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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  E03F
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E03F
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  E03F
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  E03F
審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  E03F
審判 全部無効 2項進歩性  E03F
管理番号 1320449
審判番号 無効2015-800202  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-06 
確定日 2016-08-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3718279号発明「被包型側溝」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3718279号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3718279号(以下「本件特許」という。平成8年3月10日出願、平成17年9月9日登録、請求項の数は1である。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成27年11月 4日 審判請求
平成28年 1月15日 審判事件答弁書
平成28年 1月15日 訂正請求書
平成28年 2月19日 審判事件弁駁書
平成28年 4月 1日 補正許否の決定
平成28年 4月13日 審理事項通知
平成28年 5月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年 5月20日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年 6月 2日 口頭審理

第3 訂正請求
1 訂正請求の内容
被請求人が平成28年1月15日に提出した訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲(以下「訂正特許請求の範囲」という。)のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、以下、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件特許明細書」及び「本件特許図面」といい、それらを総称して「本件特許明細書等」という。

<訂正事項>
特許請求の範囲の請求項1に「下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」とあるのを、「下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項は、「せぎり部」の構成について、「支持面」の「下端に沿って連続的に」形成されることを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
次に、訂正事項が、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものであるか検討する。
本件特許明細書には、せぎり部の構成に関し、「この開口部4の幅方向両側部には断面が凹状の曲面形状を呈し、側溝蓋10を支持する支持面5が形成されている。また、この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されている。」(段落【0015】)と記載されるにとどまり、せぎり部が支持面の下端に沿って連続的に形成されるか、又は部分的に形成されるかについて明示的な記載はない。
しかし、本件特許明細書には、せぎり部の作用・効果に関し、「……支持面5には平面部分がないために、小石、砂利、土等が堆積しにくく、堆積したときも非常に除去し易いので、側溝蓋10を装着するのに手間がかからない。しかも、この支持面5の下端にはせぎり部5aが形成されており、側溝蓋10の当接部11の下端部と側溝1の支持面5の下端部との間に所定の隙間が形成されるので、施工後には砂利、土等はこの隙間に集まり、側溝蓋10の当接部11と側溝1の支持面5とは面接触状態が維持される。」(段落【0027】)と記載されており、側溝蓋の当接部と側溝の支持面とを面接触状態に維持するためには、砂利、土等を集めるせぎり部が支持面の全長にわたって連続的に形成されることが望ましいことは明らかである。また、本件特許図面の図1の被包型側溝のX-X断面図である図2において、支持面5の下端にせぎり部5aが形成されている点がみてとれるところ、本件特許明細書等において図1におけるX-Xの位置は具体的に特定されておらず、任意の位置を意味すると解されるから、せぎり部は、支持面の全長にわたって連続的に形成されるものと認められる。
してみると、訂正事項は、本件特許明細書等に実質的に記載されているといえるから、本件訂正は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものである。
さらに、訂正事項は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)請求人は、本件訂正に関し、
ア 訂正事項は、周知の技術手段の付加ではないから、特許請求の範囲を実質上変更するものである旨(審判事件弁駁書3頁14ないし21行)、
イ 訂正事項は、登録時の発明の構成要件及び作用効果を異にするものであるから、特許請求の範囲を実質上変更するものである旨(審判事件弁駁書3頁22行ないし4頁7行)、
ウ 本件特許図面の図1及び図2には、支持面の下端に沿って連続的にせぎり部が形成されることは記載されていない旨(平成28年5月2日付け口頭審理陳述要領書3頁1行ないし4頁7行)、
エ 被請求人が主張する本件訂正後の発明の効果は、本件特許明細書等に記載されたものではなく、訂正事項は特許請求の範囲を実質上変更するものである旨(平成28年5月2日付け口頭審理陳述要領書4頁9行ないし8頁7行)、主張する。
しかし、請求人は、上記ア及びイの主張について、当審よりその根拠を明らかにするよう求めたのに対し(平成28年4月13日付け審理事項通知書の3.(1)を参照。)、何ら釈明をしていない。また、上記エの主張については、被請求人が主張する効果(審判事件答弁書6頁1行ないし7頁2行)は、「せぎり部」を形成することにより奏する効果であって、せぎり部を支持面の全長にわたって連続的に形成することにより新たに導入される効果ではない。そして、訂正事項は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものあって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、上記(1)のとおりであるから、請求人の主張は、いずれも採用できない。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第4 本件訂正発明
上記第3のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに、前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝と
を具備することを特徴とする被包型側溝。」

