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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1320223
異議申立番号 異議2016-700573  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-24 
確定日 2016-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5835852号発明「非水電解液及びこれを含む二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5835852号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5835852号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、2008年6月10日を国際出願日とする出願である特願2010-512065号(パリ条約による優先権主張 2007年6月11日 韓国(KR))の一部を平成26年1月31日に新たな特許出願としたものであって、平成27年11月13日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人山崎浩一郎(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明10」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
陰極活物質が炭素材であるリチウム二次電池用液状電解液であって、
電解質塩と、及び電解質溶媒とを含んでなり、
i)少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、及び
ii)電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、
前記ビニル基が、下記式1で表われる基である、液状電解液。
【化1】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]
【請求項2】
前記ハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物が、3-フルオロエチレンカーボネート、3-クロロエチレンカーボネート、4-フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、シス-3,4-ジフルオロエチレンカーボネート、及びトランス-3,4-ジフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の液状電解液。
【請求項3】
前記ビニル基が、分子内末端に位置することを特徴とする、請求項1又は2に記載の液状電解液。
【請求項4】
前記ビニル基を含有するアクリレート系化合物が、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びトリス[2-(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1?3の何れか一項に記載の液状電解液。
【請求項5】
前記i)少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート系化合物と、
前記ii)ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物との成分比率が、1:0.1?10であることを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載の液状電解液。
【請求項6】
前記i)少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート系化合物と、
前記ii)ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物のそれぞれが、前記電解液100重量部当り0.05?10重量部で含有されてなり、
前記二つの化合物の全含量が、前記電解液100重量部に対して0.1?20重量部であることを特徴とする、請求項1?5の何れか一項に記載の液状電解液。
【請求項7】
固体電解質界面被膜(SEI)が表面の一部又は全部に形成されてなる電極であって、
前記固体電解質界面被膜(SEI)が、
少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、及び
ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物又はこれらの化学反応生成物を含有してなり、
前記ビニル基が、下記式1で表される基である、電極。
【化2】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]
【請求項8】
前記ハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物が、3-フルオロエチレンカーボネート、3-クロロエチレンカーボネート、4-フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、シス-3,4-ジフルオロエチレンカーボネート、及びトランス-3,4-ジフルオロエチレンカーボネートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記電極が、陰極であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の電極。
【請求項10】
陽極、陰極、及び電解液を備えてなる二次電池であって、
請求項1?6の何れか一項に記載の液状電解液と、
請求項7?9の何れか一項に記載の電極の、少なくとも何れか一方を備えることを特徴とする、二次電池。」

なお、請求項1における「ビニル基が、下記式1で表われる基である」との記載は、日本語による表現として明らかに、請求項7に記載されるように、「ビニル基が、下記式1で表される基である」ということを意味していると認める。以下、請求項1に記載される「ビニル基が、下記式1で表われる基である」は、「ビニル基が、下記式1で表される基である」と表記する。


第3 特許異議申立て理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特開2006-245001号公報(以下、「甲第1号証」という。)、欧州特許出願公開第1696501号明細書(以下、「甲第2号証」という。)、国際公開第2008/153296号(以下、「甲第3号証」という。)、特開2006-19274号公報(以下、「甲第4号証」という。)を提出し、以下の理由により、特許を取り消すべきものである旨主張している。

1. 特許法第29条第1項第3号乃至第2項について
(1-1) 本件特許発明1?10は、甲第1号証記載の発明と同一または甲第1号証記載の発明および周知事項から当業者が容易にできたものである(以下、「申立理由1-1」という。)。

(1-2) 本件特許発明1?10は、甲第4号証記載の発明と実質同一または甲第4号証記載の発明および周知事項から当業者が容易にできたものである(以下、「申立理由1-2」という。)。

2. 特許法第36条第6項第1号、同条第6項第2号、同条第4項第1号について(以下、「申立理由2」という。)
(2-1) 特許法第36条第6項第1号について
請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない(以下、「申立理由2-1」ともいうことがある。)。

(2-2) 特許法第36条第6項第2号について
請求項1に係る発明、および、請求項1を引用する請求項2?6、10に係る発明は、不明確である(以下、「申立理由2-2」ともいうことがある。)。

(2-3) 特許法第36条第4項第1号について
請求項1、4に係る発明、請求項1を引用する請求項2?6、10に係る発明、および、請求項4を引用する請求項5?6、10に係る発明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない(以下、「申立理由2-3」ともいうことがある。)。


第4 甲号証の記載事項(当審注:「…」は、記載の省略を表す。)
1. 甲第1号証には、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、「リチウム電池用電解質,および,リチウム電池」の発明であって、先の特許出願(2005-0016691(韓国(KR))を基礎とした、パリ条約による優先権主張を伴う出願に係る発明について、以下の事項が記載されている。

ア. 「【技術分野】
本発明は,リチウム電池用電解質およびそれを含むリチウム電池に係り,より詳しくは,安全性に優れたリチウム電池用電解質およびそれを含むリチウム電池に関するものである。」(【0001】)

イ. 「【背景技術】

電池の容量および性能特性を改善し且つ過充電特性のような安全性を向上させるための研究も活発に行われている。電池が過充電すると,充電状態によって,陽極ではリチウムが過剰析出され,陰極ではリチウムが過剰挿入することにより,陽極および陰極が熱的に不安定になって電解質の有機溶媒が分解するなど急激な発熱反応が起こったり,熱爆走現象が発生したりして電池の安全性の面で深刻な問題点が発生する。」(【0002】?【0003】)

ウ. 「【発明が解決しようとする課題】
そこで,本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,電池の安全性を改善させることが可能なリチウム電池用電解質を提供することにある。
本発明の他の目的は,上記電解質を含むリチウム電池を提供することにある。」(【0007】?【0008】)

エ. 「【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために,本発明は,非水性有機溶媒,リチウム塩,および2.5?4.8Vで安定し,遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含むリチウム電池用電解質を提供する。
本発明の電解質を含むリチウム電池は,過充電特性といった電池の安全性が既存の非水系電解質を使用する電池に比べて著しく優れる。上記錯体形成添加剤は,金属を捕集し,上記金属が陰極表面に析出されて内部の短絡による電圧降下が発生し且つ安全性が低下するといった問題を防止することができ,特に高温放置時の安全性の確保に優れた効果を示す。なお,2.5?4.8Vは電池の一般的な放充電の範囲である。
前記錯体形成添加剤は,下記化学式1?3で表わす化合物の少なくとも一つであることが好ましい。
【化1】

【化2】

【化3】

(前記化学式1?前記化学式3中,R1,R2,R3,R4,R5およびR6は同一またはそれぞれ独立しており,R1?R3の少なくとも一つおよびR4?R6の少なくとも一つはAXR’(AはN,O,PまたはSであり,xは0または1であり,R’はCN,C1?C15の直鎖状または分枝状アルキル基またはカルボキシル基であり,残りはH,ハロゲン,C1?C15アルキルまたはC6?C15のアリール基である。)であり,
nは0?10の整数であり,
n1は0?15の整数であり,n1が奇数のときにaは1を示し,n1が偶数のときにaは1/2または1を示す。)

前記電解質は,ハロゲン,シアノ基(Cn)およびニトロ基(NO_(2))よりなる群から選択する置換基を有するカーボネート,炭酸ビニレン,ジビニルスルホンおよび亜硫酸エチレンよりなる群から選択する添加剤をさらに含むことが好ましい。
このような第3添加剤をさらに含むと,高温スウェリング特性と容量,寿命,低温特性などの電気化学的特性に優れた電池を提供することができる。
前記電解液は,ハロゲン,シアノ基(CN)およびニトロ基(NO_(2))よりなる群から選択する置換気を有するカーボネート添加剤をさらに含むことが好ましい。
前記カーボネート添加剤は,下記化学式28のカーボネートであることが好ましい。
【化28】

前記化学式28中,X1はハロゲン,シアノ基(CN)およびニトロ基(NO_(2))よりなる群から選択する。
前記カーボネート添加剤は,フルオロエチレンカーボネートであることが好ましい。
また,本発明は,上記電解質リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な陽極活物質を含む陽極と,リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な物質,リチウム金属,リチウム含有合金,およびリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することが可能な物質よりなる群から選択する陰極活物質を含む陰極とを備えるリチウム電池を提供する。

