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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1320853
審判番号 不服2014-11039  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2016-11-09 
事件の表示 特願2010-550721「水障壁封止方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日国際公開、WO2009/114242、平成23年 4月28日国内公表、特表2011-513944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年 2月17日(パリ条約による優先権主張 2008年 3月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成24年 2月14日:手続補正書
平成25年 2月 4日:拒絶理由通知(同年同月12日発送)
平成25年 5月 7日:意見書
平成25年 5月 7日:手続補正書(以下「手続補正1」という。)
平成26年 1月30日:拒絶査定(同年2月12日送達)
平成26年 6月11日:審判請求


2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、手続補正1による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、以下のものである(以下「本願発明」という。)。
「基板と、
前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分と、
前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含み、
前記多層水障壁封止構造体はシリコンを含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含み、
前記多層水障壁封止構造体の各層は同一の厚さである、
有機発光ダイオード構造体。」


3 刊行物の記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特表2004-537448号公報(以下、「引用文献1」という。)」には、「気体および蒸気に対する浸透度の低いコーティング」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)

ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)有機基板層と、
ii)有機基板層上の多層浸透障壁とを含む多層構造であって、該障壁が、
a)該基板層の表面に接触する第1の無機コーティングと、
b)第1の無機コーティングの表面に接触する第1の有機コーティングとを含む多層構造。
・・・(略)・・・
【請求項6】
無機コーティングは厚さが45nmから350nmである、請求項1、2、または5に記載の多層構造。
・・・(略)・・・
【請求項8】
有機コーティングは厚さが20nmから500nmである、請求項1、2、5、6、または7に記載の多層構造。
・・・(略)・・・
【請求項14】
各無機コーティングは、SiO_(2)、SiO_(x)、SiO_(x)C_(y)、Si_(3)N_(4)、Si_(x)N_(y)C_(z)、SiO_(x)N_(y)、TiO_(2)、TiO_(x)、ZrO_(2)、ZrO_(x)、Al_(2)O_(3)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ITO、PbO、PbO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、無定形炭素、硫黄、セレン、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、それらの混合物、それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で完全にまたは基本的に作られ、この場合xは1から3までの整数を表し、yは0.01から5の範囲の数を表し、zは0.01から5の範囲の数を表す、請求項1から13のいずれか一項に記載の多層構造。」

イ「【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、水蒸気および酸素を浸透させない構造、ならびにその構造を含む装置と、そのような構造および装置を製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
障壁コーティングは、重合材料に対する気体および蒸気の浸透度を数オーダー程度低減させることができる。このようなコーティングは、食品および薬品の包装ならびに電子用途においてガラスに代わることのできる材料を作製するのに用いられる。このようなコーティングは、腐食性の液体、気体、または蒸気による腐食に対する保護コーティングとしても使用される。特に重要で要求のきびしい用途として、有機半導体に基づく発光装置または光起電力装置に関する用途がある。
【0003】
有機発光ダイオード(OLED)装置は、透明な基板が透明な導電材料、たとえば、発光ダイオードの最下層として正孔注入電極を形成する酸化すずインジウム(ITO)で被覆される発光ディスプレイである。ダイオードの残りの層は、ITO層に隣接する層から始まり、正孔輸送層(HTL)、電子輸送層(ETL)、および電子注入電極を含む。
【0004】
正孔輸送層は基本的にp型半導体であり、電子輸送層は基本的にn型半導体である。これらは有機層であり、特に共役有機物または共役ポリマーであり、後者は、ドーパントなしでは不十分な導体であるが、ドーピングによって正孔(p型)または電子(n型)を伝導する。
【0005】
電子注入電極は通常、カルシウム、リチウム、マグネシウムなどの金属である。
【0006】
ダイオードに電圧がかけられると、電子が正孔輸送層に向かって流れ、正孔が電子輸送層に向かって流れる。これによって、エネルギーを光として放出する電子-正孔の再結合が形成される。正孔輸送層(HTL)および電子輸送層(ELT)は集合的にダイオードのエレクトロルミネセント層(EL)を形成する。
【0007】
このようなOLEDは、効率が高く、最も重要な点としてコストの安いアクティブ有機ディスプレイの新しい世代を構成する。このようなディスプレイでは、透明な材料に密封された発光ダイオードのマトリックスによって高品質の画像が形成される。
【0008】
ダイオードは、画素マトリックスを形成するようにパターン化され、この場合、単一画素接合部またはELが所与の色の光を放出する。現在までに設計されているすべての有機ディスプレイは、酸素または水分の影響を受ける要素、すなわち、有機半導体および電子注入金属を含んでいる。
【0009】
したがって、ダイオードは、酸素および水蒸気に対する障壁を形成し、ダイオードの各層を覆う不浸透層と、好ましくは透明度が高く、不浸透性であり、酸素および水蒸気に対する障壁を形成する、覆われたダイオードの支持体によって保護する必要がある。」

