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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1321143 |
審判番号 | 不服2015-21802 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-08 |
確定日 | 2016-11-22 |
事件の表示 | 特願2011- 40507「化合物半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日出願公開、特開2012-178454、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年2月25日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成25年11月 6日 審査請求 平成26年10月31日 拒絶理由通知 平成27年 1月 9日 意見書・手続補正 平成27年 8月31日 拒絶査定 平成27年12月 8日 審判請求 第2 本願発明 1 本願発明1 本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成27年1月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 基板と, 前記基板の上方に形成された第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された上部電極と, 前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極と を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする化合物半導体装置。」 2 本願発明5 同じく,本願の請求項5に係る発明(以下,「本願発明5」という。)は以下のとおりである。 「【請求項5】 基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に上部電極と,前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極とを形成する工程と を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 3 本願発明9 同じく,本願の請求項9に係る発明(以下,「本願発明9」という。)は以下のとおりである。 「【請求項9】 基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に上部電極と,前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極とを形成する工程と を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成され, 前記第2の化合物半導体層を形成する工程は, 前記第2の化合物半導体層の形成部位を開口するマスクを形成する工程と, 分子線エピタキシャル成長法により,前記基板の法線を基準として前記上部電極の逆側に傾斜する第1の角度でアルミニウム又はインジウムを入射し,前記法線を基準として前記上部電極側に傾斜する第2の角度で他の材料元素を入射する工程と を含み, 前記2の角度を前記第1の角度よりも大きくすることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 4 本願発明10 同じく,本願の請求項10に係る発明(以下,「本願発明10」という。)は以下のとおりである。 「【請求項10】 ダイオード及びスイッチ素子を有するPFC回路を備えた電源装置であって, 前記ダイオード及び前記スイッチ素子の少なくとも一方は, 基板と, 前記基板の上方に形成された第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された上部電極と, 前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極と を含む化合物半導体装置であって, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする電源装置。」 第3 原査定の理由の概要 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1-2,5 ・引用文献等 1-2 ・備考 引用文献1の第14頁第25行?第15頁第27行や引用文献2に記載されているように化合物半導体層の膜厚を調整することによって,正孔密度を調整しうることが記載されている。 引用文献1の第11頁第7行?第19行等の記載より,引用文献1に記載された発明も枠状に取り囲む構成であることは明らかであるので,本願発明と引用文献1に記載された発明に格別の相違点を有するものとは認められない。 ・請求項 3,7 ・引用文献等 1-3 ・備考 引用文献3には,組成比によって正孔密度を調整することが記載されている。 ・請求項 4,8 ・引用文献等 1-2 ・備考 断面形状を変更するための手段として溝を用いることに困難性があるものとは認められない。 ・請求項 10 ・引用文献等 1-4 ・備考 RFC回路を用いたスイッチング電源回路は引用文献4の図14に記載されているように一般的なスイッチング電源用の回路であり,当該素子として引用文献1?3に記載された素子を用いることに困難性はない。 <拒絶の理由を発見しない請求項> 請求項9に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特表2001-508950号公報 2.特開2010-003959号公報 3.特開2010-056137号公報 4.