前記陰極活物質は,リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な炭素系列物質であることが好ましい。」(【0009】?【0045】)

オ. 「本実施形態は,上記電解質を含むリチウム電池を提供する。リチウム電池の陽極活物質としては,リチウムの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な化合物(Liインターカレーション化合物)などが使用できる。陰極活物質としては,リチウムイオンをインターカレーション/でインターカレーションすることが可能な炭素系列物質,リチウム金属,リチウム含有合金またはリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することが可能な物質が使用できる。」(【0099】)

カ. 「(比較例1)
LiCoO2陽極活物質94g,スーパー-P導電材3gおよびポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダー3gをN-メチル-2-ピロリドンに溶解して陽極活物質スラリーを製造した。上記陽極活物質スラリーを幅4.9cm,厚さ147μmのAl箔に塗布し,これを乾燥および圧延した後,所定の寸法に切断して陽極を製造した。
メゾカーボンファイバ(MCF:Petoca社)陰極活物質90gおよびポリフッ化ビニリデンバインダー10gをN-メチル-2-ピロリドンに溶解して陰極活物質スラリーを製造した。この陰極活物質スラリーを幅5.1cm,厚さ178μmの銅箔上に塗布した後,これを乾燥および圧延し,所定の寸法に切断して陰極を製造した。
製造された陽極と陰極との間に,ポリエチレンフィルムで製造されたセパレータを配置し,これをワインディングして電極アセンブリを作った。この電極アセンブリを電池ケース内に挿入した後,液体電解質を減圧して注入することにより,電池を完成した。この際,電解質としてはエチレンカーボネート,エチルメチルカーボネート,ジメチルカーボネートおよびフルオロベンゼンの混合溶媒(3:5:1:1の体積比)に1MのLiPF_(6)を溶解した電解質を使用した。また,クロロトルエンを上記電解質全体100重量部に対して10重量部添加し,酢酸フェニルを7重量部添加した。
上記比較例1に係る電池を3つ製造してそれぞれNo.1?No.3と命名した後,標準充電後のOCV,IRおよび電池の厚さと,85℃で4時間放置した後のOCV,IRおよび電池の厚さとを測定し,その結果を表1に示した。
【表1】

表1に示すように,酢酸フェニルのみを使用した比較例1の場合,高温放置の際にOCVが著しく低下し,電池の厚さが大幅増加することからみて,電池の内部からのガス発生,すなわちスウェリング現象が激しいことが分かる。
(比較例2)
酢酸フェニルを使用しない以外は,上記比較例1と同様に行ってリチウム二次電池を完成した。」 (【0103】?【0109】)

キ. 「 (実験例1)
サクシノニトリルのサイクリックボルタンメトリーを,作用電極(working electrode)としてガラス状カーボンを,基準電極および対極として金属リチウムをそれぞれ使用して0.5mV/秒の速度で3回測定し,その結果を図2に示した。図2に示すように,サクシノニトリルは2.5?4.8Vの間で特定の酸化還元ピークを示さないことからみて,この範囲内で安定した化合物であることが分かる。 」(【0110】)

ク. 「(実施例1)
サクシノニトリルを1MのLiPF_(6)の溶解されたエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート:フルオロベンゼンの混合溶媒(3:5:5:1の体積比)に添加して製造された電解質を使用した以外は,比較例1と同様の方法によってリチウム二次電池を完成した。この際,上記サクシノニトリル添加剤の添加量は,全体電解質の重量に対して5重量%とした。

(実施例4)
サクシノニトリルの代わりにエチレングリコールジアクリレート(EGDA)を全体電解液重量に対し5重量%の量で使用した以外は,実施例1と同様に行った。」(【0103】?【0113】)

ケ. 「…実施例1?6と比較例1?2の電池を85℃で4時間放置する高温放置実験を行った。また,上記実施例および上記比較例で製造された電池に対して過充電実験を行った。過充電実験は,製造された電池を4.2Vまで満充電した後,各端子にNiタブを抵抗溶接してリード線とし,充放電器に連結した後,定電流/定電圧条件として1.5C(1.6A)/12Vまで過充電し,12V到達の後,電流を2.5時間印加し続けて電池の発火および爆発有無を観察した。その結果を表3に示した。表3において,過充電安全性評価の基準は次のとおりである。表3において標準容量の単位はmAhである。
L0:良好,L1:漏液,L2:閃光,L2:火花,L3:煙り,L4:発火,L5:破裂
【表3】

(当審注:「【表3】」には、酢酸フェニルの添加量(重量)が「0」の「比較例1」と、同添加量(重量)が「7」の「比較例1」とが記載されているが、上記カの「 酢酸フェニルを使用しない以外は,上記比較例1と同様に行って比較例2のリチウム二次電池を完成した」旨の記載によれば、「【表3】」における、酢酸フェニルの添加量(重量)が「0」の「比較例1」は、「比較例2」の誤記であると認められる。)

表3に示すように,サクシノニトリルと酢酸フェニルを共に使用した実施例2の場合が高温放置及び過充電安全性に最も優れることが分かる。酢酸フェニルを添加していない実施例3?6の場合には,高温放置特性は全て満足し,過充電安全性はL0まで満足してはいないが,添加剤を全く使用していない比較例2に比べてやや向上したことが分かる。
また,添加剤を全く使用していない比較例2の場合には,高温放置特性は満足するが,過充電安全性は非常に良くなく,酢酸フェニルのみを使用した比較例1の場合には,過充電安全性には優れるが,高温放置特性は良くないことが分かる。」(【0121】?【0125】)

コ. 【図2】

上記キ.の(実験例1)の記載を踏まえると、図2からは、錯体形成添加剤は、2.5?4.8Vの間で酸化還元反応を起こさない安定した化合物であることが見て取れる。


2. 甲第2号証は、甲第1号証と同じ先の特許出願(KR 2005-016691)を基礎とした、パリ条約による優先権主張を伴う欧州特許出願の公開明細書であって、「Electrolyte for a litium battery and lithium battery comprising the same(当審訳:リチウム電池用電解質,および,それを含むリチウム電池)」の発明について、以下の事項が記載されている。

「In one embodiment of the present invention, a lithium battery includes the inventive electrolyte. In this embodiment, the positive active material comprises a lithiated intercalation compound, which is capable of intercalating/deintercalating lithium. The negative active material is selected from the group consisting of carbonaceous materials capable of intercalating/deintercalating lithium, lithium metals, lithium-containing alloys and materials capable of reversibly forming lithium-containing compounds by reacting lithium.」([0038])
(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)(当審訳:本実施形態では,リチウム電池は本発明の電解質を含む。この実施形態においては、陽極活物質は,リチウムの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な,Liインターカレーション化合物からなる。陰極活物質は,リチウムの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な炭素系列物質,リチウム金属,リチウム含有合金およびリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することが可能な物質からなる群から選択される。」


3. 甲第3号証は、本件特許の出願に係る国際公開された明細書であって、「NON-AQUEOUS ELECTROLYTE AND SECONDARY BATTERY COMPRISING THE SAME(当審訳:非水電解質、および、それを含む二次電池)」の発明について、以下の事項が記載されている。

「As the anode active material, any type of anode active material that may be used in an anode of a conventional secondary battery may be used. Non-limiting examples of the anode active material may include lithium- absorbing/discharging materials, such as lithium metal, lithium alloy, carbon, petroleum coke, activated carbon, graphite, carbon fiber, etc. In addition, a metal oxide, such as TiO 2 , SnO 2 , etc., which can absorb and discharge lithium ions and has a potential vs. lithium potential of less than 2V may be used. Particularly, a carbonaceous material, such as graphite, carbon fiber, activated carbon, etc. is preferred.」(明細書第12頁第17?27行)(当審訳:陰極活物質は、従来、二次電池の陰極に使用し得る通常の陰極活物質を使用することができ、例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム金属、リチウム合金、炭素、石油コークス、活性炭、黒鉛、炭素繊維などが挙げられるが、これらに制限されない。その他、リチウムを吸蔵及び放出できると共に、リチウムに対する電位が2V未満のTiO_(2)、SnO_(2)などのような金属酸化物を使用することができる。特に、黒鉛、炭素繊維、活性炭などの炭素材が好ましく使用される。)


