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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2016700981 審決 特許
異議2017700431 審決 特許
異議2017701099 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特126 条1 項  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1321226
異議申立番号 異議2015-700283  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-09 
確定日 2016-08-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5731708号発明「新規多糖類誘導体及び剤形」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731708号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、9〕、〔4?7〕、〔8〕について訂正することを認める。 特許第5731708号の請求項1、3?9に係る特許を維持する。 特許第5731708号の請求項2に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5731708号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2012年3月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月6日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日として特許出願され、平成27年4月17日に特許権の設定登録がされ、同年6月10日にその特許公報が発行されたものである。
その後、平成27年12月9日に、その請求項1?9に係る発明の特許について、特許異議申立人信越化学工業株式会社により特許異議の申立てがなされ、平成28年2月3日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされ、その後、特許異議申立人により、同年7月11日に意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(8)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に記載された「0.35kg/m^(3)」を「300kg/m^(3)」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に記載された「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に記載された「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2を削除する。これに伴い、請求項3及び請求項9における請求項2の引用を削除する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」との選択肢(条件A、並びに、条件A及び条件Bの条件)を削除する訂正事項からなるものである。
そうすると、訂正事項1は、請求項1に係る発明について、訂正前の発明特定事項のうちから特定の選択肢を削除する訂正事項であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を、具体的なセルロースエーテルである、「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定する訂正事項からなるものである。
特許明細書には、「【0034】好ましいセルロース誘導体は、セルロースエステル又はセルロースエーテルである。・・特に好ましいセルロース誘導体は、メチルセルロース、・・、メチルヒドロキシプロピルセルロース、・・及びカルボキシメチルセルロースであり・・。【0035】二種類以上の多糖類誘導体、好ましくはセルロース誘導体、より好ましくは二種類以上のセルロースエーテルを組み合わせて、本発明の剤形内に包含させることができる。特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはメチルセルロースの異なる二種類の組み合わせ、又は、i)ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはメチルセルロース及びii)カルボキシメチルセルロースの組み合わせを、本発明の剤形を調製するため組み合わせとして用いることができる。【0036】最も好ましくは、水溶性セルロースエーテルは・・0.9?2.2、好ましくは1.1?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0、好ましくは0.1?1.2のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース・・である。・・DS_(methyl)・・MS_(hydroxypropyl)の測定は、K.L. Ketterer, W.E. Kester, D.L. Wiederrich, and J.A. Grover, Determination of Alkoxyl Substitution in Cellulose Ethers by Zeisel-Gas Chromatographie, Analytical Chemistry(Vol. 51, No. 13, Nov 1979, 2172-76)に記載された手段により実施することができる。」と記載されていることから、訂正事項2は特許明細書に記載されているものと認められる。
そうすると、訂正事項2は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項1に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
特許明細書には「【0029】本明細書における嵩密度は、アンタップ嵩密度といわれるものであり、試料が有する体積に対する、見掛け質量の比として定義される。・・本発明において有用な多糖類誘導体は、通常、150kg/m^(3)を超える、好ましくは300kg/m^(3)を超える、より好ましくは350kg/m^(3)を超える、最も好ましくは400kg/m^(3)以上のアンタップ嵩密度を有する。」と記載されていることから、訂正事項3は特許明細書に記載されているものと認められる。
そうすると、訂正事項3は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項3に記載された「アンタップ嵩密度」につき、「0.35kg/m^(3)を超える」ものを「300kg/m^(3)を超える」ものに限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4の「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」との選択肢(条件A、並びに、条件A及び条件Bの条件)を削除する訂正事項からなるものである。
そうすると、前記(1)で述べたように、訂正事項4は、請求項4に係る発明について、訂正前の発明特定事項のうちから特定の選択肢を削除する訂正事項であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項4の「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を、具体的なセルロースエーテルである、「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定する訂正事項からなるものである。
そうすると、前記(2)で述べたように、訂正事項5は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項4に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を、「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項8の「A、条件B又はその両方の条件」及び「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する。B.」との選択肢(条件A、並びに、条件A及び条件Bの条件)を削除する訂正事項からなるものである。
そうすると、前記(1)で述べたように、訂正事項6は、請求項8に係る発明について、訂正前の発明特定事項のうちから特定の選択肢を削除する訂正事項であるといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項8の「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を、具体的なセルロースエーテルである、「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定する訂正事項からなるものである。
そうすると、前記(2)で述べたように、訂正事項7は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項8に記載された「セルロースエーテル又はセルロースエステル」を、「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテル」に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
ア 訂正事項8は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。
イ また、訂正事項8は、請求項2が削除されたのに伴い、請求項3及び請求項9がそれぞれ請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、それぞれ、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものでもない。

(9)一群の請求項について
ア 訂正前の請求項1?3、9について
請求項2、3、9は請求項1を直接引用しており、訂正事項1、2によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、請求項9は請求項3を直接引用しており、訂正事項3によって訂正される請求項3に連動して訂正されるものであり、また、請求項3及び9は請求項2を直接引用しており、訂正事項8によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
イ 訂正前の請求項4?7について
請求項5?7は請求項4を直接引用しており、訂正事項4、5によって訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。
したがって、当該請求項1?3及び9からなる一群の請求項についての各訂正、請求項4?7からなる一群の請求項についての各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(10)特許異議申立人の主張について
訂正事項3について、特許異議申立人は、平成28年7月11日提出の意見書の「4-1特許発明3の訂正について」において、「0.35kg/m^(3)」は誤記であり、正しくは「350kg/m^(3)」を意味すると考えることが自然であるから、訂正事項3の、特許請求の範囲の請求項3に記載された「アンタップ嵩密度」につき、「0.35kg/m^(3)を超える」から「300kg/m^(3)を超える」への訂正は、本来の意である「350kg/m^(3)を超える」を拡張するものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に規定する実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当する旨、主張する。
しかしながら、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5には「0.35kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有する」と記載されており、訂正事項3の「0.35kg/m^(3)を超える」から「300kg/m^(3)を超える」への訂正は、訂正の前後で特許請求の範囲は拡張しておらず、訂正事項3は実質上特許請求の範囲を拡張するものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の前記主張を採用することはできない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本願訂正後の請求項[1?3、9]、[4?7]、[8]についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許第5731708号の請求項1?9に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである、多糖類誘導体。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項2】(削除)
【請求項3】300kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有する、請求項1に記載の多糖類誘導体。
【請求項4】a)1又は複数の多糖類誘導体、
b)1又は複数の有効成分、及び
c)1又は複数の任意の補助剤、
から製造された剤形であって、前記1又は複数の多糖類誘導体が、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである多糖類誘導体である、前記剤形。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項5】前記剤形が打錠された剤形であり、前記多糖類誘導体が前記剤形のマトリックスの少なくとも一部分を形成する、請求項4に記載の剤形。
【請求項6】前記多糖類誘導体が前記剤形のコーティングの少なくとも一部分を形成する、請求項4に記載の剤形。
【請求項7】徐放性剤形である、請求項4?6のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項8】I)1又は複数の多糖類誘導体、1又は複数の有効成分、及び1又は複数の任意の補助剤を混合する工程と、
II)混合物を剤形に打錠する工程と、
を含む、剤形の製造方法であって、前記1又は複数の多糖類誘導体が、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである多糖類誘導体である、前記方法。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項9】剤形を製造するための請求項1又は3に記載された多糖類誘導体の使用。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?9に係る発明の特許に対して、平成28年2月3日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次の(1)?(4)のとおりである。

