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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1321156
審判番号 不服2014-21983  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-29 
確定日 2016-11-02 
事件の表示 特願2012-259412「粒子分散系樹脂基板,液晶表示装置,エレクトロルミネッセンス装置および太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月23日出願公開,特開2013-101349〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
特願2012-259412号(以下「本件出願」という。)は,出願日が平成13年5月29日(優先権主張 平成12年5月31日,平成13年3月21日)である特願2001-161188号の一部を平成24年11月28日に新たな特許出願としたものであって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成24年11月30日差出:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正1」という。)
平成25年10月30日起案:拒絶理由通知書(同年11月1日発送)
平成25年12月26日差出:意見書
平成25年12月26日差出:手続補正書
平成26年 8月 5日起案:拒絶査定(同年同月7日送達)
平成26年10月29日差出:審判請求書
平成26年10月29日差出:手続補正書
平成27年12月18日起案:拒絶理由通知書(同年同月21日発送)
平成28年 2月12日差出:意見書
平成28年 2月12日差出:手続補正書
平成28年 3月30日起案:拒絶理由通知書
(同年同月31日発送,以下「本件拒絶理由通知」という。)
平成28年 5月30日差出:意見書(以下「本件意見書」という。)
平成28年 5月30日差出:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正5」という。)

2 当合議体の拒絶の理由
本件拒絶理由通知の内容は,概略,以下のとおりである。
理由1:平成24年11月30日付けでした手続補正(明細書の【発明の名称】,段落【0001】,【0007】及び【0011】の補正)及び平成28年2月12日付けでした手続補正(特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項20】の補正)は,願書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

理由2:本件出願の請求項1に係る発明は,その原出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用例1?6に記載された発明に基づいて,その原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:…(省略)…
引用例2:特願平11-258584号公報
引用例3:特開2001-19779号公報
引用例4:特開2000-89007号公報
引用例5:特開平11-194204号公報
引用例6:特開平11-23813号公報
(当合議体注:本件意見書で請求人が指摘するとおり,引用例2の「特願」は,「特開」の誤記である。)

第2 当合議体の判断(理由1について)
1 当初明細書等の記載
本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものである。
(1) 「【発明の名称】粒子分散系樹脂シートおよび液晶表示装置」

(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,基材層に無機酸化物が分散されており,薄型,軽量であり機械強度に優れ寸法安定性に優れた粒子分散系樹脂シートや基材層に微小領域が分散されており,薄型,軽量であり機械強度に優れ光拡散性に優れた樹脂シートや上記粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置に関する。」

(3) 「【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置の大型化に伴い,ガラス系の基板は重くて嵩高いことから,薄型軽量化などを目的にエポキシ系樹脂等からなる樹脂シートが基板として提案され開発されている。しかし前記樹脂シートは熱膨張や水分の出入りによる伸び縮みが起きるため,電極形成時やカラーフィルター形成時には位置ずれが生じることが問題になっていた。特にカラーフィルターの形成時にはR(赤),G(緑),B(青),およびBM(ブラックマトリックス)を所定の位置に精度よく形成する必要があり,樹脂シートではその精度を上げることが困難であった。カラーフィルターの形成は,まずR(赤),G(緑),B(青),およびBM(ブラックマトリックス)のいずれか1つのパターニングを室温で約2時間かけて行った後150℃で20分間焼成を行い,次に再び室温に戻し,次の色のパターニングを室温で約2時間かけて行い,150℃で20分間焼成を行う。このようにパターニングと焼成の組み合わせを4色すべてについて行う。樹脂シートにカラーフィルターを形成する場合は,焼成後室温でパターニングを行っている間に基板の寸法が変化し,パターニングの位置ずれが生じることが問題になっている。
【0003】
液晶表示装置等の表示装置においては,透明粒子を有する光拡散シートを液晶セルの視認側に貼り付け照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させる方法が知られていた。しかし液晶表示装置の薄型化,軽量化の点から光拡散シートを液晶セルの視認側に貼り付ける代わりに,光拡散機能を液晶セル基板に付与することが検討されている。
【0004】
近年,衛星通信や移動通信技術の発展に伴い,小型携帯情報末端機器の需要が高まりつつある。小型携帯情報末端機器の多くに搭載されている表示装置には,薄型であることが求められており,液晶表示装置が最も多用されている。
【0005】
また,小型携帯情報末端機器用の表示装置には,低消費電力であること,外光下での視認性が高いことが要求されるため,透過型液晶表示装置よりも反射型液晶表示装置が多用されている。」

(4) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,基材層に粒子を分散させることにより寸法安定性に優れた粒子分散系樹脂シートや光拡散性に優れた粒子分散系樹脂シートを提供すること,および上記粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置を提供することを課題とする。」

(5) 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,樹脂に無機酸化物が分散された基材層を少なくとも有する粒子分散系樹脂シートを提供するものである。樹脂としては熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。無機酸化物の平均粒子径は1?100nmであることが好ましい。基材層重量に対する無機酸化物の割合は0.1?23重量%であることが好ましい。本発明における粒子分散系樹脂シートは,λ=550nmにおける光透過率が88%以上であることが好ましい。また本発明における粒子分散系樹脂シートは,100?160℃における線膨張係数が1.00E-4/℃以下であることが好ましい。また150℃で20分間加熱した後の寸法と150℃で20分間加熱し,室温で2時間放置した後の寸法から算出される寸法変化率が+0.020%未満であることが好ましい。本発明の樹脂シートに電極を設けて電極付きの樹脂シートとすることができる。また本発明における粒子分散系樹脂シートに金属薄層よりなる反射層を形成し,反射型の樹脂シートとすることもできる。上記反射型の樹脂シートの酸素透過率は0.3cc/m^(2)・24h・atm以下であることが好ましく,200℃で30分加熱した後の黄色度と室温における黄色度から算出される黄色度変化率が0.75以下であることが好ましい。
【0008】
また本発明は無機酸化物が分散された基材層に基材層を形成する樹脂と屈折率が相違する微小領域を分散させてもよい。前記微小領域の基材層重量に対する添加量は0.1?60重量%であることが好ましい。また微小領域の平均粒子径は0.2μm?100μmであることが好ましく,微小領域と基材層を形成する樹脂との比重差は1以下であることが好ましく,微小領域と基材層を形成する樹脂との屈折率差は0.03?0.10であることが好ましい。

…(省略)…

【0011】
また本発明は,本発明の粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置を提供することができる。」

