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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A45C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A45C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A45C
管理番号 1320485
審判番号 無効2015-800160  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-08-07 
確定日 2016-10-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第4929499号発明「拡張可能なポーチを有するベルト」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4929499号(以下「本件特許」という。)は、パリ条約に基づく最先の優先日を平成19年2月13日とし、平成20年2月13日を国際出願日として出願された特願2009-549701号の特許出願に係り、平成24年2月24日に設定登録されたものである。

その後、本件特許に対して、審判請求人 株式会社大雪屋(以下「請求人」という。)より、平成24年8月31日に別件無効審判(無効2012-800138号)が請求され、請求不成立の旨の平成25年6月11日付け審決がなされ、確定した。

本件無効審判は、本件特許について、平成27年8月7日に、請求人が請求したものであって、被請求人 オーバートン エンタープライズィズ,エルエルシー(以下「被請求人」という。)は、平成27年11月24日付けで答弁書を提出している。その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年2月19日付け 請求人が口頭審理陳述要領書を提出
同年2月19日付け 被請求人が口頭審理陳述要領書を提出
同年3月 4日 口頭審理
同年3月 4日付け 請求人が上申書を提出
同年3月 8日付け 請求人が上申書を提出
同年4月 1日付け 被請求人が上申書を提出

なお、各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように略記した。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?15に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明15」という。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)からみて、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された次のとおりのものと認める。
なお、請求項1に付した数字及びアルファベットは、請求人が分説した構成要件を表す。

「【請求項1】
1A 物品を格納する着用可能なベルトであって、
1B 長手方向軸を有する第1の弾性材料と;
1C 当該ベルトの両端部が解放可能に互いにつながり得るようにさせる第1のファスナと;
1D 前記第1の弾性材料とは異なる1以上の弾性材料を有するポーチと;を有し、
1E 該ポーチは、(i)内部体積を封入するよう、前記ベルトの背部において前記1以上の弾性材料を折り畳むことと、
1F (ii)前記ポーチの前記内部体積を封入するよう、前記ポーチの前部の略中央に前記長手方向軸に平行に、第2のファスナを与えることと、
1G (iii)該第2のファスナによって、前記長手方向軸に平行な方向に前記ポーチの弾性が制限されることと、
1A を特徴とする、着用可能なベルト。
【請求項2】
前記1以上の弾性材料は、前記長手方向軸の方向に対して平行な方向におけるよりも前記長手方向軸に対して横断する方向においてより弾性である、一方向伸縮性材料である、
請求項1記載の着用可能なベルト。
【請求項3】
前記第1又は第2のファスナは、ジッパーファスナである、
請求項1記載の着用可能なベルト。
【請求項4】
前記第1又は第2のファスナは、ヴェルクロ封鎖具である、
請求項1記載の着用可能なベルト。
【請求項5】
当該ベルトは、前記長手方向軸に対して垂直である幅を備え、
折り畳んだ前記ポーチの前記幅は、最小の前記幅の1.5倍より小さい、
請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項6】
前記ポーチは、前記長手方向軸に対して横断する方向において少なくとも100パーセント拡張可能である、
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項7】
前記ポーチの前記内部体積は、少なくとも200パーセント拡張可能である、
請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項8】
前記ポーチは、前記長手方向軸において略中心に置かれる、
請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項9】
前記1以上の弾性材料は、逆反射材料である、
請求項1乃至8のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項10】
前記1以上の弾性材料は、逆反射材料を有する、
請求項1乃至9のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項11】
前記1以上の弾性材料は、前記長手方向軸に対して平行である方向においてよりも前記長手方向軸に対して横断する方向においてより弾性である非対称の拡張可能材料である、
請求項1乃至10のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項12】
前記ポーチは、1つ又はそれより多くの長手方向プリーツを備え、
該プリーツは、前記長手方向軸に対して実質的に平行であり、
また前記ポーチの前記内部体積が前記長手方向軸に対して横断する方向において拡張するようにする、
請求項1乃至11のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項13】
前記ポーチは、前記ベルトからつり下がらない、
請求項1乃至12のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項14】
当該ベルトに対して取り付けられる1つ又はそれより多くのフックを更に有し、
該1つ又はそれより多くのフックは、ランナーのレース番号を取り付けるのに適切である、
請求項1乃至13のうちいずれか一項記載の着用可能なベルト。
【請求項15】
物品を格納する着用可能なベルトを形成する方法であって、
長手方向軸を有する第1の弾性材料を与える段階と;
前記ベルトの両端部が解放可能に互いにつながり得るようにさせる第1のファスナを前記両端部に取り付ける段階と;
前記第1の弾性材料とは異なる1以上の弾性材料を有するポーチを形成する段階と;を有し、
該ポーチは、(i)内部体積を封入するよう、前記ベルトの背部において前記1以上の弾性材料を折り畳むことと、
(ii)前記ポーチの前記内部体積を封入するよう、前記ポーチの前部の略中央に前記長手方向軸に平行に、第2のファスナを与えることと、
(iii)該第2のファスナによって、前記長手方向軸に平行な方向に前記ポーチの弾性が制限されることと、
によって形成される、方法。」

第3 請求人の主張
1 要点
請求人は、本件発明1?15についての特許を無効にする、との審決を求めている。
その理由の要点は、以下のとおりである。

(1)無効理由1(特許法第29条第1項第3号違反)
本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1に記載された発明と同一の発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきである。

(2)無効理由2(特許法第29条第2項違反)
本件発明1?15は、甲1及び甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1?15に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきである。

(3)無効理由3(特許法第29条第2項違反)
本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1及び甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきである。

(4)無効理由4(特許法第29条第2項違反)
本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきである。

(5)無効理由6(特許法第36条第6項第1号違反)
本件発明1?15は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、本件発明1?15の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しておらず、本件発明1?15に係る特許は、同法第123条第1項第4号の規定によって無効とすべきである。

なお、無効理由5(特許法第17条の2第3項違反)は、口頭審理において取り下げられた(第1回口頭審理調書「請求人」欄2)。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲1 :米国特許第5558440号公報
甲2 :特開2003-245113号公報
甲3 :米国特許第5150824号公報
甲4 :米国特許第5341928号公報
甲5 :甲第1号証の翻訳文
甲6 :甲第3号証の翻訳文(一部)
甲7 :甲第4号証の翻訳文(一部)
甲8 :無効2012-800138号事件における被請求人の審判答弁書
甲9 :本件特許の国内書面(外国語出願の翻訳文)
甲10:本件特許の平成23年10月19日付け手続補正書
甲11:英辞郎 on the WEBにおける「flexible」の検索結果のウェブページ(http://eow.alc.co.jp/search?q=flexible&ref=wl)をプリントアウトしたもの
甲12:ファッションのための繊維素材辞典(173頁及び奥付)
甲13:楽天における「spibelt」のウェブページ(http://item.rakuten.co.jp/henkaq/spibelt-001)をプリントアウトしたもの
甲14:ファッション・アパレル用語辞典(308頁の一部及び奥付)
甲14-2:ファッション・アパレル用語辞典(308頁の全体頁)
甲15:大辞泉増補・新装版(409頁及び奥付)

3 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1
甲1の「elongate」及び「flexible」は、それぞれ「一体となって伸張され」及び「弾力性のある」と翻訳されるから、甲1のバンド28及びポーチ10が弾性材料で形成される点が甲1に記載されている。
また、本件発明1及び15の「背部」とは、「少なくともポーチの前部ではないこと」を含んでいる概念であるから、甲1の図4に示されるように、ポーチ10の前部ではない反対側の方向にポーチ10の縁部が折り畳まれることは、「ベルトの背部において…折り畳む」ことを開示している。
さらに、甲1には、バンド28に固定されたポーチ10もバンド28の伸張につられて伸張するところ、固いファスナ30がポーチ10の伸張を制限することも記載されている。

(2)無効理由2
仮に、本件発明1及び15の「背部」に対応する概念は、あくまで完全にベルトの後方のみであるとした場合、ポーチ10の縁部は、バンド28の完全な後ろに回って折り畳まれるわけではないから、甲1に記載された発明と本件発明1及び15は、「ベルトの背部において…折り畳む」点が明記されていない限りにおいて、一応相違する。
しかしながら、相違点があるとしても、甲2では、ストレッチ素材1及び2を、ベルト4の周りに巻き上げて包装する際に、ベルト4の背部において折り畳んでいることは明らかであるから、甲2には、かかる相違点の構成が開示されている。
そして、ポーチ10を前部でない部分に折り畳むか、バンド28の完全な後ろに折り畳むか否かは、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎず、ベルトの背部においてポーチを折り畳む技術は、甲3や甲4に記載されており周知技術であるから、かかる相違点は単なる設計事項である。また、甲1と甲2は、技術分野、課題、作用・機能が共通している。
そうすると、かかる相違点は、甲1のポーチ10と甲2のストレッチポーチとを組み合わせることで、容易想到である。

(3)無効理由3
甲1に記載された発明と本件発明1及び15は、上記(2)のとおり、「ベルトの背部において…折り畳む」点において、一応相違する。
しかしながら、甲3の折り畳み可能な袋体12は、弾性材料でできており、ポーチ11に隣接して取り付けられ、ポーチ11やベルト14の背部で折り畳まれるから、甲3には、かかる相違点の構成が開示されている。
そして、甲1と甲3は、技術分野、課題、作用・機能が共通していることから、かかる相違点は、甲1のポーチ10と甲3の袋部12とを組み合わせることで、容易想到である。

(4)無効理由4
甲1に記載された発明と本件発明1及び15は、上記(2)のとおり、「ベルトの背部において…折り畳む」点において、一応相違する。
しかしながら、甲4のポーチは、柔軟な単一シート状素材で形成されているところ、かさばる物品を入れた場合には、半生地が展開することより容量が拡張されるものである。また、空の場合には、半生地がポケットの裏において、内側へ折り畳まれる。そして、柔軟な単一シート状素材は、弾性材料である。そうすると、甲4には、かかる相違点の構成が開示されている。
そして、甲1と甲4は、技術分野、課題、作用・機能が共通していることから、かかる相違点は、甲1のポーチ10と甲4のポーチ1とを組み合わせることで、容易想到である。

(5)無効理由6
平成23年10月19日付け手続補正書によって、本件発明1に補正がなされた(以下「本件補正」という。)ところ、本件補正により、出願当初請求項1には記載されていた限定が一部削除され、ポーチの各側部をベルトの端部に集合させ、密封するように封じ込める必要のあった発明が、そのような密封による封じ込めが無くともよい発明に上位概念化されることとなり(技術事項A)、また、ポーチの上部エッジ及び下部エッジを接合するように折り畳むという限定があった発明が、単にベルトの背部で折り畳めばよい発明に上位概念化されることとなった(技術事項B)。
当初明細書等には、技術事項A及びBに関する明示的な記載や図面はない。すなわち、技術事項A及びBを含む本件発明1は、当初明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、詳細な説明の記載により当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲内のものでもない。