(1)発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許発明1?9に係る特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
具体的には以下の理由を示している。
ア 本件訂正前の請求項1、4、8に記載の「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する」との発明特定事項について、当該流動性は図1の流動試験装置から流出する多糖類誘導体粒子の量として定義されるものであるが、図1の流動試験装置は本件特許発明1、4、8の「逆円錐体」ではないから、図1の流動試験装置を用いて流動性を測定したと解される実施例に記載の多糖類誘導体粒子は、本件特許発明1、4、8の特定の流動性を有するか不明であり、当該特定の流動性を示す粒子を作る方法が発明の詳細な説明に記載されていないことになり、また、当該特定の流動性を有する粒子をどのように製造するのかも、本願出願時の技術常識を勘案しても不明である。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、4、8及びこれらを直接引用して特定されている本件特許発明2、3、5?7、9の実施を発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
イ 本件訂正前の請求項3に記載の「0.35kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度」について、特許明細書の発明の詳細な説明には、「0.35kg/m^(3)」を若干超える程度のアンタップ嵩密度のものは記載されておらず、本願出願時の技術常識を勘案しても、「0.35kg/m^(3)」を若干超える程度のアンタップ嵩密度のものを実施するには、具体的な実施方法が不明であることから、当業者といえども試行錯誤を繰り返す必要があり、過度の負担を強いるものといえる。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明3及び請求項3を直接引用して特定されている本件特許発明9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(2)本件特許発明1?9は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本件特許発明1?9に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
具体的には以下の理由を示している。
ア 本件訂正前の請求項1、4、8に記載の「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する」との発明特定事項について、前記(1)アで述べたように、図1の流動試験装置は本件特許発明1、4、8の「逆円錐体」ではないから、図1の流動試験装置を用いて流動性を測定したと解される実施例の結果を参酌することはできず、そのような具体的な記載や示唆がなくとも課題を解決できるといえる技術常識があったものとも認められない。
したがって、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、4、8及びこれらを直接引用して特定されている本件特許発明2、3、5?7が記載されているということはできない。
イ 本件訂正前の請求項3に記載の「0.35kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有する」との発明特定事項について、前記(1)イで述べたように、特許明細書の発明の詳細な説明には、「0.35kg/m^(3)」を若干超える程度のアンタップ嵩密度のものは記載されておらず、本願出願時の技術常識を勘案しても、そのようなものは本件特許発明3の課題を解決することができると当業者が認識できるということはできない。
したがって、発明の詳細な説明には、本件特許発明3及び請求項3を引用する本件特許発明9が記載されているということはできない。

(3)本件特許発明1?3、9は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された以下の刊行物1、2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本件特許発明1?3、9に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4)本件特許発明1?9は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された以下の刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許発明1?9に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2001-240602号公報(甲第1号証)
刊行物2:国際公開第92/03167号(甲第2号証)
刊行物3:特開平6-305982号公報(甲第5号証)
実験成績証明書(甲第6号証)
(実験日:平成27年7月13日?8月15日、
実験場所:新潟県上越市頸城区西福島28番地1
信越化学工業株式会社 合成技術研究所内
実験者:新潟県上越市頸城区西福島28番地1
信越化学工業株式会社 合成技術研究所
北村 彰」
実験内容:甲第1号証(特開2001-240602号公報)の実施例13及び甲第2号証(国際公開第92/03167号)の実施例4の追試、各メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を製造後、本件特許(特許第5731708号)に係る発明の粉体特性と比較するため、粉体特性を測定。」

3 取消理由に対する判断
(1)取消理由(1)、(2)について
ア 本件訂正前の請求項1、4、8に記載の「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する」ことについて
本件訂正により、本件特許発明1、4、8は、取消理由(1)ア及び取消理由(2)アの対象となる「A.非圧縮状態の多糖類誘導体粒子が、39.2°の頂角及び51mmの出口直径を有する逆円錐体を通過する際に、45g/秒以上の流動性を有する」との発明特定事項を有しないものとなり、請求項2は削除されたから、取消理由(1)ア及び取消理由(2)アの対象となる本件訂正前の本件特許発明2は存在しなくなり、本件特許発明1、4、8を直接引用して特定されている本件特許発明3、5?7、9も取消理由(1)ア及び取消理由(2)アの対象となる当該発明特定事項を有しないものとなった。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、3?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできず、かつ、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、3?9が記載されているとはいえないということはできないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

イ 本件訂正前の請求項3に記載の「0.35kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度」について
本件訂正により、本件特許発明3は、取消理由(1)イ及び取消理由(2)アの対象となる「0.35kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度」との発明特定事項が、「300kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度」と訂正され、「0.35kg/m^(3)」を若干超える程度のアンタップ嵩密度のものを有しないものとなったから、本件特許発明1、4、8を直接引用して特定されている本件特許発明3、5?7、9も取消理由(1)イ及び取消理由(2)イの対象となる当該発明特定事項を有しないものとなった。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、3?9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできず、かつ、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、3?9が記載されているとはいえないということはできないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1、3?9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものということはできず、また、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第1号に適合するものではなく同法同条同項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできないので、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものであるということはできない。

(2)取消理由(3)、(4)について
ア 刊行物及び実験成証明書の記載について
(ア)刊行物1
刊行物1には以下の事項が記載されている。
1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】a)セルロース誘導体、及び供給組成物の全重量に基づき50重量%から80重量%の水を含む供給組成物を生成し、ここでセルロース誘導体は、供給組成物中で膨潤する又は溶解する少なくとも一種であり、
b)供給組成物を、高速回転ガスジェットインパクトミル中で、(i)蒸気及び不活性ガスの過熱ガス混合物、及び(ii)蒸気及び空気の過熱ガス混合物から選択される過熱ガス混合物と接触させ、それによって供給組成物のセルロース誘導体を微細な粒状粒子の固体状態の形態へ転化させ、ここで過熱ガス混合物は、過熱ガス混合物の全重量に基づき40重量%から99重量%の蒸気含量を有し、
c)過熱ガス混合物から粒状セルロース誘導体を分離し、そして
d)場合により粒状セルロース誘導体を乾燥することを含む、粒状水溶性セルロース誘導体を製造する方法。
【請求項2】各々の場合粒子の全重量に基づき、15μmより小さい粒径を有する粒子を5重量%未満、10μmより小さい粒径を2重量%未満、5μmより小さい粒径を1重量%未満含むことを特徴とする、請求項1の方法により製造された粒状セルロース誘導体。
・・・・・
【請求項5】請求項2に記載の粒状セルロース誘導体の、着色剤、医薬品、化粧品又は食物中での、増粘剤、結合剤又は塗工剤としての使用法。」

1b「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規な、特に経済的な、粒状の水溶性セルロース誘導体、好適には熱凝集点(thermal flocculation point)を有するこれらのものを製造する方法に関する。」

1c「【0020】セルロース誘導体の例は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)、ヒドロキシプロピル-ヒドロキシエチルセルロース(HPHEC)、メチルセルロース(MC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、メチルヒドロキシ-プロピル-ヒドロキシエチルセルロース(MHPHEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、疎水性変性ヒドロキシエチルセルロース(hmHEC)、疎水性変性ヒドロキシプロピルセルロース(hmHPC)、疎水性変性エチルヒドロキシエチルセルロース(hmEHEC)、疎水性変性カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(hmCMHEC)、疎水性変性ヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(hmHPHEC)、疎水性変性メチルセルロース(hmMC)、疎水性変性メチルヒドロキシプロピルセルロース(hmMHPC)、疎水性変性メチルヒドロキシエチルセルロース(hmMHEC)、疎水性変性カルボキシメチルメチルセルロース(hmCMMC)、スルホエチルセルロース(SEC)、ヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(HESEC)、ヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(HPSEC)、メチルヒドロキシエチル-スルホエチルセルロース(MHESEC)、メチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(MHPSEC)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(HEHPSEC)、カルボキシメチルスルホエチルセルロース(CMSEC)、疎水性変性スルホエチルセルロース(hmSEC)、疎水性変性ヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(hmHESEC)、疎水性変性ヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(hmHPSEC)、及び疎水性変性ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(hmHEHPSEC)である。
【0021】特に好適なセルロース誘導体は水中で熱凝集点を有するセルロースエーテル、例えばメチルセルロース、メチルヒドロキシ-エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシ-プロピルヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースである。
【0022】アルキル置換基の量は通常「DS」で記述される。DSはグルコース単位中で置換されたOH基の平均量である。メチルの置換は通常用語「DS(M)」で記述される。ヒドロキシアルキルの置換は用語「MS」で記述される。これは、グルコース単位に結合したエーテル化剤の平均のモル量である。エチレンオキシドの置換は用語「MS(HE)」で記述される。ポリエチレンオキシドの置換は用語「MS(HP)」で記述される。
【0023】DS(M)、MS(HE)及びMS(HP)の値は、G.Bartelmus、R.Kellerer、Z.Anal.Chem.286(1977)、161-190による、the method of Zeisel p.e.により決定される。
【0024】1から2.6のDS(M)及び0.05から0.9のMS(HE)を有するメチルヒドロキシエチルセルロース、特には1.3から1.9のDS(M)及び0.15から0.55のMS(HE)を有するこれらのもの、並びに1から2.6のDS(M)及び0.05から1.2のMS(HP)及び0.05から0.9のMS(HE)を有するメチルヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース、特には1.3から1.9のDS(M)及び0.05から0.6のMS(HP)及び0.15から0.55のMS(HE)を有するこれらのものが最も好適である。」

