• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1320598
審判番号 不服2014-23901  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-25 
確定日 2016-10-12 
事件の表示 特願2013-509010「環状オレフィン化合物、光反応性重合体およびこれを含む配向膜」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日国際公開、WO2012/044020、平成25年 6月20日国内公表、特表2013-525590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年9月27日、韓国、及び、パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月7日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月6日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年2月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月22日付け(発送日:同年7月24日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年11月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年2月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
下記化学式3aの繰り返し単位を含み、91,000?1,000,000の重量平均分子量を有する光反応性重合体:
【化27】

前記化学式3a中、それぞれ独立して、
qは、0?4の整数であり、
mは、50?5000であり、
R1、R2、R3、およびR4のうちの少なくとも一つは、下記化学式1aで表されるラジカルであり、
化学式1aのラジカルであるものを除いた残りのR1?R4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;置換または非置換の炭素数1?20の線状または分枝状アルキル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルケニル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルキニル;置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキル;および置換または非置換の炭素数6?40のアリール;からなる群より選択され、
前記R1?R4が水素またはハロゲンでない場合、R1とR2、R3とR4からなる群より選択された一つ以上の組み合わせが互いに連結されて炭素数1?10のアルキリデングループを形成するか;またはR1もしくはR2がR3およびR4のうちのいずれか一つと連結されて炭素数4?12の飽和もしくは不飽和脂肪族環を形成することができ、
【化28】

前記化学式1a中、
Aは、単純結合、酸素、硫黄または-NH-であり、
Bは、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-O-(C=O)-、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、および置換または非置換の炭素数6?40のヘテロアリーレンからなる群より選択され、
R9は、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、置換または非置換の炭素数2?20のアルケニレン、置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、置換または非置換の炭素数7?15のアラルキレン、および置換または非置換の炭素数2?20のアルキニレンからなる群より選択され、
R10?R14のうちの少なくとも一つは、-L-R15-R16-(置換または非置換の炭素数6?40のアリール)で表されるラジカルであり、これを除いた残りのR10?R14は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換の炭素数1?20のアルキル;置換または非置換の炭素数1?20のアルコキシ;置換または非置換の炭素数6?30のアリールオキシ;置換または非置換の炭素数6?40のアリールおよび14族、15族または16族のヘテロ元素を含む炭素数6?40のヘテロアリールからなる群より選択され、
Lは、酸素、硫黄、-NH-、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-CONH-および置換または非置換の炭素数6?40のアリーレンからなる群より選択され、
R15は、置換または非置換の炭素数1?10のアルキレンであり、
R16は、単純結合、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-NH-、-S-および-C(=O)-からなる群より選択される。」

第3 刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に外国において頒布された韓国公開特許第10-2009-0047720号公報(以下、「刊行物」という。)には、光反応基を含むノルボルネン系単量体を含むノルボルネン系重合体に関し、次の事項が記載されている。
なお、記載について括弧書きで合議体訳を付した。

(1)

(請求項1 なお公報においては括弧なし表記となっている。以下同じ。)



(光反応性作用基を含む下記化学式1に表示される化合物であるノルボルネン系単量体を含むノルボルネン重合体:

[化学式1]

前記化学式1で、

pは0ないし4の定数で、

R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)中少なくとも一つは下記化学式1a、1b及び1cで成り立った群から選択されたラジカルであり、

残りはそれぞれ独立的に、水素、ハロゲン、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキル、置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニル、置換または非置換されたC_(3)-C_(12)のシクーロアルキル、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリール; 置換または非置換されたC_(7)-C_(15)のアラルキル; 置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルキニル; 及び少なくとも一つ以上の酸素、窒素、リン、硫黄、シリコン、またはボロンを含む非炭化水素極性基(non-hydrocarbonaceous polar group)で成り立った群から選択される極性作用基で、

