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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1320213
異議申立番号 異議2016-700315  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-14 
確定日 2016-09-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5793261号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5793261号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5793261号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)1月15日(優先権主張2014年1月15日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社クラレにより特許異議の申立てがなされ、当審において平成28年6月6日付けで取消理由を通知し、平成28年8月4日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件発明1?12は、各々、特許第5793261号の請求項1?12に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層を備え、 前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の半値幅が250cm^(-1)以下であり、かつ、前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
前記第1の層を、中間膜における表面層として備える、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層をさらに備え、前記第2の層の第1の表面側に、前記第1の層が配置されている、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
3層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層をさらに備え、前記第3の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の半値幅が250cm^(-1)以下であり、かつ、前記第3の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第3の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満であるか、又は、前記第3の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の半値幅が250cm^(-1)を超え、前記第2の層の前記第1の表面側とは反対の第2の表面側に、前記第3の層が配置されている、請求項3に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
前記第3の層を、中間膜における表面層として備える、請求項4に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第2の層に含まれる前記可塑剤の含有量は、前記第2の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、55重量部以上である、請求項3?5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
合わせガラス用中間膜の厚みをTとしたときに、前記第2の層の厚みは0.0625T以上、0.375T以下である、請求項3?6のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
厚みが1mm以下である第1のガラス板を用いて、前記第1のガラス板と第2のガラス板との間に配置されて、合わせガラスを得るために用いられる、請求項1?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
厚みが1mm以下である第1のガラス板と厚みが1mm以下である第2のガラス板とを用いて、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置されて、合わせガラスを得るために用いられる、請求項8に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
第1のガラス板と、第2のガラス板と、請求項1?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜とを備え、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に、前記合わせガラス用中間膜が配置されている、合わせガラス。
【請求項11】
前記第1のガラス板の厚みが1mm以下である、請求項10に記載の合わせガラス。
【請求項12】
前記第2のガラス板の厚みが1mm以下である、請求項11に記載の合わせガラス。」

第3 取消理由の概要
当審において、本件発明1?12に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

1.本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであったから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2.本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであったから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

特許第5793261号の請求項1?12に係る発明は、各々、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(理由1について)
・請求項1?7,10
・甲第1号証の1(異議申立人提出の甲第1号証の1、その翻訳文として異議申立人提出の甲第1号証の2)、または、甲第2号証(異議申立人提出の甲第2号証)
(周知例として、甲第4号証の1?甲第4号証の4(異議申立人提出の甲第4号証の1?甲第4号証の4))、
特許異議申立書25頁下から4行?38頁7行に記載のとおりである。
ここで、甲1発明は、甲第1号証の1の段落[075](甲第1号証の2の段落【0075】)に記載された「Table2(表2)」ないし「Table3(表3)」の「Interlayer-1(中間層-1)」であり、甲2発明は、甲第2号証の段落【0085】の「実施例3」である。

(理由2について)
・請求項8,9,11,12
・甲第1号証の1及び甲第3号証の1(異議申立人提出の甲第3号証の1、その翻訳文として異議申立人提出の甲第3号証の2))
特許異議申立書49頁下から9行?54頁5行に記載のとおりである。

引 用 文 献 等 一 覧

甲第1号証の1:国際公開第2013/134599号
甲第1号証の2:特表2015-516934号公報
甲第2号証:特開2004-143008号公報
甲第3号証の1:国際公開第2013/181484号
甲第3号証の2:特表2015-525192号公報
甲第4号証の1:特開昭58-032044号公報
甲第4号証の2:特開昭56-092142号公報
甲第4号証の3:特開2008-303139号公報
甲第4号証の4:特開昭57-200250号公報

