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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1321171
審判番号 不服2015-22716  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-25 
確定日 2016-11-28 
事件の表示 特願2012-548624「無線中継装置、無線LANシステム、無線中継方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/081177、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許出願は、平成23年11月30日(優先権主張 平成22年12月13日 日本国)を国際出願日としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 7月29日付け:拒絶理由の通知
平成27年 9月 7日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 9月30日付け:拒絶査定
平成27年12月25日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年 3月10日 :前置報告
平成28年 7月28日付け:当審による拒絶理由の通知
平成28年 9月 8日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本件発明

本件特許出願の請求項1-5に係る発明は、平成28年9月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ビーコンを発射し、前記ビーコンに応答した端末との間で無線による接続を行う無線中継装置において、
前記ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段を備え、
前記選択手段は、他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択するものであって、
さらに、前記選択手段に対して、前記通常モードと前記省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供するユーザインターフェース手段を備え、
前記ユーザインターフェース手段は、時系列的なスケジュールに沿って前記通常モードと前記省電力モードとを択一的に指定可能であり、かつ、前記通常モードの始まりから終わりまでの時間または前記省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段を有するとともに、
前記設定手段は、省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である
ことを特徴とする無線中継装置。

【請求項2】
請求項1に記載の無線中継装置を含む無線LANシステムであって、
前記ユーザインターフェース手段を備えた制御装置をLAN上に有することを特徴とする無線LANシステム。

【請求項3】
前記第2の周期を段階的又は無段階に変更できる周期変更手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。

【請求項4】
ビーコンを発射し、前記ビーコンに応答した端末との間で無線による接続を行う無線中継装置の制御方法において、
前記ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択工程を含み、
前記選択工程は、他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択するものであって、
さらに、前記選択工程に対して、前記通常モードと前記省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供するユーザインターフェース提供工程を含み、
前記ユーザインターフェース提供工程は、時系列的なスケジュールに沿って前記通常モードと前記省電力モードとを択一的に指定可能であり、かつ、前記通常モードの始まりから終わりまでの時間または前記省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段を提供するとともに、
前記設定手段は、省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である
ことを特徴とする無線中継方法。

【請求項5】
ビーコンを発射し、前記ビーコンに応答した端末との間で無線による接続を行う無線中継装置のコンピュータを、
前記ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段として機能させるためのプログラムであって、
前記選択手段は、他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択し、
さらに、前記選択手段に対して、前記通常モードと前記省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供するユーザインターフェース手段として機能させ、
前記ユーザインターフェース手段は、時系列的なスケジュールに沿って前記通常モードと前記省電力モードとを択一的に指定可能であり、かつ、前記通常モードの始まりから終わりまでの時間または前記省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段として機能させるとともに、
前記設定手段は、省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である
ことを特徴とするプログラム。」


第3 原査定の理由について

1.原査定の理由の概要

「平成27年9月7日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2010-278763号公報
引用例2:特開2007-221628号公報
引用例3:特開2006-287463号公報
引用例4:国際公開第2008/149598号

請求項1、2、4、6、7に係る発明については、引用例1及び引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。

請求項3に係る発明については、引用例1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

請求項5に係る発明については、引用例1、3、4に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。」

2.原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項
(1-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1である特開2010-278763号公報には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審にて付与した。)

(ア)「本実施の形態の無線通信システムは、無線LAN基地局(以下、基地局と記載する)1、無線LAN端末(以下、端末局と記載する)2および在席情報管理サーバー3を含み、基地局1および在席情報管理サーバー3は有線ネットワーク100を介して通信するように構成されている。なお、図1の構成では、基地局1に収容されている端末局2が1局となっているが、複数局存在していてもよい。また、端末局2は、上述した省電力モードにて動作する機能を有しており、基地局1に接続した状態では、ユーザーからの指示(動作モードの設定)内容に従って省電力モードまたは非消費電力モード(通常モード)にて動作する。在席情報管理サーバー3は、詳細については後述するが、基地局1における省電力制御で利用する情報の一つである在席情報を管理する。
また、図示したように、基地局1は、省電力管理部11、端末管理部12、時刻管理部13、有線I/F部14、MAC部15、PHY部16およびRF部17を備えている。」(【0015】?【0016】)

