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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23K
管理番号 1321056
審判番号 不服2015-16992  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-15 
確定日 2016-11-04 
事件の表示 特願2011- 37619「ゼアキサンチン強化家禽卵」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月10日出願公開、特開2012-170425〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年2月23日の出願であって、平成27年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月15日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付で手続補正書が提出されたものであって、その後当審において、平成28年6月2日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月19日に手続補正書並びに意見書が提出されたものである。


2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年7月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「卵黄100g当たり4.5mg?8mgで卵黄中にゼアキサンチンを含有する、ヒト血中ゼアキサンチン濃度を高めるためのゼアキサンチン強化鶏卵。」


3 刊行物の記載
(1)刊行物1に記載された発明
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2005-87097号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「【0001】
本発明は、天然黄色色素及び抗酸化作用物質として飼料配合剤、食品素材、化粧品素材、医薬品素材等に有用なゼアキサンチン、又はゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン及びβ-カロテン等を含有するカロテノイド混合物の微生物的製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼアキサンチンはトウモロコシなど種々の植物に含まれ天然の黄色色素として飼料に添加され、ニワトリなどの家禽類の卵黄、肉、表皮の色調を改善する用途および食品の着色料としての用途が知られる。また強力な抗酸化作用を有し(Fisheries Science,62(1),134-137,1996)、抗腫瘍効果が報告されている(Biol.Pharm.Bull.,18(2),227-233,1995)。ゼアキサンチンはルテインとともに網膜及び水晶体に存在し眼の健康維持に関与していることが知られている(FOOD Style 21,3(3),50-53,1999)。これらの生理的効果からゼアキサンチンは健康食品素材、化粧品素材及び医薬品素材として有用である。β-クリプトキサンチンは柑橘類に含まれ、抗腫瘍効果を有することが知られ(Biol.Pharm.Bull.,18(2),227-233,1995)、食品素材および飼料配合剤としての用途がある。β-カロテンはプロビタミンA作用、抗酸化作用を有し、飼料添加物、食品添加物、天然着色料等として広く使用されている。」

