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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1321038
審判番号 不服2015-10519  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2016-11-22 
事件の表示 特願2013-541937「偏光板用接着剤、偏光板及び光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日国際公開、WO2013/055158、平成26年 1月16日国内公表、特表2014-500984、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年10月12日(優先権主張2011年10月14日、韓国、優先権主張2011年12月28日、韓国、優先権主張2012年6月29日、韓国、優先権主張2012年10月12日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月30日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成27年1月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年7月11日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月28日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成28年9月28日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし15に係る発明(以下、本願の請求項1ないし15に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明15」といい、本願発明1ないし15を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部と、
ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部と、
前記第1エポキシ化合物100重量部に対して、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物100?400重量部と、
カチオン性光重合開始剤0.5?20重量部と、
を含み、
前記第1エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物であり、
前記第2エポキシ化合物は、脂環式基、及び、1以上のグリシジルエーテル基を含み、
ガラス転移温度が80℃?120℃で、
25℃における粘度が19?50cPである、
偏光板用接着剤組成物。
【請求項2】
前記第1エポキシ化合物は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4'-エポキシシクロヘキサンカルボン酸、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、及び、ビスエポキシシクロペンチルエーテルからなる群より選択された1種以上である、
請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項3】
前記第2エポキシ化合物は、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルである、
請求項1に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項4】
前記第1エポキシ化合物と第2エポキシ化合物の重量比が1:1?3:1である、
請求項1から3の何れか1項に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項5】
前記偏光板用接着剤組成物はビニル系化合物をさらに含み、前記ビニル系化合物の含量は全体接着剤組成物100重量部に対して0.1?10重量部である、
請求項1から4の何れか1項に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項6】
前記ビニル系化合物はヒドロキシC1-6アルキルビニルエーテル及びビニルアセテートからなる群より選択される少なくとも一つである、
請求項5に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項7】
前記偏光板用接着剤組成物はシランカップリング剤をさらに含み、前記シランカップリング剤の含量は全体接着剤組成物100重量部に対して0.1?5重量部である、
請求項1から6の何れか1項に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項8】
前記シランカップリング剤はエポキシ基、ビニル基、ラジカル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される1種以上のカチオン重合性官能基を含むものである、
請求項7に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項9】
前記偏光板用接着剤組成物はラジカル重合性モノマーをさらに含み、前記ラジカル重合性モノマーの含量は全体接着剤組成物100重量部に対して0?40重量部である、
請求項1から8の何れか1項に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項10】
前記偏光板用接着剤組成物は光ラジカル重合開始剤をさらに含み、前記光ラジカル重合開始剤の含量は全体接着剤組成物100重量部に対して0.5?20重量部である、
請求項9に記載の偏光板用接着剤組成物。
【請求項11】
偏光子、前記偏光子の少なくとも一面に形成される接着剤層及び前記接着剤層上に形成される透明基材フィルムを含む偏光板であって、
前記接着剤層は請求項1から10の何れか1項に記載の偏光板用接着剤組成物を含む、
偏光板。
【請求項12】
前記接着剤層と透明基材フィルムとの間にプライマー層をさらに含む、
請求項11に記載の偏光板。
【請求項13】
前記プライマー層は、1?50重量部のウレタン高分子、水分散性微粒子0.1?10重量部及び残部の水を含むプライマー組成物を含む、
請求項12に記載の偏光板。
【請求項14】
請求項11から13の何れか一項に記載の偏光板を含む、
光学素子。
【請求項15】
前記透明基材フィルムは、アクリル系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、アクリル系プライマー処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリノルボルネン(PNB)系フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリカーボネートフィルム、及びトリアセチルセルロース(TAC)フィルムからなる群より選択された少なくとも一つである、
請求項11から13の何れか1項に記載の偏光板。」

第3 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)理由1
本件出願の平成27年6月3日になされた手続補正によって補正された請求項1ないし16に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1.特開2007-169172号公報
引用例2.特開2010-209126号公報
引用例3.特開2008-134384号公報
引用例4.特開2010-102310号公報
引用例5.特開2010-277063号公報
引用例6.特開2009-227804号公報
引用例7.国際公開第2011/013663号
引用例8.特開2010-55062号公報