(イ)「図3は、実施の形態2にかかる基地局1の動作を説明するための図であり、基地局1におけるビーコン信号の送信タイミングの一例を示している。図3に示した動作においては、基地局1は、実施の形態1で説明した動作(図2参照)を実行する際に使用した条件#1および#2に加えて、以下の条件#3を使用して、消費電力低減モードに移行するかどうかを判断する。
<条件#1>在圏しているすべての端末(接続中のすべての端末)が省電力モードで動作中であること。
<条件#2>全端末局のいずれの端末局との間においても送受信トラヒック(送受信するデータ)が存在しないこと。
<条件#3>予め設定されていた特定の時刻であること。」(【0031】?【0032】)

(ウ)「端末管理部12の動作は実施の形態1の制御を行う場合と同一である。時刻管理部13は、たとえばGPS(Global Positioning System)を利用して、自身が有する時計を調整するか、NTP(Network Time Protocol)やSNTP(Simple Network Time Protocol)などによる有線ネットワーク100経由の時刻同期機能を利用して、自身が有する時計を調整する。省電力管理部11は、所定のタイミングで端末管理部12から端末情報を取得し、また、時刻管理部13に対して現在時刻を問い合わせ、取得した端末情報および現在時刻に基づき、上記条件#1?#3が満たされているかどうかを確認して、すべての条件が満たされていればビーコン信号の間引きを行うようにMAC部15に指示を行う。MAC部15は、ビーコン信号の間引き指示を省電力管理部11から受けた場合、DTIM間隔でビーコン信号を送信するように送信制御する。ここで、条件#3の「特定の時刻」とは、たとえば、接続端末数が少ない状態が想定される夜間や、休日などが考えられ、これは基地局の管理者に設定させるようにする。
なお、図2に示した動作(実施の形態1で説明した動作)を実行する場合と同様に、DTIM間隔の整数倍の周期でビーコン信号を送信するようにしてもよい。また、条件#3は必須とするが、条件#1と#2のうち少なくとも一方を満たした場合(すなわち、条件#1および#3を満たした場合、または、条件#2および#3を満たした場合)に消費電力低減モードへ移行するようにしてもよい。その他の部分については実施の形態1と同様であるため説明は省略する。
このように、本実施の形態の基地局では、実施の形態1で説明した動作を、予め設定しておいた特定時刻において実施することとした。これにより、現在時刻に応じた制御が実現できる。」(【0035】?【0037】)

上記(ア)?(ウ)の記載から、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「無線LAN基地局(以下、基地局と記載する)1、無線LAN端末(以下、端末局と記載する)2および在席情報管理サーバー3を含む無線通信システムであって、
基地局1は、省電力管理部11、端末管理部12、時刻管理部13、有線I/F部14、MAC部15、PHY部16およびRF部17を備えており、基地局1は、条件#1および#2に加えて、以下の条件#3を使用して、消費電力低減モードに移行するかどうかを判断し、
<条件#1>在圏しているすべての端末(接続中のすべての端末)が省電力モードで動作中であること。
<条件#2>全端末局のいずれの端末局との間においても送受信トラヒック(送受信するデータ)が存在しないこと。
<条件#3>予め設定されていた特定の時刻であること。
省電力管理部11は、所定のタイミングで端末管理部12から端末情報を取得し、また、時刻管理部13に対して現在時刻を問い合わせ、取得した端末情報および現在時刻に基づき、上記条件#1?#3が満たされているかどうかを確認して、すべての条件が満たされていればビーコン信号の間引きを行うようにMAC部15に指示を行ない、MAC部15は、ビーコン信号の間引き指示を省電力管理部11から受けた場合、DTIM間隔でビーコン信号を送信するように送信制御し、ここで、条件#3の「特定の時刻」とは、たとえば、接続端末数が少ない状態が想定される夜間や、休日などが考えられ、これは基地局の管理者に設定させる、無線通信システム。」(以下、「引用例1発明」という。)