第4 各甲号証の記載事項及び記載された発明
(1)甲第1号証の1の記載事項
甲第1号証の1には、次の記載がある。(なお、訳文は、甲第1号証の2による。下線は、異議申立人が付したものである。「・・・」は、具体的な記載の省略を表す。下線及び「・・・」は、以下の(2)?(4)についても同様である。)
ア (甲1の1-1):
「 [002] This disclosure is related to the field of polymer interlayers for multiple layer panels and multiple layer panels having at least one polymer interlayer sheet. Specifically, this disclosure is related to the field of high rigidity interlayers and light weight laminated multiple layer panels incorporating high rigidity interlayers.
(訳:【0002】発明の分野 本開示は、多層パネルのためのポリマー中間層、及び、少なくとも1つのポリマー中間層シートを有する多層パネルの分野に関する。詳細には、本開示は高剛性中間層、及び、高剛性中間層を取り込んだ軽量ラミネート化多層パネルの分野に関する。)
・・・
[011] Lighter weight multiple layer panels are achieved by using thinner glass of either symmetric or asymmetric substrate configurations.…
(訳:【0011】 より軽量の多層パネルは対称もしくは非対称基材構成のいずれかの、より薄いガラスを使用することにより得られる。・・・)
・・・
[016] Due to all of the problems associated with asymmetrically configured multiple layer panels, there is a need in the art for a light weight multiple layer panel with improved mechanical strength, and thus improved structural rigidity and overall safety of the vehicle. It is therefore the objective of the current invention to design a light weight multiple layer panel comprising an interlayer in which the decreased mechanical strength of the panel as a result of reduced glass thickness is compensated at least in part by the interlayer.
(訳:【0016】 非対称構成多層パネルに関するすべての問題のために、改良された機械強度、したがって、改良された乗り物の構造的剛性及び全体としての安全性を有する軽量多層パネルの必要性が当該技術で存在する。それゆえ、本発明の目的は、低減されたガラス厚さの結果として低減されたパネルの機械強度が中間層により少なくとも部分的に補償される、中間層を含む軽量多層パネルを設計することである。)
・・・
[024] In some embodiments, the first plasticized polymer layer has a residual hydroxyl content of greater than or equal to about 20 weight percent. In other embodiments, the second plasticized polymer layer has a residual hydroxyl content of less than or equal to about 15 weight percent and a plasticizer content of greater than or equal to about 70 phr.
(訳:【0024】 いくつかの実施形態において、第一の可塑化ポリマー層は残留ヒドロキシル含有量が約20質量%以上である。他の実施形態において、第二の可塑化ポリマー層は残留ヒドロキシル含有量が約15質量%以下であり、可塑剤含有量が約70phr以上である。)
・・・
[026] Also disclosed herein is a multiple layer glass panel comprising: a first glass substrate; a second glass substrate; and a multilayered interlayer disposed between the first glass substrate and the second glass substrate. …
(訳:【0026】 第一のガラス基材、第二のガラス基材、及び、第一のガラス基材と第二のガラス基材との間に配置された多層中間層を含む、多層ガラスパネルをも本明細書中に開示する。多層中間層は第一の可塑化ポリマー層、及び、該第一の可塑化ポリマー層と接触している第二の可塑化ポリマー層を含む。・・・)
・・・
[033] It should also be noted that while poly (vinyl butyral) ("PVB") interlayers are often specifically discussed as the polymer resin of the polymer interlayers in this application, it should be understood that other thermoplastic interlayers besides PVB interlayers may be used.…
(訳:【0033】 ポリ(ビニルブチラール)(「PVB」)中間層は本出願中でポリマー中間層のポリマー樹脂としてしばしば具体的に議論されているが、PVB中間層以外の他の熱可塑性樹脂中間層が使用されてよいことは理解されるべきであることに注意すべきである。・・・)
