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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1320217
異議申立番号 異議2016-700066  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-27 
確定日 2016-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5754860号発明「ワクチンアジュバントの製造の間の親水性濾過」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5754860号の請求項1ないし46に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5754860号の請求項1?46に係る特許についての出願は、平成22年12月3日(パリ条約による優先権主張 2009年12月3日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月5日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人有限会社アモニータにより特許異議の申立てがなされ、平成28年4月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年7月15日に意見書の提出があったものである。


2.本件特許発明
特許第5754860号の請求項1?46に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?46に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、以下、上記請求項1?46に係る発明を、各々、「本件特許発明1」?「本件特許発明46」のように記載する。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
(i)第1の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
(ii)該第1のエマルジョンを微小流動化して、該第1の平均油滴サイズより小さな第2の平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;および
(iii)該第2のエマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
スクアレン含有水中油型エマルジョンワクチンアジュバントを含むワクチン組成物を製造するための方法であって、該方法は、
(i)5000nm以下の平均油滴サイズを有する第1のエマルジョンを提供する工程;
(ii)該第1のエマルジョンを微小流動化して、500nm以下である平均油滴サイズを有する第2のエマルジョンを形成する工程;
(iii)該第2のエマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の親水性ポリエーテルスルホン膜層とを使用して濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、および
(iv)該エマルジョンアジュバントと抗原とを合わせる工程
を包含する、方法。
【請求項3】
前記第1の平均油滴サイズは、5000nm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のエマルジョンにおいて1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×10^(11)/ml以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の平均油滴サイズは、500nm以下である、請求項1、3、および請求項1に従属する場合の請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のエマルジョンにおいて1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×10^(10)/ml以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
スクアレン含有水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
(i)500nm以下の平均油滴サイズを有するスクアレン含有エマルジョンを形成する工程;
(ii)該スクアレン含有エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して、濾過し、それによって、スクアレン含有水中油型エマルジョンを提供する工程、を包含する、方法。
【請求項8】
濾過後の前記平均油滴サイズは、220nm未満である、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
濾過後の1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数は、5×10^(8)/ml以下である、請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のエマルジョンは、前記親水性二重層ポリエーテルスルホン膜の前記第2の層による濾過の前に、前記親水性二重層ポリエーテルスルホン膜の前記第1の層を通って濾過される、請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記膜の前記第1の層は、非対称および/もしくは多孔性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記膜の前記第2の層は、非対称および/もしくは多孔性である、請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記膜の前記第2の層、および必要に応じて前記膜の前記第1の層は、ポリマー支持材料を含む、請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記エマルジョンの体積が、20Lよりも大きい、請求項1?13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ワクチン組成物を調製するための方法であって、該方法は、請求項1または3?14のいずれか1項に記載のスクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法に従うエマルジョンアジュバントを調製する工程および該エマルジョンアジュバントと抗原とを合わせる工程を包含する、方法。
【請求項16】