前記R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は水素、ハロゲン、または極性作用基ではなければR_(1)とR_(2)、またはR_(3)とR_(4)がお互いに連結されてC_(1)-C_(10)のアルキリデングループを形成することができ、またはR_(1)またはR_(2)がR_(3)及びR_(4)中のいずれか一つと連結されてC_(4)-C_(12)の飽和または不飽和サイクリックグループ環、または炭素数6ないし24の芳香族環化合物を形成することができ、

[化学式1a]

[化学式1b]

[化学式1c]

前記化学式1a、1b及び1cで、

Aは単純結合、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキレン、カルボニル、カルボキシ、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリーレン及び置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のヘテロアリーレンの中で選択されて;

Bは単純結合、酸素、硫黄、または-NH-であり;

Xは酸素または硫黄で;

R_(9)は単純結合、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキレン、置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニレン、置換または非置換されたC_(3)-C_(12)のシクロアルキレン、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリーレン、置換または非置換されたC_(7)-C_(15)のアリールアルキレン、及び置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニレンの中で選択されて;

R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、及びR_(14)はそれぞれ独立的に置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキル、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルコキシ、置換または非置換されたC_(6)-C_(30)のアリールオキシ、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリール、14族、15族、16族のヘテロ元素が含まれたC_(6)-C_(40)のヘテロアリール、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアルコキシアリール及びハロゲン元素で構成される群から選択される。)

(2)

(請求項3)



(請求項1において、前記化学式1のR_(1)は前記化学式1bに表示される化合物で、前記化学式1bのR_(14)はメチルオキシ、ベンジルオキシ及びメチルで成り立った群から選択されることであるノルボルネン重合体。)

(3)

(請求項6)



(請求項1において、下記化学式2に表示される反復単位を含むノルボルネン重合体:

[化学式2]

前記化学式2で、

nは50ないし5,000で、p、R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)は前記化学式1で定義したとおりである。)

(4)段落<67>及び段落<68>
「<67>

<68>


(<67> “アリールアルキレン”は前記定義されたアルキル基の水素原子価1個以上がアリール基に置換されている二価部位を意味して、1以上のハロゲン置換体によって任意に置換されうる。 例えば、ベンジレンなどをあげることができる。
<68>“アルケニレン”は1以上の炭素-炭素三重結合を含む2ないし20個の炭素原子、望ましくは2ないし10個、より望ましくは2個ないし6個の直鎖または分枝鎖の二価炭化水素部位を意味する。 アルキレン基は炭素-炭素三重結合を含む炭素原子を通じてまたは飽和された炭素原子を通じて結合されうる。 アルキレン基は1以上のハロゲン置換体によって任意に置換されうる。 例えば、エチニレンまたはプロピニレンなどをあげることができる。)

(5)段落<94>及び段落<95>
「<94>

<95>


(<94> <製造例6>4-ベンジルオキシシンナミック酸(4-benzyloxy cinnamic acid)の合成
<95> 4-ベンジルオキシベンズアルデヒド(4-benzyloxy benzaldehyde)(10g、47.1mmol)、マロン酸(malonic acid)(11.4g、2eq.)、ピペリジン(piperidine)(0.47g、0.1eq.)をピリジン(pyridine)(13.03g、3eq.)に入れて常温で約1時間の間撹拌した。 温度を80℃にあげた後、12時間の間撹拌した。 反応後、温度を常温に下げ、1M HClをゆっくり加えて溶液のpHが約4になるように適正化した。生成されたパウダーをフィルターと水で洗浄して、そのパウダーを真空オーブンで乾燥した。 収率: 88%。)