1d「【0050】最終生成物の性質面(profile)を改変するために、変性剤、添加剤及び/又は活性物質を、本発明の方法の一又はそれ以上の段階の前、間及び後に加えてもよい。」

1e「【0061】
【実施例】供給組成物の調製 混合する空間全体をカバーするために、混合器具がその上に配置されたミキサーシャフト(mixer shaft)を垂直に有する撹拌用容器(stired vessel)中で、全重量(DS(メチル)=1.51及びMS(ヒドロキシエチル)=0.28を有するメチルヒドロキシエチルセルロースの全重量)に基づき、55重量%の水の含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロースの水湿潤のフィルターケーキを、全重量に基づき25%の固体含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロースゲルの供給組成物を製造するために、水と連続的に撹拌した。ミキサーシャフトと共に材料が回転することを防止するために、流れそらせ板を容器の壁上に配置した。容器の床部に取り付けられた排出スクリューが一定で材料を送れるように、それらが徹底的な混合と共に、また下向きの圧縮効果を出すように、撹拌羽根をミキサーシャフト上に配置した。ゲルの形態の供給組成物を集め、その後さらに微細な粒状のメチルヒドロキシエチルセルロース生成物へと処理した(実施例MT 1-3)。
【0062】実施例:ミル乾燥(MT)粉砕ユニットは、駆動シャフト(drive shaft)を垂直に配置し、そしてそれぞれの場合、型彫りした(profiled)対の粉砕軌道に対して作動する、16個の衝撃板(impact plates)を有し、0.5mm直径の7つの粉砕軌道(grinding tracks)を有する、篩を含まない高速回転ガスジェット回転ミル(UltraRotorII型、Altenburger Maschinen Jaeckering GmbH製)から成る。ローターの周速度は、ローターの回転速度から決定され、式U=π*n*d[式中、nはローターの回転速度であり、dは0.5mである]により計算される。ローターの回転速度はミル制御系を介して調整される。微細に粉砕された生成物の大部分が分離される、0.6m直径のサイクロン並びに平行に連結され、それぞれの大きさが12m^(2)である二つのバッグフィルターがミルの下流に連接される。サイクロンの後に、ラジアルファンが、天然ガスバーナーを装備した熱ガス発生機を介して、ミルガスを再びミルへ導入する。
【0063】供給組成物(水湿潤セルロース誘導体)は計量型スクリューを用いて、一番目及び二番目の粉砕軌道の高さ(height)まで、ミルへ計量導入される。供給組成物は、計量型スクリューの前に連接された多孔板を用いて、直径約10mmの個々のストランドまで切断される。窒素の固定量も装置の種々の点(ファン、耐衝撃性ミル、サイクロン)で計量される。
【0064】過剰の蒸気/窒素は、抽出され、そして蒸気部分は水流ファン(waterjet fan)で沈降される。
【0065】実施例:MT1 全重量に基づき、25%の固体含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロース(DS(メチル)=1.51及びMS(ヒドロキシエチル)=0.28を有するメチルヒドロキシエチルセルロース)ゲルを、毎時114kgの処理量で前述の手順に従い粉砕しそして乾燥した。入ってくる蒸気/窒素混合物は230℃から250℃の温度で常圧であった。粉砕室の後で、蒸気/窒素混合物の温度は130℃であった。循環ガスの量は毎時1800m^(3)(125℃で測定)であった。蒸気/窒素混合物中の蒸気の割合は73重量%であった。
【0066】3550s^(-1)のインパクトミルのローターの回転スピードで、403g/lの嵩密度、2%水性溶液として測定して20℃及び2.55l/s(ハーケ(Haake)ロトビスコ)で87、500mPa*sの粘度を有する、微細な粒状のMHECが得られた。得られた粉体は、75.6重量%の量で0.063mmの篩を通過した。レーザー回折を用いての粒径の決定から以下の値を得た。4.7重量%<15.5μm、2.1重量%<11μm及び0.7重量%<5.5μm。生成物水分含量は全重量に基づき<2重量%であった。
【0067】実施例:MT2 同じMHECゲルを、毎時106kgの処理量で前述の手順従い粉砕し、乾燥した。入ってくる蒸気/窒素混合物は230℃から245℃の温度で常圧であった。粉砕室の後で、蒸気の温度は130℃であった。循環ガスの量は毎時1800m^(3)(125℃で測定)であった。蒸気/窒素混合物中の蒸気の割合は71重量%であった。
【0068】3175s^(-1)のインパクトミルのローターの回転スピードで、397g/lの嵩密度、2%水性溶液として測定して20℃及び2.55l/s(ハーケ ロトビスコ)で90,200mPa*sの粘度を有する、微細な粒状のMHECが得られた。得られた粉体は、66.1重量%の量で0.063mmの篩を通過した。レーザー回折を用いての粒径の決定から以下の値を得た。2.3重量%<15.5μm、0.9重量%<11μm及び0.0重量%<5.5μm。生成物水分含量は全重量に基づき<2重量%であった。
【0069】実施例:MT3 同じMHECゲルを、毎時130kgの処理量で前述の手順従い粉砕し、乾燥した。入ってくる蒸気/窒素混合物は250℃から270℃の温度で常圧であった。粉砕室の後で、蒸気の温度は130℃であった。循環ガスの量は毎時1700m^(3)(125℃で測定)であった。蒸気/窒素混合物中の蒸気の割合は75重量%であった。
【0070】2470s-1のインパクトミルのローターの回転スピードで、395g/lの嵩密度、2%水性溶液として測定して20℃及び2.55l/s(ハーケ ロトビスコ)で93,700mPa*sの粘度を有する、微細な粒状のMHECが得られた。得られた粉体は、55.9重量%の量で0.063mmの篩を通過した。レーザー回折を用いての粒径の決定から以下の値を得た。1.7重量%<15.5μm、0.6重量%<11μm及び0.0重量%<5.5μm。生成物水分含量は全重量に基づき<2重量%であった。
【0071】2%水性溶液として、20℃及び2.55l/s(ハーケ ロトビスコ)で測定された生成物の粘度[mPa*s]は、以下の表でV2として略記される。篩分け試験では累積篩(cumulative sievings)が重量%で与えられる。レーザー回折値も重量%で与えられる。以下の実施例MT-4-16で、セルロース誘導体は、以下の表に示したように、DS(M)、MS(HE)及びMS(HP)値を有するメチルヒドロキシエチルセルロースゲルであった。」

1f「【0072】【表1】

【0073】【表2】

【0074】

・・・・・
【0077】



(イ)刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
2a「請求の範囲
1.鋼価が0.4g以下のパルプを苛性処理し、エーテル化剤を加えて得た高重合度セルロースエーテルを熱水精製してから加熱乾燥し、粉砕した微粉末を解重合して得られた低重合度セルロースエーテルからなる製剤フィルムコーティング用基剤。
2.前記低重合度セルロースエーテルは、20℃における2%水溶液の粘度が20cst以下であることを特徴とする請求項第1項に記載の製剤フィルムコーティング用基剤。
3.前記低重合度セルロースエーテルは、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロ?ス、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびヒドロキシブチルメチルセルロースから選ばれる低重合度セルロースエーテルであることを特徴とする請求項第1項に記載の製剤フィルムコーティング用基剤。」(請求の範囲 請求項1ないし3)