第4 被請求人の主張
1 要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たない、との審決を求めている。

2 証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
乙1:ランダムハウス英和大辞典第2版(862頁及び奥付)
乙2:科学技術和英大辞典(925頁及び奥付)
乙3:ランダムハウス英和大辞典第2版(1011頁及び奥付)
乙4:広辞苑第5版(2366頁及び奥付)
乙5:Longman English Dictionary Onlineにおける「flexible」の検索結果のウェブページ(http://www.ldoceonline.com/dictionary/flexible)をプリントアウトしたもの
乙6:ウィキペディアフリー百科事典における英辞郎の項目のウェブページ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%B1%E8%BE%9E%E9%83%8E)をプリントアウトしたもの
乙7:新英和大辞典第6版(932頁及び奥付)
乙8:Webster’s Third New International Dictionary(869頁及び奥付)

3 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1
甲1には、バンド28が弾性材料からなること、ポーチ10が弾性材料であって、バンド28と異なる弾性材料からなること、ポーチ10が内部体積を封入するようにベルトの背部において折り畳むこと、及び「ファスナによって…ポーチの弾性が制限されること」のいずれも記載されていないから、本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1に記載された発明と同一ではない。

(2)無効理由2
甲1及び甲2に記載された発明は、課題も作用・機能も共通しておらず、組み合わせることができない。仮に両者を組み合わせることができたとしても、甲2のストレッチポーチは「背部」が折り畳まれるものではなく、本件発明1に到達しない。
また、甲1は、バンド28の存在により、バンド28の背部において折り畳むことができないから、ポーチを背部で折り畳むことが周知技術であったとしても、甲1に適用することができない。
したがって、本件発明1?15は、甲1及び甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)無効理由3
甲1及び甲3に記載された発明は、課題も作用・機能も共通しておらず、組み合わせることができない。仮に両者を組み合わせることができたとしても、甲3の袋部12は、弾性材料からなるものではなく、ポーチ11とは別体の収容部であってポーチ自体が折り畳まれているものではないから、本件発明1に到達しない。
したがって、本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1及び甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)無効理由4
甲4に記載された発明は、ゴルフバッグに装着するポーチであって、甲1に記載された発明と目的、用途が異なり、また課題も作用・機能も共通しておらず、両者を組み合わせることができない。仮に両者を組み合わせることができたとしても、甲4のポーチ1は、弾性材料からなるものではないから、本件発明1に到達しない。
したがって、本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)無効理由6
請求人の主張は、本件発明が願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない、というものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を誤って理解したものである。
また、本件発明1?15は、本件特許明細書等の段落【0020】等の記載によって裏付けられており、本件発明1?15は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものである。

第5 当審の判断
1 各甲号証の記載内容
請求人が提出した証拠である、甲1?4には、以下の発明又は事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審にて付したものである。

(1)甲1
請求人が提出した証拠である、甲1には、以下の発明又は事項が記載されている。

ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ARTICLE FOR RETAINING OBJECTS」(物品を保持するための製品)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、下記イで当審の判断を示した訳(『…』で示す)を除いて、請求人が提出した甲5による翻訳文である。

(ア)「This invention relates in general to an article useful for retaining objects, and more particularly relates to an expandable pouch that can be strapped or otherwise releasably fastened to a person's body for retaining objects.」(第1欄第3?6行目)
(本発明は一般に、物品を保持するのに役立つ製品に関し、より詳細には物品を保持するために人体にひもで縛り付ける、あるいはそれ以外の方法で解放可能に締結することができる拡張可能なポーチに関する。)

(イ)「FIG. 2 is a perspective view of the pouch of FIG. 1 affixed to a band that is lying flat;」(第1欄第52?53行目)
(図2は、平らに置かれているバンドに貼り付けられた図1のポーチの斜視図である。)

(ウ)「Referring now to the drawings in more detail, numeral 10 generally designates a pouch made in accordance with the present invention. Looking to FIG. 6, the pouch 10 is made from a piece of fabric or similarly flexible material, wherein the fabric is folded over at both ends toward the center so that the opposing ends 20, 22 of the fabric overlap slightly at the center of the fabric piece thus forming a tubular shape.」(第1欄第61?67行目)
(次に図面をより詳細に参照すると、番号10は全体的に、本発明によって作成されたポーチを指している。図6を見ると、ポーチ10は、一片の織物または同様の『たわみやすい』材料から作成されており、この織物は、両端において中心に向けて折り畳まれることで、布地の対向する端部20、22が織物片の中心においてわずかに重なり、これにより管形状を形成する。)

(エ)「Since the fabric is preferably somewhat flexible, this tubular shape may be collapsed to form a top layer and a bottom layer of cloth connected along the lateral edges by folds. As is best shown in FIG. 5, the top and bottom layers of fabric are permanently affixed to one another, preferably by stitching, along the longitudinal end edges 12, 14 of the fabric layers. It is noted that the overlap of the opposing ends 20,22 is maintained due to this fixing of the edges 12, 14. It is preferred that the corners of the longitudinal ends are removed prior to fixing to form angled portions 16 adjacent the lateral edges. The angled portions are preferably about a 45° angle, and arranged to be spaced from each other along the longitudinal ends by a distance at least equal to the overlap of the opposed ends 20,22.」(第2欄第1?14行目)
(織物は好ましくは幾分『たわみやすい』ため、この管形状はつぶされることで、折り目によって横方向の縁部に沿って接続された布の頂部層と、底部層を形成する。図5に最もよく示されるように、織物の頂部層と、底部層は、好ましくは縫うことによって織物層の長手方向の端縁部12、14に沿って互いに対して永続的に貼り付けられる。対向する端部20、22の重なりは、縁部12、14をこのように固定することによって維持されることに留意されたい。長手方向の端部の角は、固定する前に除去され、横方向の縁部に隣接して角度の付いた部分16を形成するのが好ましい。この角度の付いた部分は好ましくは、およそ45°であり、少なくとも対向する端部20、22の重なりに匹敵する距離だけ長手方向の端部に沿って互いから離間されるように配置される。)

(オ)「As is best shown in FIG. 6, the pouch thus defines a first concave portion 24 and a second concave portion 26, each having an opening defined by the respective opposed edge 20 or 22 and the portion of the fabric there beneath, and a rear wall portion defined by those portions within the lateral extent of the corner portions 16. The openings of these two portions substantially abut to define a single closed cavity.」(第2欄第15?21行目)
(図6に最もよく示されるように、ポーチはこのように、第1の凹面部24と、第2の凹面部26とを画定し、各々がそれぞれの対向する縁部20または22と、その下の織物の一部によって画定される開口と、角部16の横方向の範囲内でこのような部分によって画定される後方の壁部分とを有する。これら2つの部分の開口はほぼ当接して単一の閉鎖した空洞を画定する。)

(カ)「As noted above, the opposing ends 20, 22 of fabric overlap at the center of the top fabric layer of the pouch to define a slit or opening for access to the cavity. Corresponding fasteners such as that sold under the tradename VELCRO, are affixed to the underside of the overlapping end 20 and the upperside of the underlying end 22 to provide a means for securing the two ends of the fabric for temporary closure of the pouch. Other fastening devices such as a slide fastener, snaps or buttons could alternatively be used to releasably secure the two ends 20, 22 together.」(第2欄第22?31行目)
(上記で指摘したように、織物の対向する端部20、22は、ポーチの頂部の織物層の中心において重なることで空洞に侵入するためのスリットまたは開口を画定する。商標名VELCROの下で販売されるものなどに対応するファスナが、重なる端部20の下面と、下にある端部22の上面に取り付けられ、織物の2つの端部を固定することでポーチを一時的に閉鎖するための手段を提供する。他のファスナ、例えばスライドファスナー、スナップまたはボタンを代わりに使用して2つの端部20、22を合わせて解放可能に固定する場合もある。)

(キ)「Looking now to FIGS. 1-4, the pouch can be placed in a compact configuration. To accomplish this, the folded lateral edges of the pouch are moved toward the center of the pouch, reversely folded in the process, and placed in a spaced overlapping position. As such, in this configuration the lateral sides of the pouch substantially corresponding to the rear wall portions of the first concave portion 24 and second concave portion 26 are inversely folded toward the center of the pouch in a convex configuration. This convex folding is aided by the removal of corner material to form the corner portions 16. The convex rear wall segment of the first portion 24 overlies the convex rear wall segment 26 of the second portion. As best shown in FIG. 4, the pouch takes on an accordion fold configuration when compacted in this manner. The compacted pouch is relatively thin and flat, thus providing a non-obtrusive article when empty.」(第2欄第32?47行目)
(次に図1-4を見ると、ポーチをコンパクトな構成に配置することができる。これを達成するために、ポーチの折り畳まれた横方向の縁部がポーチの中心に向けて移動され、このプロセスにおいて逆向きに折り畳まれ、離間した重なる位置に配置される。そういうものとして、この構成において、第1の凹面部24および第2の凹面部26の後方の壁部分に実質的に対応するポーチの横方向の側部は、凹面構成でポーチの中心に向けて反対に折り畳まれる。この凹面の折り畳み作業は、角部16を形成するために角の材料を除去することによって促進される。第1の部分24の凹面の後方の壁部分は、第2の部分26の凹面の後方の壁部分の上に重なる。図4に最もよく示されるように、ポーチは、このようにしてコンパクトにされる際、アコーディオン状に折り畳まれた構成を採る。コンパクトになったポーチは、相対的に薄く平坦であり、そのため何も入っていない場合、目立たない製品を実現する。)

(ク)「The pouch can be detachably affixed to a band 28 adapted to retain the pouch to the user's body or to some other structure. Band 28 is elongated with the longitudinal ends having a fastening device 30, preferably that sold under the tradename VELCRO, for releasably connecting such ends together. Thus, as shown in FIG. 1, the band can be secured in a circular configuration to fit around a person's wrist, waist or ankle for example.」(第2欄第48?55行目)
(ポーチは、ポーチをユーザの身体に対してまたは何らかの他の構造に対して保持するように適合されたバンド28に取り外し可能に貼り付けることができる。『バンド28は、ファスナ30を有する長手方向の端部を含んで細長く』、このファスナは、好ましくは商標名VELCROの下で販売されており、このような端部を併せて解放可能に接続することを目的とする。したがって図1に示されるように、バンドは、円形構成で固定されて、例えば人の手首、ウエストまたは足首の周りに装着させることができる。)

