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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1321105
審判番号 不服2016-2024  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-09 
確定日 2016-11-28 
事件の表示 特願2011-134951「ガス燃料供給システムのインジェクタ診断方法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 2379、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、平成23年6月17日の出願であって、平成27年4月24日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年11月4日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年8月23日付けで当審における拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年9月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成28年9月30日提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
ベーパライザで加熱・気化し所定圧力に調整した液化ガス燃料をインジェクタによりエンジンに供給するガス燃料供給システムに配置された電子制御ユニットがインジェクタ系の故障を診断するためのインジェクタ診断方法において、電流測定回路およびインジェクタ診断手段を有した前記電子制御ユニットが、前記電流測定回路による前記電子制御ユニットと前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定することを特徴とするインジェクタ診断方法であって、前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と前記後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定は、前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値の方が大きい場合は前記インジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスが正常であり、そうでない場合は前記ワイヤハーネスがGNDショートしていると判定することを特徴とするインジェクタ診断方法。
【請求項2】
ベーパライザで液化ガス燃料を加熱・気化し所定圧力に調整してインジェクタでエンジンに供給するガス燃料供給システム中に配置される電子制御ユニットであって、インジェクタ駆動電流値を測定するための電流測定回路を備えているとともにインジェクタの故障を診断するための制御プログラムによるインジェクタ診断手段を備えており請求項1に前述したインジェクタ診断方法を実施することを特徴とするインジェクタ診断装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)平成27年4月24日付け拒絶理由の概要

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.(委任省令要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(進歩性)について
・請求項 1
・引用文献等 1?2
・備考
引用例1(特に、段落0035,0036,0082,0083、図4,6等)には、インジェクタ診断方法として、「電流測定回路およびインジェクタ診断手段を有した電子制御ユニットが、前記電流測定回路によるインジェクタ駆動電流の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に少なくとも2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較することによりインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定すること」が記載されている(特に、段落0083の「・・・保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等に基づいて、故障診断を行うことができるものである。」なる記載をみれば、2点以上の測定点で比較していることが明らか。)。
これを、引用例2(特に、要約、段落0003,0004、図2等)に記載のような「ベーパライザで液化ガス燃料を加熱・気化し所定圧力に調整してインジェクタでエンジンに供給するガス燃料供給システム中に配置される電子制御ユニット」のインジェクタ診断方法として採用することに格別の困難性は認められない。

・請求項 2
・引用文献等 1?3
・備考
さらに、引用例3(特に、段落0101,図1,6等)には、「継続してHレベルのときGNDショートと判定」することが開示されている。「継続して」とあるので、「2点」以上測定して比較していることは明らかである。

・請求項 3
・引用文献等 1?3
・備考
引用例1(特に、段落0035,0036,0082,0083、図4,6等)には、インジェクタ診断装置として、「電流測定回路およびインジェクタ診断手段を有した電子制御ユニットが、前記電流測定回路によるインジェクタ駆動電流の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に少なくとも2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較することによりインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定すること」が記載されている(特に、段落0083の「・・・保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等に基づいて、故障診断を行うことができるものである。」なる記載をみれば、2点以上の測定点で比較していることが明らか。)。
これを、引用例2(特に、要約、段落0003,0004、図2等)に記載のような「ベーパライザで液化ガス燃料を加熱・気化し所定圧力に調整してインジェクタでエンジンに供給するガス燃料供給システム中に配置される電子制御ユニット」のインジェクタ診断装置として採用することに格別の困難性は認められない。
請求項2の診断方法の点については、特に引用例3を参照。引用例3(特に、段落0101,図1,6等)には、「継続してHレベルのときGNDショートと判定」することが開示されている。「継続して」とあるので、「2点」以上測定して比較していることは明らかである。

●理由2(明確性)について

・請求項1
1.請求項1には、「インジェクタ駆動電流配線」ないし「インジェクタ駆動電流線」なる用語が記載されていない。このため、下記「・請求項2」の欄で指摘するように、請求項2の記載内容との整合が不明確となっている。

・請求項2
1.「前記インジェクタ駆動電流配線が・・・」なる記載について、当該「インジェクタ駆動電流配線」なる用語は請求項2には前記されておらず、しかも、請求項1にも記載されていないので、請求項1のいずれの構成について言及しているのか不明確である。また、この点で、請求項1の記載内容との整合が不明確である。
2.「前記インジェクタ駆動電流線が・・・」なる記載について、当該「インジェクタ駆動電流線」なる用語は請求項2には前記されておらず、しかも、請求項1にも記載されていないので、請求項1のいずれの構成について言及しているのか不明確である。また、この点で、請求項1の記載内容との整合が不明確である。
あるいは、前出の「インジェクタ駆動電流配線」なる用語との関係、対応が不明確である。
3.「インジェクタ駆動電流配線」について、用語を統一して使用しておらず不明確である。