(1-2)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3である特開2006-287463号公報には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審にて付与した。)

(エ)「図5?図7は、図4(a)および図4(b)のアルゴリズムを、図2のメッシュ型ネットワークで説明する概略図である。図2において、無線基地局としてのアクセスポイントAP1?AP4は、固定型、移動型を問わず、適宜ネットワークに参加してメッシュ型アドホックネットワークを構成する。各アクセスポイントの配下には、端末STが存在する。
図5は、無線基地局AP1が初期ノードとして起動している場合を示す。ここで、初期ノードとは、ノードの有する無線インタフェースの使用可能な全周波数帯域をスキャンし、接続可能なノードが無いノードを示す。
たとえば、IEEE802.11bにて規定されている無線チャネルは1チャネルから14チャネルある。たとえば全チャネルを受信した後ビーコンが観測されない場合、あるいはリンク確立時の認証プロセスにおいて承認されず、隣接ノードと接続できなかった場合は、初期ノードとなる。
初期ノードは、初期ビーコンインターバルにより送信を行なう。本実施形態における初期ビーコンインターバルは、一般的な無線LAN基地局製品で使用されている100msとする。」(【0039】?【0042】)

(オ)「図6では、AP1起動後に、AP1の通信範囲に、新規ノードAP2が起動した場合を示している。AP2は、使用可能な全無線チャネルをスキャンした後に、AP1の存在をAP1から送信されるビーコンにより確認する。AP1-AP2間は、無線リンクを確立するためにIEEE802.11にて規定されている接続確立および認証を行なう。
AP1は、AP2の認証が完了したのち、ビーコンによる無線帯域の消費とパケットの衝突を防止するために、ビーコンの送信間隔を2倍(200ms)に変更する。
一方、新規にAP1との通信を開始したAP2は、AP1のビーコン間隔を測定することにより、AP2のビーコン間隔をデフォルト値から変更する。AP2によるAP1のビーコン間隔の測定方法は、(1)AP1のビーコンフレームに含まれるビーコン間隔情報の使用、(2)AP1からのビーコンを一定期間観測することによる平均値の算出などが考えられる。前者のビーコン間隔情報の利用については、IEEE802,11でビーコンはビーコン間隔情報を含むことが規定されており、新規アルゴリズムを必要としない。後者のビーコンの観察に基づく平均値の算出については、たとえば、10秒間にAP1からのビーコンがいくつ含まれるかをカウントすることにより実現可能である。本実施形態では、AP2はAP1と同様に、初期ビーコンインターバルの2倍(200ms)でビーコンを送信する。
図7は、さらに近隣ノードが増えた場合を示す。AP1、AP2に加え、第3の無線基地局AP3がAP2の通信範囲内で通信に参加する。このとき、AP1はAP2からのビーコンを、AP2はAP1およびAP3からのビーコンを、AP3はAP2のビーコンを受信する。すなわち、AP1とAP3は、それぞれAP2のみを隣接ノードとして認識するが、AP2は、信範囲内にAP1とAP3という2つの隣接ノードを認識することになる。
この結果、AP1はビーコンにより確認できる隣接ノード(AP)の数は変化しないが、AP2はAP3とも通信を開始するため、自局のビーコン送信間隔を初期ビーコンインターバルの3倍である300ms(100ms×3)に変更する。一方、新規参入ノードであるAP3は、受信可能なビーコンはAP2からのビーコンのみであるため、自局のビーコン送信間隔を200msに設定する。」(【0044】?【0048】)