2b「本発明は製剤フィルムコーティング用基剤である高白度の低重合度セルロースエーテル、及びその製造方法に関するものである。
背景技術
医薬製剤にフィルムコーティングを施すことにより、製剤の苦みをマスキングしたり、製剤の硬度を増加させたり、製剤の表面を滑らかにすることができる。このフィルムコーティングに用いる基剤としては、水溶性低重合度セルロースエーテルが一般的に使用されている。低重合度セルロースエーテルとは、2%水溶液の粘度が20℃において20cSt(センチストークス)以下のセルロースエーテルであり、高重合度セルロースエーテルを解重合して得られる。」(1頁4?13行)

2c「実施例4、5および比較例2?4
実施例4、5及び比較例2?4は、第2表に夫々示す銅価のパルプを用いて以下のようにしてヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシ基29%、ヒドロキシプロピル基9%)を得た。まず、精製したパルプに50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を含浸させ、水酸化ナトリウムが34重量%のアルカリセルロースを調整した。このアルカリセルロースにメチルクロライドを水酸化ナトリウムと等モル、および酸化プロピレンをセルロースの1.50倍モル入れ、耐圧容器に仕込んだ。50?90℃で4時間エーテル化し、反応終了後、熱水で精製した。この後、第2表に示す各々の乾燥工程の条件で乾燥した。乾燥後、同表に示す水分を含んだ各ヒドロキシプロピルメチルセルロースが得られた。
前記で得られた各ヒドロキシプロピルメチルセルロースを第2表に示す各々の粉砕機で平均粒子径50μmまで微粉砕した。各々の粉砕時間は同表に記している。微粉砕されたヒドロキシプロピルメチルセルロースの2%水溶液の粘度は20℃で500cStであった。この高重合度ヒドロキシプロピルメチルセルロースに、12%塩酸をヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し0.0030重量部添加して解重合した。解重合後の2%水溶液の粘度は6cStであり、各々の低重合度ヒドロキシプロピルメチルセルロースの黄色度を測定した。
次に、低重合度セルロースエーテルの各試料について6%の水溶液を調製した。この水溶液で直径が8mm、1錠あたりの重量が200mgの乳糖およびコーンスターチを主成分とする白色錠剤に、1錠あたり8mgのコーティングを行った。コーティングした白色錠剤は全部で1.5kgであった。コーティングはパンコーティング装置FM-2(フロイント産業(株)製)を用いて行なった。コーティングした錠剤を前記のSMカラーコンピュータで黄色度を測定した。その結果を第2表に記した。更に40℃、RH(Relative Humidity)75%の雰囲気下でこの錠剤を1月間放置した後、黄色度を測定した。その黄色度も第2表に記した。


」(10頁3行?11頁下から4行)

(ウ)刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
3a「【特許請求の範囲】
【請求項1】メトキシル基の置換度が19?30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4?12重量%であるヒドロキシプロピルメチルセルロース粒子でなり、95重量%以上が100メッシュのふるいを通過でき、ゆるみ見掛け密度が0.35mg/ミリリットル以下である徐放性基剤成分を含むことを特徴とする徐放性錠剤。」

3b「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、薬効成分を一定の割合で放出するマトリックス型の徐放性錠剤に関するものである。
【0002】【従来の技術】薬に副作用があるような場合、患者に対する薬の適応性を高める必要がある。徐放性錠剤は、薬の適応性を高めるために血中に溶け込む薬効成分の濃度を一定値以下に制御できるようにしたり、あるいは服用回数を減少させたりできるように開発されている製剤である。体内での溶出速度を抑制させながら一定の低い濃度で薬効成分を持続的に放出させ、薬効を長時間維持させることができなければならない。
【0003】徐放性錠剤としては各種のタイプがある。例えば、薬効成分を水溶性高分子やワックスと混合して打錠したマトリックス型、薬効成分を含む腸溶性顆粒と薬効成分とを充填したカプセル型、圧縮成形したマルチプルユニット型がある。
【0004】マトリックス型の徐放性錠剤は拡散律速型ともいわれる。薬効成分は、水の浸透にともなって生じる薬効成分自体の濃度勾配を駆動力として系外に放出される。拡散速度の調整は徐放性基剤成分でなされる。徐放性基剤成分としては、マトリックス型の中でも例えばゲルマトリックス型の場合、水溶性高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」)が用いられる。徐放性錠剤が服用されると、HPMCなどは体内で錠剤表面にゲル層を形成し、薬効成分の溶出を抑制する。徐放性製剤の特性の多くはその徐放性基剤成分の特性で決まる。特に、徐放性基剤成分の分子量、水和速度(溶解速度)などが要因となる。
【0005】水溶性の高い薬効成分を含有させた徐放性錠剤や、薬効成分の濃度が高い徐放性錠剤の場合、用いられる徐放性基剤成分には、薬効成分の溶出速度を抑制する溶出抑制力がとりわけ大きいことが要求される。マトリックス型の徐放性錠剤はマルチプルユニット型と比較して製造が簡単で安価であり、既にいくつかの改良も見られている。特公昭58-110531号公報開示の徐放性錠剤では、20℃における2%水溶液で800cP以下の粘度を呈し、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が9?12重量%のHPMCが使用されている。特公平4-15208号公報開示の徐放性錠剤では、20℃における2%水溶液の粘度が800cP以上のHPMCが、徐放性基剤成分として25.8重量%以上含まれている。この場合のHPMCのヒドロキシプロポキシル基の置換度は4?32重量%、メトキシル基の置換度は16?24重量%である。
・・・・・
【0010】この知見のもとになされた本発明の徐放性錠剤は、メトキシル基の置換度が19?30重量%、ヒドロキシプロポキシル基の置換度が4?12重量%であるHPMC粒子でなり、95重量%以上が100メッシュのふるいを通過でき、ゆるみ見掛け密度が0.35mg/ミリリットル以下である徐放性基剤成分を含む。20℃におけるHPMCの2%水溶液の粘度は1000cP以上、HPMCの含有率は5?90重量%であるとよい。ゆるみ見掛け密度は、粉体特性総合測定装置を用いて力を加えない状態で一定容積中の重量を測定して求められる。」

3c「【0013】一般的に徐放性錠剤には、1種類以上の薬効成分およびその他の必要な医薬用剤添加剤が含まれる。
・・・・・
【0014】このような薬効成分とともに必要に応じて含まれる医薬用剤添加剤としては、賦型剤、滑沢剤、安定化剤、界面活性剤などが挙げられる。そのうちで、賦型剤としては、例えばコーンスターチ、ラクトース、シュクロース、マンノースが挙げられる。滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
・・・・・
【0016】徐放性錠剤の製造方法としては乾式法と湿式法とがある。乾式法の場合、粉末状の薬効成分と徐放性基剤成分であるHPMCと賦型剤とを乾燥状態で均一に混合し、さらに滑沢剤を加えて混合し、得られた混合物を回転式打錠機などを使って圧縮する。」

(エ)実験成績証明書(甲第6号証)
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
6a「 実験成績証明書
平成27年12月3日
信越化学工業株式会社
合成技術研究所
北村 彰
1.実験日 平成27年7月13日?8月15日
2.実験場所
新潟県上越市頸城区西福島28番地1
信越化学工業株式会社 合成技術研究所内
3.実験者
新潟県上越市頸城区西福島28番地1
信越化学工業株式会社 合成技術研究所 北村 彰
4.実験の目的
甲第1号証(特開2001-240602号公報)の実施例13、甲第2号証(国際公開第92/03167号)の実施例4、及び甲第3号証(英国特許出願公開第2262527号明細書)の実施例4を追試し、それぞれメチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を製造した後、本件特許(特許第5731708号)に係る発明の粉体特性と比較するため、粉体特性を測定する。」(1頁1?19行)

