKKOL MYS-45MV、化粧品成分表示名称ステアリン酸PEG-45、医薬部外品成分表示名称モノステアリン酸ポリエチレングリコールのHLBが18.0であることが記載されている。 4.当審の判断 (1)理由1、2 ア.本件発明1 (ア)本件発明1と甲1発明との対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ポリオキシエチレン(20モル)ステアリリルエーテル」及び「モノステアリン酸ポリエチレングリコール1540」が、本件発明1の「(a) ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル」に相当し、甲1発明の「親油型モノステアリン酸グリセリン」が、本件訂正明細書の段落【0016】からみて、本件発明1の「(b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤」に相当し、甲1発明の「グリチルリチン酸ジカリウム」が、本件発明1の「(c) グリチルリチン酸塩からなる群より選ばれる1種のアニオン性両親媒性物質」に相当する。 また、甲1発明の「精製ひまわり油」、「スクワラン」、「ミリスチン酸オクチルドデシル」及び「セタノール」が、本件発明1の「油性成分」に相当し、甲1発明の「精製ひまわり油」、「スクワラン」、「ミリスチン酸オクチルドデシル」及び「セタノール」の合計は12重量%である。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 相違点1: 成分(a)の両成分のHLBが、前者は「13.5?17」であるのに対し、後者はそのような特定を有していない点。 相違点2: 油性成分の含有量が、組成物総量に対し、前者は「15?50質量%」であるのに対し、後者は12重量%である点。 上記相違点1、2について検討する。 甲第1号証には、甲1発明において、成分(a)の両成分のHLB及び組成物総量に対する油性成分の含有量を本件発明1の特定事項を満たすものとすることは記載も示唆もされていない。 また、甲第2?12号証をみても、甲1発明において、成分(a)の両成分のHLB及び組成物総量に対する油性成分の含有量を本件発明1の特定事項を満たすものとすることは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1の「界面活性剤、水溶性高分子、油性成分等に由来するべたつき・ヌルつき感を感じさせない優れた使用感を有し、且つ保存安定性にも優れる」(本件訂正明細書段落【0011】)という効果は、甲第1?12号証からは予測し得ない。 以上から、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 したがって、理由1、2によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (イ)本件発明1と甲2発明との対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「POE(45)ステアリン酸」が、本件発明1の「(a) ポリエチレングリコール脂肪酸エステル」に相当し、甲2発明の「セスキステアリン酸ソルビタン」が、甲9号証の記載からみて、本件発明1の「(b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤」に相当し、甲2発明の「グリチルリチン酸ジカリウム」が、本件発明1の「(c) グリチルリチン酸塩からなる群より選ばれる1種のアニオン性両親媒性物質」に相当する。 また、甲2発明の「イソオクタン酸セチル」、「スクワラン」、「ジメチコン」、「ベヘニルアルコール」、「ステアリン酸セチル」及び「ベヘン酸」が、本件発明1の「油性成分」に相当し、甲2発明の「イソオクタン酸セチル」、「スクワラン」、「ジメチコン」、「ベヘニルアルコール」、「ステアリン酸セチル」及び「ベヘン酸」の合計は13.5重量%である。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。 相違点3: 前者は「(a) HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル 0.05?1.25質量%」であるのに対し、後者は「POE(45)ステアリン酸 1.5質量%」である点 相違点4: 油性成分の含有量が、組成物総量に対し、前者は「15?50質量%」であるのに対し、後者は13.5質量%である点 上記相違点3、4について検討する。 甲第2号証には、甲2発明において、成分(a)として、「HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル」も含むとすることは記載も示唆もされていない。 また、甲第1、3?12号証をみても、甲2発明において、成分(a)として、「HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル」も含むとすることは記載も示唆もされていない。 そして、甲第2号証には、甲2発明において、組成物総量に対する油性成分の含有量を本件発明1の特定事項を満たすものとすることは記載も示唆もされていない。 また、甲第1、3?12号証をみても、甲2発明において、組成物総量に対する油性成分の含有量を本件発明1の特定事項を満たすものとすることは記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1の「界面活性剤、水溶性高分子、油性成分等に由来するべたつき・ヌルつき感を感じさせない優れた使用感を有し、且つ保存安定性にも優れる」(本件訂正明細書段落【0011】)という効果は、甲第1?12号証からは予測し得ない。 