第5 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件訂正発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
なお、審判事件弁駁書の「7.理由の補充」の欄(6頁6行ないし10頁8行)の記載及び甲第6ないし9号証の追加による請求の理由の補正については、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、平成28年4月1日付けの補正許否の決定により、許可しないと決定した。

<無効理由>
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とすべきである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開平6-248688号公報
甲第2号証:特開平6-264494号公報
甲第3号証:特開平6-108526号公報
甲第4号証:特開平7-238585号公報
甲第5号証:特開平7-11701号公報

3 請求人の具体的な主張
(1)本件特許発明と甲1発明とは、
断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、
の点において一致し、残余の点、すなわち、
相違点1
本件特許発明が、「前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し」ているのに対し、甲1発明は上方を解放したいわゆるU字溝である点、
相違点2
本件特許発明が、「下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有する」のに対し、甲1発明は、このような構造がない点、
相違点3
本件特許発明が、「前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝」であるのに対し、甲1発明はこのような構造ではない点、
で相違する。
(審判請求書17頁6行ないし18頁1行を参照。)

(2)相違点1および相違点3は、本件特許発明を、出願人がいうところの「被包型側溝」に限定したものであるが、「被包型側溝」自体は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証に示すように、側溝の分野において、本件特許出願前から周知の構造であり、さらに甲第5号証の、特に図4、図5、図7、図8で明白なように、「被包型側溝」は、甲第1号証に示すいわゆるU字側溝とともに道路に使用されるものであり、技術分野が共通である。
しかも、甲第1号証に示す側溝も本件特許発明の被包型側溝も、蓋部分の構造および蓋を受ける側溝本体の構造自体は全く共通であり(甲第2号証の図4参照)、したがって、蓋受け部に土砂などが堆積し騒音の原因となることも両者全く共通である。したがって、いわゆるU字溝の甲1発明と、「被包型側溝」である甲2発明を組み合わせることは、当業者にとって自然かつ容易であり、何の阻害要因もない。
(審判請求書18頁4ないし16行)

(3)次いで相違点2について検討する。甲第2号証には、本件特許発明の構成要件「下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」が記載されている。甲第2号証に記載された「切欠き7」が、本件特許発明の、下端に側溝蓋の当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するための「せぎり部」に相当する。しかも甲第2号証に記載された、「切欠き7」を設けた効果は、本件特許発明の「下端に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面」による本件特許発明の効果と同じである。
本件特許発明は、「フラットな蓋受け部を無くす」他の手段として、甲1発明に、同じ技術分野で、側溝本体と蓋との間への土砂の堆積を防ぐ目的で形成された、甲2発明の「切欠き7」(本件特許発明のせぎり部に相当)を取り入れたものに他ならない。なお、甲2発明の切欠き7は、断続的なものである点で本件特許発明の実施例に記載された「連続的なせぎり部」とは一応は異なるが、甲2発明の側溝蓋および蓋の受け構造が従来の水平な受け面を持つ構造であることから、蓋受け用のフラットな面が一部は必要であるからであって、甲1発明に記載された側溝のように、「フラットな面で側溝蓋を支えない」構造において、側溝と蓋の間に土砂が堆積するのを防止するために、フラットな面の切欠き7を、本件特許発明のような連続したものとすることに何ら創作性はない。
(審判請求書18頁18行ないし20頁10行)

(4)請求人は、「せぎり部」の作用効果について、図示を交え繍々主張しているが、このような主張は願書に最初に添付した明細書の記載に基づかない、かつ願書に最初に添付した明細書の記載と矛盾する主張であって、このような後付けの主張に基づく反論自体失当である。
出願時に発明者が認識していた「せぎり部5a」の作用効果は、「施工後における砂利や土などを集める」ことのみであって、このような作用効果は、甲第2号証等の「台座に設けられた切欠き」においても当然奏するものに過ぎない。
(審判事件弁駁書4頁22行ないし6頁2行)