(イ)「【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法においては変異の親株としてアスタキサンチンを生産する微生物が用いられるが、このような微生物としては、その16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同であるアスタキサンチン生産細菌が挙げられる。ここで言う実質的に相同であるとはDNAの塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し98%以上の相同性であることを意味する。
【0009】
上記配列と実質的に相同な配列を有するアスタキサンチン生産微生物としては、具体的には、E-396株(FERM BP-4283)およびA-581-1株(FERM BP-4671)、ならびにE-396株あるいはA-581-1株を変異改良することで得られる各種変異株およびこれら2種の近縁種を挙げることができる。配列番号1のDNA塩基配列は、E-396株のリボソームRNAに対応するものであり、また配列番号2のDNA塩基配列は、A-581-1株のリボソームRNAに対応するものである。E-396株とA-581-1株の16SリボソームRNAの塩基配列の相同性は99.4%であり、極めて近縁な株であることが判明した。よって、これらの菌株はカロテノイドを生産する細菌として一つのグループを形成している。本発明の方法において用いられる変異の親株は、E-396株およびA-581-1株ならびにE-396株あるいはA-581-1株の変異株およびこれらの菌株の近縁種として、16SリボソームRNAに対応するDNA塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と98%以上の相同性を有するアスタキサンチン生産細菌として定義される。
【0010】
本発明に使用するアスタキサンチン生産微生物として挙げられるE-396株について説明する。この株は、本発明者らが新しく単離したものであり、工業技術院生命工学工業技術研究所(独立行政法人産業技術研究所 特許生物寄託センター)に平成5年4月27日にFERM BP-4283として寄託された。さらに具体的な他の微生物としてはA-581-1株を挙げることができる。この株は、発明者らが新しく単離したものであり、工業技術院生命工学工業技術研究所(独立行政法人産業技術研究所 特許生物寄託センター)に平成6年5月20日にFERM BP-4671として寄託された。
【0011】
本発明においてアスタキサンチン生産微生物を変異処理する方法は、突然変異を誘発するものであれば特に限定されない。たとえば、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、などの変異剤による化学的方法、紫外線照射、X線照射などの物理的方法、遺伝子組換え、トランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。この変異処理は1回でもよいし、また、例えばこの突然変異処理によりアスタキサンチン生産微生物の変異体を得て、これをさらに突然変異処理するというように2回以上の変異処理を行ってもよい。
【0012】
次に、上記のようにして得られるアスタキサンチン生産微生物の突然変異体の中から、生産されるゼアキサンチンの総カロテノイド生産量に対する比率(質量%)が親株のそれよりも高くなっている変異株を選抜してゼアキサンチン生産微生物を取得する。この目的のために、変異処理後に固体培地上にコロニーを形成させ、ランダムにコロニーを取得してもよいが、ゼアキサンチン生産微生物のコロニーは黄色?橙色を呈する場合が多いので、親株の赤色?赤橙色のコロニーに比較して黄色?橙色を呈するコロニーを選択することにより、効率的にゼアキサンチン生産微生物(変異株)を選抜することができる。この工程を含むことによりゼアキサンチンの総カロテノイド量に対する比率の高い変異株を取得できる確率は飛躍的に向上する。
【0013】
次いで、上述のようにして選択された変異株コロニーを慣用の方法により培養し、培養終了後に各変異株の培溶液中に含まれるカロテノイド化合物を分析することにより、ゼアキサンチンの生産比率が高い変異株を選抜することができる。
・・・
【0016】
・・・本発明においては、アスタキサンチン生産微生物に突然変異を誘発し、生産するゼアキサンチンの総カロテノイド量に対する比率が特に高い変異株を選抜する。その選抜の基準となるゼアキサンチンの比率は、変異前の親株のゼアキサンチン生産比率より高いことが最低限の条件であるが、生産される総カロテノイド量に対してゼアキサンチンを好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上のゼアキサンチン比率を示す変異株を選抜する。
【0017】
アスタキサンチンの生合成はβ-カロテンを上流とし、ケト化酵素および水酸化酵素によりそれぞれ両端の6員環が修飾されて行われると推定されている(図1参照)。このケト化酵素が完全に欠損すれば、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチンだけが生産され、ケト化酵素を必要とするエキネノン、カンタキサンチン、3-ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン、アドニルビン、アドニキサンチンおよびアスタキサンチンは生産されないことが推定される。またこのケト化酵素が不完全に欠損すれば、エキネノン、カンタキサンチン、3-ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン、アドニルビン、アドニキサンチンおよびアスタキサンチンの総カロテノイド量に対する比率が低くなることが推定される。したがって、変異株の中からゼアキサンチン生産微生物を選抜するためのもう一つの有効な手段としては、エキネノン、カンタキサンチン、3-ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン、アドニルビン、アドニキサンチンおよびアスタキサンチンの総カロテノイド量に対するそれぞれの比率が低いことを基準に選抜する方法を用いることができる。前述化合物それぞれの総カロテノイドに対する比率がいずれも、10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満であることを基準に選抜することができる。
【0018】
本発明においてゼアキサンチンまたはセアキサンチンを含有するカロテノイド混合物を採取するために、ゼアキサンチン生産微生物を培養する方法は、ゼアキサンチンを生成する条件であればいずれの方法でもよいが、例えば、以下のような方法を採用できる。すなわち、培地としては生産菌が生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩および必要であれば特殊な要求物質(例えば、ビタミン、アミノ酸、核酸等)を含むものを使用する。炭素源としてはグルコース、シュークロース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、マルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール等のアルコール類等が挙げられる。添加割合は炭素源の種類により異なるが、通常培地1L当たり1?100g、好ましくは2?50gである。窒素源としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素等の1種または2種以上が用いられる。添加割合は窒素源の種類により異なるが、通常培地1Lに対し0.1?20g、好ましくは1?10gである。無機塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の1種または2種以上が用いられる。添加割合は無機塩の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.1mg?10gである。特殊な要求物質としてはビタミン類、核酸類、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、乾燥酵母、大豆粕、大豆油、オリーブ油、トウモロコシ油、アマニ油等の1種または2種以上が用いられる。添加割合は特殊な要求物質の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.01mg?100gである。培地のpHは2?12、好ましくは6?9に調整する。培養条件は10?70℃、好ましくは20?35℃の温度であり、通常1日?20日間、好ましくは2?9日間振とう培養あるいは通気撹拌培養を行う。
【0019】
次に、以上の方法により得られた培養液から水分を除去する作業を行う。ゼアキサンチン含有物を得るために、培養液からどの程度の水分除去が必要かは培養液の色素含有量等の状態により異なるが、一般にまずろ過の作業を行いさらに水分の除去が必要であれば沈殿物の乾燥を行う。ろ過の方法は、通常のろ過法、遠心分離法などにより行うことができる。さらに水分を除去する必要がある場合には、沈殿物を乾燥する方法をとることが可能である。乾燥の方法としては、通常の噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。」

(ウ)「【0022】
以上の方法で得られるゼアキサンチンを含む培養沈殿物、沈殿乾燥物、抽出物、抽出精製物等の中から、飼料配合剤、食品素材、化粧品素材及び医薬品素材としてそれぞれ必要な製品形態を選択することができる。」