[034] The PVB resin is produced by known aqueous or solvent acetalization processes by reacting polyvinyl alcohol ("PVOH") with butyraldehyde in the presence of an acid catalyst, separation, stabilization, and drying of the resin.…
(訳:【0034】 PVB樹脂は、酸触媒の存在下でのブチルアルデヒドとポリビニルアルコール(「PVOH」)の反応、樹脂の分離、安定化及び乾燥により、公知の水性又は溶媒アセタール化法によって製造される。・・・)
・・・
[037] Generally, the plasticizer content of the polymer interlayers of this application are measured in parts per hundred resin parts ("phr"), on a weight per weight basis.…
(訳:【0037】 一般に、本出願のポリマー中間層の可塑剤含有量は、質量/質量基準で、100部の樹脂あたりの部(phr)として測定される。・・・)
・・・
[040] One parameter used to describe the polymer resin components of the polymer interlayers of this application is residual hydroxyl content (as vinyl hydroxyl content or polyvinyl alcohol) ("PVOH") content). Residual hydroxyl content refers to the amount of hydroxyl groups remaining as side groups on the chains of the polymer after processing is complete.…
(訳:【0040】 本出願のポリマー中間層のポリマー樹脂成分を記載するために使用される1つのパラメータは残留ヒドロキシル含有量(ビニルヒドロキシル含有量又はポリ(ビニルアルコール)(PVOH)含有量として)である。残留ヒドロキシル含有量は、処理が完了した後にポリマー鎖上に側基として残っているヒドロキシル基の量を指す。・・・)
[041] … The resin can also comprise less than 25 wt. % residual ester groups, less than 15 wt. %, less than 13 wt. %, less than 1 1 wt. %, less than 9 wt. %, less than 7 wt. %, less than 5 wt. %, or less than 1 wt. % residual ester groups calculated as polyvinyl ester, e.g., acetate, with the balance being an acetal, preferably butyraldehyde acetal, but …).
(訳:【0041】 さまざまな実施形態において、ポリ(ビニルブチラール)樹脂は・・・樹脂は、また、25wt%未満の、アセテートなどのポリビニルエステルとして計算した残留エステル基、15wt%未満、13wt%未満、11wt%未満、9wt%未満、7wt%未満、5wt%未満、又は、1wt%未満の残留エステル基を含むことができ、残部はアセタールであり、好ましくはブチルアルデヒドアセタールであるが、・・・)
・・・
[043] …In these embodiments, a central soft layer is sandwiched between two stiff/rigid outer layers. This configuration of (stiff)//(soft)//(stiff) creates a multilayered interlayer that is easily handled, can be used in conventional lamination methods and that can be constructed with layers that are relatively thin and light. …
(訳:【0043】 ・・・これらの実施形態において、中央軟質層は2つの剛性/硬質層の間に挟まれている。(剛性)//(軟質)//(剛性)のこの構成は容易に取り扱うことできる多層中間層を形成し、従来のラミネーション法において使用でき、そして比較的に薄くかつ軽量の層で作ることができる。・・・)
・・・
[075] Table 2 provides numerous examples of the disclosed multilayered interlayer constructions (designated as "Interlayers 1 -8") for various glass configurations (to form multiple layer glass panels of various thicknesses). The "Conventional Acoustic PVB" interlayer refers to the previously utilized conventional acoustic interlayers. All the multilayered interlayers were subjected to the three point bending method to determine deflection stiffness. Table 3 provides the compositions and characteristics of the layers shown in Table 2.
(訳:【0075】 表2はさまざまなガラス構成(さまざまな厚さの多層ガラスパネルを形成するための)についての開示の中間層構造(「中間層1?8」と指定)の多くの例を提供する。「従来の音響PVB」中間層は以前から使用されている従来の音響中間層を指す。すべての多層中間層を3点曲げ法に付し、撓みこわさを決定した。表3は表2に示す層の組成及び特性を提供する。)」