(6)段落<121>及び段落<122>
「<121>

<122>


(<121> <実施例6>2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネン(2-(4-benzyloxy cinnamic ester)-5-norbornene)の合成
<122> 4-ベンジルオキシシンナミック酸(4-benzyloxy cinnamic acid)(10g、39.3mmol)、5-ノルボルネン-2-メタノール(5-norbornene-2-methanol)(4.88g、39.3mol)、ジルコニウムアセテートヒドロキシド(zirconium(IV)acetate hydroxide)(0.20g、0.02eq.)をトルエン(toluene)(50ml)に入れて撹拌した。 N_(2)大気下で145℃に温度をあげて48時間の間共沸還流(azeotropic reflux)を実施した。 反応後、温度を常温で低めて、エチルアセテート(Ethyl acetate)を100v%位加えた。 1M HClで抽出して、水でもう一度洗浄した。 有機層をNa_(2)SO_(4)で乾燥して、溶媒を飛ばした後、粘性が高い液状物質を得た。 収率: 80%。 純度(GC): 90%。)

(7)段落<146>?段落<148>
「<146>

<147>

<148>


(<146> <実施例16>2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネン(2-(4-benzyloxy cinnamic ester)-5-norbornene)の重合
<147> 2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネン(2-(4-benzyloxy cinnamic ester)-5-norbornene)(5g、15.1mmol)をトルエン(toluene)(15ml)に溶かした後、N_(2)を吹き込んで30分間撹拌した。 温度を90℃にあげて、メチレンクロライド(methylene chloride)(1ml)に溶解したPd(acetate)_(2)(3.39mg、15.1μmol)、トリス(シクロヘキシル)ヒドロジェンホスフィノテトラキス(ペンタフルオロベンズ)ボレート(tris(cyclohexyl)hydrogen phosphino tetrakis(pentafluorobenz)borate)(30.5mg、31.7μmol)を加えた。 90℃で15時間の間撹拌した。 反応後、温度を常温に低めた後、エタノールを使用して沈澱を得て、ろ過後真空オーブンで乾燥した。
<0148> 収率: 63%。 Mw: 46k(PDI=2.55)。)

上記記載事項(1)ないし(4)を総合すると、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「光反応性作用基を含む下記化学式1に表示される化合物であるノルボルネン系単量体を含み、下記化学式2の繰り返し単位を含むノルボルネン重合体:
[化学式1]


[化学式2]

前記化学式1及び前記化学式2で、

pは0ないし4の定数で、
nは50ないし5,000で、
R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)中少なくとも一つは下記化学式1bのラジカルであり、
残りはそれぞれ独立的に、水素、ハロゲン、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキル、置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニル、置換または非置換されたC_(3)-C_(12)のシクロアルキル、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリール;からなる群より選択され、
前記R_(1)、R_(2)、R_(3)、及びR_(4)が水素、ハロゲンでない場合、R_(1)とR_(2)、またはR_(3)とR_(4)がお互いに連結されてC_(1)-C_(10)のアルキリデングループを形成することができ、または炭素数6ないし24の芳香族環化合物を形成することができ、
[化学式1b]

前記化学式1bで、
Aは単純結合であり;
Bは単純結合であり;
R_(9)は単純結合、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキレン、置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニレン、置換または非置換されたC_(3)-C_(12)のシクロアルキレン、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリーレン、置換または非置換されたC_(7)-C_(15)のアリールアルキレン、及び置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニレンの中で選択されて;
R_(14)はベンジルオキシであり、
R_(10)、R_(11)、R_(12)及びR_(13)はそれぞれ独立的に置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルキル、置換または非置換されたC_(1)-C_(20)のアルコキシ、置換または非置換されたC_(6)-C_(30)のアリールオキシ、置換または非置換されたC_(6)-C_(40)のアリール、14族、15族、16族のヘテロ元素が含むC_(6)-C_(40)のヘテロアリールで構成される群から選択される。」

また、上記記載事項(5)?(7)より、刊行物には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「下記化学式の繰り返し単位を含む、46,000の重量平均分子量及び2.55のPDIを有する2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネンのビニル付加重合体
[化学式]