(エ)「【0023】
・・・
〔実施例1〕
E-396株(FERM BP-4283)を濃度200mg/LのNTG(N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)で、温度28℃、30分間静置して変異処理を行った。表1の組成からなる培地6mlを内径18mmの試験管に入れ121℃、15分間蒸気殺菌し、試験管培地を作製した。黄色?橙色を呈する変異株コロニー200株を選抜し、それぞれ試験管培地に1白金耳植菌、28℃で4日間、330rpmの往復振とう培養を行った。次にこの培養物を遠心分離し、得られた菌体のカロテノイド化合物の分析を高速液体クロマトグラフィーにより行ったところ、総カロテノイド生産量に対するゼアキサンチンの比率が60質量%以上を示す菌株を1株得た。・・・」

(オ)上記(ア)の「ゼアキサンチンは・・・飼料に添加され、ニワトリ・・・の卵黄、・・・の色調を改善する用途」が、(飼料配合剤としての)ゼアキサンチンが添加された飼料をニワトリに給餌して卵黄の色調が改善された卵を産ませることを示すことは明らかである。

イ 上記ア(ア)、(オ)からみて、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゼアキサンチンが添加された飼料をニワトリに給餌して産ませる、卵黄の色調が改善された卵。」

(2)周知例1に記載された事項
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2008-22703号公報(以下「周知例1」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、卵黄中のゼアキサンチン含量を高めるために用いる養鶏飼料及び該養鶏飼料で飼育されたゼアキサンチン含量が高められた鶏卵に関し、さらに詳しくはクコの実またはその抽出物を含有する養鶏飼料に及び該養鶏飼料を養鶏に与え、飼育されて得た卵にクコの実の成分であるゼアキサンチンが移行され、卵黄中のゼアキサンチン含有量が高められた鶏卵に関する。」

(イ)「【0002】
近年、ゼアキサンチンというカロチノイドの一種が人間の健康において重要な役割を果たしていることがわかってきた。特に目の健康に大きく関係していて、実際網膜の一部で細かい物を見ることを可能にする黄斑色素の主成分はゼアキサンチンであり、加齢による減少要因だけでなく、紫外線などの外部要因や、ストレス、偏食によっても網膜中のゼアキサンチンが減少に影響しているといわれている。実際、失明の原因である加齢黄斑変性症(AMD)とこのゼアキサンチン減少との関連性が、Arch.Ophthalmol.;1992;110(12):1701-8(表題:新生血管性加齢黄斑変性症の危険因子。眼病の場合-抑制グループ)に報告されている。
【0003】
また、この加齢以外にも、近年若い人の間ではTVゲームやコンピューターで目を使う機会が増加しており、年齢に関係なく目の健康関心度も大きくなっている。」

(ウ)「【0009】
本発明は、より簡単に鶏卵中のゼアキサンチン濃度を高められる養鶏飼料を開発し、ゼアキサンチンを容易に摂取できる栄養価値の高い鶏卵を得る方法の開発を課題とする。」

イ 上記ア(ア)?(ウ)によると、周知例1には次の技術事項が記載されていると認められる。

「加齢による減少要因だけでなく、紫外線などの外部要因や、ストレス、偏食によって、目の健康に大きく関係する網膜中のゼアキサンチンが減少するとの課題認識のもと、ゼアキサンチンを容易に摂取できる卵黄中のゼアキサンチン含量が高められた鶏卵を得ること。」

(3)周知例2に記載された事項
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平10-155430号公報(以下「周知例2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はスピルリナ藻体を含有する家禽用飼料を家禽へ投与し、家禽を飼育することにより得られる高濃度ゼアキサンチン含有家禽卵、及び該家禽卵を得る方法に関する。」

(イ)「【0006】スピルリナ藻体を鶏用飼料として利用した例としては、特開平6-153813号公報があるが、これはドウナリエラ藻中のβーカロチンを卵黄に蓄積させる為の補助剤としての利用方法である。また、ゼアキサンチンは、抗酸化作用、ビタミンAの前駆体として効果があり、栄養的、生理的に意義があることは知られていたが、最近、カロチノイド類の中でもとりわけ優れた発癌予防効果があることが判り、ゼアキサンチンの安易な取得、利用方法が期待されるに至った。」

(ウ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、栄養的・生理的意味の大きいゼアキサンチンを、人が容易に採取できる食材として有用な、高濃度ゼアキサンチン含有家禽卵、及び該家禽卵を得る方法として提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、栄養的・生理的意味の大きいゼアキサンチンを家禽卵に蓄積させることを目的として、種々の天然物配合飼料について鋭意研究した結果、スピルリナ藻体を0.5重量%以上配合した飼料を、例えば産卵鶏に投与すると、通常鶏の卵黄中のゼアキサンチン量(200?300μg/100g)を3倍以上に増加せしめ得ることを見出だし、本発明を完成するに至った。」

イ 上記ア(ア)?(ウ)によると、周知例2には次の技術事項が記載されていると認められる。

「ゼアキサンチンの、抗酸化作用、ビタミンAの前駆体として効果、発癌予防効果等に着目し、栄養的・生理的意味の大きいゼアキサンチンを人が容易に採取できるように卵黄中のゼアキサンチン量を増加した高濃度ゼアキサンチン含有家禽卵を得ること。」


4 対比
ア 本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「ゼアキサンチンが添加された飼料をニワトリに給餌して産ませる、卵黄の色調が改善された卵」は、卵黄中のゼアキサンチン含有量が高められたニワトリの卵のことを指すことは明らかなので、本願発明の「卵黄中にゼアキサンチンを含有する、ゼアキサンチン強化鶏卵」に相当する。

イ したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「卵黄中にゼアキサンチンを含有する、ゼアキサンチン強化鶏卵。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]:「ゼアキサンチン強化鶏卵」の用途に関して、
本願発明は、「ヒト血中ゼアキサンチン濃度を高めるための」ものであるのに対し、
刊行物1発明は、そのような特定がない点。

[相違点2]:「卵黄中にゼアキサンチンを含有する」量に関して、
本願発明は、「卵黄100g当たり4.5mg?8mg」であるのに対し、
刊行物1発明は、具体的な量の特定がない点。


5 判断
(1)相違点1及び2について
ア 刊行物1には、「ゼアキサンチンは・・・網膜及び水晶体に存在し眼の健康維持に関与していることが知られている(FOOD Style 21,3(3),50-53,1999)。これらの生理的効果からゼアキサンチンは健康食品素材・・・・として有用である。」(上記3(1)ア(ア)を参照。)と、ゼアキサンチンの健康食品としての機能に着目する記載がある。

イ そして、鶏卵を健康食品として人の健康をより向上させるために卵黄のゼアキサンチン含有量を増加させることは周知技術であるから(例えば、周知例1、周知例2参照。)、刊行物1発明において、上記アの示唆に基づいて上記周知技術を採用し、卵黄のゼアキサンチン含有量を増加させることは、当業者であれば容易に着想し得たことである。

ウ ここで、本願明細書には、卵黄中のゼアキサンチン含有量を、卵黄100g当たり3mg、4.5mgとしたゼアキサンチン強化鶏卵に関する試験データしか示されていない上、両者の試験条件が異なるため単純に比較できないものの、相違点2に係る4.5mg?8mgの条件を満たさない3mgの実験データにおいても、4.5mgの実験データと同様に、ゼアキサンチンサプリメントと比較して優位な、ゼアキサンチン摂取量に対する血中ゼアキサンチン濃度上昇効果が得られることが示されている。
以上から、本願明細書の記載を参酌しても、卵黄中のゼアキサンチン含有量を卵黄100g当たり4.5mg?8mgとすることに臨界的意義を見出すことはできない。

エ したがって、刊行物1発明において卵黄中のゼアキサンチン含有量を卵黄100g当たり4.5mg?8mgとすることは、卵黄のゼアキサンチン含有量をより多くして健康食品としての質を高めるなどの観点で当業者が適宜なし得たことである。

オ ここで、刊行物1には、飼料に添加する飼料配合剤に関して、本願明細書の段落【0050】ないし【0055】に記載された微生物と同様に、E-396株に突然変異を誘発し、生産するゼアキサンチンの総カロテノイド量に対する比率が特に高い変異株を選抜し、変異株の中から選抜されたゼアキサンチン生産微生物を用いることが記載されている(上記3(1)ア(イ)ないし(エ)を参照)。
そして、本願明細書において卵黄中のゼアキサンチン含有量を高めるための手段に関して、上記微生物を用いること以上の具体的手段の開示がないことを勘案すれば、刊行物1に記載された飼料配合剤を用いることで、刊行物1発明の卵黄中に、本願発明と同様にゼアキサンチン含有量を卵黄100g当たり4.5mg?8mg程度まで高められないといえる事情は見当たらない。

カ また、ゼアキサンチンを経口摂取することによりヒト血中ゼアキサンチン濃度が高まり、これによりヒトの健康に良い影響を及ぼすことは技術常識であるから(卵黄を機能性食品としてとらえ、卵黄のゼアキサンチン含有量を増大させた鶏卵の食事としての摂取とヒト血中ゼアキサンチン濃度の増大に着目した例として、国際公開2009/078716号(19頁の13行ないし16行、24頁のTable.5等)参照。)、刊行物1発明に上記周知技術を適用するに際して、これをヒト血中ゼアキサンチン濃度を高めるためのものとすることは、当業者であれば当然なし得たことに過ぎない。

キ 以上から、刊行物1発明において相違点1及び2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が刊行物1発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の効果について
本願発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。


6 むすび
以上の検討によれば、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-26 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-21 
出願番号 特願2011-37619(P2011-37619)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
谷垣 圭二
発明の名称 ゼアキサンチン強化家禽卵  
代理人 藤田 節  
代理人 村林 望  
代理人 平木 祐輔  

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