以上から、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 したがって、理由1、2によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (ウ)本件発明1と甲3?6発明との対比・判断 甲3?6発明の組成等は甲2発明と同様であるから、本件発明1と甲3?6発明との対比・判断は上記(イ)で述べたのと同様である。 したがって、理由1、2によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 イ.本件発明2?8 本件発明2、4?8は、いずれも、本件発明1の特定事項を備えたものであるから、上記アで述べたのと同様の理由で、理由1、2によっては、本件発明2、4?8の特許を取り消すことはできない。 また、本件発明3は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、本件発明3に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 ウ.理由1、2のまとめ 理由1、2によっては、本件発明1、2、4?8の特許を取り消すことはできない。 また、本件訂正請求による訂正により、本件発明3に係る特許は削除されたため、請求項3について申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 (2)理由3 ア.本件訂正請求による訂正により、本件発明1において、「(a) HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル」と、成分(a)として2種類のノニオン界面活性剤を併用することが特定されると共にHLBも限定された。また、本件訂正請求による訂正により、本件発明1において、「(b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤」と、成分(b)のHLBが限定された。 イ.本件発明1、2、4?8が解決しようとする課題は、訂正明細書段落【0007】からみて、「界面活性剤、水溶性高分子、油性成分等に由来するべたつき・ヌルつきを感じさせない優れた使用感を有し、高温・低温時における保存安定性が極めて高い水中油型乳化組成物を提供すること」にあると解される。 そこで、訂正明細書をみると、本件発明1、2、4?8の特定事項を満たす実施例が、実施例2?4として記載されている。 そして、訂正明細書段落【0012】?【0019】において、成分(a)、(b)として実施例2?4で使用されているノニオン界面活性剤以外の化学構造やHLBを有するノニオン界面活性剤が使用できると記載されているし、また、特許権者は、平成28年3月25日付け意見書の追試2において、そのようなノニオン界面活性剤を使用しても、上記実施例2?4で示されたのと同様の作用効果が得られることを示してもいる。加えて、本件発明1、2、4?8が、その目的を損なわない範囲において、成分(a)、(b)以外の界面活性剤を含んでも良いことは技術常識から明らかであるし、また、特許権者は、上記追試2において、成分(a)、(b)以外の界面活性剤を含む水中油型乳化組成物でも上記実施例2?4で示されたのと同様の作用効果が得られることを示してもいる。 そうであれば、本件発明1、2、4?8は、当業者が上記課題を解決できると客観的に認識することができる範囲内といえる。 よって、本件発明1、2、4?8は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 ウ.したがって、理由3によっては、本件発明1、2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件訂正請求による訂正により、本件発明3に係る特許は削除されたため、請求項3について申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 (3)理由4 ア.本件訂正請求による訂正により、訂正明細書段落【0024】に例示される油剤から、「ポリオキシエチレンセチルエーテル(ポリオキシエチレン10?30)」は削除されている。 よって、本件発明1、2、4?8は、明確である。 イ.したがって、理由4によっては、本件発明1、2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件訂正請求による訂正により、本件発明3に係る特許は削除されたため、請求項3について申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、理由1?4によっては、本件発明1、2、4?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、2、4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正請求による訂正により、本件発明3に係る特許は削除されたため、請求項3について申立人がした特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水中油型乳化組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、保存安定性と使用感に優れ、化粧料、特に皮膚化粧料として好適な水中油型乳化組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、皮膚塗布時におけるべたつき・ヌルつきを感じさせない乳化物の調製法として、少量の油剤と界面活性剤とを使用して乳化させる方法や、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、アルキル変性カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子を使用して乳化させる方法、及びそれらを併用する方法などが知られている。