第4 対比
1.引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ノルボルネン重合体」は、光反応性作用基としてのシンナミック基を含むから、本願発明の「光反応性重合体」に相当し、引用発明1の「R_(1)」、「R_(2)」、「R_(3)」及び「R_(4)」は、本願発明の「R4」、「R3」、「R1」及び「R2」にそれぞれ相当し、引用発明1の「R_(14)」である「ベンジルオキシ」は-O-CH_(2)-Phであるから、本願発明の「-L-R15-R16-(置換または非置換の炭素数6?40のアリール)で表されるラジカルであり、Lは、酸素、硫黄、-NH-、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-CONH-および置換または非置換の炭素数6?40のアリーレンからなる群より選択され、R15は、置換または非置換の炭素数1?10のアルキレンであり、R16は、単純結合、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-NH-、-S-および-C(=O)-からなる群より選択される。」に相当し、引用発明1の「置換または非置換されたC_(7)-C_(15)のアリールアルキレン」、「置換または非置換されたC_(2)-C_(20)のアルケニレン」は、刊行物の段落<67>及び段落<68>の定義より、本願発明の「置換または非置換の炭素数7?15のアラルキレン」、「置換または非置換の炭素数2?20のアルキニレン」にそれぞれ相当する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明1とは、

[一致点]
「下記化学式3aの繰り返し単位を含む、光反応性重合体:
【化27】

前記化学式3a中、それぞれ独立して、
qは、0?4の整数であり、
mは、50?5000であり、
R1、R2、R3、およびR4のうちの少なくとも一つは、下記化学式1aで表されるラジカルであり、
化学式1aのラジカルであるものを除いた残りのR1?R4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;置換または非置換の炭素数1?20の線状または分枝状アルキル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルケニル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルキニル;置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキル;および置換または非置換の炭素数6?40のアリール;からなる群より選択され、
前記R1?R4が水素またはハロゲンでない場合、R1とR2、R3とR4からなる群より選択された一つ以上の組み合わせが互いに連結されて炭素数1?10のアルキリデングループを形成するか;またはR1もしくはR2がR3およびR4のうちのいずれか一つと連結されて炭素数4?12の飽和もしくは不飽和脂肪族環を形成することができ、
【化28】

前記化学式1a中、
Aは、単純結合、酸素、硫黄または-NH-であり、
Bは、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-O-(C=O)-、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、および置換または非置換の炭素数6?40のヘテロアリーレンからなる群より選択され、
R9は、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、置換または非置換の炭素数2?20のアルケニレン、置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、置換または非置換の炭素数7?15のアラルキレン、および置換または非置換の炭素数2?20のアルキニレンからなる群より選択され、
R10?R14のうちの少なくとも一つは、-L-R15-R16-(置換または非置換の炭素数6?40のアリール)で表されるラジカルであり、これを除いた残りのR10?R14は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換の炭素数1?20のアルキル;置換または非置換の炭素数1?20のアルコキシ;置換または非置換の炭素数6?30のアリールオキシ;置換または非置換の炭素数6?40のアリールおよび14族、15族または16族のヘテロ元素を含む炭素数6?40のヘテロアリールからなる群より選択され、
Lは、酸素、硫黄、-NH-、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-CONH-および置換または非置換の炭素数6?40のアリーレンからなる群より選択され、
R15は、置換または非置換の炭素数1?10のアルキレンであり、
R16は、単純結合、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-NH-、-S-および-C(=O)-からなる群より選択される。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
光反応性重合体(ノルボルネン重合体)の重量平均分子量に関し、本願発明では91,000?1,000,000と特定するのに対して、引用発明1では特定されない点。