よって、請求項1,2及びそれらを引用する請求項に係る発明は明確でない。

●理由3(委任省令要件)について
1.「インジェクタ駆動電流配線」について、用語を統一して使用しておらず不明確である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?3に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。

<補正の示唆、付記等>
(1)請求項における略称、略号表記について、技術用語は「慣用語」ではなく、「学術用語」を使用してください。なお、略称、略号を定義した上で、使用する場合には、この限りではありません。(施行規則、様式29の2(第24条の4関係)の備考8及び9を参照。)
----------------------------------
<引用文献等一覧>
1.特開平11-13519号公報
2.特開2008-215130号公報
3.特開2002-324710号公報」

(2)平成27年11月4日付け拒絶査定の内容

「この出願については、平成27年 4月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項1?3
・引用文献等1?3
引用例1に記載された発明も、段落0035?0036、0083等の記載からみて、インジェクタ駆動電流の測定を保持区間中に少なくとも2点行っていることは明らかである。そして、一般には、1回のみの比較結果ではなく、引用例1に記載された発明のように、経時的にないしは何回も比較することにより、判定結果の信頼性を確保することが通常行われるのであるが、その必要がない場合には、当業者は適宜「2つの測定値」のみの比較だけで判定するようにし得るものと認める。
そして、「2つの測定値」のみの比較だけで判定するようにしたことによる作用効果も、当業者の当然に予測し得る範囲内のものにすぎない。
よって、出願人の意見書での反論は採用できない。

<引用文献等一覧>
1.特開平11-13519号公報
2.特開2008-215130号公報
3.特開2002-324710号公報」

2 原査定の理由についての判断
2-1 引用文献
(1)引用文献1(特開平11-13519号公報)
(1-1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付した。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】エンジンコントロールユニットからの燃料噴射開始指令が入力されたときから、燃料噴射弁が備えるソレノイドに比較的大きな所定値に至るまで開弁電流を与えて燃料噴射弁を開弁させる一方、
開弁電流が所定値に至った後は、開弁状態を保持することができる比較的小さな保持電流をソレノイドに与え、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射停止指令が入力されるまで、その保持電流値を維持するようにした燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置であって、
前記ソレノイドに与えられている電流値を検出する電流値検出手段と、
前記燃料噴射開始指令が入力されたときから前記開弁電流が前記所定値に至るまでの正常時における電流値特性と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値特性と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障の有無を診断する開弁電流診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置。
【請求項2】エンジンコントロールユニットからの燃料噴射開始指令が入力されたときから、燃料噴射弁が備えるソレノイドに比較的大きな所定値に至るまで開弁電流を与えて燃料噴射弁を開弁させる一方、
開弁電流が所定値に至った後は、開弁状態を保持することができる比較的小さな保持電流をソレノイドに与え、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射停止指令が入力されるまで、その保持電流値を維持するようにした燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置であって、
前記ソレノイドに与えられている電流値を検出する電流値検出手段と、
正常時において燃料噴射停止指令が入力されるまで維持される保持電流値と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障の有無を診断する保持電流診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置。
【請求項3】エンジンコントロールユニットからの燃料噴射開始指令が入力されたときから、燃料噴射弁が備えるソレノイドに比較的大きな所定値に至るまで開弁電流を与えて燃料噴射弁を開弁させる一方、
開弁電流が所定値に至った後は、開弁状態を保持することができる比較的小さな保持電流をソレノイドに与え、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射停止指令が入力されるまで、その保持電流値を維持するようにした燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置であって、
前記ソレノイドに与えられている電流値を検出する電流値検出手段と、
前記燃料噴射開始指令が入力されたときから前記開弁電流が前記所定値に至るまでの正常時における電流値特性と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値特性と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障の有無を診断する開弁電流診断手段と、
正常時において燃料噴射停止指令が入力されるまで維持される保持電流値と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障の有無を診断する保持電流診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置。
【請求項4】前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれてから所定期間、前記エンジンコントロールユニットと前記燃料噴射弁の駆動制御装置と前記開弁電流診断手段と前記電流値検出手段の機能を維持させる第1機能維持手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、機能が維持されている前記コントロールユニットにおいて所定間隔で診断用噴射開始指令と診断用噴射停止指令とを発生させる診断用噴射指令発生手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、前記診断用噴射開始指令を燃料噴射弁の駆動制御装置に入力させた場合に、前記開弁電流診断手段が、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障は無いと診断したときは、当該開弁電流診断手段が故障していると診断する第1故障診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置の診断装置。
【請求項5】前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれてから所定期間、前記エンジンコントロールユニットと前記燃料噴射弁の駆動制御装置と前記保持電流診断手段と前記電流値検出手段の機能を維持させる第2機能維持手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、機能が維持されている前記コントロールユニットにおいて所定間隔で診断用噴射開始指令と診断用噴射停止指令とを発生させる診断用噴射指令発生手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、前記診断用噴射開始指令を燃料噴射弁の駆動制御装置に入力させた場合に、前記保持電流診断手段が、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障は無いと診断したときは、当該保持電流診断手段が故障していると診断する第2故障診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置の診断装置。
【請求項6】前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれてから所定期間、前記エンジンコントロールユニットと前記燃料噴射弁の駆動制御装置と前記開弁電流診断手段と前記保持電流診断手段と前記電流値検出手段の機能を維持させる第3機能維持手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、機能が維持されている前記コントロールユニットにおいて所定間隔で診断用噴射開始指令と診断用噴射停止指令とを発生させる診断用噴射指令発生手段と、
前記ソレノイドと、電源と、の接続が断たれた後、前記診断用噴射開始指令を燃料噴射弁の駆動制御装置に入力させた場合に、前記開弁電流診断手段或いは前記保持電流診断手段が、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流或いは保持電流に関連した故障は無いと診断したときは、前記開弁電流診断手段或いは前記保持電流診断手段が故障していると診断する第3故障診断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置の診断装置。
【請求項7】前記所定間隔が、前記保持電流診断手段が十分に機能できる間隔に設定されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置の診断装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電磁(ソレノイド)式燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置及び該診断装置の診断装置に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0002】
【従来の技術】従来の内燃機関に用いられる電磁式燃料噴射弁の駆動制御装置としては、例えば、特開平6-101552号公報に開示されるようなものがある。かかる従来の燃料噴射弁の駆動制御装置は、開弁初期において、バッテリ電源と昇圧回路とを用いて、燃料噴射弁が備える駆動ソレノイドに比較的大きな駆動電流(開弁電流)を与えて応答性よく開弁させるようにする一方で、その後駆動電流の電流値が所定以上となったら、バッテリ電源を介して開弁状態を維持することができる比較的小さな駆動電流(保持電流)を与え、所定開弁時間その電流値を維持させ、所望の燃料噴射量を達成できるようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のような燃料噴射弁の駆動制御装置には、自己診断装置が備わっておらず、正常に駆動制御装置が作動できているか否かを診断することができなかった。そのため、ユーザ等の作動不良等に対する認識が遅れ、作動不良等に伴い発生する種々の事態(例えば、運転性悪化、燃費悪化、排気性能悪化など何らかの不具合)に対する処置が遅れてしまうといった惧れがある。
【0004】なお、自己診断装置を備えるようにした場合においては、該自己診断装置が正常に機能できているか否かを診断できるようにすることも、誤診断防止等の観点から、望ましいことである。本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ低コストな構成で、高精度に燃料噴射弁の駆動制御装置を診断できる燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置を提供することを目的とする。また、かかる診断装置自身の診断も、簡単かつ低コストな構成で、高精度に行えるようにすることも目的とする。」(段落【0002】ないし【0004】)