(6) 「【発明の効果】
【0012】
本発明の粒子分散系樹脂シートは樹脂系であるので薄型,軽量であり,機械強度に優れる。また基材層に無機酸化物を分散することにより樹脂シートの寸法変化を抑えることができる。更に基材層に微小領域を分散することにより光拡散機能を付与することができる。また本発明の粒子分散系樹脂シートに反射層を積層した反射型の樹脂シートは良好なガスバリア機能を有し,黄色度変化率が小さく,耐熱性に優れるという特徴を有する。」

(7) 「【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】粒子分散系樹脂シートの断面図
【図2】粒子分散系樹脂シートの断面図
【図3】粒子分散系樹脂シートの断面図
【図4】粒子分散系樹脂シートの断面図」

(8) 「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における樹脂シートは樹脂に無機酸化物が分散された基材層を少なくとも有することを特徴とする。
【0015】
本発明において樹脂としては熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂としては,ポリカーボネート,ポリアリレート,ポリエーテルスルホン,ポリスルホン,ポリエステル,ポリメチルメタクリレート,ポリエーテルイミドやポリアミド等が挙げられ,熱硬化性樹脂としてはエポキシ系樹脂,不飽和ポリエステル,ポリジアリルフタレートやポリイソボニルメタクリレート等が挙げられる。これらの樹脂は一種または二種以上を用いることができ,他成分との共重合体や混合物などとして用いうる。

…(省略)…

【0030】
本発明における無機酸化物はシリカ,二酸化チタン,酸化アンチモン,チタニア,アルミナ,ジルコニアや酸化タングステン等が挙げられる。これらは一種または二種以上の混合物であってもよい。無機酸化物の平均粒子径は特に限定されないが,1?100nmであることが好ましい。平均粒子径が1nm未満であると分散性が悪くなり,100nmを超えると粒子分散系樹脂シートの光学特性が悪くなる場合がある。
【0031】
本発明における無機酸化物の添加量は基材層重量に対して0.1?23重量%であることが好ましく,さらに好ましくは5?15重量%がよい。無機酸化物の添加量が基材層重量に対して0.1重量%未満である場合は,粒子分散系樹脂シートの寸法変化が大きくカラーフィルター層のパターニングや電極形成が困難になる。23%を超えると粒子分散系樹脂シートの光透過率が悪くなる。
【0032】
本発明における粒子分散系樹脂シートの光透過率は88%以上であることが好ましく,さらに好ましくは90%以上がよい。光透過率が88%未満であると,この粒子分散系樹脂シートを用いて液晶表示装置を組み立てた時の表示が暗くなり,表示品位が低下する。光透過率の測定方法は,高速分光光度計を用いてλ=550nmの透過率を測定する。

…(省略)…

【0038】
本発明における粒子分散系樹脂シートに電極を形成し,電極付きの粒子分散系樹脂シートを提供することができる。
【0039】
前記電極としては透明電極膜が好ましく用いられる。透明電極膜は,例えば酸化インジウム,酸化スズ,インジウム・錫混合酸化物,金,白金,パラジウム,透明導電塗料などの適宜な形成材を用いて,真空蒸着法やスパッタリング法や塗工法等により付設ないし塗布する方式などの従来に準じた方式にて行うことができ,透明導電膜を所定の電極パターン状に直接形成することも可能である。また透明導電膜上に必要に応じて設けられる液晶配列用の配向膜も従来に準じた方式にて付加することもできる。

…(省略)…

【0045】
本発明の粒子分散系樹脂シートにおいては,基材層を形成する樹脂と屈折率が相違する微小領域が基材層に分散されていてもよく,基材層重量に対する微小領域の添加量は0.1?60重量%であることが好ましい。つまり本発明においては基材層に無機酸化物と微小領域を同時に分散させてもよく,添加量は,無機酸化物は基材層重量に対して0.1?23重量%であり,且つ,微小領域は基材層重量に対して0.1?60重量%であることが好ましい。微小領域が分散されているとは,微小領域が基材層の一部に偏在することなく,基材層の全域において微小領域が存在している状態をいう。基材層は無機酸化物を有することで寸法変化が抑制され,微小領域を有することで光拡散機能が付与される。光拡散機能を付与することにより,照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させることができる。
【0046】
微小領域としてはSi系化合物,アルミナ,チタニア,ジルコニア,酸化錫,酸化インジウム,酸化カドミウムや酸化アンチモン等からなる無機系粒子やアクリル系樹脂やメラミン系樹脂等からなる有機系粒子,および上記無機系粒子を上記有機系粒子でコーティングした粒子などが挙げられる。
【0047】
微小領域の形成材の粒径は,光学特性が落ちる可能性もあるが,十分な光拡散性を得るために平均粒径が0.2?100μm,好ましくは0.5?50μm,更に好ましくは1?20μmがよい。

…(省略)…

【0060】
本発明の粒子分散系樹脂シートにおいては,基材層が無機酸化物と基材層と屈折率が相違する微小領域を同時に有することが最も好ましい。基材層が無機酸化物と微小領域を同時に有することにより,粒子分散系樹脂シートの寸法変化が抑えられ,且つ,光拡散機能を付与し表示品位を向上させることができる。
【0061】
また上記基材層が無機酸化物と基材層と屈折率が相違する微小領域を同時に有する粒子分散系樹脂シートに反射層を積層することで反射型の樹脂シートとすることができる。上記反射型の樹脂シートは寸法変化率が小さく,光拡散機能を有するので表示品位も良好である。また反射層は高いガスバリア機能を有するので有機ガスバリア層を積層させる必要はなく,その結果,樹脂シートの黄変が抑制できる。
【0062】
本発明の基材層が最外層にある粒子分散系樹脂シートにおいては,基材層の最外面が平滑であることが好ましい。平滑とはJIS B 0601-1994に記載の表面粗さ(Ra)が1nm以下であることを意味する。平滑とすることにより配向膜や透明電極等の形成が容易となる。
【0063】
本発明の粒子分散系樹脂シートに電極を設けて,例えばTN型,STN型,TFT型,および強誘電性液晶型等の液晶セルを形成することができる。
【0064】
本発明の粒子分散系樹脂シートは各種の用途に用いることができ,液晶セル基板やエレクトロルミネッセンス表示用基板や太陽電池用基板としても好ましく用いられる。
【0065】
液晶表示装置は一般に,偏光板,液晶セル,反射板又はバックライト,及び必要に応じての光学部品等の構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むことなどにより形成される。本発明においては,上記した粒子分散系樹脂シートを用いる点を除いて特に限定はなく,従来に準じて形成することができる。従って,本発明における液晶表示装置の形成に際しては,例えば視認側の偏光板の上に設ける光拡散板,アンチグレア層,反射防止膜,保護層,保護板,あるいは液晶セルと視認側の偏光板の間に設ける補償用位相差板などの適宜な光学部品を前記粒子分散系樹脂シートに適宜に組み合わせることができる。」