2.引用発明2との対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネンのビニル付加重合体」は、上記記載事項(5)?(7)より2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネン(C_(7)H_(9)-CH_(2)-OC(=O)-CH=CH-Ph-O-CH_(2)-Ph)をビニル付加重合したものであって、光反応性作用基としてのシンナミック基を含むから、本願発明の「光反応性重合体」に相当し、引用発明2のC_(7)H_(9)中の水素3つ、C_(7)H_(9)に結合する「-CH_(2)-」、「-OC(=O)-」、-CH=CH-PhのPh中の水素4つ、-CH=CH-Phに結合する「-O-CH_(2)-Ph」は、本願発明の「R4」、「R3」、「R1」、「R9」、「B」、「R10?R13」、「-L-R15-R16-(置換または非置換の炭素数6?40のアリール)で表されるラジカルであり、Lは、酸素、硫黄、-NH-、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-CONH-および置換または非置換の炭素数6?40のアリーレンからなる群より選択され、R15は、置換または非置換の炭素数1?10のアルキレンであり、R16は、単純結合、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-NH-、-S-および-C(=O)-からなる群より選択される。」にそれぞれ相当する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明2とは、

[一致点]
「下記化学式3aの繰り返し単位を含む、光反応性重合体:
【化27】

前記化学式3a中、それぞれ独立して、
qは、0?4の整数であり、
R1、R2、R3、およびR4のうちの少なくとも一つは、下記化学式1aで表されるラジカルであり、
化学式1aのラジカルであるものを除いた残りのR1?R4は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素;ハロゲン;置換または非置換の炭素数1?20の線状または分枝状アルキル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルケニル;置換または非置換の炭素数2?20の線状または分枝状アルキニル;置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキル;および置換または非置換の炭素数6?40のアリール;からなる群より選択され、
前記R1?R4が水素またはハロゲンでない場合、R1とR2、R3とR4からなる群より選択された一つ以上の組み合わせが互いに連結されて炭素数1?10のアルキリデングループを形成するか;またはR1もしくはR2がR3およびR4のうちのいずれか一つと連結されて炭素数4?12の飽和もしくは不飽和脂肪族環を形成することができ、
【化28】

前記化学式1a中、
Aは、単純結合、酸素、硫黄または-NH-であり、
Bは、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-O-(C=O)-、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、および置換または非置換の炭素数6?40のヘテロアリーレンからなる群より選択され、
R9は、単純結合、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、置換または非置換の炭素数2?20のアルケニレン、置換または非置換の炭素数3?12のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6?40のアリーレン、置換または非置換の炭素数7?15のアラルキレン、および置換または非置換の炭素数2?20のアルキニレンからなる群より選択され、
R10?R14のうちの少なくとも一つは、-L-R15-R16-(置換または非置換の炭素数6?40のアリール)で表されるラジカルであり、これを除いた残りのR10?R14は、互いに同一または異なり、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、置換または非置換の炭素数1?20のアルキル;置換または非置換の炭素数1?20のアルコキシ;置換または非置換の炭素数6?30のアリールオキシ;置換または非置換の炭素数6?40のアリールおよび14族、15族または16族のヘテロ元素を含む炭素数6?40のヘテロアリールからなる群より選択され、
Lは、酸素、硫黄、-NH-、置換または非置換の炭素数1?20のアルキレン、カルボニル、-(C=O)-O-、-CONH-および置換または非置換の炭素数6?40のアリーレンからなる群より選択され、
R15は、置換または非置換の炭素数1?10のアルキレンであり、
R16は、単純結合、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-NH-、-S-および-C(=O)-からなる群より選択される。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点2]
光反応性重合体(ノルボルネンのビニル付加重合体)の重量平均分子量に関し、本願発明では91,000?1,000,000と特定するのに対して、引用発明2では46,000の重量平均分子量を有する点。