しかし、これらの調製法を用いても、界面活性剤、水溶性高分子由来のべたつき・ヌルつきを感じさせない、十分に満足し得る乳化物を得ることは難しかった。 【0003】 一方、高級アルコール、アシルスルホン酸塩型アニオン界面活性剤及び極性油を組み合わせた水中油型乳化組成物が、高温から低温まで安定性が良好で、べたつき等がなく使用感触に優れるものとして報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、この組成物の高温・低温時における保存安定性は、実際には十分とはいえなかった。 【0004】 また、ポリグリセリンモノアルキルエステルと非イオン性界面活性剤を用いて、電解質の存在下で凝集しやすいベンゾトリアゾール型紫外線吸収剤を安定に分散せしめた水中油型乳化化粧料が報告されている(特許文献2参照)が、これも高温・低温時における保存安定性が著しく悪化する場合があった。 【0005】 特に近年、外国への輸送時に、船舶、車中などで、高温下若しくは極低温下で保管され、経時安定性に問題を生じる場合があり、使用感がよく、高温・低温時の保存安定性が極めて高い水中油型乳化組成物の提供が求められている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開2008-044866号公報 【特許文献2】特開2009-120492号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 すなわち、本発明は、界面活性剤、水溶性高分子、油性成分等に由来するべたつき・ヌルつきを感じさせない優れた使用感を有し、高温・低温時における保存安定性が極めて高い水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、比較的配合量の多い油性成分を、比較的少量の、HLB13.5以上のノニオン界面活性剤、HLB6以下のノニオン界面活性剤及びアニオン性両親媒性物質と組み合わせ、乳化させることで、使用感と保存安定性とを両立した水中油型乳化組成物が得られることを見出した。 【0009】 すなわち、本発明は、下記成分(a)?(c)を含有し、かつ、油性成分の含有量が、組成物総量に対し12?55質量%である水中油型乳化組成物を提供するものである。 【0010】 (a) HLBが13.5以上のノニオン界面活性剤 0.05?1.25質量% (b) HLBが6以下のノニオン界面活性剤 0.1?2.5質量% (c) アニオン性両親媒性物質 0.02?1.5質量% 【発明の効果】 【0011】 本発明の水中油型乳化組成物は、界面活性剤、水溶性高分子、油性成分等に由来するべたつき・ヌルつき感を感じさせない優れた使用感を有し、且つ保存安定性にも優れるものである。 【発明を実施するための形態】 【0012】 〔成分(a):HLBが13.5以上のノニオン界面活性剤〕 成分(a)であるHLBが13.5以上のノニオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの成分(a)の好ましいエチレンオキサイド付加モル数は、20?80が好ましく、20?60が更に好ましい。また、成分(a)のノニオン界面活性剤の脂肪酸部分及びアルキル部分の炭素数は8?24が好ましく、12?22がより好ましい。成分(a)のノニオン界面活性剤の好ましいHLBは13.5?17であり、より好ましくは13.8?16.5である。 【0013】 成分(a)としては、具体的には、ステアリン酸PEG-35、ステアリン酸PEG-40、ステアリン酸PEG-45、ステアリン酸PEG-50、セテアレス-20、セテアレス-30、セテアレス-40、セテアレス-100、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(80)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(20)ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ステアリン酸PEG-15グリセリル、オレイン酸PEG-15グリセリル等が挙げられる。これら成分(a)は、いずれか1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。 【0014】 これら成分(a)のうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルが好ましく、特にポリオキシエチレンセチルエーテル、モノステアリン酸ポリエチレングリコールが好適なものとして挙げられる。中でも、使用感と保存安定性が一層向上することから、両者を併用することが好ましく、特にステアリン酸PEG-40とセテアレス-20を組み合わせることが好ましい。 【0015】 成分(a)の水中油型乳化組成物中における含有量は、0.05?1.25質量%であり、好ましくは0.1?1質量%である。当該範囲内であれば、優れた使用感、保存安定性が得られる。 【0016】 〔成分(b):HLBが6以下のノニオン界面活性剤〕 成分(b)であるHLBが6以下のノニオン界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のEO鎖を持たないノニオン界面活性剤が挙げられる。これら成分(b)のノニオン界面活性剤の脂肪酸部分の炭素数は8?24が好ましく、12?22がより好ましい。成分(b)のノニオン界面活性剤のHLBは好ましくは3?6であり、より好ましくは3.5?5.5である。 