イ (甲1の1-2):



(訳:


)」(36頁)

ウ (甲1の1-3):



(訳:


)」(37頁)

(1-2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
前記(1)の記載事項、特にイ及びウによれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(甲1発明):
「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜「中間層-1」であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB-3」の層を備え、前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基の含有量が15.4wt%であり、かつ、前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が28重量部である、合わせガラス用中間膜。」

(2)甲第2号証の1の記載事項
甲第2号証の1には、次の記載がある。
ア (甲2-1):
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合わせガラス用中間膜およびこの合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスに関する。
・・・
【0050】
ポリビニルアセタール系樹脂に対する可塑剤の添加量は、ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度、アセタール化度および残存アセチル基量等によっても異なり、特に限定されるものではないが、ポリビニルアセタール系樹脂100重量部に対し、可塑剤10?50重量部であることが好ましい。・・・
・・・
【0083】
(実施例1)
平均重合度が620のPVAとn-ブチルアルデヒドとのアセタール化(ブチラール化)反応を行って、平均重合度620、ブチラール化度68.0モル%、残存アセチル基量1.0モル%のPVBを合成した。得られたPVB100部に対して3GO(可塑剤)24部を添加し混練した可塑化PVBを製膜して、厚み0.25mmのPVB層(A)を作製した。また、平均重合度が2000のPVA50重量%および平均重合度が3000のPVA50重量%からなる混合PVAとn-ブチルアルデヒドとのアセタール化(ブチラール化)反応を行って、ブチラール化度63.6モル%、残存アセチル基量14.3モル%のPVBを合成した。得られたPVB100部に対して3GO(可塑剤)60部を添加し混練した可塑化PVBを製膜して、厚み0.25mmのPVB層(B)を作製した。次いで、得られたPVB層(A)とPVB層(B)とをPVB層(A)/PVB層(B)/PVB層(A)となるように積層した後、両PVB層(A)の表面にエンボス加工を施して、両表面に微細な凹凸からなる多数の刻線状のエンボスが形成された、総厚みが0.75mmの3層構成の中間膜を作製した。
・・・
【0085】
(実施例3)
平均重合度が1700のPVAとn-ブチルアルデヒドとのアセタール化(ブチラール化)反応を行って、平均重合度1700、ブチラール化度72.6モル%、残存アセチル基量1.0モル%のPVBを合成した。得られたPVB100部に対して3GO(可塑剤)29部を添加し混練した可塑化PVBを製膜して、厚み0.25mmのPVB層(A)を作製した。次いで、得られたPVB層(A)と実施例1で作製したPVB層(B)とをPVB層(A)/PVB層(B)/PVB層(A)となるように積層した後、両PVB層(A)の表面にエンボス加工を施して、両表面に微細な凹凸からなる多数の刻線状のエンボスが形成された、総厚みが0.75mmの3層構成の中間膜を作製した。
・・・
【0090】
▲1▼合わせ加工適性の評価方法
20?25℃-25?30%RHの雰囲気下に2時間放置して調温調湿した中間膜を2枚の透明な無機ガラス板(2.5mm厚、30.5cm×30.5cm)の間に挟み、図1に示すようなスペーサー方式により、この合わせガラス構成体をゴムバッグの中に入れ、ゴムバッグ内の圧力が-53.2kPa(絶対圧力47.8kPa)となるように合わせガラス構成体の端部から吸引減圧しながら温度を100℃まで昇温し、温度100℃で20分間保持して、脱気、予備接着および本接着を一貫して連続的に行うことにより、合わせガラスを作製した。・・・。」

イ (甲2-2):
「【0092】【表1】




(2-2)甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
前記(2)の記載事項、特に、実施例3に関する記載によれば、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

(甲2発明):
「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB層A」を備え、前記「PVB層A」に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記「PVB層A」に含まれる前記可塑剤の含有量が29重量部である、合わせガラス用中間膜。」

(3)甲第3号証の1の記載事項
甲第3号証の1には、次の記載がある。(なお、訳文は、甲第3号証の2による。)
ア (甲3の1-1):
「What is claimed is:
1. A thin glass laminate including two glass sheets having a thickness of less than 1.5 mm and a composite interlayer between the two glass sheets, wherein the composite interlayer is characterized by:
at least one relatively stiff polymer layer having a Young's modulus of 50 MPa or greater and a relatively soft polymer layer having a Young's modulus of less than 20 MPa.
・・・
13. The thin glass laminate structure as in any one of claims 1 - 12, wherein the glass thickness is between 0.5 mm and 1.5 mm.
(訳:【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5mm未満の厚さを有する2枚のガラス板および該2枚のガラス板の間にある複合中間層を含む薄いガラス積層板であって、前記複合中間層が、
50MPa以上のヤング率を有する少なくとも1つ比較的硬い高分子層、および20MPa未満のヤング率を有する比較的軟らかい高分子層、
を含む、薄いガラス積層板。
・・・
【請求項13】
前記ガラス板の厚さが0.5mmと1.5mmの間である、請求項1?12のいずれか1つに記載の薄いガラス積層板。)」