特開2010-238835号公報 第4 当審の判断 1 請求項1ないし4について (1) 引用文献2の記載と引用装置発明 ア 引用文献2 引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体装置に関し,特に窒化物系半導体機能層を有する半導体装置に関する。」 (イ)「【0014】 [HEMTの構成] 図1に示すように,第1の実施の形態に係るHEMT(半導体装置)1は,キャリア領域(チャネル領域)として機能する第1の窒化物系半導体領域21上に第1の窒化物系半導体領域21より格子定数が小さく,バンドキャップが大きく,引張応力が生じるヘテロ接合により配設されたキャリア発生領域として機能する第2の窒化物系半導体領域(バリア領域)22を有し,第1の窒化物系半導体領域21のヘテロ接合近傍に二次元キャリアガスチャネル(二次元電子ガス層又は二次元正孔ガス層)23を有する窒化物系半導体機能層2と,第2の窒化物系半導体領域22上に互いに離間されて配設され,二次元キャリアガスチャネル23にオーミック接続された第1の主電極3及び第2の主電極4と,第2の窒化物系半導体領域22上の第1の主電極3と第2の主電極4との間に配設されたゲート電極5とを備える。第1の実施の形態において,第1の主電極3はソース電極として使用され,第2の主電極4はドレイン電極として使用されている。図1及びそれ以降において明確に図示していないが,耐圧の関係から,第1の主電極3とゲート電極5間は第2の主電極4とゲート電極5間よりも短くなるように構成されている。 【0015】 窒化物系半導体機能層2は,図示しないが,シリコン基板,炭化シリコン基板,サファイア基板等の基板上に直接的に又は窒化物系半導体機能層2の結晶性の整合のためにバッファ層を介して間接的に形成されている。窒化物系半導体機能層2はIII族窒化物系半導体材料により構成されている。代表的なIII族窒化物系半導体はAl_(x)In_(y)Ga_(1-x-y)N(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)により表される。第1の実施の形態において,窒化物系半導体機能層2の第1の窒化物系半導体領域21にはGaN層が使用され,第2の窒化物系半導体領域22にはAlGaN層が使用される。」 (ウ)【0024】 [HEMTの製造方法] 前述のHEMT1は,特に図面を用いてその製造方法を説明しないが,第2の窒化物系半導体領域22を形成した後に,レジスト(マスク)を併用したエッチングを用いることにより簡易に製造することができる。すなわち,膜厚t1の第2の窒化物系半導体領域22を全面に形成した後に,レジストを形成し,このレジストをマスクとして用い,レジストのサイドエッチングを行いながら第2の窒化物系半導体領域22の第2の主電極4とゲート電極5が配設される間の所定領域を第2の主電極4に向かって徐々に薄くなるように第2の窒化物系半導体領域22の上面からエッチングを行うことによって,第2の窒化物系半導体領域22に傾斜面を形成することができる。 (エ)「【0045】 (第4の実施の形態) 本発明の第4の実施の形態は,半導体装置としてショットキーバリアダイオード(SBD)に本発明を適用し,このSBDの耐圧を向上した例を説明するものである。 【0046】 [SBDの構成] 図9に示すように,第4の実施の形態に係るSBD(半導体装置)11は,キャリア通過領域として機能する第1の窒化物系半導体領域21上にヘテロ接合により配設されたキャリア発生領域として機能する第2の窒化物系半導体領域22を有し,第1の窒化物系半導体領域21のヘテロ接合近傍に二次元キャリアガスチャネル23を有する窒化物系半導体機能層2と,第2の窒化物系半導体領域22上に互いに離間されて配設された第1の主電極3及び第2の主電極4と,を備え,第2の窒化物系半導体領域22の第1の主電極3の第2の主電極4側端の膜厚t1に比べて,第2の窒化物系半導体領域22の第2の主電極4の第1の主電極3側端の膜厚t2が薄く設定されている。第4の実施の形態において,第1の主電極3は二次元キャリアガスチャネル23にオーミック接続するカソード電極として使用され,第2の主電極4は二次元キャリアガスチャネル23にショットキー接続するアノード電極として使用される。 【0047】 窒化物系半導体機能層2は,ここでは前述の第1の実施の形態に係るHEMT1の窒化物系半導体機能層2と同様に構成されている。 【0048】 SBD11においては,ショットキー接続となる第2の主電極(カソード電極)4側に電界が集中し易い。従って,前述の第1の実施の形態に係るHEMT1と同様に,第2の窒化物系半導体領域22の第2の主電極4側を薄い膜厚t2に設定することにより,SBD11においては,二次元キャリアガスチャネル23の第2の主電極4の近傍のキャリア密度を低下させ,電界強度Eを減少することができる。」 (オ)図9には,第1の主電極3から離間するほど第2の窒化物系半導体領域22の膜厚が薄く設定されていることが記載されていると認められる。 イ 前記アより,引用文献2には次の発明(「引用装置発明」という。)が記載されているものと認められる。 「半導体装置は,基板と,基板上の第1の窒化物半導体領域と,第1の窒化物系半導体領域上の第2の窒化物系半導体領域を有し,第1の窒化物系半導体領域のヘテロ接合近傍に二次元正孔ガス層を有し,第2の窒化物系半導体領域上に第1の主電極を備え,第1の主電極から離間するほど第2の窒化物系半導体領域の膜厚が薄く設定されている。」 (2)引用文献1の記載と引用発明1 ア 引用文献1 引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。 (ア)「技術分野 本発明は,金属接合部を取り囲む半導体層中の電荷または電荷密度が接合部から離れるにしたがって漸減するエッジ止端を有し,接合のエッジ部,つまり金属と半導体の接合面で,強い電界によって絶縁破壊が発生する可能性を低減できる,炭化珪素を母材としたショットキーダイオードと称する金属半導体接合に関する。」