第5 判断
1 相違点1について
引用発明1において、光反応性重合体を構成する繰り返し単位の式量が最小となるのは、p=0、R_(2)、R_(3)及びR_(4)が水素であり、A、B及びR_(9)が単純結合であり、R_(10)、R_(11)、R_(12)及びR_(13)がいずれも非置換されたC_(1)アルキルすなわち、-CH_(3)の場合であって、C_(7)H_(9)-CH=CH-Ph(CH_(3))_(4)-O-CH_(2)-Ph(式量Fw=358)の場合である。
上記繰り返し単位が最小の繰り返し数(n=50)となる場合、光反応性重合体の数平均分子量Mnは358×50+2=17,902であって、これが光反応性重合体の数平均分子量の最小値となる。高分子においては重量平均分子量が数平均分子量よりも大きくなることは当業者に自明な事項であるから、上記光反応性重合体の重量平均分子量の最小値は17,902よりも大きい。
そして、引用発明1において、式量が最小の場合であっても、繰り返し数nは50ないし5000であるから、結果として、多くの繰り返し数の場合において、具体的には、少なくともnが255?500の範囲において、重量平均分子量は本願発明と重複一致するといえる。
また、引用発明1において、置換基が炭素数の多い基となればなるほど繰り返し単位の式量が増え、nが50ないし5000の範囲で重合体の数平均分子量が増えるから、その場合、重量平均分子量は本願発明と重複一致する。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、相違するとしても、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

2 相違点2について
引用発明2の「2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネンの重合体」は、Mw=46k、PDI=2.55であるから、Mn=Mw/PDI≒18,039であり、2-(4-ベンジルオキシシンナミックエステル)-5-ノルボルネンの式量Fwは360であるから、重合体において平均の繰り返し数nは18,039/360≒50.1となる。
そして、刊行物の上記摘示(3)には、重合体において繰り返し単位の繰り返し数nを「50ないし5000」の範囲とすることが記載されており、引用発明2においてその繰り返し数「50.1」は上記範囲のほぼ下限にあるから、引用発明2においてその繰り返し数を、上記範囲の中でより多くすることは当業者が容易になし得ることである。具体的には、繰り返し数nを大きくした場合、PDIも変化するものの、仮に同じPDI=2.55で計算して、Mwが91,000となるのは、n≒99.1と計算されるから、引用発明2のn=50.1からn≧99.1、すなわちMwが91,000を越えるものとすることは当業者が容易になし得ることである。

3 そして、本願発明で上記相違点に係る発明特定事項としたことにより、予想外の格別顕著な効果を奏すると認めることができない。
なお、請求人は、平成26年11月25日付けの審判請求書において、「本願発明の実施例と図2および3を参考すると、Mwが最小91000以上となる実施例35、37、39、43および46の光反応性重合体についてのみ、優れた液晶配向性を評価および立証しているところ、追加実験結果を通じて立証された本願発明の優れた効果(優れた液晶配向性、特に1次および2次倍向性)が・・・Mwによって影響を受け、特にMw91000以上で達成可能であることは本願発明の最初明細書に含まれている実施例を通じても当業者に自明に理解可能と存じます。 ・・・
従いまして、前記(i)乃至(iii)の内容に基づいて、前記拒絶理由対応時に提出した追加実験結果によって主張および立証されたMw範囲による顕著な効果は、本願の最初に提出された明細書から当業者が理解可能な本願発明の顕著な効果であり、本願発明の進歩性判断に当然のことながら考慮すべきです。 」と主張する。
しかしながら、本願明細書において、本願発明は優れた液晶配向性を示す重合体を提供するものであることの記載があり、Mw91,000の実施例46の重合体より製作された配向膜の液晶配向性について検証はなされているものの、Mw91,000を境界として液晶配向性に顕著な差があることについては、本願明細書にはそもそも記載されておらず、また、複数の実施例の重合体より製作された配向膜の液晶配向性の効果は、重合体より製作された「配向膜」のものであって、本願発明に係る「重合体」についての効果ではないから、参酌しない。

4 よって、本願発明は、引用発明1と同一であり、仮に、そうでないとしても、引用発明1に基づいて当業者が容易に成し得たものである。
また、本願発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易に成し得たものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、仮に、そうでないとしても、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-18 
結審通知日 2016-05-19 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2013-509010(P2013-509010)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
小野寺 務
発明の名称 環状オレフィン化合物、光反応性重合体およびこれを含む配向膜  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