4. 甲第4号証には、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、「リチウム電池」の発明について、以下の事項が記載されている。

タ. 「【技術分野】
本発明は,リチウム二次電池用電解質及びこれを含むリチウム二次電池に関し,より詳しくは,電池の安全性,高温保管特性,及び電気化学的特性を向上させることができる,リチウム二次電池用電解質及びこれを含むリチウム二次電池に関する。」(【0001】)

チ. 「【背景技術】
非水電解液を利用したリチウム二次電池は,高電圧及び高エネルギー密度を有し,また,保管特性や低温動作性が優れているため,携帯用電気製品に広く利用されている。また,この電池を大型化して,電気自動車用や家庭用夜間電力保存装置用として活用するための研究開発が盛んに行われている。また,最近は,特に,薄型で高容量の電池が要求されているため,ポリマー電池またはラミネート外装の薄型リチウム二次電池の需要が増加している。
しかし,これらに利用される溶媒のほとんどは,引火点が低くて燃焼性が高いため,過充電や加熱などによって発火及び爆発などの危険性がある。従って,最近は,電池の安全性を確保する方法が提案されている。例えば,特許文献1には,ハロゲン化カーボネートを非水電解液に混合することによって,電解液の燃焼性を低下させることができ,また,高温特性,低温特性,及びサイクル特性と共に,十分な電池の性能を示す非水電解液が記載されている。」(【0002】?【0003】)

ツ. 「【発明が解決しようとする課題】
しかし,ハロゲン化カーボネートを非水電解液に混合したリチウム二次電池を,約60℃の温度で数日間保管すると,負極の表面に形成されていた被膜が分解されてガスが発生し,電池の内圧が大幅に上昇する問題がある。特に,ポリマー電池またはラミネート外装の薄型リチウム二次電池では,分解ガスによって電池の厚さが増加するのは致命的な問題である。また,ポリマー電池またはラミネート外装の薄型リチウム二次電池では,過充電による過度に急激な内圧の上昇によって電池が膨脹変形して,内部短絡が発生する問題がある。特に,放電状態から大電流で過充電時には,リチウム析出によって内部が短絡されやすくなるため,安全性の確保が困難になるという問題があった。
また,プロピレンカーボネートやガンマブチロラクトンなどを含む引火点や燃焼熱の高い非水電解液を使用して安全性を確保する方法も提案されているが,これら溶媒によるプロピレンカーボネートやガンマブチロラクトンによって生成された負極被膜は,耐久性が脆弱であるため,リチウム二次電池の基本特性である寿命特性を確保することができないだけでなく,寿命の劣化時に電池の膨脹(swelling)現象を伴うため,リチウム二次電池に対する信頼性を確保することができないという問題があった。
そこで,本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,安全性,高温保管特性,及び電気化学的特性が優れている,リチウム二次電池を提供することにある。」(【0006】?【0008】)

テ. 「【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,リチウムの可逆的な挿入/脱離が可能な正極及び負極,及び電解質を含んで形成されるリチウム二次電池において,電解質は,環状カーボネート,及びアルキル,アルケニル,アールキニル,アリール,またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒,及びリチウム塩を含むリチウム二次電池が提供される。

上記負極は,人造黒鉛,天然黒鉛,黒鉛化炭素繊維,黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ,フラーレン,非晶質炭素,またはこれらの混合物で構成される群より選択される炭素質材料であってもよい。」(【0009】?【0012】)

ト.「本発明はまた,正極及び負極を含むリチウム二次電池を提供する。リチウム二次電池は,正極,負極,及び電解質を含み,必要に応じてセパレータを含むことができる。…
本発明の第1実施形態によるリチウム二次電池の電解質は,環状カーボネート,及びアルキル,アルケニル,アールキニル,アリール,またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒,及びリチウム塩を含む。

本発明の第3実施形態によるリチウム二次電池の電解質は,環状カーボネート,及びアルキル,アルケニル,アールキニル,アリール,またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒,リチウム塩,及びゲル形成化合物を含む。第1?第3実施形態による電解質で,環状カーボネートは,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ビニレンカーボネート,ブチレンカーボネート,またはこれらの混合物が好ましく,エチレンカーボネートがより好ましい。これら環状カーボネートは,リチウムイオンと溶媒化されやすいため,電解質のイオン伝導度を向上させることができる。

本発明の第1実施形態による電解質の構成によると,電解質の不燃性を向上させて,リチウム二次電池の安全性を向上させることができる。また,負極の表面にラクトン系化合物による被膜が形成され,この被膜によって有機溶媒の分解が抑制されて,リチウム二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる。また,負極の表面に形成された被膜の耐久性が優れていて,高温保管時にも分解されず,ガスの発生を抑制することができて,高温保管特性が既存のカーボネート系溶媒で構成される非水系電解質に比べて非常に優れている。

本発明の第3実施形態による電解質は,環状カーボネート,及びアルキル,アルケニル,アールキニル,アリール,またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒,リチウム塩,及びゲル形成化合物を含む。
ゲル形成化合物は,非水電解液を維持/支持してゲル電解質を形成する。このゲル電解質を利用したリチウム二次電池は,高温保管時に,分解ガスの発生も抑制することができる。
ゲル形成化合物としては,二つ以上の官能基を有するポリアクリレートを例示することができ,より具体的には,ポリエチレングリコールジメタクリレート,ポリエチレングリコールアクリレートを例示することができる。これらは,加熱によってラジカル重合して重合体を形成するものであり,ゲル形成化合物の種類及び濃度を適切に選択することによって,ゲル型の電解質にすることができる。…

本発明の第3実施形態による電解質の構成によると,電解質の不燃性を向上させて,リチウム二次電池の安全性を向上させることができる。また,負極の表面にラクトン系化合物による被膜が形成され,この被膜によって有機溶媒の分解が抑制されて,リチウム二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる。また,負極の表面に形成された被膜の耐久性が優れていて,高温保管時にも分解されず,ガスの発生を抑制することができて,高温保管特性が既存のカーボネート系溶媒で構成される非水系電解質に比べて非常に優れている。」(【0047】?【0076】)

ナ. 「本発明の第1?第3実施形態による電解質は,電子吸引基を有するエステル化合物をさらに含むことができる。エステル化合物は,環状エステル化合物であるのが好ましい。環状エステル化合物の中でも,下記の化学式4で示されるエチレンカーボネート誘導体を好ましく使用することができる。
【化5】

上記式で,X及びYは各々独立的に水素,ハロゲン,シアノ基(CN),及びニトロ基(NO_(2))で構成される群より選択される電子吸引基であり,X及びYのうちの少なくとも一つはハロゲン,シアノ基(CN)及びニトロ基(NO_(2))で構成される群より選択される電子吸引基であるのが好ましい。
エチレンカーボネート誘導体の好ましい例としては,フルオロエチレンカーボネート…などがある。
電子吸引基を有するエステル化合物は,電解質に対して0.1質量%以上25質量%以下,好ましくは0.5質量%以上10質量%以下の量で添加される。エステル化合物の使用量が0.1質量%未満である場合には,電池の内部でのガス発生抑制効果を期待し難く,25質量%を超える場合には,電池の可逆性を損なうほど厚い導電性被膜が形成されるので,サイクル寿命特性などの電池の性能が低下する問題がある。」(【0078】?【0081】)

ニ. 「(実施例及び比較例;リチウム二次電池の製造)
下記の表1に記載された組成で電解質を製造した。表1で,非水性有機溶媒の組成は体積比で示した。表1で,ECはエチレンカーボネート,DECはジエチルカーボネート,EMCはエチルメチルカーボネート,GBLはガンマブチロラクトン,GCLはガンマカプロラクトン,GVLはガンマヴァレロラクトン,GOLはガンマオクタノラクトン,FECはモノフルオロエチレンカーボネートであり,PEGDAはポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物である。
【表1】