6b「5.実験内容と結果
(1)甲第1号証の実施例13の追試
追試は、実施例1及び表5をベースにした。
<供給組成物の調製>
ミキサーシャフトを水平に有するプロシェア型撹絆用容器中で、全重量(DS(メチル)=1.45及びMS(ヒドロキシエチル)=0.21(甲第1号証の表5参照)を有するメチルヒドロキシエチルセルロースの全重量)に基づき、55重量%の水の含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロースの水湿潤のフィルターケーキを、全重量に基づき22.5%の固体含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロースゲルの供給組成物を製造するために、水と連続的に撹絆した。
<ミル乾燥(MT)>
粉砕ユニットは、駆動シャフトを垂直に配置し、そしてそれぞれの場合、型彫りした対の粉砕軌道に対して作動する、16個の衝撃板を有し、0.5mm直径の7つの粉砕軌道を有する、篩を含まない高速回転ガスジェット回転ミルから成った。ローターの周速度は、ローターの回転速度から決定され、式 U=π*n*d[式中、nはローターの回転速度であり、dは0.5mである]により計算された。ローターの回転速度はミル制御系を介して調整された。微細に粉砕された生成物を捕集するバッグフィルターがミルの下流に連接された。バッグフィルターの後に、ラジアルファンが、スチームによる熱ガス発生機を介して、ミルガスを再びミルヘ導入した。
供給組成物(水湿潤セルロース誘導体)は計量型スクリューを用いて、一番目及び二番目の粉砕軌道の高さ(height)まで、ミルへ計量導入された。供給組成物は、計量型スクリューの前に連接された多孔板を用いて、直径約10mmの個々のストランドまで切断される。窒素の固定量も装置の種々の点(ファン、耐衝撃性ミル)で計量された。過剰の蒸気/窒素は、抽出され、そして蒸気部分はベンチュリー洗浄機で沈降された。
全重量に基づき、22.5%の固体含量を有するメチルヒドロキシエチルセルロース(DS(メチル)=1.45及びMS(ヒドロキシエチル)=0.21を有するメチルヒドロキシエチルセルロース)ゲルを、毎時53kgの処理量で前述の手順に従い粉砕しそして乾燥した。入ってくる蒸気/窒素混合物は150℃から160℃の温度で常圧であった。粉砕室の後で、蒸気/窒素混合物の温度は120℃から130℃であった。循環ガスの量は毎時1850m^(3)(125℃で測定)であった。蒸気/窒素混合物中の蒸気の割合は56重量%であった。
4420min^(-1)(秒速33550回転は現実的には不可能のため、現実的に実施できるレベルに読み替えて単位を分速に置き換え)のインパクトミルのローターの回転スピードで、309g/1の嵩密度、2%水性溶液として測定して20℃及び2.551/s(ハーケ(Haake)ロトビスコ)で14、200mPa・sの粘度を有する、微細な粒状のMHECが得られた。
得られた微細な粒状のMHECについて、本件特許の明細書の段落[0063]?[0064]の記載に従い、メジアン等価投影円直径(EQPC)、微粒子、繊維状粒子及び球状粒子体積分率を求めた。また、流動性は、試験装置の定義が不明確であったため、頂角20.2°及び高さH108mmを有する円錐部と、305mmの高さ及び89mmの内径を有するシリンダー部を備える試験装置(以下「流動性試験装置A」)と、頂角39.2°及び高さH53.4mmを有する円錐部と、305mmの高さ及び89mmの内径を有するシリンダー部を備える試験装置(以下「流動性試験装置B」)を用いて、本件特許の明細書の段落[0065]の記載に基づき測定した。更に、アンタップ嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製のHosokawa Powder Characteristics Tester:Model PT-Sを用いて測定した。

」(1頁20行?3頁4行及び表)

6c「(2)甲第2号証の実施例4の追試
追試は、実施例1及び実施例4をベースにした。
銅価が0.34gの精製したパルプに50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を含浸させ、水酸化ナトリウムが34重量%のアルカリセルロースを調製した。このアルカリセルロースにメチルクロライドを水酸化ナトリウムと等モル、および酸化プロピレンをセルロースの1.50倍モル入れ、内部撹絆式の耐圧容器に仕込んだ。50?90℃で4時間エーテル化し、反応終了後、得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースを20lの熱水で洗浄し、脱水して水分を50重量%とした。これを撹絆型乾燥機に入れ、機壁および乾燥空気の温度を90℃として2時間乾燥した。この間、乾燥物の温度は最高70℃であった。乾燥後の水分は2.0重量%であった(甲第2号証の実施例1の4?10行参照)。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースをACM-10A粉砕機により、供給速度10kg/hr、粉砕部回転数6800min^(-1)、分級機回転数2800min^(-1)、ブロア一風量15m^(3)/min、粉砕時間0.1分間の粉砕条件で粉砕した(甲2号証には条件の記載がないが、これらはACM-10粉砕機により通常使用されている条件である。ACM-10粉砕機の使用条件はホソカワミクロン社のホームページで入手可能)。平均粒子径50μmまで微粉砕されたヒドロキシプロピルメチルセルロースの2%水溶液の粘度は20℃で500mPa・sであった。この高重合度ヒドロキシプロピルメチルセルロースに、12%塩酸をヒドロキシプロピルメチルセルロースに対し0.0030重量部添加して解重合した。解重合後の2%水溶液の粘度は6Pa・sであった。
得られた微細な粒状のHPMCについて、本件特許の明細書の段落[0063]?[0064]に従い、メジアン等価投影円直径(EQPC)、微粒子、繊維状粒子及び球状粒子体積分率を求めた。また、流動性は、上記の試験装置AとBを用いて、本件特許の明細書の段落[0065]の記載に基づき測定した。更に、アンタップ嵩密度は、ホソカワミクロン株式会社製のHosokawa Powder Characteristics Tester:ModelPT-Sを用いて測定した。


」(3頁表下1行?4頁5行及び表)

イ 刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1に記載された発明(引用発明1)
刊行物1は、粒状水溶性セルロース誘導体を製造する方法(1a 請求項1、1b)に関し記載するものであって、この方法により得られる粒状水溶性セルロース誘導体の具体例として、実施例13(1d)には、「DS(M)」すなわちグルコース単位中でメチルに置換されたOH基の平均モル量(以下「メチル置換度」という。)(1c)1.45及び「MS(HE)」すなわちグルコース単位中でヒドロキシエチルに置換されたOH基の平均モル量(以下「ヒドロキシエチル置換度」という。)(1c)0.21である粒状メチルヒドロキシエチルセルロースであって、「V2」すなわち粘度(1e)13300mPa*s、水分含量1、4重量%及び嵩密度360g/lのものが記載されている。

そうすると、刊行物1には、
「メチル置換度1.45及びヒドロキシエチル置換度0.21の粒状メチルヒドロキシエチルセルロース」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(イ)刊行物2に記載された発明(引用発明2)
刊行物2は、製剤フィルムコーティング用基剤である高白度の低重合度セルロースエーテル(2a 請求項1、2b)に関し記載するものであって、この低重合度セルロースエーテルの具体例として、実施例4(2c)には、メトキシ基29%及びヒドロキシプロピル基9%のヒドロキシプロピルメチルセルロースが記載されている。ここで、実施例4、5の記載及び技術常識を勘案すると、%は重量%であると認められる。
また、「平均粒子径」(2c)との記載より、このヒドロキシプロピルメチルセルロースは粒状であるといえる。

そうすると、刊行物2には、
「メトキシ基29重量%及びヒドロキシプロピル基9重量%の粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロース」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

ウ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
a 引用発明1との対比・判断
(a)対比
引用発明1の「メチルヒドロキシエチルセルロース」は、グルコース単位中のOH基がメチル及びヒドロキシエチルに置換されたセルロースエーテルという多糖類誘導体であるから、本件特許発明1の「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである、多糖類誘導体」と、引用発明1の「メチルヒドロキシエチルセルロース」とは、セルロースエーテルである多糖類誘導体である点で共通する。
また、本件特許発明1は特定の形状を有する粒状のものであり、引用発明1も粒状のものであるから、両者は、粒状のものである点で共通する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明1とは、
「セルロースエーテルである、粒状の多糖類誘導体」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1-1:セルロースエーテルである粒状の多糖類誘導体の種類が、
本件特許発明1では、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるものであるのに対し、
引用発明1では、メチルヒドロキシエチルセルロースである点