イ (甲3の1-2):
「 [0005] In many vehicle applications, fuel economy is a function of vehicle weight. It is desirable, therefore, to reduce the weight of glazings for such applications without compromising their strength and sound-attenuating properties. In view of the foregoing, thinner, economical glazings or glass laminates that possess or exceed the durability, sound- damping and breakage performance properties associated with thicker, heavier glazings are desirable.
(訳:【0005】
多くの車両用途において、燃料の経済性は自動車重量の関数である。したがって、その強度特性および音減衰特性を損なわずに、そのような用途のための板ガラスの質量を減少させることが望ましい。上述したことに鑑みて、より厚くより重い板ガラスに関連する耐久性、音響減衰特性および破壊性能特性を有するまたはそれらを超越する、より薄い経済的な板ガラスまたはガラス積層板が望ましい。)
・・・
[0023] Figure 1 is a partial cross-sectional schematic illustration of a polymer or composite interlayer structure (or simply an interlayer) 10 according to an embodiment hereof. The interlayer structure 10 may include two relatively stiff outer layers 12 and 14 laminated one either side of a central relatively soft central layer 16.…
(訳:【0023】
図1は、その実施の形態による高分子または複合中間層構造(または単に中間層)10の部分断面概略図である。この中間層構造10は、中央にある比較的軟らかい中央層16の両側に重ねられた2つの比較的硬い外側層12および14を含むことがある。・・・)
・・・
[0026] Figure 3 shows results of finite element modeling studies of 0.7 mm thick Corning Gorilla Glass laminated glass structures made using standard 0.76 mm thick monolithic PVB (0.76 SPVB) (line A), standard acoustic tri-layer PVB (0.33SPVB/0.15APVB/0.33SPVB) (line B) and a tri-layer PVB with stiffened outer layers (0.33SG+/0.15APVB/0.33 SG+) (line C).
(訳:【0026】
図3は、標準的な0.76mm厚の単体PVB(0.76SPVB)(線A)、標準的な音響用三層PVB(0.33SPVB/0.15APVB/0.33SPVB)(線B)および強化外側層を有する三層PVB(0.33SG+/0.15APVB/0.33SG+)(線C)を使用して製造した0.7mm厚の「Corning」「Gorilla」ガラス合わせガラス構造の有限要素モデル化研究の結果を示している。)」

(4)甲第4号証の1ないし甲第4号証の4における記載事項
(4-1)甲第4号証の1には、次の記載がある。
ア (甲4の1-1):
「その理由はいまだ充分には明らかではないが、水酸基が連鎖的に配列したポリビニルブチラールは、水酸基が不規則に配列したポリビニルブチラールよりも水酸結合による会合が強い傾向にあり、剛性が増し、従って自着性の小さい中間膜が得られると考えられ、このポリビニルブチラールの赤外吸収スペクトルの水酸基吸収帯は、水酸基の配列が不規則なポリビニルブチラールのそれに比較して水素結合による会合が強い部分が存在する為、低エネルギー側即ち低波数側に膨らんで水酸基吸収の半値巾が大になるものと考えられる。」(3頁左上欄18行?同右上欄9行)

イ (甲4の1-2):



」(8頁右下欄)

(4-2)甲第4号証の2には、次の記載がある。
ア (甲4の2):



」(4頁上欄)

(4-3)甲第4号証の3には、次の記載がある。
ア (甲4の3):
「【0072】
(参考例1)
合わせガラス用中間膜の製造
赤外吸収スペクトルを測定したときに得られる水酸基に対応するピークの半値幅が245cm^(-1)であるポリビニルブチラール樹脂(アセタール化度68.0モル%、ビニルアセテート成分の割合0.6モル%)100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)38重量部とを混合し、これをミキシングロールで充分に溶融混練した後、プレス成形機で150℃、30分間プレス成形して、厚さ800μmの樹脂膜を得、これを合わせガラス用中間膜とした。
・・・
【0093】
(実施例11)
赤外吸収スペクトルを測定したときに得られる水酸基に対応するピークの半値幅が190cm^(-1)であるポリビニルブチラール樹脂(アセタール化度65.0モル%、ビニルアセテート成分の割合14モル%)100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)45重量部とを混合し、これをミキシングロールで充分に溶融混練した後、プレス成形機で150℃、30分間プレス成形して、厚さ760μmの樹脂膜を得、これを合わせガラス用中間膜とした。また、得られた合わせガラス用中間膜を用いて、参考例1と同様の方法により合わせガラスを得た。
得られた合わせガラス用中間膜及び合わせガラスについて、参考例1と同様の評価を行った。」