(カ)「ところで、図2のようなメッシュ型アドホックネットワークでは、ビーコン間隔の制御において、配下の端末の動作モードを考慮する必要が生じる。たとえば、配下の端末STが、パワーセーブモードなど、ビーコン間隔に依存して動作しているときは、ビーコン間隔の変更を許容できない場合もあるからである。配下の端末STがパワーセーブモードに入っているときは、その端末STは、ビーコン間隔で電源を制御している。そのため、ノード(AP)から送信されるビーコン間隔を変更した場合、ノード・配下端末間の同期がとれなくなり、通信が成立しなくなる可能性がある。
また、ポーリングを使用した通信方式でも、同様にビーコン間隔に基づいて送信タイミングの制御を行っているため、ビーコン間隔を変更すると通信が成立しなくなる可能性がある。
そこで、メッシュ型アドホックネットワークにおいて、配下端末の動作モードや通信方式などの態様を考慮したビーコン送信間隔の制御を提案する。
図8?図10は、一例として、配下端末の動作モードに応じたビーコン送信間隔の制御例を示すフローチャートである。
図8の例では、配下端末STがパワーセーブモードで動作しているときは、ビーコン間隔の変更を行わない。具体的には、ビーコン間隔変更の必要性が生じた場合、たとえば、新規ノードの接続により隣接ノード数が増加した、無線区間の使用状況が変化したなどの場合、まず、配下の端末STがパワーセーブモードで動作しているかどうかを判断する(S301)。
配下の端末STがパワーセーブモードで動作しているときは(S301でYES)、ノードは、ビーコン間隔の変更を行わない(ステップS303)。配下の端末STがパワーセーブモードで動作していないときは(S301でNO)、ビーコン間隔を変更する(ステップS302)。
もっとも、配下端末STが存在しない場合や、存在してもその数が少ない場合は、配下端末STの動作モードを判断せずにビーコン間隔を変更する構成としてもよい。その場合は、S301に先だって、現在の配下端末STの数を判断するステップを挿入し、配下端末STの数が所定数を越える場合に、配下端末STの動作モードを判断する構成とすればよい。」(【0049】?【0055】)

上記(エ)?(カ)の記載から、引用例3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「適宜ネットワークに参加してメッシュ型アドホックネットワークを構成する無線基地局(アクセスポイント)であって、
無線基地局としての各アクセスポイントAP1?AP4の配下には、端末STが存在し、無線基地局AP1が初期ノードとして起動している場合、初期ビーコンインターバルにより送信を行ない、初期ビーコンインターバルは、100msであり、
AP1起動後に、AP1の通信範囲に、新規ノードAP2が起動した場合、AP2は、使用可能な全無線チャネルをスキャンした後に、AP1の存在をAP1から送信されるビーコンにより確認し、AP1-AP2間は、無線リンクを確立するためにIEEE802.11にて規定されている接続確立および認証を行ない、AP1は、AP2の認証が完了したのち、ビーコンによる無線帯域の消費とパケットの衝突を防止するために、ビーコンの送信間隔を2倍(200ms)に変更する、無線基地局。」(以下、「引用例3発明」という。)

(2)対比
本件特許出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用例1発明とを対比する。

(2-1)引用例1発明の「ビーコンを送信する」は本願発明でいうところの『ビーコンを発射し』に対応し、引用例1発明の無線LAN端末2は本願発明でいうところの『端末』に対応し、引用例1発明の無線LAN基地局1は本願発明でいうところの『無線中継装置』に対応する。
そして、前記無線LAN端末2は無線LAN基地局1との間において送受信トラヒック(送受信するデータ)が存在する場合、当該無線LAN基地局1からデータを受信することになるのであり、当該無線LAN基地局1からデータを受信するためには無線LAN基地局1が送信するビーコンに応答して無線による接続を行っていることは自明である。
してみると、引用例1発明の無線LAN端末2は本願発明でいうところの『ビーコンに応答した』端末といえる。