ワクチンキットを調製するための方法であって、該方法は、請求項1または3?14のいずれか1項に記載のスクアレン含有水中油型エマルジョンの製造方法に従うエマルジョンアジュバントを調製する工程および該エマルジョンアジュバントを、キット成分として、抗原成分と一緒にキットにパッケージする工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記キット成分は、別個のバイアル中にある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バイアルは、ホウケイ酸ガラスから作製される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記エマルジョンアジュバントは、バルクアジュバントであり、前記方法は、キット成分としてパッケージするために、該バルクアジュバントから単位用量を抽出する工程を包含する、請求項16?18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記抗原は、インフルエンザウイルス抗原である、請求項15?19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり0.1μg?50μgの間のヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせは、ワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約15μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約10μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約7.5μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約5μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約3.8μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約3.75μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約1.9μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせがワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、インフルエンザウイルス株あたり約1.5μgのヘマグルチニンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記エマルジョンおよび前記抗原の組み合わせは、ワクチン組成物を形成し、該ワクチン組成物は、チメロサール保存剤もしくは2-フェノキシエタノール保存剤を含む、請求項20?29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
水性成分、スクアレンおよび界面活性剤を含有する水中油型エマルジョンを調製するための、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の膜の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の膜の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホンフィルタの使用であって、該水中油型エマルジョンが、2体積%?20体積%の間の油を含む、使用。
【請求項32】
前記水中油型エマルジョンが、約5体積%のスクアレン、約0.5体積%のポリソルベート80および約0.5体積%のソルビタントリオレエートを含む、請求項1?31のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項33】
均質な水中油型エマルジョンを製造するための方法であって、該方法は、
水中油型エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の親水性ポリエーテルスルホン層膜とを使用して濾過し、それによって、濾過された水中油型エマルジョンを形成する工程、
を包含し、該水中油型エマルジョンは、2体積%?20体積%の間の油を含み、該水中油型エマルジョンは、スクアレンを含む、方法。
【請求項34】
前記水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが500nm以下であり、1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数が5×10^(10)/ml以下であることを特徴とし;かつ前記濾過された水中油型エマルジョンが、平均油滴サイズが220nm以下であり、1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数が5×10^(8)/ml以下であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(a)前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層が非対称の膜を含むか、(b)前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜層が、非対称の膜を含むか、または、その組み合わせである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記第1の親水性ポリエーテルスルホン膜層および前記第2の親水性ポリエーテルスルホン膜層が二重層フィルタとして提供される、請求項33?35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記均質な水中油型エマルジョンを滅菌濾過する工程をさらに包含する、請求項33?36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記均質な水中油型エマルジョンが135nm?175nmの間の平均油滴サイズを有する、請求項33?37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記水中油型エマルジョンが、約10%(w/v)以下の油含量を有する、請求項33?38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記水中油型エマルジョンが界面活性剤を含む、請求項33?39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記水中油型エマルジョンが、スクアレン、ポリソルベート80およびソルビタントリオレエートを含む、請求項33?40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記水中油型エマルジョンが、約5体積%のスクアレン、約0.5体積%のポリソルベート80および約0.5体積%のソルビタントリオレエートを含む、請求項33?41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記均質な水中油型エマルジョンに、1つ以上の成分を添加して、該水中油型エマルジョンを含有する薬学的組成物を形成する工程
をさらに包含する、請求項33?42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記薬学的組成物が無菌である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記薬学的組成物が抗原を含む、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記薬学的組成物がワクチンである、請求項43?45のいずれか1項に記載の方法。」