(4-4)甲第4号証の4には、次の記載がある。
ア (甲4の4):



」(8頁左上欄)

第5 対比・判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 本件発明1と甲1発明は、各々、前記第2及び前記第4(1-2)において認定した次のとおりのものである。

(本件発明1):
「1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層を備え、 前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の半値幅が250cm^(-1)以下であり、かつ、前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満である、合わせガラス用中間膜。」

(甲1発明):
「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜「中間層-1」であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB-3」の層を備え、前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基の含有量が15.4wt%であり、かつ、前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が28重量部である、合わせガラス用中間膜。」

イ 両者は、いずれも合わせガラス用中間膜であるところ、甲1発明の「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜「中間層-1」」は、本件発明1の「2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜」に該当し、甲1発明の「ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB-3」の層」は、本件発明1の「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層」に該当し、甲1発明の「前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が28重量部である」ことは、本件発明1の「前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満である」ことに該当するから、両者の一致点と相違点は、次のとおりである。

<一致点>:
3層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB-3」の層を備え、前記「PVB-3」の層に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記「PVB-3」の層に含まれる前記可塑剤の含有量が28重量部である、合わせガラス用中間膜。

<相違点>:
「PVB-3」の層に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基に関し、本件発明1は、その「半値幅が250cm^(-1)以下」であるのに対して、甲1発明は、その「含有量が15.4wt%」であると特定され、半値幅による特定はない点。

(2)前記(1)<相違点>の判断
ア 前記(1)によれば、本件発明1は、甲1発明と対比して、前記(1)<相違点>を有するから、直ちに同一であるということはできない。したがって、仮に、取消理由1のとおりに、本件発明1が甲1発明と同一であるというためには、前記(1)<相違点>に係る構成は、甲第1号証に明示的には記載されていないが、甲1発明に内在する構成であり、前記(1)<相違点>が実質的な相違点ではないことを証明することができることを要する。

イ そこで、本件においては、取消理由1のとおりに、前記(1)<相違点>に係る、「PVB-3」の層に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基に関し、(i)甲1発明の残留ヒドロキシル含有量(PVOH含有量)が15.4(重量%)であること(特許異議申立書27頁11?13行)、(ii)これをモル%に換算すれば、最少で22.7(モル%)、最多で23.6モル%と技術常識に従って算出されること(特許異議申立書27頁下6行?29頁2行)、(iii)甲第4号証の1?甲第4号証の4に記載された実施例、比較例、あるいは参考例の各データ(前記第4(4)(4-1)ないし(4-4))から、ポリビニルブチラール樹脂の残留ヒドロキシル基含有量(モル%)を算出し、各々の半値幅(cm^(-1))との関係を(残留ヒドロキシル基含有量(変数x)を横軸に、半値幅(cm^(-1))(変数y)を縦軸に)プロットしたグラフ(下記分布図参照。)が作成されること、(iv)このグラフ(分布図)に基づき、残留ヒドロキシル基含有量(変数x)と半値幅(cm^(-1))(変数y)の関係として、近似直線「y=6.6032x+66.683」を求めることができること(特許異議申立書29頁3行?30頁[図1])、(v)この近似直線によれば、上記(ii)で換算された、残留ヒドロキシル含有量(PVOH含有量)が22.7(モル%)と23.6モル%であるポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅は、各々、216.6(cm^(-1))と222.5(cm^(-1))であると推定されること(特許異議申立書30頁下3行?31頁4行)、(vi)したがって、甲1発明の「PVB-3」の層に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅は250cm^(-1)以下であるといえること(特許異議申立書32頁下4行?末行)、の成立性について検討する。