(2-2)引用例1発明において、ビーコン信号の間引きが行われていない場合、前記ビーコン信号は予め定められた周期で送信されることは自明であるから、「ビーコン信号の間引きが行われていない状態」は、本願発明でいうところの『ビーコンを第1の周期で発射する通常モード』に対応し、引用例1発明の「消費電力低減モード」は、ビーコン信号の間引きが行われている状態、即ち、ビーコンの送信周期がビーコン信号の間引きが行われていない場合よりも長くなっている訳であるから、本願発明でいうところの『ビーコンを第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モード』に対応する。

(2-3)引用例1発明の「省電力管理部11」は、「所定のタイミングで端末管理部12から端末情報を取得し、また、時刻管理部13に対して現在時刻を問い合わせ、取得した端末情報および現在時刻に基づき、条件#1?#3が満たされているかどうかを確認して、すべての条件が満たされていればビーコン信号の間引きを行うようにMAC部15に指示を行なう」のであるから、上記(2-2)でいうところの「ビーコン信号の間引きが行われていない状態」とビーコン信号の間引きが行われている状態である「消費電力低減モード」とを択一的に選択しているといえ、上記(2-2)で言及した事項と合わせ読むと、引用例1発明は、本願発明でいうところの『ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段』を備えているといえる。

(2-4)引用例1発明は、ビーコン信号の間引きの条件を設定するに際し、「条件#3の「特定の時刻」とは、たとえば、接続端末数が少ない状態が想定される夜間や、休日などが考えられ、これは基地局の管理者に設定させる」のであるから、本願発明でいうところの『省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段』とそのための『ユーザインターフェース手段』を備えているといえる。

したがって、本願発明と引用例1発明とは、

「ビーコンを発射し、前記ビーコンに応答した端末との間で無線による接続を行う無線中継装置において、
前記ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段を備え、
さらに、ユーザインターフェース手段と前記省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段を備える
ことを特徴とする無線中継装置。」

で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明に係る『選択手段』は、『他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択する』機能を備えているのに対し、引用例1発明の「選択手段」にはその様な機能を備えていない点。

[相違点2]
本願発明に係る『ユーザインターフェース手段』は、『通常モードと省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供する』ものであり、さらに、『時系列的なスケジュールに沿って通常モードと省電力モードとを択一的に指定可能』とすることが可能であるのに対し、引用例1発明の「ユーザインターフェース手段」は、「省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するため」のものである点。

[相違点3]
本願発明に係る『設定手段』は、『省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である』との機能を有しているのに対し、引用例1発明に係る「設定手段」はその様な機能を備えていない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

(3-1)相違点1について
引用例3には、「AP1起動後に、AP1の通信範囲に、新規ノードAP2が起動した場合、AP2は、使用可能な全無線チャネルをスキャンした後に、AP1の存在をAP1から送信されるビーコンにより確認し、AP1-AP2間は、無線リンクを確立するためにIEEE802.11にて規定されている接続確立および認証を行ない、AP1は、AP2の認証が完了したのち、ビーコンによる無線帯域の消費とパケットの衝突を防止するために、ビーコンの送信間隔を2倍(200ms)に変更する、無線基地局」が記載されているものの、引用例1発明においては、無線LAN基地局を消費電力低減モードに移行させるか否かの判断を、他の無線LAN基地局とは関係のない<条件1>、<条件2>、<条件3>を基に行っているのであって、無線LAN基地局1とそれ以外の基地局との関係において基地局の省電力化を図るという思想は何ら開示されておらず、両引用例発明において基地局の省電力化という共通の目的があるとしても、引用例1発明に引用例3発明を適用するとの必要性又は合理的な理由があるとは認められないから、相違点1に係る構成を引用例1発明及び引用例3発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るとは認められない。

(3-2)相違点2について
引用例1及び引用例3のいずれにも、本願発明に係る様な『ユーザインターフェース手段』(即ち、『通常モードと省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供』したり、さらに、『時系列的なスケジュールに沿って通常モードと省電力モードとを択一的に指定可能』とすることが可能である様なもの)は、記載も示唆もされておらず、また当業者にとって自明であるとも認められない。
したがって、相違点2に係る構成を引用例1発明及び引用例3発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るとは認められない。

