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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1320592
審判番号 不服2014-7045  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-16 
確定日 2016-10-12 
事件の表示 特願2008-223363「プロセス監視システム、プロセス監視方法およびデータ伝送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年3月26日出願公開、特開2009-64438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成20年9月1日(パリ条約による優先権主張、2007年9月6日、米国)を出願日とする出願であって、
平成23年9月1日付けで審査請求がなされ、
平成24年11月29日付けで拒絶理由通知(同年12月4日発送)がなされ、
これに対して平成25年6月3日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
同年12月12日付けで上記平成24年11月29日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1?3(各々特許法第29条第2項、同法第36条第6項第1号、同法同条同項第2号)によって拒絶査定(同年同月17日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。この出願の発明は特許をすべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年4月16日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされた。
これに対して同年6月9日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、
平成27年3月31日付けで上申書が提出され、
その後、当審合議体より同年4月23日付け拒絶理由通知(同年同月28日発送)がなされ、
これに対して同年7月28日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
同年9月16日付けで当審合議体より審尋がなされ、
これに対して平成28年1月4日付けで回答書が提出され、
同年3月14日付けで、上記回答書の補足として上申書が提出されたものである。


第2 本願発明の認定
1.特許請求の範囲に記載された事項
本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年7月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のものである。

(本願発明)
「ワイヤレス通信ネットワークと、
前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続された第1の装置に設けられている監視アプリケーションと、
前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続されたプロセスコントローラと、
前記プロセスコントローラに接続されたフィールド装置と、
を備えるプロセスを監視するためのシステムであり、
前記フィールド装置は、
監視対象となっている監視対象パラメータ用に一連の値を取得し、
前記監視対象パラメータがアナログの測定値を表す場合に、前記監視対象となっている監視対象パラメータの値を示す信号が前記監視アプリケーションに前回伝送された前記監視対象パラメータの前回の値に対して前記監視対象パラメータの新規値の差の絶対値を計算し、
前記差の絶対値を予め定められた閾値と比較して、
前記監視対象パラメータの新規値を示すさらなる監視対象パラメータの値を示す信号を、前記差の絶対値が前記予め定められた閾値を越えた場合に前記ワイヤレス通信ネットワークを介して前記監視アプリケーションに伝送し、
前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合、1つの離散状態から他の離散状態へ変化した場合に、前記予め定められた閾値を超えたとみなされる
ことを特徴とするシステム。」

2.本願発明に関する審尋の経緯
2-1 審尋事項
上記請求項1の記載に対して、平成27年9月16日付けで当審合議体がした審尋事項は以下のとおりである。

問1.特許請求の範囲に追加された「前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合、1つの離散状態から他の離散状態へ変化した場合に、前記予め定められた閾値を超えたとみなされる」の根拠箇所はどこか

問2-1.「アナログの測定値」、「離散的な測定値」により示そうとする内容はなにか

問2-2.「前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合、1つの離散状態から他の離散状態へ変化した場合に、前記予め定められた閾値を超えたとみなされる」と記載された処理は、現実にはどのような一連の処理を意味するのか

問3.平成27年7月28日付け意見書にある「(3)具体的相違点」とは、結局何を指すのか

2-2 請求人がなした回答
そして前記審尋事項に対し、請求人は、平成28年1月4日付け回答書、および、同年3月14日付け上申書にて回答した。当該回答内容を纏めると以下のとおりである。

回答1.
明細書段落0032である。

回答2-1.
「アナログ」、「離散的」とは、監視対象から取得する測定出力の形態を指すのではなく、監視アプリケーションへの伝送を行うか否かを判定するための信号の形態を特定するために導入した。
本件明細書に例示された一例である、測定値の取得時にサンプリング処理を施した例は、その後の判定に使用する信号が一定間隔で取得した離散値になるので、「離散的」な測定値を表す場合に属する。(いずれも回答書3.(3)、上申書2.より抜粋)