(5)甲第1号証と甲第2号証とは、技術分野および課題が共通であり、甲第1号証には水平部(支持面)を無くすことで課題を解決できるとの記載があり、甲第2号証には水平部を無くす手段として「切欠き」が記載されており、甲第1号証と甲第2号証を組み合わせる動機付けがある。
蓋と側溝の水平な支持面における土砂などの堆積の問題は、側溝に形成された支持面の全体にわたって共通のものであり、甲第2号証に記載された支持面に部分的に形成された切欠きを甲第1号証に適用するにあたり、甲第2号証の切欠きを甲第1号証の構造に合わせ、側溝の支持面の下端に沿って連続的に形成することは当業者であれば当然に想到することである。
(平成28年5月2日付け口頭審理陳述要領書8頁11行ないし24行)

第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件訂正を認める、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張し、証拠方法として乙第1号証を提出している。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:
図1(a):本件特許の図2を端面図に書き換えた図
図1(b):本件特許の図3の一部を端面図に書き換えた図
図2(a):せぎり部がないと仮定した場合の端面図
図2(b):せぎり部の作用効果を説明する端面図
図3(a):甲第2号証の図4を参照した端面図
図3(b):甲第2号証の発明において切欠きのない部分の端面図
図4(a):甲第1号証の図1、2を参照した端面図
図4(b):甲第1号証の発明に甲第2号証の切欠きを適用した端面図

3 被請求人の具体的な主張
(1)「せぎり部」という構成を備えることによる作用効果は、蓋を側溝に被せる施工の際に発揮される。つまり、支持面は曲面であるため、小石、砂利、土等は転がり易い。ところが、支持面の下端付近では、小石、砂利、土等が転がりにくいことがある。例えば、乙第1号証の図2では、支持面の断面が曲率の一定な円弧である場合を示しているが、下端に近づくほど水平面に近くなり、この部分に小石、砂利、土等が留まるおそれかおる。そのため、乙第1号証の図2(a)に示すように、支持面の下端に「せぎり部」がない場合、下端付近に小石、砂利、土等が留まっている状態で蓋をしてしまうと、蓋と支持面との間に小石、砂利、土等が挟み込まれてしまい、がたつきや雑音の原因となる。これに対し、支持面の下端に「せぎり部」を備えている場合は、乙第1号証の図2(b)に示すように、せぎり部によって蓋との間に形成されている隙間(側溝蓋の当接部の下端部との間の隙間)に小石、砂利、土等が集まるため、蓋と支持面との間に小石、砂利、土等が挟み込まれることが防止される。このように、「せぎり部」は、側溝に蓋をして使用している状態(使用期間中)での作用効果を意図したものではない。
(審判事件答弁書6頁14行ないし7頁2行)

(2)甲第2号証の「切欠き7」は、「側溝本体内と外部とを連通する通路を形成する」ものである(甲第2号証の請求項1、【0006】、【0008】、【0014】)。この点で、側溝の内部と外部とを連通させることがない本件訂正発明の「せぎり部」と、構成上で相違している。加えて、甲第2号証の「切欠き7」は、側溝本体1の台座5において、部分的に(断続的に)設けられている(甲第2号証の図1、2、5参照)。この点で、支持面の下端に沿って連続的に形成されている本件訂正発明の「せぎり部」と、構成上で相違している。そして、甲第2号証の「切欠き7」は、側溝に蓋をして使用している状態(使用期間中)の作用効果を意図したものである。
甲第2号証の「切欠き7」の作用効果は、側溝本体に蓋をした状態で、実際に道路で使用している期間中に、路面上の土砂を雨水と共に側溝本体の内部に流入させることにより、その使用期間中に側溝本体と蓋との間の隙間に土砂がたまらない、というものである。
甲第2号証の「切欠き7」の構成が本件訂正発明の「せぎり部」の構成と相違し、「切欠き7」の奏する作用効果が「せぎり部」の作用効果と相違する以上、仮に、甲第2号証の「切欠き7」を甲第1号証の発明に適用したとしても、本件訂正発明の構成が得られるはずがなく、本件訂正発明の発揮する作用効果を発揮できるはずがない。
(審判事件答弁書7頁3行ないし9頁5行)