(ケ)「The pouch can be made from any flexible material and is preferably made of a tightly woven fabric-like material. Preferably the fabric will be lightweight, relatively waterproof and sturdy. Particularly suitable materials include lightweight and quick drying fabrics such as those sold under the tradenames NYLON and TASLYN.」(第3欄第7?12行目)
(ポーチは、『たわみやすい』材料から作成することができ、好ましくはきつく編まれた織物に似た材料で作成される。好ましくはこの織物は軽量であり、相対的に耐水性であり、丈夫である。特定の好適な材料には、軽量で速乾性の織物、例えば商標名NYLONおよびTASLYNの名の下で売られるものなどが含まれる。)

(コ)「1. A pouch which may be secured to the body of a user, said pouch comprising a top layer and a bottom layer of fabric which together form a closed cavity for retaining articles, said top and bottom layers each having a center section extending parallel to and between side sections, the side sections being releasably folded inward of the closed cavity into overlapping relationship with one another and between the center sections of the top and bottom layers, the center section of the top layer including an access opening into said closed cavity and the center section of the bottom layer including a means for releasably attaching said pouch to the body of the user.
2. A pouch in accordance with claim 1, wherein said pouch additionally comprises a means for releasably closing said access opening.」(請求項1?2)
(1.ユーザの身体に固定することができるポーチであって、製品を保持するための閉鎖された空洞を一緒に形成する織物の頂部層と、底部層とを備え、前記頂部層および底部層が各々側面部分に平行してかつ側面部分の間に延在する中心部分を有し、前記側面部分が互いに重なる関係で、かつ頂部層の中心部分と底部層の中心部分の間で閉鎖された空洞の内側に解放可能に折り畳まれ、頂部層の中心部分が、前記閉鎖された空洞への侵入開口を含み、底部層の中心部分が前記ポーチをユーザの身体に解放可能に装着する手段を含むポーチ。
2.前記ポーチが追加として、前記侵入開口を解放可能に閉鎖するための手段を備える、請求項1に記載のポーチ。)

イ 上記アの和訳について
当事者間で争いのある和訳について、以下、当審の判断を示す。

(ア)「Band 28 is elongated with the longitudinal ends having a fastening device 30」

当審は、以下の理由により、記載事項(ク)の「Band 28 is elongated with the longitudinal ends having a fastening device 30」を、「バンド28は、ファスナ30を有する長手方向の端部を含んで細長く」と翻訳すべきと判断する。

すなわち、「elongate」の和訳について、乙1には、動詞につき「v.t.<物・事を>(空間・時間的に)長くする,延長する;引き延ばす:?a rubber bandゴムひもを伸ばす…」と、形容詞につき「adj-(またe・lon・gat・ed)1長くなった,伸びた…(中略)…2細長い,長くて薄い」との記載がある。

この点、甲1には、バンド28について、「ポーチをユーザの身体に解放可能に装着する手段」(記載事項(コ))であることが記載されているほか、図2より、バンド28が細長い形状の部材であることが看取できる。一方で、甲1には、バンド28が弾性部材からなる旨の記載を含め、バンド28が引き延ばされることを示唆する記載はなく、図2は、バンド28が平らに置かれた状態を図示したもの(記載事項(イ))であって、バンド28が引き延ばされた状態であるとまで看取することはできない。
甲1のかかる記載内容に照らせば、乙1で示された「elongate」の訳語のうち「細長い」という訳語を選択するのが妥当である。すなわち、記載事項(ク)の「elongate」は、バンド28が「引き延ばされる」という意味ではなく、ポーチをユーザの身体に装着する手段としてのバンド28の形状が「細長い」という意味で用いられていると解するのが妥当である。そこで、当審では、上記のとおり翻訳した。

これに対し、請求人は、乙1に「elongate」の用例に「?a rubber bandゴムひもを伸ばす」との記載があることをもって、「バンド28は、ファスナ30を有する長手方向の端部と一体となって伸長され」と翻訳すべきであるなどと主張する。
しかしながら、乙1に「ゴムひも」の用例があるからといって、甲1のバンド28が弾性材料であることにはならないのであり、また、甲1の記載内容から離れて、バンド28が弾性材料であることを前提として、「elongate」の訳語として「引き延ばす」を選択することはできない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)「flexible」

当審は、以下の理由により、甲1の「flexible」を「たわみやすい」と翻訳すべきと判断する。

すなわち、「flexible」の和訳については、形容詞に関して、乙3には「<物が>曲げられる;曲げやすい,しなやかな,可撓(かとう)[たわみ]性のある」との記載が、乙7には「曲げやすい,たわみやすい,しなやかな,柔軟な」との記載があるほか、甲11には「1.[物が]曲がりやすい、曲げやすい、たわみやすい…4.弾力的な、弾力性のある…」との記載がある。
また、名詞に関しては、乙3に「(ゴム・革など)曲げやすい物質[素材]」との記載がある。

この点、甲1には、記載事項(ウ)中「the pouch 10 is made from a piece of fabric or similarly flexible material」において、「fabric」(織物)と同様の材料の性質として「flexible」が用いられていること、当該「fabric」(織物)につき、折り畳まれて管形状を形成し(記載事項(ウ))、管形状がつぶされること(記載事項(エ))が記載されているから、pouch 10の材料は、たわみやすい材料であれば十分であり、弾力性のある材料である必要はないことが甲1の記載から理解される。
してみると、甲1のかかる記載内容に照らせば、乙3の名詞の訳を参考にしつつも、乙3、乙7及び甲11で示された「flexible」の訳語のうち、「たわみやすい」という訳語を選択するのが妥当である。

これに対し、請求人は、甲11に「4.弾力的な、弾力性のある」と記載されていること、乙3に「(ゴム・革など)曲げやすい物質[素材]」と記載されていることなどをもって、「flexible」を「弾力性のある」と翻訳すべきであると主張する。
しかしながら、甲1の記載内容から離れて、より相応しい訳語である「たわみやすい」ではなく、「弾力性のある」の訳語を選択することはできない。また、請求人が指摘する乙3の記載は、ゴムや革に共通する性質を有する物質として「曲げやすい物質」を示しているものにすぎず、かかる記載をもって「弾力性のある」と翻訳することもできない。

また、請求人は、記載事項(ケ)に、ポーチの特定の好適な材料として、「NYLON」(ナイロン)が記載されており、甲12によれば、「ナイロン」は、伸度も大きく弾力性の富んだ材料であることから、ポーチの材料を示す「flexible」は「弾力性のある」と翻訳すべきであるとも主張する。
しかしながら、請求人の指摘する甲1の「NYLON」は、文脈から「軽量で速乾性の織物」の例として記載されていることは明らかであり、甲12によって「ナイロン繊維」が弾力性の富んだ材料であることが示されているからといって、「軽量で速乾性の織物」が直ちに「弾力性の富んだ材料」であることにはならない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 甲1に記載された発明
上記アの記載事項(ア)?(コ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて、本件発明1に照らして整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲1発明」という。)。

「ユーザの身体に固定することができるポーチであって、
ポーチ10に貼り付けられ、前記ポーチ10をユーザの身体に解放可能に装着する細長いバンド28と、
当該バンド28の長手方向の両端部を解放可能に接続するファスナ30とを含み、
該ポーチ10は、閉鎖された空洞を形成する織物又はたわみやすい材料の頂部層と底部層とを備え、前記頂部層及び底部層が各々側面部分に平行してかつ側面部分の間に延在する中心部分を有し、前記側面部分たる第1の部分24及び第2の部分26が互いに重なる関係で、かつ頂部層の中心部分と底部層の中心部分の間で閉鎖された空洞の内側に折り畳まれ、頂部層の中心部分が前記閉鎖された空洞への侵入開口を含み、底部層の中心部分が前記バンド28を含み、
前記ポーチ10が前記侵入開口を解放可能に閉鎖するファスナを備える、ポーチ。」

(2)甲2
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「ストレッチポーチ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【発明の属する技術の分野】本発明は、CD、携帯電話、小銭等の小物を入れる袋部をベルトに付け、そのベルトを腰部、肩部等に巻きつけ装着するウエストポーチに関するものである。」(段落【0001】)

(イ)「…そして、第3の発明は、ストレッチポーチの袋部、ベルト部にストレッチ素材を採用し、しかも、その素材に特定の伸びを有せしめ、また、その巾を4?25cmと広くしてあるので、腰部に適度な張力で巻きつけ装着すると、サポーター機能を発揮し腰痛等を和らげ、歩行、ジョギング、ウォーキングがし易くなる効果が得られる特徴を持つものである。」(段落【0005】)

(ウ)「…図3は、図1のストレッチ素材(1)、(2)をベルト(4)を中心として巻き上げ包装した状態を示す図である。」(段落【0008】)

(エ)「図中では、ベルト(4)として、ナイロン織物素材、エステル織物素材等の素材から成るもので、巾が3?5cmの伸びのないベルト(4)を採用している。CD、携帯電話、小銭等の小物は、このベルト(4)を中心にして、ストレッチ素材(1)と(2)の間の下部に入れられ、巻き上げて包装される。」(段落【0010】)

(オ)「補強芯材(3)は、本発明のストレッチポーチを腰部に一定張力で巻き装着バックル(5)で装着したとき、引張り張力を均一にストレッチ素材(1),(2)に伝える補強材であり、素材はベルト(4)と同様の素材から成ることが好ましい。図1,2に示すマジック型式のテープ(以下、単にテープという。)は、テープ(6),(8),(10),(12)で示す群とテープ(7),(9),(11),(13)で示す群とから成る。CD、携帯電話、小銭等の小物をストレッチ織物素材(1)と(2)の間の下部に入れ巻き上げ包装するとき、テープ(10)がテープ(11)を留め、また、テープ(12)がテープ(13)を留める。ストレッチ織物素材(1)と(2)の間から出て落ちないように留める役目をする。」(段落【0011】)

(カ)「次に、図4,5に示す本発明の他の例であるストレッチポーチを参照して、本発明を説明する。図4,5中、(1),(2)はストレッチ素材、(3)は補強芯材、(4)はベルト、(5)は装着バックル、(14)は縫い糸、(15)はファスナー、(16)は小物を示す。」(段落【0013】)

(キ)「補強芯材(3)、ベルト(4)、装着バックル(5)は、上述したのと同様である。また、ファスナー(15)は、ストレッチ素材(1),(2)中のCD、携帯電話、小銭等の小物(16)を出し入れする開閉ファスナーである。」(段落【0015】)