【0017】 成分(b)としては、具体的には、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、イソステアリン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル等が好ましく用いられ、中でも、使用感及び保存安定性が一層向上することから、ステアリン酸グリセリル、特に親油型モノステアリン酸グリセリルが好ましく用いられる。これら成分(b)は、いずれか1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。 【0018】 成分(b)の水中油型乳化組成物中における含有量は、0.1?2.5質量%であり、好ましくは0.15?2質量%である。当該範囲内であれば、優れた使用感、保存安定性が得られる。 【0019】 〔HLB〕 本発明において、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)は、HLB=(Σ無機性値/Σ有機性)×10により計算される。ここで、Σ無機性値/Σ有機性は、IOB値(Inorganic-Organic Balance)と呼ばれ、各種原子及び官能基毎に設定された「無機性値」、「有機性値」に基いて、界面活性剤等の有機化合物を構成する原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することにより算出することができる(甲田善生著、「有機概念図-基礎と応用-」、11?17頁、三共出版、1984年発行参照)。 【0020】 〔成分(c):アニオン性両親媒性物質〕 成分(c)であるアニオン性両親媒性物質は、その分子構造中にアニオン性の親水基と、直鎖又は分岐鎖の炭化水素鎖、芳香族環又は複素環、これらが複合したものなどによる親油基を有する物質である。例えばアシルアミノ酸塩、グリチルリチン酸塩、グリチルリチン酸塩を含む植物抽出物、アシル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。具体的には、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。なお、上記成分(c)に該当する化合物を含有する植物抽出物、例えばグリチルリチン酸塩を含有する甘草抽出末、甘草抽出液等を用いることもできる。 【0021】 これら成分(c)のうち、特に使用感及び保存安定性が一層向上することから、N-アシルグルタミン酸塩、グリチルリチン酸塩が好ましく、塩としては具体的には、周期表1族の金属(アルカリ金属)、周期表2族の金属などが挙げられ、特に医薬品、化粧品分野においては、人体への適応性を考慮すると、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムを好適に利用することができる。具体的には、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、甘草抽出末、甘草抽出液が好ましく用いられる。これら成分(c)は、いずれか1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。 【0022】 成分(c)の水中油型乳化組成物中における含有量は、0.02?1.5質量%であり、好ましくは0.025?1質量%である。当該範囲内であれば、優れた使用感、保存安定性が得られる。ただし、甘草抽出末、甘草抽出液等の植物抽出物を用いる場合は、グリチルリチン酸塩等、成分(c)の化合物に換算して配合する。 【0023】 〔成分(d):25℃で固体又はペースト状の油剤〕 本発明の水中油型乳化組成物には、保存安定性を向上させる点から、油性成分の一部又は全部として、(d)25℃で固体又はペースト状の油剤を配合することが好ましい。25℃で固体又はペースト状の油剤は、25℃を超える温度領域に融点を持ち、特にペースト状のものは25℃で完全に液状とならず、半固形状である点で、液状のものと区別することができる。 【0024】 25℃で固形状又はペースト状の油剤としては、具体的には、高級アルコール、脂肪酸及びこれらのエステル又はエーテル、ワックス、ロウ等が挙げられる。高級アルコールとしては、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。脂肪酸及びこれらのエステル又はエーテルとしては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリステアリン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、パルミチン酸セチル等が挙げられる。ワックスとしては、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス等が挙げられる。ロウとしては、モクロウ、キャンデリラワックス、ミツロウ等が挙げられる。これら成分(d)は、いずれか1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。 【0025】 本発明においては、使用感触がより向上するため、成分(d)として少なくとも炭素数14?26の高級アルコールを含有することが好ましい。中でも、炭素数14?26の飽和脂肪族アルコール、更には炭素数18?26の1価の飽和脂肪族アルコールが好ましい。 【0026】 炭素数14?26の高級アルコールの具体例としては、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、エライジアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナービルアルコール、セリルアルコール等が挙げられる。特に水中油型乳化組成物の経時安定性の点から、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコールが好ましく、より好ましくはステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコールを用いることが好ましい。 