(エ)「【0005】
【課題を解決するための手段】このため、請求項1に記載の発明では、図1の実線で示すように、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射開始指令が入力されたときから、燃料噴射弁が備えるソレノイドに比較的大きな所定値に至るまで開弁電流を与えて燃料噴射弁を開弁させる一方、開弁電流が所定値に至った後は、開弁状態を保持することができる比較的小さな保持電流をソレノイドに与え、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射停止指令が入力されるまで、その保持電流値を維持するようにした燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置であって、前記ソレノイドに与えられている電流値を検出する電流値検出手段と、前記燃料噴射開始指令が入力されたときから前記開弁電流が前記所定値に至るまでの正常時における電流値特性と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値特性と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障の有無を診断する開弁電流診断手段と、を含んで構成するようにした。
【0006】かかる構成によれば、前記燃料噴射開始指令が入力されたときから前記開弁電流が前記所定値に至るまでの正常時における電流値特性と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値特性と、を比較することで、簡単かつ高精度に、燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障(異常)の有無を診断することができることになる。
【0007】請求項2に記載の発明では、図2の実線で示すように、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射開始指令が入力されたときから、燃料噴射弁が備えるソレノイドに比較的大きな所定値に至るまで開弁電流を与えて燃料噴射弁を開弁させる一方、開弁電流が所定値に至った後は、開弁状態を保持することができる比較的小さな保持電流をソレノイドに与え、エンジンコントロールユニットからの燃料噴射停止指令が入力されるまで、その保持電流値を維持するようにした燃料噴射弁の駆動制御装置の診断装置であって、前記ソレノイドに与えられている電流値を検出する電流値検出手段と、正常時において燃料噴射停止指令が入力されるまで維持される保持電流値と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値と、に基づいて、前記燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障の有無を診断する保持電流診断手段と、を含んで構成するようにした。
【0008】かかる構成によれば、正常時において燃料噴射停止指令が入力されるまで維持される保持電流値と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値と、を比較することで、簡単かつ高精度に、燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障(異常)の有無を診断することができることになる。(後略)」(段落【0005】ないし【0008】)