リチウム酸化コバルト(LiCoO_(2))で構成される正極活物質に対して,カーボンブラックを混合して混合物を製造した。また,ポリフルオロ化ビニリデンが溶解されているN-メチルピロリドン溶液を用意した。そして,N-メチルピロリドン溶液に混合物を混合してスラリーとし,このスラリーをドクターブレード法によってアルミ箔に塗布した。スラリーを塗布した後に乾燥して,また,長方形に裁断することによって,集電体であるアルミ箔上に正極が形成された正極を製造した。
次に,スチレン-ブタジエンゴム,カルボキシメチルセルロースナトリウム,人造黒鉛を水に分散させた後,製造されたスラリーをドクターブレード法によって銅箔に塗布した。スラリーを塗布した後に乾燥して,また,長方形に裁断することによって,集電体である銅箔上に負極が形成された負極を製造した。
正極及び負極の間にポリプロピレン製の多孔質セパレータを挿入して,また,これらを螺旋状に巻いて小電池を製造し,これをアルミラミネート製の電池容器に挿入した。そして,小電池を挿入した電池容器に,比較例及び実施例の電解質を所定の量で注液した。そして,注液後に電池容器を密封して,24時間放置することによって,リチウム二次電池を製造した。また,実験に使用した電池のサイズは,厚さ3.8mm,幅35mm,高さ62mmのアルミラミネート外装を利用して,設計容量は800mAhであった。」(【0084】?【0088】)

ヌ. 「(試験例1;クーロン効率分析)
比較例1?比較例3及び実施例1?実施例15のリチウム二次電池を初期充電する時の,電解質に使用された有機溶媒のクーロン効率の分析結果を図2に示した。図2に示されているように,GBL(ガンマブチルラクトン),GVL(ガンマヴァレロラクトン),GCL(ガンマカプロラクトン)なども,リチウムイオン電池の代表的な負極被膜形成剤であるEC(エチレンカーボネート)と同様に,初期充電時に負極に被膜を形成する物質であることが分かる。このように,初期充放電時に負極に被膜を形成する負極被膜形成剤は,リチウム二次電池の重要な役割を果たす。つまり,負極の表面に被膜を形成する物質は,比較例1ではEC,比較例2及び比較例3ではGBL,実施例1,実施例3,実施例5,実施例8,実施例10,及び実施例12ではGCL,実施例2,実施例4,実施例6,実施例9,及び実施例11ではGVL,実施例7ではFECを各々使用した。」(【0089】)

ネ. 「(試験例3;電池の特性の評価)
実施例1?7及び比較例1?3のリチウム二次電池に対して,常温の寿命特性,高温(60℃)の寿命特性,過充電防止特性,及び高温(80℃)での保管安定性を測定して,下記の表3に記載した。各々の電池の特性の評価は下記の通り実施した。
常温の寿命特性及び高温の寿命特性は,リチウム二次電池を常温または60℃で充放電をくり返し行うことによって評価した。また,充電条件は定電流-定電圧充電とし,1Cの電流で電圧が4.2Vに達するまで定電流充電した後に,4.2Vで2時間定電圧充電する条件とした。また,放電条件は定電流放電とし,1Cで電圧が3.0Vに達するまで放電する条件とした。100回の充放電後の容量残存率を表2に示した。100回の充放電後の容量残存率とは,寿命1回の充放電時の放電容量に対する100回の充放電時の放電容量の比率である。
高温保管安定性は,80℃の恒温オーブンに5日間放置した後に,温度が低下する前に電池の厚さを測定して,高温放置前の厚さに対する厚さの増加率を測定して評価した。過充電防止特性は,4.2Vで0.5C定電流充電した後に,4.2Vで2時間定電圧充電した後,3時間常温に放置した後,2Aの定電流で12Vで5時間過充電をした。
【表3】

表3に記載されたように,ECによって負極被膜を形成した比較例1の場合には,寿命特性は優れているが,過充電時に爆発が起こることが分かる。これは,…燃焼熱が高く,引火点が低いDECを70体積%使用したので,過充電時に発生する熱量によって爆発段階まで到達することが分かる。比較例2及び比較例3の場合には,電解質として,引火点及び燃焼熱の観点から比較例1の条件よりは安定した高燃焼熱低引火点の溶媒(EC及びGBL)を70?100体積%使用したので,過充電条件で充電中に爆発が起こらないが,寿命特性が非常に悪いことが分かる。これにより,比較例2及び比較例3の条件で形成された負極被膜は,充放電が持続的に行われるリチウムイオン二次電池には適さないことが分かる。
これに対して,GCLを被膜形成物質として使用した実施例(実施例1,実施例3,実施例5,実施例8,実施例10,及び実施例12),GVLを被膜形成物質として使用した実施例(実施例2,実施例4,実施例6,実施例9,及び実施例11),FECを被膜形成物質として使用した実施例7は,過充電時に爆発が起こらないだけでなく,寿命特性及び高温保管特性が比較例2及び比較例3に比べて非常に優れていることが分かる。これは,難燃性溶媒としてガンマヴァレロラクトン及びガンマカプロラクトンを使用することができることを十分に示唆している。つまり,実施例1及び実施例2で使用した電解質は,耐熱性及び耐久性が優れている被膜を形成するだけでなく,燃焼熱及び引火点も優れているので,リチウムイオン二次電池の電解質に適していることが分かる。
また,実施例3?13の場合には,誘電率が低いDECを40体積%使用したので,電解液の粘度が減少して,電池の寿命性能も向上することが分かる。
二つの電解質塩を使用した実施例10及び11の場合には,高温保管特性がより向上することが分かる。実施例10及び11のように二つの電解質塩を使用したリチウムイオン電池用電解質は,優れた耐熱性及び耐久性を示す。
ゲル形成化合物を含む実施例12及び13の電解質は,耐熱性及び耐久性が優れていることが分かる。」(【0092】?【0100】)

ノ. 【図2】

上記ニ.?ヌ.の記載を踏まえると、図2からは、初期充電時に負極に被膜を形成する物質が異なれば曲線形状が異なり、また、初期充電時に負極に被膜を形成する物質が同じであれば曲線の形状が重なること、そして、初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、比較例1ではEC(エチレンカーボネート)、比較例2?3ではGBL(ガンマブチルラクトン)、実施例1,3,5,8,10,12ではGCL(ガンマカプロラクトン)、実施例2,4,6,9,11ではGVL(ガンマヴァレロラクトン)、実施例7ではFEC(モノフルオロエチレンカーボネート)であったことが見て取れる。


第5 甲号証記載の発明
1. 甲第1号証記載の発明
ア. 甲第1号証には、上記第4の1.ア.?エ.によれば、「電池の安全性を改善させることが可能なリチウム電池用電解質を提供すること、上記電解質を含むリチウム電池を提供すること」を発明が解決しようとする課題としていること、その「課題を解決するために、非水性有機溶媒、リチウム塩、および2.5?4.8Vで安定し、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含む、リチウム電池用電解質を提供する」こと、この「発明の電解質を含むリチウム電池は、過充電特性といった電池の安全性が既存の非水系電解質を使用する電池に比べて著しく優れる」こと、「前記電解液は、フルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤をさらに含むことが好ましい」こと、この「発明は、上記電解質、リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な陽極活物質を含む陽極と、リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な物質,リチウム金属,リチウム含有合金,およびリチウムと可逆的に反応してリチウム含有化合物を形成することが可能な物質よりなる群から選択する陰極活物質を含む陰極とを備えるリチウム電池を提供する」こと、「前記陰極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な炭素系列物質であることが好ましい」ことが記載されている。

イ. 上記ア.に示した甲第1号証のリチウム電池用電解質に関する記載事項を、本件特許発明1の記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な陽極活物質を含む陽極と、リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な炭素系列物質である陰極活物質を含む陰極とを備える、リチウム電池用電解質であって、
非水性有機溶媒、リチウム塩、および2.5?4.8Vで安定し、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含み、
フルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤をさらに含む、
リチウム電池用電解質。」(以下、「甲1a発明」という。)

ウ. また、上記イ.に示した甲1a発明において、陰極に注目すると、甲第1号証には、次の発明も記載されていると認められる。
「リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な炭素系列物質である陰極活物質を含むリチウム電池用陰極であって、
前記リチウム電池は、非水性有機溶媒、リチウム塩、および2.5?4.8Vで安定し、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含み、フルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤をさらに含む、電解質を備える、
リチウム電池用陰極。」(以下、「甲1b発明」という。)


