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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N |
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管理番号 | 1320718 |
審判番号 | 不服2016-1345 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-01-29 |
確定日 | 2016-11-09 |
事件の表示 | 特願2014- 33833「ゾル粒子特異的結合アッセイの多波長分析」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月31日出願公開、特開2014-139571、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年3月20日 米国、2008年9月19日 米国)を国際出願日とする出願である特願2011-500931号の一部を平成26年2月25日に新たな特許出願としたものであって、平成26年12月15日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月16日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年1月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成28年1月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否 1 補正の内容 (1)請求項1について 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、 「 【請求項1】 第1試薬と第2試薬との混合時に、第1波長での第1反応速度および第2波長での第2反応速度を第1時点について測定する工程、および第1波長での第3反応速度および第2波長での第4反応速度を第2時点について測定する工程を含む、混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法であって、 前記第1試薬または前記第2試薬が金属ナノ粒子または金属ナノシェルに結合しており、前記第1波長が、金属ナノ粒子または金属ナノシェルの吸収スペクトルの光吸収波長領域内にあり、かつ前記第2波長が、金属ナノ粒子または金属ナノシェルの吸収スペクトルの散乱波長領域内にあり、かつ 前記第1反応速度および前記第2反応速度が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示し、かつ 前記第1および第2の反応速度の合計が、第1の所定の閾値と比較され、かつ/または前記第3および第4の反応速度の合計に対する前記第1および第2の反応速度の合計の比率が、第2の所定の閾値と比較される、前記方法。」 とする補正を含んでおり、補正後の請求項1に係る具体的な補正事項は以下のとおりである。 ア 補正前の請求項1及び2を引用していた補正前の請求項3を独立項として繰上げ、新たな請求項1とする(以下「補正事項1」という。)。 イ 補正前の請求項1ないし3に記載された「反応速度変化」を、「反応速度」に補正する(以下「補正事項2」という。)。 (2)請求項2について 本件補正は、特許請求の範囲の請求項2を、 「 【請求項2】 混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法であって、 第1試薬と第2試薬との混合のための初期反応期間中の複数の時点について、第1波長での反応速度の第1グループを測定する工程、および 前記複数の時点について、第2波長での反応速度の第2グループを測定する工程を含む方法であって、 前記第1試薬または前記第2試薬が金属ナノ粒子または金属ナノシェルに結合しており、前記第1波長が、金属ナノ粒子または金属ナノシェルの吸収スペクトルの光吸収波長領域内にあり、かつ前記第2波長が、金属ナノ粒子または金属ナノシェルの吸収スペクトルの散乱波長領域内にあり、かつ 前記反応速度の第1グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示すか、もしくは前記反応速度の第2グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示す、方法。」 とする補正を含んでおり、補正後の請求項2に係る具体的な補正事項は以下のとおりである。 ア 補正前の請求項1を引用していた補正前の請求項4を独立項として繰上げ、新たな請求項2とする(以下「補正事項3」という。)。 イ 補正前の請求項1及び4に記載された「反応速度変化」を、「反応速度」に補正する(以下「補正事項4」という。)。 (3)請求項3ないし8について 本件補正は、特許請求の範囲の請求項3ないし8を、 「 【請求項3】 前記反応速度の第1グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示すか、または前記反応速度の第2グループの積分が、所定の閾値と比較される、請求項2記載の方法。 【請求項4】 前記反応速度の第1グループが、第1波長に対応する吸光度値の第1セット、および参照波長に対応する参照吸光度値に基づいて決定され、該参照波長は、第1試薬、第2試薬、または複合体の光吸収または散乱に最小の干渉を有する波長であり、かつ前記反応速度の第2グループが、第2波長に対応する吸光度値の第2セット、および該参照吸光度値に基づいて決定される、請求項2記載の方法。 