(オ)「【0022】
【発明の効果】請求項1に記載の発明によれば、前記燃料噴射開始指令が入力されたときから前記開弁電流が前記所定値に至るまでの正常時における電流値特性と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値特性と、を比較することで、簡単かつ高精度に、燃料噴射弁の駆動制御装置の開弁電流に関連した故障(異常)の有無を診断することができる。
【0023】請求項2に記載の発明によれば、正常時において燃料噴射停止指令が入力されるまで維持される保持電流値と、実際に前記電流値検出手段により検出される電流値と、を比較することで、簡単かつ高精度に、燃料噴射弁の駆動制御装置の保持電流に関連した故障(異常)の有無を診断することができる。」(段落【0022】及び【0023】)

(カ)「【0027】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の一実施の形態を、添付の図面に基づいて説明する。本発明の一実施形態にかかるソレノイド式燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動制御装置(インジェクタドライブ[駆動]ユニット)1は、図4に示すように、エンジンコントロールユニット2において運転状態(吸入空気流量、機関回転速度、水温、目標空燃比等)に基づき設定される噴射信号(噴射パルス信号)を受け、該噴射信号に基づき第1トランジスタ(Tr1)や第2トランジスタ(Tr2)等を制御してインジェクタソレノイド(燃料噴射弁)4への駆動電流を制御する制御回路3を備えて構成される。
(中略)
【0031】なお、このような燃料噴射弁(インジェクタソレノイド)4の駆動制御を行うために、本実施形態にかかるインジェクタドライブユニット(インジェクタ駆動制御装置)1には、電流検出回路7が備えられている。この電流検出回路7は、インジェクタ駆動電流が判定値1となったことを検出するための電流検出手段1、インジェクタ駆動電流が判定値2となったことを検出するための電流検出手段2、インジェクタ駆動電流が判定値3となったことを検出するための電流検出手段3を含んで構成される。
【0032】ところで、本実施形態にかかるインジェクタドライブユニット1には、インジェクタドライブユニット1による上記制御(図5のタイミングチャートに示す制御)が正常に行われているか否かを診断するための故障診断回路8が設けられている。なお、かかる故障診断回路8が、後述するように、本発明にかかる開弁電流診断手段、保持電流診断手段として機能することとなる。
【0033】ここで、本実施形態にかかる故障診断回路8が行うインジェクタドライブユニット1の故障診断制御について説明する。本実施形態にかかる故障診断回路8では、図6のタイミングチャートに示すように、噴射信号がONとなると同時に、開弁電流診断ウィンドをHiにするようになっている。
【0034】そして、正常であれば(図6において破線で示す状態を参照)、噴射信号がONとなってから駆動電流が判定値1に到達するに十分な期間、該開弁電流診断ウィンドはHiに維持されるようになっている。従って、もし、この開弁電流診断ウィンドのHi期間内において、駆動電流が判定値1に到達しなかった場合(図6において実線で示す状態を参照)には、何らかの異常があり、正常に駆動制御装置等が機能していないと診断することができることになる。
【0035】また、本実施形態にかかる故障診断回路8には、図6に示したように、噴射信号がONとなってから所定期間経過後にHiとなり、Hiとなってから所定期間経過後にLoとなる保持電流診断ウィンドが設けられるようになっている。即ち、正常であれば駆動電流が判定値2と判定値3との間(所望の保持電流)に維持されるであろう時期・期間に合わせて、前記保持電流診断ウィンドはHiとなるように制御される。
【0036】従って、保持電流診断ウィンドがHiとなっている間に、例えば駆動電流が所定以上(例えば判定値4以上)となったり、或いは所定以下(例えば判定値5以下)となったりした場合には、良好に保持電流が維持されておらず、駆動制御装置等に何らかの異常があると診断することができることになる。なお、噴射信号がONとなってから所定期間経過後に、該保持電流診断ウィンドをHiにするのは、開弁初期に与えられた開弁電流が判定値4より小さな値に低下してからでないと、上記故障診断方法では保持電流が正常に与えられているか否かを精度良く診断できなくなるからである。」(段落【0027】ないし【0036】)

(キ)「【0082】ところで、本実施形態では各気筒に燃料噴射弁(インジェクタソレノイド)4を備えた6気筒の内燃機関について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、少なくとも1の燃料噴射弁(インジェクタソレノイド)4を備えた燃焼機関{燃料噴射方式(筒内直接噴射、吸気ポート内噴射など)、燃焼形態(成層燃焼、均質燃焼、拡散燃焼など)、燃料種(ガソリン、軽油、アルコール、天然ガスなど)にも限定されない}であれば、本発明は適用できるものである。
【0083】また、本実施形態では、開弁電流診断ウィンド内や保持電流診断ウィンド内で開弁電流や保持電流が所定値となったか否かなどに基づいて、故障診断を行うようにして説明したが、これに限られるものではなく、例えば開弁電流や保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等に基づいて、故障診断を行うことができるものである。」(段落【0082】及び【0083】