請求項1ないし16に係る発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

(2)理由2
本件出願は、平成27年6月3日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


ア 請求項1には「25℃における粘度が10?50cPである」と記載されているが、発明の詳細な説明には、本願の実施例の接着剤組成物AないしL(【0122】ないし【0133】、【0148】【表1】参照)において、25℃における粘度の下限は「19cP」(組成物H)であり、請求項1の粘度のうち、10cP以上19cP未満についてサポートされているとはいえない。

イ 請求項3には「ビニルシクロヘキセンジオキシドジシクロペンタジエンジオキシド、」と記載されているが、【0022】の「ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、」の記載と整合していない。

ウ 請求項4に列記された第2エポキシ化合物のうち、脂環式基、及び、1以上のグリシジルエーテル基を含むものは、「1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル」のみであるから、結果として、請求項1の「前記第2エポキシ化合物は、脂環式基、及び、1以上のグリシジルエーテル基を含み、」の記載と、請求項1の記載を引用する請求項4の「前記第2エポキシ化合物は、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びo-クレシル(Cresyl)グリシジルエーテルからなる群より選択された1種以上である」の記載とが整合していない。

エ 請求項12及び請求項14は、「偏光板」という物の発明であるが、請求項12の「・・・前記接着剤層は請求項1?11の何れか1項に記載の偏光板組成物により形成される偏光板。」との記載及び請求項14の「・・・前記プライマー層は・・・を含むプライマー組成物により形成される偏光板。」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえ、請求項12及び請求項14の記載では、「物」として何を特定しようとしているのかが不明である。

よって、請求項1ないし16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、明確でもない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)理由1について
ア 引用例1の記載事項
当審拒絶理由に引用例1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-169172号公報には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材用接着剤に用いるエポキシ化合物の精製方法であって、
エポキシ化合物100体積部に対して、純水を500?2000体積部加えた後、
60?100℃に加熱しながら1?24時間攪拌する工程、
前記純水を分液して前記エポキシ化合物を分取する工程、及び、
前記分取したエポキシ化合物から水分を除去する工程を有する
ことを特徴とするエポキシ化合物の精製方法。
【請求項2】
請求項1記載のエポキシ化合物の精製方法によって精製されたエポキシ化合物と、下記一般式(1)で表されるアニオンを含有する光カチオン重合開始剤とを含有する光学部材用接着剤であって、
前記エポキシ化合物は脂肪族エポキシ化合物及び/又は脂環式エポキシ化合物を含有する
ことを特徴とする光学部材用接着剤。
【化1】 ・・・略・・・
【請求項3】
更に、硬化制御剤を含有することを特徴とする請求項2記載の光学部材用接着剤。
【請求項4】
更に、オキセタン化合物を含有することを特徴とする請求項2又は3記載の光学部材用接着剤。
・・・略・・・」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて高い非着色性を有し、高い透明性を維持することが可能な光学部材用接着剤に用いることができるエポキシ化合物を得ることが可能なエポキシ樹脂の精製方法、光学部材用接着剤及び光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レンズ、ミラー、プリズム等の光学部材を製造する場合には、アクリル化合物やエポキシ化合物からなる樹脂組成物が接着剤として用いられてきた。
しかしながら、アクリル化合物からなる接着剤は、短波長の光に対する耐性には優れているが、吸水率が高いため水分による劣化が起こるという問題や、硬化時の体積収縮が大きいため寸法安定性に劣るという問題があった。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、光カチオン重合開始剤を配合したエポキシ系光硬化性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、このような光硬化性樹脂組成物では、光カチオン重合開始剤がイオン性化合物を形成し、硬化直後又は長期の使用中に樹脂が着色してしまうという着色性の問題があった。
【0004】
これに対して、耐光性を向上させるために、例えば、特許文献2には、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’、4’-エポキシシクロヘキサンに代表されるような脂環式エポキシ樹脂等からなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、ビスフェノールA型エポキシ化合物を直接水素化したエポキシ樹脂と無水ヘキサヒドロフタル酸及び/又は無水メチルヘキサヒドロフタル酸硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの樹脂組成物は、酸無水物等の熱硬化剤を使用するものであるため、硬化させるために高温で長時間保持しなければならず、紫外線や熱による着色の改善も不充分となっていた。
【0006】
このように、従来公知の樹脂組成物はいずれも充分な耐光性と耐熱性とを有するものではない。したがって、短波長光の照射や高温の下でも着色することのない接着剤が求められていた。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、極めて高い非着色性を有し、高い透明性を維持することが可能な光学部材用接着剤に用いることができるエポキシ化合物を得ることが可能なエポキシ樹脂の精製方法、光学部材用接着剤及び光学部材の製造方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0022】
上記脂肪族エポキシ化合物としては特に限定はされず、例えば、水素化された芳香族エポキシや、アルコールのグリシジルエーテル等を用いることができる。
なかでも、下記一般式(2)?(7)で表される脂肪族エポキシ化合物を好適に用いることができる。このような脂肪族エポキシ化合物を用いることにより、本発明の光学部材用接着剤は、極めて優れた非着色性を有し、黄変等の変色を防止することができるとともに、耐熱性にも優れたものとなる。
【0023】
【化2】