【請求項5】 前記反応速度の第1グループが、第1波長に対応する対照サンプルの吸光度値に基づいて標準化され、かつ前記反応速度の第2グループが、第2波長に対応する対照サンプルの吸光度値に基づいて標準化される、請求項2記載の方法。 【請求項6】 前記反応速度の第1グループが、反応期間中の第1時点での第1波長に対応する対照サンプルの吸光度値に基づいて標準化され、かつ前記反応速度の第2グループが、反応期間中の第1時点での第2波長に対応する対照サンプルの吸光度値に基づいて標準化される、請求項2記載の方法。 【請求項7】 前記反応速度の第1グループが、反応期間中の第1時点での第1波長に対応する吸光度値に基づいて標準化され、前記反応速度の第2グループが、反応期間中の第1時点での第2波長に対応する吸光度値に基づいて標準化される、請求項2記載の方法。 【請求項8】 前記反応速度の第1グループおよび前記反応速度の第2グループに基づいて、第1試薬と第2試薬との複合体の量を測定する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。」 とする補正を含んでおり、補正後の請求項3ないし8に係る具体的な補正事項は以下のとおりである。 ア 補正前の請求項5ないし10に記載された「請求項4記載の方法」を「請求項2記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項5ないし10をそれぞれ請求項3ないし8に繰り上げる(以下「補正事項5」という。)。 イ 補正前の請求項5ないし10に記載された「反応速度変化」を、「反応速度」に補正する(以下「補正事項6」という。)。 (4)請求項9及び10について 本件補正は、特許請求の範囲の請求項9及び10を、 「 【請求項9】 前記第1および第2の反応速度が正または負である、請求項1または2記載の方法。 【請求項10】 前記第1および第2の反応速度に基づいて、第1試薬と第2試薬との複合体の量を測定する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。」 とする補正を含んでおり、補正後の請求項9及び10に係る具体的な補正事項は以下のとおりである。 ア 補正前の請求項11及び12に記載した「請求項1記載の方法」を「請求項1または2記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項11及び12をそれぞれ請求項9及び10に繰り上げる(以下「補正事項7」という。)。 イ 補正前の請求項11及び12に記載された「反応速度変化」を、「反応速度」に補正する(以下「補正事項8」という。)。 (5)請求項11ないし17について 本件補正は、特許請求の範囲の請求項11ないし17を、 「 【請求項11】 前記光吸収波長領域が約280 nm?約550 nmであり、かつ/または前記散乱波長領域が約550 nm?約800 nmである、請求項1?10のいずれか一項記載の方法。 【請求項12】 前記第1波長が約515 nmであり、かつ前記第2波長が約600 nmである、請求項1?10のいずれか一項記載の方法。 【請求項13】 前記第1試薬が、生物学的サンプル中の分析物であり、かつ前記第2試薬が、第1試薬に特異的に結合する物質である、請求項1?12のいずれか一項記載の方法。 【請求項14】 前記第2試薬が、第1試薬に特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。 【請求項15】 前記第1試薬が、糸状虫、エーリキア・カニス(Ehrlichia canis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ボレリア・アフゼリ(Borrelia afzelii)、ボレリア・ガリニ(Borrelia garinii)、アナプラズマ・ファゴサイトフィルム(Anaplasma phagocytophilum)、ネコ白血病ウイルス、パルボウイルス、A型インフルエンザ株、B型インフルエンザ株、トリインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、レジオネラ菌、アデノウイルス、およびA群連鎖球菌のエピトープからなる群より選択される生物学的サンプル中の分析物である、請求項13記載の方法。 【請求項16】 前記第2試薬が、糸状虫、エーリキア・カニス、ボレリア・ブルグドルフェリ、ボレリア・アフゼリ、ボレリア・ガリニ、アナプラズマ・ファゴサイトフィルム、ネコ白血病ウイルス、パルボウイルス、A型インフルエンザ株、B型インフルエンザ株、トリインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、レジオネラ菌、アデノウイルス、またはA群連鎖球菌のエピトープへ特異的に結合する抗体である、請求項13記載の方法。 【請求項17】 前記金属ナノ粒子または前記金属ナノシェルが、金粒子、銀粒子、銅粒子、白金粒子、複合粒子、金中空球体、金コーティングシリカナノシェル、およびシリカコーティングゴールドシェルからなる群より選択される、請求項1?16のいずれか一項記載の方法。」 とする補正を含んでおり、補正後の請求項11ないし17に係る具体的な補正事項は以下のとおりである。 