(9) 「【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが,本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。本発明における粒子分散系樹脂シートは注型法や流延法等により製造することが可能であるが,実施例中では流延法による製造方法を例示した。
【0067】
実施例1:(化1)の化学式で示される液状エポキシ樹脂100重量部と(化2)の化学式で示される固形エポキシ樹脂を混合し,90℃で加熱しながら攪拌し完全に溶解させた後,室温になるまで放冷し主剤を得た。次に(化3)の化学式で示されるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸100重量部と(化4)の化学式で示される変性剤12重量部を混合し,120℃で加熱攪拌することによりエステル化反応を行った後,80℃になるまで冷却し室温になるまで放冷し,(化5)の化学式で示されるテトラ-n-ブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエート2重量部を攪拌混合し硬化剤を得た。前記硬化剤460重量部に平均粒子径が12nmのシリカ粒子(日本アエロジル(株)製AEROSILR974)8.4重量部および前記主剤380重量部を攪拌混合しエポキシ系樹脂含有液を調製した。
【0068】
【化1】

【0069】
【化2】

【0070】
【化3】

【0071】
【化4】

【0072】
【化5】

【0073】
まず(化6)の化学式で示されるウレタンアクリレートの17重量%のトルエン溶液を,ステンレス製エンドレスベルトに走行速度0.3m/分で流延塗布し,風乾してトルエンを揮発させた後,UV硬化装置を用いて硬化し,膜厚2.0μmのウレタンアクリレート層を形成した。続いてポリビニルアルコール系樹脂の5.5重量%の水溶液をウレタンアクリレート層上に0.3m/分で流延塗布し,100℃で10分間乾燥させ,膜厚3.7μmのポリビニルアルコール層を形成した。続いて,前記エポキシ系樹脂含有液をポリビニルアルコール層の上に0.3m/分で流延塗布し,加熱装置を用いて150℃で加熱した後180℃で20分加熱し硬化させ,膜厚400μmのエポキシ系樹脂層を形成した。次にウレタンアクリレート層,ポリビニルアルコール層,およびエポキシ系樹脂層からなる積層体をステンレス製エンドレスベルトから剥離することにより粒子分散系樹脂シートを得た。
【0074】
【化6】

【0075】
実施例2:シリカ粒子の添加量を16.8重量部とした以外は実施例1と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。
【0076】
実施例3:シリカ粒子の添加量を25.2重量部とした以外は実施例1と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。
【0077】
実施例4:シリカ粒子の添加量を84重量部とした以外は実施例1と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。
【0078】
実施例5:シリカ粒子の添加量を168重量部とした以外は実施例1と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。
【0079】
実施例6:実施例1においてエポキシ系樹脂含有液を調製する際に平均粒子径が12nmのシリカ粒子を8.4重量部添加した代わりに平均粒子径30nmのアルミナ粒子を168重量部添加した以外は実施例1と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。
【0080】
実施例7:実施例1においてポリビニルアルコール層を積層させないで,ウレタンアクリレート層とエポキシ系樹脂層からなる積層体をステンレス製エンドレスベルトから剥離した。次にエポキシ系樹脂層側に真空蒸着により厚みが1000nmのアルミニウムの反射層を成膜した。つまり最外層からウレタンアクリレート層,無機酸化物を含有したエポキシ系樹脂層,および反射層からなる積層体を得た。
【0081】
実施例8:実施例1と同様にして主剤と硬化剤を調製した。次に前記硬化剤460重量部に平均粒子径が12nmのシリカ粒子(日本アエロジル(株)製AEROSILR974)84重量部,微小領域としてトスパール145(東芝シリコーン)(粒径3.5μm?4.2μm)を7.56重量部,および前記主剤380重量部を攪拌混合しエポキシ系樹脂含有液を調製した。次に実施例1と同様にして流延法で粒子分散系樹脂シートを得た。つまり最外層からウレタンアクリレート層,ポリビニルアルコール層,および無機酸化物と微小領域を含有したエポキシ系樹脂層からなる積層体を得た。
【0082】
実施例9:実施例7においてポリビニルアルコール層を積層させないで,ウレタンアクリレート層とエポキシ系樹脂層からなる積層体をステンレス製エンドレスベルトから剥離した。次にエポキシ系樹脂層側に真空蒸着により厚みが1000nmのアルミニウムの反射層を成膜した。つまり最外層からウレタンアクリレート層,無機酸化物と微小領域を含有したエポキシ系樹脂層,および反射層からなる積層体を得た。
【0083】
実施例10:実施例1と同様にして主剤と硬化剤を調製した。次に前記硬化剤460重量部に微小領域としてトスパール145(東芝シリコーン)を7.56重量部,および前記主剤380重量部を攪拌混合しエポキシ系樹脂含有液を調製した。次に実施例1と同様にして流延法で粒子分散系樹脂シートを得た。つまり最外層からウレタンアクリレート層,ポリビニルアルコール層,および微小領域を含有したエポキシ系樹脂層からなる積層体を得た。
【0084】
実施例11:実施例10においてエポキシ系樹脂含有液を調製する際にトスパール145(東芝シリコーン)を7.56重量部添加する代わりに平均粒子径4μmのアクリル系粒子であるエポスタM30(日本触媒)(平均粒子径4μm)を7.56重量部添加した以外は実施例10と同様にして粒子分散系樹脂シートを得た。つまり最外層からウレタンアクリレート層,ポリビニルアルコール層,およびディフューザーを含有したエポキシ系樹脂層からなる積層体を得た。
【0085】
比較例1:シリカ粒子を添加しない点を除いては実施例1と同様にして樹脂シートを得た。