(1-2)引用発明
上記(1-1)及び図1ないし18から、引用文献1には、
「天然ガスなどの燃料をインジェクタによりエンジンに供給する燃料供給システムに配置されたインジェクタドライブユニット1がインジェクタ系の故障を診断するためのインジェクタ診断方法において、電流検出回路7および故障診断回路8を有した前記インジェクタドライブユニット1が、前記電流検出回路7による前記インジェクタドライブユニット1と前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線に流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果を正常時における駆動電流値と比較し、正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法であって、前記正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較に基づく判定は、実際に検出される駆動電流が正常時における駆動電流の判定値2と判定値3との間である場合には正常であり、そうでない場合には駆動制御装置等に何らかの異常があると診断する、インジェクタ診断方法。」
という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)引用文献2(特開2008-215130号公報)
(2-1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付した。

(ア)「【要約】
【課題】ガス燃料噴射システムについて、過大な手間及びコストを要することなく過剰な吸引力に起因する部品の劣化を軽減して、インジェクタの耐久性を確保できるようにする。
【解決手段】燃料タンク3に貯留した液化ガス燃料をベーパライザ6で気化させて所定圧に調整するとともにインジェクタ8から吸気管路4に噴射するガス燃料噴射システムにおいて燃料噴射圧及び吸気マニホルド圧の検出値を基にして噴射量補正手段10aによりインジェクタ8の開弁時間を補正するガスエンジン2のインジェクタ制御装置であって、インジェクタ8の弁体を開弁方向に動作させる吸引力について吸引力の過剰部分を縮小する方向で補正する吸引力補正手段10bを備えた。」(第1ページ【要約】)

(イ)「【0001】
本発明はガスエンジンのインジェクタ制御装置に関し、殊に、LPG(液化石油ガス)などの液化ガス燃料を気化させて所定圧でインジェクタから吸気管路に噴射することによりガスエンジンに供給するガス燃料噴射システムにおいて、インジェクタの駆動制御を行うための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LPGやLNGなどの液化ガス燃料は、従前より火花点火エンジンの燃料に用いられており、例えば、レギュレータ(ベーパライザ)とミキサとを使用して大気圧程度に減圧させた気化ガスにして吸気管路に吸引させエンジンに供給する方式が知られており、或いは、特開平6-17709号公報に記載されているように、液化ガス燃料を所定正圧の気化ガスに調整してエンジンの吸気管路に噴射させる方式も広く用いられている。
【0003】
図2は、LPG燃料を所定圧に気化させて供給するガスエンジン2のガス燃料噴射システム1Aの配置図を示している。このガス燃料噴射システム1Aにおいては、燃料タンク3内のLPG燃料は通常液体の状態で取り出され、液体燃料通路9Aを通ってベーパライザ6に導入される。
【0004】
導入されたLPG燃料は、ベーパライザ6内の熱交換手段により加熱されて蒸発・気化し調圧手段で所定圧力に調圧されて、気化ガスの状態で気体燃料通路9Bを通って燃料ギャラリ7に導入され、エンジン要求流量に応じて電子制御ユニット10Bで噴射量が決定され、インジェクタ駆動用ドライバ10cを介し駆動制御されたインジェクタ8,8,8で吸気管路(吸気マニホルド部)4内に噴射される。」(段落【0001】ないし【0004】)

(2-2)引用文献2記載の技術
上記(2-1)及び図2から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「ベーパライザ6で液化ガス燃料を加熱・気化し所定圧力に調圧してインジェクタ8でガスエンジンに供給するガス燃料供給システム中に配置される電子制御ユニット10B。」

(3)引用文献3(特開2002-324710号公報)
(3-1)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付した。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ソレノイド等の誘導負荷に供給される電流を制御する誘導負荷制御装置に関し、特に誘導負荷で発生した異常内容を判断する装置および方法に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0002】
【従来の技術】従来、建設機械などの油圧駆動車両には、電磁弁(電磁比例制御弁)を制御するために、その電磁弁を駆動するソレノイドと、該ソレノイドへの電流を制御するコントローラとを有するソレノイド制御装置が組み込まれている。
【0003】このソレノイド制御装置を用いた例えばエンジンのインジェクション制御、即ちソレノイド制御では、駆動開始時にソレノイドに高電圧を印加し、過励磁状態にして一気にバルブを開かせるように制御する共に、その後、所定時間そのバルブが開いた状態を保持するためパルス幅変調(PWM)信号に従ってソレノイドに流れる電流が一定電流になるように制御し、さらに、前記所定時間経過後はソレノイドへの電流の供給を急速遮断してバルブを閉じるように制御している。
【0004】ところで、ソレノイドは種々の原因により断線状態又は短絡状態となることがある。このようなソレノイドの異常を検出する装置としては、特開昭62-279265号公報に記載された装置が知られている。この公報に記載された装置では、トランジスタのオフ動作のときにソレノイドに発生する逆起電圧に基づいて、燃料噴射弁駆動回路系の異常を検出するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公報に記載された装置では、ソレノイドに発生する逆起電圧に基づいて燃料噴射弁駆動回路系の異常を検出することはできるものの、燃料噴射弁駆動回路系の例えばソレノイドが断線状態又は短絡状態の何れの異常であるかを検出することはできない。
【0006】そこで、本発明は、誘導負荷が断線状態又は短絡状態の何れの異常であるかを検出することができる誘導負荷の異常判断装置および方法を提供することを解決課題とする。」(段落【0002】ないし【0006】)