相違点1-1-2:セルロースエーテルである粒状の多糖類誘導体の粒径及び形状分布が、
本件特許発明1では、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件 i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、
を満たす粒径及び形状分布と、を有するものであるのに対し、
引用発明1では、そのような粒径及び形状分布を有するか明らかでない点

(b)判断
i 特許法第29条第1項第3号について
相違点1-1-1について、引用発明1の「メチルヒドロキシエチルセルロース」は、グルコース単位中のOH基がメチル及びヒドロキシエチルで置換されたセルロースエーテルという多糖類誘導体であり、本件特許発明1の「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択される」セルロースエーテルのいずれにも該当しない。
そうすると、相違点1-1-2について、甲第6号証に示される引用発明1の粒径及び形状分布についての追試測定結果(6b)と本件特許発明1に記載の粒径及び形状分布とを比較検討するまでもなく、本件特許発明1は引用発明1であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明であるとはいえない。

ii 特許法第29条第2項について
(i)相違点1-1-1について
刊行物1は、「新規な、特に経済的な粒状の水溶性セルロース誘導体、好適には熱凝集点を有するこれらのものを製造する方法」に関し記載するものであって(1b)、刊行物1の請求項1記載の粒状水溶性セルロース誘導体の製造方法により製造されるセルロース誘導体の種類として、刊行物1には「【0020】セルロース誘導体の例は・・メチルセルロース(MC)・・カルボキシメチルセルロース(CMC)・・」(1c)及び「【0021】特に好適なセルロース誘導体は・・メチルセルロース・・」(1c)と記載されている。
そうすると、引用発明1は刊行物1の請求項1記載の粒状水溶性セルロース誘導体の製造方法により製造されるセルロース誘導体であるから、引用発明1と同様に新規で経済的な粒状の水溶性セルロース誘導体を得ようとして、引用発明1のメチルヒドロキシエチルセルロースに代えて、好適なセルロース誘導体として刊行物1に挙げられているメチルセルロースやカルボキシメチルセルロースを適用することは、当業者が容易になし得たことである。

(ii)相違点1-1-2について
甲第6号証の実験成績証明書(6b)は、本件特許発明1の粒径及び形状分布と比較するため、刊行物1実施例13を追試し引用発明1の粒径及び形状分布を測定した実験結果で、引用発明1であるメチルヒドロキシエチルセルロース(下線は当審が付与。以下同様。)の粒径及び形状分布についての実験値であり、メチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースのものとは異なる。そして、刊行物1にはメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースの粒状物を製造する具体的な方法は記載されておらず、仮に甲第6号証で追試されたメチルヒドロキシエチルセルロースと同じ製造方法でメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースの粒状物を製造したとしても、セルロースエーテルの種類が異なれば同じ粒径及び形状分布となるとは必ずしもいえない。
そうすると、引用発明1において、メチルヒドロキシエチルセルロースに代えてメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースを適用した場合に、甲第6号証に記載の刊行物1の実施例13の追試で得られた粒径及び形状分布となるとは必ずしもいえず、それらの粒径及び形状分布が、本件特許発明1で特定されている、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、条件i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、を満たす粒径及び形状分布を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(iii)効果について
本件特許明細書の段落【0006】及び実施例(【0053】?【0079】)に記載されているように、本件特許発明1は、徐放性剤形の賦形剤として有用で、従来の賦形剤と比較し改善された流動性及び/又は高い嵩密度を有する多糖類誘導体を提供できるという効果を奏するものといえ、このような効果は刊行物1の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。

iii 特許異議申立人の主張について
(i)特許異議申人は、前記意見書の3頁12行?26行で、実験成績証明書の追試が仮に非合理的であったとしても、本件特許発明1は当技術分野の公知の出発原料に公知の製造方法を適用して得られたものであること、刊行物1には湿潤した多糖類誘導体を乾燥・粉砕する前に多糖類誘導体の温度を制御することによりその繊維構造をほとんど破壊できることが記載され(【0029】)、繊維構造が破壊された刊行物1の多糖類誘導体のEQPCは通常の粒子径と近似することになること、また、一般に狭い粒度分布を得るため又は流動性を向上させるため微粒子部分を除去することは通常行われており、刊行物1においても同様であるから、本件特許発明1は引用発明1である又は該発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであると主張している。
しかしながら、刊行物1に記載の、湿潤した多糖類誘導体を乾燥・粉砕する前に多糖類誘導体の温度を制御することにより多糖類誘導体の繊維構造をほとんど破壊できること(【0029】)について、該温度の制御により、前記刊行物1に例示されているどのようなセルロース誘導体であっても、「i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下」となることの証拠は示されていない。また、本件特許発明1は当技術分野の公知の出発原料に公知の製造方法を適用して得られたものであること、狭い粒度分布を得るため又は流動性を向上させるために微粒子部分を除去することは通常行われていること、及び、刊行物1においても同様であることについて、その証拠も何ら示されていない。
このように、特許異議申立人の前記主張には根拠がなく採用できない。

(ii)甲第6号証に記載の刊行物1実施例13の追試が適切な再現実験であるか否かに関し、特許権者は平成28年5月6日提出の意見書9頁12行?11頁末行において、刊行物1の実施例13と甲第6号証の追試の<供給組成物の調製>及び<ミル乾燥(MT)>の記載を対比し、追試の手順は多くの点で刊行物1の記載から逸脱しており、また追試で得られる生成物は刊行物1実施例13記載のものと比べて顕著に低い嵩密度及び顕著に大きい粒径を有するはずであり、追試が適切な再現実験とはいえないことを指摘し、甲第6号証に記載の実験成績証明書(6b)は証拠として考慮されるべきではない旨を主張し、これに対し特許異議申立人は同年7月11日提出の意見書8頁17行?12頁2行において、特許権者の前記指摘に対し、甲第6号証の追試の手順と刊行物1実施例13の手順とで異なる箇所は、通常の処理の置換や追加にすぎず同様の範囲を逸脱するものではないと反論し、当該実験成績証明書は証拠として考慮されるべき旨主張している。
しかしながら、前記ii(ii)で述べたように、甲第6号証に記載の刊行物1の実施例13の再現実験の適否は、容易想到性の判断を左右するものではない。

以上のとおりであるから、特許異議申立人の前記主張をいずれも採用することはできない。

b 引用発明2との対比・判断
(a)対比
引用発明2の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、グルコース単位中のOH基がメチル及びヒドロキシプロピルに置換されたセルロースエーテルである多糖類誘導体であるから、本件特許発明1の「メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである、多糖類誘導体」と、引用発明2の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」とは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである多糖類誘導体である点で共通する。
また、本件特許発明1は特定の形状を有する粒状のものであり、引用発明2も粒状のものであるから、両者は、粒状のものである点で共通する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明2とは、
「ヒドロキシプロピルメチルセルロースである、粒状の多糖類誘導体」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-2-1:ヒドロキシプロピルメチルセルロースである粒状の多糖類誘導体が、本件特許発明1では、0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するものであるのに対し、引用発明2では、メトキシ基29重量%及びヒドロキシプロピル基9重量%である点

相違点1-2-2:ヒドロキシプロピルメチルセルロースである粒状の多糖類誘導体の粒径及び形状分布が、
本件特許発明1では、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件 i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、を満たす粒径及び形状分布を有するものであるのに対し、
引用発明2では、そのような粒径及び形状分布を有するか明らかでない点
(b)判断
i 特許法第29条第1項第3号について
(i)相違点1-2-1について
引用発明2は、メトキシ基29重量%及びヒドロキシプロピル基9重量%の粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。このヒドロキシプロピルメチルセルロースのDS_(methyl)及びMS_(hydroxypropyl)につき、以下の計算式を用いて算出すると、DS_(methyl)1.89、及びMS_(hydroxypropyl)0.243となり、本件特許発明1の「0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)」に該当する。
したがって、相違点1-2-1は実質的な相違点であるとはいえない。