上記一般式(2)中、nは0?20の整数を表し、R1、R2は、水素、又は、直鎖状若しくは分枝鎖状C1?C12アルキル基を表し、それぞれ同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
・・・略・・・
【0026】
【化5】


上記一般式(5)で表される化合物としては、例えば、「DME-100」(新日本理化工業社)、「EP-4085」(旭電化工業社製)等、市販されているものを用いることができる。
・・・略・・・
【0030】
更に、上記一般式(2)においてR1、R2がメチル基であるビスフェノールA型エポキシ化合物と、上記一般式(5)で表される脂肪族エポキシ化合物とを併用することにより、本発明の光学部材用接着剤は、適度に粘度を下げることができ、作業性を向上させることができる。
【0031】
上記一般式(2)においてR1、R2がメチル基であるビスフェノールA型エポキシ化合物と、上記一般式(5)で表されるエポキシ化合物を併用する場合、上記一般式(5)で表されるエポキシ化合物の好ましい配合量としては、エポキシ化合物の全配合量を100重量部としたとき、好ましい下限が5重量部、好ましい上限が100重量部である。5重量部未満であると、適度に粘度を低下させることができず、良好な作業性が得られないことがある。100重量部より多いと耐熱性が低下し、高温時の接着強度低下や着色の発生等の問題が生じることがある。
【0032】
上記脂環式エポキシ化合物としては特に限定はされず、例えば、環状オレフィンのエポキシ化物等を用いることができる。
【0033】
なかでも、下記一般式(8)?(10)で表される脂環式エポキシ化合物を好適に用いることができる。これらの脂環式エポキシ化合物を用いることにより、粘度を低下させ、作業性を向上させるとともに、反応性を向上させることができるため、重合度の向上や開始剤の低減を図ることができる。
【0034】
【化8】・・・略・・・
上記一般式(8)で表される化合物としては、例えば、「セロキサイド2021」(ダイセル化学工業社製)等、市販されているものを用いることができる。」
(オ)「【0069】
本発明の光学部材用接着剤は、更に、オキセタン化合物を含有することが好ましい。
上記オキセタン化合物を含有することにより、本発明の光学部材用接着剤は硬化反応に優れ、硬化収縮が少なく、かつ、硬化物を加熱した場合の着色を大きく改善することができる。
【0070】
上記オキセタン化合物としては、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,4-ビス[(3-メチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3-メチル-3-グリシジルオキセタン、3-エチル-3-グリシジルオキセタン、3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、ジ{1-エチル(3-オキセタニル)}メチルエーテル等が挙げられる。これらオキセタン化合物の市販品としては、アロンオキセタンOXT-121,0XT-221,OXT-212(以上、東亞合成(株)製)等が挙げられる。なかでも、水酸基を有するオキセタン化合物を特に好適に用いることができ、そのようなオキセタン化合物としては、エタナコールEHO(宇部興産製)、OXT-101(東亞合成(株)製)等が挙げられる。」
(カ)「【0084】
(実施例1)
水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(YX8034、ジャパンエポキシレジン社製)90部とシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100、新日本理化社製)10部を混合した混合樹脂に10倍の純水を加えて90℃に加熱した。充分振とうして90℃に温度を保ったまま1時間静置した後、分離した水を除去した。この操作を3回繰り返した後、得られた樹脂を90℃で8時間真空乾燥を行い、熱水処理樹脂を得た。
得られた熱水処理樹脂100重量部に対して、光カチオン重合開始剤としてヨウドニウムボレート系の光カチオン型重合開始剤(RP2074、ローディア社製)1重量部、硬化制御剤としてポリエチレングリコール(分子量1000)5重量部、及び、シランカップリング剤としてサイラエースS-510(チッソ社製)1重量部を混合し80℃に加熱後、ホモディスパー型撹拌混合機(ホモディスパーL型、特殊機化社製)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、光学部材用接着剤を調製した。
調整した熱光学部材用接着剤を塗布し、厚みが100μmとなるように2枚の無アルカリガラスの間に挟んだ後、3000mJ/cm^(2)の紫外線を照射した後、80℃で30分間加熱して熱光学部材用接着剤を硬化させ、試験片を作製した。」
(キ)上記(ア)ないし(カ)から、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(YX8034、ジャパンエポキシレジン社製)90部とシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100、新日本理化社製)10部を混合した混合樹脂に10倍の純水を加えて90℃に加熱し、充分振とうして90℃に温度を保ったまま1時間静置した後、分離した水を除去し、この操作を3回繰り返した後、得られた樹脂を90℃で8時間真空乾燥を行い、熱水処理樹脂を得て、
得られた熱水処理樹脂100重量部に対して、光カチオン重合開始剤としてヨウドニウムボレート系の光カチオン型重合開始剤(RP2074、ローディア社製)1重量部、硬化制御剤としてポリエチレングリコール(分子量1000)5重量部、及び、シランカップリング剤としてサイラエースS-510(チッソ社製)1重量部を混合し80℃に加熱後、ホモディスパー型撹拌混合機(ホモディスパーL型、特殊機化社製)を用い、撹拌速度3000rpmで均一に撹拌混合して、調製した光学部材用接着剤。」(以下「引用発明」という。)

