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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1320550
審判番号 不服2015-12364  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-30 
確定日 2016-10-13 
事件の表示 特願2012-248660「体性に由来する複数の細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日出願公開、特開2013- 59337〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年 6月25日に出願した特願2007-166893号(優先権主張番号:特願2006-176763号 優先日:平成18年6月27日 日本)の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成24年11月12日に新たな特許出願として分割したものであって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成26年 5月20日付け 拒絶理由通知書
平成26年 7月23日 意見書・手続補正書
平成26年11月19日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成27年 3月27日付け 拒絶査定
平成27年 6月30日 審判請求書・手続補正書


第2 本願発明の認定
この出願の請求項1に係る発明は、平成27年6月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法であって、
外毛根鞘細胞と間葉系細胞を含み、該間葉系細胞が未分化状態を保っている培養液を用意し、
該培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、
前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、
前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、
ことを含んでなる、方法。」

第3 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明の詳細な説明は、本願請求項1,4?6,9?12に記載された発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、及び、本願請求項1,4?6,9?12に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断
1.本願明細書の記載事項
ア.「【0006】
本発明は、複数種の分化した体性細胞を組み合わせ、培養することで、原始的な器官様をなし得る細胞塊を提供することを課題とする。」

イ.「【0009】
本発明により、複数種の体性細胞種をからなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の提供が可能となる。
【0010】
本発明でいう体性細胞とは、生体の各種器官を構成する細胞へと分化するに至った細胞をいい、未分化状態の幹細胞とは相反する細胞をいう。本発明においては、2以上の体性細胞を使用することを特徴とし、好ましくは、上皮系細胞系と間葉系細胞との組み合わせ、内皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせ、あるいは上皮系細胞と間葉系細胞と内皮系細胞と組み合わせなど、様々であってよい。」

ウ.「【0011】
本発明に係る細胞塊により形成し得る器官としては、特に限定されるものではないが、例えば毛包、肺、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、心臓、胆嚢、小腸、結腸、大腸、関節、骨、歯、血管、リンパ管、角膜、軟骨、嗅覚器官、聴覚器官、など、様々な器官が挙げられる。」

エ.「【0018】
本発明においては、上記複数の体性細胞の混合物にWntシグナル活性化剤を添加し、培養を行うことを特徴とする。Wntシグナルとは、β-カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。本シグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWnt3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。Wntシグナルはβ-カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。Wntシグナルがもつその未分化状態維持機能により、分化を抑制する目的でES細胞の培養の際に利用されてはいるが(例えば、Noburo Sato et al., Nature Medicine Vol.10, No.1, Jan. 2004)、体性細胞の培養におけるその利用及び効果については全く知られていない。」

オ.「【実施例】
【0026】
毛乳頭細胞
ヒト由来毛乳頭細胞はドナーより提供された頭皮組織より調製した。真皮組織を除去後、脂肪組織内に存在する毛包部位を実体顕微鏡下にてピンセットおよび眼科はさみを用いて採取した。採取した毛包は抗生剤入りの培養液内に移し、さらに同顕微鏡下にて毛乳頭細胞部位を目視にて分離採取した。分離した毛乳頭細胞は培地内にて10cm丸型ディッシュ(TRP社製)において、37℃、95%CO2下にて1週間以上培養し、後の実験に供した。使用した培地はAdvanced-DMEM(Invitrogen)、15%牛胎児由来血清、20ng/mlのbFGF、10ng/mlnoEGF、2mMのL-グルタミン、ペニシリン・ストレプトマイシン・アンフォテリシン混合液《100倍希釈》、3.5ul/500mlのβメルカプトエタノールである。細胞は適宜同じ条件下で継代培養した。継代の際には、0.5%トリプシン/EDTA溶液にて細胞剥離を行い、細胞を新たなディッシュに移し入れ、同じ組成の新鮮培地で継代培養を行った。
【0027】
BIO(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1?5μMとなるように添加した。」

カ.「【0030】
ハンギングドロップ培養
培地構成
Advanced-DMEM(Invitrogen社)30%、2mMのL-グルタミン、ペニシリン・ストレプトマイシン混合液(Invitrogen社)(100倍希釈)3.5μl/500mlのβメルカプトエタノールとHumediaKG-2(クラボウ社)を1:1にて混合した。Bio(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1?5μMとなるように添加した。
【0031】
作成方法
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)以上にてBio負荷有り又は無しで、表皮角化細胞についてはP3以内の細胞を準備した。各細胞が1×105個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。Bio(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1?5μMとなるように添加した。10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25?35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。3日後、上記で使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。さらに4日間培養後、一部は下記のRT-PCR解析(1)へ供した。残りは、すべての培地をBio無しの条件にある培地へ交換した。3日目に同様な培地交換をおこない、7日目に生成した細胞塊を回収し、下記の免疫染色へ供した。」