「分布図:


(データ)




ウ 前記イの(v)に関し、推定する根拠は、前記イの(iv)の近似直線「y=6.6032x+66.683」であるところ、これは、あくまで最も簡易な近似式であって、あるxの値から対応するyの値を推測する際の目安の一つを与えるものに過ぎず、各データが必ず満たす関係式ではないことは、その導出方法から明らかである。しかも、前記アの分布図から明らかなように、各データは、甲第4号証の3の実施例11の1点(x=21モル%、y=190(cm^(-1)))を除き、xの値が29より大きく39より小さい範囲内に集中しており、その領域内においてさえ、近似式が与えるyの値は、各データと±20(cm^(-1))程度の乖離を有するものである。実際、本件特許明細書段落【0084】に記載された「合成例10」により得られるポリビニルアセタール樹脂Gは、水酸基の含有率(すなわち、xの値)が34.9(モル%)であるから、前記イの(iv)の近似直線「y=6.6032x+66.683」によれば、半値幅(すなわち、yの値)は297.1(cm^(-1))と推定されるが、本件特許明細書段落【0220】の表2の実施例15のとおり、247.6(cm^(-1))であるから、推定値との乖離は、実に49.5(cm^(-1))(=297.1(cm^(-1))-247.6(cm^(-1)))に及ぶ。この程度の乖離があることを前提とすれば、前記イの(v)で推定される甲1発明におけるポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅は、各々、216.6(cm^(-1))と222.5(cm^(-1))ではなく、167.1?266.1(cm^(-1))(=216.6±49.5(cm^(-1)))と173?272.0(cm^(-1))(=222.5±49.5(cm^(-1)))であると、ある程度の幅を持って推定されるべきである。
したがって、前記イの(iv)の近似直線「y=6.6032x+66.683」によって半値幅が推定される場合、実際には、上記の程度の幅をもつ乖離が生じる前提で半値幅が推定されるべきである。

エ 水酸基に関し、本願明細書の段落【0044】には、「上記半値幅は水素結合の強さを表す。水素結合力は、水酸基の含有率と、水酸基の並び方とに影響を受ける。水素結合力は、水酸基の含有率のみによっては決まらない。水酸基の並び方に影響を与える1つの要因としては、ポリビニルアセタール樹脂の合成時の熟成温度が挙げられる。例えば、得られるポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が同じでも、ポリビニルアセタール樹脂の合成時の熟成温度を高くすれば、水素結合力が高くなるように水酸基が並んで、水酸基の半値幅が大きくなる。」との記載がある。
これによれば、ポリビニルアセタール樹脂の合成時の熟成温度に応じて水酸基の並び方が変わり、その影響として水酸基の半値幅に差が生じるということができる。

オ さらに、前記イの(iv)の近似直線「y=6.6032x+66.683」に従うならば、ポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅yが250(cm^(-1))以下であると推定される水酸基の含有量xは27.8(モル%)以下と算出されるところ、実験成績証明書である乙第1号証には、水酸基の含有量が26.1(モル%)であっても、その半値幅が252.0(cm^(-1))となり、250(cm^(-1))以下とはならなったことが示されている。
これによれば、実際の半値幅は、前記イの(iv)の近似直線「y=6.6032x+66.683」に従って推定されるとおりになるとは限らず、同近似直線を根拠にして、水酸基の含有量(モル%)から半値幅が250(cm^(-1))以下であることを直ちに推定することが可能であるということはできない。

カ 前記ウないしオを総合すれば、前記イの(iv)の近似直線による推定は認められないから、前記イの(i)ないし(vi)の推定が成り立つということはできない。

キ 以上から、前記(1)<相違点>に係る構成は、甲1発明に内在するものであって、甲第1号証に明示的に記載されていないだけであるということはできず、実質的な相違点であるというべきである。

ク よって、本件発明1が甲1発明と同一であるということはできず、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるということはできない。