(3)甲第2号証の「切欠き7」を甲第1号証の発明に適用するに当たり、側溝の内部と外部とを連通させるためには、乙第1号証の図4(b)に示すような構成とするしかなく、切欠きは部分的(断続的)に設けるしかない。つまり、甲第2号証の「切欠き7」を甲第1号証の発明に適用することによって、「接面部bの下端に沿って連続的に形成された切欠き」という構成を得ることは”不可能”である。
(審判事件答弁書9頁10ないし末行)

(4)被請求人が主張するせぎり部の作用効果は、せぎり部の構成からも当然に導かれる。蓋の下面と蓋を受ける支持面との双方が曲面であるために、両面が密着性高く当接するという構成において、当接する部分より下方である支持面の下端に形成されており、蓋の下端との間に隙間を形成する構成であるせぎり部が、長いタームでの使用期間中に、蓋と側溝との間で経時的に進む土砂の堆積を抑制する作用を奏するなどとは、発明の構成からして考えられない。
(平成28年5月20日付け口頭審理陳述要領書8頁17ないし23行)

(5)甲第2号証の発明の「切欠き」において、側溝本体の「内部と外部とを連通する通路を形成する」という構成は必須の要件である。
従って、切欠き、または切欠きに類する構成を有しない甲第1号証の発明に、甲第2号証の切欠きを適用することによって、本件訂正発明の進歩性を否定し得る論理づけを試みる場合、「内部と外部とを連通させる」という要件を含む切欠きを、甲第1号証の発明に適用する必要がある。
そして、甲第1号証の発明に甲第2号証の切欠きを適用するに当たり、切欠きが側溝本体の「内部と外部とを連通させる」ためには、切欠きは部分的(断続的)に設けざるを得ない。蓋の下面である接面部aと、蓋を受ける接面部bの双方が曲面であって、両接面部a,bが密着性高く当接する甲第1号証の発明において、切欠きを連続的に設けたとしたら、切欠きの上端に沿って連続的に蓋の下面に当接してしまい、内部と外部とを連通させることができないからである。
(平成28年5月20日付け口頭審理陳述要領書11頁17行ないし12頁9行)

第7 当審の判断
1 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 側溝蓋の接面部a5を曲面に成形加工し、幾何学的に相似な曲面に成形加工された接面部b6を持つ側溝2の側溝蓋1となし、側溝蓋1と側溝2の密着性を高めた側溝。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、一般道路側溝、特に幅員の狭い道路において、有蓋側溝の上を車両が通過する可能性の高い道路の側溝に関する。
【0002】
【従来の技術】従来土木工事において側溝を設置する場合、通常、フラットなコンクリート面で側溝蓋を支えており、特に平面精度を要求される。従来の側溝蓋受け部のフラット部については、その構造上の特性から土や小石が溜りやすく、人の手で清掃しなければならなかった。発生する騒音の解消についてはゴムパッキング等を挟み騒音の軽減を計っている。また設置工事の際、側溝蓋の脱着作業は垂直方向になされる必要が有る。
【0003】
【発明が解消しようとする課題】側溝蓋のガタッキによる騒音防止のため、特にフラット部の平面精度が要求されるが、満足されていない。また二次原因として異物が挟み込まれた場合、平面機能が損なわれ、側溝蓋の騒音発生の原因となり、更にコンクリート面同志がぶつかり合う事になり側溝蓋の破損、及び側溝蓋受け部の破損につながっている。
【0004】この発明は、このような従来の技術の欠点を除去して、新規な形状の、騒音の発生しない側溝を提供するものである。」

ウ 「【0008】
【発明の効果】この発明は側溝蓋の接面部とと側溝の接面部が曲面で密着することに特徴が有る。これにより車両等の通過騒音を解消することが可能になり、側溝蓋、及び側溝の破損の発生をも防ぐ。
【0009】例えば、側溝に棚受け部が無いことから設置時に側溝蓋との底面接触が無くなり側溝蓋の接面部と側溝の接而部で支え合うことになり、底面に土、小石等の異物を挟み込むことが無くなった。また側溝蓋と側溝の接触面積が広くなり安定性が増す。」