2. 甲第4号証記載の発明
カ. 甲第4号証には、上記第4の4.タ.?テ.によれば、「安全性、高温保管特性、及び電気化学的特性が優れている、リチウム二次電池を提供すること」を発明が解決しようとする課題としていること、その「課題を解決するために、リチウムの可逆的な挿入/脱離が可能な正極及び負極、及び電解質を含んで形成されるリチウム二次電池において、電解質は、環状カーボネート、及びアルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒、及びリチウム塩を含むリチウム二次電池が提供される」こと、「上記負極は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ、フラーレン、非晶質炭素、またはこれらの混合物で構成される群より選択される炭素質材料であってもよい」ことが記載されている。

キ. そして、上記第4の4.ト.によれば、甲第4号証には、上記カ.に示したリチウム二次電池について、「第3実施形態によるリチウム二次電池の電解質は、環状カーボネート、及びアルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒、リチウム塩、及びゲル形成化合物を含む」こと、「ゲル形成化合物としては、二つ以上の官能基を有するポリアクリレートを例示することができ」ることが記載されている。

ク. また、上記第4の4.ナ.によれば、甲第4号証には、上記カ.に示したリチウム二次電池について、「第3実施形態による電解質は、電子吸引基を有するエステル化合物をさらに含むことができる」こと、「エステル化合物は、環状エステル化合物であるのが好ましい。環状エステル化合物の中でも化学式4で示されるエチレンカーボネート誘導体を好ましく使用することができる。」こと、「エチレンカーボネート誘導体の好ましい例としては、フルオロエチレンカーボネートなどがある」ことが記載されている。

ケ. さらに、上記第4の4.ニ.によれば、甲第4号証には、リチウム酸化コバルト(LiCoO_(2))で構成される正極活物質を用いて製造した正極と人造黒鉛を用いて製造した負極の間にポリプロピレン製の多孔質セパレータを挿入し、これらを螺旋状に巻いて小電池を製造し、これをアルミラミネート製の電池容器に挿入し、その電池容器に電解質を所定の量で注液し、注液後に前記電池容器を密封して24時間放置することによって製造した、リチウム二次電池が記載され、すなわち、人造黒鉛を用いて製造した負極を備えたリチウム二次電池が記載され、そのリチウム二次電池の電解質として、比較例1?3の電解質、及び、実施例1?15の電解質が記載されているところ、比較例3の電解質にFEC(モノフルオロエチレンカーボネート)を2体積%添加した電解質が、実施例7の電解質として記載され、比較例3の電解質にGCL(ガンマカプロラクトン)を3体積%、PEGDA(ポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物)を3wt%添加した電解質が、実施例12の電解質として記載され、比較例3の電解質にGVL(ガンマヴァレロラクトン)を3体積%、PEGDA(ポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物)を3wt%添加した電解質が、実施例13の電解質として記載されている。

コ. 上記カ.?キ.の記載からすると、上記ケ.に示した、人造黒鉛を用いて製造した負極を備えたリチウム二次電池の電解質である実施例の電解質のうち、実施例12?13の電解質は、ゲル形成化合物を含むことから、上記カ.に示したリチウム二次電池の電解質についての第3実施形態といえるところ、上記ク.に示したように、その電解質はフルオロエチレンカーボネートなどの電子吸引基を有する環状エステル化合物をさらに含むことが好ましいとされており、また、上記ケ.に示した実施例の電解質のうち、実施例7の電解質では、電子吸引基を有する環状エステル化合物としての、FEC(モノフルオロエチレンカーボネート)が2体積%添加されている。

サ. 上記カ.?コ.の検討を踏まえると、甲第4号証には、第3実施形態によるリチウム二次電池の電解質に注目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「環状カーボネート、及びアルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒、リチウム塩、及びポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物を含むリチウム二次電池の電解質であって、
モノフルオロエチレンカーボネートをさらに含み、
前記リチウム二次電池はリチウムの可逆的な挿入/脱離が可能な正極及び負極、及び電解質を含んで形成され、前記負極は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ、フラーレン、非晶質炭素、またはこれらの混合物で構成される群より選択される炭素質材料であるとする、リチウム二次電池の電解質。」(以下、「甲4a発明」という。)

シ. また、上記サ.に示した甲4a発明において、負極に注目すると、甲第4号証には、以下の発明も記載されていると認められる。

「人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ、フラーレン、非晶質炭素、またはこれらの混合物で構成される群より選択される炭素質材料であるとするリチウム二次電池の負極であって、
前記リチウム二次電池はリチウムの可逆的な挿入/脱離が可能な正極及び前記負極、及び電解質を含んで形成され、
前記電解質は、環状カーボネート、及びアルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒、リチウム塩、及びポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物を含み、モノフルオロエチレンカーボネートをさらに含む、リチウム二次電池の負極。」(以下、「甲4b発明」という。)


第6 当審の判断
1. 申立理由1-1について
(1-1) 本件特許発明1について
ア. 対比
本件特許発明1と上記第5の1.イ.に示した甲1a発明とを対比すると、甲1a発明における「非水性有機溶媒」、「リチウム塩」、「フルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤」は、技術常識からして、それぞれ、本件特許発明1における「電解質溶媒」、「電解質塩」、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物」に相当するし、また、甲1a発明における「リチウム電池」は、「リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な陽極活物質を含む陽極と、リチウムをインターカレーションおよびデインターカレーションすることが可能な炭素系列物質である陰極活物質を含む陰極とを備える」ことから、すなわち充放電を行えるリチウム電池であることから、本件特許発明1における「リチウム二次電池」に相当するし、甲1a発明における「リチウム電池用電解質」は、本件特許発明1における「リチウム二次電池用液状電解質液」と同様に、電解質溶媒、電解質塩を含んでいることからして、本件特許発明1における「リチウム二次電池用液状電解質液」とは、リチウム二次電池用電解質の点で一致しているといえる。
また、甲1a発明における「陰極活物質」について、甲第1号証には、上記第4の1.オ.に示したような記載があり、この記載は、甲第2号証における上記第4の2.に示したような記載に対応していることからして、甲1a発明における「炭素系列物質」は、甲第2号証では「carbonaceous materials」と表されているといえるところ、本件特許発明1における「陰極活物質」についての記載がある、本件特許の出願に係る国際公開された明細書である甲第3号証の上記第4の3.に示したような記載を参照すると、本件特許発明1における「炭素材」は、甲第3号証では、甲第2号証と同じく、「carbonaceous material」と表されているため、甲1a発明における「炭素系列物質」は、本件特許発明1における「炭素材」に相当するといえる。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
陰極活物質が炭素材であるリチウム二次電池用電解質であって、
電解質塩と、及び電解質溶媒とを含んでなり、
少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物を含んでいる、
電解質の点。

<相違点>
相違点1:電解質が、本件特許発明1では「液状電解液」であるのに対し、甲1a発明では液状電解液であるのか否かが明らかでない点。

相違点2:本件特許発明1は「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んで」おり、「前記ビニル基が、下記式1で表される基である」のに対し、
甲1a発明では、「2.5?4.8Vで安定し、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含」んでいるものの、
「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んで」おり、「前記ビニル基が、下記式1で表される基である」(以下、単に「前記ビニル基が、式1で表されるビニル基である」ともいう。)のか否かが明らかでない点。
【化1】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]


イ. 判断
(ア) 上記相違点1?2につき検討するにあたって、まず、本件特許発明1の技術的意義につき検討するに、本件特許の明細書の発明の詳細な説明によれば、通常、二次電池は、初期充電を行う時、陰極活物質の表面上で電解液が還元分解されて固体電解質界面被膜(以下、単に「SEI」という。)が形成されることから、従来、SEIを形成できる種々の電解液添加剤を使用することによってSEIの特性を改善しようとする様々な研究が行われてきたが、SEIの安定性とリチウムイオン伝導性とは相反するため、同時に向上することができなかったところ、本件特許発明1は、SEIの特性を最適化し、寿命性能、高温性能などの電池の諸性能を同時に向上させる電解液を提供することを、発明が解決しようとする課題とし、(初期充電を行う時に)安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなる化合物を電解液成分として混用するとの技術思想により、上述の課題を解決したものであるとされている(【0008】、【0010】?【0018】)。