(3)本件発明1と甲2発明との対比
ア 本件発明1と甲2発明は、各々、前記第2及び前記第4(2-2)において認定した次のとおりのものである。

(本件発明1):
「1層の構造又は2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層を備え、 前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の半値幅が250cm^(-1)以下であり、かつ、前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満である、合わせガラス用中間膜。」

(甲2発明):
「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB層A」を備え、前記「PVB層A」に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記「PVB層A」に含まれる前記可塑剤の含有量が29重量部である、合わせガラス用中間膜。」

イ 両者は、いずれも合わせガラス用中間膜であるところ、甲2発明の「3層の構造を有する合わせガラス用中間膜」は、本件発明1の「2層以上の構造を有する合わせガラス用中間膜」に該当し、甲2発明の「ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB層A」」は、本件発明1の「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層」に該当し、甲2発明の「前記「PVB層A」に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記「PVB層A」に含まれる前記可塑剤の含有量が29重量部である」ことは、本件発明1の「前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層に含まれる前記可塑剤の含有量が5重量部以上、30重量部未満である」ことに該当するから、両者の一致点と相違点は、次のとおりである。

<一致点>:
3層の構造を有する合わせガラス用中間膜であって、ポリビニルブチラール樹脂と可塑剤とを含有する「PVB層A」を備え、前記「PVB層A」に含まれる前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記「PVB層A」に含まれる前記可塑剤の含有量が29重量部である、合わせガラス用中間膜。

<相違点>:
「PVB層A」に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基に関し、本件発明1は、その「半値幅が250cm^(-1)以下」であるのに対して、甲2発明は、半値幅による特定がない点。

(4)前記(3)<相違点>の判断
ア 前記(3)によれば、本件発明1は、甲2発明と対比して、前記(3)<相違点>を有するから、直ちに同一であるということはできない。したがって、仮に、取消理由1のとおりに、本件発明1が甲2発明と同一であるというためには、前記(3)<相違点>に係る構成は、甲第2号証に明示的には記載されていないが、甲2発明に内在する構成であり、前記(3)<相違点>が実質的な相違点ではないことを証明することができることを要する。

イ そこで、本件においては、取消理由1のとおりに、前記(3)<相違点>に係る、「PVB層A」に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基に関し、(i)残留ヒドロキシル基含有量が、ブチラ-ル化度72.6モル%、残留アセチル基量1.0モル%(前記第4(2)アの段落【0085】(実施例3)の記載)から、技術常識に従って、26.4モル%と算出されること、(ii)前記(2)イの(iii)ないし(iv)と同様にして、残留ヒドロキシル基含有量(変数x)と半値幅(cm^(-1))(変数y)との関係としての近似直線「y=6.6032x+66.683」を求めることができること、(iii)この近似直線によれば、上記(i)で算出された、残留ヒドロキシル含有量が26.4モル%であるポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅は、241.0(cm^(-1))とであると推定されること、(iv)したがって、甲2発明の「PVB層A」に含まれるポリビニルブチラール樹脂の水酸基の半値幅は250cm^(-1)以下であるといえること、の成立性について検討することになるが、前記(2)ウないしオは、本判断においても妥当するから、前記(2)と同様、上記(i)ないし(iv)の推定が成り立つということはできない。

ウ よって、前記(3)<相違点>に係る構成は、実質的な相違点であるというべきである。

エ したがって、本件発明1が甲2発明と同一であるということはできず、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるということはできない。

(5)本件発明2?7、10について
本件発明1の特許は、前記(2)及び(4)のとおり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではないところ、本件発明2?7、10は、その本件発明1に従属し、その構成を含むものであるから、同様に、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。

(6)本件発明8,9,11,12について
本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の取消理由を有するものではないところ、本件発明8,9,11,12は、その本件発明1に従属し、その構成を含むものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

第6 むすび
前記第5のとおりであるから、前記取消理由によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-08-31 
出願番号 特願2015-518697(P2015-518697)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
P 1 651・ 113- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相田 悟  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 板谷 一弘
山本 雄一
登録日 2015-08-14 
登録番号 特許第5793261号(P5793261)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 森住 憲一  
代理人 梶田 真理奈  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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