3.特許権者に通知した取消理由
平成28年4月13日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。

「1.本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.下記の請求項に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
1.について
請求項1?46
引用文献2,3,9
引用文献2は、MF59をヒト用ワクチンのアジュバントとして用いることについて詳説する文献であり(277頁冒頭のタイトル部分)、該文献の「4.MF59の製造とスケールアップ」(288頁18行)と題する欄には、スクアレン含有エマルジョン(MF-59)を調製し、マイクロフルイダイザーを用いて微小流動化したこと、それにより得られたサブミクロンエマルジョンの粒径分布が、図10に示されるようなものであったこと、該サブミクロンエマルジョンを0.22μmフィルターで滅菌濾過したこと、が記載されている。また、該文献の「5.MF59アジュバント配合物を用いた臨床結果」(293頁5行)と題する欄には、種々の抗原と組合せて、被験者を用いた臨床試験を行ったことが記載されている。
本件特許発明を引用文献2に記載された発明と比較すると、濾過する際に使用する膜が、引用文献2では「0.22μmフィルター」であるのに対し、本件特許発明では、「0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜」である点で、両者は相違する。
しかしながら、引用文献9には、Sartopore2なる商品名の滅菌フィルターが記載され、このものが広範囲の医薬製品を濾過できるように設計された0.2μm級滅菌フィルターであること、親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜からなること、孔サイズ0.45μmの予備濾過膜と同0.2μmの最終濾過膜からなること、現存する滅菌フィルターのいずれに比べても優れた特性を持ち、高処理量、高流速の特性を備えるものであること、が記載されている。そして、Sartopore2なる商品名の滅菌フィルターは、本件特許発明において濾過する際に使用する膜に該当するものである。
そうすると、引用文献2に記載された発明において滅菌濾過に用いる「0.22μmフィルター」に代えて、0.2μm級という孔サイズと医薬製品の滅菌濾過という使用目的の点で共通し、かつ、優れた特性を持つとされる引用文献9に記載のSartopore2なる商品名の滅菌フィルターを用いて本件特許発明を構成することに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
また、本件特許発明の効果について検討するに、本件特許明細書の実施例の記載によれば、本件特許発明の親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用すると、1.2μmよりも大きいサイズを有する油滴の数を減らせたり、50リットルのエマルジョンを濾過するという工業スケールにおける回収率が、50%以上であることが記載されているが、これらの効果は、いずれも、引用文献9に記載されるSartopore2なる商品名の滅菌フィルターの性能に関する記載から予測し得るものに過ぎない。
(例えば、親水性化したPVDFなど、他の親水性材料で製造した、孔サイズ0.45μmの予備濾過膜と同0.2μmの最終濾過膜からなる滅菌フィルターを用いてスクアレン含有水中油型エマルジョンを濾過した場合に比較して、本件特許明細書の実施例のフィルターA?Dを用いて同じ条件下濾過した場合の方が、上記回収率などの点において格別優れている、といった事情があるのであれば、その旨を比較試験データを提示するなどして主張されたい。)
なお、引用文献2、3及び9は、各々、同申立書中の甲第2、3及び9号証として提出されたものである。

2.について
請求項1?31,33?40,43?46
引用文献12
取消理由の詳細については、本件特許異議申立人有限会社アモニータが提出した特許異議申立書を参照のこと。
なお、引用文献12は、同申立書中の甲第12号証として提出されたものである。

引 用 文 献 等 一 覧
2.M.F.Powellほか編, Pharmaceutical Biotechnology Vol.6 VACCINE DESIGN Chapter 10 MF59, Plenum Press 1995年発行, pp.277-296
3.D.T.O'Hagenほか編, Methods in Molecular Medicine Vol.42 Vacccine Adjuvants Preparation Methods and Research Protocols Chapter 12 The Adjuvant MF59:A 10-Year Perspective, Humana Press 2000年発行, pp.211-228
9.Bioprocess Catalogue Products and Solutions for the Biopharmaceutical Industry, Sartorius 2007年発行, pp.114-115
12.国際公開第2008/056263号 」


4.判断
(1)本件特許発明1について
(ア)特許法第29条第2項について
特許権者は、上記意見書に添付して下記の内容の実験成績証明書を乙第1号証として提出した。