ウ「【0055】
図1?4は、後でOLEDまたは他の電子装置を付着させるのに用いることのできる、障壁で被覆されたプラスチック基板を示している。

図5から8は、すでに不浸透性の基板(図6)上に付着しているOLED(図5から7)または他の電子装置(図8)を密封する多層コーティングの構成を示している。

図5から7は、ガラス上に作製されたOLEDを示している。一般に、図5から7は、他の剛性または可とう性の基板上に作製された他の装置を示す場合もある。ここで、無機コーティング14は、浸透方向に沿って見た場合、プラスチック膜、すなわち有機基板12にも接触する。このプラスチック膜は、図1から4の基板であっても、上下逆さまに配置され接着剤によって固定された構造全体であっても、たとえば、拡散係数の小さい硬化可能な樹脂の、厚いマルチマイクロメール・トップコート保護層であってもよい。」

エ「【0098】
図面の詳細な説明
図1を参照すると、多層障壁構造10は、無機コーティング14および有機コーティング16を有する有機膜基板12を含み、矢印は浸透方向を示している。無機コーティング14は、基板12の表面18に直接接触する。
【0099】
図2において、多層障壁構造100は、有機膜基板12と、基板12に直接接触する無機コーティング14と、コーティング14上の有機コーティング16と、コーティング16上の第2のコーティング114とを含んでいる。
【0100】
図3において、多層障壁構造200は、所定の順序に付着させたいくつかの異なる無機および有機コーティング層を有し、特に、第1の無機コーティング14は、基板12に接触し、有機コーティング16は無機コーティング14に接触し、第1の無機コーティング14と同じ材料の第2の無機コーティング114は有機コーティング16と接触し、第2の種類の無機コーティング24は第2の無機コーティング114を被覆し、第2の種類の有機コーティング26は無機コーティング24に接触し、コーティング14および114と同じ種類の最後の無機コーティング214は、有機コーティング26に接触し、矢印は浸透方向を示している。
【0101】
図4において、多層障壁構造300は、無機コーティング14と有機コーティング16との7つの交互の層をプラスチック膜基板上に含み、矢印は浸透方向を示している。無機コーティングはすべて、有機コーティング16と同じ種類である。
【0102】
図5において、OLEDアセンブリ50は、ガラス基板54を有するOLED 52を密封する図2の多層障壁構造100を有している。構造100は、OLED 52上に密封カバー56を形成し、矢印は拡散方向を示している。
【0103】
図6は、構造100の無機コーティング14と、保護層58と、低仕事関数電極層60と、電子輸送有機層62と、正孔有機層64と、透明導電電極、たとえば、インジウム酸化すずITO 66と、薄膜トランジスタ(TFT)を含む典型的なアクティブ・マトリックス・ディスプレイの概略的に示されている他の構成要素68とを有する図5のOLED 52(図5の磁化された部分(当審注:「拡大された部分」の誤訳であることは明らかである。))の概略図である。ガラス基板は修飾することができ、たとえばSiNコーティングで不動態化することができる。」