回答2-2.
補正案記載の「前記計算、前記比較、及び前記伝送を行う」ことを指す。(回答書より抜粋。)
(当審注:回答中の「前記」が指す対象を考慮し、整理すると、「前記監視対象パラメータがアナログの測定値を表す場合」で行うとされた一連の処理と全く同じと解すべきと思われる。)
前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合、1つの離散状態から他の離散状態へ変化したか否かを判断し、1つの離散状態から他の離散状態へ変化したと判断した場合に、前記監視対象パラメータの新規値を示すさらなる監視対象パラメータの値を示す信号を、前記ワイヤレス通信ネットワークを介して前記監視アプリケーションに伝送する、ということ。(上申書より抜粋)

回答3.
本願発明では、「前記監視対象パラメータがアナログの測定値を表す場合」と、「前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合」とを区別しているのに対して、引用文献1の発明では測定値がアナログの測定値なのか離散的な測定値なのかを区別していない点が相違する。(回答書(3)(a)、上申書共に共通)


第3 引用文献・引用発明の認定

本願の優先日前に頒布され、当審が上記平成27年4月23日付けの拒絶理由通知において引用した、特開2007-149073号公報(以下、「引用文献」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。)

A 「【0036】
図1の拡大ブロック30に示すように、コントローラ11はルーチン32および34で示す多数の単ループ制御ルーチンを含み、必要に応じて、制御ループ36で示す1つ以上の拡張制御ループを実装することができる。こういったループはそれぞれ一般的に、制御モジュールとよばれる。単ループ制御ルーチン32および34は、バルブなどのプロセス制御デバイス、温度トランスミッタおよび圧力トランスミッタなどの測定デバイスまたはプロセス制御システム10内のあらゆる他のデバイスに関連する適切なアナログ入力(AI)機能ブロックおよびアナログ出力(AO)機能ブロックそれぞれに接続する、単一入力/単一出力ファジーロジック制御ブロックおよび単一入力/単一出力PID制御ブロックを使用して、単ループ制御を実行するものとして示されている。拡張制御ループ36は、1つ以上のAI機能ブロックと通信可能に接続された入力と1つ以上のAO機能ブロックと通信可能に接続された出力を有する拡張制御ブロック38を含むものとして示されているが、拡張制御ブロック38の入力および出力をあらゆる他の望ましい機能ブロックまたは制御要素に接続して、他の種類の入力を受け取り他の種類の制御出力を与えることもできる。拡張制御ブロック38はあらゆる種類の多入力多出力制御方式を実装でき、モデル予測制御(MPC)ブロック、ニューラルネットワークモデリングもしくは制御ブロック、多変数ファジーロジック制御ブロック、リアルタイム最適化ブロックなどを構成するかまたは含むことができる。拡張制御ブロック38を含めた図1に示す機能ブロックは、コントローラ11によって実行できるし、或いはワークステーション13のうちの1つまたはフィールドデバイス19?22のうちの1つなどの、プロセス制御システムのあらゆる他の処理デバイスまたは制御要素に配置してこれによって実行することもできることが理解されるであろう。一例として、それぞれトランスミッタとバルブであるフィールドデバイス21および22が制御ルーチンを実施する制御要素に対応し、1つ以上の機能ブロックなどの制御ルーチンのパーツを実装するための処理コンポーネントおよび他のコンポーネントを含むことができる。より具体的にいうと、図示のように、フィールドデバイス21はアナログ入力ブロックに関連するロジックとデータを記憶するメモリ39Aを有してよく、フィールドデバイス22はアナログ出力(AO)ブロックと通信するPIDまたは他の制御ブロックに関連するロジックとデータを記憶するメモリ39Bを有するアクチュエータを含んでもよい。」