(3-3)相違点3について
引用例1及び引用例3のいずれにも、本願発明に係る様な『省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である設定手段』は、記載も示唆もされておらず、また当業者にとって自明であるとも認められない。
したがって、相違点3に係る構成を引用例1発明及び引用例3発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るとは認められない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用例1及び引用例3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明についても、上記相違点1ないし3に係る構成を全て有しているので、本願発明と同様に、当業者が引用例1及び引用例3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項4に係る発明は、本願発明の「無線中継装置」を「無線中継方法」として記載したものであり、また、本願の請求項5に係る発明は、「プログラム」として記載したものであり、本願発明と同様に、当業者が引用例1及び引用例3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。


第4 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要

当審における拒絶理由通知で引用した「引用例1」、「引用例2」は、原査定の「引用例3」、「引用例1」であるため、以下、混乱を生じない様にそれぞれを「引用例A」、「引用例B」と言い換える。

「平成27年12月25日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例A:特開2006-287463号公報
引用例B:特開2010-278763号公報

請求項1-5に係る発明については、引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。」

2.当審拒絶理由の判断
(1)引用例の記載事項
(1-1)引用例A
上記「第3 原査定の理由について」の「2.原査定の理由の判断」の「(1-2)引用例3」で言及したとおり。

(1-2)引用例B
上記「第3 原査定の理由について」の「2.原査定の理由の判断」の「(1-1)引用例1」で言及したとおり。

(2)対比
本願発明と引用例A発明とを対比する。

(2-1)引用例A発明に係る無線基地局(アクセスポイント)は、「無線基地局としての各アクセスポイントAP1?AP4の配下には、端末STが存在し、無線基地局AP1が初期ノードとして起動している場合、初期ビーコンインターバルにより送信を行ない、初期ビーコンインターバルは、100msであり、」と記載されている様に、「ビーコン」を送信し、「端末ST」と無線による通信を行うものであるから、当該「端末ST」は無線基地局(アクセスポイント)から「発射されたビーコン」に「応答」して「無線による接続」を行っていることは明らかである。

また、本件出願の明細書の「図1は、無線LANシステムの概略的な全体構成図である。この図において、フロアー1には、計画的に配置された複数の無線中継装置(アクセスポイント。以下、APと略す)2?4が設けられている。・・・以下省略・・・。」(【0018】)との記載や「図2(a)は、APの概念的な構成図である。この図において、AP2?4は共通の構成を有しており、以下、AP2で代表すると、AP2は、アンテナ8、通信部9、制御部10、時計部11、操作部12及び有線インターフェース部13を備えている。」(【0024】)との記載等を参酌するに、引用文献1発明に係る「無線基地局(アクセスポイント)」は、本願発明の『無線中継装置』に対応するといえる。

(2-2)引用例A発明に係る「初期ビーコンインターバル(100ms)により送信を行なうこと」及び「2倍(200ms)に変更されたビーコンの送信間隔により送信を行なうこと」は、それぞれ、本願発明の『ビーコンを第1の周期で発射する通常モード』、『第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モード』に対応する。

してみると、引用例A発明に係る「無線基地局(アクセスポイント)」(AP1)は、「初期ビーコンインターバル(100ms)により送信を行なうこと」と「2倍(200ms)に変更されたビーコンの送信間隔により送信を行なうこと」とを択一的に選択可能な選択手段を備えているといえる。

したがって、引用例A発明には、本願発明でいうところの『ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段』を備えているものといえる。