【0027】 成分(d)の水中油型乳化組成物中における含有量は、好ましくは0.5?10質量%であり、より好ましくは0.8?5質量%である。当該範囲内であれば、水中油型乳化組成物の保存安定性、使用感に優れ、好ましい。 【0028】 〔他の油剤〕 本発明で用いる油性成分としては、成分(d)以外に、通常化粧料に用いられる油性成分が挙げられ、具体的には液体天然油脂(トリグリセリド)、エステル油、炭化水素油、シリコーン油、フッ素油等が挙げられる。 【0029】 液体天然油脂としては、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボガド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、ヒマワリ油、アーモンド油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、卵黄油、牛脚脂、肝油等が挙げられる。 【0030】 エステル油としては、オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル;ラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル等のミリスチン酸エステル;パルミチン酸オクチル等のパルミチン酸エステル;ステアリン酸イソセチル等のステアリン酸エステル;イソステアリン酸イソプロピル等のイソステアリン酸エステル;イソパルミチン酸オクチル等のイソパルミチン酸エステル;オレイン酸イソデシル等のオレイン酸エステル;アジピン酸ジイソプロピル等のアジピン酸ジエステル;セバシン酸ジエチル等のセバシン酸ジエステル;リンゴ酸ジイソステアリル;トリオクタン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン等のトリグリセライド;トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン等のトリメチロールプロパン脂肪酸エステル、テトラオクタン酸ペンタエリスリット等のペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。 【0031】 炭化水素油としては、流動パラフィン、α-オレフィンオリゴマー、スクワラン、スクワレン、プリスタン、パラフィン、イソパラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。 【0032】 シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、エチルメチルポリシロキサン、エチルフェニルポリシロキサン、シクロポリシロキサン等が挙げられる。 【0033】 フッ素油としては、パーフルオロデカリン、パーフルオロアダマンタン、パーフルオロブチルテトラハイドロフラン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロペンタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロポリエーテル、フッ素変性シリコーン等が挙げられる 【0034】 本発明の水中油型乳化組成物においては、油性成分が組成物総量の12?55質量%であることが必要である。より好ましくは、経時安定性、使用感の向上の点から、15?50質量%が好ましい。ここで、油性成分は、(d)25℃で固体又はペースト状の油剤、前記液体天然油脂、エステル油、炭化水素、シリコーン油、フッ素油等の油分へ溶解しやすい成分の総体(但し、成分(a)?(c)は除く)である。 【0035】 〔その他任意成分〕 本発明の水中油型乳化組成物には、水、増粘剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、中和剤、pH調整剤、酸化防止剤、抗菌剤、薬剤、各種の抽出液等の通常化粧料に用いられる各種の原料が使用できる。 【0036】 増粘剤としては、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタンガム、キャロブガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子;デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子;コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子;カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子;メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子;ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー(GF Goodrich社製CARBOPOL 941など)等のビニル系高分子;ポリオキシエチレン系高分子;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリアミド等のアクリル系高分子;ポリエチレンイミン;カチオン化グアーガム、カチオン化セルロース等のカチオン化ポリマー;ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系増粘剤等が挙げられる。これら増粘剤は、いずれか1種を単独で使用することもでき、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。これら増粘剤を、べたつき及び/又はヌルつきを感じない程度の少量配合することで、保存安定性が更に向上する。 