オ「【0107】
実施例
本発明は、本発明の範囲を制限するのではなく本発明を例示するために与えられている以下の実施例を参照することによってより容易に理解されよう。
【0108】
実施例I
この実施例では、ポリエチレンテレフタレート(PET)膜の表面上に順次付着させた無機層(実施例ではSiO_(2)と呼ばれるプラズマ付着シリカ)と有機層(プラズマ重合ヘキサメチルジシロキサンPP-HMDSO)の多層構造を含む高障壁材料の作製について説明する。
【0109】
PET膜の手紙サイズ・サンプルを真空プラズマ・チャンバ内のRF駆動電極上に置き、約10^(-3)Torrの基底圧力まで真空排気した。プラズマ強化化学蒸着法(PECVD)を用いて、高濃度の酸素が存在する状態でヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)から第1の層、すなわちSiO_(2)を付着させた。付着は、以下のプラズマ・パラメータを用いて行った。
【0110】
RF電力P=80W、総圧力p=80mTorr、付着時間t=40s。それぞれの流量で表される気体混合物成分の体積比は、HMDSO -10sccm、O_(2) -90sccm、およびAr -15sccmであった。第2の層、すなわちプラズマ重合ヘキサメチルジシクロサン(PP-HMDSO)を、PECVD法を用いて、不活性気体の存在する状態でヘキサメチルジシクロサン(HMDSO)から付着させた。付着は、以下のプラズマ・パラメータを用いて行った。RF電力P=65W、総圧力p=80mTorr、付着時間t=20s。それぞれの流量で表される気体混合物成分の体積比は、HMDSO -10sccmおよびAr -15sccmであった。
【0111】
次いで、付着と(PP-HMDSO)の手順を繰り返し、PET/SiO_(2)/PP HMDSO/SiO_(2)/PP HMDSO/SiO_(2)の5層高障壁材料の最終構造を得た。連続する層の厚さは表1に示されている。
【表1】

表1:厚さの測定は、可変角度分光偏光解析法(J.A. Woollam Company, Inc.)を用いて基準シリコン・ウェハに対して行った。
【0112】
Mocon「Oxtran 2/20MB」計器の感度限界(0.1cm^(3)/m^(2)日)よりも低い酸素透過率、OTR(30℃、0%RH、100%O_(2))が得られた。」

(2)引用発明
以上の記載内容からみて、引用文献1には、請求項14(請求項1を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項14)に係る発明をOLEDに適用した例として次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、引用発明の認定に際して参考にした引用文献の記載箇所を、段落番号で付記した。また、用語及び符号を図5のものに統一し、引用文献1の各記載事項における「『有機基板層』、『基板層』、『有機膜基板12』」を「有機膜基板12」とし、「『多層構造』、『多層障壁構造100』」を「多層障壁構造100」とし、「『第1の無機コーティング』、『無機コーティング』、『無機コーティング14』」を「無機コーティング14」とし、「『第1の有機コーティング』、『有機コーティング』、『有機コーティング16』」を「有機コーティング16」とした。

「【0102】ガラス基板54を有するOLED52を密封し【0001】水蒸気を浸透させない【0102】多層障壁構造100をOLED52上に有するOLEDアセンブリであって、
【請求項1】当該多層障壁構造100は、
有機膜基板12と、
有機膜基板12上の多層浸透障壁とを含む多層障壁構造100であって、該多層浸透障壁が、
前記有機膜基板12の表面に接触する無機コーティング14と、
前記無機コーティング14の表面に接触する有機コーティング16とを含み、
【請求項6】前記無機コーティング14は厚さが45nmから350nmであり、
【請求項8】前記有機コーティング16は厚さが20nmから500nmであり、
【請求項14】前記無機コーティング14は、SiO_(2)、SiO_(x)、SiO_(x)C_(y)、Si_(3)N_(4)、Si_(x)Ni_(y)C_(z)、SiO_(x)N_(y)、TiO_(2)、TiO_(x)、ZrO_(2)、ZrO_(x)、Al_(2)O_(3)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ITO、PbO、PbO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、無定形炭素、硫黄、セレン、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、それらの混合物、それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる、OLEDアセンブリ。」


4 本願発明についての対比・判断
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「ガラス基板54」は、本願発明の「基板」に相当する。

イ 引用発明の「ガラス基板54を有するOLED52」に関して、引用文献1の【0003】(上記3(1)イ参照)に記載されるとおり、「OLED」は「有機発光ダイオード」を意味するから、引用発明の「ガラス基板54を有するOLED52」は、本願発明の「基板と、前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分」に相当する。

ウ 引用発明の「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」からなる層は、「OLED52を密封し水蒸気を浸透させない多層障壁構造100」の「多層浸透障壁」を構成するものであるから、本願発明の「多層水障壁封止構造体」に相当する。

エ 引用発明の「OLEDアセンブリ」は、上記アに記載したとおり「OLED」が「有機発光ダイオード」を意味することから、本願発明の「有機発光ダイオード構造体」に相当する。