(2-3)引用例A発明は、「AP1起動後に、AP1の通信範囲に、新規ノードAP2が起動した場合、AP2は、使用可能な全無線チャネルをスキャンした後に、AP1の存在をAP1から送信されるビーコンにより確認し、AP1-AP2間は、無線リンクを確立するためにIEEE802.11にて規定されている接続確立および認証を行ない、AP1は、AP2の認証が完了したのち、ビーコンによる無線帯域の消費とパケットの衝突を防止するために、ビーコンの送信間隔を2倍(200ms)に変更する」のであるからAP1は、初期ノードとして起動している場合、初期ビーコンインターバル(100ms)により送信を行ない、新規ノードAP2が起動した場合、当該AP2との無線リンクを確立するためにAP2が発射するビーコンを受信した上でビーコンの送信間隔を2倍(200ms)に変更していることは明らかである。

してみると、引用例A発明には、本願発明でいうところの『選択手段は、他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択するものであって、』との構成を備えているものといえる。

したがって、本願発明と引用例A発明とは、

「ビーコンを発射し、前記ビーコンに応答した端末との間で無線による接続を行う無線中継装置において、
前記ビーコンを第1の周期で発射する通常モードと、前記ビーコンを前記第1の周期よりも長周期の第2の周期で発射する省電力モードとを択一的に選択可能な選択手段を備え、
前記選択手段は、他の無線中継装置からのビーコンを受信していないときは前記通常モードを選択する一方、ビーコンを受信しているときは前記省電力モードを選択するものである、
ことを特徴とする無線中継装置。」

で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「前記選択手段に対して、前記通常モードと前記省電力モードのいずれを選択するかを指定するためのユーザインターフェースを提供するユーザインターフェース手段を備え、前記ユーザインターフェース手段は、時系列的なスケジュールに沿って前記通常モードと前記省電力モードとを択一的に指定可能であり、かつ、前記通常モードの始まりから終わりまでの時間または前記省電力モードの始まりから終わりまでの時間を設定するための設定手段を有するとともに、前記設定手段は、省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である」との構成を有しているのに対し、引用例A発明は、その様な構成(「ユーザインターフェース手段」及び「設定手段」)を備えていない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

引用例B発明には、基地局が消費電力低減モード(即ち、ビーコン信号の間引き)に移行するかどうかを判断するに際し、「予め設定されていた特定の時刻であるか否か」を判断条件として用いることが開示されており、更に、当該「特定の時刻」とは、「たとえば、接続端末数が少ない状態が想定される夜間や、休日などが考えられ、これは基地局の管理者に設定させる」ものであることも開示されている。

前記開示内容を参酌するに、基地局において消費電力低減モード(即ち、ビーコン信号の間引き)に移行するかどうかを判断するために用いられる条件として、接続端末数が少ない状態が想定される夜間や、休日などの特定の時刻を基地局の管理者が設定するための「インターフェース手段」と時刻を設定するための「設定手段」とを基地局に備えることは、公知の手段であると認められる。

しかしながら、本願発明に係る「設定手段」は、『省電力モードを指定する際に、前記第2の周期を、前記第1の周期よりも長周期の複数の周期の一つに指定することが可能である』との機能も有しており、その様な機能については引用例A及び引用例Bのいずれにも記載も示唆もされておらず、また当業者にとって自明であるとも認められない。

したがって、相違点1に係る構成を引用例A発明及び引用例B発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るとは認められない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用例A及び引用例Bに記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明についても、上記相違点1に係る構成を有しているので、本願発明と同様に、当業者が引用例A及び引用例Bに記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項4に係る発明は、本願発明の「無線中継装置」を「無線中継方法」として記載したものであり、また、本願の請求項5に係る発明は、「プログラム」として記載したものであり、本願発明と同様に、当業者が引用例A及び引用例Bに記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

そうすると、当審で通知した拒絶理由によって本件特許出願を拒絶することはできない。


第5 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本件特許出願を拒絶することはできない。
また、他に本件特許出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願2012-548624(P2012-548624)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 光平東 昌秋遠山 敬彦  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 佐藤 智康
山本 章裕
発明の名称 無線中継装置、無線LANシステム、無線中継方法及びプログラム  
代理人 鹿嶋 英實  

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