…(省略)…

【0093】
また,実施例1?26,比較例1?2で作成した液晶セルを用いて液晶表示装置を組み立て,暗室中で20°の角度でリング状照明装置を照射して,液晶表示装置の電圧印加状態で黒色表示の表示品位を調べ,電圧無印加状態で白色表示の表示品位を調べた。表示品位のランクを以下のように定めた。
A;表示の黄色味と白色表示のギラツキが抑えられた。
B;表示の黄色味が抑えられたが,白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。
C;白色表示のギラツキは抑えられたが使用に耐えうる程度の黄色味を帯びた。
D;表示が使用に耐えうる程度の黄色味を帯び,白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。
【0094】
前記の結果を表1,2に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
実施例1?5においてシリカ粒子を添加した場合は,線膨張係数,寸法変化率ともに小さく,光透過率は高かった。実施例1?5において得られた粒子分散系樹脂シートにカラーフィルター層を積層を行ったが,精度良くパターニングすることができた。またこの樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ使用に耐えうる程度の黄色味を帯び,白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。
【0098】
実施例6においてアルミナ粒子を添加した場合は,線膨張係数,寸法変化率ともに小さく,光透過率は高かった。実施例6において得られた粒子分散系樹脂シートにカラーフィルター層を積層を行ったが,精度良くパターニングすることができた。またこの樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ使用に耐えうる程度の黄色味を帯び,白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。
【0099】
実施例7の反射型の樹脂シートは線膨張係数,寸法変化率ともに小さく,高いガスバリア機能を有した。またこの樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ表示の黄色味が抑えられたが,白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。
【0100】
実施例8の樹脂シートは線膨張係数,寸法変化率ともに小さく,光拡散機能を有し,この樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ白色表示のギラツキが抑えられたが,使用に耐えうる程度の黄色味を帯びた。
【0101】
実施例9の反射型の樹脂シートは線膨張係数,寸法変化率ともに小さく,高いガスバリア機能と光拡散機能を有し,この樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ表示の黄色味と白色表示のギラツキが抑えられた。
【0102】
実施例10の樹脂シートは線膨張係数,寸法変化率ともに大きく,カラーフィルターの形成や電極の形成が困難であった。この樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ白色表示のギラツキが抑えられたが使用に耐えうる程度の黄色味を帯びた。
【0103】
実施例11の樹脂シートは線膨張係数,寸法変化率ともに大きく,カラーフィルターの形成や電極の形成が困難であった。この樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ白色表示のギラツキが抑えられたが使用に耐えうる程度の黄色味を帯びた。
【0104】
比較例1においてシリカ粒子を添加しなかった場合は,光透過率は高かったが線膨張係数,寸法変化率ともに大きく,カラーフィルターや電極の形成が困難であった。またこの樹脂シートを用いて液晶表示装置を作成したところ,表示が使用に耐えうる程度の黄色味を帯び白色表示において使用に耐えうる程度のギラツキが見られた。」

(10) 「【符号の説明】
【0105】
1:無機酸化物が分散された基材層
2:有機ガスバリア層
3:ウレタンアクリレート層
4:微小領域と無機酸化物が分散された基材層
5:微小領域が分散された基材層
6:反射層」

(11) 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



2 補正の内容
(1) 本件補正1
本件補正1による補正後の,明細書の【発明の名称】,段落【0001】,【0007】及び【0011】の記載は,以下のとおりである。なお,下線は,当合議体が付したものであり,当合議体の拒絶の理由の理由1で指摘した箇所を示す。
ア 「【発明の名称】粒子分散系樹脂基板,液晶表示装置,エレクトロルミネッセンス装置および太陽電池」

イ 「【0001】
本発明は,基材層に無機酸化物が分散されており,薄型,軽量であり機械強度に優れ寸法安定性に優れた粒子分散系樹脂基板,基材層に微小領域が分散されており,薄型,軽量であり機械強度に優れ光拡散性に優れた樹脂基板,上記粒子分散系樹脂基板を用いた液晶表示装置,エレクトロルミネッセンス装置,太陽電池に関する。」

ウ 「【0007】
本発明は,樹脂に無機酸化物および前記樹脂と屈折率が相違する微小領域が分散された基材層を少なくとも有し,前記無機酸化物は,平均粒子径が1?100nmであり,前記微小領域は,平均粒子径が0.2μm?100μmである,液晶セル用,エレクトロルミネッセンス装置用,または太陽電池用の粒子分散系樹脂基板を提供するものである。…(省略)…」

エ 「【0011】
また本発明は,本発明の粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置,エレクトロルミネッセンス装置,および太陽電池を提供することができる。」

(2) 本件補正5
本件補正5による補正後の,特許請求の範囲の請求項1及び請求項20の記載は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂に無機酸化物および前記樹脂と屈折率が相違する微小領域(気泡を除く)が分散された基材層を少なくとも有し,前記無機酸化物は,平均粒子径が1?100nmであり,前記微小領域は,平均粒子径が0.2μm?100μmであり,かつ,前記基材層が光拡散シートを兼ねる,液晶セル基板用,エレクトロルミネッセンス装置用,または太陽電池用の透明な粒子分散系樹脂基板。

【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の粒子分散系樹脂基板を用いたエレクトロルミネッセンス装置。」

3 当合議体の判断
(1) 当初明細書等の開示内容
前記1の記載事項によると,粒子分散系樹脂基板に関して,当初明細書等には,以下の技術的事項が開示されていた。
ア 液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置の大型化に伴い,ガラス系の基板は重くて嵩高いことから,薄型軽量化などを目的にエポキシ系樹脂等からなる樹脂シートが基板として提案され開発されている。しかし前記樹脂シートは熱膨張や水分の出入りによる伸び縮みが起きるため,電極形成時やカラーフィルター形成時には位置ずれが生じることが問題になっていた。また,液晶表示装置の薄型化,軽量化の点から光拡散シートを液晶セルの視認側に貼り付ける代わりに,光拡散機能を液晶セル基板に付与することが検討されている。(段落【0002】及び【0003】。)

イ 本発明は,基材層に粒子を分散させることにより寸法安定性に優れた粒子分散系樹脂シートや光拡散性に優れた粒子分散系樹脂シートを提供すること,および上記粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置を提供することを課題とする。(段落【0006】。)

ウ 本発明は,樹脂に無機酸化物が分散された基材層を少なくとも有する粒子分散系樹脂シートを提供するものである。また,本発明は無機酸化物が分散された基材層に基材層を形成する樹脂と屈折率が相違する微小領域を分散させてもよい。本発明は,本発明の粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置を提供することができる。(段落【0007】,【0008】及び【0011】。)