(ウ)「【0007】
【課題を解決するための手段、作用および効果】上記解決課題を達成するため、第1の発明では、誘導負荷に電圧を印加する電圧印加手段と、前記誘導負荷に印加されている電圧を検出する印加電圧検出手段と、前記印加電圧に応じた電流が通電する通電回路と、前記通電回路を遮断して前記誘導負荷に逆起電圧を発生させる遮断手段と、前記遮断手段によって前記通電回路を遮断したときに前記誘導負荷に発生する逆起電圧を検出する逆起電圧検出手段と、前記印加電圧検出手段の検出結果と前記逆起電圧検出手段の検出結果とに基づいて、前記誘導負荷の異常内容を判断する判断手段とを具備したことを特徴とする。
【0008】第2の発明では、充電電圧を誘導負荷に印加する充電電圧印加手段と、前記充電電圧を検出する充電電圧検出手段と、前記充電電圧に応じた電流が通電する通電回路と、前記通電回路を遮断して前記誘導負荷に逆起電圧を発生させる遮断手段と、前記遮断手段によって前記通電回路を遮断したときに前記誘導負荷に発生する逆起電圧を検出する逆起電圧検出手段と、前記充電電圧検出手段の検出結果と前記逆起電圧検出手段の検出結果とに基づいて、前記誘導負荷の異常内容を判断する判断手段とを具備したことを特徴とする。」(段落【0007】及び【0008】)

(エ)「【0026】図1は、本発明に係るソレノイド制御装置1の構成を示したものである。
【0027】同図1において、ソレノイド制御装置1は、噴射燃料を調整するためのソレノイド10と、ソレノイド10を過励磁状態にするために必要な電荷を蓄積するコンデンサCを所定の充電電圧(定格電圧)まで充電するための充電部20と、コンデンサCの端子間の電圧を検出する電圧検出部30と、ソレノイド10に対して電源V_(B)からの電流を断続的に供給させるためのパルス幅変調部(以下、PWM部という)40と、ソレノイド10に発生した逆起電圧を検出する逆起電圧検出部60と、ソレノイド10に断続的に流れた電流の信号を検出する電流検出部50と、スイッチSW1、SW2と、ダイオードD1、D2、D3とを有して構成されている。」(段落【0026】及び【0027】)

(オ)「【0065】[第2の実施の形態]第2の実施形態では、基本的には上述した第1の実施形態の構成および機能を有している(図1乃至図5参照)。しかし、この第2の実施形態は、上記第1の実施形態とは、ソレノイド10が正常か異常かを判断する判断処理が少し異なっている。ここでは、その異なっている点について説明する。
【0066】なお、この第2の実施形態においては、ソレノイド制御装置1では、例えば中央処理装置(CPU)等の図示しない判断部によって、PWM部40のドライブ回路42の出力結果(PWM信号)と、電圧検出部60のコンパレータ61の出力端子からの出力結果とに基づいて、ソレノイド10が正常又は異常であるかを診断するようにしている。しかも、異常の場合は、ソレノイド10は断線又は短絡の何れかの異常であるかを診断する。
【0067】次に、ソレノイド制御装置1によるソレノイド制御処理(特に、ソレノイドの診断処理)の作用について説明する。
【0068】「ソレノイド10が正常の場合」この場合、PWM部40のドライブ回路42は、図4(a)に示すように所定のデューティ比のPWM信号を出力する。
【0069】また、そのときのソレノイド10の両端子間の電圧V_(SOL)は、第1の実施形態の場合と同様に図3(c)に示すような特性となり、符号240で示される状態のときはソレノイド10に逆起電圧330が発生する。この場合、逆起電圧検出部60のコンパレータ61の出力端子からは、Hレベルの信号が出力される。
【0070】「ソレノイド10が断線の場合」この場合、図6(a)に示すようにソレノイド10には電流Iが流れないのであるから、電流検出部50のコンパレータ51の出力端子からは、Lレベルの信号が継続して出力されることになる。従って、PWM部40のドライブ回路42は、電源V_(B)からの電流をソレノイド10へ継続して供給させるべく、図6(b)に示すようにディティー比100%のPWM信号つまりHレベルが維持された信号を出力する。
【0071】「ソレノイド10が短絡の場合」この場合、図6(c)に示すようにソレノイド10には過電流(電流I)が流れのであるから、電流検出部50のコンパレータ51の出力端子からは、Hレベルの信号が継続して出力されることになる。従って、PWM部40のドライブ回路42は、電源VBからソレノイド10へ供給すべく電流を停止させるべく、図6(d)に示すようにデュティー比0%のPWM信号つまりLレベルが維持された信号を出力する。」(段落【0065】ないし【0071】)

