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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F21S
管理番号 1320948
審判番号 不服2015-11357  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2013-223510号「発光装置、および照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日出願公開、特開2014- 60164号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月1日に出願した特願2010-268677号の一部を平成25年10月28日に新たな特許出願としたものであって、平成26年8月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年3月19日付けで拒絶査定がされ、同年6月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成26年10月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「励起光を出射する励起光源と、
上記励起光源から出射された励起光を受けて蛍光を発する発光部とを備え、
上記発光部は、上記励起光が照射される照射面、上記照射面に対向する対向面、および上記照射面と上記対向面とに隣接する側面を有し、
上記照射面および上記対向面の少なくとも何れか一方、および上記側面は、上記発光部とは異なる材料を含む部材に当接しており、
上記照射面および上記対向面のうち、上記部材に当接している面から、上記発光部に生じる熱が放熱され、
上記発光部内の任意の位置から上記部材までの距離は0.2mm以下であることを特徴とする発光装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成26年8月6日付けの拒絶理由通知における理由2であり、概略、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものであって、以下の引用文献1が示されている。
引用文献1:国際公開第2007/105647号

第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項
(1a)「[0001]本発明は、発光装置に係り、特に発光素子としてレーザダイオードのチップを用いた発光装置における波長変換部材の配設構造に関する。」(下線は当審で付与。以下同様。)
(1b)「[0013]・・・なお、リフレクタからの放熱が十分である場合は、上記熱伝導性部材はなくてもよい。また、熱伝導性部材は、波長変換部材からの放熱を促進させるように、波長変換部材に対して熱的に接続されていればよく、波長変換部材や誘電体膜との配置の順番は問わない。」
(1c)「[0033](リフレクタ14)リフレクタの材質は特に限定されるものではなく、光反射面14aは、 緩やかな弯曲、カップ形状、テーパ状など任意に形成することができる。」
(1d)「[0035](固形状の蛍光部材16)固形状の蛍光部材の一例は、蛍光体が無機材料であるガラス等のバインダー(結着剤)にて結着され、硬化されたものであり、本例では蛍光体がガラスにて結着された蛍光体ガラスを用いた。・・・
・・・
[0037]これらの蛍光体は、発光素子の励起光により、黄色、赤色、緑色、青色に発光スぺクトルを有する蛍光体を使用することができるほか、これらの中間色である黄色、青緑色、橙色などに発光スペクトルを有する蛍光体も使用することができる。・・・」
(1e)「[0059](実施例4)図4は、実施例4の発光装置の構造を概略的に示す。この発光装置は、図1Aを参照して前述した発光装置と比べて、キャップ15に代えて、全体が蛍光部材からなる円盤状の固形の蛍光体ガラス46が用いられている点と、リフレクタ14の内部でLDチップ12を低融点ガラス47で封止している点が異なる。・・・
・・・
[0062]なお、蛍光体ガラス46は、LDチップ12の発光出力のピーク波長(例えば445nm)より厚く設定されており、LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光することが可能である。この場合、蛍光体ガラス46の厚さを100μm?500μm程度に設定することにより、光拡散性が向上し、発光出力の色むらが少なくなる。」
(1f)「[0063](実施例5) 図5は、実施例5の発光装置の構造を概略的に示す。この発光装置は、図4を参照して前述した発光装置と比べて次の点が異なる。低融点ガラス47による封止は施されていない。そして、リフレクタ14の開口先端面を覆うように、リフレクタ14の段差部底面(リフレクタ先端面)に板状の高熱伝導性部材51の外周端部が固着されて保持されている。さらに、その前面側に円盤状の蛍光体ガラス46が重ねられて固定されている。高熱伝導性部材51と蛍光体ガラス46は、配置する順序を逆にしてもよい。
[0064]図5の構成によれば、前述した図4の発光装置と同様の効果が得られるほか、次のような効果が得られる。高熱伝導性部材51がリフレクタの開口部を覆うように配設されている、本例では、高熱伝導性部材51および蛍光体ガラス46からなる二重キヤッ プ構造によりリフレクタ内部を封止するので、LDチップ12が湿気などの影響を受けなくなる。また、蛍光体ガラス46で発生した熱を高熱伝導性部材51により効率良く排熱することが可能になり、蛍光体ガラス46の負担が減り、発光効率とリニアリティが向上する。」
(1g)引用文献1の図5には、以下の図が示されている。



2 引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1には、「発光装置」に関する技術について開示されているところ(摘示(1a))、その具体的な構造が実施例5として、図5(摘示(1g))及び段落[0063]?[0064](摘示(1f))に記載されている。そして、かかる記載によれば、