エ 本発明において樹脂としては熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。本発明における無機酸化物はシリカ,二酸化チタン,酸化アンチモン,チタニア,アルミナ,ジルコニアや酸化タングステン等が挙げられる。無機酸化物の平均粒子径は特に限定されないが,1?100nmであることが好ましい。平均粒子径が1nm未満であると分散性が悪くなり,100nmを超えると粒子分散系樹脂シートの光学特性が悪くなる場合がある。本発明の粒子分散系樹脂シートにおいては,基材層を形成する樹脂と屈折率が相違する微小領域が基材層に分散されていてもよく,微小領域の形成材の粒径は,光学特性が落ちる可能性もあるが,十分な光拡散性を得るために平均粒径が0.2?100μm,好ましくは0.5?50μm,更に好ましくは1?20μmがよい。(段落【0015】,【0030】,【0045】及び【0047】。)

オ 本発明の粒子分散系樹脂シートにおいては,基材層が無機酸化物と基材層と屈折率が相違する微小領域を同時に有することが最も好ましい。基材層が無機酸化物と微小領域を同時に有することにより,粒子分散系樹脂シートの寸法変化が抑えられ,且つ,光拡散機能を付与し表示品位を向上させることができる。(段落【0060】。)

カ 本発明の粒子分散系樹脂シートは各種の用途に用いることができ,液晶セル基板やエレクトロルミネッセンス表示用基板や太陽電池用基板としても好ましく用いられる。(段落【0064】。)

キ 以下に実施例を挙げて本発明を説明するが,本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
実施例1:
…(省略)…
実施例7:
…(省略)…
比較例1:
…(省略)…
(段落【0066】?【0085】。なお,実施例1?6は粒子分散系樹脂シートの製造例,実施例7?11は積層体の製造例,比較例1は,樹脂シートの製造例である。)

ク 実施例1?26,比較例1?2で作成した液晶セルを用いて液晶表示装置を組み立て,暗室中で20°の角度でリング状照明装置を照射して,液晶表示装置の電圧印加状態で黒色表示の表示品位を調べ,電圧無印加状態で白色表示の表示品位を調べた。
…(省略)…
【表1】
…(省略)…
【表2】
…(省略)…
(段落【0093】?【0104】。なお,「実施例1?26,比較例1?2で作成した液晶セルを用いて液晶表示装置を組み立て」の記載は,「実施例1?11,比較例1で作成した粒子分散系樹脂シート等を用いて液晶セルを作製し,さらにその液晶セルを用いて液晶表示装置を組み立て」の意味と解される。)

(2) 判断
以上のとおりであるから,当初明細書等には,[A]樹脂に無機酸化物が分散された基材層を少なくとも有する粒子分散系樹脂シート(図1)や,[B]無機酸化物が分散された基材層に基材層を形成する樹脂と屈折率が相違する微小領域を分散させた基材層を有する粒子分散系樹脂シート(図2),及び[C]前記[A]又は[B]の粒子分散系樹脂シートを液晶セル基板に用いた液晶表示装置が開示されていたと認められる。
しかしながら,当初明細書等には,[a]段落【0002】及び【0064】に,それぞれ,「液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置の大型化に伴い,ガラス系の基板は重くて嵩高いことから,薄型軽量化などを目的にエポキシ系樹脂等からなる樹脂シートが基板として提案され開発されている。」及び「本発明の粒子分散系樹脂シートは各種の用途に用いることができ,液晶セル基板やエレクトロルミネッセンス表示用基板や太陽電池用基板としても好ましく用いられる。」という記載はあったものの,[b]本発明の粒子分散系樹脂シート(基板)の用途として,エレクトロルミネッセンス装置(エレクトロルミネッセンス表示装置に限らない,照明用や液晶表示装置のバックライト用のエレクトロルミネッセンス装置)は記載されていなかった。
また,粒子分散系樹脂シートは,表示装置用と,表示装置用以外(照明用や液晶表示装置のバックライト用)では,拡散機能や色特性に関する条件,すなわち,本願発明の「無機酸化物」や「微小領域」に求められる構造や特性が異なると考えられる。
そうしてみると,前記2(1)及び(2)で挙げた補正は,当初明細書等に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。

(3) 請求人の主張について
請求人は,本件意見書において,以下のとおり主張している。
「本願出願当初明細書【0045】には『光拡散機能を付与することにより,照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させることができる。』と記載されています。この記載は,本発明の粒子分散系樹脂基板を,照明用や,液晶表示装置のバックライト用のエレクトロルミネッセンス装置にも使用可能であることを示す記載です。
すなわち,照明用や,液晶表示装置のバックライト用のエレクトロルミネッセンス装置についても,本願出願当初明細書に記載されているのですから,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしています。」

しかしながら,当初明細書の段落【0045】には,照明や液晶表示装置のバックライトが記載されているにとどまり,それらの光源がエレクトロルミネッセンス装置であることや,それらの基板が本願発明の粒子分散系樹脂基板であることは記載されていない。
そればかりか,当初明細書には,「光拡散機能を付与することにより,照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させることができる。」ことに関して,[A]段落【0003】において,「液晶表示装置等の表示装置においては,透明粒子を有する光拡散シートを液晶セルの視認側に貼り付け照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させる方法が知られていた。しかし液晶表示装置の薄型化,軽量化の点から光拡散シートを液晶セルの視認側に貼り付ける代わりに,光拡散機能を液晶セル基板に付与することが検討されている。」という背景技術が開示され,[B]段落【0006】において,「本発明は,基材層に粒子を分散させることにより寸法安定性に優れた粒子分散系樹脂シートや光拡散性に優れた粒子分散系樹脂シートを提供すること,および上記粒子分散系樹脂シートを用いた液晶表示装置を提供することを課題とする。」という発明が解決しようとする課題が開示され,[C]そして,段落【0007】?【0104】及び【図1】?【図4】において,(本願発明を含む)粒子分散系樹脂シート及び粒子分散樹脂シートを液晶セルの基板とした液晶表示装置及びその評価が開示されている。そうしてみると,当初明細書の段落【0045】の記載に関して,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,[i]本願発明の粒子分散系樹脂シートを液晶セル基板として用いると,照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させることができるという事項であって,[ii]本願発明の粒子分散系樹脂シートをエレクトロルミネッセンス照明装置の基板や液晶表示装置内蔵のエレクトロルミネッセンスバックライト装置の基板として用いると,照明光や液晶表示装置内蔵のバックライトに起因するギラツキを防止し視認性を向上させることができるという事項であるということはできない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(4) 小括
平成24年11月30日提出の手続補正書による補正,及び平成28年5月30日提出の手続補正書による補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。

第3 当合議体の判断(理由2について)
1 本願発明及び判断の基準日について
(1) 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,前記「第2」2(2)に記載したとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