この実験成績証明書によれば、親水性化したPVDFで製造した、孔サイズ0.45μmの予備濾過膜と同0.2μmの最終濾過膜からなる滅菌フィルターを用いてスクアレン含有水中油型エマルジョンを濾過した場合に比較して、本件特許明細書の実施例のフィルターA?Cを用いて同じ条件下濾過した場合の方が、上記回収率の点において格別優れている、といった事情があることがうかがえる。
そうすると、本件特許発明1は、親水性化したポリマーで製造した、孔サイズ0.45μmの予備濾過膜と同0.2μmの最終濾過膜からなる滅菌フィルターという点で軌を一にする滅菌フィルターの中でも、特に、ポリエーテルスルホンがスクアレン含有水中油型エマルジョンの濾過に適していることを見出したことによってなし得た発明、と評価するのが相当である。
してみれば、本件特許発明1は、上記引用文献2及び同様の内容の引用文献3並びに引用文献9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)特許法第36条第6項第1号について
具体的な取消理由は、以下のとおりである。
「本件発明は、・・・スクアレンを含有する水中油型のエマルジョンであれば、「スクアレン含有水中油型エマルジョン」におけるスクアレン以外の構成成分は特に限定されないものと解される。
本件明細書・・・加えて、甲第12号証・・・の記載を考慮すれば、「スクアレン含有水中油型エマルジョン」は、・・・スクアレンを油成分として含む点、及び水中油型のエマルジョンである点では共通する。
しかしながら、本件明細書の段落0121には、「上記エマルジョンはまた、3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(「3d-MPL」)を含み得るが、3d-MPL含有エマルジョンは、本発明では好ましくない(そしてときおり、放棄され得る。)」との記載がなされている。また、本件明細書の段落0120には、「スクアレン:トコフェロールの重量比は、好ましくは、≦1(例えば、0.90)である。なぜならこれは、より安定なエマルジョンを提供するからである。」との記載もなされている。
このように、本件特許権者も自認するとおり、エマルジョン中において、スクアレン以外の構成成分の種類、スクアレンと構成成分との含有比率が異なると、エマルジョンの性質もそれに応じて当然に異なってくる・・・のが技術常識である・・・。
これに対し、本件明細書の実施例1-4では、スクアレン、ポリソルベート80及びソルビタントリオレエートを含む一種類のスクアレン含有水中油型のエマルジョンについてのみ所定の作用効果を示したことが記載されており、その他の構成成分を含有するスクアレン含有水中油型のエマルジョンについても同様の作用効果を示すことについては、本件明細書には何ら記載されていない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、・・・その他のスクアレン含有水中油型のエマルジョンの製造方法についての発明が記載されているとはいえない。そして、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項、及び本件特許の優先日の時点における技術常識を参酌しても、本件発明の全範囲、すなわち、「スクアレンを含有する、あらゆる水中油型のエマルジョン」にまで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができない。」(異議申立書77ページ6行?79ページ8行より抜粋。)

そこで検討するに、本件特許発明1のスクアレン含有水中油型エマルジョンは、その名のとおり、スクアレンという特定の化合物を含有する水中油型エマルジョンであるから、スクアレン以外の構成成分も含まれるとしても、水中油型エマルジョンを構成し得ないような種類や量の構成成分は含まれないと解される。そうすると、かかる構成成分の種類やスクアレンとの含有比率が異なると、エマルジョンの性質もそれに応じて異なってくるとしても、本件特許発明1のスクアレン含有水中油型エマルジョンは、一定の範囲の性質を有するものということができ、スクアレン以外の構成成分の種類やスクアレンとの含有比率により、程度の差はあるかもしれないが、上記実施例1?4のエマルジョンと同様の効果を奏するものと認めるのが相当である。
そして、上記実施例1?4のエマルジョン以外のスクアレン含有水中油型エマルジョンを用いた場合に、実際に上記効果を奏さない場合のものがあることが明らかにされている、というような事情も見いだせない。
してみれば、本件特許発明1は、上記効果を奏するものとして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(ウ)本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、上記いずれの取消理由にも該当しない。

(2)本件特許発明2?46について
(ア)特許法第29条第2項について
本件特許発明2?46は、いずれも、スクアレン含有水中油型エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して濾過する点で、本件特許発明1と共通するものである。
したがって、本件特許発明2?46も、本件特許発明1と同様、引用文献2、3及び9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)特許法第36条第6項第1号について
本件特許発明2?31、33?40、43?46は、上記(ア)で説示したとおり、スクアレン含有水中油型エマルジョンを、0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して濾過する点で、本件特許発明1と共通するものであり、この点にさらに、本願出願日当時の周知・慣用の技術を付加したに過ぎないものといえる。
したがって、本件特許発明2?31、33?40、43?46も、上記効果を奏するものとして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(ウ)本件特許発明2?46についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明2?46も、上記いずれの取消理由にも該当しない。


5.むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件請求項1?46に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?46に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-28 
出願番号 特願2012-541594(P2012-541594)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 齋藤 恵
内藤 伸一
登録日 2015-06-05 
登録番号 特許第5754860号(P5754860)
権利者 ノバルティス アーゲー
発明の名称 ワクチンアジュバントの製造の間の親水性濾過  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 青木 博昭  
復代理人 ▲駒▼谷 剛志  
代理人 山本 秀策  

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