イ 甲2に記載された発明
上記記載事項(ア)?(キ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲2には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲2発明」という。)。

「小物を入れる袋部をベルト4に付け、そのベルト4を腰部に巻きつけ装着するウエストポーチであって、
袋部とベルト4は、ストレッチ素材からなり、袋部は、小物をストレッチ素材1及びストレッチ素材2の間の下部に入れ巻き上げて包装するものであり、小物を出し入れするためのファスナー15を設けた、
ウエストポーチ。」

(3)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「DUAL PURPOSE UNITIZED PACK」(2つの目的を兼ねた統合されたパック)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、『…』部で示した当審による翻訳文を除き、請求人が提出した甲6による翻訳文である。なお、『…』部のうち「flexible」の訳については、下記イを参照のこと。

(ア)「This invention relates to a pack to be worn around the waist or over the shoulder of the user. More particularly, the invention relates to a dual purpose unitized pack capable of holding a limited measure of articles or a relatively substantial measure of articles.」(第1欄第4?8行目)
(この発明は、ユーザのウエスト回りあるいは肩の上に装着されるパックに関する。特に、この発明は、限られた大きさで保持できるあるいは相当な大きさで保持できるという2つの目的を兼ねた統合されたパックに関する。)

(イ)「There is currently being commercialized biker/hiker products referred to variously as fanny packs or fanny huggers. These products have a small pouch with a strap. The product is worn around the waist with the pouch at the user's side, front or back as desired. The pouch portion of the product is usually made of a flexible, light weight and durable fabric. The nature of the product is such that it can be conveniently worn without interfering with the user's activity. When the contents of the pouch are used, the product is even less noticed by the user and less cumbersome. Of course, they are limited by their small size and consequent small capacity. Normally, this is no problem. The user simple adapts to the situation.」(第1欄第47?60行目)
(近年、“ファニーパック”や“ファニーハガー”などとして言及され宣伝されているバイカーやハイカー用の製品がある。これらの製品は、ストラップの付いた小型のポーチを有する。当該製品は、ユーザの側部前側あるいは後ろ側に自由自在に、ポーチとともにウエスト回りに装着される。当該製品のポーチ部分は通常『たわみやすく』軽量で耐久性のある素材でできている。当該製品の本質は、ユーザの活動を阻害することなしに快適に装着できうることである。当該ポーチの中身が使用されるときでさえ、当該製品はユーザにほとんど気づかれず、大きくて使いにくいということはほとんどない。もちろん、その小さいサイズと結果的に小さな容量ゆえに制限は受けるが、通常は何ら問題ない。ユーザはその状況に単純に順応する。)

(ウ)「With reference to FIGS. 1 and 2 there is shown the dual purpose unitized pack 10 of the invention. The unitized pack comprises as its essential components a pouch 11, a substantially flat foldable enclosure member 12, a collapsible sack 13 and a belt 14. As shown in FIG. 1 the unitized pack is fully closed and ready for wearing on the waist or shoulder of its owner for the purpose of holding a limited measure of articles. As shown in FIG. 2, the unitized pack is fully opened with all its features fully extended ready for use as a container for a relatively substantial measure of articles.」(第2欄第46?56行目)
(図1及び2を参照するに、本発明である2つの目的を兼ねた統合パック10が示されている。この統合パックはポーチ11、フラットで折り畳み可能な袋部材12、折り畳み式のサック13、ベルト14から構成される。図1で示されるように、統合パックは全てクローズされ、限られた大きさで保持できるという目的のために、ユーザのウエストあるいは肩に装着できるようになっている。図2で示されるように、統合パックは、拡張されるという特徴とともに全てオープンにされる。)

(エ)「The foldable enclosure member 12 is generally rectangular-shaped and substantially flat in both its unfolded and folded states. Its length is approximately equal to the length of the pouch while its width is approximately double the width of the pouch. The enclosure member is made of a flexible material such as those described above in connection with the pouch. Preferably, the enclosure member is made of the same flexible material as the pouch for appearance and manufacturing cost savings reasons. A portion of the enclosure member is contiguous with the pouch and is permanently attached thereto by stitches or other conventional attaching means. The balance of the enclosure member is a free portion and is folded back onto the contiguous portion as shown in FIGS. 1, 4 and 5. The free portion of the enclosure member when in-use is fully extended as shown in FIGS. 2 and 3.」(第3欄第20?36行目)
(折り畳み可能な袋部12は、折り畳まれていない状態及び折り畳まれた状態のいずれも、通常長方形で、相当な大きさのフラットな形をしている。その長さはおおよそポーチの長さと等しいが、幅はおよそポーチの幅の2倍ある。袋部は、ポーチに関して上記で述べたような『たわみやすい』素材でできている。袋部は、外見のためあるいは製造コスト節約のため、ポーチと同様の『たわみやすい』素材でできていることが好ましい。袋部の一部はポーチと隣接しており、ステッチあるいはその他の従来の接続手段によって恒久的に取り付けられる。『袋部の残りの部分は自由になっている部分であり、図1、4及び5で示されるように、ポーチと隣接している袋部の部分に折り返される』。袋部の自由になっている部分は、使用時には図2及び3で示されるように最大限に拡張される。)

(オ)図1から、ポーチ11及び袋部12の上縁部に、それぞれジッパー16及びシッパー20が設けられた点が看取できる。

(カ)図1及び図2から、袋部12を折り返して使用する場合、ベルト14の雌バックル25をポーチ11の雄バックル18と係合することで、ポーチ11がベルト14とともにユーザ装着手段として機能し、袋部12がベルト14の長手方向と略直交する線で折り返されて(folded back)、この袋部12が該ユーザ装着手段の内側(ユーザ側)に位置するとともに、袋部12をフラットにして使用する場合、ベルト14の雌バックル25を袋部12の雄バックル23と係合することで、袋部12が該ユーザ装着手段として機能し、該ユーザ装着手段の外側(反ユーザ側)に袋部12の収納部が位置する点が看取できる。

イ 上記アの和訳について
当事者間で争いのある「flexible」の和訳について、当審は、以下の理由により、甲3の「flexible」を「たわみやすい」と翻訳すべきと判断する。

すなわち、「flexible」の和訳について、乙3、乙7及び甲11には、上記(1)イ(イ)で示したとおりの記載がある。

この点、甲3には、ポーチ11と袋部12の素材の性質として「flexible」の語が用いられている(記載事項(エ))ところ、袋部12は、フラットな状態及び折り返された状態のいずれにもなること(記載事項(エ))、ポーチ11は、ウエスト回りに装着されるもので、ユーザの活動を阻害することなしに快適に装着できうるものであること(記載事項(イ))、及び、外見と製造コストの節約のため、ポーチ11と袋部12は、同様の素材でできていること(記載事項(エ))が記載されているから、ポーチ11及び袋部12の素材は、たわみやすい材料で十分であり、弾力性のある材料である必要はないことが甲3の記載から理解される。
してみると、甲3のかかる記載内容に照らせば、乙3、乙7及び甲11で示された「flexible」の訳語のうち「たわみやすい」という訳語を選択するのが妥当である。

これに対し、請求人は、甲1の「flexible」と同様の理由により、甲3の「flexible」を「弾力性のある」と翻訳すべきである旨主張する。
しかしながら、かかる請求人の主張は、甲3の記載内容から離れて「flexible」の訳語を選択すべきとするものであって、採用できないのは、甲1の「flexible」について示したとおりである。

ウ 甲3に記載された発明
上記記載事項(ア)?(エ)及び認定事項(オ)?(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲3には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲3発明」という。)。

「ユーザのウエスト回りあるいは肩の上に装着される、限られた大きさでの保持あるいは相当な大きさでの保持の2つの目的を兼ねた統合パック10であって、
ポーチ11、袋部12、及びベルト14等から構成され、
ポーチ11及び袋部12は、同様のたわみやすい材料からなり、
袋部12は、その一部がポーチ11に取り付けられて、ポーチ11に取り付けられている部分以外が自由になっており、該自由になっている部分がポーチ11に取り付けられている部分に折り返されるように構成されており、
袋部12を折り返して使用する場合、ベルト14の雌バックル25をポーチ11の雄バックル18と係合することで、ポーチ11がベルト14とともにユーザ装着手段として機能し、袋部12がベルト14の長手方向と略直交する線で折り返されて、この袋部12が該ユーザ装着手段の内側に位置するとともに、袋部12をフラットにして使用する場合、ベルト14の雌バックル25を袋部12の雄バックル23と係合することで、袋部12が該ユーザ装着手段として機能し、該ユーザ装着手段の外側に袋部12の収納部が位置し、
ポーチ11及び袋部12の上縁部に各々ジッパー16及び20を設けたパック。」

(4)甲4
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「ADD-ON POCKET FOR GOLF BAGS」(ゴルフバッグ用の付属的ポケット)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、請求人が提出した甲7による翻訳文である。

(ア)「The present invention relates to a special pouch or pocket attachable to a golf bag for storage of golf accessories, clothing or other articles.」(第1欄第5?7行目)
(本発明は、ゴルフアクセサリー、衣類、又はその他の物品を保管するための、ゴルフバッグに取り付け可能なポーチやポケットに関する。)

(イ)「The present invention provides a compact pouch or pocket that can be quickly and easily attached to and detached from carriers, particularly carriers for sports equipment, and, more particularly, golf bags of different designs. In the preferred embodiment, the body of the pocket is formed by a single sheet of flexible fabric sufficiently stiff that it tends to retain its shape. The pocket is rectangular and has a long central zippered opening in the front for access to the interior. The back of the pocket has a folded pleat so that the internal volume can be greatly increased for holding a bulky article such as a jacket or sweater. However, when empty, the pocket lies flat against the golf bag, or, if detached from the bag, the pocket lies flat in a compact condition, but it can be folded or rolled to an even more compact condition. Preferably the pocket connects to the golf bag by hooks, one of which is carried by a length of resilient cord for tensioning the pocket when connected to the golf bag.」(第1欄第49?67行目)
(本発明は、運搬装置、特にスポーツ用品、更にいうと異なるデザインのゴルフバッグに、迅速かつ容易に取り付けられ、又は取り外すことができる小型のポーチまたはポケットを提供する。好ましい実施形態では、ポケットの本体は、その形状を保持しやすい十分な固さを備えた柔軟な布の単一シートで形成される。ポケットは矩形であり、内部にアクセスするために前面に長い中央ジッパー式の開口部を有している。例えばジャケットやセーターなどのかさばる物品を内部に保持できる容量を増加することができるように、ポケットの背面には、折り畳まれたプリーツを有する。しかし、空の場合、ポケットはゴルフバッグに対して平らになり、またはバッグから取り外した場合、ポケットはコンパクトな状態で平らになるが、折り畳みまたはまるめることで、さらに小型の状態にすることができる。好ましくは、ポケットはゴルフバッグにフックによって連結することができ、当該フックのうち一つは、ゴルフバッグに連結されたときにポケットに張力を与えられるように長さのある弾力性のひもによって運搬される。)