B 「【0038】
一般的にいうと開示の技術は、測定値をこのように高い率で送信するという課題に取り組む。例えば、また上述のように、測定に関する感知機能はセンサまたはトランスミッタの電源のうちそれほど多くを消費しないが、無線通信リンクを介した測定値の送信では、時間と共にかなりの電源を消費する可能性がある。Foundation(登録商標) Fieldbus制御方式のように測定と制御の実行を同期しても、制御がプロセス応答の4?10倍速くなるようにスケジューリングする従来のアプローチでは、データ送信の際の電力消費が大きすぎる可能性がある。したがって、トランスミッタの電力消費を減らすために、開示の技術は全般的に、測定値の通信の頻度を最小にするようにサポートする。
【0039】
そのために本開示物の一態様では、開示の技術は一般に、幾つかの条件を満たしたときに非周期的に新しい測定値を送信するように、プロセス制御システム10、コントローラ11、送信処理、そして他のフィールドデバイスを構成する。一実施形態では、新しい測定値はプロセス変数が所定の閾値(例えば、大きいと判定された量)よりも大きく変化したかどうかに基づいて送信される。より具体的には、新しい測定値と最近通信した測定値との差の大きさが特定の分解能(resolution)よりも大きい場合に、測定値を更新するようにトリガが生成されうる。」

C 「【0040】
他の場合では、(従来例のように)差が特定の分解能を超え、そして最近の通信からの時間が所定のリフレッシュ時間を越えたときに、新しい測定値が送信される。換言すると、プロセス変数(変量)(例えば、制御実行反復48と50との間のプロセス応答)の変化またはデフォルト時間(例えば、反復52と54との間で経過した時間)の経過によって、測定値の送信が生じる。プロセスがゆっくりと動いているのかまたは応答が早いのか(例えば、プロセス時定数によって示すように)に応じて、より頻度の高いまたは低い更新が適当となるため、測定値送信のリフレッシュ時間、即ちデフォルト時間は、制御ループ間で変動する。場合によっては、制御ループの調整の際に時定数に基づいて判定し、必要ならばその後に調整することもできる。いずれの場合でもデフォルト時間またはリフレッシュ時間は、測定値更新のない時間の後のインテグリティ(整合性)チェックまたはオーバーライドとして作用する。こういったチェックは、例えばプロセス変数を最終的に目標値へと導きやすくするのに有用である。
【0041】
その間、測定値の取得を担うトランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイスは、従来通りプロセス応答時間の4?10倍といったような任意の望ましい速度で測定値を周期的にサンプリングしている。開示の技術は次いで、サンプリングされた値がコントローラ11に送信されたかどうか判定する。」

D 「【0047】
トランスミッタ60?64はそれぞれ、プロセス変数(例えば、流量、圧力、温度またはレベル)を示すプロセス信号を、1つ以上の制御ループまたはルーチンで使用するためにコントローラ11に送信することができる。フィールドデバイス71などの他の無線デバイスもまたプロセス信号を無線で受信することができ、かつ/またはあらゆる他のプロセスパラメータを示す他の信号を送信するように構成することができる。一般的に、コントローラ11とフィールドデバイス71などの他の無線デバイスは、こういった無線通信、特にプロセス信号の受信のサポートのための多数の要素を含むことができる。」

E 「【背景技術】
【0003】
化学プロセス、石油プロセス、または他のプロセスで使用されるような分散プロセス制御システムまたは拡張可能なプロセス制御システムなどのプロセス制御システムは典型的に、アナログ、デジタル、またはアナログ/デジタルの複合バスによって、互いに、少なくとも1つのホストもしくはオペレータワークステーションに、そして1つ以上のフィールドデバイスに通信できるように連結される、1つ以上のプロセスコントローラを含む。例えばバルブ、バルブポジショナ、スイッチ、トランスミッタ(例えば、温度センサ、圧力センサ、流量センサ)であるフィールドデバイスは、プロセス内でバルブの開閉やプロセスパラメータの測定などの機能を実行する。プロセスコントローラは、フィールドデバイスが測定したプロセス測定値を示す信号および/またはフィールドデバイスに関する他の情報を受け取り、この情報を使用して制御ルーチンを実施し、制御信号を生成する。この制御信号はバスによってフィールドデバイスに送られてプロセスの動作を制御する。フィールドデバイスやコントローラからの情報は典型的に、オペレータがプロセスの現在の状態を見たりプロセスの動作を変更したりするなど、プロセスに対してあらゆる望ましい機能を実行できるように、オペレータワークステーションによって実行される1つ以上のアプリケーションで利用可能である。」