(5頁3-8行) (イ)「請求項に記載されたショットキー接合を得るためのさらに別の第3の方法によれば,第1の導電材料で弱くドープした第1層を有する炭化珪素の平坦なウエハから始めて,この第1層の上に第2のタイプの導体材料からなる第2層をエピタキシアルに成長させる。エッチングによって第2層に溝を形成し,第2層の壁面と接触するか又はこれを覆うようにショットキー接続を後に形成する一方で,周囲の第2層を厚さが段階的に薄くなるように単一のステップ又は複数のステップでエッチングし,接続から外に向かって蓄積電荷が減少するショットキー接続接触延長JTEを形成する。エピタキシアル成長によって形成された第2層は,ショットキー接続の周囲のガードリングとして機能する。領域の電荷蓄積特性がショットキーバリア領域とJTE領域との間に形成された遷移ベルトと,JTEの周開の電界を制御する。ショットキーバリア領域とJTE領域の間の遷移ベルトの電界は,さらに第1のJTE領域の内側をショットキー接続のためにエッチングした角度αによっても制御される。」(11頁7-19行) (ウ)「図4を参照して本発明のさらに別の実施例を説明する。図4に示したコンポーネントはダイオードのカソードを形成する低ドープn導体層1からなるSiC基板上に形成されている。この層1の上部に,低ドープp型の第2層4をエピタキシアル成長させる。次に,マスキングとエッチング工程によって,この第2層4を蝕刻し,この例の場合には,ダイオードから外に向かって4段階に厚さが薄くなる階段状部分s1ないしs4を形成して,連続ステップでチャージレベルが漸減するガードリングを形成する。JTE層の第2層4の厚さを連続的に減少させることによってチャージレベルを連続的に減少させてもよい。エッチングステップにおいて,第2層4の中央領域はマスクせずにエッチング材料に露出させ,溝5を形成する。この溝5は,角度αを成す傾斜した表面によって構成される。溝の内部には,ショットキー金属コンタクト層2が前記n^(-)層1と接触して層1と2との間にショットキー接続を形成する。金属接続は,同時に第2層4に形成された傾斜した壁面と接触するかあるいはこれを覆う。上記のガードリングは接続のJTEとして機能する。溝の傾斜した領域は,遷移ベルトTBと構成し,溝の壁面が成す角度αが接合とJTE領域の電界を制御する。角度αはプラズマエッチングのパラメータを選択することで制御することができる。プラソン,ロカテリ,シャンテ,レンツ,ペクーらの文献(D.Plason,M.L.Locatelli,J.P.Chante,G.Lentz,L.Peccoud,Proc.Of the first Int.Power Electronics and Motion Control Conf.,IPEMC 94,142,(1994)を参照されたい。 4領域JTEの階段部s1ないしs4の相対的チャージレベルは以下の関係を有する。 Q1:Q2:Q3:Q4=100:(50-100):(25-75):(0-50) (Q1=Q0) 2領域の場合にはQ1:Q2=100:(25-75) 3領域の場合にはQ1:Q2:Q3=100:(30-100):(0-60) 図4はまた,図に示した実施例の逆バイアス接続における欠乏領域の延長を示している。最大電界強さEmaxの位置もあわせて示した。 これらの変更例について共通な点は、金属コンタクト2の外側表面を被覆する不活性層10存在である。不活性層は例えば、SiO_(2)であってもよい。」(14頁25行-15頁24行) (エ)図4には低ドープn導体層1内の第2層4との境界付近に点線で示される欠乏領域が外に向かって延長されることが,記載されていると認められる。 イ 引用発明1 前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「ダイオードにおいて,低ドープn導体層からなるSiC基板の上部に,低ドープp型の第2層をエピタキシアル成長させ,ショットキー金属コンタクト層が低ドープn導体層と接触しており,低ドープp型の第2層を蝕刻しダイオードから外に向かって4段階に厚さが薄くなる階段状部分を形成して,連続ステップでチャージレベルが漸減するガードリングを形成する。」 (3)引用文献3の記載と引用発明3 ア 引用文献3 引用文献3には,図面とともに次の記載がある。 「【0079】 (第6の実施の形態) 本発明の第6の実施の形態は,半導体装置として2端子素子であるショットキーバリアダイオード(SBD)に本発明を適用し,このSBDの耐圧を向上した例を説明するものである。 【0080】 [SBDの構成] 図12に示すように,第4の実施の形態に係るSBD(半導体装置)11は,二次元キャリアガスチャネル23を有する第1の化合物半導体層21と,第1の化合物半導体層21上にヘテロ接合により配設された第2の化合物半導体層22と,二次元キャリアガスチャネル23の一端に接続された第1の主電極3と,二次元キャリアガスチャネル23の一端に離間する他端に接続された第2の主電極4とを備え,第1の主電極3と第2の主電極4との間において,第2の化合物半導体層22の組成元素の組成比が二次元キャリアガスチャネル23方向に異なる。第6の実施の形態において,第1の主電極3は二次元キャリアガスチャネル23にオーミック接続するカソード電極として使用され,第2の主電極4は二次元キャリアガスチャネル23にショットキー接続するアノード電極として使用される。 【0081】 化合物半導体機能層2は,ここでは前述の第1の実施の形態に係るHEMT1の化合物半導体機能層2と同様に窒化物系半導体機能層である。そして,第2の化合物半導体層22の第1の主電極3と第2の主電極4との間において第1の主電極3(アノード電極)側の組成元素であるAlの組成比x2が,第2の主電極(カソード電極)4側の組成元素であるAlの組成比x2に対して高く設定されている。 