(イ) そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明によれば、(初期充電を行う時に)安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなる化合物を電解液成分として混用するとの技術思想に基づく、本件特許発明1は、例えば、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物のそれぞれの化合物をSEIの形成のために単独使用した場合(以下、単に「SEIの形成のために単独使用の場合」ともいう。)と比べると、高温保存時のガス発生による厚さ増加の抑制と寿命テストでの容量維持率の増大とが行われていることから、上述の課題を解決したことが実証されており、また、本件特許発明1について、初期充電の時に陰極活物質の表面上に形成されるSEIの発熱開始温度を評価すると、SEIの形成のために単独使用の場合に示されるSEIの発熱開始温度の中間値を示すことから、本件特許発明1では、いずれの化合物も初期充電の時に同時にSEIの形成に関与していることが実証されているというものである(【0047】?【0068】)。

(ウ) また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明によれば、上記(ア)に示した、初期充電を行う時に安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなる化合物を電解液成分として混用するとの技術思想に基づき、電解液について、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなる」との事項が課題解決手段の一つとされており(【0008】、【0010】?【0018】)、本件特許発明1の液状電解液は、当該課題解決手段の一つと内容を同じくする、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、前記ビニル基が、式1で表される基である、」との事項を発明特定事項(以下、この発明特定事項を「発明特定事項A」ということもある。)として備えている。
そうすると、公知の液状電解液が、例え、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、前記ビニル基が、式1で表される基である、」との事項を備えていたとしても、その事項のうちの、「ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、前記ビニル基が、式1で表される基である、」という事項が、「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤」でない場合、換言すると、式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物が初期充電の時に電極表面の一部又は全部へのSEIの形成に関与しない場合は、その公知の液状電解液は、いわば、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物をSEIの形成のために単独使用しているにすぎず、上述の発明特定事項Aを備えないこととなるから、本件特許発明1の液状電解液ではないということとなる。

(エ) また、本件特許発明1の液状電解液が備える、上記(ウ)に示した発明特定事項Aは、「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでおり、前記ビニル基が、式1で表される基である」との上記相違点2に係る特定事項(以下、単に、「上記相違点2に係る特定事項」という。)を備えている。

(オ) 上記(ア)?(エ)のような本件特許発明1に対し、甲1a発明であるリチウム電池用電解質は、「リチウム二次電池用液状電解液」であるとの本件特許発明1の上記相違点1に係る特定事項を技術常識からすると備えているものの、本件特許発明1の上記相違点2に係る特定事項を備えていないことは、以下の検討から、明らかである。

(カ) すなわち、甲1a発明は、非水性有機溶媒、リチウム塩、および2.5?4.8Vで安定し、遷移金属とキレートする錯体形成添加剤を含む、リチウム電池用電解質に係る発明であって、前記電解質はフルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤をさらに含んでいるところ、上記第4の1.カ.?ケ.によれば、実施例4として、前記錯体形成添加剤が、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に該当する、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)である例も記載されいるものの、甲1a発明は、その実施例4の電解質にフルオロエチレンカーボネートであるカーボネート添加剤をさらに含ませた場合でないと該当しないものであるから、甲第1号証には、甲1a発明そのものの実施例についての記載はないが、その場合の電解質は、非水性有機溶媒がエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート:フルオロベンゼンの混合溶媒(3:5:5:1の体積比)であり、リチウム塩がLiPF_(6)とされており、そのような電解質は、技術常識からして、リチウム二次電池用液状電解液であることを考慮すると、甲第1号証には、甲1a発明として、前記錯体形成添加剤としてのエチレングリコールジアクリレート(EGDA)とフルオロエチレンカーボネートと含むリチウム二次電池用液状電解液が開示されているといえるものの、前記錯体形成添加剤というのは、上記第4の1.キ.とコ.によれば、2.5?4.8Vの間で酸化還元反応を起こさない安定した化合物であり、2.5?4.8Vは、上記第4の1.エ.にも示されているように、リチウム二次電池の充放電が行われる領域であることから、甲1a発明における前記錯体形成添加剤は、リチウム二次電池の初期充電を行う時には酸化還元反応を起こさない安定した化合物であって、本件発明1の「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤」ではないため、甲1a発明は上記相違点2に係る特定事項を備えていないことは明らかである。

(キ) また、甲第1号証全体の記載を参照しても、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)以外に、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に該当する化合物は見当たらないし、本件特許発明1の基をなす、初期充電を行う時に安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を電解液成分として混用するとの技術思想が、周知事項であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらない。

(ク) 上記(ア)?(キ)の検討を踏まえると、上記相違点2に係る特定事項を備える、本件特許発明1は、上記相違点2に係る特定事項を備えていない、甲1a発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲1a発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(1-2) 本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、いずれも、本件特許発明1に更に発明特定事項を追加したものであるから、上記(1-1)と同様の検討により、甲1a発明と同一とはいえないし、本件特許の優先権主張の日前に、甲1a発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(1-3) 本件特許発明7について
ウ. 対比
本件特許発明7と上記第5の1.ウ.に示した甲1b発明とを対比するに、甲1b発明における「リチウム電池用陰極」は、本件特許発明7における「電極」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
電極の点。

<相違点>
相違点3:電極が、本件特許発明7では、「固体電解質界面被膜(SEI)が表面の一部又は全部に形成されてなる電極であって、 前記固体電解質界面被膜(SEI)が、
少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、及び
ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物又はこれらの化学反応生成物を含有してなり、
前記ビニル基が、下記式1で表される基である、電極。
【化2】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]」
であるのに対し、甲1b発明がそのようなものか否かが明らかでない点。

エ. 判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明によれば、本件特許発明7の電極は、本件特許発明1のリチウム二次電池用液状電解液を用いることで、その表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)が形成されてなる電極である(【0033】?【0040】)。これに対し、甲1b発明の電極は、甲1a発明で用いられる電極であるから、上記相違点3についても、上記(1-1)イ.(ア)?(キ)に示した、本件特許発明1と甲1a発明との相違点についての検討と同様にして、上記相違点3を備える、本件特許発明7は、甲1b発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲1b発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(1-4) 本件特許発明8?9について
本件特許発明8?9は、いずれも、本件特許発明7に更に発明特定事項を追加したものであるから、上記(1-3)と同様の検討により、甲1b発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲1b発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。

(1-5) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1の液状電解液、あるいは、本件特許発明1に更に発明特定事項を追加した本件特許発明2?6の液状電解液と、本件特許発明7の電極、あるいは、本件特許発明7に更に発明特定事項を追加した本件特許発明8?9の電極の、少なくとも一方を備える二次電池であるから、上記(1-1)?(1-4)と同様の検討により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲第1号証に記載された発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。

(1-6) 小括
以上のとおりであるから、申立理由1-1及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。


2. 申立理由1-2について
(2-1) 本件特許発明1について
カ. 対比
本件特許発明1と上記第5の2.サ.に示した甲4a発明とを対比すると、甲4a発明における「環状カーボネート、及びアルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物を含む非水性有機溶媒」、「リチウム塩」、「ポリエチレングリコールジアクリレート」、「モノフルオロエチレンカーボネート」、「負極」は、技術常識からして、それぞれ、本件特許発明1における「電解質溶媒」、「電解質塩」、「ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、前記ビニル基が、式1で表される基である、」こと、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物」、「陰極」に相当し、また、甲4a発明における「リチウム二次電池の電解質」は、本件特許発明1における「リチウム二次電池用液状電解質液」と同様に、電解質溶媒、電解質塩を含んでいることからして、本件特許発明1における「リチウム二次電池用液状電解質液」とは、リチウム二次電池用電解質の点で一致しているといえる。
また、甲4a発明における「負極は、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ、フラーレン、非晶質炭素、またはこれらの混合物で構成される群より選択される炭素質材料であるとする」ことは、技術常識からして、甲4a発明における「リチウムの可逆的な挿入/脱離が可能な負極」において、「炭素質材料」が活物質となっていることを意味しているということを考慮すると、本件特許発明1における「陰極活物質が炭素質である」ことに相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
陰極活物質が炭素材であるリチウム二次電池用電解質であって、
電解質塩と、及び電解質溶媒とを含んでなり、
i)少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、及び
ii)ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、前記ビニル基が、下記式1で表される基である(以下、「ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物、前記ビニル基が、下記式1で表される基である」ことを、単に「式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物」ともいう。)、電解質の点。
【化1】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]


<相違点>
相違点4:電解質が、本件特許発明1では「液状電解液」であるのに対し、甲4a発明では液状電解液であるのか否かが明らかでない点。

相違点5:式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を、本件特許発明1では「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として」含んでいるのに対し、甲4a発明では電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として含んでいるのか否かが明らかでない点。