イ 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、本願発明1と引用発明とは、
「第1エポキシ化合物と、
ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物と、
カチオン性光重合開始剤0.5?20重量部と、
を含み、
前記第1エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物であり、
前記第2エポキシ化合物は、脂環式基、及び、1以上のグリシジルエーテル基を含む、
接着剤組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明1では、「ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部と、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部と、前記第1エポキシ化合物100重量部に対して、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物100?400重量部と」を含み、「ガラス転移温度が80℃?120℃で、25℃における粘度が19?50cPである」のに対し、
引用発明では、水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(YX8034)90部を含むが、YX8034のガラス転移温度が明らかでなく、また、「シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100)」を10重量部含むが、YX8034を100重量部とすると前記DME-100は11重量部であり、オキセタン化合物を含まず、ガラス転移温度及び粘度については明らかでない点。

・相違点2
本願発明1では、偏光板用接着剤組成物であるのに対し、
引用発明では、光学部材用接着剤である点。

ウ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)一般的なビスフェノールAエポキシ樹脂のガラス転移温度が120℃以上であることを考慮すれば、引用発明の「水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂」(本願発明1の「第1エポキシ化合物」に相当。以下、当該ウの項において、「」に続く()内の用語は、対応する本願発明1の用語を示す。)のガラス転移温度が120℃以上であることは当業者に自明である。
(イ)引用例1には、「【0031】・・・上記一般式(5)で表されるエポキシ化合物の好ましい配合量としては、エポキシ化合物の全配合量を100重量部としたとき、好ましい下限が5重量部、好ましい上限が100重量部である。」(上記ア(エ))と記載されており、当該記載を考慮すれば、引用発明の「シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100)」(第2エポキシ化合物)の配合量を、YX8034の100重量部に対して、30?100重量部となすことは当業者が適宜なし得たことといえる。
(ウ)「偏光板」の技術分野において、エポキシ系接着剤として、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物を添加することにより、接着剤の粘度を調節することは本願の優先日前に周知(以下「周知技術」という。例.引用例2(特許請求の範囲、実施例参照。)、引用例3(【0122】、【0123】参照。)、引用例4(【0064】参照。)、引用例5(【0149】参照。)、引用例6(【0009】参照。))である。
(エ)引用例1には、「【0069】本発明の光学部材用接着剤は、更に、オキセタン化合物を含有することが好ましい。上記オキセタン化合物を含有することにより、本発明の光学部材用接着剤は硬化反応に優れ、硬化収縮が少なく、かつ、硬化物を加熱した場合の着色を大きく改善することができる。」(上記ア(オ))と記載されている。
しかしながら、引用例1には、「水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂」(第1エポキシ化合物)、「シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100)」(第2エポキシ化合物)及び「オキセタン化合物」を全て含む具体的な接着剤に関する実施例の記載はなく、そもそも、引用例1におけるオキセタン化合物を含有させるための目的も、接着剤の硬化反応に優れ、硬化収縮が少なく、かつ、硬化物を加熱した場合の着色を大きく改善することにあり、上記(ウ)で示した周知技術のように粘度を調節するものではない。
(オ)本願発明は、「ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部を含」み、「第1エポキシ化合物100重量部に対して、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物100?400重量部含」み、且つ、「ガラス転移温度が80℃?120℃で、25℃における粘度が19?50cP」とすることによって、作業性に優れ、薄い接着層で優れた接着力を示す接着剤を得ることができるものである。