ア 補正前の請求項13及び14に記載された「請求項1?12のいずれか一項記載の方法」を「請求項1?10のいずれか一項記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項13及び14をそれぞれ請求項11及び12に繰り上げる(以下「補正事項9」という。)。 イ 補正前の請求項15に記載された「請求項1?14のいずれか一項記載の方法」を「請求項1?12のいずれか一項記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項15を請求項13に繰り上げる(以下「補正事項10」という。)。 ウ 補正前の請求項16ないし18に記載された「請求項15記載の方法」を「請求項13記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項16ないし18をそれぞれ請求項14ないし16に繰り上げる(以下「補正事項11」という。)。 エ 補正前の請求項19に記載された「請求項1?18のいずれか一項記載の方法」を「請求項1?16のいずれか一項記載の方法」に補正するとともに、補正前の請求項19を請求項17に繰り上げる(以下「補正事項12」という。)。 2 補正の適否 (1)補正事項1、3、5、7、9ないし12について 本件補正の補正事項1、3、5、7、9ないし12は、補正前の請求項1及び2を削除し、それに伴い補正前の請求項3及び4をそれぞれ独立項とするとともに、補正前の請求項3ないし19をそれぞれ請求項1ないし17に繰り上げ、引用する請求項を補正後の請求項に対応させるものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 そして、補正事項1、3、5、7、9ないし12は、同法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。 (2)補正事項2、4、6及び8について 本件補正の補正事項2、4、6及び8は、平成26年12月15日付けで拒絶理由通知で指摘した拒絶理由に対応し、「反応速度変化」が「反応速度」であることを明確にするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、反応速度の合計又は積分を用いることは、願書に最初に添付した明細書の段落【0077】及び【0090】に記載されているから、補正事項2、4、6及び8は、同法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし17に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記「第2 1(1)ないし(5)」参照。)。 第4 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 (1)理由1 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ア 本願請求項1には、「反応速度変化を測定」と記載されているが、「反応速度変化」とは、具体的に何を測定しているのか、その意味内容が不明である。 イ 本願請求項1には、「前記第1反応速度変化および前記第2反応速度変化が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示す」と記載されている。しかしながら、第1反応速度変化および第2反応速度変化がどの条件を満たした場合に、複合体の存在/非存在が決定されるのかが不明瞭であるため、発明の意味内容が不明確である。 請求項2に対しても、同様。 (2)理由2 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1-19 ・引用文献1-3 引用文献1:特開平6-94719号公報 引用文献2:特開2005-283250号公報 引用文献3:特開昭63-149565号公報 引用文献1の最大反応速度等のパラメータに替えて、引用文献2及び3に記載の反応速度変化パラメータから複合体の存在を検出する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 2 原査定の理由の判断 (1)理由1について ア 本件補正により「反応速度変化」は「反応速度」に補正されたから、測定する事項が明確となった。 イ 本件補正により補正前の請求項1及び2は削除され、本願発明1は「第1および第2の反応速度の合計が、第1の所定の閾値と比較され、かつ/または」「第3および第4の反応速度の合計に対する前記第1および第2の反応速度の合計の比率が、第2の所定の閾値と比較される」ものとなり、複合体の存在または非存在を決定するための条件が明確となった。 ウ 以上のとおりであるから、本願発明1ないし17は明確であり、原査定の拒絶の理由1によっては、本願を拒絶することはできない。 (2)理由2について ア 引用文献の記載事項 (ア)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 a 「【特許請求の範囲】 【請求項1】測定対象物質に対する抗体(又は抗原)が結合した金コロイド粒子(以下、感作金コロイド粒子と略記する。)と測定対象物質とを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいて測定対象物質を定量することを特徴とする比色分析法。」 b 「【0014】実施例1. (1)抗ヒトIgGモノクローナル抗体感作金コロイド試液の調製 抗ヒトIgGモノクローナル抗体溶液(1mg/ml、和光純薬工業(株)製)17μlに、0.2M K_(2)CO_(3)水溶液でpH=6.0に調整した金コロイドゾル溶液(ジャンセン社製)10mlをすばやく混合し、そのまま10分間室温放置した。