【0082】 SBD11においては,ショットキー接続となる第2の主電極(カソード電極)4側に電界が集中し易い。従って,前述の第1の実施の形態に係るHEMT1と同様に,第2の化合物半導体層22の第2の主電極4側のAlの組成比x2を低く設定することにより,SBD11においては,二次元キャリアガスチャネル23の第2の主電極4の近傍のキャリア密度を低下させ,電界強度Eを減少することができる。」 イ 引用発明3 前記アより,引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「半導体装置は,二次元キャリアガスチャネルを有する第1の化合物半導体層と,第1の化合物半導体層上にヘテロ接合により配設された第2の化合物半導体層と,二次元キャリアガスチャネルの一端に接続された第1の主電極と,二次元キャリアガスチャネルの一端に離間する他端に接続された第2の主電極とを備え,第1の主電極と第2の主電極との間において,第2の化合物半導体層の組成元素の組成比が二次元キャリアガスチャネル方向に異なる。」 (4)引用文献4の記載と引用発明4 ア 引用文献4 引用文献4には,図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0015】 ・・・ 図14は本発明にかかる複合半導体整流素子1を使用したスイッチング電源の昇圧型力率改善回路(PFC:Power Factor Correction回路)を示す。このPFC回路はダイオードD,スイッチQ,インダクタンスL,制御ICから成る。ACラインから図示しない入力整流部を通じ入力された電圧・電流は直流端子11,12に印加される。端子21,22からは力率が改善された電流と電圧が出力される。スイッチQは比較的高い周波数(たとえば60?100kHz)を有するPWM(パルス幅変調)信号のICで制御される。その制御方式はインダクタンス電流を不連続とする方式(電流非連続方式)と連続とする方式(電流連続方式)がある。この中で,電流連続方式は主に高出力電力(約150W以上)のPFC回路に用いられる。この方式はダイオードDの順方向通電時にスイッチQがオンするため,ダイオードDの順電流が強制的に逆バイアスされることになり,ダイオードDの逆回復現象に伴うスイッチング損失Wrrが発生する。また当然,スイッチQがオン状態の時には,ダイオードDには逆電圧が印加され,その漏れ電流IRによる逆損失WRが発生する。逆にスイッチQがオフ状態の時は,ダイオードDには順電流が流れ,順電圧降下VFによる順損失WFが発生する。」 (イ)図14には,ダイオードDとトランジスタ素子であるスイッチQとを有するPFC回路が記載されていると認められる。 イ 引用発明4 前記アより,引用文献4には次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。 「ダイオードとトランジスタ素子であるスイッチとを有するPFC回路からなるスイッチング電源。」 (5)本願発明1と引用装置発明との対比 引用装置発明の「基板上の第1の窒化物半導体領域」,「第1の窒化物系半導体領域上の第2の窒化物系半導体領域」及び「第1の主電極」は,それぞれ本願発明1の「前記基板の上方に形成された第1の化合物半導体層」,「前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層」及び「上部電極」に相当すると認められる。 また,引用装置発明の「第1の窒化物系半導体領域のヘテロ接合近傍」の「二次元正孔ガス層」は「第1の主電極から離間するほど第2の窒化物系半導体領域の膜厚が薄く設定されている」ことにより,第1の主電極から離間するほど正孔濃度が低くなるものと認められるから,本願発明1の「前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されること」を満たすものと認められる。 よって,本願発明1と引用装置発明とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「基板と, 前記基板の上方に形成された第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 上部電極と, を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする化合物半導体装置。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本願発明1の「上部電極」は「第1の化合物半導体層上に」形成されるのに対し,引用装置発明の「第1の主電極」は「第2の窒化物系半導体領域上に」備えられる点。 (イ)相違点2 本願発明1が「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を含むのに対し,引用装置発明は前記「浮遊電極」を含まない点。 (6)相違点2についての検討 相違点2について検討する。 「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」は,引用文献1,3,4いずれにも記載も示唆もされていない。 引用発明1の「ガードリング」は,低ドープp型の半導体層からなるものであって「電極」ではないし,その機能は欠乏領域(以下,「空乏層」という。)を延長させるためのもの(前記(2)ア(ウ)(エ))である。 そして,引用装置発明は耐圧の向上のために,二次元キャリアガスチャネルのキャリア密度を低下させるもので,空乏層を用いるものでないから,引用装置発明において空乏層を延長させるべく引用発明1の「ガードリング」を採用する理由がない。 さらに,本願発明1におけるJTE構造の電位の安定化という課題(本願明細書段落0053)がいずれの引用文献にも記載も示唆もされていないから,引用装置発明において「浮遊電極」を採用すべき動機づけに欠けるというべきである。 よって,相違点2に係る「浮遊電極」を想到することは,当業者が容易になし得ることではない。 (7)本願発明1と引用発明1との対比 引用発明1の「低ドープn導体層」はSiC基板であるから,下記相違点1を除いて,本願発明1の「第1の化合物半導体層」に相当すると認められる。 引用発明1の「低ドープp型の第2層」は「低ドープn導体層からなるSiC基板の上部に」「エピタキシアル成長させ」たものであるから,本願発明1の「前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層」に相当すると認められる。 引用発明1の「ショットキー金属コンタクト層」は「低ドープn導体層と接触して」いるから,本願発明1の「前記第1の化合物半導体層上に形成された上部電極」に相当すると認められる。 引用発明1の「ダイオード」は「SiC基板」上に形成されるものであるから,下記相違点を除いて,本願発明1の「化合物半導体装置」に相当すると認められる。 よって,本願発明1と引用発明1とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された上部電極と, を含むことを特徴とする化合物半導体装置。」 イ 相違点 (ア)相違点1’ 本願発明1の「第1の化合物半導体層」は「基板の上方に形成され」,「基板」とは別体であるのに対し,引用発明1の「低ドープn導体層」は「SiC基板」である点。 (イ)相違点2’ 本願発明1は「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を含むのに対し,引用発明1は前記「浮遊電極」を含まない点。 (ウ)相違点3’ 本願発明1においては「前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成される」のに対し,引用発明1においては「2次元正孔ガス」が生成されない点。 (8)相違点3’についての検討 相違点3’について検討する。 引用発明1においては,低ドープn導体層と低ドープp型の第2層のpn接合に形成される空乏層を,低ドープp型の第2層を蝕刻することで形成されるガードリングにより延長すること(前記(2)ア(ウ)(エ))で耐圧を高めるものである。引用発明1の「連続ステップでチャージレベルが漸減する」とは,p型の第2層におけるアクセプタイオンによるチャージレベルが漸減する(空乏層の厚さがアクセプタ濃度により決定されることは技術常識である。)という意味であり,固定されたチャージではなくキャリアである2次元正孔ガスとは無関係のものである。 そして,2次元正孔ガスを用いて耐圧を高めることは引用装置発明において開示されているが,引用発明1における電流を阻止している空乏層を導電性の高い引用装置発明の2次元正孔ガスに置き換えることは,発想からして全く逆の方向であり,動機づけに欠けるものであるから,容易に想到しうるとはいえない。 (9)本願発明1についてのまとめ したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (10)請求項2ないし4について 本願の請求項2ないし4に係る発明は,本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明1が前記(9)のとおり,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上,請求項2ないし4に係る発明も同様の理由で,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2 請求項5ないし8について (1)引用文献2の記載と引用方法発明 ア 引用文献2 引用文献2には,前記1(1)アのとおりの記載がある。 イ 引用方法発明 半導体装置は基板の上方に半導体層を形成して製造されることは技術常識であるから,前記アより,引用文献2には次の発明(以下,「引用方法発明」という。)が記載されているものと認められる。 「基板上に第1の窒化物半導体領域を形成する工程と,第1の窒化物系半導体領域上に第2の窒化物系半導体領域を形成する工程と,第2の窒化物系半導体領域上に第1の主電極を形成する行程を含み,第1の窒化物系半導体領域のヘテロ接合近傍に二次元正孔ガス層を有し,第1の主電極から離間するほど第2の窒化物系半導体領域の膜厚が薄く設定されている半導体装置の製造方法。」 (2)引用文献1の記載と引用発明1 ア 引用文献1 引用文献1には,前記1(2)アのとおりの記載がある。 イ 引用発明1’ 半導体装置は基板の上方に半導体層を形成して製造されることは技術常識であるから,前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1’」という。)が記載されているものと認められる。 「ダイオードの製造方法において,低ドープn導体層からなるSiC基板の上部に,低ドープp型の第2層をエピタキシアル成長させ,ショットキー金属コンタクト層を低ドープn導体層と接触するように形成し,低ドープp型の第2層を蝕刻しダイオードから外に向かって4段階に厚さが薄くなる階段状部分を形成して,連続ステップでチャージレベルが漸減するガードリングを形成する。」 (3)引用文献3の記載と引用発明3 前記1(3)のとおり,引用文献3には引用発明3が記載されていると認められる。 (4)引用文献4の記載と引用発明4 前記1(4)のとおり,引用文献4には引用発明4が記載されていると認められる。 (5)本願発明5と引用方法発明との対比 前記1(5)と同様であるから,本願発明5と引用方法発明とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 上部電極を形成する工程と を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 イ 相違点1 本願発明5の「上部電極を形成する行程」は「前記第1の化合物半導体層上に上部電極と,前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極とを形成する行程」であるのに対し,引用方法発明においては「第1の主電極」は「第2の窒化物系半導体領域上に」形成され,「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」は形成されない点。 (6)相違点1についての検討 「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を形成することは,引用文献1,3,4いずれにも記載も示唆もされていない。 引用発明1の「ガードリング」は,低ドープp型の半導体層からなるものであって「電極」ではないし,その機能は空乏層を延長させるためのもの(前記1(2)ア(ウ)(エ))である。 そして,引用方法発明は耐圧の向上のために,二次元キャリアガスチャネルのキャリア密度を低下させるもので,空乏層を用いるものでないから,引用方法発明において空乏層を延長させるべく引用発明1の「ガードリング」を形成することを採用する理由がない。 さらに,本願発明5におけるJTE構造の電位の安定化という課題(本願明細書段落0053)がいずれの引用文献にも記載も示唆もされていないから,引用方法発明において「浮遊電極」を形成することを採用すべき動機づけに欠けるというべきである。 よって,相違点に係る「浮遊電極」を形成することを想到することは,当業者が容易になし得ることではない。 (7)本願発明5と引用発明1’との対比 前記1(7)と同様であるから,本願発明5と引用発明1’とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に上部電極を形成する工程と を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 イ 相違点 (ア)相違点1’ 本願発明5は「基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程」を含むのに対し,引用発明1’においては「SiC基板は低ドープn導体層からなって」おり,基板の上方に低ドープn導体層を形成する工程は含まない点。 (イ)相違点2’ 本願発明5においては,「前記第1の化合物半導体層上に上部電極を形成する工程」が,「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」も「形成する」のに対し,引用発明1’においては「ショットキー金属コンタクト層を低ドープn導体層と接触するように形成」は,「浮遊電極」を形成しない点。 (ウ)相違点3’ 本願発明5においては,「前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成される」のに対し,引用発明1’においては,「2次元正孔ガス」が生成されない点。 (8)相違点3’についての検討 相違点3’について検討する。 引用発明5においては,低ドープn導体層と低ドープp型の第2層のpn接合に形成される空乏層を,低ドープp型の第2層を蝕刻することで形成されるガードリングにより延長すること(前記1(2)ア(ウ)(エ))で耐圧を高めるものである。引用発明1’の「連続ステップでチャージレベルが漸減する」とは,p型の第2層におけるアクセプタイオンによるチャージレベルが漸減する(空乏層の厚さがアクセプタ濃度により決定されることは技術常識である。)という意味であり,固定されたチャージではなくキャリアである2次元正孔ガスとは無関係のものである。 そして,2次元正孔ガスを用いて耐圧を高めることは引用方法発明において開示されているが,引用発明1’における電流を阻止している空乏層を導電性の高い引用方法発明の2次元正孔ガスに置き換えることは,発想からして全く逆の方向であり,動機づけに欠けるものであるから,容易に想到しうるとはいえない。 (9)本願発明5についてのまとめ したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明5は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (10)請求項6ないし8について 本願の請求項6ないし8に係る発明は,本願発明5の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明5が前記(9)のとおり,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上,請求項6ないし8に係る発明も同様の理由で,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3 請求項9について (1)引用文献2の記載と引用方法発明 前記2(1)のとおり,引用文献2には引用方法発明が記載されていると認められる。 (2)引用文献1の記載と引用発明1 前記2(2)のとおり,引用文献1には引用発明1’が記載されていると認められる。 (3)引用文献3の記載と引用発明3 前記1(3)のとおり,引用文献3には引用発明3が記載されていると認められる。 (4)引用文献4の記載と引用発明4 前記1(4)のとおり,引用文献4には引用発明4が記載されていると認められる。 (5)本願発明9と引用方法発明との対比 前記1(5)と同様であるから,本願発明9と引用方法発明とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 上部電極を形成する工程と を含み, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されること を特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本願発明9の「上部電極を形成する行程」は「前記第1の化合物半導体層上に上部電極と,前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極とを形成する行程」であるのに対し,引用方法発明においては「第1の主電極」は「第2の窒化物系半導体領域上に」形成され,「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」は形成されない点。 (イ)相違点2 本願発明9の「第2の化合物半導体層を形成する工程は,前記第2の化合物半導体層の形成部位を開口するマスクを形成する工程と,分子線エピタキシャル成長法により,前記基板の法線を基準として前記上部電極の逆側に傾斜する第1の角度でアルミニウム又はインジウムを入射し,前記法線を基準として前記上部電極側に傾斜する第2の角度で他の材料元素を入射する工程とを含み,前記第2の角度を前記第1の角度よりも大きくすること」であるのに対し,引用方法発明の「第2の窒化物系半導体領域を形成する行程」は前記具体的な工程を含まない点。 (6)相違点1についての検討 相違点1について検討する。 「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を形成することは,引用文献1,3,4いずれにも記載も示唆もされていない。 引用発明1の「ガードリング」は,低ドープp型の半導体層からなるものであって「電極」ではないし,その機能は空乏層を延長させるためのもの(前記1(2)ア(ウ)(エ))である。 そして,引用方法発明は耐圧の向上のために,二次元キャリアガスチャネルのキャリア密度を低下させるもので,空乏層を用いるものでないから,引用方法発明において空乏層を延長させるべく引用発明1の「ガードリング」を形成することを採用する理由がない。 さらに,本願発明5におけるJTE構造の電位の安定化という課題(本願明細書段落0053)がいずれの引用文献にも記載も示唆もされていないから,引用方法発明において「浮遊電極」を形成することを採用すべき動機づけに欠けるというべきである。 よって,相違点1に係る「浮遊電極」を形成することを想到することは,当業者が容易になし得ることではない。 (7)本願発明9と引用発明1’との対比 前記1(7)と同様であるから,本願発明9と引用発明1’とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「前記第1の化合物半導体層上に第2の化合物半導体層を形成する工程と, 前記第1の化合物半導体層上に上部電極を形成する工程と を含むことを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」 イ 相違点 (ア)相違点1’ 本願発明9は「基板の上方に第1の化合物半導体層を形成する工程」を含むのに対し,引用発明1’においては「SiC基板は低ドープn導体層からなって」おり,基板の上方に低ドープn導体層を形成する工程は含まない点。 (イ)相違点2’ 本願発明9においては,「前記第1の化合物半導体層上に上部電極を形成する工程」が,「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」も「形成する」のに対し,引用発明1’においては「ショットキー金属コンタクト層を低ドープn導体層と接触するように形成」は,「浮遊電極」を形成しない点。 (ウ)相違点3’ 本願発明9においては,「前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成される」のに対し,引用発明1’においては,「2次元正孔ガス」が生成されない点。 (エ)相違点4’ 本願発明9の「前記第2の化合物半導体層を形成する工程は,前記第2の化合物半導体層の形成部位を開口するマスクを形成する工程と,分子線エピタキシャル成長法により,前記基板の法線を基準として前記上部電極の逆側に傾斜する第1の角度でアルミニウム又はインジウムを入射し,前記法線を基準として前記上部電極側に傾斜する第2の角度で他の材料元素を入射する工程とを含み,前記2の角度を前記第1の角度よりも大きくすること」であるのに対し,引用発明1’の「第2の窒化物系半導体領域を形成する行程」は前記具体的な工程を含まない点。 (8)相違点3’についての検討 相違点3’について検討する。 引用発明9においては,低ドープn導体層と低ドープp型の第2層のpn接合に形成される空乏層を,低ドープp型の第2層を蝕刻することで形成されるガードリングにより延長すること(前記1(2)ア(ウ)(エ))で耐圧を高めるものである。引用発明1’の「連続ステップでチャージレベルが漸減する」とは,p型の第2層におけるアクセプタイオンによるチャージレベルが漸減する(空乏層の厚さがアクセプタ濃度により決定されることは技術常識である。)という意味であり,固定されたチャージではなくキャリアである2次元正孔ガスとは無関係のものである。 そして,2次元正孔ガスを用いて耐圧を高めることは引用方法発明において開示されているが,引用発明1’における電流を阻止している空乏層を導電性の高い引用方法発明の2次元正孔ガスに置き換えることは,発想からして全く逆の方向であり,動機づけに欠けるものであるから,容易に想到しうるとはいえない。 (9)本願発明9についてのまとめ したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明9は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4 請求項10について (1)引用文献2の記載と引用装置発明 前記1(1)のとおり,引用文献2には引用装置発明が記載されていると認められる。 (2)引用文献1の記載と引用発明1 前記1(2)のとおり,引用文献1には引用発明1が記載されていると認められる。 (3)引用文献3の記載と引用発明3 前記1(3)のとおり,引用文献3には引用発明3が記載されていると認められる。 (4)引用文献4の記載と引用発明4 前記1(4)のとおり,引用文献4には引用発明4が記載されていると認められる。 (5)本願発明10と引用装置発明との対比 前記1(5)と同様であるから,本願発明10と引用装置発明とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「基板と, 前記基板の上方に形成された第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 上部電極と, を含む化合物半導体装置であって, 前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成されることを特徴とする。」 イ 相違点 (ア)相違点1 本願発明10は「電源装置」であって,「ダイオード及びスイッチ素子を有するPFC回路を備えた電源装置であって,前記ダイオード及び前記スイッチ素子の少なくとも一方は」「化合物半導体装置」であるのに対し,引用装置発明においては「半導体装置」を「ダイオード及びスイッチ素子を有するPFC回路を備えた電源装置」に応用することは明示されていない点。 (イ)相違点2 本願発明10の「上部電極」は「第1の化合物半導体層上に」形成されるのに対し,引用装置発明の「第1の主電極」は「第2の窒化物系半導体領域上に」備えられる点。 (ウ)相違点3 本願発明10が「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を含むのに対し,引用装置発明は前記「浮遊電極」を含まない点。 (6)相違点3についての検討 相違点3について検討する。 「第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」は,引用文献1,3,4いずれにも記載も示唆もされていない。 引用発明1の「ガードリング」は,低ドープp型の半導体層からなるものであって「電極」ではないし,その機能は空乏層を延長させるためのもの(前記1(2)ア(ウ)(エ))である。 そして,引用装置発明は耐圧の向上のために,二次元キャリアガスチャネルのキャリア密度を低下させるもので,空乏層を用いるものでないから,引用装置発明において空乏層を延長させるべく引用発明1の「ガードリング」を採用する理由がない。 さらに,本願発明10におけるJTE構造の電位の安定化という課題(本願明細書段落0053)がいずれの引用文献にも記載も示唆もされていないから,引用装置発明において「浮遊電極」を採用すべき動機づけに欠けるというべきである。 よって,相違点3に係る「浮遊電極」を想到することは,当業者が容易になし得ることではない。 (7)本願発明10と引用発明1との対比 前記1(7)と同様であるから,本願発明10と引用発明1とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。 ア 一致点 「第1の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された第2の化合物半導体層と, 前記第1の化合物半導体層上に形成された上部電極と を含む化合物半導体装置」 イ 相違点 (ア)相違点1’ 本願発明10は「電源装置」であって,「ダイオード及びスイッチ素子を有するPFC回路を備えた電源装置であって,前記ダイオード及び前記スイッチ素子の少なくとも一方は」「化合物半導体装置」であるのに対し,引用発明1においては「ダイオード」を「ダイオード及びスイッチ素子を有するPFC回路を備えた電源装置」に応用することは明示されていない点。 (イ)相違点2’ 本願発明10の「第1の化合物半導体層」は「基板の上方に形成され」,「基板」とは別体であるのに対し,引用発明1の「低ドープn導体層」は「SiC基板」である点。 (ウ)相違点3’ 本願発明10は「前記第2の化合物半導体層の周囲を囲む枠状の電極であって,電気的に浮遊状態とされた浮遊電極」を含むのに対し,引用発明1は前記「浮遊電極」を含まない点。 (エ)相違点4’ 本願発明10においては「前記第1の化合物半導体層の前記第2の化合物半導体層との界面に,前記上部電極から離間するほど正孔濃度が低くなるように,2次元正孔ガスが生成される」のに対し,引用発明10においては「2次元正孔ガス」が生成されない点。 (8)相違点4’についての検討 相違点4’について検討する。 引用発明1においては,低ドープn導体層と低ドープp型の第2層のpn接合に形成される空乏層を,低ドープp型の第2層を蝕刻することで形成されるガードリングにより延長すること(前記1(2)ア(ウ)(エ))で耐圧を高めるものである。引用発明1の「連続ステップでチャージレベルが漸減する」とは,p型の第2層におけるアクセプタイオンによるチャージレベルが漸減する(空乏層の厚さがアクセプタ濃度により決定されることは技術常識である。)という意味であり,固定されたチャージではなくキャリアである2次元正孔ガスとは無関係のものである。 そして,2次元正孔ガスを用いて耐圧を高めることは引用装置発明において開示されているが,引用発明1における電流を阻止している空乏層を導電性の高い引用装置発明の2次元正孔ガスに置き換えることは,発想からして全く逆の方向であり,動機づけに欠けるものであるから,容易に想到しうるとはいえない。 (9)本願発明10についてのまとめ したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明10は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-11-07 |
出願番号 | 特願2011-40507(P2011-40507) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 右田 勝則 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 加藤 浩一 |
発明の名称 | 化合物半導体装置及びその製造方法 |
代理人 | 國分 孝悦 |