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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16L
管理番号 1321073
審判番号 不服2015-17124  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-17 
確定日 2016-11-28 
事件の表示 特願2011-550494号「水中に敷設されるパイプラインを製造するためのラインパイプの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年8月26日国際公開、WO2010/094528、平成24年8月9日国内公表、特表2012-518142号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)1月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年2月19日、独国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりある。
平成25年12月19日付け:拒絶理由の通知
平成26年4月7日 :意見書、手続補正書の提出
平成26年8月18日付け :拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成26年11月25日 :意見書の提出
平成27年5月25日付け :拒絶査定
平成27年9月17日 :審判請求書の提出
平成28年5月24日付け :拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という 。)の通知
平成28年8月30日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明(以下、「本願発明1-5」という。)は、平成26年4月7日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1は以下のとおりである。
「水中に敷設されるパイプラインを製造するための、コーティングされた金属ラインパイプの使用であって、
選択された敷設方法により制約されて、このコーティングは敷設の過程でせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒されているが、但し前記ラインパイプがポリアミド成形材料からなる1つの押出層で被覆されているものとし、
パイプラインが輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設され、かつさらに
ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつ
ポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである、
コーティングされた金属ラインパイプの使用。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2006-225659号公報
2:特表2008-525604号公報
3:特開2006-281217号公報

引用文献1には、水中に敷設されるパイプライン(オフショアー導管)を製造するための、コーティングされた金属ラインパイプの使用であって、前記ラインパイプがポリアミド成形材料からなる1つの押出層で被覆されているものとし(特に、段落【0042】における、鋼からなるオフショアー導管の外層を(ポリアミド)成形材料で形成する旨の記載を参照)、ポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである(段落【0041】参照)、コーティングされた金属ラインパイプの使用が記載されているといえる(【請求項1】、【請求項10】-【請求項13】、段落【0041】-【0042】等参照)。
そして、引用文献1には、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が高いことが記載されている(段落【0003】、【0010】等参照)ところ、引用文献2(段落【0015】参照)にも記載されているように、コーティング材料において、ASTM D 4440-3にしたがって測定された粘度は評価指標として周知であり、これを適宜の範囲に設定することは当業者にとって設計事項に過ぎない。
また、水中に敷設されるパイプラインが、輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設されることは、例えば引用文献3(段落【0002】-【0003】参照)に記載されるように従来周知であって、文献1に記載されたパイプライン(オフショアー導管)の敷設方法として適宜に採用し得るものであり、そしてそうすれば、コーティングが敷設の過程でせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒されることは当然である。
してみれば、本願発明1は、引用文献1-3に記載された技術事項ないし周知事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

2.原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献1には、「オフショアー導管はたいてい多層状に構成されており;これらは、通例、管の内側並びに外側にポリマー層により媒体に対して保護されている鋼構造からなる」ことが記載され(段落【0042】)、また、「本発明により使用される成形材料は、外層、内層及び/又は中間層を形成することができる。」と記載されている(段落【0042】)ので、オフショア-導管の外側を「本発明により使用される成形材料」で被覆することが記載されていると認められる。
そして、引用文献1には、実施例において、「本発明により使用される成形材料」として、PA12を用いることが記載されている(段落【0043】)ので、オフショア-導管の外側をPA12で被覆することが記載されていると認められる。
また、オフショア-導管が水中に敷設されるパイプラインを製造するために使用されるのは技術常識である。
そうすると、引用文献1には、「水中に敷設されるパイプラインを製造するための、被覆された鋼構造からなるオフショアー導管の使用であって、前記オフショアー導管がPA12で被覆されている、被覆された鋼構造からなるオフショアー導管の使用。」という発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、「水中に敷設されるパイプラインを製造するための、コーティングされた金属ラインパイプの使用であって、前記ラインパイプがポリアミド成形材料で被覆されている、コーティングされた金属ラインパイプの使用。」の点で一致している。
他方、本願発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
<相違点1>
「金属ラインパイプ」の「コーティング」に関し、本願発明1では、「選択された敷設方法により制約されて、このコーティングは敷設の過程でせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒されているが、但し前記ラインパイプがポリアミド成形材料からなる1つの押出層で被覆されているものとし、パイプラインが輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設され、かつさらにASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである」であるのに対し、
引用発明1では、そのように特定されていない点。