(ウ)「With reference to FIGS. 1, 2 and 3, the add-on pocket 1 in accordance with the present invention has an elongated body 2 which preferably is formed of a single sheet of flexible material, preferably fabric, such as a weather resistant nylon. As best seen in FIG. 3, the body of the pocket includes a rectangular front panel 3 and a rectangular back panel 4. In the empty condition of the pocket shown in FIGS. 1, 2 and 3, the back panel is disposed substantially flat against the front panel. The front and back panels are joined at their side edges by integral pleat panels folded rearward and inward from the front and back panels. The pleat panels include rear half panels 5 folded inward from the side edges of the front panel 3 and forward half panels 6 folded inward from the side edges of the back panel 4.」(第2欄第30?44行目)
(図1、2及び3を参照するに、本発明に従った付属的ポケット1は、柔軟な単一シートの素材、好ましくは耐候性ナイロンのような布で形成された細長い本体2を有している。図3に最もよく見られるように、ポケットの本体には、長方形の前面生地3と長方形の背面生地4が含まれる。図1、2及び3のように、ポケットが空の状態では、背面生地は前面生地に対して実質的に平坦に配置されている。前面生地と背面生地は、前面生地と背面生地より後方かつ内側に折り曲げられた一体的なプリーツ生地によって、その側縁部が接合されている。プリーツ生地は、前面生地3の側縁部より内側に折り畳まれた背面半生地5と、背部生地4の側縁部より内側に折り畳まれた前面半生地6を含む。)


(エ)「Each rear half panel 5 meets a longitudinal edge of the front panel 3 at a crease 7. From such crease the half panel 5 (in the empty condition of the pocket illustrated in FIGS. 1, 2 and 3) extends inward to approximately the center line of the pocket where the rear half panel 5 meets the forward half panel 6 at a crease 8. From crease 8 the forward half panel extends outward to a crease 9 where the forward half panel is joined to the back panel 4 at one of its longitudinal edges.」(第2欄第45?53行目)
(背面半生地5は、それぞれ折り目7で前方生地3の長手方向縁部につながっている。このような折り目から、半生地5は、(図1、2及び3のように、ポケットが空の状態のとき)、ポケットのほぼセンターライン方向へ、内側へ向かってのびており、そこでは、背面半生地5が折り目8で前方の半生地6に向かってつながっている。前方の半生地は、折り目8から、外側へ、折り目9へ向かってのびており、ここで前方半生地は、背面生地4の長手方向縁部につながっている。)

(オ)「With the pocket empty, the forward and rear half panels at each side of the pocket are folded flat against the back panel leaving a narrow space between the creases 8 at approximately the center of the back panel 4. The opposite end portions of the pocket are sewn to join the end margins of the front panel 3, back panel 4 and half panels 5 and 6 together. 」(第2欄第54?60行目)
(ポケットが空のとき、ポケットの各サイドの前面及び背面の半生地は、背面生地4のほぼ中心の折り目8の間に狭い空間を残しながら、背面生地に対して平坦に折り畳まれる。ポケットの反対側端部は、前面生地3、背面生地4、半生地5及び6の端部を結合させるために縫い付けられる。)

(カ)「In the empty condition illustrated in FIGS. 1, 2 and 3, the pocket rests substantially flat against the exterior of the golf bag B with the rear half panels 6 facing the bag. Access to the interior of the pocket can be accomplished conveniently by unzipping the front panel 3. There are no exposed pleats at the sides of the pocket, only the creases 7. However, the pleated construction of the rear of the pocket allows for the volume of the central portion of the pocket to be greatly expanded. A bulky article, such as a sweater or jacket, can be carried in the interior. The expanded condition of the pocket is illustrated in FIGS. 4, 5 and 6, where the back panel 4 is forced away from the front panel 3 and the half panels 5 and 6 are unfolded. However, when the article is removed, the add-on pocket in accordance with the present invention returns to the flat condition illustrated in FIGS. 1, 2 and 3; and, when removed from the golf bag, the add-on pocket can be conveniently rolled or folded to an even more compact condition.」(第3欄第22?40行目)
(図1、2、及び3に示す空の状態では、ポケットは、背面半生地6がゴルフバッグに面する状態でゴルフバッグBの外面に対して実質的に平らに載っている。ポケットの内部へのアクセスは、前面生地3のジッパーを開けることにより簡便に行うことができ。折り目7以外は露出していないプリーツがポケットのサイドに存在する。しかし、背面のプリーツ構造は、ポケットの中央部の容量を、大幅に拡張する。例えばセーターやジャケットなどのかさばる物品も内部に入れて持ち運べる。ポケットの拡張状態は、図4、5、及び6に示されており、背面生地4は前面生地3より遠く離れ、半生地5及び6は展開される。一方、物品が除去されたとき、本発明に従った附属的ポケットは、図1、2及び3に示される平坦な状態に戻る。そして、ゴルフバッグから取り外した場合、附属的ポケットは、都合よく丸め又は折り畳んでよりコンパクトにすることができる。)

イ 甲4に記載された発明
上記記載事項(ア)?(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲4には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲4発明」という。)。

「ゴルフアクセサリー、衣類、又はその他の物品を保管するための、ゴルフバッグに取り付け可能なポーチ又はポケットであって、
ポーチ又はポケットの本体2は、柔軟な単一シートの素材、好ましくは耐候性ナイロンのような布の単一シートであって、その形状を保持しやすい十分な固さを備えた材料によって長方形に形成され、
その前部中央に、内部にアクセスするための長いジッパー10付きの開口部を有するとともに、その背面に折り畳まれたプリーツを有するものであって、
前記プリーツは、前面生地3と背面生地4の側縁部より後方かつ内側に折り曲げられた一体的なプリーツ生地により形成され、ポーチ又はポケットが空の状態では、背面生地4が前面生地3に対して実質的に平坦に配置されるように構成されており、
かさばる物品を内部に保持するときには、ポーチ又はポケットの容量が増大し、ポーチ又はポケットが空のときには、当該ポーチ又はポケットがゴルフバッグに対して平らになることができるようにした、
ポーチ又はポケット。」

2 無効理由1について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)要件1A
甲1発明の「ユーザの身体に固定することができるポーチ」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「物品を格納する着用可能なベルト」に相当する。

(イ)要件1B
甲1発明の「ポーチ10に貼り付けられ、前記ポーチ10をユーザの身体に解放可能に装着する細長いバンド28」であって、ポーチ10の「底部層の中心部分」に含まれる「バンド28」は、「細長い」部材であり、「長手方向の両端部」を有するものの、材料の弾性については不明であるから、本件発明1の「長手方向軸を有する第1の弾性材料」とは、「長手方向軸を有する材料」の限りで一致する。

(ウ)要件1C
甲1発明の「当該バンド28の長手方向の両端部を解放可能に接続するファスナ30」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「当該ベルトの両端部が解放可能に互いにつながり得るようにさせる第1のファスナ」に相当する。

(エ)要件1D
甲1発明の「ポーチ10」は、「織物又はたわみやすい材料」から作成されているものの、材料の弾性については不明であるから、本件発明1の「前記第1の弾性材料とは異なる1以上の弾性材料を有するポーチ」とは、「材料を有するポーチ」の限りで一致する。

(オ)要件1E
甲1発明の「閉鎖された空洞」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「内部体積」に相当し、以下同様に、「閉鎖された空洞を形成する…頂部層と底部層」は、「内部体積を封入する」「材料」に相当する。
また、甲1発明の「閉鎖された空洞を形成する織物又はたわみやすい材料の頂部層と底部層」は、その構成及び機能、並びに上記(エ)の対比からみて、本件発明1の「内部体積を封入する」「前記1以上の弾性材料」と、「内部体積を封入するための材料」である限りで一致する。

そうすると、「内部体積を封入するための材料」の折り畳みについて、
甲1発明の「該ポーチ10は…前記頂部層及び底部層が各々側面部分に平行してかつ側面部分の間に延在する中心部分を有し、前記側面部分たる第1の部分24及び第2の部分26が互いに重なる関係で、かつ頂部層の中心部分と底部層の中心部分の間で閉鎖された空洞の内側に折り畳まれ」は、
本件発明1の「該ポーチは、(i)内部体積を封入するよう、前記ベルトの背部において前記1以上の弾性材料を折り畳むこと」と、「該ポーチは、内部体積を封入するよう、材料を折り畳むこと」である限りで一致する。

これに対し、請求人は、本件発明1の「背部」が「少なくともポーチの前部ではないこと」を含んでいる概念であることを前提として、甲1発明の「第1の部分24及び第2の部分26」の折り畳みは、「ベルトの背部において」折り畳むものである旨主張する。
しかしながら、甲1発明の「第1の部分24及び第2の部分26」は、甲1発明のとおり、「頂部層及び底部層」の「側面部分」で構成されるものであって、ポーチ10の「背部」ではなく「側部」に相当する部分である。そうすると、該第1の部分24及び第2の部分26は、本件発明1の「ベルト」に相当する「ユーザの身体に固定することができるポーチ」の「背部において」折り畳まれるものではない。
また、本件発明1の「背部」の意味について、請求人が主張するように解釈することの根拠を本件特許明細書等に見出すことはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(カ)要件1F
甲1発明の「該ポーチ10は…頂部層の中心部分が前記閉鎖された空洞への侵入開口を含み」及び「前記ポーチ10が前記侵入開口を解放可能に閉鎖するファスナを備える」は、その構成及び機能からみて、本件発明1の「(ii)前記ポーチの前記内部体積を封入するよう、前記ポーチの前部の略中央に前記長手方向軸に平行に、第2のファスナを与えること」に相当する。

(キ)要件1G
甲1発明の「ポーチ10」は、上記(エ)のとおり、その材料の弾性については不明である。そうすると、甲1発明の「ファスナ」でもって、ポーチの弾性が制限されることにはならないから、甲1発明には、本件発明1の「(iii)該第2のファスナによって、前記長手方向軸に平行な方向に前記ポーチの弾性が制限されること」に相当するものはない。