上記摘記事項A?Dより、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「無線通信リンクと、
無線送受信可能とされるコントローラ11と、
無線送信できるトランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64と
を備えるシステム10であって、
前記トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64は、プロセス変数の測定値を周期的にサンプリングし、
新しい測定値と最近通信した測定値との差の大きさが、所定の閾値、あるいは、特定の分解能(resolution)よりも大きい場合に、測定値を更新するようにトリガが生成され、コントローラ11に送信される
システム10。」


第4 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「無線通信リンク」は、本願発明の「ワイヤレス通信ネットワーク」に相当する。
また、引用発明の「プロセス変数の測定値を周期的にサンプリング」するとされた「トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64」は、本願明細書で監視の対象とされているものが、「プロセス」であり(発明の名称を参照)、「プロセス内の計測信号を監視」(【0014】)や、「フィールド装置により監視されたプロセス計測値などの」(【0014】)とされていることを考慮すると、本願発明の「監視対象となっている監視対象パラメータ用に一連の値を取得」するとされた「フィールド装置」に、相当する。
更に当該引用発明の「トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス」が行う処理とされる、「新しい測定値と最近通信した測定値との差の大きさが、所定の閾値」「よりも大きい場合に、測定値を更新するようにトリガが生成され、」「送信される」と、本願発明で前記のとおり相当するとされた「フィールド装置」が行う処理とされた、「前記監視対象となっている監視対象パラメータの値を示す信号が前記監視アプリケーションに前回伝送された前記監視対象パラメータの前回の値に対して前記監視対象パラメータの新規値の差の絶対値を計算し、
前記差の絶対値を予め定められた閾値と比較して、
前記監視対象パラメータの新規値を示すさらなる監視対象パラメータの値を示す信号を、前記差の絶対値が前記予め定められた閾値を越えた場合に前記ワイヤレス通信ネットワークを介して」「伝送し」とは、「前記監視対象パラメータがアナログの測定値を表す場合」との特定を伴っているか否か、及び、「送信」/「伝送」先の違いを除き、相当する。
これらの相当関係を考慮した上で、引用発明の「トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64」による「新しい測定値」の「コントローラ11に送信される」様は、引用発明の「無線通信リンク」によりリンク関係があるとされるので、本願発明の「プロセスコントローラ」が「前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続された」とする点、及び、「フィールド装置」が「前記プロセスコントローラに接続された」とする点の双方と共通する。
そうすると、引用発明の「無線送受信可能とされるコントローラ11」及び「無線送信できるトランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64」は、各々、本願発明の「前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続されたプロセスコントローラ」及び「前記プロセスコントローラに接続されたフィールド装置」にそれぞれ相当することになる。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
「ワイヤレス通信ネットワークと、
前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続されたプロセスコントローラと、
前記プロセスコントローラに接続されたフィールド装置と、
を備えるシステムであり、
前記フィールド装置は、
監視対象となっている監視対象パラメータ用に一連の値を取得し、
前記監視対象となっている監視対象パラメータの値を示す信号が前回伝送された前記監視対象パラメータの前回の値に対して前記監視対象パラメータの新規値の差の絶対値を計算し、
前記差の絶対値を予め定められた閾値と比較して、
前記監視対象パラメータの新規値を示すさらなる監視対象パラメータの値を示す信号を、前記差の絶対値が前記予め定められた閾値を越えた場合に前記ワイヤレス通信ネットワークを介して伝送する
システム。」