(2) 判断の基準日
本願発明は,微小領域の構成を具備するから,平成12年5月31日についての国内優先権の主張の効果は認められず,進歩性判断の基準日は平成13年3月21日である。
以下,平成13年3月21日を「優先日」という。

2 引用例2の記載及び引用発明
(1) 引用例2の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって,本件拒絶理由通知の引用例2(特開平11-258584号公報)には,以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 相互に対向して一定の間隙を有する一対の上側と下側の基板と;前記基板の内側面に順次積層形成される電極,絶縁層および配向層と;前記基板の外側面に設けられる偏光板と;前記両基板により形成された空間に注入され,シーリング手段で密封された液晶とからなるプラスチック液晶表示素子であって,少なくとも前記一対の基板のうち,ある一つの基板がレターデーションフィルムまたは拡散フィルムからなることを特徴とするプラスチック液晶表示素子。
…(省略)…
【請求項6】 前記上側基板が少なくとも一枚の拡散フィルムであり,前記下側基板がプラスチックからなることを特徴とする請求項1記載のプラスチック液晶表示素子。
【請求項7】 前記上側基板が少なくとも一枚の拡散フィルムであり,前記下側基板が反射層が形成されたプラスチックからなることを特徴とする請求項1記載のプラスチック液晶表示素子。
【請求項8】 前記拡散フィルムがベース層に拡散層を形成したことを特徴とする請求項1,6または7記載のプラスチック液晶表示素子。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はフレキシブルな特性を有するプラスチックフィルムを基板に用いるプラスチック液晶表示素子に関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】液晶表示素子はバックライトから照射された光が,液晶層のスイッチング作用により偏光板を経て出射される光効果を用いて画像を表示したり,または外部の光が液晶層のスイッチング作用により反射膜で再反射されて出射する反射光の効果で画像を表示する。
【0003】このような液晶表示素子は最近基板をプラスチックフィルムによって製造してフレキシブルな特性を有するようにするものが従来より知られており,これは非平面状に装着すべきである用途に広く適用することができる。」

エ 「【0026】一方,図4は主基板に拡散フィルムを使用する反射形TFT液晶表示素子に適用した例を示している。拡散フィルムからなる上側基板20は内側面にカラーフィルター18を保有し,フレキシブルな素材からなる下側基板40には,内側面に薄膜トランジスタ60と絶縁層62および反射層を伴う画素電極64を形成してある。
【0027】このように形成された上側基板20の透明電極6と下側基板40の画素電極64の内側面には図示省略した絶縁層と配向層が順次積層して形成され,シーリング手段を用いてアセンブリされ,液晶14が注入される空間を形成している。また,液晶セルを形成したのち,上側基板20の外部には偏光板12を付着する。また,本実施例の上側基板20には,レターデーションフィルムを付着することもできる。
【0028】このように設けられたTN,TFT液晶表示素子は,外部光が偏光板12と拡散フィルムからなる上側基板20を通過して液晶14に入射し,電極パターンによりスイッチング手段としての液晶にオン電界が印加されたときに,下側基板40の反射層16で再反射されて上側基板20に出射されることによって,求める画像を表示するようになる。」
【図4】


オ 「【0029】
【発明の効果】以上のように本発明は,STN液晶表示素子で複屈折性を有するレターデーションフィルムを主基板に使用し,組立工程の最終段階に偏光板を付着することによって,製造工程上の熱処理問題を解決しており,部品数を減らして製造工程を非常に簡略化することができる。
【0030】また,本発明はTN,TFT液晶表示素子の場合に拡散フィルムを主基板に使用し,組立工程の最終段階に偏光板を付着するので,製造工程上の熱処理問題を解決し,部品数を減らして製造工程の簡略化を実現している。」

(2) 引用発明
引用例2には,図4の反射型TFT液晶表示素子の上側基板20として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「【0001】フレキシブルな特性を有するプラスチックフィルムを基板に用いる【0026】反射型TFT液晶表示素子の上側基板20であって,
拡散フィルムからなる上側基板20は,内側面にカラーフィルター18を保有し,
上側基板20の透明電極6の内側面に,絶縁層と配向層が順次積層して形成されている,
上側基板20。」

(3) 引用例3の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であって,本件拒絶理由通知の引用例3(特開2001-19779号公報)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ポリカーボネートなどの合成樹脂を主成分とする透明な合成樹脂シートに関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】今日,液晶表示装置のバックライトユニットに装備される光拡散シートや農業用シートなどの種々のシートに,透明な合成樹脂シートが使用されている。かかる合成樹脂シートの透明性を確保するためには,一般的に,光の散乱,吸収を生じる異物を排除し,合成樹脂自体のクリーン性を向上させる必要がある。」

ウ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の透明な合成樹脂シートにあっては,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることを目的として合成樹脂中に何らかの材料を充填すると,透明性が失われるという不都合があった。
【0004】本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり,透明性を維持しつつ,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることができる合成樹脂シートの提供を目的とするものである。」

エ 「【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するためになされた発明は,合成樹脂を主成分とする透明な合成樹脂シートであって,前記合成樹脂中に無機物の超微粒子を分散含有するものである。ここで「透明」とは,完全に透明である場合に限定されず,いわゆる半透明も含む概念である。
【0006】この合成樹脂シートによれば,分散含有する無機物の超微粒子によって,見かけ上の結晶化度が向上し,その結果,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることができる。また,耐熱性の向上のために分散含有させるものが超微粒子であるため,透明性を阻害する度合いが少ない。さらに,かかる無機物の超微粒子の粒径(粒子の平均直径を意味する)を100nm以下にすると,可視光の波長より小さく,透明性を完全に維持することができる。」

オ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下,適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。図1は本発明の一実施形態に係る合成樹脂シートを示す模式的断面図である。図1の合成樹脂シート1は,シート状に形成された合成樹脂2と,その合成樹脂2の内部に分散された無機物の超微粒子3とを有するものである。」

カ 「【0014】超微粒子3に用いられる無機物としては,シリコン,銅,ニッケル,セリウムなどの金属,それらの酸化物及び窒化物が挙げられ,具体的には,コロイダルシリカ,スメクタイト,コロイダル炭酸カルシウム,マイカ,酸化チタン,酸化ジルコン,酸化アンチモン,酸化亜鉛,酸化マグネシウム,タルク,アルミナ,硫酸バリウム,アスベストなどを用いることができる。なかでも,金属酸化物は,高温でも安定で,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させる作用が大きいこと,取り扱いが安全であること,合成樹脂シートの機械的性質,剛性,強度等をも向上させることができること等の観点から,当該超微粒子3に好適である。
【0015】当該超微粒子3の粒径は,透過する光線のロスを防止するため小さくするほど好ましい。具体的には,可視光の波長以下となる100nm以下が好ましく,短波長の影響を受けて合成樹脂シート1が青白く濁ってしまうのを防ぐために50nm以下が特に好ましい。また,超微粒子3の粒径は小さいほど好ましいのでその下限は特に限定されないが,一般的に得られる超微粒子3の粒径は5nm以上である。」