キ.「【0051】
Wnt10B RT-PCR
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)にてBio負荷なしで、外毛根鞘細胞についてはP3以内の細胞を準備した。 各細胞が3×103個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。 Bio(Calbiochem社)は、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1?5μMとなるように添加した。10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25?35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。
【0052】
3日後、上記にて使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。7日後にサンプルを回収し、下記のとおりのRT-PCR解析(3)に供した(図9の「7日」)。さらに残りの同様の細胞については培地をBio無しの培地へ交換して分化誘導させ、10日後と14日後に回収したサンプルを同様に下記のとおりのRT-PCR解析(3)に供した(図9の「10日」および「14日」)。
【0053】
RT-PCR解析(3)
サンプルからTRIZOL(Invitrogen)を用い、RNAを抽出した。各RNA200ng相当をRevTraACE(TOYOBO)50μlの反応系にてcDNAへ逆転写した。得られたサンプル4μlを下記のプライマーを用い、20μlの系で定量PCR(LightCycler system、Roche)にかけた。LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I(Roche)の反応プロトコール[95℃、10sec;63℃、10sec;72℃、15secを40サイクル]を用いた。
Sense Primer(順鎖) gaagttctctcgggatttcttggatcc (配列番号15)
Anti-Sense Primer(逆鎖) cggttgtgggtatcaatgaagatgg(配列番号16)
【0054】
その結果を図9に示す。データはすべて、細胞塊においてBIOを負荷させていない場合の3日後の発現量に対する相対的な発現量として表した。Wnt10Bは毛包の形態形成期と発毛期において、主に上皮系細胞により発現され、上皮系細胞-間葉系細胞の相互作用に関与する遺伝子であることが知られている。図に示すとおり、BIOの存在下で培養することによりWntシグナルを活性化せしめた細胞においては、BIOの存在下で培養する限りはWnt10Bの発現は、BIOの非存在下で培養したコントロールと同程度しか認められなかったのに対し、その後BIOを取り除くことで細胞の分化を誘導せしめた細胞では、Wnt10Bの発現が、経時的に高まった。よって、本実験系では、BIOの存在下で培養後、BIOを除いて培養することで、毛包上皮系細胞(外毛根鞘細胞)の分化、さらには自律的な器官形成が誘導されることが明らかとなった。」

2.判断
請求項1、及び第4 1.ア.等の記載からみて、本願発明の解決しようとする課題は、複数種の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊を製造できる方法を提供することにあると認められる。
そして、本願明細書には、上記第4 1.ウ.のとおり、該細胞塊により形成し得る器官について、「例えば毛包、肺、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、心臓、胆嚢、小腸、結腸、大腸、関節、骨、歯、血管、リンパ管、角膜、軟骨、嗅覚器官、聴覚器官、など、様々な器官」が例示されている。
一方、本願明細書の実施例には、上記第4 1.オ.?キ.のとおり、複数種の体性細胞種として外毛根鞘細胞と毛乳頭細胞を組み合わせて、Wntシグナル活性化剤としてBIOを用いた場合に自立的な器官が形成されており、間葉系細胞が毛乳頭細胞であり、原始的な器官様をなし得る細胞塊における器官が毛包である場合については、上記課題が解決できることを当業者が認識できる程度に記載されていると認められる。
しかしながら、一般に、上皮、神経系細胞を除く、ほとんどの細胞が間葉系細胞に属するといえるほど、間葉系細胞には非常に多くの種類が含まれることが当業者によく知られている(例えば、山元寅男,間葉系細胞の発生・分化,日本網内系学会会誌,1989年12月,Vol.29,No.4,pp.277-284参照)。
また、Wntシグナルは、本願の原出願前に哺乳動物において19種のWnt遺伝子が同定されており、単一なシグナル経路でないことも公知である(例えば、Int.J.Mol.Med,2005,15(3),pp.527-531[PubMed:15702249]Abstract参照)。
そして、本願発明は、多くの種類の間葉系細胞と外毛根鞘細胞の組み合わせから、上記のような様々な器官となる細胞塊を製造する方法を包含していると認められるが、複数存在するWntシグナルのどの経路を活性化すれば、どのような細胞や器官が得られるかについての技術常識が存在するとは認められないから、間葉系細胞が毛乳頭細胞以外の任意の細胞である場合に、任意の原始的な器官様をなし得る細胞塊を形成することを当業者が合理的に理解できるとは認められない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明及び技術常識等により、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える発明が記載されていると認められる。
よって、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成27年6月30日付け審判請求書において、「本願発明は特許されるべきものである。」と主張するのみで、具体的な根拠及び理由を何ら述べておらず、本願発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことは上記第4 2.のとおりであるから、審判請求人の主張は認められない。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の理由について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-12 
結審通知日 2016-08-16 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2012-248660(P2012-248660)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 幸田 俊希伊達 利奈田村 聖子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 佐々木 秀次
松田 芳子
発明の名称 体性に由来する複数の細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊  
代理人 武居 良太郎  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  

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