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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1320613
審判番号 不服2015-11477  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-17 
確定日 2016-10-12 
事件の表示 特願2013- 48112「調剤装置におけるガンマ硬化されたRFIDタグの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開,特開2013-127817〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成19年8月8日(パリ条約による優先権主張2006年8月9日 アメリカ合衆国)に出願した特願2007-206746号の一部を,特許法第44条第1項の規定により,平成25年3月11日に新たな特許出願としたものであって,
平成25年3月22日付けで審査請求がなされ,平成25年10月1日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成26年4月8日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,平成26年7月18日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成27年1月29日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成27年2月12日付けで審査官により拒絶査定がなされ(謄本送達;平成27年2月17日),これに対して平成27年6月17日付けで審判請求がなされたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成27年1月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「医薬構成要素にガンマ線を受けさせる方法であって,前記医薬構成要素は遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を含み,それによって前記メモリ装置のコンテンツが前記ガンマ線によって破壊されず,
電荷蓄積に基づかない記憶機構を利用するメモリ装置を前記医薬構成要素に貼り付けること,
前記メモリ装置にデータを書き込むこと,
前記医薬構成要素及び前記メモリ装置にガンマ線滅菌を受けさせること,及び
前記ガンマ線滅菌の後に,前記メモリ装置に予め書き込まれた前記のデータを読み取ることの諸ステップを含む方法。」

第3.引用刊行物に記載の事項
1.原審による,平成26年7月18日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)において引用された,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特表2005-503870号公報(公表日;2005年2月10日,以下,これを「引用刊行物1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「【請求項1】
血液製品中の病原体の不活性化に使用する装置において,
血液製品を収容するようになされた容器と,
前記容器に結合された電磁気的に操作可能な情報チップとを含み,
前記電磁気的に操作可能な情報チップが,前記容器に収容される血液製品に関する情報を保持するために使用されるようになっており,
前記情報チップは,容器または血液製品の病原体不活性化処理に関する情報を前記情報チップに書き込むことを含む,前記情報チップに対する情報書き込みに適するようになされている血液製品中の病原体の不活性化に使用する装置。」

B.「【請求項21】
血液製品中の病原体の不活性化方法において,
血液製品を容器に配置するステップを含み,前記容器は,自身に結合され,前記容器に含まれる血液製品に関する情報を保持する際に使用する電磁操作情報チップを有し,さらに,情報チップが情報チップ書き込み装置によって書き込むために配置されるよう,容器を配置するステップと,
病原体不活性化処理に関する情報を情報チップに書き込むステップと,
血液製品に病原体不活性化処理を施すステップとを含む血液製品中の病原体の不活性化方法。」

C.「【0006】
次に,この種のRFID装置/チップ/マイクロチップ(以下では「チップ」と呼ぶ)を対象に統合することができる。チップまたはチップを統合する先の対象は,自身上に小型アンテナを有し,これがチップとエネルギ/データ通信接触する。代替方法は,チップがアンテナと実際に物理的に接触しないでよい。次に,「チップ・オン・ボード」と呼ばれる技術でチップを装着することができる。これは基本的に,通常はこれに伴うチップのパッケージングを実行せずに,チップを装着することができる。ここで,典型的なチップは,恐らく2.5mm平方で深さ1.5mmでよい。アンテナを対象に「プリント」することもできる。次に,チップをアンテナにはんだまたは溶接で取り付ける。このようなチップ・アセンブリはガンマ線に耐えることができ,実際にガンマ線に耐性があることが好ましく,したがってアセンブリ全体(チップ・装置/アセンブリおよびチップ・アセンブリを装着した対象)をガンマ線で殺菌することができる。チップは,決して消去されないようロックしたフェーズにプログラムするか,データを上書き可能にすることができる。チップおよび関連の読み書き装置は,衝突検出プロトコルを有することも好ましく,これによって1つまたは複数のチップを1つのRF場で電源投入し,その同じRF場にある間に,個々にまたはほぼ同時に質問/読み書きすることができる。これらの機能を実行可能な距離は,部分的に伝送力およびアンテナ設計の関数である。これらの装置/チップは,通常,1kビットの記憶量を有し,「一意の」識別子を有する。これは通常,許可を得て無期限に100,000回以上読み書きすることもできる。」

D.「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明によると,血液製品容器およびチューブ・セットの情報/識別システムおよび方法が改善される。本発明は,血液,血液成分または生物学的液体製品,または他の同様の材料または物質,特に成分分離または光放射線での潜在的照射を含む病原体不活性化などの血液処理にかける材料および物質に,読み書きデータ記憶および検索を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
情報/識別方法およびシステムの使用は,例えば米国特許第5,769,811号(使い捨てチューブ・マニホルドのバーコード・ラベル)で示されているように,使い捨ての血液チューブ・セットで概ね知られている。しかし,本発明の概念は,ある種の読み書きチップを血液または血液成分容器および/またはチューブ・セットに組み込むことを含む。その例には,読み書きチップを血液成分バッグまたはチューブ・セット・カートリッジまたはカセットに配置することがある。このような読み書き装置/チップがバッグまたはカートリッジ上に常にあると,血液成分バッグまたはチューブ・セット/カセットまたはその内容に関するさらに多くの詳しい情報を,処置前,処置中,または処置後,あるいは処置の結果としてさえ,血液処理の様々な段階でチップに書き込み,記憶することができる。」

E.「【0009】
したがって,製造または製造後在庫データなどの情報を,血液処理での製造,殺菌,輸送,保存および/または使用という多くの異なる段階で各チップに書き込むことができ,このようなデータは,1回しかこのようなチップに書き込む必要がない。さらに,チップに書き込んだ情報を,必要に応じて変更することができる。さらに,この情報は,バッグまたはユニットまたはカセットごとに別個にすることができ,したがって別個のバッグおよび別個の使い捨てチューブ・セットはそれぞれ,自身上に特に書き込まれた容器の製品情報および/または容積情報またはプロセス制限情報など,貴重でしかも個別の情報を有することができる。さらに,遠心/分離,透析または病原体不活性化などの血液処理のエンド・ユーザ作業中に,使い捨てのセット/カセットに情報を読み書きすることができる。個々の処理機械も使用して,チップに読み書きすることができる。したがって,実行中にユーザ/提供者または患者固有のデータを,単純および/または自動的にチップに書き込むことができ,したがって提供者/患者の介護または技術的操作分析を,必要に応じて後にさらに容易に実行することができる。不具合が発生した場合,提供者/患者は,チップに書き込まれた回復ポイントで別の処理機械にて再開するか,技術的不具合分析をさらに容易に実行することができる。血液製品を後の輸血に使用する提供者の場合は,提供者情報(例えば血液型または他の履歴データ)を,実際の提供前,提供中,または提供後に書き込むことができる。次に,患者の介護,在庫管理またはその他を改善するため,血液製品の最終的受容者に輸血する前,輸血後または輸血時点で,この情報の一部または全部をチップから通信/読み出すことができる。」

2.原審拒絶理由に引用された,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特表2005-503669号公報(公表日;2005年2月3日,以下,これを「引用刊行物2」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F.「【背景技術】
【0002】
キャパシタの充電状態に基づくメモリ(DRAM,SRAM,フラッシュメモリ)は,元素トランジスタのサイズが小さくなるに伴なって,イオン化放射線(たとえば宇宙線等)の影響を益々受け易くなってきている。また,強誘電体に基づくメモリ(FRAM)は経年劣化の問題が深刻である。磁気-電子分野における近年の研究開発の結果は,磁気接合の磁気抵抗に基づく新規なタイプのメモリを設計することを可能にした。換言すれば,これらの新規なメモリの動作原理は,もはや電荷の蓄積には基づいておらず,メモリを構成する元素の磁化の相対的方向に基づいている。このような磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は,高速であること(書き込み及び読み出し時間が数ナノ秒),不揮発性であること,書き込み及び読み出しを繰り返しても劣化がないこと,イオン化放射線の影響を受け難いこと等の多くの長所を有している。磁気ランダムアクセスメモリは,まずフラッシュメモリと置き換えられ,長期的にはDRAM及びSRAMに代わって汎用メモリとな
るものと目されている。」

3.原審拒絶理由に引用された,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特開昭52-125245号公報(1977年10月20日公開,以下,これを「引用刊行物3」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

G.「3.発明の詳細な説明
本発明は強誘電体装置(ferroeIectric device)の製造方法に関する。」(2頁左上欄9行?11行)

H.「また,本発明の装置は耐放射線性がある。本発明の装置は10^(7)ガンマ-の放射線を受けても正常に機能しデータを残した。その際,該装置はガンマ-線源に近接して位置させておいた。これに対し,双極装置は10^(6)ガンマ-で破壊し,まだ市販の他のメモリー装置は10^(5)ガンマ-またはそれ以下で破壊した。」(3頁右下欄7行?13行)

4.原審の平成25年10月1日付けの拒絶理由に引用され,原審拒絶理由において,先行技術文献として提示された,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特開2006-039773号公報(2006年2月9日公開,以下,これを「先行技術文献」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

I.「【0024】
収納部101に収納される医療用物品としては,例えば,人体の,特に血管に導入するカテーテル及びその付属品などがある。このような医療用物品は,滅菌されたものである必要がある。通常これらは一回限りの使い捨て製品であり,滅菌状態で密封された包装形態で販売され,開封により滅菌状態が解消されたら,その後使用しなくても廃棄せざるを得ない。したがって,開封=使用済として取り扱うことができる。
【0025】
ガス透過性のシート103は,ガス(気体)は透過するが,細菌類が通さない性質を有するシートである。ガス透過性のシート103を使用してあることで,滅菌にエチレンオキサイドガスを使用できる。なお,ガンマ線滅菌や電子線滅菌等ガスを使用しない滅菌の場合は,ガス透過性のシートを使用しないで,密封される包装形態としてもよい。」

J.「【0032】
このような導電性塗料が塗布された樹脂をシート102,103の内側に貼り付け,その間の空間123に固定されるように,第1ICタグ130を介在させる。導電性塗料が塗布された面積は,第1ICタグ130全体を隠すことが出来るサイズであれば良い。ここでは,第1ICタグ130を介在させる空間123は,医療用物品の収納部101とは隔離された空間としてある。このように区画させることで,互いに細菌等の移動ができない。これは,滅菌の方法によっては,電磁波シールド膜121及び122がICタグを封入した空間の滅菌を妨げる可能性があるためである。なお,電磁波シールドを透過するような滅菌方法であれば,区画は必ずしも必要ではないが,滅菌の方法によってはICタグが故障する可能性もあり,区画を分けておけば,ICタグが封入された空間のみ滅菌されないように処理することもできる。」

第4.引用刊行物に記載の発明
1.上記Bの「血液製品中の病原体の不活性化方法において」という記載から,引用刊行物1は,「血液製品中の病原体の不活性化方法」に関するものであることが読み取れる。

2.上記Aの「血液製品を収容するようになされた容器と,前記容器に結合された電磁気的に操作可能な情報チップとを含み」という記載,上記Bの「前記容器は,自身に結合され,前記容器に含まれる血液製品に関する情報を保持する際に使用する電磁操作情報チップを有し」という記載,及び,上記Dの「読み書きチップを血液成分バッグまたはチューブ・セット・カートリッジまたはカセットに配置することがある」という記載から,上記Dに記載の「血液成分バッグまたはチューブ・セット・カートリッジまたはカセット」は,上記A,或いは上記Bに記載の“血液製品の容器”に相当するものであることが読み取れ,更に,上記Aに記載の「電磁気的に操作可能な情報チップ」,及び,上記Bに記載「電磁操作情報チップ」と,上記Dの「読み書きチップ」とは,同じものであることが読み取れるので,上記引用のA,B,及び,Dの記載内容と,上記1.に引用のBの記載内容から,引用刊行物1においては,“血液製品の容器に電磁気的に操作可能な読み書きチップを配置する”ものであることが読み取れる。

3.上記Cの「この種のRFID装置/チップ/マイクロチップ(以下では「チップ」と呼ぶ)を対象に統合することができる」という記載と,上記2.において検討した事項から,上記2.において検討した「電磁気的に操作可能な読み書きチップ」は,「RFID装置」である態様を含むものであることは,明らかであり,更に,上記Cの「チップおよび関連の読み書き装置は,衝突検出プロトコルを有することも好ましく,これによって1つまたは複数のチップを1つのRF場で電源投入し,その同じRF場にある間に,個々にまたはほぼ同時に質問/読み書きすることができる。これらの機能を実行可能な距離は,部分的に伝送力およびアンテナ設計の関数である」という記載から,該「RFID装置」は,“離れた距離からの読み書きが可能である”ことが読み取れ,上記2.において検討した事項を踏まえると,引用刊行物1においては,“血液製品の容器に,離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置を配置する”ものであることが読み取れる。

4.上記3.において検討した事項と,上記Cの「このようなチップ・アセンブリはガンマ線に耐えることができ,実際にガンマ線に耐性があることが好ましく,したがってアセンブリ全体(チップ・装置/アセンブリおよびチップ・アセンブリを装着した対象)をガンマ線で殺菌することができる」という記載から,引用刊行物1における,“離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置”は,「ガンマ線に耐性がある」ものである態様を含むことも,明らかである。
更に,同じく,上記Cの「これらの装置/チップは,通常,1kビットの記憶量を有し,「一意の」識別子を有する。これは通常,許可を得て無期限に100,000回以上読み書きすることもできる。」という記載から,該“離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置”が,「記憶量」を有すること,即ち,“メモリ機能を有する”ものであることも,明らかである。
そして,同じく,上記Cの「チップは,決して消去されないようロックしたフェーズにプログラムするか,データを上書き可能にすることができる」という記載と,上記において検討した,“メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,ガンマ線耐性を有する”ことから,引用刊行物1においては,“メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込まれたデータは,ガンマ線によって消去されない”ものであることが読み取れる。

5.上記2.において検討した事項,上記Dの「このような読み書き装置/チップがバッグまたはカートリッジ上に常にある」という記載,及び,上記3.において言及した,“読み書きチップが,RFID装置/チップ/マイクロチップを意味する”という点と,上記3.において検討した事項から,引用刊行物1においては,“メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,血液製品の容器にはり付けられる”態様を含むものであることが読み取れる。

6.上記Eの「製造または製造後在庫データなどの情報を,血液処理での製造,殺菌,輸送,保存および/または使用という多くの異なる段階で各チップに書き込むことができ,このようなデータは,1回しかこのようなチップに書き込む必要がない」という記載から,引用刊行物1は,「チップ」に,「殺菌」の前段階である「製造」の段階で,「データ」が書き込まれる態様を含むことは,明らかであり,同じく,上記Eの「血液製品の最終的受容者に輸血する前,輸血後または輸血時点で,この情報の一部または全部をチップから通信/読み出すことができる」という記載から,引用刊行物1は,「チップ」に書き込まれた「データ」を,「血液製品」の使用時,即ち,「殺菌」の後に読み出す態様を含むことも明らかであるから,上記Bの「情報チップが情報チップ書き込み装置によって書き込むために配置されるよう,容器を配置するステップと,病原体不活性化処理に関する情報を情報チップに書き込むステップと,血液製品に病原体不活性化処理を施すステップとを含む」という記載と,上記5.において検討した事項とを併せると,引用刊行物1は,“メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置書き込み装置によって書き込むために配置されるよう,容器を配置するステップと,病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込むステップと,血液製品に病原体不活性化処理を施すステップと,病原体不活性化処理を施した後に,病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置から読み出すステップを有する”ものであることが読み取れる。

7.以上,1.?6.において検討した事項から,引用刊行物1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「血液製品中の病原体の不活性化方法であって,
血液製品の容器に,メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置を配置し,ここで,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込まれたデータは,ガンマ線によって消去されないものであり,
前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,前記血液製品の容器にはり付けられるステップと,
前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置書き込み装置によって書き込むために配置されるよう,容器を配置するステップと,
病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込むステップと,
血液製品に病原体不活性化処理を施すステップと,
病原体不活性化処理を施した後に,病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置から読み出すステップを有する,方法。」

第5.本願発明と引用発明との対比
1.引用発明における「病原体の不活性化方法」とは,「殺菌」する,或いは,「滅菌」するという態様を含むことは明らかであり,本願発明における「ガンマ線を受けさせる」ことも,“ガンマ線滅菌”を意味することは明らかであって,引用発明における「血液製品」,或いは,「血液製品の容器」と,本願発明における「医薬構成要素」とは,「医療用物品」である点で共通しているので,
引用発明における「血液製品中の病原体の不活性化方法」と,
本願発明の「医薬構成要素にガンマ線を受けさせる方法」とは,
“医療用物品を滅菌する方法”である点で共通する。

2.引用発明における「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置」は,「離れた距離」,即ち,「遠隔」から読み書き可能であることは明らかであり,引用発明において,「血液製品の容器」に,前記「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置」を配置することは,前記「血液製品の容器」が,前記「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置」を含むことにほかならず,引用発明における「データ」が,本願発明における「コンテンツ」に相当し,
引用発明における「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込まれたデータは,ガンマ線によって消去されない」ことが,
本願発明における「メモリ装置のコンテンツが前記ガンマ線によって破壊されず」に相当するので,
引用発明における「血液製品の容器に,メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置を配置し,ここで,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込まれたデータは,ガンマ線によって消去されないものであり」と,
本願発明における「医薬構成要素は遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を含み,それによって前記メモリ装置のコンテンツが前記ガンマ線によって破壊されず」とは,
“医療用物品は,遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を含み,それによって前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置のコンテンツが前記ガンマ線によって破壊されないもの”である点で共通する。

3.引用発明における「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置」と,
本願発明における「電荷蓄積に基づかない記憶機構を利用するメモリ装置」とは,上記2.において検討したように,「遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置」である点で共通するので,
引用発明における「前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置が,前記血液製品の容器にはり付けられるステップ」と,
本願発明における「電荷蓄積に基づかない記憶機構を利用するメモリ装置を前記医薬構成要素に貼り付けること」とは,
“遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を,医療用物品にはり付けること”である点で共通する。

4.引用発明における「病原体不活性化処理」は,上記1.において指摘したとおり“滅菌処理”という態様を含むことは,明らかであるから,
引用発明における「病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置に書き込むステップと,
血液製品に病原体不活性化処理を施すステップと,
病原体不活性化処理を施した後に,病原体不活性化処理に関する情報を,前記メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置から読み出すステップを有する」と,
本願発明における「前記メモリ装置にデータを書き込むこと,
前記医薬構成要素及び前記メモリ装置にガンマ線滅菌を受けさせること,及び
前記ガンマ線滅菌の後に,前記メモリ装置に予め書き込まれた前記のデータを読み取ることの諸ステップ」とは,
“遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置にデータを書き込むこと,
医療用物品及び前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置に滅菌処理を受けさせること,及び
前記滅菌処理の後に,前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置に予め書き込まれた前記のデータを読み取ることの諸ステップ”である点で共通する。

5.以上,1.?4.において検討した事項から,本願発明と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
医療用物品を滅菌する方法であって,
前記医療用物品は,遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を含み,それによって前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置のコンテンツが前記ガンマ線によって破壊されないものであり,
前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置を,前記医療用物品にはり付けること,
前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置にデータを書き込むこと,
前記医療用物品及び前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置に滅菌処理を受けさせること,及び
前記滅菌処理の後に,前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置に予め書き込まれた前記のデータを読み取ることの諸ステップを含む方法。

[相違点1]
“医療用物品を滅菌する方法”に関して,
本願発明においては,「医療用物品」が,「医薬構成要素」であり,「滅菌方法」が,「ガンマ線滅菌」であるのに対して,
引用発明においては,「医療用物品」が,「血液製品」であり,「滅菌方法」が,「病原体不活性化処理」であって,該「病原体不活性化処理」が,「ガンマ線滅菌」であると明記されていない点。

[相違点2]
“遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置”に関して,
本願発明においては,「電荷蓄積に基づかない記憶機構を利用するメモリ装置」であるのに対して,
引用発明においては,「メモリ機能を有する離れた距離からの読み書きが可能であるRFID装置」における「メモリ機能」をどのような構成によって実現しているか明記されていない点。

[相違点3]
“医療用物品及び前記遠隔読み取り可能及び書き換え可能なメモリ装置に滅菌処理を受けさせること”に関して,
本願発明においては,「医薬構成要素及び前記メモリ装置にガンマ線滅菌を受けさせること」であるのに対して,
引用発明においては,「血液製品に病原体不活性化処理を施すステップ」であって,「ガンマ線滅菌」を行う点が明記されていない点。

第6.相違点についての当審の判断
1.[相違点1],及び,[相違点3]について
引用発明においても,「RFID装置」は,“ガンマ線耐性”を有していることは明らかである。
更に,上記Cにおいて引用した「このようなチップ・アセンブリはガンマ線に耐えることができ,実際にガンマ線に耐性があることが好ましく,したがってアセンブリ全体(チップ・装置/アセンブリおよびチップ・アセンブリを装着した対象)をガンマ線で殺菌することができる」という記載からも明らかなように,引用発明においても,「ガンマ線で殺菌する」という手法については言及されていて,上記Iに引用した,先行技術文献にも,「このような医療用物品は,滅菌されたものである必要がある・・・ガンマ線滅菌や電子線滅菌等ガスを使用しない滅菌の場合は,ガス透過性のシートを使用しないで,密封される包装形態としてもよい」と記載されてもいるように,“医療用物品のガンマ線による殺菌,或いは,滅菌”は,「医療用物品」を扱う分野においては,周知の手法である。
引用発明における「血液製品」については,「血液製剤」に対して,免疫機能を不活性化する目的で,ガンマ線照射を行うことは,本願の原出願の第1国出願前に当業者には周知の技術事項であって(必要であれば,“赤木祐子著,「健常人末梢血のγ線照射による単核球サブセットの変化」昭医会誌 第57巻 第4号 379-384頁 1997年”の要約等参照),「血液製品」に対しても,ガンマ線照射が行えないものでないことは,明らかである。
そして,「血液製品」以外の,「医療用物品」に対する「ガンマ線滅菌」自体が,本願の原出願の第1国出願前に当業者にとって,周知の技術事項である以上,引用発明において,「滅菌」対象の「医療用物品」として,「血液製品」に換えて,他の「医療用物品」を選択した場合に,「滅菌」,或いは,「殺菌」方法として,「ガンマ線滅菌」を採用することは,当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。
よって,[相違点1],及び,[相違点3]は,格別のものではない。

2.[相違点2]について
「ガンマ線」に対して耐性を有する,「電荷蓄積に基づかない記憶機構を利用するメモリ装置」に関しては,引用刊行物2の上記Fに引用した,「メモリを構成する元素の磁化の相対的方向に基づいている。このような磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)は,高速であること(書き込み及び読み出し時間が数ナノ秒),不揮発性であること,書き込み及び読み出しを繰り返しても劣化がないこと,イオン化放射線の影響を受け難いこと等の多くの長所を有している」という記載内容から,本願の原出願の第1国出願前に,既に,「磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)」が存在していたこと,及び,引用刊行物3の上記Gに引用した,「本発明は強誘電体装置(ferroeIectric device)の製造方法に関する」という記載,及び,同じく引用刊行物3の上記Hに引用した,「本発明の装置は耐放射線性がある。本発明の装置は10^(7)ガンマ-の放射線を受けても正常に機能しデータを残した」という記載と,上記Fに引用した,「キャパシタの充電状態に基づくメモリ(DRAM,SRAM,フラッシュメモリ)は,元素トランジスタのサイズが小さくなるに伴なって,イオン化放射線(たとえば宇宙線等)の影響を益々受け易くなってきている。また,強誘電体に基づくメモリ(FRAM)は経年劣化の問題が深刻である」という記載から,「ガンマ線」に対して耐性を有するメモリとして,強誘電体メモリ(FRAM)が,本願の原出願の第1国出願前に,既に,存在していたことは,周知の技術事項であった。
また,上記1.において引用した,先行技術文献における上記Iの記載内容,及び,上記Jに引用した,先行技術文献の「滅菌の方法によってはICタグが故障する可能性もあり」,という記載から,“通常のICタグでは,ガンマ線滅菌などの,滅菌方法の種類によって,故障する可能性がある”ことは,当業者にとっては,周知の技術事項であったことは明らかであり,このことと,上記1.において引用した,上記Cの記載内容とから,“メモリ機能を有するRFID装置”がはり付けられた「医療用物品」の,「滅菌」,或いは,「殺菌」を行う際に,該「滅菌」,或いは,「殺菌」の方法として,「ガンマ線滅菌」を行うためには,「ガンマ線」に対する耐性を有する,“メモリ機能を有するRFID装置”が,実際に存在していることが不可欠な条件と言え,前記条件は,「医療用物品」の分野に限らず,“メモリ機能を有するRFID装置”をはり付けた対象物に対して,何らかの目的で「ガンマ線」を照射しなければならない分野に共通の課題である。
そうすると,引用発明における「ガンマ線」に耐性を有する,「メモリ機能を有するRFID装置」の「メモリ」として,既に,存在が広く知られていた,「ガンマ線」に対して耐性を有する,「MRAM」,或いは,「FRAM」を採用することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点2]は,格別のものではない。

3.以上,1,及び,2において検討したとおり,[相違点1]?[相違点3]は,格別のものではなく,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。

第7.むすび
したがって,本願発明は,本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-13 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2013-48112(P2013-48112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 浩月野 洋一郎  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 辻本 泰隆
石井 茂和
発明の名称 調剤装置におけるガンマ硬化されたRFIDタグの使用  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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