(相違点1)
本願発明の「システム」は、「前記ワイヤレス通信ネットワークに通信可能に接続された第1の装置に設けられている監視アプリケーション」を備えることとされ、かつ「プロセスを監視するためのシステムであ」るとされているのに対して、引用発明の「システム」は、「監視アプリケーション」に相当するものを備えた何らかの装置をシステム内に備えるか否かや、プロセスの監視機能について不明である点。
(相違点2)
本願発明の「フィールド装置」が行う処理の一部とされた「一連の値」の「取得」、「差の絶対値」の「計算」、「閾値と比較」、「閾値を超えた場合」の「伝送」がなされる点に関して、本願発明では「前記監視対象パラメータがアナログの測定値を表す場合に」との条件を前提としているのに対して、引用発明の「トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64」が「周期的にサンプリング」して「測定」する「プロセス変数」なるものが、本願で言う「アナログ」であるか否かが明らかでない点。
(相違点3)
本願発明の「フィールド装置」が行う処理に関して、「前記監視対象パラメータが離散的な測定値を表す場合、1つの離散状態から他の離散状態へ変化した場合に、前記予め定められた閾値を超えたとみなされる」とされる点が示されているのに対して、引用発明には直接対応する事項を伴っていない点。


第5 判断

上記相違点1ないし3について検討する。

(相違点1について)
そもそもプロセス制御システムには、オペレータ用に何らかの監視(=モニタ)装置が設けられている仕様を伴うのが一般的であり、監視対象のパラメータとしては当然にプロセスの状態を示すパラメータ測定値や、少なくとも正常か異常かの2種、あるいはそれ以上のステータス情報とされるのが通例である。
そして、引用文献1にも、オペレータ用にプロセスから取得した測定データが伝送されるとした記載が、上記「第3 引用文献・引用発明の認定」の摘記事項E中に下線で示したとおり存在し、システム上に何らかの監視装置を含めることを示唆している。
してみると、摘記事項E中の「オペレータワークステーション」は、本願発明の「第1の装置」を示唆し、同様に「フィールドデバイスやコントローラからの情報」を「オペレータがプロセスの現在の状態を見たり」する「機能」を「実行」する「1つ以上のアプリケーション」は、本願発明の「監視アプリケーション」を示唆したものというべきであり、引用文献1に接した当業者であれば、当該相違点1に係る構成は、引用文献1でなされた示唆及びプロセス制御システムで慣用的な仕様に基づき、引用発明のシステムにも並設することが常識的になされると判断されるので、当該相違点1は、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