3 対比判断
(1) 対比
ア 基材層
引用発明の「上側基板20」は,「拡散フィルムからなる上側基板20」である。ここで,引用発明の「上側基板20」は,その名のとおり「基板」であるから,「基材」といえる。
また,引用発明の「上側基板20」は「フィルム」であり,「内側面にカラーフィルター18を保有し」,「上側基板20の透明電極6の内側面に絶縁層と配向層が順次積層して形成されている」から,「層」といえる。
したがって,引用発明の「上側基板20」は,本願発明の「基材層」に相当する。
なお,「基材」とは,通常,「製品や加工品の基となる材料。」(広辞苑6版)のことを意味するが,本願発明の「基材」が「基板」(支持体)の意味で用いられていることは,明らかである。

イ 光拡散シート
引用発明の「上側基板20」は,「拡散フィルムからなる上側基板20」である。また,引用発明における「拡散フィルム」の「拡散」の対象が「光」であることは,技術的にみて明らかである。また,引用発明の「上側基板20」は「フィルム」であるから,「シート」といえる。
そうしてみると,引用発明の「上側基板20」は,本願発明の「光拡散シート」の要件を満たす。また,上記アで述べたとおり,引用発明の「上側基板20」は本願発明の「基材層」に相当するから,引用発明の「上側基板20」は,本願発明の「前記基材層が光拡散シートを兼ねる」の要件を満たす。

ウ 液晶セル基板用
引用発明の「上側基板20」は,「反射型TFT液晶表示素子の上側基板20」である。
したがって,引用発明の「上側基板20」は,本願発明の「液晶セル基板用」の要件を満たす。

エ 透明な粒子分散系樹脂基板
引用発明の「上側基板20」は,「反射型TFT液晶表示素子の上側基板20」であるから,透明であることは当然である。また,引用発明の「上側基板20」は,「フレキシブルな特性を有するプラスチックフィルムを基板に用いる」ものであるから,その素材は「樹脂」である。
したがって,引用発明の「上側基板20」と本願発明の「透明な粒子分散系樹脂基板」は,「透明な」「樹脂基板」の点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「基材層を少なくとも有し,前記基材層が光拡散シートを兼ねる,液晶セル基板用,エレクトロルミネッセンス装置用,または太陽電池用の透明な樹脂基板。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「基材層」は,「樹脂に無機酸化物」「が分散された」ものであり,「前記無機酸化物は,平均粒子径が1?100nm」であるのに対して,引用発明の「上側基板20」は,「樹脂に無機酸化物」「が分散された」ものであるとは特定されておらず,また,「前記無機酸化物は,平均粒子径が1?100nm」であるとも特定されていない点。

(相違点2)
本願発明の「基材層」は,「樹脂に」「前記樹脂と屈折率が相違する微小領域(気泡を除く)が分散された」ものであり,「前記微小領域は,平均粒子径が0.2μm?100μm」であるのに対して,引用発明の「上側基板20」は,「樹脂に」「前記樹脂と屈折率が相違する微小領域(気泡を除く)が分散された」ものであるとは特定されておらず,また,「前記微小領域は,平均粒子径が0.2μm?100μm」であるとも特定されていない点。

(相違点3)
本願発明は,「透明な粒子分散系樹脂基板」であるのに対して,引用発明の「上側基板20」は,「粒子分散系」であるとは特定されていない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「上側基板20」は,「反射型TFT液晶表示素子の上側基板20」であり,また,「内側面にカラーフィルター18を保有し」,「上側基板20の透明電極6の内側面に絶縁層と配向層が順次積層して形成されている」ものであるから,透明であるとともに,耐熱性及び熱的寸法安定性が要求されるものである。
ここで,「透明性を維持しつつ,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることができる合成樹脂シートの提供を提供する手段として,シート状に形成された合成樹脂と,その合成樹脂の内部に分散された無機物の超微粒子とを有し,超微粒子の粒径は,50nm以下が特に好ましく,5nm以上である合成樹脂シート」は,引用例3に記載されている(段落【0004】,【0012】及び【0015】。以下「引用例3記載技術」という。)。
引用発明において,「上側基板20」の透明性を維持しつつ,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることを目的として引用例3記載技術を採用し,相違点1に係る構成を克服することは,引用例3記載技術を心得た当業者が容易に発明できた事項である。

イ 相違点2について
引用発明の「上側基板20」は,「拡散フィルムからなる上側基板20」であるところ,光拡散性を持たせる手段として,平均粒子径が0.2μm?100μmの範囲内の透明な粒子を樹脂に分散させ,光を屈折させることは,例えば,以下の各文献に記載され,周知技術である。
(ア)特開2000-89007号公報(本件拒絶理由通知の引用例4)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,液晶表示装置に組み込まれるバックライトユニットに用いられる光拡散シート及びこの光拡散シートを用いたバックライトユニットに関するものである。」

「【0019】バインダー7に用いられるポリマーとしては,例えばアクリル系樹脂,ポリウレタン,ポリエステル,フッ素系樹脂,シリコーン系樹脂,ポリアミドイミド,エポキシ樹脂等が挙げられる。バインダー7中には,上記のポリマーの他,例えば可塑剤,安定化剤,劣化防止剤,分散剤,帯電防止剤等が配合されてもよい。バインダー7は光線を透過させる必要があるので透明とされており,特に無色透明が好ましい。
【0020】樹脂ビーズ9は略球形であり,その材質としては,例えばアクリル樹脂,ポリウレタン,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,ポリアクリロニトリル,ポリアミド等が挙げられる。樹脂ビーズ9は光拡散シート1を透過する光線量を多くするため透明とするのが好ましく,特に無色透明とするのが好ましい。
【0021】樹脂ビーズ9の平均粒子直径は,1マイクロメーター以上50マイクロメーター以下が好ましく,2マイクロメーター以上20マイクロメーター以下が特に好ましい。」
(当合議体注:樹脂ビーズ9は略球形で透明であるから,バインダー7との屈折率差により光を屈折(拡散)させていることは,当業者において自明である。)