発光装置は、LDチップ12、蛍光体ガラス46、リフレクタ14及び高熱伝導性部材51を有すること(図5)、及び、
リフレクタ14の開口先端面を覆うように、リフレクタ14の段差部底面に板状の高熱伝導性部材51の外周端部が固着されて保持され、その前面側に円盤状の蛍光体ガラス46が重ねられて固定されていること([0063])、が明らかである。
(2)また、上記実施例5の発光装置に関連する段落[0035](摘示(1d))及び段落[0059]?[0062](摘示(1e))の記載によれば、
蛍光体ガラス46は、蛍光体がガラスに結着された蛍光体ガラスであって([0035])、LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光すること([0062])、及び、
蛍光体ガラス46の厚さを100μm?500μm程度に設定すること([0062])が明らかである。

したがって、引用文献1には、
「LDチップ12、蛍光体ガラス46、リフレクタ14及び高熱伝導性部材51を有する発光装置であって、
リフレクタ14の開口先端面を覆うように、リフレクタ14の段差部底面に板状の高熱伝導性部材51の外周端部が固着されて保持され、その前面側に円盤状の蛍光体ガラス46が重ねられて固定され、
蛍光体ガラス46は、蛍光体がガラスに結着された蛍光体ガラスであって、LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光し、
蛍光体ガラス46の厚さを100μm?500μm程度に設定する、発光装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明は「LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光」するものであるから、引用発明の「LDチップ12」は、励起光を出射することは明らかであり、本願発明の「励起光を出射する励起光源」に相当する。
(2)引用発明の「蛍光体ガラス46」は、「蛍光体がガラスに結着された蛍光体ガラスであって、LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光」するものであるから、上記(1)をも踏まえると、本願発明の「上記励起光源から出射された励起光を受けて蛍光を発する発光部」に相当する。
(3)引用発明の「蛍光体ガラス46」は、「円盤状」に形成され、「LDチップ12からの光で蛍光体が励起されて発光」するものであるから、励起光が照射される照射面、上記照射面に対向する対向面、および上記照射面と上記対向面とに隣接する側面を有することが明らかである(そのような面は、図5(摘示(1g))にも示されている。)。
したがって、引用発明における「蛍光体ガラス46」の構成は、本願発明の「上記発光部は、上記励起光が照射される照射面、上記照射面に対向する対向面、および上記照射面と上記対向面とに隣接する側面を有し」とする構成に相当するものといえる。
(4)引用発明の「蛍光体ガラス46」は、「板状の高熱伝導性部材51」の「その前面側」に「重ねられて固定」されており、蛍光体ガラス46の対向面が高熱伝導性部材51に当接していることは明らかであること、及び、引用発明の「高熱伝導性部材51」は、蛍光体ガラス46で発生した熱を効率良く排熱する機能を有するものであり(摘示(1f))、蛍光体ガラス46とは異なる材料を含んで構成されていることが明らかであるから、引用発明の「リフレクタ14の開口先端面を覆うように、リフレクタ14の段差部底面に板状の高熱伝導性部材51の外周端部が固着されて保持され、その前面側に円盤状の蛍光体ガラス46が重ねられて固定され」るという「蛍光体ガラス46」の配設構造と本願発明の「上記照射面および上記対向面の少なくとも何れか一方、および上記側面は、上記発光部とは異なる材料を含む部材に当接しており」及び「上記照射面および上記対向面のうち、上記部材に当接している面から、上記発光部に生じる熱が放熱され」るという構成とは、「上記照射面および上記対向面の少なくとも何れか一方は、上記発光部とは異なる材料を含む部材に当接しており」及び「上記照射面および上記対向面のうち、上記部材に当接している面から、上記発光部に生じる熱が放熱され」るという構成の限度で共通するものといえる。
(5)引用発明の「発光装置」は、本願発明の「発光装置」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「励起光を出射する励起光源と、
上記励起光源から出射された励起光を受けて蛍光を発する発光部とを備え、
上記発光部は、上記励起光が照射される照射面、上記照射面に対向する対向面、および上記照射面と上記対向面とに隣接する側面を有し、
上記照射面および上記対向面の少なくとも何れか一方は、上記発光部とは異なる材料を含む部材に当接しており、
上記照射面および上記対向面のうち、上記部材に当接している面から、上記発光部に生じる熱が放熱される、発光装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「上記照射面および上記対向面の少なくとも何れか一方、および上記側面は、上記発光部とは異なる材料を含む部材に当接して」いるのに対し、引用発明は、「リフレクタ14の開口先端面を覆うように、リフレクタ14の段差部底面に板状の高熱伝導性部材51の外周端部が固着されて保持され、その前面側に円盤状の蛍光体ガラス46が重ねられて固定される」ものである点。
(相違点2)
本願発明は、「上記発光部内の任意の位置から上記部材までの距離は0.2mm以下である」ものであるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について