計算式
(「Mw」ヒドロキシプロピルメチルセルロースの分子量
「M%」メトキシ基OCH_(3)の重量%
「31」メトキシ基OCH_(3)の分子量
「H%」ヒドロキシプロピル基OCH_(2)CH(OH)CH_(3)の重量%
「75」ヒドロキシプロピル基OCH_(2)CH(OH)CH_(3)の分子量
「14」OHがOCH_(3)に変換したときの分子量の増加
「58」OHがOCH_(2)CH(OH)CH_(3)に変換したときの分子量の増加)

M%=DS_(methyl)×31×100/Mw
→ DS_(methyl)=M%×Mw/(31×100) (「DS_(methyl)式」)
H%=MS_(hydroxypropyl)×75×100/Mw
→ MS_(hydroxypropyl)=H%×Mw/(75×100)(「MS_(hydroxypropyl)式」)

Mw=14×DS_(methyl)+58×MS_(hydroxypropyl)+162
ここに、上記DS_(methyl)式及びMS_(hydroxypropyl)式をあてはめ整理した上で、
引用発明2のM%=29重量%及びH%=9重量%をあてはめると、
→ Mw=162×100/[100-(14×M%/31)-(58×H%/75)]
=162×100/[100-(14×29/31)-(58×9/75)]=202.5

このMw=202.5、M%=29重量%及びH%=9重量%を、前記DS_(methyl)式及びMS_(hydroxypropyl)式にあてはめ計算すると、
DS_(methyl)=29×202.5/(31×100)=1.89
MS_(hydroxypropyl)=9×202.5/(75×100)=0.243

(ii)相違点1-2-2について
甲第6号証に示されている刊行物2の実施例4の追試(6c)において、製造されたヒドロキシプロピルメチルセルロースを粉砕機で粉砕する工程について検討すると、甲第6号証には「得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースをACM-10A粉砕機により、供給速度10kg/hr、粉砕部回転数6800min^(-1)、分級機回転数2800min^(-1)、ブロア一風量15m^(3)/min、粉砕時間0.1分間の粉砕条件で粉砕した(甲2号証には条件の記載がないが、これらはACM-10粉砕機により通常使用されている条件である。ACM-10粉砕機の使用条件はホソカワミクロン社のホームページで入手可能)」(6c)と記載されている。
この粉砕工程は最終的に得られる粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒径及び形状分布に直接影響を与えるものである。この粉砕工程につき、刊行物2の実施例4の記載を確認すると「第2表に示す・・粉砕機で・・微粉砕した」(2c)と記載され、刊行物2の第2表の粉砕工程の欄には、実施例4は「粉砕機ACM、粉砕時間(分)0.1」(2c)と記載されているのみである。この「粉砕機ACM」は、刊行物2の「衝撃粉砕機は、例えば・・ACM(ホソカワミクロン社製)・・が挙げられる」(7頁13?15行)という記載からホソカワミクロン社製のものと理解されるが、特許異議申人が提出した平成28年7月11日提出の意見書に添付された参考資料3(ホソカワミクロン社のホームページから入手したACM-10等の一般的粉砕条件をまとめた表)を検討すると、ホソカワミクロン社の粉砕機「ACM」は型式として2EC、10A、30A、60A、100Aの5種類が存在し、これらは動力(粉砕、分級、フィーダ)、標準風量、最高粉砕回転速度、標準分級回転速度、最高分級回転速度という粉砕条件がそれぞれ大きく異なるものである。これら粉砕機の粉砕条件は、得られる粒子の粒径及び形状分布に直接大きな影響を与えるものであり、これら5種類の粉砕機で粉砕して得られる各粒子はその粒径及び形状分布がかなり異なると理解される。
そうすると、刊行物2の実施例4の第2表には粉砕機として単に「ACM」としか記載されていない状況下では、ホソカワミクロン社の粉砕機「ACM」の前記5種類の型式の粉砕機の内、どの型式の粉砕機を用いどのような粉砕条件で行ったのか明らかでなく、ACM-10Aを用い一般的な粉砕条件で行い粉砕した概然性が高いと理解できる記載、示唆や証拠もないことから、ACM-10Aを用い一般的な粉砕条件で行ったことが明らかであるとは必ずしもいえない。
仮に、粉砕機における一般的な粉砕条件で行ったとしても、この粉砕条件が刊行物2の実施例4におけるヒドロキシプロピルヒドロキシメチルセルロースを粉砕する条件であるとする理由や証拠もない。
そうすると、甲第6号証における刊行物2の実施例4の追試は、得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースを、刊行物2には記載されていないACM-10Aを用い、それを用いる際に通常使用する粉砕条件で粉砕しており、このような粉砕機を用いその際用いる粉砕条件で行うことについて、合理的な理由や証拠がないことから、粉砕して得られる粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは刊行物2の実施例4を追試して得られたものとは必ずしも言えない。

したがって、甲第6号証に記載の刊行物2の実施例4を追試して製造された粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、刊行物2の実施例4を追試して得られたものとは必ずしも言えないものである以上、甲第6号証の6cの表に記載された粒径及び形状分布の測定結果を参酌することはできないから、甲第6号証に示される引用発明2の粒径及び形状分布の追試測定結果(6b)と本件特許発明1に記載の粒径及び形状分布とを比較するまでもなく、引用発明2は本件特許発明1であるとはいえない。

よって、本件特許発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物2に記載された発明であるとはいえない。

ii 特許法第29条第2項について
(i)相違点1-2-1について
前記i(i)で述べたとおり、相違点1-2-1は実質的な相違点であるとはいえない。

(ii)相違点1-2-2について
前記i(ii)で述べたように、甲第6号証に記載の刊行物2の実施例4を追試して製造された粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、刊行物2の実施例4を追試して得られたものとは必ずしも言えないから、甲第6号証の6cの表に記載された粒径及び形状分布の測定結果を参酌することはできず、当該粒状ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒径及び形状分布を、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、条件i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、を満たすものを有するものとすることについて、刊行物2には何ら記載も示唆もされていないから、引用発明2において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒径及び形状分布を、前記粒径及び形状分布を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落【0006】及び実施例(【0053】?【0079】)に記載されているように、本件特許発明1は、徐放性剤形の賦形剤として有用で、従来の賦形剤と比較し改善された流動性及び/又は高い嵩密度を有する多糖類誘導体を提供できるという効果を奏するものといえ、このような効果は刊行物2の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。

iii 特許異議申立人の主張について
平成28年5月6日に特許権者が提出した意見書12頁1行?下から4行における、甲第6号証に記載の刊行物2実施例4の追試は適切な再現実験とはいえないから当該実験成績証明書は証拠として考慮されるべきではない旨の特許権者の主張に対し、同年7月11日に特許異議申立人が提出した意見書12頁3行?14頁表下5行において、特許異議申立人は、甲第6号証に記載の刊行物2実施例4の追試は適切であり当該実験成績証明書は証拠として考慮されるべき旨主張している。
しかしながら、前記ii(ii)で述べたとおり、当該実験成績証明書の6cの表に記載された粒径及び形状分布の測定結果を参酌することはできないから、特許異議申立人の当該主張を採用することはできない。

c 小括
したがって、本件特許発明1は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1、2に記載された発明であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1において、300kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有することをさらに限定した発明である。

a 引用発明2との対比・判断
(a)対比
本件特許発明3と引用発明2とを対比すると、相違点1-2-1及び相違点1-2-2の他に、以下の相違点3-2で、両者は相違する。
相違点3-2:本件特許発明3は300kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有するものであるのに対し、引用発明2はそのようなアンタップ嵩密度を有するか明らかでない点