(イ)特開平11-194204号公報(本件拒絶理由通知の引用例5)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,液晶ディスプレイに装着して視野角度を拡大する光拡散シート及びその製造方法に関する。」

「【0014】本発明の光拡散シートにおいて,マトリックス樹脂と光拡散粒子との屈折率の差が同じ場合でも,マトリックス樹脂の屈折率より光拡散粒子の屈折率の方が小さい場合には,その逆の場合より全反射光が多くなるため,光拡散粒子の屈折率はマトリックス樹脂の屈折率より大きいことが望ましい。
【0015】上記光拡散粒子の平均粒径は,0.2?10μmの範囲が望ましい。平均粒径が0.2μmより小さいと,粒子の分散が困難であると共に,可視光が拡散されにくくなってくる。」

「【0018】本発明で用いられる光拡散粒子は,透明でマトリックス樹脂中に分散可能な微粒子より選ばれ,形状は球体状,回転楕円体状,卵形状が好ましく,特に真球体状が好ましい。」

「【0025】本発明による光拡散シートを液晶ディスプレイに適用する場合は,図4に示すように,バックライト2,偏光板4,液晶セル3,光拡散シート1,偏光板4と順次積層する構成のように,液晶セル3と偏光板4の間に光拡散シート1を設置するか,若しくは図5に示すように,バックライト2,偏光板4,液晶セル3,偏光板4,光拡散シート1と順次積層する構成のように,偏光板4の外側に光拡散シート1を設置する。」

(ウ)特開平11-23813号公報(本件拒絶理由通知の引用例6)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,反射型液晶表示装置等に有用な光散乱フィルムに関する。」

「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の光散乱フィルムは,微粒子を分散させた樹脂層からなる光散乱層と透明なフィルムとからなる。光散乱層を構成する微粒子の屈折率は該微粒子部分以外の樹脂層の屈折率より高く,該微粒子と該微粒子部分以外の樹脂層との屈折率比が後者が1に対して前者が1.001?1.2,より好ましくは1.005?1.15,さらに好ましくは1.01?1.1程度がよい。」

「【0010】本発明に用いられる微粒子は,光散乱層の構成成分である微粒子以外の樹脂層との屈折率比が上記の条件を満たし,透明で,樹脂層への分散性に優れていれば特に制限はない。また,形状は球状,特に真球状であることが好ましく,そのような微粒子としてはアクリル系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリアミド系樹脂などからなる有機高分子化合物の微粒子や,シリカなどの無機化合物の微粒子が挙げられる。また,その粒径は平均粒径で3?25μm,より好ましくは5?20μm程度がよい。」

引用発明の「上側基板20」は,「反射型TFT液晶表示素子の上側基板20」であるから,透明であることが必要である。引用発明において,「上側基板20」の透明性を維持しつつ,所望の光拡散性を得ることを目的として前記周知技術を採用し,相違点2に係る構成を克服することは,周知技術を心得た当業者が容易に発明できた事項である。

ウ 相違点3について
引用発明において,引用例3記載技術や周知技術が採用された後の「上側基板20」は,基板中に無機物の超微粒子及び透明な粒子が分散されたものとなるから,「粒子分散系」と称することができる。
相違点3は,相違点1及び2が克服されることにより,自ずと克服される相違点である。

(4) 効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0012】には,「本発明の粒子分散系樹脂シートは樹脂系であるので薄型,軽量であり,機械強度に優れる。また基材層に無機酸化物を分散することにより樹脂シートの寸法変化を抑えることができる。更に基材層に微小領域を分散することにより光拡散機能を付与することができる。」と記載されている。
しかしながら,上記(3)で述べたとおりであるから,本願発明の効果は,引用発明において引用例3記載技術及び周知技術を採用する当業者が予測する効果の範囲内の効果である。

(5) 請求人の主張について
請求人は,意見書5?6頁において,以下のとおり主張している。
「引用例3は,その要約等に記載のとおり『透明性を維持しつつ,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることができる合成樹脂シートの提供』に関する文献です。そして,引用例3の【0002】には,
『かかる合成樹脂シートの透明性を確保するためには,一般的に,光の散乱,吸収を生じる異物を排除し,合成樹脂自体のクリーン性を向上させる必要がある。』(下線は審判請求人が付加)
と記載されています。すなわち,引用例3は,光の散乱を生じる物質を合成樹脂シート中から排除することを前提としています。これは,本発明に想到することを妨げる記載です。また,このような記載のある引用例3と,光拡散シートまたは散乱フィルムの文献である引用例4?6とを組み合わせることに当業者が想到し得る動機づけがあるとは考えられません。
…(省略)…
また,審判長殿は,下記のとおり認定されました。
『引用例1に替えて,引用例2(特に,請求項1及び6,並びに,段落【0023】?【0028】を参照。)に記載された発明を容易推考の出発点としても,同様である。』
しかしながら,前述のとおり,引用例3には,光の散乱を生じる物質を合成樹脂シート中から排除することを前提とする記載があり,これは,本発明に想到することを妨げる記載です。また,このような記載のある引用例3と,光拡散シートまたは散乱フィルムの文献である引用例4?6とを組み合わせることに当業者が想到し得る動機づけがあるとは考えられません。
よって,当業者において引用例2?6を組み合わせて本発明に想到し得る動機付けは存在しませんので,本発明は,引用例2?6から当業者が想到することは困難であり,進歩性を否定されません。」

しかしながら,上記(3)アで述べたとおり,引用発明において,「上側基板20」の透明性を維持しつつ,耐熱性及び熱的寸法安定性を向上させることを目的として引用例3記載技術を採用することは,当業者が容易に発明できた事項である。
また,引用例3の段落【0005】には,「ここで「透明」とは,完全に透明である場合に限定されず,いわゆる半透明も含む概念である。」とも記載されている。
いずれにせよ,請求人が指摘する引用例3の記載は,阻害要因とはならない。

(6) 小括
本願発明は,本件出願の優先日前に頒布された引用例2及び3に記載された発明,並びに,周知技術に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおりであるから,本件出願は,その特許出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面についてした補正が,特許法17条の2第3項の規定する要件を満たしていないものであり,また,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-30 
結審通知日 2016-08-31 
審決日 2016-09-21 
出願番号 特願2012-259412(P2012-259412)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 道祖土 新吾
樋口 信宏
発明の名称 粒子分散系樹脂基板、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス装置および太陽電池  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 伊佐治 創  

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