(カ)「【0101】・第5実施例
第2の実施形態では、図1に示すように、電流検出部50を設け、図6に示すように、電流検出部50から出力される電流Iに基づきソレノイド10が断線状態であるか短絡状態であるかを判断している。つまり電流検出部50から出力される電流Iが継続してLレベルであることをもってPWM信号が継続してHレベルになっていると判断しソレノイド10が断線状態であると判断している。また電流検出部50から出力される電流Iが継続してHレベルであることをもってPWM信号が継続してLレベルになっていると判断しソレノイド10が短絡状態であると判断している。」(段落【0101】)

(3-2)引用文献3記載の技術
上記(3-1)並びに図1及び6から、引用文献3には次の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「電流検出部50から出力される電流Iが継続してHレベルであることをもってソレノイド10が短絡状態であると判断する技術。」

2-2 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「燃料供給システム」は、その技術的意義からみて、本願発明1における「ガス燃料供給システム」に相当し、以下同様に、「インジェクタドライブユニット1」は「電子制御ユニット」に、「電流検出回路7」は「電流測定回路」に、「故障診断回路8」は「インジェクタ診断手段」に、「インジェクタドライブユニット1」は「電子制御ユニット」に、「インジェクタへの駆動電流供給配線」は「インジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネス」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「天然ガスなどの燃料」は、その技術的意義からみて、「ガス燃料」という限りにおいて、本願発明1における「ベーパライザで加熱・気化し所定圧力に調整した液化ガス燃料」に相当する。
また、引用発明における「前記電流検出回路7による前記インジェクタドライブユニット1と前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線に流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果を正常時における駆動電流値と比較し、正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法であって、前記正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較に基づく判定は、実際に検出される駆動電流が正常時における駆動電流の判定値2と判定値3との間である場合には正常であり、そうでない場合には駆動制御装置等に何らかの異常があると診断するインジェクタ診断方法」は、「前記電流測定回路による前記電子制御ユニットと前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果から、インジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法」という限りにおいて、本願発明1における「前記電流測定回路による前記電子制御ユニットと前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定することを特徴とするインジェクタ診断方法であって、前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と前記後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定は、前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値の方が大きい場合は前記インジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスが正常であり、そうでない場合は前記ワイヤハーネスがGNDショートしていると判定するインジェクタ診断方法」に相当する。

したがって、両者は、
「ガス燃料をインジェクタによりエンジンに供給するガス燃料供給システムに配置された電子制御ユニットがインジェクタ系の故障を診断するためのインジェクタ診断方法において、電流測定回路およびインジェクタ診断手段を有した前記電子制御ユニットが、前記電流測定回路による前記電子制御ユニットと前記インジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果から、インジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「ガス燃料」に関して、本願発明1においては、「ベーパライザで加熱・気化し所定圧力に調整した液化ガス燃料」であるのに対し、引用発明においては、「天然ガスなどの燃料」である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「電流測定回路による前記電子制御ユニットとインジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果から、インジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法」に関して、本願発明1においては「電流測定回路による電子制御ユニットとインジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスに流れるインジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定したインジェクタ駆動電流値と後に測定したインジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定することを特徴とするインジェクタ診断方法であって、先に測定したインジェクタ駆動電流値と後に測定したインジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定は、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値の方が大きい場合はインジェクタへの駆動電流供給配線であるワイヤハーネスが正常であり、そうでない場合はワイヤハーネスがGNDショートしていると判定するインジェクタ診断方法」であるのに対し、引用発明においては、「電流検出回路7による前記インジェクタドライブユニット1とインジェクタ間に配線されたインジェクタへの駆動電流供給配線に流れるインジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果を正常時における駆動電流値と比較し、正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定するインジェクタ診断方法であって、正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較に基づく判定は、実際に検出される駆動電流が正常時における駆動電流の判定値2と判定値3との間である場合には正常であり、そうでない場合には駆動制御装置等に何らかの異常があると診断するインジェクタ診断方法」である点(以下、「相違点2」という。)。