上記(ア)?(キ)の対比を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、

「物品を格納する着用可能なベルトであって、
長手方向軸を有する材料と;
当該ベルトの両端部が解放可能に互いにつながり得るようにさせる第1のファスナと;
材料を有するポーチと;を有し、
該ポーチは、(i)内部体積を封入するよう、材料を折り畳むことと、
(ii)前記ポーチの内部体積を封入するよう、前記ポーチの前部の略中央に前記長手方向軸に平行に、第2のファスナを与えることと、
を特徴とする、着用可能なベルト。」

である点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点1)
長手方向軸を有する材料が、本件発明1は、「第1の弾性材料」であるのに対し、甲1発明は、弾性材料であるか否かが明らかでない点。

(相違点2)
ポーチが、本件発明1は、「第1の弾性材料とは異なる1以上の弾性材料を有する」のに対し、甲1発明は、織物又はたわみやすい材料ではあるものの、弾性材料であるか否かが明らかでない点。

(相違点3)
ポーチの内部体積を封入するための材料の折り畳みは、本件発明1は、「ベルトの背部において」なされているのに対し、甲1発明は、ポーチ10の側部である「第1の部分24及び第2の部分26」が互いに重なる関係で、かつ頂部層の中心部分と底部層の中心部分の間で閉鎖された空洞の内側に折り畳まれている点。

(相違点4)
ポーチの前部の略中央に長手方向軸に平行に設けられた第2のファスナが、本件発明1は、「長手方向軸に平行な方向にポーチの弾性が制限される」のに対し、甲1発明は、長手方向軸に平行な方向にポーチ10の弾性を制限するかどうか明らかでない点。

イ 小括
上記アのとおり、本件発明1と甲1発明とは、相違点1?4において相違するから、本件発明1は、甲1発明と同一の発明であるとはいえない。

(2)本件発明3?6、8、12、13及び15
本件発明3?6、8、12及び13は、本件発明1を引用するものであり、本件発明15は、本件発明1の発明特定事項を含む製造方法に係る発明であるから、上記(1)で示した理由と同様の理由により、本件発明3?6、8、12、13及び15は、甲1発明と同一の発明であるとはいえない。

(3)まとめ
以上によれば、本件発明1、3?6、8、12、13及び15は、甲1発明と同一の発明であるとはいえず、無効理由1によっては、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許を無効にすることはできない。

3 無効理由2について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は、上記2(1)アで示したとおりである。

イ 相違点2及び4についての判断
事案にかんがみ、まず、本件発明1の「ポーチの弾性」に係る相違点である、相違点2及び4を検討する。

(ア)甲2発明の袋部等の材料について
甲2発明は、袋部とベルト4にストレッチ素材を採用したウエストポーチであるから、一応、甲2の袋部を「弾性材料」とする点は、開示されているといえる。
しかしながら、甲2には、ベルト4のストレッチ素材と袋部のストレッチ素材が異なるとの記載も示唆もない。そうすると、甲2には、相違点2の構成が開示されているとはいえない。
また、甲2発明のファスナー15は、小物を出し入れするためのものであるものの、その材料については、甲2には記載も示唆もない。したがって、仮に、ファスナー15が袋部のストレッチ素材1及び2に設けられているとしても、該ストレッチ素材の弾性を制限するものであるか否かは明らかではない。
仮に、ファスナー15が金属製であって、それ自体、弾性を有していないとしても、該ファスナー15が袋部の前部の略中央に設けられたものであるか否かも、長手方向軸に平行な方向に袋部の弾性を制限するものであるか否かも明らかではない。
そうすると、相違点4の構成についても、甲2に開示されているとはいえない。

(イ)相違点2及び4の容易想到性について
上記(ア)のとおり、甲2には、相違点2及び4の構成が開示されていないから、仮に、甲2発明を甲1発明に適用したとしても、相違点2及び4の構成には到達しない。
また、相違点2及び4の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点2及び4を容易想到とすることはできない。

ウ 相違点3についての判断
次に、相違点3について検討する。

(ア)甲1発明の折り畳み構造について
甲1発明は、ポーチをコンパクトな構成とするために、ポーチ10の頂部層及び底部層の側面部分で構成される第1の部分24及び第2の部分26について、互いに重なる関係で、かつ頂部層と底部層の間で閉鎖された空洞の内側に折り畳むものである。
このような折り畳み構造としたのは、ポーチを人のウエストのみならず、手首や足首の周りに装着することを想定して、円形構成のバンドを前提としているために(記載事項(ク))、甲1発明では、ポーチ10をユーザの身体に装着するバンド28が底部層の中心部分に「含まれる」、すなわち「貼り付けられる」こととなり、バンド28を回避してポーチ10の折り畳み構造を構成する必要があるためである。つまり、甲1発明の折り畳み構造は、ポーチ10の底部層たる背部にバンド28が貼り付けられることを前提とした構造である。
そうすると、甲1に接した当業者は、ポーチ10の背部である底部層に折り畳み構造を設けようとはしないし、底部層にバンド28が貼り付けられる構造と底部層に設けられた折り畳み構造は、両立するものではないといえる。
したがって、甲1には、甲1発明を相違点3の構成とするような動機付けはなく、むしろ、甲1発明をかかる構成とすることに阻害要因がある。

(イ)甲2発明の袋部について
甲2発明の袋部は、ストレッチ素材1及び2の間の下部に小物を入れて巻き上げて包装するものであり、折り畳み構造を有するものではないから、本件発明1のポーチとは構成を全く異にするものである。
また、「巻き上げ包装」と「折り畳み」の構成の相違を除いても、甲2に、相違点3の構成が開示されているとはいえない。
すなわち、相違点3は、上記2(1)アのとおり、「ポーチの内部体積を封入するための材料の折り畳み」に関するものであるところ、甲2発明において、本件発明1の「内部体積」に相当するものは、ストレッチ素材1及び2の間の「下部」である。ストレッチ素材1及び2のうち、「下部」以外の部分が巻き上げ包装されることになるが、該巻き上げ包装される部分は、小物の収納空間を形成しておらず、「内部体積を封入するための材料」であるとはいえない。したがって、甲2の袋部は、「内部体積を封入するための材料」が折り畳まれることにはならない。

(ウ)甲3と甲4について
まず、相違点3に関して、甲3から認定できる技術事項は、下記4(1)ウ(ア)のとおり、ベルト14とのつなぎ換えを行う構成と、該つなぎ換えによりユーザ装着手段に対する収納部の位置関係を変更する構成を備えることで、収納部の一部である袋部12をユーザ装着手段の内側に折り返すようにし、パック全体の長手方向の長さの調節と収納容量の調節を行う、パックの収納部である(以下「甲3事項」という。)。
また、相違点3に関して、甲4から認定できる技術事項は、下記5(1)ウ(ア)のとおり、ゴルフバッグに取り付け可能なポーチ又ポケットであって、その本体の背面に折り畳まれたプリーツ構造を備えることで、ポーチ又ポケットをコンパクトな構成とするものである(以下「甲4事項」という。)。
このように、甲3事項及び甲4事項は、収納部の一部を折ることによって、収納容量を変更するポーチという点では共通する。しかしながら、甲3事項は、袋部12を「折り返す(folded back)」ものではあっても、袋部12にプリーツ構造を設けるもの、すなわち、袋部12を「折り畳む」ものとまではいえない。そうすると、甲3及び甲4から、「収納部の一部を折ることによって、収納容量を変更するポーチ」が周知技術であるとはいえるが、請求人が主張するように、「ベルトの背部においてポーチを折り畳む技術」なる周知技術を認定することはできない。

(エ)相違点3の容易想到性について
上記(ア)のとおり、甲1には、甲1発明を相違点3の構成とする動機はなく、むしろ阻害要因がある。そうすると、甲1発明に、甲2発明、甲3事項及び甲4事項を組み合わせることはできない。また、甲3事項を甲1発明に組み合わせることができないのは、下記4(1)ウ(イ)にも示しているとおりである。
また、上記(イ)のとおり、甲2発明の袋部は、本件発明1のポーチとは構成を全く異にするものであり、また、上記(ウ)のとおり、甲3及び甲4から認定できるのは、それぞれ甲3事項及び甲4事項である。そうすると、少なくとも、甲1発明に甲2発明及び甲3事項を組み合わせることで、相違点3の構成に到達することはない。
さらに、請求人が主張する「ベルトの背部においてポーチを折り畳む技術」なる周知技術を認定することはできず、甲1発明に、甲2発明並びに甲3及び甲4に例示される「収納部の一部を折ることによって、収納容量を変更するポーチ」という周知技術を組み合わせても、本件発明1には至らない。
また、相違点3の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点3を容易想到とすることはできない。

エ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明並びに甲3及び甲4に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?15
本件発明2?14は、本件発明1を引用するものであり、本件発明15は、本件発明1の発明特定事項を含む製造方法に係る発明であるから、上記(1)で示した理由と同様の理由により、本件発明2?15は、甲1発明及び甲2発明並びに甲3及び甲4に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
よって、無効理由2によっては、本件発明1?15に係る特許を無効にすることはできない。

4 無効理由3について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は、上記2(1)アで示したとおりである。

イ 相違点2及び4についての判断
無効理由2と同様に、まず、本件発明1の「ポーチの弾性」に係る相違点である、相違点2及び4を検討する。

(ア)甲3発明のポーチ11等の材料について
甲3発明のポーチ11及び袋部12の材料は、たわみやすい材料からなるものであるところ、その弾性については、甲3には記載も示唆もないから、不明である。そうすると、甲3には、相違点2の構成が開示されているとはいえない。
また、甲3発明のジッパー16及び20は、図1及び2で示された形態や技術常識に照らして、金属製であって、それ自体、弾性を有していないとしても、ポーチ11及び袋部12が弾性材料からなるのか否か不明であるから、ポーチ11及び袋部12の弾性を制限するものであるか否かは明らかではない。さらに、甲3発明のジッパー16及び20は、ポーチ11及び袋部12の上縁部に設けられたものであって、ポーチ11及び袋部12の前部の略中央に設けられたものでもない。
そうすると、相違点4の構成についても、甲3に開示されているとはいえない。

(イ)相違点2及び4の容易想到性について
上記(ア)のとおり、甲3には、相違点2及び4の構成が開示されていないから、仮に、甲3発明を甲1発明に適用したとしても、相違点2及び4の構成には到達しない。
また、相違点2及び4の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点2及び4を容易想到とすることはできない。