その後、反応液に1%(w/w)カーボワックス20M溶液500μlを加えて均一になるように混合し、7000gで20分間遠心分離し、その沈澱物に分散液(50mMリン酸ナトリウム、0.0005%ゼラチン、0.02%カーボワックス20M pH6.5)を加えてOD_(540)=5.0となるようにしたものを、抗ヒトIgGモノクローナル抗体感作金コロイド試液とした。 (2)金コロイド試液を用いた検量線の作成 96穴プレートの各ウェルに濃度既知のヒトIgG溶液40μlを入れ、さらに上記(1)で得た抗ヒトIgGモノクローナル抗体感作金コロイド試液100μlを添加し、SOFTmaxーJ(Ver.2.01J、和光純薬工業(株)製)によりλ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm、オートミックス一回、測定時間10min、測定インターバル12sec.に条件設定したマイクロプレートリーダーUVmax(モレキュラーデバイス社製)で二波長ネガティブカイネティック測定した。得られた測定結果を、更にSOFTmaxーJを使用して、ラグタイム12sec,Vmaxポイント=2の条件で処理して最大反応速度Vmaxを求めた。得られたVmaxとIgG濃度(μg/ml)との関係を表わす検量線を図1に示す。図1から明らかな如く、良好な直線性を有する検量線が得られることが判る。」 (イ)引用文献1に記載された発明の認定 a 上記(ア)bの記載から、「ヒトIgG」が測定対象物質であり、「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」が測定対象物質に対する抗体であることは明らかである。 b 上記(ア)bの記載から、得られた「検量線」を用いて「ヒトフィブリノーゲン」を定量することは明らかである。 c 上記a及びbを踏まえると、上記(ア)a及びbの記載から、引用文献1には、 「 ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する比色分析法において、 96穴プレートの各ウェルに濃度既知のヒトIgG溶液40μlを入れ、さらに抗ヒトIgGモノクローナル抗体感作金コロイト゛試液100μlを添加し、SOFTmaxーJ(Ver.2.01J、和光純薬工業(株)製)によりλ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm、オートミックス一回、測定時間10min、測定インターハ゛ル12sec.に条件設定したマイクロプレートリーダーUVmax(モレキュラーデバイス社製)で二波長ネカ゛ティフ゛カイネティック測定し、得られた測定結果を、更にSOFTmaxーJを使用して、ラク゛タイム12sec,Vmaxホ゜イント=2の条件で処理して最大反応速度Vmaxを求め、得られたVmaxとIgG濃度(μg/ml)との関係を表わす検量線を用いる、比色分析法。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 (ウ)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 a 「【請求項1】 被測定物質と、該被測定物質と特異的に結合し得る物質が結合した金コロイド粒子とを溶液中で反応させ、反応開始後の吸光度変化を、610nm?800nmで測定する工程を含む、金コロイド凝集反応の測定方法。 【請求項2】 前記反応開始後の吸光度変化を、610nm?800nmおよび360nm?510nmの二波長で測定する、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記被測定物質と特異的に結合し得る物質が、抗体または抗原である、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 被測定物質と、該被測定物質と特異的に結合し得る物質が結合した金コロイド粒子とを溶液中で反応させ、反応開始後の吸光度変化を、610nm?800nmで測定することにより、該被測定物質を測定する工程を含む、被測定物質の測定方法。」 b 「【0018】 本発明における反応開始後の吸光度変化は、一波長測定であっても二波長測定であってもよい。一波長測定の場合は、測定波長は、610nm?800nm、好ましくは630nm?750nmである。二波長測定の場合は、測定波長は、第一波長610nm?800nm、好ましくは630nm?750nmと、第二波長360nm?510nm、好ましくは400nm?500nmである。本発明の方法において吸光度変化とは、以下の2通りの測定により得られた値であり、いずれであってもよい: (1)反応開始後に反応液の吸光度を適当な間隔で2回測定し、その差を吸光度変化とする;または (2)反応開始後に反応液の吸光度を連続的に測定し、時間当たりの吸光度変化率(その最大変化率を用いる場合もある)を吸光度変化とする。」 (エ)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献3には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。 a 第3頁左下欄13行?