引用発明は、上記「3(4)」で述べたとおり、蛍光体ガラス46の対向面が高熱伝導性部材51に当接していることが明らかであり、そのような配設構造により、「蛍光体ガラス46で発生した熱を高熱伝導性部材51により効率良く排熱することが可能になり、蛍光体ガラス46の負担が減り、発光効率とリニアリティが向上する。」(摘示(1f))という効果を奏するものである。
ここで、引用文献1には、蛍光体ガラス46の側面が、蛍光体ガラス46とは異なる材料を含む部材に当接することについて明記されるものではないが、引用文献1の図5(摘示(1g))には、蛍光体ガラス46の側面がリフレクタ14の段差部側面に接するような状態で配設されていることが示されている。
また、引用文献1の記載によれば、蛍光体ガラス46で発生した熱は、高熱伝導性部材51による放熱のほか、リフレクタから放熱することも想定されるものであり(摘示(1b))、さらに、リフレクタの材質も限定されるものではないことからして(摘示(1c))、引用発明の蛍光体ガラス46の側面を、図5(摘示(1g))にも示されているようなリフレクタ14の段差部側面に接するような状態で配設することで、もって蛍光体ガラス46で発生した熱を、高熱伝導性部材51とともにリフレクタ14からも放熱させるように構成にすること、すなわち、発光部(蛍光体ガラス16)の照射面及び対向面の少なくとも何れか一方、および側面を、発光部(蛍光体ガラス16)とは異なる材料を含む部材(高熱伝導性部材51、リフレクタ14)に当接させることは、当業者が容易になし得るものといえる。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び刊行物1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(2)相違点2について
引用発明は、「蛍光体ガラス46の厚さを100μm?500μm程度に設定する」ものであるから、蛍光体ガラス46の厚さを、その範囲内である0.1mm(100μm)以上であって0.2mm(200μm)未満の範囲に設定することも想定の範囲といえる。
そして、引用発明において、そのような厚みの蛍光体ガラス46を採用すれば、蛍光体ガラス46内の任意の位置から高熱伝導性部材51までの距離は0.2mm以下となる。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえないか、あるいは実質的な相違点であるとしても当業者が容易に想到し得たものといえる。

(3)本願発明の効果について
引用文献1には、「蛍光体ガラス46で発生した熱を高熱伝導性部材51により効率良く排熱することが可能になり、蛍光体ガラス46の負担が減り、発光効率とリニアリティが向上する。」(摘示(1f))と記載されているように、引用発明は、蛍光体ガラス46で発生した熱を高熱伝導性部材51により効率良く排熱することで、発光効率とリニアリティを向上させるものであるところ、蛍光体ガラス46の厚みが薄いほど、蛍光体ガラス46内の任意の位置と高熱伝導性部材51までの距離が短くなり、その結果、その排熱効果がより向上することは技術的に明らかであるから、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項から当業者が予測し得る範囲のものといえ、格別顕著なものということはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成27年6月16日付けの審判請求書で、
ア 引用文献1には、蛍光体ガラスで発生した熱を高熱伝導性部材によって排熱することは記載されているものの、蛍光体ガラスの内部の最高温度を適切に抑制することの重要性や、蛍光体ガラスの内部の最高温度を適切に抑制するために必要な構成については記載も示唆もされていない旨(3.(c))、及び、
イ 本願発明における「発光部内の任意の位置から上記部材までの距離は0.2mm以下である」という構成における数値範囲「0.2mm以下」には、格別の臨界的意義があり、その値の前後で、作用効果に関して格別顕著な差異が生じる旨(3.(d))、主張する。
しかし、上記(3)で述べたとおり、引用文献1には、「蛍光体ガラス46で発生した熱を高熱伝導性部材51により効率良く排熱することが可能になり、蛍光体ガラス46の負担が減り、発光効率とリニアリティが向上する。」(摘示(1f))と記載されており、発光効率とリニアリティを向上させるために、蛍光体ガラス46の内部の温度を抑制すべきことや、それに必要な構成として高熱伝導性部材51を用いることについて記載ないし示唆されていることが明らかであるから、請求人の上記アの主張は採用できない。
また、上記(2)で述べたとおり、引用発明は、蛍光体ガラス46の厚さを、0.1mm(100μm)以上であって0.2mm(200μm)未満の範囲で設定することも想定されており、そのような厚みの蛍光体ガラス46を採用するに際して、「高熱伝導性部材51により効率良く排熱することが可能になり、蛍光体ガラス46の負担が減り、発光効率とリニアリティが向上する」(摘示(1f))という効果も実験的に確認し得ることが明らかであるから、請求人の上記イの主張も採用できない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-23 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-13 
出願番号 特願2013-223510(P2013-223510)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F21S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谿花 正由輝  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 島田 信一
氏原 康宏
発明の名称 発光装置、および照明装置  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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