ウ 相違点3についての判断
次に、相違点3について検討する。

(ア)甲3発明の収納部について
甲3発明は、その収納部として、ポーチ11及び袋部12を有するものである。甲3発明の収納部は、「ユーザのウエスト回りあるいは肩の上に装着される、限られた大きさでの保持あるいは相当な大きさでの保持の2つの目的を兼ね」るという課題を解決するために、特徴的な構成及び機能を有している。
すなわち、甲3発明においては、まず、袋部12を折り返して使用する場合、ベルト14の雌バックル25をポーチ11の雄バックル18と係合することで、ポーチ11がベルト14とともにユーザ装着手段として機能し、袋部12がベルト14の長手方向と略直交する線で折り返されて、この袋部12が該ユーザ装着手段の内側に位置することになる。この場合、パック全体の長手方向の長さは、大凡、ベルト14とポーチ11の長手方向の長さを足した限られたものとなり、また、パック全体の収納容量は、ポーチ11の収納部の分だけで限られたものとなる。このようにして、「ウエスト回りの装着」と「限られた大きさでの保持」を実現する。
これに対して、袋部12をフラットにして使用する場合、ベルト14の雌バックル25を袋部12の雄バックル23と係合することで、袋部12が該ユーザ装着手段として機能し、袋部12のうちポーチ11に取り付けられていない該自由になっている部分の長さだけ、パック全体の長手方向の長さが長くなる。また、該ユーザ装着手段の外側に袋部12の収納部が位置することで、袋部12の収納部の分だけ、パック全体の収納容量が増大する。このようにして、「肩の上の装着」と「相当な大きさでの保持」を実現する。
言い換えれば、甲3発明の収納部は、ベルト14とのつなぎ換えを行う構成と、該つなぎ換えによりユーザ装着手段に対する収納部の位置関係を変更する構成を備えることで、収納部の一部である袋部12をユーザ装着手段の内側に折り返すようにし、パック全体の長手方向の長さの調節と収納容量の調節を行うものである。
このように、甲3発明の収納部は、本件発明1のポーチとは構成も機能も全く異なるものである。

(イ)相違点3の容易想到性について
上記3(1)ウ(ア)のとおり、甲1発明は、ポーチ10の底部層たる背部にバンド28が貼り付けられることを前提とした折り畳み構造を有するものである。このように、甲1発明には、ポーチ10とバンド28とのつなぎ換えを行う構成はなく、バンド28のつなぎ換えにより、バンド28に対するポーチ10の位置関係を変更する構成もない。そうすると、甲1発明に甲3発明の収納部を組み合わせることはできない。
仮に、組み合わせることができたとしても、上記(ア)のとおり、甲3発明の収納部は、本件発明1のポーチとは相違点3に係る構成が全く異なるものであるから、相違点3の構成に到達しないのは明らかである。
また、相違点3の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点3を容易想到とすることはできない。

請求人は、甲3には、袋部12を「ベルトの背部において」折り畳む点が開示されているから、甲1のポーチ10に適用して相違点3の構成とすることは容易である旨主張している。
しかしながら、甲3の袋部12を甲1のポーチ10に適用して到達する構成は、甲1のポーチ10と甲3の袋部12の各々に、甲1のバンド28を解放可能に係合する手段を設けるとともに、ポーチ10の底面層に袋部12を折り返されるように取り付けるものであって、バンド28のつなぎ換えを行うことで、ポーチ10の底面層において、袋部12を折り返す使用態様と袋部12をフラットにする使用態様との両方を実現する構成である。
そして、かかる構成が相違点3の構成と同じものではないのは、明らかである。したがって、請求人の上記主張は採用できない。

エ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3?6、8、12、13及び15
本件発明3?6、8、12、13は、本件発明1を引用するものであり、本件発明15は、本件発明1の発明特定事項を含む製造方法に係る発明であるから、上記(1)で示した理由と同様の理由により、本件発明3?6、8、12、13及び15は、甲1発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
よって、無効理由3によっては、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許を無効にすることはできない。

5 無効理由4について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は、上記2(1)アで示したとおりである。

イ 相違点2及び4についての判断
無効理由2及び3と同様に、まず、本件発明1の「ポーチの弾性」に係る相違点である、相違点2及び4を検討する。

(ア)甲4発明のポーチ又はポケットの材料について
甲4発明のポーチ又はポケットの材料は、「柔軟な単一シートの素材、好ましくは耐候性ナイロンのような布」であるところ、甲4には、かかる材料が弾性材料である旨の明示的な記載はない。
この点、ポーチ又はポケットの拡張について、甲4には「背面のプリーツ構造は、ポケットの中央部の容量を、大幅に拡張する。…ポケットの拡張状態は…背面生地4は前面生地3より遠く離れ、半生地5及び6は展開される」(記載事項(カ))と記載されているとおり、ポーチ又はポケットの拡張は、その材料の伸びによるのではなく、プリーツ構造の展開によるものであることが理解できる。
また、拡張したポーチ又はポケットが平らな形状へ復帰することについては、甲4に、「ポケットの本体は、その形状を保持しやすい十分な固さを備えた柔軟な布の単一シートで形成される」(記載事項(イ))、「折り目から、半生地5は…ポケットが空の状態のとき…ポケットのほぼセンターライン方向へ、内側へ向かってのびており」(記載事項(エ))及び「一方、物品が除去されたとき、本発明に従った附属的ポケットは、図1、2及び3に示される平坦な状態に戻る」(記載事項(カ))と記載されていることからみて、平らな形状への復帰は、伸びたポーチ材料の収縮によるものではなく、折り目を備えたプリーツ構造によって、空のときに平らになるように形状が保持されたポーチ又はポケットについて、その形状保持の性質によるものであることが理解できる。
さらに、甲4発明は、ゴルフバッグに取り付け可能なポーチであり、ユーザの身体に着用可能なベルトである本件発明1のように、ポーチに格納された物品をポーチの伸縮性を利用して、しっかりと保持する課題はない。つまり、甲4発明のようなゴルフバッグのポーチは、ユーザの身体に着用するウエストポーチとは求められる機能が異なるのであり、ポーチ内部に保管されたゴルフアクセサリー等の物品をしっかりと保持するような課題を内在したものであるとはいえない。
そうすると、甲4は、ポーチを弾性材料で形成することを示唆するものではない。

これに対し、請求人は、甲4の「柔軟な単一シートの素材」は弾性材料である、「ナイロン」が弾性材料である以上(甲12)、「ナイロンのような布」で形成された甲4のポーチは、弾性材料で形成されているなどと主張する。
しかしながら、甲4の「柔軟な単一シートの素材」が直ちに弾性材料であることにはならず、また、甲12によって「ナイロン繊維」が弾力性の富んだ材料であることが示されているからといって、織物である布の「ナイロン」が直ちに弾性材料であることにもならない。
むしろ、上記のとおり、甲4発明がポーチ内部に保管された物品をしっかりと保持するような課題を内在したものではないことに加えて、甲4の「柔軟な単一シートの素材」が「形状を保持しやすい十分な固さを備えた」材料であることに照らすと、甲4の「柔軟な単一シートの素材」や「ナイロン」が、課題とも関連せず、また「形状保持」の性質とも整合しない、弾性材料であると解することはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(イ)相違点2及び4の容易想到性について
上記(ア)のとおり、甲4には、ポーチを弾性材料で形成することの明示的な記載も示唆もないから、甲4は、相違点2の構成を開示するものでないことは明らかである。
また、甲4発明のポーチ又はポケットの本体2が、その前部中央に内部にアクセスするための長いジッパー10付きの開口部を有することから、かかる構造が「第2のファスナ」を備えたポーチと類似するとしても、甲4には、ポーチを弾性材料で形成することの開示はないのであるから、甲4のジッパー10により、長手方向に平行な方向にポーチ1の弾性が制限されることにはならない。したがって、甲4は、相違点4の構成も開示しない。
このように、甲4には、相違点2及び4の構成は開示されていないのであるから、仮に甲1発明に甲4発明を組み合わせたとしても、相違点2及び4に到達することはできない。
また、相違点2及び4の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点2及び4を容易想到とすることはできない。

ウ 相違点3についての判断
次に、相違点3を検討する。

(ア)甲4発明の折り畳み構造について
甲4発明は、上記1(4)イで示したとおり、下記a?cの点を備えるものである。
a ポーチ又はポケットの本体2は、その背面に折り畳まれたプリーツを有するものであって、
b プリーツは、前面生地3と背面生地4の側縁部より後方かつ内側に折り曲げられた一体的なプリーツ生地により形成され、ポーチ又はポケットが空の状態では、背面生地4が前面生地3に対して実質的に平坦に配置されるように構成されており、
c かさばる物品を内部に保持するときには、ポーチ又はポケットの容量が増大し、ポーチ又はポケットが空のときには、当該ポーチ又はポケットがゴルフバッグに対して平らになることができる
そうすると、甲4発明は、一応、相違点3の本件発明1に係る構成と類似する構造を含むものといえる。

(イ)相違点3の容易想到性について
甲1には、甲1発明を相違点3の構成とする動機はなく、むしろ阻害要因があることは、上記3(1)ウ(ア)で示したとおりであるから、甲4発明が相違点3の構成と類似する構造を含むとしても、甲1及び甲4に接した当業者は、甲1発明のポーチ10の背部たる底部層に、甲4発明の「背面に折り畳まれたプリーツ」構造を設けようとはしないし、当該構造を設けることと甲1発明の底部層にバンド28が貼り付けられる構造とは両立ができないから、甲4発明を甲1発明に適用することは阻害されているといえる。
したがって、甲4発明を甲1発明に適用することは、容易であるとはいえない。
また、相違点3の構成について、設計事項であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点3を容易想到とすることはできない。

エ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3?6、8、12、13及び15
本件発明3?6、8、12、13は、本件発明1を引用するものであり、本件発明15は、本件発明1の発明特定事項を含む製造方法に係る発明であるから、上記(1)で示した理由と同様の理由により、本件発明3?6、8、12、13及び15は、甲1発明及び甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
よって、無効理由4によっては、本件発明1、3?6、8、12、13及び15に係る特許を無効にすることはできない。

6 無効理由6について
(1)前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号で規定するサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号)。

(2)本件特許明細書等の発明の詳細な説明
本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は理解の便のため、当審にて付したものである。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の実施例は、格納される物品のいずれか及び全てにアクセスするよう望ましくは単一の開口を有する拡張可能なポケットデザインを備えるベルトを与えることによって、物品に対するアクセスに関する問題を解決する。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
前述において、以下の本発明の詳細の説明がよりよく理解され得るよう、本発明の実施例の特性及び技術的利点を広く概説している。本発明の更なる特性及び利点は、以下において説明される。当業者は、同等の構造が添付の請求項に記載される本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない、ことを理解するべきである。」