【0037】 紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤;アントラニル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤;サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメチル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、[4-ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル-3-メチルブチル]-3,4,5,-トリメトキシケイ皮酸エステル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸ナトリウム等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;ウロカニン酸、ウロカニン酸エチル、2-フェニル-5-メチルベンゾキサゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4-tert-ブチル-4’-メトキシベンゾイルメタン等が挙げられる。 【0038】 金属イオン封鎖剤としては、アラニン、エデト酸ナトリウム塩、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸等が挙げられる。 【0039】 中和剤としては、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム等が挙げられる。 【0040】 pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、dl-リンゴ酸、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。 【0041】 酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α-トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。 【0042】 抗菌剤としては、安息香酸、サリチル酸、石炭酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸エステル、パラクロルメタクレゾール、ヘキサクロロフェン、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、フェノキシエタノール、クロルフェネシン等が挙げられる。 【0043】 薬剤としては、ビタミンA油、レチノール、パルミチン酸レチノール、イノシット、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、ニコチン酸dl-α-トコフェロール、ビタミンD_(2)(エルゴカシフェロール)、dl-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、パントテン酸、ビオチン等のビタミン類;エストラジオール、エチニルエストラジオール等のホルモン;アルギニン、アスパラギン酸、トラネキサム酸、シスチン、システイン、メチオニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸;アラントイン、アズレン等の抗炎症剤;アルブチン等の美白剤;酸化亜鉛、タンニン酸等の収斂剤;L-メントール、カンフル等の清涼剤;その他イオウ、γ-オリザノール等が挙げられる。 【0044】 各種の抽出液としては、ドクダミエキス、オウバクエキス、メリロートエキス、オドリコソウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、キナエキス、ユキノシタエキス、クララエキス、コウホネエキス、ウイキョウエキス、サクラソウエキス、バラエキス、ジオウエキス、レモンエキス、シコンエキス、アロエエキス、ショウブ根エキス、ユーカリエキス、スギナエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、キイチゴエキス、メリッサエキス、ニンジンエキス、カロットエキス、マロニエエキス、モモエキス、桃葉エキス、クワエキス、ヤグリマギクエキス、ハマメリス抽出液、プラセンタエキス、胸腺抽出物、シルク抽出液等が挙げられる。 【0045】 また、上記薬物は遊離の状態で使用されるほか、造塩可能なものは酸又は塩基の塩の型で、またカルボン酸基を有するものはそのエステルの形で使用することができる。 【0046】 更に、本発明の水中油型乳化組成物には、必要に応じて適当な香料、色素等を乳化安定性を損なわない範囲で添加できる。 【0047】 本発明の水中油型乳化組成物の用途は任意であるが、化粧料、医薬品、医薬部外品等に好適に用いることができる。具体的には、シャンプー、リンス、コンディショナーなどの毛髪化粧料;洗顔料、クレンジング化粧料、ローション、乳液、美容クリーム、下地化粧料、日焼け止め化粧料、パック、マッサージ化粧料などの皮膚化粧料;各種薬剤を含有する軟膏、クリーム等の外用医薬品として好適に利用できる。特に、本発明の水中油型乳化組成物は、べたつき感やヌルつき感がないため、皮膚化粧料として好適に利用できる。 【0048】 本発明の水中油型乳化組成物の剤形は任意であり、液状、エマルション、ジェル状、スプレー状、ムース状等のものとして調製される。 【実施例】 【0049】 次に実施例を挙げて、本発明を具体的に明らかにするが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下に示す配合量は質量%である。 【0050】 実施例1?5、比較例1?10(ボディクリーム) 表1に示す種々の組成のクリームを製造し、高温及び低温保存安定性と使用感について下記評価法に従って評価した。