2-3 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献2記載の技術は、「ベーパライザ6で液化ガス燃料を加熱・気化し所定圧力に調圧してインジェクタ8でガスエンジンに供給するガス燃料供給システム中に配置される電子制御ユニット10B。」というものである。
そして、引用発明と、引用文献2記載の技術とは、ともに、燃料供給システムという共通の技術分野において、ガス燃料をインジェクタでエンジンに供給する燃料供給システムの制御に関するものであり、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用することに格別の阻害要因はない。
してみれば、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用することにより、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
本願発明1においては、「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」ものであるのに対し、引用発明においては、「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を行い、その測定結果を正常時における駆動電流値と比較し、正常時における駆動電流と実際に検出される駆動電流との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」ものであって、基本的な技術思想が相違する。
例えば、引用文献1の段落【0035】及び図6に記載されたものは、保持電流が判定値2と判定値3との間(所望の保持電流)に維持されていれば正常であると判断されるものであるから、本願発明1における「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」という事項とは基本的な技術思想が相違する。
なお、引用文献1の段落【0083】に記載された「開弁電流や保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等に基づいて、故障診断を行うことができるものである」という事項は、引用文献1の全体の記載からみて、「開弁電流や保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等を、正常時における開弁電流や保持電流の変化特性(時間的な変化、傾きなど)等と比較することによって、故障診断を行うことができるものである」(下線部は当審で付加した。)という意味であると解され、本願発明1における「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」という事項とは基本的な技術思想が相違する。
また、引用文献3の段落【0101】及び図6に記載されたものは、「電流検出部50から出力される電流Iが継続してHレベルであることをもってPWM信号が継続してLレベルになっていると判断しソレノイド10が短絡状態であると判断している」ものではあるが、「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」ものではない。
してみると、本願発明1における「・・・インジェクタ駆動電流値の測定を1つのインジェクタ駆動電流保持区間中に2回行い、その測定結果を前記インジェクタ診断手段で比較し、先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する・・・」という事項は、引用文献1ないし3のいずれにも記載も示唆もされていない。
一方、本願発明1は、相違点に係る発明特定事項を有することにより、
「インジェクタ駆動電流の測定を2回とした本発明によると、過剰なコストを要することなく電流測定回路のバラツキを吸収して、誤診断を確実に回避できるものである。」(段落【0014】)という、格別な作用効果を奏するものである。
してみれば、引用発明において、引用文献2及び3記載の技術を適用しても、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたものとすることはできない。

よって、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2及び3記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定するものであるから、引用発明並びに引用文献2及び3記載の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要

「 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1において、「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した測定値の駆動電流値の変化だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する」という記載は明確でない。
すなわち、「後に測定した測定値の駆動電流値」とは何か、明確でない。「測定値の駆動電流値」が「インジェクタ駆動電流値」と同じものであれば、同じ用語を用いて記載されたい。
また、上記記載は、「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値」と「後に測定した測定値の駆動電流値」の変化に基づくのか、「インジェクタ駆動電流値」と「後に測定した測定値の駆動電流値の変化」に基づくのか、明確でなく、また、「変化」とは時間当たりの「変化率」を意味するのか、他のものを意味するのか、明確でない。
(補正の示唆:明細書中の段落【0011】には、「本発明においてこの測定を少なくとも2回行った測定結果を比較して判定する構成とした」と記載されていることから、上記記載を、「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する」と補正することも一案である。)

(2)請求項1において、「前記先に測定したインジェクタ駆動電流の電流値が前記後に測定したインジェクタ駆動電流の駆動電流値の変化に基づく判定は」という記載は主語と述語の関係が明確でない。
(補正の示唆:「前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と前記後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定は」と補正することも一案である。)
(以下略) 」

2 当審拒絶理由についての判断

(1)本件補正前の請求項1における「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した測定値の駆動電流値の変化だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する」という記載を、本件補正後に「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいてインジェクタ系に故障が生じているか否かを判定する」と補正したことにより、「後に測定した測定値の駆動電流値」が「後に測定した前記インジェクタ駆動電流値」であることが明確になるとともに、「先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較だけに基づいて」インジェクタ系に故障が生じているか否かを判定することが明確になった。

(2)本件補正前の請求項1における「前記先に測定したインジェクタ駆動電流の電流値が前記後に測定したインジェクタ駆動電流の駆動電流値の変化に基づく判定は」という記載を、本件補正後に「前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と前記後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定は」と補正したことにより、主語と述語の関係が明確になり、「前記先に測定した前記インジェクタ駆動電流値と前記後に測定した前記インジェクタ駆動電流値との比較に基づく判定」であることも明確になった。

上記(1)及び(2)により、当審拒絶理由通知において指摘した特許法第36条第6項第2号の拒絶理由は解消した。

すなわち、当審拒絶理由については解消された。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願2011-134951(P2011-134951)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
P 1 8・ 537- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
松下 聡
発明の名称 ガス燃料供給システムのインジェクタ診断方法およびその装置  
代理人 橋本 克彦  
代理人 橋本 京子  
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