オ 上記ア?エから、引用発明の「ガラス基板54を有するOLED52を密封」し「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」からなる層を含む「多層障壁構造100をOLED52上に有するOLEDアセンブリ」は、多層障壁構造100によるOLED52の密封がガラス基板54と反対側から行われることは技術常識であるから(例えば、引用文献1の図5及び図6(上記3(1)ウ)を参照。)、本願発明の「基板と、前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分と、前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含」む「有機発光ダイオード構造体」に相当する。

カ 引用発明の「無機コーティング14」と、本願発明の「シリコンを含む1以上の層」とは、「元素を含む1以上の層」である点で一致する。

キ 引用発明の「有機コーティング16」は、有機物が炭素を含むことは技術常識であるから、本願発明の「炭素を含む1以上の層」に相当する。

ク 上記ウ、カ?キから、引用発明の「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」からなる層と、本願発明の「多層水障壁封止構造体」とは、「元素を含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含」む点で一致する。

(2)本願発明と引用発明の一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「基板と、
前記基板の上に配置される有機発光ダイオード部分と、
前記有機発光ダイオード部分上に配置される多層水障壁封止構造体とを含み、
前記多層水障壁封止構造体は元素を含む1以上の層及び炭素を含む1以上の層を含む、
有機発光ダイオード構造体。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「元素を含む1以上の層」が、本願発明では「シリコンを含む1以上の層」であるのに対し、引用発明では「SiO_(2)、SiO_(x)、SiO_(x)C_(y)、Si_(3)N_(4)、Si_(x)Ni_(y)C_(z)、SiO_(x)N_(y)、TiO_(2)、TiO_(x)、ZrO_(2)、ZrO_(x)、Al_(2)O_(3)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ITO、PbO、PbO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、無定形炭素、硫黄、セレン、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、それらの混合物、それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる」層である点。

(相違点2)
「多層水障壁封止構造体の各層」の「厚さ」が、本願発明では「同一」であるのに対し、引用発明では、「無機コーティング14」の「厚さが45nmから350nm」であり、「有機コーティング16」の「厚さが20nmから500nm」である点。

(3)相違点の判断
ア 相違点1について
引用発明において、「無機コーティング14」(本願発明の「元素を含む1以上の層」)は、「SiO_(2)、SiO_(x)、SiO_(x)C_(y)、Si_(3)N_(4)、Si_(x)Ni_(y)C_(z)、SiO_(x)N_(y)、TiO_(2)、TiO_(x)、ZrO_(2)、ZrO_(x)、Al_(2)O_(3)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ITO、PbO、PbO_(2)、B_(2)O_(3)、P_(2)O_(5)、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、無定形炭素、硫黄、セレン、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、酸化カルシウム、それらの混合物、それらの合金または化合物から成る群から選択される無機材料で作られる」層であり、引用文献1の【0107】?【0112】(上記3(1)オ参照)に記載された実施例では、特にSiO_(2)を用いることが記載されている。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
あるいは、引用発明において、「無機コーティング14」として、上記各無機材料のうち「SiO_(2)」、「SiO_(x)」、「SiO_(x)C_(y)」、「Si_(3)N_(4)」、「Si_(x)Ni_(y)C_(z)」、「SiO_(x)N_(y)」といった材料を用い、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。

イ 相違点2について
引用発明において、「無機コーティング14」は「厚さが45nmから350nm」であり、「有機コーティング16」は「厚さが20nmから500nm」であり、引用発明において、「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」が取り得る膜厚の範囲は、厚さ45nmから350nmの範囲で重複しているから、「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」が実質的に同じ厚さを有していてもよく、引用発明において、「無機コーティング14」及び「有機コーティング16」の膜厚を同一とすることは、引用発明を具体化するに際して当業者が容易に想到し得た事項である。

(4)本願発明の効果について
相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。
なお、相違点2に係る本願発明の発明特定事項により奏される効果に関して、本願の明細書(【0031】参照)には、「多層水障壁封止構造体の各層は、実質的に同じ厚さを有してもよい。」と記載されているが、その構成をとることによる効果は記載されていない。また、「多層水障壁封止構造体の各層」の厚さを同じ厚さにすることで何らかの格別な効果を奏するという技術常識はなく、そのような効果は当業者に自明なものでもない。

(5)まとめ
上記(1)?(4)のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-22 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-11 
出願番号 特願2010-550721(P2010-550721)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐竹 政彦
清水 康司
発明の名称 水障壁封止方法  
代理人 小林 義教  
代理人 園田 吉隆  

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