(3)判断
ア.相違点1について
引用文献1には、引用発明1の「PA21(ポリアミド成形材料)」の粘度が高いことが記載されている(段落【0003】、【0010】、【0011】等参照)ところ、例えば、引用文献2(段落【0001】、【0015】参照)に記載されているように、コーティング材料において、ASTM D 4440-3にしたがって測定された粘度を評価指標として用いるという技術は、従来周知の技術である。
また、例えば、引用文献3(段落【0002】、【0003】参照)に記載されるように、水中に敷設されるパイプラインが、輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設されるという技術は、従来周知の技術である。
しかしながら、引用文献1乃至引用文献3のいずれにも、「ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである」という相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が記載されておらず、また、水中に敷設される金属パイプラインが、輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設される際に、当該金属ラインパイプのコーティングがせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒されることによって生じる、コーティングの損傷を抑制するという課題を解決するために、コーティングの材料、その物性及び層厚をどのように選択すべきかについても何ら記載も示唆もされておらず、敷設時におけるコーティングの損傷抑制のため、「ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである」という本願発明1の構成を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明1、引用文献2で例示される周知技術、及び、引用文献3で例示される周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願発明2-5は、本願発明1をさらに限定したものであるので、当業者が引用発明1、引用文献2で例示される周知技術、引用文献3で例示される周知技術、原査定において請求項2-5に対して引用された引用文献4(特開平10-281389号公報)に記載の技術的事項、及び、原査定において請求項2-5に対して引用された引用文献5(特開平11-22867号公報)に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開昭62-288024号公報
2:特開2006-225659号公報

刊行物1発明と刊行物2に記載の技術的事項とは、いずれも、ラインパイプ(刊行物1発明の鎧装長尺体A、刊行物2に記載の技術的事項のオフショア-導管)にナイロン樹脂(刊行物1発明のナイロン樹脂、刊行物2に記載の技術的事項のPA12)を被覆するという点で共通するものであるから、刊行物1発明において、鎧装長尺体Aを被覆するためのナイロン樹脂として、刊行物2に記載の技術的事項の「出発化合物の分子量が5000を上回り、ISO307による溶液粘度ηrelが2.1以上であるPA12」を採用することは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