エ 図2及び図3をみると、側溝2の接面部b6は断面凹状の曲面であり、側溝蓋1の接面部a5は、断面凸状の曲面であることがみてとれる。

オ 上記アないしエ(特にア、エ)によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「側溝蓋1の接面部a5を断面凸状の曲面に成形加工し、幾何学的に相似な断面凹状の曲面に成形加工された接面部b6を持つ側溝2の側溝蓋1となし、側溝蓋1と側溝2の密着性を高めた側溝。」

(2)甲第2号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 底部を開放すると共に、一対の側壁上端を連設する頂壁に台座を有する開口部を設けた略逆U字型の側溝本体と、前記台座上に上載され前記開口部を閉鎖する蓋体とから成る逆U字型の側溝において、前記側溝本体内と外部とを連通する通路を形成すべく、前記台座に切欠きを設けて成る側溝。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、路上の雨水や排水を流すため、道路に敷設されるコンクリートの側溝に関するものである。
【0002】
【従来の技術】路上の雨水や排水を流すための排水路を形成する側溝として、一般に、コンクリート製のU型側溝や落し蓋式側溝等がある。この側溝は、側壁と底壁とが一体的に成形されているため、道路用の側溝として使用する場合、水路勾配は道路の勾配と同一とならざるを得ず、その結果、側溝の底に土砂やゴミ等が堆積し、排水不良がたびたび発生していた。又、道路勾配と同一勾配であることから道路勾配と逆方向に流すこともできなかった。
【0003】上記問題を解決した側溝として、底部を連続的に開放すると共に上部に複数の開口部を設けた逆U字型の側溝本体と、開口部を閉鎖する蓋体とから構成される逆U字型側溝がある。この逆U字型側溝は、道路勾配と同一勾配に敷設し、底部には施工現場において必要に応じた勾配にコンクリートを打設することによって、流水勾配を適宜自由に設定するものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この従来の逆U字型側溝では、側溝本体と蓋体との間に形成される隙間に土砂がたまり、蓋体の取り外しが困難であるといった問題がある(図14参照)。また、側溝本体の底部にコンクリートを打設する際に、狭い溝内で墨出し作業、舗装厚の目印、目地モルタル、曲がりの対応等を要する等、施工時における不便が問題点となっている。
【0005】本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、側溝本体と蓋体との間の隙間に土砂がたまらず、又、施工時における不便さを解決した側溝の提供を目的とする。」

ウ 「【0013】
【実施例】本発明に係る側溝の一実施例(底部にコンクリート15が打設されたもの)を、図1、2、11、12により説明すると、逆U字型に形成された側溝は、側溝本体1と蓋体2とから構成され、前記側溝本体1は、その底部を開放すると共に、平行に対向位置する一対の側壁3と、その両側壁3上端を連設する頂壁4とで構成されている。この頂壁4には、1個又は複数個の開口部6を形成し、各開口部6には台座5が形成されている。
【0014】蓋体2は、平板状で開口部6の台座5に上載され、開口部6を閉鎖可能に形成されている。そして、台座5には、側溝本体1内と外部とを連通する通路を形成するため、複数の切欠き7が設けられている。……」

エ 「【0021】
【発明の効果】 本発明は、上述の通り構成されているので、次に記載する効果を奏する。
(1)本発明の側溝では台座に切欠きを設けたため、側溝本体と蓋体との間に形成される隙間に土砂が溜まることがなく、蓋体を開ける作業が容易となる、と同時に道路表面の排水性能が向上するため、水が溜まることがなく、歩き易くなる。……」

オ 図11及び図12をみると、頂壁4の上面の略中央に、蓋体2が上載される開口部6が形成されていることがみてとれる。

カ 上記アないしオ(特にア、ウ)によれば、甲第2号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「蓋体が上載される台座を有する開口部を設けた側溝本体において、側溝本体内と外部とを連通する通路を形成すべく、台座に切欠きを設けること。」