ウ 「【0018】
本発明の望ましい実施例において、ポーチは、可撓性/弾性ベルトによって適所に保持されるか、あるいは、メインウエストストラップは、典型的にはユーザのウエストの周囲であるユーザの周囲にぴったりと適合する(fits snuggly)。ポーチは望ましくは、ベルトの構造の一部を形成する。…」

エ 「【0019】
…十分な寸法を有する物体がポーチに配置されるとき、ポーチのファブリックは、物品を保持するよう伸張する。伸張されるポーチによってポーチ内部における物品に与えられる横断方向張力は、物品をポーチにおいてぴったりと保持する役割を有し、物品が跳ね回ること及び身体的活動中に着用者の注意をそらすことを防ぐ。ポーチの弾性及びポーチの寸法は、ポーチ内に包含されるべき物品の寸法等である意図される使用、及び着用者の意図される活動に依存して変わり得る。…」

オ 「【0020】
本発明の実施例は、先行技術によるウエストポーチの問題の多くを解決する。多くの先行技術のウエストポーチは、ポーチ内における体積が大きすぎる。この結果として、ポーチは着用するにはかさばり、着用者による激しい身体的活動中に跳ねたり動いたりする。大きなポーチはまた、1つ又は2つのみの比較的小さな物品を保持/格納するには邪魔である。小さなポーチを有するウエストポーチは、これらの問題を排除するが、他の明らかな欠点を有する。即ち、かかるウエストポーチは、複数及び/又はより大きな物品を保持しないのである。弾性材料から作られるポーチも既知であるが、かかるポーチが従来通り担持ベルトからつり下がる場合、該ポーチはまた、身体的活動中に跳ね回る。ベルトへと一体にされたポーチは、身体的活動中に跳ねないが、かかるポーチは、ベルトがぴったりと適合することを防ぐため、典型的には弾性又は拡張可能ではない。」

カ 「【0021】
しかしながら、本発明の設計は、ベルトに一体にされると同時に拡張可能であるポーチを与え、更に着用者の身体の周囲におけるぴったりとした適合を与える。これは、従来技術におけるようにコンパートメントを作るよう共に縫われた複数片の材料を使用することよりも、ポーチを作るよう一個構成のファブリックを使用する新規性のある設計を有して達成される。以下に記載される非対称的弾性ファブリック及び/又はジッパーファスナ設計の使用により、ポーチは、横断方向には伸張し得るが、ベルトの長手方向軸に沿って伸張し得ない。これによってポーチは、使用中に着用者の身体に対してぴったりと留まり得、しっかりと小さな物体を保持し得、また、より大きな物体を保持するよう拡張し得る。更に、これは、経済的且つ容易に作られる設計を有して達成される。」

キ 「【0023】
本発明の望ましい一実施例は、図1(前面/立面図)及び図2(背面/立面図)において示される。本発明の望ましい実施例は、単一片のシームレスのポーチ材料11を有して作られる単一ポーチ10を有する。また図4,7及び9を参照すると、ポーチ材料11は、望ましくは可撓性のファブリック材料であり、該材料は、力が材料に加えられないときに三次元構造を保持しない。即ち、ポーチに物品がない場合、ポーチは、平らになり、それ自体の上に潰れ、特定の形状を保持しない(しかし、材料は、ポーチが空のときには重なる形状においてファブリックを折り畳むよう、以下に記載される通りプリーツを使用してベルトに対して固定され得る)。半径方向拡張の望ましい方向はない。即ち、物品がポーチにいれられるとき、ポーチ内部は、物品を保持するよう拡張し、非選択的に(non-preferentially)全ての横断方向(即ち、ベルト軸に対して実質的に垂直の方向)において拡張する。材料は望ましくは、柔らかく、革や硬質プラスチックパックにおいて見られるような硬い角部を有さない。」

ク 「【0024】
ポーチ材料11は望ましくは、弾性/拡張可能ファブリック又はポリエステル等である他の材料を有し、空で伸張されていないときには、ポーチを担持する弾性ベルト20と望ましくは略同一の幅であり、実施例を僅かな物品のみを携行する個人にとって理想的なものとする。…」

ケ 「【0026】
ポーチ自体は、1つのシームレス片材料から容易に構成され得る。例えば、一般的に矩形のファブリック片は、内部体積を封入するよう折り重ねられる(そのため、上方エッジは下方エッジまでもたらされる)。当業者は、異なる形状のファブリック片が同一の目的を達成するよう使用され得る、ことを認識する。…」

コ 「【0035】
ポーチの弾性はまた、ジッパー又は同様のファスナ等である伸縮不可能なシーム又はサポートをポーチの前部へと組み込むことによって、長手方向に制限され得る。図1(以下により詳細に記載される)に示される通り、ジッパーテープ17(ジッパーの歯18の外側の補強材料)は、ベルト20の端部に対して取り付けられる。望ましくは、取り付けは、ポーチの内側における縫付け(図示せず)によるものである。ジッパーテープ17が長手方向において実質的に弾性ではないため、ベルト20の適合は、ぴったりしたものとなり、ポーチ材料11が伸縮する際に緩まない。…」

サ 「【0037】
本発明の望ましい一実施例において、ポーチ10を形成する材料11はまた、ポーチのより大きな拡張性能を可能にするようプリーツを付けられ得る。例えば、図4,5,6及び7において示されるポーチの背部において使用されるプリーツ12は、更なるファブリック又は他の材料がポーチに対して使用されるようにする一方、依然として空のときには小さな寸法までポーチが圧縮し得るか、あるいは潰れ得るようにする。…」

シ 「【0038】
…更には、比較的小型なポーチの寸法及び物品をしっかりと保持する引張力(弾性材料によって加えられる)は、本発明のポーチを、従来技術において既知であるポーチと比較して、身体的活動中のユーザにとって大幅に邪魔なもの及び/又は干渉するものではないようにする。」

ス 「【0039】
ポーチは、典型的にはユーザのウエストの周囲であるユーザの周囲にぴったりと適合する可撓性/弾性ベルト又はメインウエストストラップによって適所に保持される。ぴったりとした適合を維持する一方でユーザの動作を可能にするために、ベルトは、望ましくは長手方向に拡張する長手方向に弾性的な材料を有して作られ、ユーザにおいてぴったりとベルトを保持するよう張力を有して収縮する(contracts in tension)。メインウエストストラップは、望ましくは、サスペンダストラップ、ストレッチウエストバンド等において使用される通気性のあるナイロンストレッチ材料等の伸縮性のある/柔らかい材料から作られるが、多くの他の材料が使用されてもよい(ストラップへと適切に形成/切断され得る材料は、明らかに使用され得る)。」

セ 「【0040】
図1及び2中の実施例において、雄バックル22及び雌バックル23は、ともに取り付けられるとき、着用者の身体の周囲においてベルト20の右側部分及び左側部分をともに保持する。…」

ソ 「【0042】
図1及び2中の実施例において、ベルト20は、2つの長さの弾性材料を有し、一方は、トリグライド24及び雄バックル22における調整ループをくぐり(threaded through)、他方は雌バックル23に対して取り付けられる。…」

タ 「【0044】
弾性ベルト20は、適切な手段を使用してポーチ10に対して取り付けられ得る。…上述された通り、ベルト20の端部に対して比較的非弾性的ジッパー16を縫い付けることはまた、ポーチの長手方向弾性を制限する役割を有する。」

チ 「【0045】
図4は、本発明の望ましい一実施例に従った空であるプリーツ付きのポーチ10の背部(着用者の身体に向かう側)を示す。プリーツ12は、ポーチ材料11において形成され、ポーチ10がより大きな拡張性を有し得るようにする一方、依然として空のときには小さな形状を保持する。…」

ツ 「【0047】
望ましくは、図1に示される通り、ポーチ10の前部は、プリーツ12を有さず、平らなママである。図2に示される通り、プリーツ12を作るようポーチ10の背部が層状にされ、重ねられ、あるいは「縮められる(“pinched-in”)」とき、より審美的に好ましい外観にするために、重なりは望ましくは、図4中に示される通りベルトの背部において発生するのみである。」

(3)検討
本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、上記(2)のとおり、本件発明1の構成がその実施例として記載されている。
なお、本件発明1の構成のうち「第1の弾性材料」は、発明の詳細な説明においては「可撓性/弾性ベルト」、「ベルト20」等と表現されており、以下同様に、「第1のファスナ」は「雄バックル22及び雌バックル23」等と、「1以上の弾性材料」は「ファブリック」、「弾性/拡張可能ファブリック」等と、「第2のファスナ」は「ジッパー」等と、それぞれ表現されている。

そして、当業者においては、本件発明1の構成を採用することにより、ポーチに格納された物品に対するアクセスの問題を解決すること、使用中又は激しい身体的活動中にも着用者の身体に対してぴったりとした適合を与えること、及び、小さな物体をしっかりと保持し、より大きな物体を保持するよう拡張でき、しかも邪魔にならないこと、等の本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。

これに対し、無効理由6に関する請求人の主張を善解すれば、本件発明1は「ポーチの各側部を密封するように封じ込める構成」(技術事項A)及び「ポーチの上部エッジ及び下部エッジを接合するように折り畳む構成」(技術事項B)を含まないから、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではない、という主張であると一応理解できる。
しかしながら、技術事項Aに関する「ポーチの各側部を密封するように封じ込める構成」と、技術事項Bに関する「ポーチの上部エッジ及び下部エッジを接合するように折り畳む構成」は、本件特許明細書等の記載に照らせば、共に、本件発明1の実施例の構成であると認められるところ、本件発明1が実施例の構成の一部を備えていないからといって、上記した本件発明1の課題を解決できないことにはならないから、請求人の上記主張は採用できない。

よって、本件発明1についての特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。また、本件発明2?15についての特許請求の範囲の記載も、本件発明1と同様に、サポート要件に適合する。

(4)まとめ
以上のとおり、無効理由6によっては、本件発明1?15係る特許を無効にすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件発明1?15に係る特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-30 
結審通知日 2016-06-02 
審決日 2016-06-14 
出願番号 特願2009-549701(P2009-549701)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (A45C)
P 1 113・ 537- Y (A45C)
P 1 113・ 121- Y (A45C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川上 佳  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 小宮 寛之
平瀬 知明
登録日 2012-02-24 
登録番号 特許第4929499号(P4929499)
発明の名称 拡張可能なポーチを有するベルト  
代理人 大貫 進介  
代理人 山本 真祐子  
復代理人 佐々木 定雄  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 伊東 忠重  
復代理人 鶴谷 裕二  
代理人 幸谷 泰造  

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