2.当審拒絶理由の判断
(1)刊行物の記載事項及び刊行物発明
ア.本願の優先日前に頒布された刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。
(ア)第1頁左欄12行目から同頁右欄4行目
「〔産業上の利用分野〕
本発明は鋼線、銅帯等の磁性金属材料で鎧装された海底ケーブル、海底送水管、海底送油管等の鎧装長尺体にゴム、プラスチックを押出被覆する方法に関するものである。
〔従来の技術〕
海底ケーブル、海底送水管あるいは海底送油管等の長尺体は布設時あるいは使用時において、膨大な張力や圧力に耐えるため、銅帯や鋼線等で補強鎧装が施される。さらにこの鎧装のうえに鎧装のバラケ防止のため押えテープが巻かれ、そのうえに前記鎧装の腐食や外傷防止のためゴム、プラスチックを被覆してシースが施される。」
(イ)第2頁左下欄7行目から同頁同欄20行目
「次に本発明の一実施例を第1図により詳細に説明する。但し説明の都合上、従来技術に記載されたものと同一構成のものには同一符号を付すものとする。Aは鋼線、鋼帯等の磁性金属材料で鎧装された海底ケーブル、海底送水管、海底送油管の鎧装長尺体で、ダイ1および口金2を備えた押出ヘッド3内にその入口側に設けたガイドローラ4で支持されながら挿通される。そして前記長尺体Aの上にはダイ1と口金2との間の環状隙間から加圧供給され、溶融状態にあるクロロプレン等のゴムや、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン等のゴム、プラスチックBが押出被覆されてシースとなり、図示しない冷却槽で冷却され、巻取機で巻取られる。」
(ウ)第3頁左上欄4行目から同頁同欄13行目
「ナイロン管の上に軟鋼材で18mmの厚さに鎧装を施した外径175mmの鎧装接金管に内径225mmの口金を用いて5.6mg厚さのナイロン樹脂を押出被覆した。この際、口金出口近傍上部に最大出力30000ガウスの電磁石を設けて上記複合管をつり上げてバランスをとりながら被覆したところ、ナイロン樹脂の押出被覆層(ナイロンシース)の肉厚の最大値と最小値の差はわずか0.3mmで偏肉がなく、被覆層表面は全面的に平滑で引きつれ等も生じなかった。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(エ)上記イには、「Aは・・・海底送油管の鎧装長尺体」と記載されているから、鎧装長尺体Aは、海底輸送管を製造するために使用されるものと認められる。
(オ)上記イには、プラスチックBを複数回押出被覆することに関して何ら記載されておらず、併せて第2図を参照すると、海底送油管の鎧装長尺体Aは、1つの押出層で被覆されているものと認められる。

これらの記載事項(ア)?(ウ)、認定事項(エ)、(オ)及び図面内容を総合し、本願発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「海底輸送管を製造するための、被覆された鎧装長尺体Aの使用であって、
前記被覆された海底送油管の鎧装長尺体Aがナイロン樹脂からなる1つの押出層で被覆されているものとし、
5.6mm厚さのナイロン樹脂を押出被覆してなる、
被覆された海底送油管の鎧装長尺体Aの使用。」

イ.本願の優先日前に頒布された刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0011】
本発明の範囲内で適しているポリアミドは、ラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンもしくはジカルボン酸をベースとして構成されている。さらにまた、例えばトリカルボン酸、トリアミン又はポリエチレンイミンから誘導されている、分枝作用を有する構成要素を含有していてよい。適しているタイプは、その都度ホモポリマーとして又はコポリマーとして、例えばPA6、PA46、PA66、PA610、PA66/6、PA6/6T、PA66/6T並びに特にPA612、PA1010、PA1012、PA1212、PA613、PA1014、PA11、PA12又は透明なポリアミドである。透明なポリアミドの場合に例えば次のものが考慮の対象になる:
・テレフタル酸と、2,2,4-及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンからなる異性体混合物とからなるポリアミド、
・イソフタル酸と、1,6-ヘキサメチレンジアミンとからなるポリアミド、
・テレフタル酸/イソフタル酸からなる混合物と、1,6-ヘキサメチレンジアミンとからなるコポリアミド、
・イソフタル酸と、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンと、ラウリンラクタム又はカプロラクタムとからなるコポリアミド、
・1,12-ドデカン二酸と、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンと、場合によりラウリンラクタム又はカプロラクタムとからなる(コ)ポリアミド、
・イソフタル酸と、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンと、ラウリンラクタム又はカプロラクタムとからなるコポリアミド、
・1,12-ドデカン二酸と、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンとからなるポリアミド、
・テレフタル酸/イソフタル酸-混合物と、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタンと、ラウリンラクタムとからなるコポリアミド。
【0012】
さらに、ラクタム、アミノカルボン酸、ジアミン、ジカルボン酸及びポリエーテルジアミン及び/又はポリエーテルジオールをベースとするポリエーテルアミドが適している。
(イ)「【0013】
好ましくは、出発化合物は5000を上回り、特に8000を上回る分子量Mnを有する。この場合に末端基が少なくとも部分的にアミノ基として存在するポリアミドが使用される。例えば、末端基の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%がアミノ末端基として存在する。調節剤としてのジアミン又はポリアミンの使用下に、より高いアミノ末端基含量を有するポリアミドの製造は技術水準である。当該の場合には、ポリアミドの製造の際に好ましくは、炭素原子4?44個を有する脂肪族、脂環式又は芳香脂肪族のジアミンが調節剤として使用される。適しているジアミンは、例えばヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2,2,4-もしくは2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-又は1,3-ジメチルアミノシクロヘキサン、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4′-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、イソホロンジアミン、メタキシリリデンジアミン又はパラキシリリデンジアミンである。」
(ウ)「【0042】
この場合にこれらの中空体又は中空異形材の壁は、単層状であり、かつこの場合に完全に特許の保護が請求されて使用される成形材料からなっていてよいが、しかしまたこれは多層状であってもよく、その場合に本発明により使用される成形材料は、外層、内層及び/又は中間層を形成することができる。一つの他の層もしくは複数の他の層は、他のポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素ポリマーをベースとする成形材料からか、又は金属、例えば鋼からなっている。例えばオフショア-導管はたいてい多層状に構成されており;これらは、通例、管の内側並びに外側にポリマー層により媒体に対して保護されている鋼構造からなる。」
(エ)「【0043】
以下に本発明は例示的に説明されるはずである。試験において次の材料を使用した:
NH2-基50meq/kg及びCOOH-基9meq/kg、ηrel 約2.15を有するアミンで調節されたPA12。製造に制約されてリン54.5ppmを含有。
NH2-基8meq/kg及びCOOH-基50meq/kg、ηrel 約2.15を有する酸で調節されたPA12。製造に制約されてリン54.5ppmを含有。
Brueggolen(登録商標)M 1251、低粘稠なポリカーボネート及び酸を末端基とするPA6からなる混合物。
Ceasit(登録商標) PC(ステアリン酸カルシウム)。」
(オ)「段落【0047】の【表1】(当審において特に参照すべき箇所のみ抜粋した。)
コンパウンドA アミンで調節されたPA12[質量%]:60
酸で調節されたPA12[質量%]:40
DIN EN 307によるηrel:2.11
コンパウンドB アミンで調節されたPA12[質量%]:59.9
酸で調節されたPA12[質量%]:40
DIN EN 307によるηrel:2.10
コンパウンドC アミンで調節されたPA12[質量%]:99.3
酸で調節されたPA12[質量%]:0
DIN EN 307によるηrel:2.55」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(カ)上記(ウ)には、「オフショアー導管はたいてい多層状に構成されており;これらは、通例、管の内側並びに外側にポリマー層により媒体に対して保護されている鋼構造からなる」ことが記載され、また、「本発明により使用される成形材料は、外層、内層及び/又は中間層を形成することができる。」と記載されているので、オフショア-導管の外側を「本発明により使用される成形材料」で被覆することが記載されていると認められる。
そして、上記(エ)、(オ)の【表1】には、「本発明により使用される成形材料」として、PA12を用いることが記載されているので、オフショア-導管の外側をPA12で被覆することが記載されていると認められる。
(キ)上記(オ)の【表1】中に記載の「ISO307」は、PA12を含むポリアミド希薄溶液の粘度数の求め方に関する規格であるから、【表1】中のηrelは、溶液粘度を表していると認められる。

これらの記載事項(ア)?(オ)、認定事項(カ)、(キ)を総合すると、刊行物2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「刊行物2に記載の技術的事項」という。)。
「出発化合物の分子量が5000を上回り、ISO307による溶液粘度ηrelが2.1以上であるPA12でオフショア-導管を被覆する技術。」

(2)対比
ア.本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「海底輸送管」、「被覆」は、それぞれ、本願発明1の「水中に敷設されるパイプライン」、「コーティング」に相当する。
イ.刊行物1発明の「鎧装長尺体A」と本願発明1の「金属ラインパイプ」とは、「ラインパイプ」という限りにおいて共通する。
ウ.一般に、ナイロンは合成高分子ポリアミドの総称であるから(必要あれば、「化学大事典 第1版 東京化学同人」参照)、刊行物1発明の「ナイロン樹脂」は本願発明1の「ポリアミド成形材料」に相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「水中に敷設されるパイプラインを製造するための、コーティングされたラインパイプの使用であって、
前記ラインパイプがポリアミド成形材料からなる1つの押出層で被覆されている、
コーティングされたラインパイプの使用。」

そして、本願発明1と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明1では、「ラインパイプ」が「金属ラインパイプ」であり、「パイプラインが輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設され」「選択された敷設方法により制約されて、コーティングは敷設の過程でせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒され」、「ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである」のに対し、
刊行物1発明では、「ラインパイプ」が「被覆された鎧装長尺体A」であり、押出層(ナイロン樹脂)の厚さが5.6mmであるが、輸送状態、敷設方法、荷重のかかり方、及び、ナイロン樹脂の粘度が特定されていない点。

(3)判断
上記相違点1について検討する。

刊行物2には、上記(1)イ.で述べたとおり、「出発化合物の分子量が5000を上回り、ISO307による溶液粘度ηrelが2.1以上であるPA12でオフショア-導管を被覆する技術。」という刊行物2に記載の技術的事項が開示されている。
ここで、本願明細書の段落【0018】の「適したポリアミドは、例えば・・・PA12。」との記載、段落【0043】に記載の「ポリアミド成形材料の高い粘度は通例、ポリアミドの高い分子量に付随して現れる。ポリアミドの分子量の尺度は溶液粘度である。・・・塗装される成形材料中のポリアミドの相対溶液粘度ηrelが、少なくとも1.8、特に好ましくは少なくとも2.0、殊に好ましくは少なくとも2.1及び極めて特に好ましくは少なくとも2.2であることが好ましい。」との記載、段落【0051】に記載の「好ましくは、出発ポリアミドは、5000よりも大きい、特に8000よりも大きい分子量Mnを有する。」との記載を参酌すれば、上記「出発化合物の分子量が5000を上回り、ISO307による溶液粘度ηrelが2.1以上であるPA12」は、本願発明1の「ポリアミド成形材料」と同様に高い粘度を有すると考えられるから、本願発明1の「ポリアミド成形材料」同様に、本願発明1の「ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sである」という条件を充足する蓋然性は高いとはいえるものの、当該条件を充足することが明らかであるとはいえない。
したがって、刊行物1発明に、刊行物2に記載の技術的事項を適用しても、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
加えて、刊行物1及び刊行物2のいずれにも、水中に敷設される金属パイプラインが、輸送のために巻き取られており、かつ敷設前又は敷設中に繰り出されるか、又はパイプラインがJ-レイ法又はS-レイ法により敷設される際に、当該金属ラインパイプのコーティングがせん断圧縮荷重及び/又は曲げ荷重に晒されることによって生じる、コーティングの損傷を抑制するという課題を解決するために、ポリアミド成形材料からなるコーティングの粘度及び層厚をどのように選択すべきかという点について何ら記載も示唆もされておらず、「ASTM D 4440-3による240℃及び0.1 1/sのせん断速度での、押し出されるポリアミド成形材料の粘度が少なくとも2000Pa・sであり、かつポリアミド成形材料からなる層が少なくとも1.0mmの厚さである」という相違点1に係る本願発明1の発明特定事項によって奏される、金属パイプラインの敷設時におけるコーティングの損傷を抑制するという効果については、出願時の技術水準を考慮しても当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、刊行物1発明において、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。

(4)小括
以上から、本願発明1は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願発明2-5は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2011-550494(P2011-550494)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 礒部 賢吉澤 伸幸  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 森林 宏和
出口 昌哉
発明の名称 水中に敷設されるパイプラインを製造するためのラインパイプの使用  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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