なお、クリームの製造は、Bの水相部にAの油相部を加えて、乳化機で乳化することによって行った。 【0051】 (使用感評価) 女性パネル15名により、ボディクリームの感触、外観に関する評価として、「伸びの良さ」、「肌収まりの良さ」、「べたつき感・ヌルつき感のなさ」の3項目について5段階評価し、平均点(小数点2位以下は四捨五入)を算出することにより判定した。 【0052】 (5段階評価) 5点:非常に良い 4点:良い 3点:普通、 2点:やや悪い 1点:悪い 【0053】 (外観評価) 製造翌日の評価試料の状態を目視にて評価した。クリームの表面外観に、均一な光沢を有するツヤ感が見られる場合は「○」、ツヤ感が見られない場合は「×」と評価した。 【0054】 (保存安定性評価) 評価試料を、高温条件下(50℃)又は低温条件下(-20℃、凍結状態)で1ヶ月保持し、1ヶ月後の状態を目視にて評価した。外観に特に問題がない場合は「○」、分離又は結晶の析出が確認できる場合は「×」と評価した。 【0055】 【表1】 【0056】 ※1:原料名:ライストリエノール(筑野ライスファインケミカルズ社製) ※2:原料名:リコレックスNA(丸善製薬株式会社製、グリチルリチン酸塩を約30%程度含有する) 【0057】 表1の評価結果が示すように、実施例1?5のボディクリームは、高温及び低温保存安定性、並びに感触に優れるものであった。 【0058】 これに対し、比較例1?3は、成分(a)?(c)のいずれかが欠けているもの、及び比較例4?6は、成分(a)?(c)のいずれかが多すぎるものである。これらのサンプルでは十分な保存安定性が得られなかったり、クリームの外観や感触に支障をきたすことが確認できる。比較例7及び8は、本発明の成分(a)又は(b)のHLB条件に合わない界面活性剤を配合したサンプルである。これらのサンプルでは高温安定性が悪くなり、感触にも悪い影響を与えていることが分かる。比較例9及び10は、油性成分の総量が多すぎる又は少なすぎるサンプルである。これらのサンプルにおいても良好な感触及び保存安定性が得られないことが分かる。 【0059】 実施例6(乳液) 下記処方において、油相(A)と水相(B)をそれぞれ80℃に加熱溶解させた後、水相(B)を油相(A)に加え、乳化機で乳化し、次に乳化物を冷却することによって乳液を調製した。調製した乳液を上記と同様に評価したところ、本実施例の乳液は、べたつき・ヌルつきがなく優れた使用感を示し、保存安定性が高いことが分かった。 【0060】 【0061】 上記実施例6で使用した香料の組成を表2に示す。 【0062】 【表2】 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記成分(a)?(c)を含有し、かつ、油性成分の含有量が、組成物総量に対し15?50質量%である水中油型乳化組成物。 (a) HLBが13.5?17のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル 0.05?1.25質量% (b) HLBが3?6のノニオン界面活性剤 0.1?2.5質量% (c) N-アシルグルタミン酸塩及びグリチルリチン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上のアニオン性両親媒性物質 0.02?1.5質量% 【請求項2】 成分(a)におけるアルキル部分又は脂肪酸部分の炭素数が12?22であり、エチレンオキサイド付加モル数が20?60である請求項1記載の水中油型乳化組成物。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 成分(a)が、ポリオキシエチレンセチルエーテル及びモノステアリン酸ポリエチレングリコールである請求項1又は2記載の水中油型乳化組成物。 【請求項5】 成分(b)が、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれ、その脂肪酸部分の炭素数が12?22である請求項1、2又は4記載の水中油型乳化組成物。 【請求項6】 成分(b)が、親油型モノステアリン酸グリセリルである請求項1、2、4又は5記載の水中油型乳化組成物。 【請求項7】 成分(c)が、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム、グチリルリチン酸ジカリウム及びグリチルリチン酸モノアンモニウム、並びにこれらを含有する植物抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上である請求項1、2、4、5又は6記載の水中油型乳化組成物。 【請求項8】 油性成分として、25℃でペースト状又は固形状の油剤を含有する請求項1、2、4、5、6又は7記載の水中油型乳化組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-08-04 |
出願番号 | 特願2010-227856(P2010-227856) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K) P 1 651・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 手島 理 |
特許庁審判長 |
内藤 伸一 |
特許庁審判官 |
小久保 勝伊 小川 慶子 |
登録日 | 2015-03-27 |
登録番号 | 特許第5718010号(P5718010) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 水中油型乳化組成物 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |