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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1320647
審判番号 不服2014-16072  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-13 
確定日 2016-10-20 
事件の表示 特願2013-520529「ソルダペーストの印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月20日国際公開、WO2012/173059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年6月8日(優先権主張2011年6月13日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月16日付けで拒絶理由が通知され、同年3月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものであり、その後、当審において、平成27年12月15日付けで審尋がなされ、平成28年1月22日に面接が行われ、同年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月25日に応対記録が作成されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成28年4月4日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
フラックスとはんだ粉末が混合されて生成されるソルダペーストを、真空ポンプにより印刷室の排気を行うことにより得られる、大気圧に比べて減圧された減圧状態で、円形の開口部が形成されたマスク部材を介して基板にスキージを移動させて印刷することにより、ソルダペーストを前記マスク部材の前記開口部に供給した後、前記減圧状態から大気圧に解放することにより、ソルダペーストを前記開口部に充填するソルダペーストの印刷方法であって、
フラックスは、溶剤として、5Paの真空状態での8時間後の揮散による減量が10%に抑えられ、かつ、240℃以上の沸点を持つ溶剤のみを含み、このフラックスとはんだ合金が混合されたソルダペーストとして、25℃での粘度を50?150Pa・s、チキソ比を0.3?0.5としたソルダペーストを使用し、
前記マスク部材として、円形の前記開口部の開口巾が50μm以上60μm以下、アスペクト比が0.5以上1.67以下であるマスク部材を使用し、
前記マスク部材と前記スキージとの間に所定の隙間が設けられた状態とし、大気圧に比べて減圧された前記減圧状態で、前記マスク部材と前記スキージとの間の隙間を保ちながら前記スキージを移動させて、前記開口部及び前記マスク部材上に前記スキージでソルダペーストを供給して、前記開口部にソルダペーストを供給すると共に、前記マスク部材上及びソルダペーストが供給された前記開口部上にソルダペーストの被膜を形成した後、
ソルダペーストが供給された前記開口部上で被膜を形成しているソルダペーストを、前記減圧状態から大気圧に開放することにより、大気圧下で前記開口部に充填し、その後、前記マスク部材に前記スキージを密着させた状態とし、大気圧下で前記スキージを移動させて、前記マスク部材上及び前記開口部上のソルダペーストの余剰分を前記スキージで掻き取る
ことを特徴とするソルダペーストの印刷方法。
【請求項2】
フラックスとはんだ粉末が混合されて生成されるソルダペーストを、真空ポンプにより印刷室の排気を行うことにより得られる、大気圧に比べて減圧された減圧状態で、円形の開口部が形成されたマスク部材を介して基板にスキージを移動させて印刷することにより、ソルダペーストを前記マスク部材の前記開口部に供給した後、前記減圧状態から大気圧に解放することにより、ソルダペーストを前記開口部に充填するソルダペーストの印刷方法であって、
フラックスは、溶剤として、5Paの真空状態での8時間後の揮散による減量が10%に抑えられ、かつ、240℃以上の沸点を持つ溶剤のみを含み、このフラックスとはんだ合金が混合されたソルダペーストとして、25℃での粘度を50?150Pa・s、チキソ比を0.3?0.5としたソルダペーストを使用し、
前記マスク部材として、円形の前記開口部の開口巾が50μm以上60μm以下、アスペクト比が0.5以上1.67以下であるマスク部材を使用し、
前記マスク部材に前記スキージを密着させた状態とし、大気圧に比べて減圧された前記減圧状態で前記スキージを移動させて、前記開口部に前記スキージでソルダペーストを供給した後、
前記開口部に供給されたソルダペーストを、前記減圧状態から大気圧に開放することにより、大気圧下で前記開口部に充填した後、前記マスク部材に前記スキージを密着させた状態とし、大気圧下で前記スキージを移動させて、前記マスク部材上のソルダペーストを前記スキージで掻き取る動作で前記開口部にソルダペーストの不足分を充填する
ことを特徴とするソルダペーストの印刷方法。」

第3 平成28年5月11日付け拒絶理由の概要
平成28年5月11日付けで当審から通知された拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、以下のとおりである。
「理由1 平成28年4月4日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1 理由1について
平成28年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1及び2には、それぞれ、「円形の開口部が形成されたマスク部材」(当審注:下線は補正箇所を示すため合議体が付与した。以下、同様である。)との発明特定事項が追加された。
請求人は、当該手続補正の根拠について、平成28年4月4日付け意見書の(2)(2-b)において、「補正された請求項1及び2では、出願当初の明細書の段落[0100]、図面[図7]、[図8]に記載されたバンプの形状に基づき、開口部の・・・形状が円形であることを限定しました。」と主張している。
ここで、「開口部の・・・形状が円形である」とは、マスク部材に形成された開口部の平面形状が円形であることを意味していると認められるところ、当初明細書等の【0100】には、マスク部材に形成された開口部の平面形状が円形であることは、何ら記載も示唆もされていない。
また、当初明細書等の【図7】、【図8】からは、バンプの表面形状が八角形であることが見て取れることから、当初明細書等には、マスク部材に形成された開口部の平面形状が八角形であることは記載されているといえる。
しかし、八角形は円形ではないし、また、八角形との記載から、円形を導出することはできないから、当初明細書等には、マスク部材に形成された開口部の平面形状が円形であることは記載されているとはいえないし、また、この点が、当初明細書等の記載から自明であるともいえない。
したがって、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものといえない。

2 理由2について
(1) 請求項1及び2に記載される「円形の開口部が形成されたマスク部材」における「開口部」とは、「円形」が二次元の形状を表すものであるから、マスク部材の開口の形状を表していると解される。
一方、請求項1及び2に記載される「ソルダペーストを前記マスク部材の前記開口部に供給し」における「開口部」とは、穴全体を表していると解される。
そうすると、請求項1及び2に記載される「開口部」の意味は多義的であって、明確であるとはいえない。

(2) 請求項1においては、「ソルダペーストを、前記減圧状態から大気圧に開放することにより、大気圧下で前記開口部に充填し」た後、「前記スキージを密着させた状態」で、「前記マスク部材上及び前記開口部上のソルダペーストの余剰分を前記スキージで掻き取る」ものであるから、上記「ソルダペーストを・・・大気圧下で前記開口部に充填し」た際には、ソルダペーストはマスク部材の上面まで埋まっているといえる。
一方、請求項2においては、「ソルダペーストを、前記減圧状態から大気圧に開放することにより、大気圧下で前記開口部に充填した後、前記マスク部材に前記スキージを密着させた状態」で、「前記マスク部材上のソルダペーストを前記スキージで掻き取る動作で前記開口部にソルダペーストの不足分を充填する」ものであるから、上記「ソルダペーストを・・・大気圧下で前記開口部に充填した」際には、ソルダペーストはマスク部材の上面まで埋まっていないといえる。
そうすると、「ソルダペーストを、前記減圧状態から大気圧に開放することにより、大気圧下で前記開口部に充填し」との状態につき、請求項1と請求項2とでは、異なる状態を表しており、上記「充填」の意味は一義的なものとはいえない。」

第4 当審の判断
1 当審拒絶理由に対する平成28年7月19日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)及び同日付け手続補正書(以下、単に「手続補正書」という。)について
(1) 意見書及び手続補正書の内容
手続補正書による補正は、図7?図9のみを補正するものであり、当該補正について、意見書において、本願は、先の国内出願に基づく優先権主張を行った国際出願を日本国に移行した特許出願であるところ、先の国内出願の図7?図9は、写真をグレースケールで白黒化したものであるのに対し、本願の図7?図9は、同じ写真を二値化して白黒化したものであり、先の国際出願と、本願の図7?図9に差異が生じていたため、先の国内出願に基づき、本願の図7?図9を補正した旨の説明がなされている。

(2) 応対記録の内容
平成28年8月25日に作成された応対記録によれば、請求人は、本願の図7?図9と、優先権基礎出願の図7?図9とが異なっていることについて、本願は国際出願であって、国際出願の図面は、グレースケールは使用できないことになっており、白黒しか使用できないので、国際出願の際に、先の国内出願の図面を二値化した図面を提出したためである旨の釈明をしている。

(3) 手続補正書による補正の適否について
本願は、特願2011-131465号(以下、「先の国内出願」という。)を優先権主張の基礎とした国際出願PCT/JP2012/064801を国内移行した出願であるところ、手続補正書による補正後の図7?図9と、先の国内出願の図7?図9とを比較すると、両者が同じ図面であることは明らかである。
ここで、国際出願における図面に関する特別な要件は、「図面は、耐久性のある黒色の十分に濃厚な濃墨等を用いて、太さの均一な、かつ、明瞭な線で着色することなく作成します。グレースケールの使用はできません。」(特許庁「特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の手続」の「第3章 願書等の作成要領 第6節 図面の作成要領 2.記載要領 (2)図面に関する特別の要件の丸数字1」、p.50(http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/kokusai/pdf/h28jitsumu-pct/tetsuduki3.pdf)参照。)となっている。
上記国際出願における図面に関する特別な要件、上記(1)における意見書の内容、及び、上記(2)における応対記録の内容を参酌すれば、先の国内出願の図7?図9は、グレースケールであるため、国際出願においては使用できないことから、国際出願の際に、当該図7?図9を二値化して提出したものが、本願の補正前の図7?図9であるといえる。
そうすると、手続補正書による補正は、国際出願の際に二値化した図7?図9を、いずれも、二値化する前のグレースケールの図面(先の国際出願の図7?図9と同じ図面)とするものであるから、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
よって、手続補正書による補正は、適法である。

2 当審拒絶理由についての判断
(1) 理由1について
上記1(3)で検討したとおり、手続補正書による補正は、適法であるところ、当該補正後の図7及び図8からは、バンプの表面形状が円形であることが見て取れることから、当初明細書等には、マスク部材に形成された開口部の平面形状が円形であることが記載されているといえる。
そうすると、請求項1及び2に、それぞれ、「円形の開口部が形成されたマスク部材」との発明特定事項を追加する本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるといえるから、理由1は解消している。

(2) 理由2について
理由2において、明確でないとした請求項1及び2について、手続補正書では、何ら補正されていない。また、意見書では、請求項1及び2の記載が明確であることの釈明は何らなされていない。
したがって、理由2は依然として解消していない。
よって、本願は、当審拒絶理由の理由2によって拒絶すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、請求項1及び2の記載が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-19 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-07 
出願番号 特願2013-520529(P2013-520529)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田口 裕健高木 康晴  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
河本 充雄
発明の名称 ソルダペーストの印刷方法  
代理人 特許業務法人山口国際特許事務所  

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