(カ)上記(エ)の事項を考慮すれば、引用発明において、上記(オ)のように、「水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂」(第1エポキシ化合物)、「シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(DME-100)」(第2エポキシ化合物)及び「オキセタン化合物」をそれぞれ特定量含んだ上で、特定のガラス転移温度及び特定の粘度となす動機がない。
してみると、上記(ア)ないし(ウ)の事項を考慮したとしても、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たものとはいえない。
(キ)したがって、引用例1には、上記相違点1に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が周知技術から想到容易であるともいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が容易に発明することができたものではない。
(ク)なお、請求人は、平成28年9月28日提出の意見書において、追加実験の結果を記載し、特に、第1エポキシ化合物100重量部に対して、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物100?400重量部含むことで、優れた接着力を維持しつつ、接着剤の粘度を低下させることができることを示した。

エ 本願発明2ないし15について
本願発明1が、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし15も同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(2)理由2について
ア 平成28年9月28日付け手続補正(以下単に「補正」という。)によって、補正前の請求項1の「25℃における粘度が10?50cPである」は、補正後の請求項1において「25℃における粘度が19?50cPである」と、補正前の請求項3の「ビニルシクロヘキセンジオキシドジシクロペンタジエンジオキシド、」は、補正後の請求項2において「ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、」と、それぞれ補正されることにより、当審拒絶理由の上記1(1)ア及びイは解消した。
イ 補正によって、補正前の請求項4の「前記第2エポキシ化合物は、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、・・・、及びo-クレシル(Cresyl)グリシジルエーテルからなる群より選択された1種以上である、」は、補正後の請求項3において「前記第2エポキシ化合物は、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル」と補正されることにより、当審拒絶理由の上記1(1)ウは解消した。
ウ 補正によって、補正前の請求項12の「前記接着剤層は請求項1?11の何れか1項に記載の偏光板組成物により形成される偏光板。」は、補正後の請求項11において「前記接着剤層は請求項1?10の何れか1項に記載の偏光板組成物を含む、偏光板。」と補正され、補正前の請求項14の「前記プライマー層は・・・を含むプライマー組成物により形成される偏光板。」は、補正後の請求項13において「前記プライマー層は・・・を含むプライマー組成物を含む、偏光板。」と補正されることにより、当審拒絶理由の上記1(1)エは解消した。
エ 以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、明確である。

第4 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の平成28年9月28日付けで手続補正よって補正された請求項1ないし15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2008-241946号公報
引用文献2.特開2010-209126号公報
引用文献3.特開2008-134384号公報
引用文献4.国際公開第2011/013663号
引用文献5.特開2010-55062号公報

2 原査定の理由の判断
引用文献1ないし5には、本願発明の構成である「ホモポリマーのガラス転移温度が120℃以上である第1エポキシ化合物100重量部、ホモポリマーのガラス転移温度が60℃以下である第2エポキシ化合物30?100重量部を含」み、「第1エポキシ化合物100重量部に対して、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有するオキセタン化合物100?400重量部含」み、且つ、「ガラス転移温度が80℃?120℃で、25℃における粘度が19?50cP」とすることは記載されておらず、示唆もない。
してみると、本願発明は、当業者が引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2013-541937(P2013-541937)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大隈 俊哉後藤 亮治  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 樋口 信宏
鉄 豊郎
発明の名称 偏光板用接着剤、偏光板及び光学素子  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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