(b)判断
前記(ア)bで述べたように、本件特許発明1が、刊行物2に記載された発明であるとも、かつ刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、さらに限定された本件特許発明3も、刊行物2に記載された発明であるとも、かつ刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)本件特許発明4について
本件特許発明4は、「a)・・多糖類誘導体・・から製造された剤形」であり、「a)・・多糖類誘導体」が本件特許発明1であるから、本件特許発明1を発明特定事項として含む発明である。

a 引用発明1を主引用例とした場合
(a)対比
本件特許発明4に記載の「多糖類誘導体」は、本件特許発明1の「多糖類誘導体」に他ならないから、前記(ア)a(a)で述べたことを踏まえ、本件特許発明4と引用発明1とを対比すると、両者は、
「1又は複数の多糖類誘導体であって、当該1又は複数の多糖類誘導体が、セルロースエーテルである粒状の多糖類誘導体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点4-1-i-1:セルロースエーテルである粒状の多糖類誘導体の種類が、
本件特許発明4では、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるものであるのに対し、
引用発明1では、メチルヒドロキシエチルセルロースである点

相違点4-1-i-2:セルロースエーテルである粒状の多糖類誘導体の粒径及び形状分布が、
本件特許発明4では、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件 i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、
を満たす粒径及び形状分布と、を有するものであるのに対し、
引用発明1では、そのような粒径及び形状分布を有するか明らかでない点

相違点4-1-ii:本件特許発明4は「a)1又は複数の多糖類誘導体、b)1又は複数の有効成分、及び、c)1又は複数の任意の補助剤、から製造された剤形」であるのに対し、引用発明1はそのような剤形ではない点

(b)判断
本件特許発明4の「多糖類誘導体」は本件特許発明1の「多糖類誘導体」であり、相違点4-1-i-1及び相違点4-1-i-2は前記(ア)a(a)の相違点1-1-1及び相違点1-1-2と同じであるから、前記(ア)a(b)で述べたとおり、当業者が容易に想到し得たものともいえない。
そうすると、相違点4-1-iiについて刊行物3を踏まえて検討するまでもなく、本件特許発明1を発明特定事項として含む本件特許発明4も、刊行物1、3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明4は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1、3に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

b 引用発明2を主引用例とした場合
(a)対比
本件特許発明4に記載の「多糖類誘導体」は、本件特許発明1の「多糖類誘導体」に他ならないから、前記(ア)b(a)で述べたことを踏まえ、本件特許発明4と引用発明2とを対比すると、両者は、
「1又は複数の多糖類誘導体であって、当該1又は複数の多糖類誘導体が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである粒状の多糖類誘導体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点4-2-i-1:ヒドロキシプロピルメチルセルロースである粒状の多糖類誘導体が、本件特許発明4では、0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するものであるのに対し、引用発明2では、メトキシ基29重量%及びヒドロキシプロピル基9重量%である点

相違点4-2-i-2:ヒドロキシプロピルメチルセルロースである粒状の多糖類誘導体の粒径及び形状分布が、
本件特許発明4では、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件 i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である、を満たす粒径及び形状分布を有するものであるのに対し、
引用発明2では、そのような粒径及び形状分布を有するか明らかでない点

相違点4-2-ii:本件特許発明4は「a)1又は複数の多糖類誘導体、b)1又は複数の有効成分、及び、c)1又は複数の任意の補助剤、から製造された剤形」であるのに対し、引用発明2はそのような剤形ではない点

(b)判断
本件特許発明4の「多糖類誘導体」は本件特許発明1の「多糖類誘導体」であり、相違点4-2-i-1及び相違点4-2-i-2は、前記(ア)b(a)の相違点1-2-1及び相違点1-2-2と同じであり、相違点4-2-i-2については前記(ア)b(b)で述べたとおり当業者が容易に想到し得たものともいえない。
そうすると、相違点4-2-iiについて刊行物3を踏まえて検討するまでもなく、本件特許発明1を発明特定事項として含む本件特許発明4も、刊行物2、3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件特許発明4は、この出願の優先日前に頒布された刊行物2、3に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c 小括
したがって、本件特許発明4は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明4において「打錠された剤形であり、前記多糖類誘導体が前記剤形のマトリックスの少なくとも一部分を形成する」ものとさらに限定した発明である。
前記(ウ)で述べたように、本件特許発明4が刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、本件特許発明4で検討したとおりであるから、さらに限定された本件特許発明5も、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(オ)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明4において「前記多糖類誘導体が前記剤形のコーティングの少なくとも一部分を形成する」ものとさらに限定した発明である。
前記(ウ)で述べたように、本件特許発明4が刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、本件特許発明4で検討したとおりであるから、さらに限定された本件特許発明6も、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(カ)本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明4ないし6において「徐放性剤形である」とさらに限定した発明である。
前記(ウ)?(オ)で述べたように、本件特許発明4?6が刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、本件特許発明4?6で検討したとおりであるから、さらに限定された本件特許発明7も、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(キ)本件特許発明8について
本件特許発明8は、「I)1又は複数の多糖類誘導体、1又は複数の有効成分、及び1又は複数の任意の補助剤を混合する工程と、II)混合物を剤形に打錠する工程と、を含む、剤形の製造方法」であって、当該「1又は複数の多糖類誘導体、1又は複数の有効成分、及び1又は複数の任意の補助剤」は、剤形の発明である本件特許発明4の「a)1又は複数の多糖類誘導体、b)1又は複数の有効成分、及びc)1又は複数の任意の補助剤」と同じである。
そうすると、前記(ウ)で述べたように、本件特許発明4が刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、その製造方法である本件特許発明8も、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ク)本件特許発明9について
本件特許発明9は、剤形を製造するための、本件特許発明1、3の多糖類誘導体の使用(方法)の発明である。
前記(ア)、(イ)で述べたように、本件特許発明1、3が刊行物1、2に記載された発明であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことは、本件特許発明1、3で検討したとおりであるから、剤形を製造するための本件特許発明1、3の使用(方法)である本件特許発明9も、刊行物1、2に記載された発明であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1、3、9は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物1、2に記載された発明であるということはできず、並びに、本件特許発明1、3?9は、本件優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物1?3に記載された発明に記載された発明及び本件優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいうこともできない。

したがって、本件特許発明1、3?9は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1、3?9を取り消すこことはできない。
他に本件特許発明1、3?9を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2に係る発明は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2に対して、特許異議申立人信越化学工業株式会社がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである、多糖類誘導体。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
300kg/m^(3)を超えるアンタップ嵩密度を有する、請求項1に記載の多糖類誘導体。
【請求項4】
a)1又は複数の多糖類誘導体、
b)1又は複数の有効成分、及び
c)1又は複数の任意の補助剤、
から製造された剤形であって、前記1又は複数の多糖類誘導体が、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである多糖類誘導体である、前記剤形。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項5】
前記剤形が打錠された剤形であり、前記多糖類誘導体が前記剤形のマトリックスの少なくとも一部分を形成する、請求項4に記載の剤形。
【請求項6】
前記多糖類誘導体が前記剤形のコーティングの少なくとも一部分を形成する、請求項4に記載の剤形。
【請求項7】
徐放性剤形である、請求項4?6のいずれか一項に記載の剤形。
【請求項8】
I)1又は複数の多糖類誘導体、1又は複数の有効成分、及び1又は複数の任意の補助剤を混合する工程と、
II)混合物を剤形に打錠する工程と、
を含む、剤形の製造方法であって、前記1又は複数の多糖類誘導体が、140μm未満のメジアン等価投影円直径(EQPC)と、以下の条件を満たす粒径及び形状分布と、を有し、メチルセルロース、若しくは0.9?2.0のDS_(methyl)及び0.02?2.0のMS_(hydroxypropyl)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース、又はこれらの2種以上の組合せ、から選択されるセルロースエーテルである多糖類誘導体である、前記方法。
i)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が40μm未満の粒子長(LEFI)を有する微粒子であり、ii)40体積%以下の多糖類誘導体粒子が繊維状粒子であり、且つ前記微粒子及び前記繊維状粒子の合計が50体積%以下である。
【請求項9】
剤形を製造するための請求項1又は3に記載された多糖類誘導体の使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-18 
出願番号 特願2014-503688(P2014-503688)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 85- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 832- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 良範  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731708号(P5731708)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 新規多糖類誘導体及び剤形  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 出野 知  
代理人 齋藤 都子  
代理人 古賀 哲次  
代理人 松島 鉄男  
代理人 齋藤 都子  
代理人 有原 幸一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  

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