キ. 判断
(ア) 上記相違点4?5につき検討するにあたって、まず、本件特許発明1の技術的意義を確認しておくと、上記1.(1-1)イ.(ア)?(ウ)で検討したように、本件特許発明1は、初期充電を行う時に安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を電解液成分として混用するとの技術思想に基づき、液状電解液が、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、」との発明特定事項Aを備えているのであり、公知の液状電解液が、例え、「少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、」との事項を備えていたとしても、その事項のうちの、「式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物」という事項が、「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤」でない場合、換言すると、式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物が初期充電の時に電極表面の一部又は全部へのSEIの形成に関与しない場合は、その公知の液状電解液は、いわば、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物をSEIの形成のために単独使用しているにすぎず、上述の発明特定事項Aを備えないこととなるから、本件特許発明1の液状電解液ではないということとなる。

(イ) また、本件特許発明1の液状電解液が備える、上記(ア)に示した発明特定事項Aは、式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を、「電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として」含んでいるとの上記相違点5に係る特定事項(以下、単に、「上記相違点5に係る特定事項」という。)を備えている。

(ウ) 上記(ア)?(イ)のような本件特許発明1に対し、甲4a発明であるリチウム二次電池の電解質は、上記相違点5に係る特定事項を備えておらず、また、電解質が「液状電解液」であるとの上記相違点4に係る特定事項も備えていないことは、以下の検討から、明らかである。

(エ) すなわち、第3実施形態によるリチウム二次電池の電解質に注目した、甲4a発明は、上記第4の4.チ.?ト.によれば、既存の非水性有機溶媒である環状カーボネートを含む非水性有機溶媒に、アルキル、アルケニル、アールキニル、アリール、またはこれらの組み合わせで構成される群より選択される置換基を有するラクトン系化合物(以下、「特定の置換基を有するラクトン系化合物」という。)とゲル形成化合物とを混合して使用することによって、電解質の不燃性を向上させて、リチウム二次電池の安全性を向上させることができ、また、負極の表面に特定の置換基を有するラクトン系化合物による被膜が形成され、この被膜によって有機溶媒の分解が抑制されて、リチウム二次電池のサイクル寿命を向上させることができ、また、ゲル形成化合物は、非水電解液を維持/支持してゲル電解質を形成し、このゲル電解質を利用したリチウム二次電池は高温保管時に分解ガスの発生を抑制でき、さらに、上記第4の4.ナ.によれば電池の内部でのガス発生抑制効果を期待できる、モノフルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という。)を含むというものである。そのような甲4a発明は、いわば、既存の非水性有機溶媒に特定の置換基を有するラクトン系化合物とポリエチレングリコールジアクリレートゲル形成化合物(以下、「PEGDA」という。)とFECとを混合して使用するものであるから、上記第4の4.ニ.?ノ.によれば、甲4a発明に該当する実施例についての記載は甲第4号証にはないものの、実施例1?15の電解質のうち、PEGDAを含む実施例12?13の電解質に、さらに、FECを混合した場合に甲4a発明に該当することとなる。
そうすると、甲第4号証には、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に相当する、PEGDAは非水電解液を維持/支持してゲル電解質を形成するための化合物として記載されているから、そのPEGDAを含む、甲4a発明の電解質は、ゲル電解質であって、液状電解液であるとはいえず、上記相違点4に係る特定事項を備えていないこととなる。

(オ) 次に、上記相違点5についても検討するに、上記(エ)に示した実施例12の電解質は、具体的には、上記第4の4.ニ.?ノ.によれば、エチレンカーボネート(以下、「EC」という。)とジエチルカーボネート(以下、「DEC」という。)とガンマブチロラクトン(以下、「GBL」という。)とガンマカプロラクトン(以下「GCL」)とでなる非水有機溶媒にリチウム塩とPEGDAとを添加した電解質であるところ、その実施例12の電解質を用いたリチウム二次電池において、その初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、特定の置換基を有するラクトン系化合物であるGCLであったとされ、その実施例12の電解質と同様に、ECとDECとGBLとGCLとでなる非水有機溶媒にリチウム塩を添加した電解質であるものの、PEGDAを添加していない電解質を使用した、実施例5、実施例8、および、実施例10のリチウム二次電池においても、その初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、実施例12と同様に、特定の置換基を有するラクトン系化合物であるGCLであったとされ、また、ECとDECとGBLとでなる非水有機溶媒にリチウム塩とFECとを添加した電解質を使用した、実施例7のリチウム二次電池においては、その初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、FECであったとされていることからして、PEGDAを含む実施例12にFECを混合した甲4a発明において、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に相当する、PEGDAが、リチウム二次電池の初期充電時に負極に被膜を形成する物質となることは、甲第4号証には、記載も示唆もされていないといえる。
また、上記(エ)に示した実施例13の電解質は、具体的には、上記第4の4.ニ.?ノ.によれば、ECとDECとGBLとガンマヴァレロラクトン(以下、「GVL」という。)とでなる非水有機溶媒にリチウム塩とPEGDAとを添加した電解質であるところ、その実施例13の電解質と同様に、ECとDECとGBLとGVLとでなる非水有機溶媒にリチウム塩を添加した電解質であって、PEGDAを添加していない電解質を使用した、実施例6、実施例9、および、実施例11のリチウム二次電池において、その初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、いずれの実施例においても、特定の置換基を有するラクトン系化合物のGVLであったとされることから、甲第4号証には、実施例13においても、リチウム二次電池の初期充電時に負極に被膜を形成する物質は特定の置換基を有するラクトン系化合物のGVLであることが開示されており、PEGDAが、リチウム二次電池の初期充電時に負極に被膜を形成する物質となることは示唆もされていないといえる。
そして、実施例12?13において、リチウム二次電池の初期充電時に負極に被膜を形成する物質は、いずれの実施例においても、特定の置換基を有するラクトン系化合物であって、PEGDAではないと解することは、上記第4の2.ト.に示されている、甲第4号証における第3実施形態による電解質についての説明と整合している。
そうすると、甲第4号証には、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に相当する、PEGDAが、リチウム二次電池の初期充電時に負極に被膜を形成する物質であることは記載も示唆もされていないといえるため、甲4a発明の電解質は、上記相違点5に係る特定事項も備えていないこととなる。

(カ) また、甲第4号証には、本件特許発明1における式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物に該当する化合物として、上記第4の4.ト.に示されているように、PEGDA以外に、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート等のゲル形成化合物が記載されているものの、甲4a発明の電解質において、PEGDAをPEGDA以外のゲル形成化合物に置換したとしても、上記(エ)?(オ)での検討と同様にして、上記相違点4?5に係る特定事項を備えたものとはいえないし、本件特許発明1における、初期充電を行う時に安定性とリチウムイオン伝導性とが相反するSEIを形成する、少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物及び式1で表されるビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を電解液成分として混用するとの技術的思想が、周知事項であると認定し得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらない。

(キ) 上記(ア)?(カ)の検討を踏まえると、上記相違点4?5に係る特定事項を備える、本件特許発明1は、上記相違点4?5に係る特定事項を備えていない、甲4a発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲4a発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-2) 本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、いずれも、本件特許発明1に更に発明特定事項を追加したものであるから、上記(2-1)と同様の検討により、甲4a発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲4a発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-3) 本件特許発明7について
ク. 対比
本件特許発明7と上記5.(2)シ.に示した甲4b発明とを対比するに、甲4b発明における「リチウム二次電池の負極」は、本件特許発明7における「電極」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<一致点>
電極の点。

<相違点>
相違点6:電極が、本件特許発明7では、「固体電解質界面被膜(SEI)が表面の一部又は全部に形成されてなる電極であって、 前記固体電解質界面被膜(SEI)が、
少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物と、及び
ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物又はこれらの化学反応生成物を含有してなり、
前記ビニル基が、下記式1で表される基である、電極。
【化2】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]」
であるのに対し、甲4b発明がそのようなものか否かが明らかでない点。

ケ. 判断
本件特許の明細書の【0033】?【0040】によれば、本件特許発明7の電極は、本件特許発明1のリチウム二次電池用液状電解液を用いることで、その表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)が形成されてなる電極である。これに対し、甲4b発明の電極は、甲4a発明で用いられる電極であるから、上記相違点6についても、上記(2-1)キ.(ア)?(カ)に示した、本件特許発明1と甲4a発明との相違点についての検討と同様にして、上記相違点6を備える、本件特許発明7は、甲4b発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲4b発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。