(3)甲第3号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 上部が全面開口又は一部開口であり、下部が全面開口又は一部開口されている側溝本体1の左右側板部6に上下調整可能な支持部材25,26を取り付け、この支持部材25,26に底版12を工場あるいは現場で取り付けて側溝本体1と一体化する可変勾配型側溝。」

イ 「【0017】
【実施例】図1から図4は本発明に係る一実施例である。この実施例の元の側溝本体1aは、上部一部開口で下部全面開口のU字形の側溝である。この側溝本体1aに工場段階で後述の支持方法により、設計勾配に従って側溝本体1の内部空間4aの下部に底版12を取り付ける。更に、側溝本体1の上部開口部2aには、工場段階で蓋版14を装着して置く。」

ウ 図1、図2及び図4をみると、側溝本体1aの上部の略中央に、蓋版14を装着するための開口部2aが形成されていることがみてとれる。

(4)甲第4号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 底部を開放すると共に、一対の側壁上端を連設する頂壁に開口部を設け、この開口部の内面には蓋受け部を設けた略逆U字型の側溝本体と、前記蓋受け部上に上載され前記開口部を閉塞する蓋体とを備えた側溝において、前記側溝本体と蓋体の各上面外縁に周壁を立設して凹部を形成し、この凹部底面を傾斜面に形成すると共に、その傾斜下端に排水部を設け、かつ前記各凹部には、天然の砂利を接着剤で練り合わせた透水性材料を充填して透水層を形成して成る側溝。」

イ 「【0015】
【実施例】
実施例1
実施例1を図1?7により説明すると、本発明の側溝は自由勾配側溝といわれるもので、コンクリートにより逆U字型に形成された側溝本体1と蓋体2とから構成され、前記側溝本体1は、その底部を開放すると共に、平行に対向位置する一対の側溝3と、その両側壁3上端を連設する頂壁4とで構成されている。この頂壁4には、1個又は複数個の開口部6を形成し、各開口部6には蓋受け部5が形成されている。該蓋受け部5には、土砂を側溝本体1内に流すための複数の排泥用切欠き7が設けてある。……」

ウ 図1をみると、頂壁4の略中央に、蓋体2を上載するための開口部6が形成されていることがみてとれる。

(5)甲第5号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】……また、排水勾配を自在に出来る側溝ブロックとしては、図7のU形断面の底部に開放穴2を形成したU字型の側溝ブロック15aや底面が全面開放された製品端部が門型に形成された図5および8の側溝ブロック18があり、共に現場で底部にコンクリ-ト14を打設することで水路勾配が自在に形成できる。
【0005】……また、門型の側溝ブロック18は、側壁上部両端に蓋と同じ大きさの一体の水平耐力梁19を有していることから底部へのコンクリ-ト14の打設に手間が掛かり、近年の熟練労働者不足から施工業者からは敬遠されている。この両側溝ブロックも、共に蓋16を掛ける方式であるため車両走行によるガタツキ,騒音および破損問題を解決できない。」

イ 図5をみると、門型の側溝ブロック18の頂部の略中央に、蓋16を掛けるための開口が形成されていることがみてとれる。

2 無効理由について
(1)対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「断面凸状の曲面に成形加工」した「接面部a5」を有する「側溝蓋1」は、本件訂正発明の「断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋」に相当する。

イ 甲1発明の「(側溝蓋1の接面部a5と)幾何学的に相似な断面凹状の曲面に成形加工された接面部b6」は、本件訂正発明の「前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面」からなる「支持面」に相当し、甲1発明の「側溝2」は、本件訂正発明の「側溝」に相当する。そして、甲1発明の「側溝2」と本件訂正発明の「側溝」は、ともに「側溝蓋」とともに「側溝」を構成する「側溝本体」といえる。

ウ 甲1発明の「側溝蓋1と側溝2の密着性を高めた側溝」と、本件訂正発明の「側溝蓋」と「側溝とを具備する」「被包型側溝」は、「側溝蓋」と「側溝(側溝本体)とを具備する」「側溝」である点で共通する。