右下欄10行 「 さらに本発明の免疫測定法は、(a)抗原もしくは抗体を含む検体と、該抗原もしくは抗体に抗原抗体反応しろる抗体もしくは抗原とを液体媒体中で反応させて抗原-抗体結合物を生成させる工程,(b)該反応系に所定の波長を有する第1波長光および第2波長光をそれぞれ個別にあるいは同時に照射し,その透過光強度もしくは散乱光強度をそれぞれ測定する工程,(c)該(b)工程における測定の所定時間後に該(b)工程と同一の操作を行う工程,(d)該(b)工程および(c)工程で得られた該第1波長光による測定値a_(1)およびa'_(1)と該第2波長光による測定値a_(2)およびa'_(2)との比A(すなわちa_(1)/a_(2))およびA'(すなわちa'_(1)/a'_(2))をそれぞれ算出する工程,(e)該AおよびA'から該測定値の時間による変化率を求める工程,および(f)該変化率を該抗原-抗体結合物の生成速度の指標とし,該検体中の抗原もしくは抗体量を求める工程を包含し,そのことにより上記目的が達成される。」 イ 本願発明1について (ア)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「ヒトIgG」、「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」及び「金コロイド粒子」と、本願発明1の「第1試薬」、「第2試薬」及び「金属ナノ粒子」とは、それぞれ「第1反応物」、「第2反応物」及び「金属粒子」である点において共通する。 b 引用発明において、「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ」ることにより「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgG」との複合体が形成され、その結果、「金コロイド粒子の吸光度変化」が生じることは明らかである。 よって、引用発明の「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する比色分析法」と、本願発明1の「混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法」とは、「混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法」である点において共通する。 c 引用発明において、吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する際に、検量線を求める際と同じ波長及び測定条件を用いて最大反応速度を求めること、すなわち、10分間12秒ごとにλ_(1)=540nm及びλ_(2)=405nmで測定し、その測定結果から最大反応速度を求めることは明らかである。 よって、引用発明の「λ_(1)=540nm」及び「λ_(2)=405nm」と、本願発明1の「第1波長」及び「第2波長」とは、それぞれ「第1測定波長」及び「第2測定波長」である点において共通する。 また、引用発明は、本願発明1の「第1時点」及び「第2時点」に対応する複数の時点で「λ_(1)=540nm」及び「λ_(2)=405nm」を用いて反応速度を測定しているものといえる。 d 引用発明において、「定量する」際に、「最大反応速度」を「検量線」と照合することは明らかである。 よって、引用発明の「最大反応速度」を「検量線」と照合することと、本願発明1の「第1および第2の反応速度の合計が、第1の所定の閾値と比較され、かつ/または」「第3および第4の反応速度の合計に対する前記第1および第2の反応速度の合計の比率が、第2の所定の閾値と比較される」こととは、「反応速度を用いて判定する」ことである点において共通する。 (イ)一致点及び相違点 よって、本願発明1と引用発明とは、 「 第1反応物と第2反応物との混合時に、第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度を第1時点について測定する工程、及び、第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度を第2時点について測定する工程を含む、混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法であって、 前記第2反応物が金属粒子に結合しており、 反応速度を用いて判定する、前記方法。」 の発明である点で一致し、次の6点で相違する。 (相違点1) 第1反応物及び第2反応物が、本願発明1においては、「第1試薬」及び「第2試薬」であるのに対し、引用発明においては、「ヒトIgG」及び「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」である点。 (相違点2) 第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度を第1時点について測定する工程、及び、第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度を第2時点について測定する工程が、本願発明1においては、「第1波長での第1反応速度および第2波長での第2反応速度を第1時点について測定する工程」、及び、「第1波長での第3反応速度および第2波長での第4反応速度を第2時点について測定する工程」であるのに対し、引用発明においては、複数の時点で「λ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm」を用いて反応速度を測定する工程といえるものの、「λ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm」のそれぞれに関して反応速度を測定しているかは不明である点。 (相違点3) 混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法が、本願発明1においては、「混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法」であるのに対し、引用発明においては、「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する比色分析法」である点。 (相違点4) 第1測定波長及び第2測定波長が、本願発明1においては、「第1波長が、金属ナノ粒子」「の吸収スペクトルの光吸収波長領域内にあり、かつ」「第2波長が、金属ナノ粒子」「の吸収スペクトルの散乱波長領域内にあ」るのに対し、引用発明においては、波長が特定されているものの、金コロイド粒子の吸収スペクトルとの関係は特定されていない点。 (相違点5) 本願発明1においては、「第1反応速度および」「第2反応速度が、」「第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示」すのに対し、引用発明においては、そのような特定がされていない点。 (相違点6) 反応速度を用いて判定することが、本願発明1においては、「第1および第2の反応速度の合計が、第1の所定の閾値と比較され、かつ/または」「第3および第4の反応速度の合計に対する前記第1および第2の反応速度の合計の比率が、第2の所定の閾値と比較される」ことであるのに対し、引用発明においては、「最大反応速度」を「検量線」と照合することである点。 (ウ)当審の判断 上記相違点6について検討する。 上記「ア(ウ)」及び「ア(エ)」から、引用文献2及び3には、吸光度変化率に基づく反応速度を用いて反応生成物を検出することが記載されていると認められるが、上記相違点6に係る本願発明1の発明特定事項である「第1および第2の反応速度の合計が、第1の所定の閾値と比較され、かつ/または」「第3および第4の反応速度の合計に対する前記第1および第2の反応速度の合計の比率が、第2の所定の閾値と比較される」ことについては、記載も示唆もされていない。 してみると、引用文献1ないし3に接した当業者といえども、上記相違点6に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起することはできない。 したがって、上記相違点1ないし5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2及び3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 本願発明2について (ア)対比 本願発明2と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「ヒトIgG」、「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」及び「金コロイド粒子」と、本願発明2の「第1試薬」、「第2試薬」及び「金属ナノ粒子」とは、それぞれ「第1反応物」、「第2反応物」及び「金属粒子」である点において共通する。 b 引用発明において、「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ」ることにより「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgG」との複合体が形成され、その結果、「金コロイド粒子の吸光度変化」が生じることは明らかである。 よって、引用発明の「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する比色分析法」と、本願発明2の「混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法」とは、「混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法」である点において共通する。 c 引用発明において、吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する際に、検量線を求める際と同じ波長及び測定条件を用いて最大反応速度を求めること、すなわち、10分間12秒ごとにλ_(1)=540nm及びλ_(2)=405nmで測定し、その測定結果から最大反応速度を求めることは明らかである。 よって、引用発明の「λ_(1)=540nm」及び「λ_(2)=405nm」と、本願発明2の「第1波長」及び「第2波長」とは、それぞれ「第1測定波長」及び「第2測定波長」である点において共通する。 また、引用発明は、本願発明2の「初期反応期間中の複数の時点」に対応する複数の時点について「λ_(1)=540nm」及び「λ_(2)=405nm」を用いて反応速度のグループを測定しているものといえる。 d 引用発明において、「定量する」際に、「最大反応速度」を「検量線」と照合することは明らかである。 よって、引用発明の「最大反応速度」を「検量線」と照合することと、本願発明2の「反応速度の第1グループの積分が、」「第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示すか、もしくは」「反応速度の第2グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示す」こととは、「反応速度を用いて判定する」ことである点において共通する。 (イ)一致点及び相違点 よって、本願発明2と引用発明とは、 「 混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法であって、 第1反応物と第2反応物との混合のための初期反応期間中の複数の時点について、第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度のグループを測定する工程を含む方法であって、 前記第2反応物が金属粒子に結合しており、 反応速度を用いて判定する、方法。」 の発明である点で一致し、次の6点で相違する。 (相違点1) 第1反応物及び第2反応物が、本願発明2においては、「第1試薬」及び「第2試薬」であるのに対し、引用発明においては、「ヒトIgG」及び「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」である点。 (相違点2) 混合物中における第1反応物と第2反応物との複合体を検出するための方法が、本願発明2においては、「混合物中における第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を決定するための方法」であるのに対し、引用発明においては、「ヒトIgGに対する抗ヒトIgGモノクローナル抗体が結合した金コロイド粒子とヒトIgGとを反応させ、その結果生ずる金コロイド粒子の吸光度変化に基づいてヒトIgGを定量する比色分析法」である点。 (相違点3) 第1反応物と第2反応物との混合のための初期反応期間中の複数の時点について、第1測定波長及び第2測定波長を用いて反応速度のグループを測定する工程が、本願発明2においては、「第1試薬と第2試薬との混合のための初期反応期間中の複数の時点について、第1波長での反応速度の第1グループを測定する工程、および前記複数の時点について、第2波長での反応速度の第2グループを測定する工程」であるのに対し、引用発明においては、「ヒトIgG」及び「抗ヒトIgGモノクローナル抗体」との混合のための初期反応期間中の複数の時点について、「λ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm」を用いて反応速度のグループを測定する工程といえるものの、「λ_(1)=540nm、λ_(2)=405nm」のそれぞれに関して反応速度のグループを測定しているかは不明である点。 (相違点4) 第1測定波長及び第2測定波長が、本願発明2においては、「第1波長が、金属ナノ粒子」「の吸収スペクトルの光吸収波長領域内にあり、かつ」「第2波長が、金属ナノ粒子」「の吸収スペクトルの散乱波長領域内にあ」るのに対し、引用発明においては、波長が特定されているものの、金コロイド粒子の吸収スペクトルとの関係は特定されていない点。 (相違点5) 反応速度を用いて判定することが、本願発明2においては、「反応速度の第1グループの積分が、」「第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示すか、もしくは」「反応速度の第2グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示す」ことであるのに対し、引用発明においては、「最大反応速度」を「検量線」と照合することである点。 (ウ)当審の判断 上記相違点5について検討する。 上記「ア(ウ)」及び「ア(エ)」から、引用文献2及び3には、吸光度変化率に基づく反応速度を用いて反応生成物を検出することが記載されていると認められるが、上記相違点5に係る本願発明2の発明特定事項である「反応速度の第1グループの積分が、」「第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示すか、もしくは」「反応速度の第2グループの積分が、前記第1試薬と第2試薬との複合体の存在または非存在を示す」ことについては、記載も示唆もされていない。 してみると、引用文献1ないし3に接した当業者といえども、上記相違点5に係る本願発明2の発明特定事項を容易に想起することはできない。 したがって、上記相違点1ないし4について検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明及び引用文献2及び3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 エ 本願発明3ないし17について 本願発明3ないし17は、本願発明1又は2の発明特定事項を全て含み、本願発明1又は2を更に限定したものであるから、本願発明1又は2と同様に、引用発明及び引用文献2及び3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 オ 小括 以上のとおりであるから、本願発明1ないし17は、引用発明及び引用文献2及び3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、原査定の拒絶の理由2によっては、本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-10-28 |
出願番号 | 特願2014-33833(P2014-33833) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 渡戸 正義 |
発明の名称 | ゾル粒子特異的結合アッセイの多波長分析 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 川本 和弥 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 五十嵐 義弘 |
代理人 | 山口 裕孝 |