(2-4) 本件特許発明8?9について
本件特許発明8?9は、いずれも、本件特許発明7に更に発明特定事項を追加したものであるから、上記(2-3)と同様の検討により、甲4b発明と同一とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲4b発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。

(2-5) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1の液状電解液、あるいは、本件特許発明1に更に発明特定事項を追加した本件特許発明2?6の液状電解液と、本件特許発明7の電極、あるいは、本件特許発明7に更に発明特定事項を追加した本件特許発明8?9の電極の、少なくとも一方を備える二次電池であるから、上記(2-1)?(2-4)と同様の検討により、甲第4号証に記載された発明とはいえないし、本件特許の出願に係る優先権主張の日前に、甲第4号証に記載された発明および周知事項から、当業者が容易になし得たものともいえない。

(2-6) 小括
以上のとおりであるから、申立理由1-2及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。


3. 申立理由2について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許は、特許法第36条第6項第1号、同条第6項第2号、同条第4項第1号の取消理由を有する旨主張している(第59頁第5行?第62頁第4行)が、本件特許には、それらの取消理由がないことは、以下の検討から、明らかである。

(3-1) 特許法第36条第6項第1号(申立理由2-1)について
ア. 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1及び7には、「 i)少なくとも1つのハロゲン元素で置換された環状カーボネート化合物」、「 ii)電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物を含んでなり、
前記ビニル基が、下記式1で表される基である
【化1】

[上記式中、
nは、0?6であり、
R_(1)、R_(2)及びR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、C_(1)?C_(6)のアルキル基、C_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、C_(6)?C_(12)のアリール基、C_(2)?C_(6)のアルケニル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(1)?C_(6)のアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(3)?C_(12)のシクロアルキル基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(6)?C_(12)のアリール基、又は、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されたC_(2)?C_(6)のアルケニル基である。]」ことが記載されているのに対し、発明の詳細な説明中で本発明の効果を奏することが具体的に開示された「 i)化合物」は、3-フルオロエチレンカーボネートだけであり、「ii)化合物」は、テトラエチレングリコールジアクリレートのみであるところ、一般に電解液分野において、添加剤の基本骨格、置換基、分子量等によって、電解液、電極との親和性が異なり、その効果も異なることが知られているため、発明の詳細な説明中で開示された一つの化合物の具体例を持って、請求項1又は7に記載の広範な化合物の組み合わせの全てにおいて、拡張ないし一般化できるとする技術思想は、発明の詳細な説明中に記載されていないので、請求項1又は7並びに1又は7を引用する請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張している(第59頁第5行?第60頁第20行)。

イ. 当審の判断
上記1.(1-1)イ.(ア)?(ウ)で検討したとおり、本件特許発明1は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されている、発明が解決すべき課題に対する課題解決手段を、発明特定事項として備えているから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を備えているといえる。
また、上記ア.に示したような、「一般に電解液分野において、添加剤の基本骨格、置換基、分子量等によって、電解液、電極との親和性が異なり、その効果も異なることが知られている」との主張について、特許異議申立人は、その主張を裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠を提出していないし、仮に、提出したと仮定したとしても、電解液分野の一般論の具体的内容が明確でないため、その一般論を、本件特許に適用することが、直ちに、合理的なことであるとすることもできない。
よって、特許異議申立人の上記ア.の主張は採用し得ない。


(3-2) 特許法第36条第6項第2号(申立理由2-2)について
ウ. 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「請求項1には、「ii)電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物」が記載されているところ、請求項1に記載された、「固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤」とは、発明の詳細な説明(段落0010、0015、0065等)を参酌すると、初期充電を行った際に陰極活物質の表面上に固体電解質界面被膜を形成する能力を有する電解液添加剤と解されるが、充電条件(電流、時間、回数)の差異によって、化合物毎に固体電解質界面被膜(SEI)を形成するか否かが異なることは本件優先権主張当時に周知であり、どのような条件で固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる化合物であるかが明記されていない請求項1及び請求項1を引用する請求項2?6、10に係る発明は不明確である旨主張している(第60頁第21行?第61頁第8行)。

エ. 当審の判断
本件特許発明1における「固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0010】?【0018】)を参照すると、通常、リチウム二次電池の初期充電を行う時に電極表面一部又は全部への固体電解質界面被膜(SEI)の形成に関与する電解液添加剤を意味しているということが把握できることから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を備えているといえる。
また、上記ウ.に示したような、「充電条件(電流、時間、回数)の差異によって、化合物毎に固体電解質界面被膜(SEI)を形成するか否かが異なることは本件優先権主張当時に周知であ」るとの主張について、特許異議申立人は、その主張を裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠を提出していないし、仮に、提出したと仮定したとしても、周知の事項の具体的内容が明確でないため、その周知の事項を、本件特許に適用することが、直ちに、合理的なことであるとすることもできない。
よって、特許異議申立人の上記ウ.の主張も採用し得ない。


(3-3) 特許法第36条第4項第1号(申立理由2-3)について
オ. 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「請求項1には、「ii)電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物」を含む、「液状電解液」が記載され、また、請求項4には、上記ii)化合物の具体的例示として、ポリエチレングリコールジアクリレート(以下、PEGDAと略称することがある。)が記載されているのに対し、その具体的例示と同じ、PEGDAが、甲第4号証の実施例12には、ゲル形成化合物として記載されているため、請求項1及び請求項4のii)化合物は、公知のゲル形成化合物が含まれているところ、一般に、同じPEGDAを含む溶液であったとしても、分子量、含有量、重合開始剤の有無等の種々の条件によって、溶液の性状は、液状やゲル状に変化することが知られていることからすると、請求項1及び請求項4において、そのゲル形成化合物を添加し、かつ液状の電解液を製造する方法について、発明の詳細な説明中には記載されていないことから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及び請求項4並びに請求項1又は請求項4を引用する請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している(第61頁第9行?第62頁第4行)。

カ. 当審の判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1において、「ii)電極表面の一部又は全部に固体電解質界面被膜(SEI)を形成させる電解液添加剤として、」含む、「ビニル基を分子内に含有してなるアクリレート系化合物」(以下、「電解液添加剤としてのアクリレート系化合物」という。)の具体例として、「ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量50?20,000)」が挙げられており(【0021】?【0023】)、この具体例は、本件特許発明4に記載されている化合物でもある上、実施例1?2では、電解液添加剤としてのアクリレート系化合物として、「テトラエチレングリコールジアクリレート」が用いられているところ、この「テトラエチレングリコールジアクリレート」は、まさに、「ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量50?20,000)」に属する化合物であるから、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量50?20,000)を添加した、本件特許発明1及び本件特許発明4の液状電解液を製造する方法が実施例1?2として記載されているといえる。
また、甲第4号証の実施例12の電解質は、上記2.で検討したとおり、本件特許発明1及び本件特許発明4に該当しない。
そうすると、特許異議申立人の上記オ.の主張は当を得た主張とはいえない。

また、上記オ.に示したような、「一般に、同じPEGDAを含む溶液であったとしても、分子量、含有量、重合開始剤の有無等の種々の条件によって、溶液の性状は、液状やゲル状に変化することが知られている」との主張について、特許異議申立人は、その主張を裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠を提出していないし、仮に、提出したと仮定したとしても、一般に知られている事項の具体的内容が明確でないため、その事項を、本件特許に適用することが、直ちに、合理的なことであるとすることもできない。
よって、特許異議申立人の上記オ.の主張も採用し得ない。


(3-4) 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-1によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできないし、申立理由2-2によっては、請求項1に係る特許、および、請求項1を引用する請求項2?6、10に係る特許を取り消すことはできないし、申立理由2-3によっては、請求項1、4に係る特許、および、請求項1を引用する請求項2?6、10に係る特許、および、請求項4を引用する請求項5?6、10に係る特許を取り消すことはできない。


第7 むすび

したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-09-27 
出願番号 特願2014-17360(P2014-17360)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青木 千歌子  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 千葉 輝久
小川 進
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5835852号(P5835852)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 非水電解液及びこれを含む二次電池  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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