エ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなる支持面を有する側溝本体と
を具備する側溝。」

オ 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
側溝の構成に関し、本件訂正発明は、側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、開口部の端部に支持面を有するとともに、水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝(側溝本体)を具備する被包型側溝であるのに対し、甲1発明は、接面部b6以外の側溝2(側溝本体)の具体的構成が特定されていない点。

<相違点2>
側溝本体の支持面の構成に関し、本件訂正発明では、支持面の下端に沿って連続的に側溝蓋の当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成されるのに対し、甲1発明では、せぎり部を有していない点。

(2)判断
ア 相違点1について
側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有するとともに、水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝本体を具備する被包型側溝は、甲第2号証ないし甲第5号証に記載されたように、周知の技術である(上記1(2)ないし(5)を参照。)。
そして、甲1発明において、側溝2(側溝本体)の具体的構成を如何にするかは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきところ、上記周知の技術の被包型側溝の側溝本体の構成を採用し、水平支持部材の上面の略中央の開口部の端部に接面部b6を設けること、すなわち上記相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
(ア)甲第2号証には、従来の逆U字型側溝では、側溝本体と蓋体との間に形成される隙間に土砂がたまり、蓋体の取り外しが困難であるといった問題を解決するために、「蓋体が上載される台座を有する開口部を設けた側溝本体において、側溝本体内と外部とを連通する通路を形成すべく、台座に切欠きを設けること。」(上記1(2)カを参照。以下「甲2技術」という。)が記載されている。
しかし、甲1発明の側溝2(側溝本体)は、側溝蓋1が上載される台座を有するものではないこと、また、甲1発明の「接面部b6」が、甲2技術の「台座」に対応するとしても、甲2技術の「切欠き」は、台座にて蓋体を上載しつつ、側溝本体内と外部とを連通する通路を形成するためのものであって、「切欠き」は、「台座」に部分的にしか形成し得ないものであることに鑑みれば、甲2技術に照らしても、甲1発明において、接面部b6(支持面)の下端に沿って連続的に側溝蓋1の接面部a5(当接部)の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部を形成することが、当業者にとって容易に想到し得たとすることはできない。
また、甲第3号証ないし甲第5号証は、被包型側溝が周知であることの根拠として提示されたものであって、甲1発明において、接面部b6(支持面)の下端に沿って連続的にせぎり部を形成することを教示するものではない。

(イ)請求人は、甲2技術の台座に部分的に形成された切欠きを甲1発明に適用するにあたり、甲2技術の切欠きを甲1発明の構造に合わせ、側溝1の接面部b6(支持面)の下端に沿って連続的に形成することは当業者であれば当然に想到することである旨主張する(第5、3(5)を参照。)。
しかし、上記(ア)のとおり、甲2技術の「切欠き」は、台座にて蓋体を上載しつつ、側溝本体内と外部とを連通する通路を形成するためのものであって、甲1発明に適用したとしても、接面部b6で側溝蓋1の接面部a5を支持する以上、「切欠き」は、甲2技術と同様に接面部b6に部分的にしか形成し得ないものであるから、上記請求人の主張は採用できない。

ウ 小括
よって、本件訂正発明は、当業者が甲1発明、甲2技術及び上記周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、審判請求人の主張する無効理由によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面凸状の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略相似の断面凹状の曲面からなり、下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに、前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された側溝と
を具備することを特徴とする被包型側溝。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-06-15 
結審通知日 2016-06-17 
審決日 2016-06-28 
出願番号 特願平8-83259
審決分類 P 1 113・ 832- YAA (E03F)
P 1 113・ 831- YAA (E03F)
P 1 113・ 855- YAA (E03F)
P 1 113・ 851- YAA (E03F)
P 1 113・ 121- YAA (E03F)
P 1 113・ 841- YAA (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田畑 覚士郡山 順山田 昭次  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 誠
住田 秀弘
登録日 2005-09-09 
登録番号 特許第3718279号(P3718279)
発明の名称 被包型側溝  
代理人 大矢 正代  
代理人 加藤 久  
代理人 大矢 正代  
代理人 前田 勘次  
代理人 森 博  
代理人 南瀬 透  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 前田 勘次  

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