(相違点2及び3について)
上記相違点2及び3に係る本願発明の特定事項は、いずれも「システム」に備わるとされる「フィールド装置」に対してなされた事項であって、更に具体的には、当該装置が行う処理動作に関して、「測定値」が「アナログ」である場合(相違点2)と、「測定値」が「離散的」である場合(相違点3)とを各々特定したものである。
また、前記フィールド装置が行う処理動作に関する前記「アナログ」と「離散的」とされる2つの場合の各々が指す技術的な内容について、当審合議体では審尋の手続を行い、請求人から回答を得ている(上記「第2 本願発明の認定」の「2.本願発明に関する審尋の経緯」、「2-2 請求人がなした回答」参照)。
まず、「アナログ」、「離散的」に関しては、回答2-1に示したとおり、
“「アナログ」、「離散的」とは、監視対象から取得する測定出力の形態を指すのではなく、監視アプリケーションへの伝送を行うか否かを判定するための信号の形態を特定するために導入した。”
旨、請求人は回答している。
次に、これに関連してなされた他の審尋事項とされた問1に対する回答1では、離散的な測定値の場合に関する根拠箇所として、
“明細書段落0032である。”
旨の回答も、請求人は行っている。
これらの回答及び本件明細書で本願発明に関し言及された箇所を総合すると、ワイヤレス通信ネットワークを用いて伝送される監視対象パラメータの値の扱いは、「アナログ」の「値」(信号)による判定処理及び伝送処理がなされる態様と、「離散的」な「値」(信号)による判定処理及び伝送処理がなされる態様の、二者の態様を採り得ることを本願発明では特定し、これら二つの態様の少なくともいずれか一つを満たすフィールド装置を備えたシステムを請求しているものと判断される。ただし、本件明細書の発明の詳細な説明であって、請求人が根拠箇所として回答した【0032】を筆頭に全ての開示箇所では、取扱い信号の態様として直接記載がなされているものとして、「離散的な計測」である場合の言及はあるものの、計測値がアナログの場合という直接の開示はない。
しかしながら、ある大きさを示す値を処理するに当たって、装置内での取扱いの態様としては、
(ア)電流信号や電圧信号であって波高値の大小により当該値を代表するアナログ信号での扱い
と、
(イ)デジタル・ビット信号への変換、いわゆるA/D変換を施し、2進数のデジタル表記で値を示す態様や、ある閾値を設定し、閾値より大か小かで大きく2つに分け、状態としてどちらに属するかを1/0で表すとした態様、
の、いずれかで処理を行うのが通例であることを考慮すれば、本件明細書の発明の詳細な説明で、信号形態として「離散的」との表記を伴わない開示箇所は、その信号の形態としてアナログ信号の態様であってもデジタル信号の形態であっても、共通して該当するとした内容を常識的に含むものとの解釈を採り得ることになる。
また同時に、本願発明が請求する対象としては、前記したとおり「二つの態様の少なくともいずれか一つを満たすフィールド装置を備えたシステムを請求している」のであるから、前記された相違点2と相違点3とは、いずれか一つで容易想到とされれば特許とされないことになる。
以上のことを踏まえて、引用発明との実質的な異同を再検討すると、引用発明の「トランスミッタ、センサまたは他のフィールドデバイス60?64」は、「プロセス変数の測定値」の扱いに関して、測定信号の態様をアナログ信号とするかデジタル信号とするかを直接示してはいない。そして、取扱いの内容には、「新しい測定値」と「最近送信した測定値」との「差の大きさ」を扱うとした上で、当該「差の大きさ」と、「所定の閾値」または「特定の分解能」との大小を判定すること、の2点を内容としている。
すなわち、大小判定の比較候補とされた態様は2通りあり、当該比較候補の前者は、引用発明が採り得る選択候補の一つとしていることが明らかである。
当該一つの選択候補が定める取扱いの内容は、取扱い信号形態がアナログ信号であればもちろんのこと、例えデジタル信号の形態を採るにしても、デジタル変換処理が原信号の大きさを十分に維持する分解能でなされた信号であった場合であれば、差をとる処理、及び、大小判定処理、のいずれも処理が可能であるものばかりとされている。
そうすると、相違点2と相違点3とは、いずれか一つで容易想到とされれば特許とされないことになることを念頭に置きつつ相違点2に係る相違を検討すると、引用発明でもアナログ信号形態を当然に含むとして本願発明との対比を行った場合、もはや取扱い信号形態上の相違は問題とならず、本願で言う「フィールド装置」内部で行う処理に全く違いはないことが明らかであるから、相違点2に係る相違は単なる表記上の相違に過ぎず、両者に格別の相違は無いと認められる。

上記で検討したごとく、当該相違点は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び技術常識として把握される慣用的仕様が奏する作用効果、並びに信号形態の常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識とされる事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載の発明及び技術常識とされる事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-11 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-05-30 
出願番号 特願2008-223363(P2008-223363)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲垣 浩司  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 刈間 宏信
西村 泰英
発明の名称 プロセス監視システム、プロセス監視方法およびデータ伝送方法  
代理人 西元 勝一  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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